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/ Oniroku Dan / Oniroku Dan.iso / mac / 花と蛇上.TXT < prev    next >
Text File  |  1996-10-21  |  982KB  |  10,554 lines

  1. 第一章 発端
  2.  
  3.  
  4.     静子令夫人
  5.  
  6.  秋晴の蒼い空が洋館の並んだ静かなきれいな町に展がっている。アスファルトの人道には、柳の枯葉がバラバラと日を受けて散っていた。
  7.  遠山隆義という標札のかかった豪壮な邸宅から今出て来た女性は、財界の大立物、遠山隆義の最愛の妻、静子夫人である。遠山隆義は、五十三にして糟糠の妻に死別され、去年この静子夫人と結婚したのであるが、彼女は二十六歳。娘ほどにも年が違う。しかし、絶世の美女だと遠山氏の朋輩たちは、彼女をしきりにほめ、うらやましがっている。
  8.  たしかに、静子夫人は、稀に見る美女なのだ。彫りの深い端正な面立で、二重瞼の大きな眼、高貴な感じの鼻すじ、顔から頸にかけての皮膚の艶々しさは妖しいばかりの美しさである。
  9.  和服がことに彼女には似合うようだ。その日も、着物は黒と茶が濃淡を綾にした落着いた渋いもの、その地味で清楚な和服が華奢な首すじを、くっきり色っぽく浮き立たせて、滴るばかりの艶めかしさが全身にたれこめている。
  10.  だが、その日の静子夫人の表情には暗いものがあった。何か不安にかられている。
  11.  そわそわとした歩き方で、表通りへ出るとタクシーを止め、
  12. 「六本木の山崎探偵事務所へ、急いで頂戴」
  13.  車に乗ってからも、静子夫人は青ざめた顔で、しきりに時間を気にしているのだった。
  14.  ♢♢山崎探偵事務所♢♢ここの所長は静子夫人の義兄の親友である。
  15.  女事務員に案内されて応接間に通された彼女は、やはり、時間を気にして幾度となく腕時計に眼をやっていた。
  16.  所長の山崎が、やあ、お待たせ致しましたと、笑顔で入って来た。静子夫人は、挨拶もそこそこで、
  17. 「山崎さん、実は大変な事が起こったのです」
  18.  と、美しい眉をしかめていうのである。
  19. 「何ですか、やぶから棒に。♢♢まあ、落着いて話して下さい」
  20.  山崎は、相変らずくだけた調子で、ゆっくりソファに腰を下ろし、煙草を口にする。
  21. 「それが落着いてはいられないのです。桂子が、実は♢♢」
  22. 「ああ、桂子さんのことですか」
  23.  山崎は、またかといわんばかりに、酸っぱい顔をした。
  24.  桂子というのは、遠山隆義の先妻の娘なのである。大金持の一人娘であるのに、どういうわけか、これは完全な不良少女。葉桜団などというズベ公のグループを組織して、自分がその首領格になり、色々な問題を起こして父親の遠山隆義を苦しませ、その都度、山崎が桂子を警察へもらい受けにいったりして問題を処理して来ていたのだ。隆義が美しい後妻をもらうと、桂子は一層ひねくれだし、ほとんど家に帰って来ず、ますます不良性に拍車をかけ出したように次々と面倒な事件を起こすのだった。貧困のあまりぐれだす者は多いが何不自由なく贅沢に暮し過ぎる故、ぐれだす者もいる。桂子は、それであった。
  25. 「何かまた面倒でも♢♢」
  26.  山崎は毎度のこと故、そんなに驚かずいったが、静子夫人は、心配でならぬといった表情で、
  27. 「五時までに百万円を持って、日本橋三越前に来てくれ、という電話が桂子からあったんです。仲間を裏切ったということで私刑にかけられることになったけど、それだけのお金を積めば許して貰えるのですって♢♢」
  28. 「そんな馬鹿な」
  29.  山崎は、吐き出すようにいった。
  30. 「桂子さんは、葉桜団の首領ってことになってるんでしょ。首領が仲間を裏切って仲間に私刑にかけられるなんてそんな妙な話はないですよ。しかも、百万円の金を積めば助かるだなんて、保証金でもあるまいし、それは貴女から百万円せしめようとする策略ですよ。うっちゃっておきなさい」
  31.  山崎は、こともなげにいったが、静子夫人は、でも、もしも、ということがあります。今、主人は政界の方々と関西へ旅行中ですし、主人の留守中に変なことがあったりしては、申し訳けが立ちませんから、と、おろおろした声を出すのである。彼女は百万円の金も用意して来ているらしく、一人では恐ろしいから山崎に付き添ってくれるように頼むのだった。
  32. 「そうまでおっしゃるなら、付き添って参りましょう。お金は新聞紙に包んで小脇にかかえるようにして下さい」
  33.  四時を少し過ぎた頃、静子夫人は山崎と同伴して事務所を出た。若い者を一人か二人連れて行こうかと山崎は最初思ったのだが、相手は、たかが不良少女の一団だし、大したことはないと自分一人で付き添ったのである。
  34.  
  35.  
  36.     誘拐された令夫人
  37.  
  38.  ほんの一寸した隙だった。五時を二十分も過ぎても桂子の代理らしい者は現われず、山崎は三越前で立ちつづける静子夫人から離れて通行人から煙草の火をかりた。そのわずかの間に静子夫人の姿は、かき消されたように無くなってしまったのである。
  39.  誰かと待ち合わせしているらしいその辺の人に尋ねると、つい今、二、三人の少女が来て彼女の手を引っ張るようにして前に止まった車に乗せ、走って行ったという。
  40. 「しまった」
  41.  山崎は煙草を叩き捨てた。警察へ電話するのも探偵という職業柄、恥ずかしいことだし、また、相手は遠山家の大事な一人娘、大きく騒ぎ立てるわけにもいかない。山崎は、おろおろするばかりで、その辺を、せわしく動き廻るだけだった。
  42.  ♢♢郊外のひなぴた田舎町。今、一台の大型車が古い士族屋敷の残った袋町を通りぬけて田圃側に沿った、藁ぶき屋根に土壁といった百姓家の前で止まった。
  43. 「さ、ここだよ。降りな」
  44.  ジーパンをはき、頭髪を赤く染めた小柄な女がチューインガムを口から吐いて車から飛び出すように出て来ると、周囲に気を配りながら、車の中へいった。静子夫人が、けばけばしいスタイルをした三人のズベ公に突き出されるようにして車から出て来る。
  45. 「金は持って来たんだろうね」
  46.  と一人が、静子夫人のかかえている紙包をひったくるようにして取りあげた。
  47. 「桂子は、桂子は何処にいるんです」
  48.  静子夫人が頬を青白く硬化させて聞くと、どぎつい口紅をつけた三白眼の少女が、
  49. 「この百姓家の中さ。ここは、あたい達の隠れ家なんだよ。他人にバラしたりしたら承知しないからね」
  50.  といい、さ、桂子に逢わしてやるから、とっととお入り! と静子夫人の腰を蹴った。
  51.  家の中は薄暗く、妙に陰気で、土間の隅には、ほこりにまみれた農機具が散らばっている。さ、上りな、とズベ公達に押されるようにして、静子夫人は敷居の上に上る。煤けた障子が開けられると、そこは八畳ぐらいの陰気な座敷になっていた。
  52. 「今、桂子に逢わしてやるからね。その前に身代金をまず勘定してからさ」
  53.  髪の毛を赤く染めた毒々しい身なりのズベ公がいい、次に仲間の者達に、
  54. 「みんな、この若奥さんが暴れたりしないよう、そこの柱に縛りつけておきな」
  55.  といった。
  56.  静子夫人は、ハッとした顔つきで、
  57. 「な、何も私を縛らなくても、いいじゃありませんか」
  58.  と身体を固くしていったが、
  59. 「フン、今じゃ桂子に代って、銀子が、この葉桜団の首領なんだ。銀子の命令なんだから、仕方がないよ。さ、おとなしく手を後ろへ廻しな」
  60.  と、ズベ公達は何時の間にか麻縄を用意して、静子夫人の周囲を囲んだ。
  61.  静子夫人は、仕方がなく、口惜しげに唇を噛んで両手を後ろへ廻す。ズベ公達は、寄ってたかって、静子夫人の両腕を更にねじ曲げ手首を合わせて縛ると、縄を前に廻して、ふっくらとした胸のあたりを二巻き三巻き、厳重に後手に縛りあげると、床の間の柱にゆわえつけた。静子夫人は歯を喰いしばったような表情で、銀子を睨む。柳眉をあげて、この屈辱を必死に耐えているのだった。ズベ公達に乱暴に柱に縛りつけられたため、裾前が少しはだけ、うずら縮緬の湯文字の紅がのぞき、襟元もはだけて、紅梅ちらしの桃色の長襦袢が大きくはみ出てしまった。
  62.  銀子は、そんな哀れな恰好の静子夫人を、冷やかな眼で見、それから、静子夫人の持って来た百万円の札束を仲間の者達と一緒に数え始める。
  63. 「さすが、遠山財閥だね。百万円ぐらいの金なんか針でさされたほどにも感じないんだよ。こんなことなら、三百万ぐらいふっかけりゃよかった」
  64.  ズベ公達は、そんなことをいいながら、百万円の金を分配し合うのだった。
  65. 「桂子は何処にいるのです。早く桂子に逢わせて下さい」
  66.  静子夫人は、たまらなくなったように自由のきかぬ身体を揺すって叫んだ。
  67. 「うるさいね。今、桂子に逢わせてやるよ」
  68.  銀子が眼くばせすると、ニ、三人のズベ公が隅の畳を二枚ばかりひっぺ返し、古びたハメ板を外すと、梯子を降ろして下へ降りていった。畳の下は地下室になっているらしかった。
  69.  やがて、彼女達は、地下に監禁されていた桂子をひきずり上げて来たのだが、その桂子の姿を見た途端、静子夫人は、あっと声をあげた。桂子は、素っ裸にされ、しかも、どす黒い麻縄で、後手にきびしく縛りあげられて、静子夫人の前まで引き立てられた。
  70. 「あ、ママ、助けて!」
  71.  桂子は、柱に縛りつけられているのが、静子夫人である
  72. ことに気づくと、必死になって走り寄ろうとする。
  73. 「ちい、勝手なことはさせないよ」
  74.  ズベ公達は、桂子の縄尻を引っぱり、手元へ、たぐり寄せる。
  75.  桂子の肌は、あちらこちら、蚯蚓張れや青あざが出来ていて残忍な私刑のあとを残していた。
  76.  桂子に代って、この葉桜団の首領になったという銀子は、そんなみじめな姿の桂子の横面を激しくひっぱたき、
  77. 「今、この美しい若奥さんに、葉桜団の規則を破ったものは、どんな罰を受けるか見せてあげるんだ。覚悟しな」
  78.  銀子の指令を受けた女愚連隊は、その場にうずくまる桂子をひきずり起こし、きびしくその陶器のように白い桂子の肌をしめあげている縄を一旦、解いた。自由にしたのではない。天井の梁から垂れ下っている二本の鎖に茎のように細い桂子の両手が一つ一つ縛りつけられたのである。
  79. 「吊り上げな」
  80.  銀子がいうと、隅に待機していた一人が、壁に沿って垂れ下っている鎖を思い切り両手で引っ張った。ギリギリと天井の梁に鎖のきしむ音がし、次第に桂子の身体は上へのびて行く。
  81. 「痛い、腕が抜けちゃうよ。痛い、助けて」
  82.  桂子は、つま先で立ち、恐怖と苦痛に顔を歪めて叫ぶのだった。「なんてことをするのです! 一体、桂子が何をしたというの。お金を受け取っておきながら、まだ桂子をいじめるなんて、あんまりじゃありませんか」
  83.  柱に縛りつけられている静子夫人が、激しく身体を揺すりながら叫ぶのだった。
  84. 「桂子はね、掟を破って、仲間の愛人と関係しやがったのさ。それを恋愛したのが何で悪いと、ほざきやがる。この葉桜団じゃ、仲間の男との関係は御法度なんだ」
  85.  と銀子はいいながら、仲間の一人が手渡した青竹で、思いきり桂子の尻をピシリと打ちすえた。
  86. 「ヒイーッ」
  87.  桂子は、顔をのけぞらせて悲鳴をあげる。
  88. 「約束が、約束が違うじゃありませんか!」
  89.  静子夫人は、もうこれ以上、見ていられなくなり、更に声をあげるのだった。
  90. 「約束は破らないよ。葉桜団のお仕置がすんだら、桂子はあんたに渡してやるよ。鞭の折檻がすんだら、身体中の毛を全部剃り落とし丸坊主にするんだ。まあ、すむまで、ゆっくり、そこで見物していな」
  91.  銀子はそんな事をいって、更に桂子の尻へ青竹を打ちおろす。
  92. 「お金なら、主人にいって、いくらでも出します。だから桂子を、もう許してやって」
  93.  静子夫人は哀願するように銀子にいった。
  94.  銀子は、桂子の身体に青竹を走らす事をふと止めて、
  95. 「そんなにいうなら、桂子の仕置は、この辺で止めてやってもいいけど、条件があるよ。聞くね」
  96.  と急に挑みかかるような眼つきをして、静子夫人の顔を見るのだった。
  97. 「何でも聞きます。桂子だけは、どうか許して下さい」
  98. 「よし、じゃ、奥さん。そのきれいなおベベを全部脱いで、生まれたまんまの姿になってもらおうじゃないか」
  99. 「えっ」
  100.  静子夫人は、自分の耳を疑ったほどだ。
  101. 「そんな事をして貴女達、何の得もないじゃありませんか。お金なら主人に頼んで♢♢」
  102. 「わからない人だね。あんたをここから帰したりしちゃ、わざわざ私達の居所をあんたに警察へ知らせに行かすようなもんじゃないか。それ程、私達は馬鹿じゃないからね。私達が安全な場所へ高飛びするまで奥さんにもここに居て頂かなくちゃね。逃げられたりしちゃまずいんだ。丸裸にしときゃ安心ってわけさ」
  103.  というと、銀子は手下のズベ公達に、
  104. 「さあ、皆んな、この奥さんを素っ裸に」剥いでおしまい。この奥さんを人質にして、遠山のジジイから、あと二百万はどひっぱり出すのさ」
  105. 「成程、姐さんはやっぱり頭がいいや」
  106.  と、ズベ公達は、静子夫人の傍にかけ寄った。
  107. 「馬鹿な真似はやめて」
  108.  静子夫人は、柱にがっちり縛りあげられている不自由な身を揉んで絶叫するのだったが、
  109. 「つべこべいうのは、丸裸になってからにおし。毎日、贅沢なもんばかり喰ってるから、さぞかし、いい身体をしているだろうね。ゆっくり鑑賞してやるよ」
  110.  ズベ公達は、必死に身悶えする静子夫人の帯を、ほどき始めた。
  111.  
  112.  
  113.     着衣略奪
  114.  
  115.  銀子、悦子、朱美、義子、女愚連隊四人が寄ってたかって静子夫人の着衣を略奪しようとからみついてきたのだ。
  116.  帯止めが外され、幾本もの腰紐がキューキューと音をたてさせて女達の手で引き抜かれると夫人はけたたましい悲鳴を上げた。
  117. 「誰か、誰か来てっ」
  118.  おあいにく様、いくら泣きわめこうとここらあたりに人は通らないんよ、と、銀子はせせら笑っている。丸裸に剥ぐために一旦、夫人を縛っている麻縄はズベ公達の手で解かれたが、その瞬間、夫人は腰のあたりを押さえこんでいる悦子を力一杯、突き飛ばし、よろめくようにして逃亡しようとする。
  119.  おっと逃げられてたまるか、と、一人が静子夫人のゆるみ切った帯に手をかけて力一杯たぐりつけた。豪奢な帯は薄皮を剥がされるようにキリキリ引き剥がされていき、静子夫人の身体はコマのように廻ってその場に転倒する事になる。その瞬間、着物の裾前は大きくはね上って下着の裾が濃淡の花を散らしたように晒け出た。そして、その中に陶器のような光沢を持つ夫人の脛のあたりがはっきりのぞくと、女達は更に狂暴な発作に見舞われたように夫人の上に乗しかかっていく。
  120. 「私達を甘く見ると承知しないよ」
  121.  銀子が悲鳴を上げてのたうち廻る夫人を威嚇するように大声をはり上げた。
  122. 「この場で桂子にヤキを入れるのを見たいというのかい」
  123.  朱美が押さえこんだ夫人の柔媚な頬を二発、三発、平手打ちした。
  124.  宙吊りにされたままの全裸の桂子は激しい鳴咽をくり返しているだけだ。朱美に威嚇されて静子夫人は全身から力が抜け落ちる。そこを狙って女達の手が一斉に夫人の背や肩や腰に伸びた。帯に続いて草木染めの華美な着物が夫人の肩から引き剥がされた。夫人が薄紅に小梅を散らした艶めかしい長襦袢姿にされると悪女達の眼にも情欲的な潤みが滲み出てくる。
  125. 「ぐずぐずせずに長襦袢を脱ぐのよ」
  126. 「嫌です! これ以上は堪忍して下さい」
  127.  静子夫人は激しく狼狽してその場に身を縮みこませたが、
  128. 「駄目、駄目、素っ裸になるのさ」
  129.  と、悪女達は夫人の甘い脂粉や香水の香りに酔い痴れたようにせかせかと手を動かし、悶え泣く夫人の華奢な足首を押さえて白足袋を脱がせ、一気に剥ぐ長襦袢の伊達巻を抜き取るのだ。
  130. 「ああっ」
  131.  狂獣に化した女達の手でその艶めかしい長襦袢が純白の肌襦袢と一緒に剥がされてしまった静子夫人は絶望的な悲鳴を上げた。遂に静子夫人は野卑な女達の眼前に陶器のような光沢を帯びた素肌を晒け出したのだ。
  132.  こぼれるように露わになった形のいい二つの乳房を夫人はうろたえ気味に両手を交錯させるようにして必死に覆い隠しながら小さく二つ折りに身を縮ませている。
  133. 「やっぱり思ったように綺麗な肌をしているわ」
  134. 「大会社の社長夫人ですものね。私達とは人種が違うわよ」
  135.  女愚連隊は哄笑した。そして、身も世もあらず両手で両乳房を覆い隠しながら屈辱と羞恥に悶え泣く静子夫人を頼もしげに見つめるのだ。
  136.  水色地に白梅を散らした色っぽい湯文字一枚を身につけただけの静子夫人の裸身に銀子はとろんと潤んだ眼を向けている。しなやかさの中に匂うような官能味を持つ夫人の裸身は肩から胸、そして、腰つきに至るまで熟れ切った女の充実味を感じさせ、肌の色は妖しいばかりの白さで、ねっとりした光沢を放っている。女達は一瞬、何か手に触れてはならぬ美術品を前にしたような威圧された気分になり、生唾を呑みこむのだった。
  137.  ふっと我に返った銀子は二つ折りに身を縮ませたまま、深く前に首を垂れさせてすすり泣く静子夫人に近づいた。両乳房を覆っている夫人の両手に眼をやり、その華奢な指先に高価そうな指環が光っているのに気づいたのだ。
  138. 「その女物の時計と指環、頂戴させて頂くわ」
  139.  いきなり銀子は夫人の片手をひったくるようにつかんで指環を抜きとり、小型の腕時計を外しとる。
  140.  静子夫人は口惜しさに唇を噛みしめながら銀子から反射的に視線をそらせた。夫人の艶やかな黒髪や瑞々しい首筋のあたりから甘い官能的な香料の匂いがかすかに流れてくると銀子はそれに煽られたように嗜虐の情欲を昂ぶらせていく。
  141. 「それじゃ奥様。お気の毒だけど、その最後の一枚も脱いで頂くわ」
  142.  ついと立ち上った銀子が急に威丈高になっていうと静子夫人は戦慄したように縮めた裸身をブルッと慄わせた。
  143. 「生まれたまんまの素っ裸になれといってるのよ。聞こえないのっ」
  144.  悦子と朱美がすぐにそれを剥がそうとして夫人につめ寄ると、
  145. 「待ちな。自分で脱がせるのよ。赤ん坊じゃあるまいし、私達が手を貸す事はないだろう」
  146.  と、銀子が二人を制していった。
  147. 「あ、あなた達、これ以上、まだ、私に赤恥をかかせようというの」
  148.  夫人は恐怖にブルブル全身を慄わせながらひきつった声音でいった。夫人の切長の撞から屈辱の涙が滴るのを眼にした義子は小気味よさそうに、
  149. 「何いうてるんや。こらまだ序の口や。ほんまの赤恥をかいてもらうのはこれからやで」
  150.  と口を歪めていった。
  151. 「自分で脱げないのなら脱ぐ気になるまで桂子にヤキを入れようじゃないの」
  152.  銀子が眼くばせすると義子が、あいよ、と返事して再び青竹を手にした。
  153. 「ケツのあたりを叩きな、いい音がするから」
  154.  と悦子に声をかけられた義子はうなずいて宙吊りにされている桂子の臀部をめがけて力一杯、青竹を振り下した。
  155.  ピシリッと肉のはじける音、と同時につんざくような桂子の悲鳴。
  156. 「やめてっ、お願い、言う事を聞きますから桂子をそこから降ろして下さいっ」
  157.  静子夫人が悲鳴に似た声をはり上げると銀子はこヤリとして鎖をたぐり出す。滑車が軋んで宙吊りにされていた桂子の裸身が地面に降ろされると、
  158. 「さ、こっちも約束を守ったんだからね。奥さんも約束を守って頂きましょうか」
  159.  と、銀子はむせび泣く静子夫人の方に意地の悪い眼を向けていった。
  160.  もたもたするとまた桂子を吊り上げてぶちのめすわよ、と銀子におどされた夫人は悲痛な決心をしたように涙に濡れた顔を上げ、女達の方に慄えながら背を向けた。とめどなく溢れ出る屈辱の涙を指先で拭いながら湯文字の紐に手をかけた夫人を女共は息をつめて凝視している。
  161.  立膝に組んだ夫人の肉づきのいい太腿の表皮を滑るようにして、その最後の一枚がハラリと土間に落下すると女達は歓声を上げた、その下にまた和服用の薄いパンティが残っているのに気づいた銀子は、駄目よ、そいつも脱がなきゃ、と、不平そうにいった。
  162.  桂子にヤキを入れられたくなかったら早く、早く、と、女愚連隊達にせかされて静子夫人は鳴咽の声を洩らしながら腰を浮かせるようにして遂にそれも脱ぎ捨てた。ぐっと盛り上ったような豊満な夫人の双臀が露わになる。その深く切れこんだような双臀の割れ目はふと秘密っぽい翳りを含んで何ともいえぬ官能味を湛えているのだ。
  163. 「ウフフ、やっと素っ裸になってくれたわね、奥様」
  164.  銀子は嬉しそうな表情になっていった。
  165.  まるで全体がミルク色の靄に包まれたような、その上、全体が息苦しいまでの官能味のある曲線に包まれたような、そんな美しい静子夫人の素っ裸を眼にして女達は陶然とした気持になっている。
  166. 「奥様の着物から下着まで一切、風呂敷包みにしまいこみな」
  167.  銀子に命じられたズベ公達は、そのあたりに散乱している夫人の衣類一切を大きな風呂敷の上に花の山のように積み上げた。
  168. 「これ、古着屋で叩き売りましょうか。社長令夫人の豪華なお召物だけに、いい値で売れるかも知れませんよ」
  169. 「いや、あと二百万、遠山家からせしめるための道具に使うんだよ。これを遠山社長に届けるのさ」
  170.  愛する妻が丸裸に剥がれた事に気づいたら御主人様はびっくり仰天、こっちの要求に何だって応じてくれると思うよ、といって銀子は哄笑した。
  171.  成程、やっぱり銀子姐さんは頭がいいや、と笑いながら朱美は素っ裸を猿のように縮ませている静子夫人の前に廻って腰をかがませた。胸の上で両手を交錯させて形のいい乳房を覆い隠しながら、両腿を立膝に縮ませて女の羞恥の源泉を必死に雌狼の眼から隠そうとしている静子夫人を朱美は頼もしげに見つめ出している。
  172. 「何よ、処女じゃあるまいし、小娘みたいにガタガタ慄える事ないじゃないの」
  173.  朱美は自分から懸命に眼をそむけながら羞恥に慄えている静子夫人に向かっておかしそうにいった。
  174. 「ね、そんなに隠さずに一寸、お見せよ。社長令夫人って、どんなお道具をお持ちなのか、一度、この眼でたしかめてみたいのよ」
  175.  朱美はそういって意固地になったようにぴったりと立膝
  176. に組み合わせている夫人の両腿を両手で割り裂こうとした。
  177. 「な、何をなさるのっ」
  178.  その瞬間、夫人は逆上したように激しく身を揉み、思わず胸を覆っていた手を解いて朱美の頬に激しい平手打ちを喰わした。
  179. 「やったわね」
  180.  夫人にぶたれた頬を押さえて朱美は眼をつり上げた。
  181. 「け、けだもののような真似をなさるからよ」
  182.  夫人も涙で潤んだ眼できっと朱美を睨むように見た。
  183. 「おや、案外と気が強いんだね、奥様」
  184.  と、銀子は含み笑いして顔面を硬化させた夫人に近づいたが、急に足を上げて夫人の柔軟でしなやかな肩先を蹴り上げた。
  185. 「私達をなめるんじゃないよ」
  186.  下手に出りゃつけ上りやがって、と、やくざ映画を見て覚えたような科白を吐いた銀子は仲間達に向かって、後手に縛りあげな、といった。
  187.  朱美と義子は土間の隅に束ねてあった麻縄の束を引きづり出した。 ふと、それに泣き濡れた眼を向けた静子夫人は一層のおぴえを見せて顔面を硬化させた。
  188.  そんな夫人のしなやかな両肩に背後から手をかけた朱美と義子は、
  189. 「さ、両手を後ろに廻しな」
  190.  と、せせら笑いながら必死に両乳房を覆い隠している白い華奢な両腕を強引に背面へねじ曲げょうとする。
  191. 「ど、どうして縛られなきゃならないの、こんなみじめな姿にされてしまった私。逃げようにも逃げられないじゃありませんか」
  192.  静子夫人は激しく狼狽して一糸まとわぬ素っ裸を狂おしくのたうたせた。
  193. 「おっぱいを隠したり、股の間を隠したりするその両手が邪魔なのよ」
  194.  女達は夫人の両腕を背面にたぐると素早くその両手首を滑らかな背面の中程で交錯させてキリキリと縄をからみつかせていく。両手首を縛った縄尻が前面に廻って夫人の形のいい両乳房の上下を固く緊め上げていった。
  195.  ざまあみろ、とばかり夫人をがっちりと後手に縛り上げた女達は腰を上げ嘲笑した。
  196.  全裸に剥がされた上にきびしく後手に縛り上げられてしまった静子夫人はもう生きた心地もしないのだろう、緊縛された裸身を身も世もあらず悶えさせ、乱れた黒髪を慄わせて啼泣く。しかし、それでも立膝に縮ませた腿と腿とは一層、頑なにすり合わせて女の恥部だけは必死に覆い隠そうとしているのだ。そのはかない抵抗が銀子達の眼には痛快に見えるのだろう。
  197. 「そんな風にそこを隠したがれば、女の私達だってどうしてもそこをはっきり見たくなるわね」
  198.  銀子はおかしそうにそういって仲間達を見廻して、
  199. 「奥様を一度、立たせてみな」
  200.  といった。
  201.  静子夫人にはもはや女の羞恥の部分を手で覆い隠す自由もない。それを知って銀子はまた嗜虐の発作が生じたのだろう。
  202.  さ、立ちな、と、朱美がいきなり夫人の縄尻をつかんで引き起こしにかかると、悦子と義子がすぐにつめ寄って左右から夫人の艶っぽい柔軟な両肩に手をからませ、一気にその場へ引き起こした。
  203.  静子夫人の光沢を帯び美しく均整のとれた裸身がよろめくようにしてそこに立つと銀子は思わず、ほう、と息を呑んで喰い入るような眼差しを向けた。
  204.  麻縄を上下に数本、きびしく巻きつかせている乳房は触れれば溶けるような柔らかさで悩ましく盛り上り、しなやかで艶っぽい肩先、腰のくびれの形よさ、全体的に如何にも貴婦人の肉体を感じさせるような優雅な線と官能味を一つにして匂わせている。また、下肢から大腿にかけてのスラリと伸びた脚線の美しさはどうだろう。今まで羞恥に悶え、頑なに身を縮ませていたため、その全身像をはっきり眼に出来なかった銀子は今、こうして静子夫人の何一つ覆うもののない直立した全裸を眼の前にして胸をうずかせている。
  205.  銀子は粘っこい視線を次にはっきりと静子夫人の下腹部に注いだ。乳白色の艶々とした太腿の附根、そこには妖しいばかりに漆黒の繊毛が悩ましくふっくらと盛り上っている。後手に緊縛された裸身を引き立たされ、もはや、その女の羞恥の源泉は逃げも隠れもならず、女愚連隊達の好奇の眼の前にはっきりと露呈させられているのだ。
  206. 「ひえ、いい身体をしているわね。そこも味が良さそう」
  207.  悦子に縄尻をとられてそこに立つ静子夫人の全裸像の上体といわず下腹部といわず舐めるように見廻した女達は溜息をつくようにいった。
  208.  静子夫人は真っ赤に火照った顔面を横にねじりながらこの息づまるような屈辱に耐えている。
  209. 「ね、少し、私達で可愛がってやろうか」
  210.  と、身を乗り出して来た朱美に銀子はいった。
  211. 「ま、そんなに急ぐ事はないさ。遠山家からあと二百万、引っ張り出すまで大切な人質なんだからね」
  212.  
  213.  
  214.     送られた着衣
  215.  
  216.  日本橋で、ほんの一寸した隙に静子夫人を葉桜団に拉致されてしまった山崎は、全く探偵の面目、丸つぶれである。
  217.  途方に暮れた恰好で、夕方になってから遠山家に出向いて行ったが、やはり、奥様はお出かけになってから一度も電話はございません、という女中の言葉である。
  218.  山崎は、遠山家にいて静子夫人の連絡を待つことにし、一方、探偵事務所の若い者達を走らせ、葉桜団の隠れ家を深察させた。
  219.  遠山氏は関西へ旅行中であるし、もし、その間に静子夫人や桂子の身に、もしものことがあったりすれば、などと考えると山崎は居ても立ってもいられぬ心境だった。
  220.  午後十一時を過ぎても静子夫人は帰宅しない。遂に十二時も過ぎた。
  221.  その時、突然、電話がかかって来た。受話器を取ろうとする女中を制して山崎は自分の耳にあてる。相手は、女だったが、口調はズベ公である。
  222. 「遠山さんのお宅かい。あたいはね、葉桜団の幹部のもんさ。桂子の身代金百万を受け取ったけど、今度は、奥さんの身代金として二百万、至急、都合してほしいのさ」
  223.  山崎は唾を呑みこんで、
  224. 「金は作るが、一体、静子夫人は何処にいるんだ。貴様達、夫人に変な真似をしたりすると承知しないぞ」
  225.  山崎は興奮していった。
  226. 「別に変な真似はしていないさ。あたい達は女ばかりだからね。ふふふ」
  227.  女の声は更に続き、
  228. 「ただ、かわいそうだけど、逃げられちゃ困るから素っ裸にして縛りあげてあるよ。別嬪さんに似合わぬすごい力を出すので丸裸にするのにずいぷん手間どっちゃった。いい身体をしてるねえ。男達に抱かして金をとろうかとも考えたが、あんた達に一応、相談してみなくちゃあね。どう、二百万すぐ出来る?」
  229.  電話の声は、そんな事をいうのだ。
  230. 「待て。今、遠山さんは旅行中なんだ。金は必ず作るから、奥さんと桂子さんに危害を加えぬ事を約束してくれ」
  231.  山崎は血走った思いで必死になっていったが、女の声は冷酷に笑い、
  232. 「じゃ、金が出来た頃、こっちからまた連絡するよ。だけど、二人ともただ遊ばせておくのは惜しいからね。ちっとばかり稼がしてもらうから、そのつもりでいな」
  233. 「稼ぐ? 一体、何をしようというんだ」
  234. 「何しろ、奥さんは、あれだけの美人だし、身体もすばらしいだろ。だから、今、流行のヌード写真なんかを作って、売り出そうと思うのさ。うんとすごいのをね。きっと飛ぶように売れると思うよ。金が出来るのが遅れれば遅れる程、奥さんの写真がふえるということさ」
  235.  それで電話は切れた。
  236.  山崎は体中から血がひく思いだった。遠山氏が帰京するまでに何とか、夫人と桂子を救出しなくては、と思っても、ズベ公達は夫人と桂子のヌード写真を作り、それを愚連隊等と組んで盛り場などで売りさばこうという魂胆であるらしい。そんな事にでもなったら、夫人だけではなく遠山氏自身も、その社会的な地位に大きなシミがついてしまう。大変なことだ。
  237.  そこへ、遠山家の運転手、川田一夫があわてて、かけこんで来た。手に大きな風呂敷包みを持っている。
  238. 「今玄関のところへこんなものを投げこんで逃げて行った者がいました。追いかけましたが、待たせてあった車に乗って逃げてしまったのです」
  239.  山崎が、急いで風呂敷包みを開けると、中には女物の衣類が入っていた。
  240. 「あっ、これは奥様の着てらっしゃったものです」
  241.  川田が、びっくりして声をあげた。山崎も見覚えがあった。濃淡を綾にした落着いた柄の和服、それは今朝方、静子夫人が着て外出したものだ。それだけではない。夫人の下着類一切も入っていた。紅梅ちらしの桃色の長襦袢、白地に散り紅葉の腹合せ、肌着、うずら縮緬の湯文字、それから色とりどりの腰紐、唐織お召の丸帯まで♢♢つまり、静子夫人は全裸に剥がれ、葉桜団に監禁されたことを示すものだ。甘ずっぱい女体の香りが一瞬感じられる花のような衣類を手にして、山崎は、苦しそうな顔をした。
  242.  あの水も滴る美女だと評判される静子夫人が、野卑で、卑劣なズベ公達に、丸裸にされ、一体、今頃はどんな目に遭わされているのかと思うと、山崎は、気も狂いそうである。
  243. 「当てはありませんが、私も心当たりを一つ当たってみます」
  244.  運転手の川田も、静子夫人の衣類を見て、事態のただならぬ事を悟ったのか、そういい、急いで表へ出て行った。
  245.  
  246.  
  247.  
  248. 第二章 恐ろしい陥穽
  249.  
  250.  
  251.     二度日の嫌がらせ
  252.  
  253.  遂に静子夫人は、その日、遠山家に戻って来なかった。私立探偵の山崎は、事務所員と連絡をとり、八方、手を尽したが、全く、手がかりはつかめない。
  254.  次の日の夕方になって、葉桜団からの連絡もなく、いよいよ警察へ訴えるより方法はないと、山崎が悲痛な興奮顔つきになった時、電報を受け取ってこの異変を知った遠山隆義が、大阪より帰って来た。
  255.  夫人と一人娘が不良少女に監禁されたとくわしく山崎から聞かされるや、隆義は、卒倒せんばかりに驚いた。
  256.  出張中も、新婚間もない彼は、静子夫人恋しさで、ろくに仕事も手につかず、色々の予定もくり上げてしまったぐらいであっただけに、魂を宙に飛ばしたような表情で、やがてポロポロ涙をこぽし始めるのだった。
  257. 「金なら、三百万でも四百万でも悪党達が要求するだけ出す。静子と桂子を早く救い出してくれ。警察なんぞに届けちゃいかん。気狂い達は、何をしだすかわからん」
  258.  隆義は、山崎の顔をキッと睨みつけて、そういう。
  259.  山崎は、はあ、と面目なさそうに頭を下げたが、恐る恐る隆義の顔を見ていった。
  260. 「奴等が、連絡をして来ないと残念ながら、そういう取引きをする方法もありません。それにもうぐずぐずはしていられぬ段階へ来ております。実は、一昨日、奴等は、夫人より剥ぎ取った着物だけ、こちらへ届けて来るという挑戦的な態度をとっているのです。一刻も早く、警察へ知らして、手を打たねば、奥さんとお嬢さんの身は、ますます危険にさらされると思うのです」
  261.  隆義は、それを聞くと顔色を変えた。
  262. 「じゃ、静子は、丸裸にされて、悪党達のおもちゃにされているというのか」
  263. 「いえ、そうとは断定出来ませんが、とにかく、危険な状態におかれている事はたしかです」
  264.  と、山崎は苦しそうな表情をしながら、葉桜団の一人が投げ込んでいった夫人の衣類を女中の一人に持って来させ、卓の上へ積ませた。
  265.  花のように積まれた夫人の着物や下着類を見て隆義は、眼をパチパチさせた。帯、帯どめ、長襦袢、肌着から腰巻に至るまでが、卓の上へ積まれ、ふと静子夫人の色香がそのあたりにたちこめるような錯覚に、隆義は見舞われたのである。
  266.  不良少女団が、わざわざこんなものを遠山家に持ちこんだというのは、夫人は、素っ裸のまま、こっちへ監禁されているんだぞと隆義の神経をわざと昂ぶらすためのものに違いないが、あまりにも人を喰った残忍な少女達の思いつきに、隆義は顔をひきつらせてしまったまま一言も、ものが言えなくなってしまった。
  267.  山崎も、女中達も、隆義の気持を思うと、言うべき言葉もなく、ただ、苦虫を噛んだような顔で卓の上の夫人の衣類を眺めているだけである。
  268.  突然、隆義は、気が狂ったように夫人の長襦袢をわしづかみにして、それを顔に当てると、おいおい泣き出し、声をつまらせて、
  269. 「早く静子を救い出してくれ! わしは、わしは、もう気が狂いそうだ」
  270.  と、わめき出すのであった。
  271.  急に卓上の電話が鳴った。
  272.  山崎は、受話器をとって、もしもし、と返事をし、ハッとした顔になると、
  273. 「奴等です、葉桜団の女です」
  274.  と息をつめて隆義に告げた。
  275.  隆義も、唾を呑みこみ、
  276. 「いいかね。金ならいくらでも出す。相手の感情を昂ぶらせないように、うまく交渉してくれ」
  277.  と、必死な面持でいう。
  278.  はい、と山崎はうなずき、再び、受話器を耳にした。
  279.  昨日、脅迫電話をかけて来た同じ女の声のようだった。
  280. 「♢♢どう、お金の方、都合ついた?」
  281.  相手は、ニヤニヤしながら電話をかけているのだろう。いやに落着いた口調だった。
  282. 「金の方は都合ついた。すぐ取引きしよう。場所と時間を教えてくれ」。
  283.  山崎は、眼をギラギラさせながら、そういった。
  284. 「へえー。さすがは遠山財閥だね。こちらも安心したよ。じゃ二、三日したら、もう一度連絡するから、今日明日中に現ナマを揃えておきな。警察なんかに知らせたりすりゃ、奥さんとお嬢さんの命はないからね。そのつもりでいな」
  285. 「待、待て。二、三日なんかいわず、今すぐ取引きしようじゃないか。奥さんと桂子さんに一眼、逢わせてくれ」
  286. 「ふふふ、そんなに、あわてなくてもいいわよ。お二人とも、この取引きがすむまで、穴倉の中で、おとなしく待つそうだから」
  287. 「君達、二人をひどい目に遭わしてるんじゃないだろうな。遠山さんは、それが心配で病気になりかけておられる。君達も人間なら、もう少し、良心というものを感じてくれ」
  288.  山崎は、諭すように相手に告げた。
  289. 「ふん。えらそうな口をきくない。葉桜団は葉桜団なりの待遇の仕方があるんだよ。奥さんもお嬢さんも逃げ出されちゃ元も子もなくなるので、かわいそうだけど素っ裸にされちゃいるが、食事から、おしっこの始末まで、こちらでちゃんとしてやってるよ」
  290. 「な、何だと!」
  291.  受話器を持つ山崎の手がぶるぶる震えた。
  292.  山崎が顔を真っ赤にして興奮しだしたので、隆義が横から心配げにいった。
  293. 「君、何といってるんだ。奴等は」
  294. 「はあ、それが、その」
  295.  山崎は、隆義にどう言っていいかわからない。電話の相手は、続いていった。
  296. 「もしもし、じゃ三日後、お金を受け取る場所と時間を教えるわ。それじゃお元気で」
  297. 「待て、一寸待ってくれ。貴様達、三日間も奥さんと桂子さんを、裸のまま穴倉へ閉じ込めておく気なのか。貴様達は、何というけだものなんだ! 正気なのか!」
  298.  激昂すまいと思っても、山崎は、体がわなわな震えるのである。
  299. 「心配しなくてもいいわよ。あまり退屈なさらないように私達が適当に可愛がってあげるから。それに、あんなきれいな奥さん、遠山老人一人だけで楽しむってのはないわ。私達だって、お預りしている間ぐらい色々楽しませてもらうわよ」
  300.  電話は、そこで切れた。
  301.  
  302.  
  303.     運転手の正体
  304.  
  305.  静子夫人が監禁されている郊外のバラック小屋へその夜、一台の高級車が着いた。それは、遠山家の自家用車なのである。運転手の川田は、車窓から首を出すと、二、三回、警笛を鳴らした。
  306.  小屋の戸ががたがた音を立てて開き、葉桜団の団長である銀子が、二人のズベ公を従えるようにして出て来た。
  307. 「万事、うまくいったぜ」
  308.  と、川田は、煙草を口にしながら、ニヤニヤして銀子にいう。
  309. 「そう。森田組にわたりをつけるとは、あんたもなかなかのやり手だね。だけど、分け前は、フィフティ・フィフティよ。いくら、あんたと私の仲でも、これだけは、はっきりしとかなきゃね」
  310. 「ちえっ、がめつい女だな」
  311.  川田は舌打ちしたが、満更でもない顔つきで、煙を吐きながら車から出てきた。
  312. 「どう。遠山の連中、警察へ訴えるって、様子はない?」
  313. 「大丈夫だ。あの山崎というヘッポコ探偵、今日は傑作だったぜ。お前達が変なものを持ちこんだろ。それが奥さんのものだとわかった時の珍妙な顔ったらなかった」
  314. 「ふふふ。さぞ驚いたろうね。だけど、ここであわてちゃいけないよ。相手を出来るだけいらいらさせるんさ」
  315. 「お前もズベ公団首領の貫禄が、とうとうついちまったな」
  316.  最初から、銀子と共謀して、この誘拐計画を立てた川田は笑うのだった。
  317. 「ところで、今夜中に奥さんの方は、森田組へ送りこまなきゃならねえ。何しろ、先方じゃ一千万のキャッシュを揃えて、今日の昼から待ってるんだからな」
  318. 「だけど、森田組もずいぶん冒険するものだね。いくら誘拐の権利を買うといったって、もし、警察なんぞの手が廻ったら、それこそ元も子も飛ばす事になるじゃないか」
  319. 「そこは、抜目あるもんか。向こうは、いうなればその道の玄人だ。それによ、とにかく女は飛び切りの美人ときてるじゃないか。監禁中に、しこたま写真をとって全国の筋へ流したり、うまくいきゃ秘密ショーなんかに出演させたりして、三股かけて儲けようって胆なんだ」
  320.  川田は、そんな事をいいながら、銀子達とあばら屋へ入る。三、四人のズベ公達が奥で花札賭博をキャッキャッ騒ぎながらやっていたが、川田が入って来たのを見ると、
  321. 「やあ、兄貫、景気はどうだい」
  322.  と、声をかけるのだった。
  323.  川田は、昔、東京の盛り場を根拠にした愚連隊だったが、スケコマシ専門でかなり顔も売ったけれど、稼ぎは知れたもの、そこで一旦は堅気と見せかけて、計画的な大儲けをしようと運転手として遠山家に住みこみ、機会を狙っていたのだ。
  324. 「奥さんとお嬢さんは、何処にいらっしゃるんだ」
  325.  と川田はキョロキョロ周囲を見廻す。
  326. 「ここだよ」
  327.  と、花札賭博をやっていた女達が自分の坐っている畳をこんこんと、叩いた。
  328.  床下の穴倉に、二人を閉じ込めているらしい。彼女達は畳をひっぺ返し、床板を数枚はがすと、懐中電灯で下方を照らした。二米ばかり縦穴が掘られてあり、懐中電灯に照らされて、白い女体が、その奥にくっきり写し出された。下は、一坪ぐらいの広さになっていて、かび臭い土の上に荒むしろが敷かれ、乳白色の肌を荒縄で縛りあげられた静子夫人が、桂子と後手に縛められた手をつなぎ合わされ、互いに背を向け合ったまま、うなだれている。
  329.  お互いに口をきいたりは出来ないように二人ともズベ公達の使い古しの下着らしいもので猿轡をはめられ、それに、ビニールのおしめカバーをはかされていた。
  330. 「遠山財閥の令夫人やお嬢さんも、こうなっちゃ、もぐらとかわりないさ」
  331.  と、ズベ公達は、懐中電灯を静子夫人の白い横顔に当て、川田に向かって笑いながらいう。静子夫人は、眼を閉じたまま、白いうなじを懐中電灯に照らされて、肩をかすかに動かしている。
  332.  川田は、凄惨と言いたいぐらいに美しい静子夫人の観念しきったような横顔に見入っていたが、銀子にいった。
  333. 「な、いいだろう。ちょっとやそっとじゃ、手の出ない高嶺の花だ。こんな機会じゃねえと、こちとらなんぞ、手を出す時がないじゃないか」
  334. 「ふん。そう言うだろうと思ったよ。スケコマシをやってる時のあんたは、何時でも、最初、まず味見をしていたからね」
  335. 「昔の事なんかいうな。俺は、実をいうと、前からこの奥さんに惚れ抜いていたんだよ。自動車で送り迎えするごと、バックミラーに映る奥さんの顔を見て、一度でもいいからこんな女と」
  336. 「わかったよ。結局、女を抱きたいってんだろ。まあ、あんたにも、ずいぶん世話になった事だし、今夜は、しっぽり濡れさせてあげるよ」
  337.  と、銀子は、笑いながらいい、配下のズベ公達に、
  338. 「奥さんを上へ上げな。今夜は、川田の兄貴のお相手をさせるんだ」
  339.  アイヨ、とズベ公達は、梯子を地下へ降ろし、静子夫人の身体を桂子より離して、梯子を登らすべく、一人は、静子夫人の首に縄をかけ、上からひっぱり、一人は、後ろから尻を持ち上げるようにして、キャッキャッ騒ぎながら、とうとう上へ押し上げてしまった。
  340.  一糸まとわぬ素っ裸を麻縄で後手に緊縛されている静子夫人。わずかに下腹部を覆うものは屈辱の薄いおしめカバーであった。
  341.  ズベ公達に引き立てられてふと、淫微な微笑を浮かべている川田の顔を眼にした夫人の顔面は恐ろしい位にひきつった。川田がこの女愚連隊と共謀している事を一瞬に悟った夫人は口惜しさが火の玉のようにこみ上ったが、それよけも運転手の川田の前に言語に絶する屈辱の羞ずかしい姿を晒している自分に気づくと赤い猿轡を噛まされた顔面をねじるように横にそむけ、ガクガクと全身を小刻みに慄わせるのだ。
  342. 「奥様の口に噛ましているのはお前達のパンティだな」
  343.  と、川田は朱美や義子を見て、パンティの猿轡にビニールのおしめカバーなんぞさせて、相手は大財閥の社長令夫人なんだぞ、あまり、ひどい目に合わすんぢゃない、などといったが嗜虐の悦びに全身を痺れ切らせている。
  344. 「これでも丁重に扱っている方さ。大事な大事な人質だものね」
  345.  と、朱美はおかしそうにいった。そして、その場に緊縛された裸身を縮みこませた夫人の下腹部に眼を向けて、
  346. 「さすがに令夫人だけあってお行儀がいいね。朝から穴倉の中に入りっぱなしなのに全然、おむつカバーは汚しちゃいないよ」
  347.  というと、悦子が、桂子の方は派手に汚しているがね、と、笑い出す。
  348.  地下の穴倉から梯子を引き上げたズベ公達はもう一度、地下に一人残されている桂子をのぞきこんで、
  349. 「おしめはもう少ししてから取りかえてやるからね。ママのお仕事が終るまでしばらく我慢していな」
  350.  と、哄笑して元通りハメ板を並べ穴を塞ぐのだ。
  351.  桂子の激しい鳴咽の声が聞こえたが、ハメ板の上へ畳が敷かれるとそれも封じこめられて聞こえなくなる。
  352.  その場に二つ折りに小さく身を縮ませている夫人の口から銀子がその赤い猿轡を外しとった。
  353. 「あんまり気位が高過ぎるんで、こらしめのために私のパンティで口を塞いでやったのさ」
  354.  と、銀子は川田を見ながら痛快そうにいった。
  355.  静子夫人は屈辱の布を外されてほっとしたのか、大きく二度、三度、深い息を吐き、紅潮した端正な頬を横に伏せた。
  356.  これからこの女悪魔達は川田の前で自分に何をさせる気なのか、夫人は恐怖のあまり緊縛された全身を石のように硬くしている。
  357. 「さ、猿轡を外してやったんだ。川田さんに何か言いたい事があったら遠慮なしにいいな」
  358.  銀子がおびえ切っている夫人に向かってそういうと、今まで夫人のその光沢のある美しい裸身に粘っこい視線を向けていた川田が吸い寄せられるように夫人に近づいた。
  359. 「近寄らないでっ」
  360.  と、静子夫人は悲鳴に似た声をはり上げて後手に緊縛された裸身を悶えさせるようにして後ずさりさせた。
  361. 「あ、あなたがこの連中と共謀していたなんて夢にも思わなかったわ」
  362.  一体、私に何の恨みがあるのです、と、後は言葉にならず口惜しさに喉元が熱っぽくなり、乳色の両肩を慄わせて鳴咽するのだ。
  363. 「奥様に恨みがあるなんてとんでもない」
  364.  と、川田は口を歪めていった。
  365. 「今まで何かと眼にかけて頂き、時には過分にお小遣いまで頂戴して、本当に感謝しておりますよ」
  366.  と、皮肉っぽい口調でいった。
  367. 「でもね。奥様があまりにも美し過ぎた。これが俺に悪の道を選ばせた理由という事になります。遠山家の後妻として入られた奥様を一眼見た時、俺はこんな女を一度でもいい、自分の思い通りに扱ってみたい。そんな事が出来たら俺は死んだっていい、なんて思ったものです。遠山のジジイに奥様がその美しい身体を夜毎に抱かれているのかと思うと嫉妬のために気が狂いそうになりましてね」
  368.  こうなれば色と金、この二本建ての悪事を働いてやれと捨鉢になりましてね、と、調子づいたようにしゃべりまくる川田を夫人はおぞましそうに小刻みに慄えながら見つめるのだった。
  369. 「俺の狙いは金より奥様なんだよ」
  370.  と、川田が凄味をきかすようにいうと夫人はぞっとして立膝に縮めた裸身を更に後ずさりさせた。
  371. 「川田さんには随分と私達、世話になっているんだからね。それに今回も相当に稼がせて頂いたんだし」
  372.  と、顎を突き出すようにしていった銀子は、
  373. 「私達の顔を立ててくれるわね、奥様。川田さんの女になってほしいのよ」
  374.  と夫人に向かっていった。
  375.  戦慄が全身をよぎり、静子夫人はハッとしたように顔面を上げた。「これから、川田さんにこってりと可愛がって頂くのよ、わかった」
  376.  と、続いて朱美が声をかけると夫人は狂ったように激しく首を振った。
  377. 「嫌ですっ、そ、そんな事、絶体に嫌ですっ」
  378.  夫人は甲高い声をはり上げて拒否を示した。そして、川田が一歩でも近づけば噛みつくばかりの敵意を見せてキッと眉を上げ、憎悪のこもった切長の潤んだ瞳で川田を睨むのだ。死んだってこんな男の嬲りものにはなるものかといった激しい敵意を全身で示している。
  379. 「ふん、運転手風情に抱かれるなんて身の毛がよだつと言いたげだね」
  380.  銀子は静子夫人が反撥を示せば示すほど張り合いのようなものを感じ出している。
  381. 「川田さんは女を縛っていたぶるのが好きという変態なところがあるのよ。私達にもその妙な病気が感染したみたいね。あんたみたいな美人を見ると無性にいじめてやりたくなったわ」
  382.  嫌だといっても絶体にやらせるからね、と叫んだ銀子は、奥様をそこの柱に縛りつけな、と仲間達に命じた。
  383. 「一度、奥様の素っ裸を真正面から川田さんの眼に見せてやろうよ」
  384.  土間の片隅に立つ柱に静子夫人を立位にしてつなごうとし、朱美と義子は狂気したように首を振って悶える夫人のしなやかな両肩に手をかけて一気に立ち上らせた。
  385. 「嫌っ、嫌ですっ」
  386.  と、のたうつ夫人の裸身を引きずるようにして柱を背にして立たせたズベ公達はヒシヒシと縄がけしていく。
  387. 「そら、川田さん、恋しい人の生まれたまんまの姿をはっきり眼にしてみなよ」
  388.  静子夫人を晒しものにするため、柱を背にさせて立位で縛りつけた悪女達は川田を手招きして呼んだ。
  389.  川田は酔い痴れた気分で立位の晒しものにされた静子夫人の方にのっそりと近づいて行く。
  390. 「こんな色消しのおむつカバーなんか外しましようね。川田さんが一番、見たがっている所はちゃんと晒さなきゃ」
  391.  銀子はそういって夫人の下腹部をわずかに覆っているビニールのカバーを剥がしとった。
  392.  夫人は耳たぶまで朱に染めてさっと顔面を横にそむけた。 晒し柱の前に腰を落とした川田は何一つ覆うものを失った静子夫人の全裸像をそこに見て思わず生唾を呑みこんだ。
  393. 「ねい、いい身体をなさっているでしょう。私もはじめて見た時、驚いたわよ」
  394.  と、銀子は陶然として夫人の全裸像を見入っている川田の耳元に口を寄せるようにしていった。
  395.  麻縄をきびしく上下に喰いこませている優美な球型の乳房、滑らかでスベスベした腹部、女っぽい曲線を描く腰のくびれ、適度の肉づきを持って乳色の光沢を浮かべる官能味のある太腿♢♢そんな静子夫人の肉体の一つ一つを川田は情欲に潤んだ眼差しで舐め廻すように見つめている。やがて、川田の視線は夫人の股間の悩ましい濃密な茂みの部分に釘づけになった。それは食欲さを感じさせるばかりにふっくらと柔らかく盛り上ってまるで手入れされているような美しい形として川田の眼に写るのだ。
  396. 「ね、ここなんか、とてもおいしそうでしょう」
  397.  川田の視線に気づいた朱美は晒しものにされている夫人の横手に廻って腿の附根のその艶っぽい濃密な茂みのあたりを指で示しながら、女の私達でさえ、一寸、悪戯がしてみたくなるわね、といって笑った。そしたら、すぐに熱いおつゆが噴き出してくるみたい、といって悦子も笑い出す。
  398.  そんな女達のいたぶりの言葉に静子夫人は耐え切れなくなったように朱に火照った顔面を激しく左右に慄わせながら、
  399. 「けだものっ」
  400.  と、鳴咽を含んだ声で叫んだ。
  401. 「私はお金を主人に出させるための人質なんでしょう。その人質がどうしてこんな羞しめを受けなきゃならないのですっ」
  402.  続いて夫人が狂ったようにわめくとその瞬間、銀子の激しい平手打ちが静子夫人の泣き濡れた頼に炸裂した。
  403. 「私達をけだものだなんていったわね。二度とそんな口がきけないようにお仕置してやろうか」
  404.  この場に桂子を引っ張り出して皮から血が出る程、青竹でぶちのめしてやろか、と、悦子が凄んで見せると夫人はおびえて顔面をひきつらせた。
  405. 「そんなもんよりマメ吊りの刑はどうや」
  406.  と、義子も口を出す。これはズベ公特有の残忍な私刑で、仰臥位にして大の字縛りにした女のクリトリスを洗濯バサミではさみ、引っ張り上げるという淫虐な拷問である事を銀子は恐怖に慄える夫人に淫微な笑いを口元に浮かべながら説明するのだった。
  407. 「どうなんだい。桂子と一緒にそんな私刑を喰わされたっていいというのかい」
  408.  と、銀子につめ寄られた静子夫人は柱を背に縛りつけら
  409. れた裸身をよじらせて泣きじゃくり、激しく首を振った。
  410. 「ね、嫌だろう。そんな目に合いたくなかったら素直になって川田さんに身を任せるんだよ」
  411. 「川田さんの女になります、と、はっきりここで言うんだよ」
  412.  と、ズベ公達は左右から静子夫人につめ寄るようにして、おどろに乱れた黒髪をつかんだり、その気品のある鼻を指でつまんだりしていたぶり抜くのだ。
  413. 「わ、わかったわっ、あなた達の言う通りにすればいいのでしょう」
  414.  夫人は女達に耳を引っ張られ、鼻をつままれ、悲鳴を上げて悶えていたが、自棄になったようにそう叫ぶと、
  415. 「川田さんの女になります、と誓うんだよ」
  416.  と、銀子は叱咤するようにいった。
  417. 「川田さんの、女に、なりますわ」
  418.  と、声を慄わせて夫人がいった途端、悪女達はわっと歓声を上げ、静子夫人はしなやかな乳色の肩先を慄わせて号泣した。
  419. 「ね、この奥さん、何や、腰をモジモジさせてるみたいやけど、おしっこしたいのと違うやろか」
  420.  と、義子が夫人の腰部に眼を落としていった。
  421.  おしめカバーも濡らしてないし、朝からずっと我慢しっぱなし、お床入りの最中に洩らしたりすると大変や、と、義子は笑いながらいって片隅から古びた洗面器を持ち出して来た。
  422. 「な、この美人に一ぺん、立ったままおしっこさせてみよ」
  423.  そういって義子は運んで来た洗面器を、ぴったりと揃えさせている夫人の下肢の前に置いた。
  424.  夫人はぞっとしたように泣き濡れた類を上げた。
  425. 「そうよ。私達だって立小便位、必要とあらばやってのけられるわよ。奥さんも一度、試しにやってみな」
  426.  と、朱美がからかうようにいうと静子夫人の顔面からは血の気が失せた。
  427. 「私には、ト、トイレに行く自由も許されないの」
  428.  そう、そう、ここにいる間は犬猫同然に扱ってあげるわ、と、女達は一斉に嘲笑する。
  429. 「でも、このままじゃ、前のお丸に流しこむ事は無理ね。私達が手を貸したげるわ」
  430.  女達は肢元の洗面器をつかんで夫人の悩ましいふくらみを持つ繊毛の下あたりにぴったりと押しつけていく。
  431. 「馬、馬鹿な真似はやめて」
  432.  夫人は緊縛された裸身をのたうたせ、下腹部を激しくよじらせて肌に触れて来たそれを必死になって払いのけようとする。冷たい洗面器が太腿の附根あたりに触れると悪感のようなものが全身に走るのだ。
  433. 「馬鹿なのは奥様よ。出すものは出さなきゃ身体がもつ筈ないじゃない」
  434. 「さ、そんなに恥ずかしがらないで。股を少し開いてごらん」
  435. 「あんまり駄々をこねるとその形のいい茂み、全部、剃っちゃうわよ」
  436.  女達は面白がって調子づき、夫人のその乳色に熟れ切った肉づきのいい両腿を寄ってたかって割り開かせ、その間へ強引に洗面器を押しこむのだった。
  437. 「もう洩れそうになっているんだろ。痩我慢するのはおよしよ」
  438.  手間をかけさすとこうだよ、と、銀子は夫人のその艶っぽい濃密な繊毛の内側に指を滑りこませようとした。
  439.  ヒイッと夫人の口から甲高い悲鳴が迸り出た。
  440. 「するわっ、しますから、乱暴するのはやめてっ」
  441.  と、泣きじゃくりながら夫人は緊縛された裸身を大きく揺さぶり、ふと、こちらに好奇の視線を向けている川田に気づいた夫人は浪狽気味に大声を出した。
  442. 「川田さんっ、お、お願い。あなたにまでこんなみじめな姿を見せたくはないわ。後生ですからここから出て行って下さい」
  443.  そんな夫人のせっぱつまった声を聞いた銀子は北叟笑んで川田に向かって声をかけた。
  444. 「愛する人にはこんな羞ずかしい姿は見られたくないのですって」
  445.  出したくとも、おしっこが出せないっておっしゃるのよ、と、銀子は笑いながら川田の手をとり、
  446. 「新しい御主人様はあちらの寝室で待っていてね」
  447.  と、連れて行こうとする。
  448. 「出来たら、俺も見物したいものだが」
  449. 「駄目よ。おびえ切ってほんとに出なくなるかもしれないわ。一ぺんにいじめ抜いちゃ駄目よ。ボチボチ馴らしていかなきゃ」
  450.  銀子は川田をなだめるようにして上り框を上ったこのボロ屋の小部屋へ連れこんでいく。
  451.  
  452.  
  453.     闇の中
  454.  
  455.  破れ障子を開けて川田が入ったその小部屋はすり切れた畳の敷かれた物置兼用の陰気な六畳であった。
  456. 「寝室はこんな風に汚ないけど新婦が飛び切りの美人なんだから、まあ、辛抱する事ね」
  457.  銀子はそういって破けた押入れの襖を開け、せんべい布団を引っ張り出す。
  458. 「色々と世話をかけるな」
  459. 「いえ、どう致しまして。川田さんには色々とお世話になっていますから」
  460.  銀子は布団を敷き終ると、
  461. 「でも、いよいよ思いが叶う事になってよかったね、川田さん」
  462.  といってジーパンのポケットから煙草を出して川田にすすめた。
  463. 「でも、遠山令夫人がお前達の手にかかって立小便までやらされているとは思わなかったな。驚いたよ」
  464.  川田はそういって煙草を口にした。その煙草にライターの火をつけてから銀子は、
  465. 「ブルジョア夫人をあんな風にいたぶると気持がスカッとしちゃうわよ。私達も川田さんと同じであの気があるのかも知れないわね」
  466.  といって、ふと思い出したように破れ障子を少し開くと外に向かって大声を出した。
  467. 「まだ手こずってるのかい。こちらでは花婿がイライラしてお待ちかねなんだよ」
  468.  川田は銀子の後ろに寄り、破れ障子の間から柱につながれている静子夫人の方をのぞきこむ。
  469.  柱に立位で縛りつけられている夫人の下腹部にはズベ公達が取り巻くように腰をかがませているので、すべてをのぞき見する事は出来ないが、恐らく夫人は便器代りの洗面器を股間に押し当てられるという言語に絶する羞しめを受けているのではないかと想像出来た。
  470.  若奥様風の艶やかな髪型も今はおどろに乱れさせて、嫌よっ嫌っ、と狂おしく首を揺さぶる夫人に対し、朱美と悦子は、
  471. 「何時まで気取っているんだよ。早くすまさないか」
  472.  とか、
  473. 「川田さんに抱かれている最中にお洩らしでもすりゃ、よけいに羞ずかしいだろう。さ、早く出すものは出しちまいな」
  474.  とか、調子づいていたぶり抜いているのだ。
  475. 「まだ、手こずらせる気なの。仕方がない。浣腸してやろう」
  476.  と、朱美がいうに及んで遂に夫人はこれらの悪女達に屈伏を示した。
  477. 「し、しますわっ、ですから、眼をそむけて、お願いっ」
  478.  夫人が悲痛な声音でそう叫んだのを耳にした川田は嗜虐性の快感が妖しく身内に走るのを感じた。それを隠すようにして、
  479. 「おい、銀子、一寸、あれじゃ、いたぶりが過ぎるんじゃないか」
  480.  と、川田がいうと、銀子は、
  481. 「相手は贅沢三昧の暮しをしている社長夫人、たまにはこれ位の恥をかかせてやりたくなるわよ」
  482.  と含み笑いしていった。
  483.  その途端、静子夫人の下半身を取り囲んでいた女達は一斉に笑いこけた。
  484. 「ひゃー、始めたわよ」
  485.  朱美は銀子の耳に聞かせるような甲高い声をはり上げた。
  486.  静子夫人は火のように火照った顔面を激しく左右に揺さぶって羞恥の極に泣きじゃくっている。
  487. 「見ないでっ、後生ですから眼をそらしてっ」
  488.  悪女達に哀願をくり返しながら、しかし、一旦、放出させたものはもう押さえがきかないのだろう。洗面器の底を叩く水音がかすかに川田の耳にも聞こえるのだ。
  489. 「終ったら、ちゃんと後始末をしてやるんだよ。花婿に御賞味して頂くそこの所は特に念入りに濡れタオルでお掃除してやらなきゃあね」
  490.  銀子は痛快そうに朱美達に声をかけた。
  491.  ♢♢静子夫人が失業達に縄尻をとられて川田の待つ部屋に引き立てられて来たのはそれから十数分後であっに。
  492.  身も心も打砕かれたように静子夫人はその緊縛された裸身を狭い部屋の片隅によろめくようにして坐らせる。
  493. 「すっきりなさいまして、奥様」
  494.  銀子は夫人の上気した横顔に眼を向けながら皮肉っぽい口調でいった。
  495.  静子夫人は綺麗に揃った睫毛も固く閉じ合わせ、女達に強制排泄を強要され、遂にそれをやってのけた死ぬ程の口惜しさをこらえるかのように唇をギューと固く噛みしめている。その夫人の優雅で端正な頬には乱れ髪がもつれかかり、そのため妖艶さが滲み出た感じで川田は夫人のその美しさを恍惚とした気分で見つめているのだ。
  496. 「それじゃ、今夜は川田さんにたっぷりと可愛がってもらうのよ。いいわね」
  497.  といって銀子は、夫人の匂うように優雅な横顔と、ニヤニヤと口元を歪めて見ている川田の顔とを楽しそうに交互に見つめながらいった。
  498. 「今までは遠山家のお抱え運転手。奥様は川田さんを顎で使っていたかも知れないけど今夜からは川田さんはあなたの御主人様なのよ。うんと甘えて、可愛がって頂く事ね」
  499.  すっかり観念したような静子夫人だったが、しかし、川田がアロハシャツを脱ぎ半裸になって近づいて来ると忽ち、狼狽を示し、全身を石のように硬化させた。
  500.  川田は背後から夫人のその柔軟な乳色の両肩に両手をからませた。ハッとしたように夫人はその紅潮した顔面を横にそむけた。
  501. 「もう覚悟は出来ているんだろ。そんなに硬くなる事、ないじゃないの」
  502.  朱美がおかしそうにそういって煙草を口に咥えた。
  503. 「あ、あなた達、私が川田さんに抱かれる所まで見物する気なの」
  504.  静子夫人はその場に腰を落とし、口元を歪めているズベ公達に敵意をこめた眼を向け、反撥するようにいった。
  505. 「邪魔者はそろそろ退散しなくちゃね。私達がこうして居坐っていると川田さんも気分が乗らないでしょうから」
  506.  銀子がいうと、朱美が、
  507. 「でも、色々と献立してあげたのだからせめてキッスするところぐらいは見物させてよ」
  508.  と、いった。
  509.  お互に腰の揺さぶりっこするところまで見せてくれとはいわないよ、と、いって女達は哄笑する。
  510. 「そうだよな。色々と世話をかけさせたんだから、せめてそれ位のサービスはしなくちゃ」
  511.  川田はニヤニヤしてそういうと、いきなり夫人の前面に廻って息づまる程に強く夫人の上半身を抱きしめる。
  512. 「ああっ、嫌っ」
  513.  と、夫人は思わず拒否を示して激しく顔面を左右に揺さぶったが川田は夫人の艶っぽいうなじのあたりから滑らかな頬にかけて荒々しく接吻の雨を降らすのだった。
  514.  激情的に強く抱きしめ、熱っぽい接吻を注ぎながら川田の片手は夫人のその麻縄に緊め上げられた柔軟な乳房を揉み上げている。
  515. 「ああっ」
  516.  静子夫人はもう抗す術もなく、川田のその激情に煽られて熱っぽく息づきながら強引に押しつけて来た川田の唇に思わずぴたりと唇を重ね合わせた。
  517.  もう駄目だわ、と自分に哀しく言い聞かせたように夫人は川田に強く引きこまれていく。
  518.  川田の唇と夫人の唇がぴたりと合致したのを見てズベ公達は歓声を上げた。
  519. 「もっと気分を出してキッスしなよ、奥さん、もうこうなりゃ楽しむだけ楽しまなきゃ損だよ」
  520.  と、朱美は痛快そうに離し立てている。
  521.  川田は夫人の唇の中へ強引に舌を差しこみ、夫人の舌先に荒々しく舌先をからませた。
  522.  その乳色の柔軟な肩先を強く抱きすくめながら川田は夫人の口中を溶けこむように甘く舌先で愛撫し、やがて、夫人の舌先を抜き取るばかりの強さで強く吸い上げる。
  523.  夫人はもう完全に神経を痺れ切らせ、川田の口中を舐め尽すような舌の感触を固く眼を閉ざしながら受け入れているのだ。
  524. 「さすがに色事師だね。キッスだけでもう相手を骨抜きにしちゃってるよ」
  525.  と、銀子は川田の接吻の巧妙さに舌を巻き、朱美や悦子の顔を見ていった。
  526.  川田に強く舌先を吸われるままになっていた静子夫人はその長くて濃厚な接吻から解放された途端、全身からカが抜け落ちたように緊縛された裸身を川田の胸元に潰れさせていく。
  527. 「さ、この後は奥様と俺の二人きりにして頂こうか。周囲からジロジロ見られていちゃ、気分が乗らねえよ」
  528.  川田は静子夫人の上体をしつかり両手で支えながら銀子達に苦笑を見せていった。
  529.  わかったよ、と、悪女達は淫靡な笑いを口元に浮かべながら腰を上げた。
  530. 「じゃ、今夜は思いこがれた美人を徹底して可愛がってやりな」
  531.  と、銀子がからかうようにいうと川田は、
  532. 「ああ、少なくとも三、四発はやらせてもらうからな」
  533.  といって笑った。
  534.  ひえ、何だか妬けるわね、と、女達は一斉に哄笑した。
  535.  
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  538. 第三章 美人探偵登場
  539.  
  540.  
  541.     落花紛々
  542.  
  543.  遠山家の運転手、川田が遠山家に戻って来たのは、もう明け方であった。
  544. 「一体、今まで何処に行っていたのだ」
  545.  と、遠山隆義は、まだ起きていて、ガレージの所までナイトガウンを着たまま近づいてくると、激しい口調でいうのだ。勿論、遠山隆義が、ぐっすり寝られる筈はない。静子の事と桂子の事が気がかりで、寝不足のため、顔は土色になっている。
  546. 「はい。奥さんの行方を何とか見つけ出そうと、あっちこっち、走り廻って来たのです」
  547.  と川田は、平然とした顔つきで答える。
  548. 「それで、何か手がかりがつかめたか?」
  549.  と隆義は、せきこんで尋ねるのだった。
  550. 「残念ながら、今のところ、全く♢♢」
  551.  ♢♢俺は、今まで、手前の可愛い女房をたっぷり楽しんで来たのだ。♢♢と心の中で舌を出す川田であった。
  552.  隆義は、苦しそうな顔をすると、
  553. 「そうか、やっぱり駄目だったか」
  554.  とカなくいい、
  555. 「仕方がない。明日は、警察へ相談しよう」
  556.  と、屋敷の方へひき返す。
  557.  川田は、勝手にしやがれ、と部屋へ戻り、頭から布団をかぶったが、いよいよ警察沙汰になるのだと思うと、ぐずぐず出来ないと、あせった気持になった。
  558.  それにしても、静子っていう女は、いい身体をしてやがる、と、川田は、銀子の隠れ家で静子を征服した時の情況を、もう一度、想い浮かべるのである。
  559.  はちきれるばかりの豊満な乳房、なめらかな雪肌、弾力のある肉づきのいいヒップ、川田は愚連隊当時、スケコマシをやっていたぐらいの色事師で、数え切れない程の女を泣かしてきたが、静子夫人のような見事な肉体の女に出喰わした事は一度もなかった。
  560.  それに普通では、とうてい手の出ない高嶺の花である。相手の女が容貌といい、肉体といい、ずば抜けていればいるだけ、トコトンまで責めあげるというのが、色事師のやり方だ。
  561.  いよいよ、逃れる術はないと観念した時の静子夫人の眼を閉じた端正な美しい容貌が、脳裡に浮かび上ってくる。
  562.  ♢♢先程までの情事の場を川田は思い出しながら、まんじりともせず、眼はさえて、なかなか眠られなかった。
  563.  俺は、とうとう天下の美女を自分のものにしたんだぞ、と、言うにいわれぬ優越感が、こみあがってくる。と同時に、あの美女を森田組に売る約束をした自分が、如何にも残忍な男に思われ出し、ふと、罪悪感めいたものが胸に来た。
  564. 「畜生、俺は、真底あの女に惚れちまったぞ」
  565.  と、川田は、何度もつぶやいては髪の毛をかきむしるのだった。
  566.  探偵の山崎が遠山家にやって来たのは、昼前であった。ブルーのスーツを着た京子という女秘書を連れていた。彼女は、二十三歳、二重瞼の、エキゾチックな美人で、重大な情報をキャッチし、山崎と一緒に遠山老人に、それを報告に来たのである。
  567.  山崎は遠山隆義にいうのである。
  568. 「実は社長。この京子さんが、大変なニュースをつかんでくれました。京子さんは、この三日間、新宿のズベ公達の中に混じって、色々内偵をしてくれたんですが、マリという葉桜団の一人と親しくなったんです」
  569.  遠山隆義は、体を乗りだして、
  570. 「うん、そ、それで、何か静子達の手がかりがつかめたか」
  571.  と、せきこむ。
  572.  京子が、それに対していった。
  573. 「マリの話では、今日、葉桜団は、森田組へある金目になるものを運びこむ、というのです。私は、きっと奥さんか、お嬢さんの事ではないかと思うのです」
  574. 「うん、なるはど。しかし、マリという女がよく、それまで君に話したもんだね」
  575.  と、隆義がいうと、
  576. 「私、葉桜団に入団したんです」
  577.  と、腕をまくって、隆義に見せた。柔軟な白い腕の附根あたりに、桜の刺青がしてある。
  578. 「マリというズベ公が、新宿の愚連隊に因縁をつけられていたので私が救ってやったのです。すると、マリが喜んで、ぜひ、葉桜団に入ってくれというものですから、それで、私、今日、団長の銀子というのに逢うことになっています。恐らく、葉桜団の隠れ家を今日は、つきとめられると思いますわ」
  579.  京子は、今年大学を卒業して山崎探偵事務所に勤めたのであり、在学当時は、男の学生達と一緒に空手を学んだ。女であるが、二段の腕前で、マリが愚連隊にいじめられているのを見て助けに入った京子は、チンピラ三人を空手でのしてしまったのである。マリが、ぜひ葉桜団に入ってくれと、京子を誘ったのも、京子の腕力を見込んだからであろう。
  580.  隆義は、京子の手を握ると、
  581. 「お願いだ。何とか静子と桂子を救い出してくれ給え。この通りだ」
  582.  と、隆義は、今度は、京子に対し、手を合わすのであった。
  583. 「社長、どうぞ御心配なく。私、どんなことがあっても奥さんは救い出しますわ。だから、警察に知らせるのだけは、どうかここ一、二日、待って下さい」
  584.  警察へ知らせるという事は、探偵長、山崎の面子を漬す事になる。それで、秘書である京子は、隆義に頼んだのだ。
  585. 「うん。私だって、静子や桂子の命にかかわる事だし、新聞沙汰になる事はしたくない。すべて君に任すよ」
  586.  と、隆義は、何度もうなずくのであった。
  587.  
  588.  
  589.     美人探偵京子
  590.  
  591. 「さあ、アーンと口を開いて」
  592.  朱美は、焼飯をスプーンに盛り、静子夫人のロへ持っていく。夫人は、柱を背にして、あぐら縛りにされ、ズベ公達に食事させられているのだ。相変らず一片の布切の着用も許されぬままの静子夫人は、もう彼女達に抵抗する気力も失ったかのように小さく口を開いて、ズベ公達に食べさせられるものを食べ、飲まされるものを飲んでいる。
  593. 「さて、今度は桂子の番だ。口を開けな」
  594.  柱の後ろには、桂子が縛りつけられていた。夫人と同じく、後手に縛りあげられ、足はあぐら縛り。
  595. 「二人とも、よく噛んで食べなきゃ駄目よ」
  596.  ズベ公達は、静子夫人と桂子が、羞ずかしげに口を動かして食べているのを面白そうに眺めている。
  597. 「はい、朝食は、これで終り。ごちそうさまを、いいな」
  598.  銀子は縄にしめあげられている静子夫人の乳房を指でピンとはじき、笑いながらいう。
  599. 「♢♢ごちそうさま」
  600.  静子夫人は、首を垂れて、小さくいうのだった。
  601. 「大分、素直になったわね。それなら、森田組へ行ってからも大丈夫だわ」
  602.  悦子が、そういったので、静子夫人は、ふと顔を上げた。
  603. 「それは、どういう意味ですの」
  604.  と、おろおろしながら聞く。
  605. 「なんだ。あんた、昨日、川田さんに抱かれながら、その話、聞かなかったの」
  606.  静子夫人は、顔を紅潮させて俯いた。
  607.  もう、自分は、あの卑劣な川田のため、夫の前に出られない女になったのだと、昨夜の地獄のような川田との一刻を思い起こし身体をすくませてしまうのだった。
  608. 「森田組に、あんたの身柄を売ったのよ。脅迫の権利を、譲ったってわけよ。森田組はあんたの御主人から三百万取ったら、そのお金を分配して組は解散するらしいわ。だからどうせ稼ぎ得ってわけで、奥さんと桂子の秘密写真なんかを、うんと作っておいて、相当、儲けるつもりらしいわよ」
  609.  静子夫人は、予期もしなかったことに、心臓が止まるほどの恐怖を感じた。川田は自分を凌辱したその上、秘密写真密造団に売り飛ばしたのだ。鬼畜にも等しい彼の仕打ちに、静子夫人は、激しく鳴咽し出す。
  610. 「泣いたって、仕方がないさ。あんたの新しい旦那さんがした事だものね。それより、昨夜、旦那さんは、どんな風に可愛がってくれたか、それを聞かしなよ」
  611.  と朱美は、からかう。悦子も銀子も、静子夫人の美しい頬を指でつつきながら、
  612. 「昨夜は明け方近くまで、奥さん、悩ましい声の出しつづけだったじゃないか」
  613.  と、からかうのだ。
  614. 「満更でもなかったようね。ね、すっかり聞かせてよ」
  615.  と、悦子は静子夫人の尻をつねったりするのだ。そんな話を桂子にも聞かれている辛さ。静子夫人は舌でも噛み切りたい気持だ。
  616.  その時、表に車の停まる音。
  617. 「おや、うわさをすれば、なんとやらだね。奥さん、御主人が見えたわよ」
  618.  入って来たのは川田であった。
  619. 「よう、色男」
  620.  と、ズベ公達は、川田を冷かす。
  621. 「へっへへ、昨夜は、とんだ御世話になったな」
  622.  と、川田は上機嫌で、手土産に持って来た果物を銀子に渡すと静子夫人の前にかがみ、
  623. 「奥さん、気分はどうだい。おっと、もう奥さんなんていっちゃおかしいな。お前さんはもう今日から俺の女なのだからな。静子って呼ぶぜ」
  624.  と、夫人の両肩に手をかけ、ズベ公達の前で、照れる事もなく、夫人の頬に自分の顔を近づける。
  625.  どういうわけか、静子夫人は、川田に対すると、もうどうしようもなくなる。一度、崩れた女というものは、こうも、もろくなってしまうのか。悪魔だ、鬼畜だと憎悪で一杯なのに、ふと、備えを忘れて、彼のペースに引きずりこまれてしまう。何時の間にか、静子夫人は、川田の唇に我が唇を合わせていた。上気して、ズベ公達が哄笑しているのも、てんで耳に入らない。
  626.  ようやく静子夫人は我にかえり、自意識がよみがえって、急に恥ずかしくなり、顔を横に伏せてしまうのだった。
  627. 「大したものだね。昨夜一晩で、この令夫人をなびかせてしまうんだからね。全く、あんたは、典型的な色事師だよ」
  628.  と、銀子が感心したようにいう。
  629. 「へっへへ、俺の味を知った女は、俺なしには暮せなくなるのさ」
  630.  川田は、ぬけぬけと、ズベ公達にそんな、のろけ事をいっているのだ。
  631.  静子夫人は、真っ赤な顔をして首を垂れてはいるが、川田のいう事は耳に否応なしに入って来る。両手さえ自由になれば耳を育ってしまいたかった。
  632. 「さてと、そろそろ森田組へ運ばなきゃならねえな」
  633.  と、川田は、静子夫人の身体を柱から外し、あぐら縛りの縄を解くと、さ、立ちな、と縄尻を取る。後手に縛った縄は解こうとはしないのだ。
  634. 「どうやって連れて行くんだい。裸のままじゃ具合が悪いだろう」
  635. 「なあに、自動車の荷物入れに押し込むんだ。きゅうくつだろうが、一寸の間の辛抱だ」
  636.  と、川田は、ポケットから、手拭を取り出し、
  637. 「さあ、猿轡をはめるから、アーンと口を開きな」
  638.  静子夫人は、涙の出る瞳を川田に向け、
  639. 「川田さん、あんまりです。あんまりだわ」
  640.  と、肩を震わす。そんな恐ろしい所へ自分を送りこもうという川田に、精一杯の恨みの眼を送ると、
  641. 「何をいってるんだ。二人が世帯を持つにゃ、お前にも少しは働いてもらわなきゃ困るぞ。それとも、何かい。お前は、俺とあんな仲にまでなっておきながら、おめおめと遠山のジジイの所へ帰れる気でいるのかい」
  642.  川田は睨みつけるように夫人の顔を見た。あんな仲にまでなっておきながら♢♢と川田に決めつけられると、川田のいう通り、もうおめおめと遠山の所へ出られぬ身体になった自分を、静子夫人は感じるのだった。
  643.  ああ、一体、私は、どうしたらいいのか、と、再び、がっくり首を落とす静子夫人の前へ川田は、手拭を拡げて立つと、
  644. 「時間がないんだ。さあ、アーンと口を開いて♢♢」
  645. 「お願いです。何か着るものを♢♢」
  646. 「何か着たって、どうせ、向こうへ行きゃ裸にされるんだそれにここにゃ奥さんの着るものは何もねえ。みんな遠山家へ持ち運んじまったんだ」
  647. 「それじゃ、せめて、お腰だけでも♢♢」
  648.  静子夫人は、涙を流しながら哀願する。
  649. 「仕方がねえな。おい、銀子、何かはかすものはねえか」
  650.  銀子は、ニヤニヤしながら、
  651. 「あたい達は、出すものは舌を出すのも嫌でね。いいじゃないか。そのまま、連れてお行きよ」
  652.  と、わざと、夫人にいじわるをするのだ。
  653. 「そうだね。おしめカバーは汚れちゃってるし、どう、メンスバンドならあるわよ」
  654.  と悦子が、クックッ笑いながらいう。
  655. 「いいや、それでも、ないよりはましだろう」
  656.  川田も笑いながらいう。
  657.  悦子は、メンスバンドを持ち出して来た。
  658. 「嫌、嫌よ。あんまりだわ」
  659.  静子夫人は、畳の上に坐りこみ、そんなものをはかされる事を恐れて、上体をかがめるのであったが、
  660. 「ぜいたくいうのじゃないよ」
  661.  と、悦子に朱美、銀子までが寄ってたかって夫人の腰に、それを装着してしまった。
  662. 「さあ、それでいいだろう。では、口を開いて♢♢」
  663.  と、川田は再び、手拭を静子夫人の鼻に近づける。眼を閉じた静子夫人は、観念したように口を開いた。ハンカチを無理やり押し込んでその上から猿轡をかませ、川田は夫人の足首を縄で縛る。そして、両手を拡げてすくい上げるように夫人を抱き上げ、表へ運んだ。
  664.  銀子達が、車の荷物入れの蓋を開ける。その中に夫人を押し込んだ川田は、
  665. 「ちょっとの間の辛抱だ。おとなしく、しているんだよ」
  666.  といって笑った。その車は、遠山家の自家用車で、静子夫人が買物の行き帰りに、使っていたものだが、今は、その荷物箱に押し込められる身となったのである。
  667.  メンスバンドを無理やりにはめられ、縛りあげられている静子夫人は、海老のように身体を小さくしている。美しい顔は、鼻を覆うばかりに猿轡をされ、切長の、涙にうるんだ瞳を哀願するように、ニヤニヤ眺めている川田に向けるのだった。
  668. 「さ、行こうか」
  669.  川田はバタンとふたを閉め、鍵をかける。
  670.  川田の車が見えなくなるまで、銀子達は見送っていたが、
  671. 「桂子の方は、どうやって運ぷのだい。姐さん」
  672.  と、悦子が銀子に聞いた。
  673. 「今夜、あたい達で運んで行こうよ。山登りでもする恰好で、リュックサックに押し込んで行きゃいいよ」
  674.  と、銀子は答えるのだった。川田は、森田組から、一旦は、遠山家に戻らなければならない。だから、桂子まで運びこむ閑がないのだ。
  675.  ズベ公達は、あばら屋に引き返し、柱を背にしてあぐら縛りされている桂子の前へ、ごろごろ寝そべったりしながら、
  676. 「桂子、いよいよ、お別れだね。森田組へ行ったら、ママと二人、一生懸命働くんだよ」
  677.  と笑いながらいうのだった。桂子は、首を垂れたまま、もうこうしたズベ公達に反抗する気力もないようだった。
  678.  そこへ、姐さん、ただ今、といって戸を開けて入って来たのは、銀子の妹のマリだった。
  679. 「まあ、マリ、一体どこをうろついてたんだい。今、私達は大きな仕事の最中なんだよ。こんなヤパイ時に一人歩きする馬鹿があるかい」
  680.  と、銀子は眼をつり上げて叱る。
  681. 「その通り、とんでもないヤパイ目に逢ったんだよ。だけど、京子っていう姐さんに救ってもらってね」
  682.  マリは、そういって、すぐ、戸の外へ声をかけ、
  683. 「お京姐さん、入っといでよ」
  684.  と、呼ぶ。のっそり外から入って来たのは、派手なスカートをはき、チューインガムを矢鱈に噛んでいる背のスラリとした女だが、いうまでもなく、山崎探偵長の秘書、京子の変装した姿である。
  685. 「こんな所へ、他所ものを連れて来る奴があるかい!」
  686.  と、銀子も朱美も、きっとした顔でマリを叱り、警戒した眼つきを京子に送ったが、マリは一生懸命、弁じ立てる。
  687. 「姉さん、私が保証するよ。この人は、葉桜団を売るような人じゃないわ。それより、私からすすめて葉桜団に入団してもらったんだよ。ほら」
  688.  と、マリは京子の服の袖をめくりあげ葉桜団の紋章である桜の刺青を出して見せるのだった。そして、マリは、この京子という女が如何に空手が強いかという事実を語り、救われた、いきさつをしゃべり出す。葉桜団にとって彼女を加える事は、大きなプラスになるというのだ。
  689. 「お前が、そうまでいうなら♢♢」
  690.  と、銀子は、京子の入団をようやく許可する。
  691. 「ちっとぐらいのタタキや、カツアゲなら、何時だってやりますぜ。どうぞ、目をかけてやっておくんなさい」
  692.  と、京子は、団長の銀子に挨拶した。相当年期の入った不良に思えたのだろう。銀子も、
  693. 「何となく、お前さんは頼りになりそうだ。しっかりゃっとくれ。それから、マリを助けてやってくれて、有難う。お礼をいうよ」
  694.  と好意的な態度に出た。京子は、心中、ほっとした気持になったのである。
  695.  ふと、横手を見た京子はギョッとなった。柱を背に、無残にも素っ裸のまま縛りあげられている少女がいたからで、これは、遠山家のお嬢さんだとすぐにわかったが、何でもない顔つきになり、
  696. 「団長、そこに縛られているスケは一体、何なんです。掟を破った私刑ですか」
  697.  と聞く。
  698.  銀子はうなずいて、まあ、そんなもんさ、といったが、
  699. 「あんたも今日からあたい達の仲間だから、ひと通り、今の仕事を話してやるよ」
  700.  と、遠山家の夫人及び娘を誘拐、森田組へ売り渡しの計画などの一切を、得々と説明し出した。
  701.  京子は、眼をギラギラさせて、銀子の話を聞く。
  702. 「成程、さすがは葉桜団ですね。やることが大きいや」
  703.  と、京子は、わざと感心したようなポーズをとった。
  704.  
  705.  
  706.     地獄屋敷
  707.  
  708.  ある実業家の大きな屋敷の一部を森田組は借り、そこを本拠としているのだった。屋敷の一部を森田組に開放している、いわば、この愚連隊のスポンサーである田代一平は、昔、森田組に事業上の援助を受けた事があって、その義理で、落ち目の彼等を援助しているので、色々な刺戟を提供し、猟奇的な快楽をもたらせている。秘密ショー、秘密写真製造が、彼等の本業なのであるから、田代が、そういった種類の楽しみに、夜ごと心をときめかすことが出来るようになったのである。
  709. 「社長、すばらしく、いい玉が入荷しましたぜ。一寸ごらんになってみませんか」
  710.  田代が、居間でくつろいでいると、森田組の幹部の一人、武次という男がノックして入って来るなり、そういった。
  711.  そうかね、と好色な田代は、武次の後について、森田組に貸している奥の離れに向かった。田代は五十歳で、これまで数回、妻を持ったが、その都度、逃げられてしまっている。変質的なところがあって、三か月と妻になった女は耐えられなく、家を飛び出していくのだ。だから、彼は孤独で、森田組に慰められているようなものだった。
  712.  十畳の居間に、親分の森田幹造を中心に森田組は昼間から、賑やかに酒盛りをやっていたが田代が入って来たのを見ると、全員、一斉に坐り直した恰好で、
  713. 「やあ、社長、おいでなさいまし」
  714.  と彼のために席を開け、さあ、まずは一杯受けて下さい、と、田代の手にコップをわたし、幹造は一升瓶の酒を、なみなみと注ぐのである。
  715. 「何だね。昼間から、大変な御機嫌じゃないか」
  716.  と、田代がコップを口に当てるようにしていうと、
  717. 「へえ、ちょっとやそっとで、手に入らぬ上玉が入荷したんです」
  718.  と、田代の耳に口を当てるようにすると、
  719. 「それが、どういう女だと思います、社長。遠山隆義夫人の静子っていう絶世の美人ですぜ」
  720. 「えっ、ほ、本当か」
  721.  田代は、コップを置くと森田の顔を見た。
  722.  遠山隆義は、田代にとっては、いささか不快な思い出がある。飯田市の郊外の広大な土地の落札に田代が必死になっていた頃、横から飛び出して来たような遠山が金があるのにまかせて業者達の出す条件を丸呑みにして、あっさりと手を打ち、田代は、鳶に油揚げを持っていかれた恰好になったのだ。その後ある社会事業団体の慈善パーティに」田代が出席した時、遠山隆義も来ていて、最近、結婚したという美貌の静子夫人を同伴していた。田代は遠山の前に出るのも業腹だった故、遠目に隅のテーブルから眺めていただけであったが、静子夫人の輝くばかりに美しい容貌は今でも一平の脳裡にきざみつけられている。
  723.  その夫人が、森出組の手中に落ちたというのだから、田代は恐ろしいような、わくわくするような何とも言われぬ気分になったのである。大仕事をやるのだから、百万ばかり何とか都合してくれと数日前、森田に頼まれて田代は、思い切って出してやったが、それはこの夫人誘拐に必要な金だったのかと、田代は、やっとわかった。
  724.  やがて♢♢親分、入ってもようございますか、という声がし、襖が開いて、森田組数人の幹部に取り囲まれるようにして、乳白色の素肌をキリキリ後手に麻縄で縛りあげられた静子夫人が引き立てられて来た。夫人の縄尻をとっているのは、川田である。
  725.  静子夫人は鼻まで隠れるように猿轡を噛まされ、腰には、ゴムのメンスバンドをはかされているだけといった屈辱的な姿であった。
  726. 「床の間の柱に立たしな」
  727.  森田が川田にいう。へえ、と川田は、羞恥に身を小さくしようとする夫人の背をつつき座敷の中を、床の間へと突き立てていく。円座を組んで坐る男達は、引き立てられて行く静子夫人の、豊かな肉づきのヒップが、歩むごと、かすかに左右に揺れるのをこヤニヤしながら見つめるのであった。
  728.  床の間へ上らされた夫人は、男達の方へ向かされ、立位にされ柱を背に縛りつけられる。川田は、別の縄を出すと、夫人の足元にしゃがみ、女の両肢も揃えて、がっしりと柱に縛りつけた。
  729. 「どうです、社長。顔もいいが、身体もすばらしいじゃありませんか」
  730.  と、森田は田代の顔を見ながらいう。田代は、眼をギラギラさせて喰い入るように夫人の均整のとれた身体を眺めているのだ。
  731.  川田は、夫人の猿轡を外してやる。彼女は口につめこまれたハンカチを舌で押し出し、川田は、べっとり唾液で濡れたそれを引き出してやった。
  732. 「この奥さん、今、メンスなのかい」
  733.  森田が、夫人の腰の異様なゴムを見て川田に聞く。
  734. 「いえ、何かはかせてくれというのですが、あいにく、これしかなかったんで♢♢」
  735.  川田が答えると、男達は、どっと笑った。
  736.  夫人は、真っ赤な顔になり固く眼を閉じる。彼女にとっては、地獄に落ち、鬼の前に引き出されたといった心境だろう。
  737. 「そんな恰好の悪いものは、取ってあげな。かわいそうに腰をもじもじさせて、恥ずかしがっているじゃねえか」
  738.  森田にいわれて、川田は、夫人の腰から、ゴムバンドをナイフで切りとり剥ぎ取った。
  739. 「全く、すばらしいじゃないか、親分」
  740.  田代は、静子夫人の肢体を穴のあくほど眺めていたが、感極まったような声を出した。
  741. 「百万ならいい買いものでしょう。うまくいきゃ遠山から金三百万は、ひっぱり出せるんです。まかり間違ったって、これだけの女でさあ。仕込んでショーに出したり、写真を作って売ったりしても、大当たり間違いなしです」
  742.  森田は、そういいながら、内懐から、百万円の札束を出し、川田を呼ぶ。
  743.  いそいそと森田の前へ、揉み手をするように近づいて来た川田に、森田は金を渡す。
  744. 「へい、こりゃどうも♢♢」
  745.  と、札の数を数えて川田は、それを内ポケットにしまうと、
  746. 「ところで親分。遠山の娘、桂子の方も、間もなく葉桜団が、ここへ連れこんで参りますが、どうでしょう。こいつの方は、三十万というところで♢♢」
  747. 「厚かましい奴だな。そんなもの、サービスしておけよ」
  748. 「いえ、親分。何しろ葉桜団のズベ公は、がっちりしてやがるんで♢♢それに、桂子ってのも、ピチピチした、この静子とはまた違った味のある、いい玉ですがね」
  749.  川田が、しきりに森田にねだっているのを聞いていた田代が、
  750. 「いいじゃないか。その三十万は、俺が出そう。遠山の夫人と娘を仕込んで、秘密ショーに出すんだ。面白いものが出来るぜ、親分」
  751.  と、田代は、すぐに小切手を書き、川田に渡してやる。
  752. 「こいつは、どうも。へっへへ」
  753.  川田は一平にペコペコ頭を下げて、それを押し頂くようにしてポケットへしまう。田代にしてみれば、これで、遠山隆義に対して昔の恨みが返せるわけだと、三十万の金もさして惜しくはなかった。
  754. 「うまい儲けが出来たじゃないか」
  755.  と幹造は、川田の肩をポンと叩き、
  756. 「その代り、せっかく社長も、こうしておいでになる事だ。何か酒の席の余興を、この遠山夫人にさせな」
  757.  と、いう。唄をうたわせるなり、踊りをさせるなり、何でもいい。森田は、川田が夫人と普通の関係ではない事を見抜いて注文をつける。
  758. 「まだ仕込みが足りねえので、そういった事は、無理だと思うのですが♢♢」
  759.  と川田は、床の間の柱を背にうなだれている夫人を見ながらいった。
  760.  川田は淫靡な微笑を浮かべて田代の耳元に口を寄せ、小声で語りかける。
  761. 「何だと。奥様のあそこが名器だっていうのか」
  762. 「はあ、何というか、キンチャク、いや、タコというのでしょうか」
  763.  川田は卑屈な笑いを田代に見せていった。
  764. 「というと、もうお前が実験してみてたしかめたというわけだな」
  765. 「へえ、まあ、毒見するという意味で賞味させて頂きましたが、驚きましたね。遠山家の若奥様が名器の持主。こりゃ、商売物としても充分に通用しますよ」
  766.  百万円や二百万では安過ぎる買物だって事を川田はいいたがっている。
  767. 「遠山のジジイのこれが後妻だなんて、正にブタに真珠ですよ」
  768.  と、川田がいうと田代は生唾を呑みこんでも一度、視線を床柱を背にして立つ静子夫人の全裸像に向けた。
  769.  こんな美術品並みに見事に均整の取れた美しい肉体、それに加えて、その部分が名器とは♢♢田代は粘っこく潤んだ眼で静子夫人の緊縛された素っ裸を凝視するのだ。
  770.  麻縄を上下に数本、喰い込ませている両乳房は情感を湛えて半球型に柔らかく盛り上り、滑らかでスベスベした鳩尾のあたり、腰のくびれの悩ましさ、全体に優雅さと官能味を混合させたような伸びのある美しい裸身であった。下肢はスラリと伸びて繊細だが、ぴったりと閉じ合わせている乳白色の太腿はムチムチとして見事に肉が緊まっている。その官能味のある両脇の附根あたりに生暖かそうにふっくらと盛り上る艶っぽい漆黒の茂みは妖しさが匂い立つばかりの柔らかさで、その奥に秘められた個所が名器だと想像すると田代は急に息苦しさを感じて熱い息を吐くのだった。
  771. 「そこで、どうです。余興として、田代社長と森田親分がお医者になって。つまり、張形なんぞを使って、お医者様ごっこってのは如何がです」
  772.  川田がそういうと田代はニヤリとして、よかろう、といった。
  773. 「お前のいう名器というのはどんなものか。抱く前に一つ、じっくり調べておきたいものだな」
  774.  田代がそういうと森田が乾分達にここへ布団を運んで来い、と命じた。
  775.  床柱を背にして立位につながれている静子夫人の全裸像に情欲に溶けた眼を向け、痴呆のような表情になっていた森田組の乾分連中は、早くしねえか、と、親分にどなりつけられ、我に返ったように腰を上げた。
  776.  幹分達が押入れを開けて夜具を運び出して来ると川田は足枷にするための青竹を一本、用意してくれ、と、彼等に注文を出している。
  777.  床柱につながれている静子夫人はそんな川田に憎悪をこめた切長の瞳を向けた。
  778. 「川田さん、あ、あなたという人は♢♢」
  779.  あとは口惜しさで言葉にならず、静子夫人は屈辱に歪んだだ顔面をさっと横へそむけ、乳色の柔軟な肩先を慄わせて鳴咽の声を洩らしているのだ。
  780.  自分を凌辱したあと、性を商売にしているような卑劣な暴力団に自分を売り渡すなど、川田の悪魔に似た行為に静子夫人は断崖から突き落とされたような気持になっている。
  781.  畳の上に敷かれた二枚重ねの夜具の下方に川田は青竹を置き、
  782. 「奥様をここへ仰向けに寝かせますから、すぐに両肢を割り開かせて足首はこの青竹の両端につないで下さい」
  783.  と、森田組の部下に向かって楽しそうにいうのだった。
  784. 「それじゃ、奥様。この布団の上へ乗っかって頂きましょうか」
  785.  森田の乾分である武次と三郎が床柱につないである夫人の縄尻を外しにかかった。乾分といってもこの二人は森田組の幹部であり、中堅であって、こういう場合、親分の遊びのお相伴にあずかる事が出来るわけだ。
  786.  柱からは解き放されたが、後手に縛り上げた麻縄は解こうとはせず、武次はすぐに夫人の縄尻を手にして強引に立ち上らせた。
  787. 「な、何をする気なのっ」
  788.  夜具の上へ突き倒された静子夫人はその緊縛された裸身をねじるようにして上体を起こさせ、周囲を取り巻くようにして接近して来た男達におろおろした視線を向けた。
  789. 「お医者様ごっこをやろうってんだよ。俺達はお医者様の助手を勤めさせて頂くぜ」
  790.  武次がゲラゲラ笑いながらいった。
  791. 「川田さん」
  792.  静子夫人は夜具の上に緊縛された裸身を小さく縮みこませながら口惜しげに唇を慄わせながら川田に向かって毒づくようにいった。
  793. 「あ、あれだけの羞しめを私に与えておきながら、まだ、それでも飽き足りないというの。この場で私を皆んなで嬲りものにする気なのですか」
  794.  静子夫人は憤怒に燃える眼差しを川田に向けながら血を吐くような思いで口走ったが、
  795. 「あれだけの羞しめを与えながらだなんて、よくいうよ」
  796.  と、川田はせせら笑いながらいった。
  797. 「奥様だって充分、満足して、ヒイヒイとよがり声をお出しになったじゃありませんか。腰の揺さぶり方なんかも半端じゃなかったぜ」
  798.  川田がそういうと田代と森田が、へえ、と感心したような声を出し、それは楽しみだな、と北叟笑む。
  799. 「人は一見かけによらないもんだな」
  800.  田代がそういって笑うと、そうですよ、社長、と、川田が愉快そうにうなずいた。
  801. 「こんなおしとやかで上品に見える深窓の令夫人があんなに乱れるものなのかと驚きましたね。ああ、いくっ、川田さん。私、また、いくわ、なんて調子で何回、気をおやりになった事やら」
  802.  川田のそんな嘲笑を耳にした静子夫人の顔面は屈辱と羞恥で火がついたように紅潮した。
  803.  更に川田はその時の静子夫人が示した女陰の強い収縮力と吸引力を自慢するように田代に語りかけ、するともう全身の抑えがきかなくなったように田代は、
  804. 「早く実験台に乗せろ」
  805.  と、わめいた。
  806. 「それじゃ、奥様、そのお布団の上にお寝んねして頂きましょうか」
  807.  川田が接近して夫人のしなやかな乳色の肩先に手をかけ、仰向けて横臥させようとすると夫人は狂気したように首を振った。
  808. 「こ、こんな卑劣な方法で私を辱しめるなんて、川田さん、私、あなたを呪うわ」
  809. 「ああ、呪うなり、恨むなり、それは奥様の自由ですよ。言っときますが、こっちは良心の呵責なんてものは爪の垢はども持ち合わせてはいませんからね」
  810.  武次や三郎も手伝って静子夫人の緊縛された裸身はそのまま夜具の上に仰臥位に倒されていく、激しい狼狽を示して揺れ動く夫人の肌が手に触れるとその雪白の肌の甘い温もりと甘い体臭が男達の官能を狂おしく掻き立てるのだ。
  811.  開股位に両足をつなごうとして男達の手が下肢に触れると、静子夫人は逆上したように下半身を揺さぶった。
  812. 「やめてっ、ああ、やめて下さいっ」
  813. 「両肢を割り裂かせようとする男達に必死になって夫人は抵抗し、下肢を激しくばたつかせている。
  814. 「もういい加減に諦めな。こうなりゃ俎の上に乗った鯉みたいに観念して堂々と開張するんだ」
  815. 「そう、そう。社長夫人が小娘みたいに暴れ廻っちゃみっともないぜ。上つきか、下つきか、令夫人の貫禄を示しておっ広げ、俺達に奥の奥まで調べさせてみな」
  816.  武次と三郎は哄笑しながらのたうたせる夫人の優美な両肢をようやく左右からからめ取り、一気にキリキリと割り裂かせていく。
  817.  静子夫人は、ああっと絶望の甲高い悲鳴を上げた。
  818.  川田は田代や森田と並んで静子夫人の激しい狼狽ぶりを何ともいえぬ嬉しそうな表情で見つめている。
  819.  後手に縛られた素っ裸を夜具の上へ仰臥させている夫人の抵抗など赤児のあがきに等しいものだった。男の手で両肢を左右へたぐられていく夫人は遂に観念の眼を閉ざし、美しい眉根をしかめて奥歯をギューと噛みしめる。遂に夫
  820. 人の下肢は男二人の手で両脇まがくっと削いだように左右に割り裂かれたのだ。乱れ髪をもつらせて真っ赤に火照った頬を横に伏せながら夫人は激しい鳴咽の声を洩らせている。
  821.  男二人は左右に引き絞った夫人の陶器のように白い脛のあたりをそれぞれ青竹の両端に押しつけるようにし、その華奢な足首にキリキリと麻縄を巻きつかせて固くつなぎ止めた。
  822.  田代と森田は夜具の上に人の字型に縛りつけられた全裸の静子夫人のその淫らで露骨な肢体を恍惚とした表情で凝視している。
  823. 「凄い恰好だね。大事な個所をこれ見よがしに晒け出させて、遠山社長がこれを見たらさぞ肝を潰すでしょうな」
  824.  田代がからかうようにそういうと静子夫人は耳たぶまで真っ赤に染めた顔面を狂気したように左右に振った。
  825.  透き通るような象牙色の光沢を見せた内腿までが露わとなり、その附根に小高く盛り上った女の羞恥の源は開張縛りにされたため、誇張的に漆黒の艶っぽい残みを浮き立たせている。凝視するうちに官能の芯を痺れ切らせてしまった森田は腰をかがませて夫人の下腹部へにじり寄っていく。森田の指先がその柔らかい茂みの部分にそっと触れた途端、夫人は肌に火でも押しつけられたように全身を激しく痙攣させ、
  826. 「何をなさるのっ」
  827.  と、悲鳴に似た声をはり上げた。
  828.  静子夫人が悲鳴と同時に下腹部を激しくよじらせるとその両腿の附根をふっくらと覆い包む絹のような甘い感触の繊毛が荒々しくそよぎ、そそけ立って、その内側に秘めた桃の縦紡が露わとなり、その上辺にわずかにのぞく可憐な肉芽までが思いなしか眼に映じた感じになって森田は思わず生唾を呑みこむのだった。
  829. 「何をなさるの、はねえだろう。これからお医者様ごっこを始めるといってるじゃねえか」
  830.  と、森田は片頬を歪めていった。
  831. 「さ、いい子だから、少し、お核をモミモミさせてみな」
  832.  森田が再び、下腹部に迫ると静子夫人は、嫌ですっ、馬鹿な真似はよして下さいっと、くり返し、開張縛りにされた下半身をまた激しく悶えさえ、森田の指先を振り切ろうとする。
  833.  その時、廊下の方が急に騒がしくなった。
  834. 「誰だ」
  835.  森田は燃え立っている火に急に水をぶっかけられた思いで夫人の股間に近づけていた指を引き、顔を上げた。
  836.  もしや、救援者が♢♢観念の眼を閉ざそうとしていた静子夫人は一抹の希望を抱いてハッと大きく眼を開いた。
  837.  
  838.  
  839.  
  840. 第四章 華麗なる乱闘
  841.  
  842.     淫ら地獄
  843.  
  844.  襖を開けて入って来たのは葉桜団の銀子と朱美だった。
  845. 「桂子はマリ達がもうすぐ車で運んで来る事になっているよ」
  846.  銀子は川田にそう告げて夜具の上に人の字型に縛りつけられている全裸の静子夫人を眼にすると、
  847. 「ひゃ—、凄い恰好にされちまったわね、奥様」
  848.  といって朱美と一緒に笑いこけた。
  849. 「遠山夫人のあられもない大股開き。こんなポーズは御主人様だって見た事ないでしょうね」
  850.  銀子が揶揄するようにそういうと静子夫人は紅潮した顔面をさっと横へねじり、歯ぎしりして口惜し泣きするのだ。
  851. 「面白いわ、私達も助手に使って頂こうじゃないの」
  852.  これから田代社長達とお医者様ごっこするのだと川田に聞いて銀子は夜具の上に仰臥位につながれている夫人に身を寄せつけていく。
  853.  銀子と朱美が淫猥な笑いを口元に浮かべて接近して来ると静子夫人はぞっとして全身を硬化させ、激しく左右に首を振った。
  854. 「私達もお医者様ごっこの中に入れて頂くわ。ね、いいでしょう、奥様」
  855.  銀子が含み笑いしてそういうと静子夫人はぞっとする程の嫌悪感が生じ、
  856. 「傍へ寄らないでっ、あ、あなた達のようなけだものの玩具にだけは絶体になりたくないわ」
  857.  と、吐き出すようにいって狂気したように首を振った。
  858.  同性の手でいたぶりを受けるという事の屈辱感に静子夫人の神経が狂乱しそうになっている♢♢それを感じ取った川田は嗜虐的な快感に酔い痺れている。
  859. 「銀子達にそんな口をきくと仕返しがこわいよ、奥様」
  860.  あなたはこれから我々、男達だけじゃなく、女達の奴隷でもあるわけだ、と川田がいうと静子夫人は嫌っ嫌っと泣きじゃくりながら首を振った。
  861. 「ど、どこまで私を羞しめれば気がすむというの、ねえっ、川田さん」
  862.  静子夫人は川田の方へ泣き濡れた瞳を向け、口惜しげに歯を噛み鳴らしながらいった。
  863. 「私達をけだものだといったわね」
  864.  銀子はわざと陰険な口調になり、
  865. 「その高慢ちきな鼻をへし折ってやるわよ。こっちは、こんなものを用意して来てやったんだ」
  866.  と、手にしていた紙袋の中身を取り出した。
  867. 「これ、何だかわかる、奥様」
  868.  銀子の手にしているのは乾いた木の繊維を幾重にも巻きつかせたような奇妙な筒具であった。
  869. 「これはね、張形に質のいい肥後ずいきを巻きつかせたものなのよ。お医者ごっこには欠かせないお道具だって事がわかるでしょう」
  870.  銀子はその奇妙な筒具を静子夫人の鼻先へ押しつけるようにした。
  871.  その道具の意味がわかったのか、夫人は激しい狼狽を示し、顔面を忽ち紅潮させてさっとそれから眼をそらせる。
  872. 「そら、もう一本、小型のものもあるわ」
  873.  朱美は紙袋の中からやはり、ずいきを巻きつかせた細身の筒具を取り出し、これはお尻の穴を責め立てる道具なのよ、と笑い、それで静子夫人の真っ赤に火照った端正な頬をくすぐるのだった。
  874. 「この二本を前と後ろから同時に使ってヒイヒイ泣かせてやるわ」
  875.  銀子は朱美と顔を見合わせて笑い合った。
  876. 「その前に一度、奥様の女の部分の横造をくわしく調べさせて頂こうかしら」
  877.  そういって銀子と朱美はぴったりと開張縛りにつながれた夫人の裸身に寄り添っていく。
  878. 「ね、一度、私とキッスしてよ。レスビアンの味を奥様に教えてあげるわ」
  879.  銀子はそういって夫人の上体に身を寄せていき、夫人の紅潮した頼を両手で押さえこむようにした。
  880. 「嫌ですっ、馬鹿な真似はしないで下さいっ」
  881.  静子夫人は狂ったように首を振って銀子の押しつけて来た唇を必死になって振り払おうとするのだ。朱美はそれをおかしそうに見て、
  882. 「そんなに強情をはらず銀子姐さんに舌を吸って頂きな。そうすりゃ私が奥様のクリトリスの皮を優しくむいて差し上げますわよ」
  883.  と、声をかけ、夫人の下腹部にぴったり寄り添うと開股位につながれた両腿の中心の溶けるような柔らかさで生暖かく盛り上った漆黒の繊毛をゆるやかに掌で撫でさすった。
  884.  ヒイッと鋭い悲鳴が夫人の口から送り出た。朱美の指先がそこに触れた途端、左右に割れた夫人の両腿の筋肉はピーンと張り、腰部は強烈な嫌悪を示すように激しく左右に揺れ動いた。
  885.  男達はこの場はしばらく女達のお手並を拝見しようという魂胆なのか、揃ってニヤニヤ口元を歪めながら女達の行為を凝視している。女達の手でいたぶられる事に夫人が虫酸の走るような嫌悪感を露骨に示す事が川田も田代にとっ
  886. ても痛快なのだ。
  887.  逆上したように首を振って銀子の口吻をそらせ、割り開いた官能味のある両腿をのたうたせて朱美の指先をそらせようとする静子夫人。
  888. 「女の手で嬲られるなんて、ど、どうして、こんなみじめな思いを味わわなきゃならないの。ね、どうしてなの、川田さんっ」
  889.  静子夫人は川田にむしろ救いを求めるかのように激しい鳴咽の声と共に鋭く口走るのだ。
  890. 「甘ったれるんじゃないよ。こっちが優しく可愛がってやろうとしているのにその態度は何さ」
  891.  強い反撥を喰らった銀子はカッとしたように夫人の上気した頬に激しい平手打ちを喰らわせた。
  892. 「唇を合わせるのが、それ程、嫌なら下の唇を吸ってやるよ」
  893.  銀子はそのまま身をずらして夫人の下腹部へ狙った。
  894. 「ああっ、後生です、やめてっ」
  895.  銀子が両腿のスベスベした表皮にチュッチュッと熱い口吻を注ぎかけながら朱美と一緒にその薄絹に似た柔らかい繊毛を指先で撫で上げ、小高く盛り上った肉の丘を露わに晒させると夫人は激しく泣きじゃくり、口惜しげに奥歯を噛み鳴らした。
  896. 「さ、割れ目を大きく拡げてみな」
  897.  生暖かい繊毛をかき上げて女何の生々しい縦筋を霧わにさせた女二人はわざと残忍な言葉を吐き合って貝殻でも割るように指先を使ってその柔らかい女肉を押し拡げていく。
  898. 「ああっ」
  899.  と、静子夫人は呼吸も止まるばかりの屈辱感に艶っぽいうなじを大きく浮き立たせて悲痛な声をはり上げた。
  900. 「ちょっと川田さん、見物ばかりしていないで奥様の気分が乗るように、おっぱいでもモミモミしてあげてよ」
  901.  銀子はふと顔を上げて酔い痴れたようにつっ立ったまま女達の手管に見とれている男達に声をかけた。
  902.  ふっと我に返った川田は田代と森田に眼くばせを送った。
  903. 「下半身は女共に任せて社長と森田親分は奥様の上半身を愛撫して頂きましょうか」
  904.  と、川田にいわれて田代と森田は夫人の上体に左右から迫った。
  905.  田代は血走った眼つきになり、大きくのけぞらせている夫人の艶やかな首筋にも乳白色のしなやかな肩先にも、そして、真っ赤に上気した端正な頬にも、乱れ髪のもつれをかき分けるようにして熱っぽい口吻の雨を降らしまくった。
  906.  森田は麻縄に緊め上げられた夫人の情感のある柔軟な乳房を両手で柔らかく揉み上げ、花の蕾にも似た可憐な乳頭に唇をぴたりと押し当て甘く吸い上げたり、柔らかく歯で噛んだりをくり返す。
  907.  男達と女達の粘っこいいたぶりを上下から注ぎこまれて静子夫人は進退極まった感じとなり、同時に痛烈な嫌悪感と屈辱感と並行し、得体の知れぬ快感めいたものもこみ上げて来て奥歯を噛みしめながら悲痛なうめきを洩らすのだ。
  908. 「フフフ、可愛さ余って憎さが百倍とはこの事ね。うんといじめてやるわ。さ、奥の奥まで晒け出すのよ」
  909.  銀子は含み笑いしながら夫人の女の秘裂を指先を使って更に露わに押し拡げていく。新鮮な魚肉のように綺麗なピンク色に潤んだ花肉の層が生々しく盛り上ってくると銀子は、
  910. 「まあ、綺麗。まるで汚れを知らぬ乙女みたいにバラ色よ」
  911.  といって皮肉っぽく笑った。
  912. 「それに見事な上つき。社長の令夫人らしい貫禄があるわよ。クリトリスだって本当に御立派」
  913.  朱美もからかうようにそういいながら幾重にも畳みこまれた薄紅色の柔らかい襞の層を皮でもむくように一枚一枚押し拡げていくのだった。
  914.  野卑な同性の手でそんな卑猥ないたぶりを受ける♢♢静子夫人にとっては生まれて初めて味わう言語に絶する屈辱であった。ああっと鋭い悲鳴を上げ、汗の小粒を浮かべた富士額を苦しげに歪め、ただ、啼泣をくり返すだけだ。
  915.  両手両肢を緊縛されて一切の低抗を封じられてしまった素っ裸では悪魔達のいたぶりを甘受する以外、抗す術がない。鬼女達の眼前に自分のその部分が露わに晒け出されているのを感じた夫人はあまりの汚辱感に半ば気が遠くなりかけているのだが、森田に粘っこく乳房を掌と唇で愛撫され、田代の口吻を首筋にも肩先にも熱っぽく注ぎかけられて、抜き差しのならぬ被虐性の異様な快美感を知覚するようになる。
  916.  静子夫人が荒々しい喘ぎを洩らして、左右に割られた乳白色の両腿がすねて、もがくように大きく揺れ始めるのを眼にした銀子と朱美は、もうこっちのものだとばかり交互に指先を使って夫人のその熱い粘膜の内側深くまで淫靡に掻き立てるのだった。そして、もうその部分がじっとりと熱く樹液で濡れ始めているのを知覚すると二人は眼を見合わせて北叟笑んだ。
  917. 「何よ、嫌だとか、やめて、とか文句をつけたって、もうこんなに濡らしちゃってるじゃない」
  918. 「あら、クリトリスが勃起して来たわ。余程、気分が良くなってきたんでしょうね」
  919.  銀子と朱美は夫人のその薄い、ねっとりした襞に包みこまれた微妙な肉芽が次第に膨張し始めたのを眼にすると調子づいたように揶揄するのだ。
  920.  そんな女達の嘲笑に耐え切れず、静子夫人は真っ赤に火照った顔面を激しく揺さぶって号泣するのだ。
  921. 「まあ、社長の令夫人にしてはお行儀の悪い事。いくら気持がよくなったからって羞ずかしい蕾をこんなに固くさせてはっきりのぞかせる事ないじゃないの」
  922.  花肉の層が熱く熟すと同時に固く突起しはじめた微妙な肉芽を銀子は指裏でそっと押して再び、朱美と一緒に哄笑する。
  923.  静子夫人はそんな女達の淫虐ないたぶりと毒っぽい揶揄からいよいよ耐え切れなくなったのか、自分から身を投げるかのように執拗に唇を重ね合わせようとして身を乗り出して来る田代の唇にさっと顔を廻すようにしてぴったりと唇を合わせたのだ。
  924.  田代は無我夢中になって夫人の甘美な舌先を口中に引きこみ、抜き取るばかりの強さで強く吸い上げる。
  925.  静子夫人が遂に身も心も溶かされて屈伏したように田代の強く押して出る唇に唇を重ね合わせたのを眼にした銀子は、それではこっちも始めましようか、といってしなしなと切なげによじらせている夫人の官能味のある両腿をいきなり両手を使って支えこむようにした。
  926.  そして、その女の中心部、熱く熟した花肉の層を唇を使ってくすぐりながら固く突起した肉芽を口中に含み、これも抜き取るばかりの強さで吸い上げたのだ。その途端、開張縛りにされている夫人の全身は電流が通じたようにブルッと痙攣した。
  927.  
  928.  
  929.     羞恥責め
  930.  
  931.  二分か三分、充分に吸い上げた銀子が満足したように夫人の熱い樹液に濡れた唇を手の甲で拭いながら顔を起こすと、田代も口中に吸い上げていた夫人の舌先を解放したが、静子夫人はもう完全に放心忘我の状態に陥って半開きにした唇から舌先をのぞかせたまま荒々しく息づいている。
  932. 「どう、奥様。まだ私達が憎い? もうここまで来たなら仲よしになりましょうよ」
  933.  銀子が粘っこくそうささやきかけると静子夫人は真っ赤に上気した頬を横にねじって泣きじゃくるのだ。
  934. 「泣いてごまかしたって駄目よ。最高に気持がいいならいいと素直にいったらどうなのさ」
  935.  次に朱美が銀子に代って、さ、何から何まですっかり見てやるわ、と鼻唄まじりでいいながら両手の指先を使って再び、しどろに濡れた花襞を押し拡げ、腟口まではっきりと露出させてしまうのだ。そして、腟の周辺を舌でくすぐり花襞を閉ざす。突起した肉芽を舌先で小突くように愛撫しながらまた柔らかい花襞を押し拡げて同じ行為をくり返すのだ。
  936.  花襞を開かれたり、閉ざされたりのいたぶりを受けているうちに腟口も小陰唇も熱気を帯びて膨張していくのが川田の眼にもはっきり映じた。女の方が余程、淫虐に出来ていると川田も執拗極まる女の手管を見て舌を巻くのだ。
  937.  はい、開いて、はい、閉じて、と朱美が痛快そうにそんな行為をくり返すうち、露わに開花した鮭肉色の柔らかい花襞より焼けつくような熱い樹液がとめどもなく滴り流れてくるのだ。
  938. 「まあ、すっかり気分が乗って来たようね。こんなにたれ流して下さるとこっちもサービした甲斐があったというものだわ」
  939.  銀子は有頂天になっておびただしい愛液をしたたらせる静子夫人を凝視しているのだ。
  940. 「遠慮はいらないわ、奥様。もっと、もっと派手に熱いのをたれ流すのよ」
  941. 「これから、ずいき巻の張形で突きまくられるのでしょう。女の熱い愛液が多い程、ずいきの液がそれに溶け合って効果を発揮する事になるんだから」
  942.  悪女二人はそんな事を口にしながら交互に指先二本を静子夫人の熱く溶けた粘膜の内側に深く差し入れ、更に樹液を呼び寄せるために遮二無二、掻き立てるのだった。
  943. 「あっ、あっ」
  944.  と、静子夫人は断続的な悲鳴を上げ、緊縛された上半身を弓なりにして髪を大きく振り乱しながらひきつったような啼泣を洩らすのだ。
  945.  小刻みに粘っこく掻き立てる銀子の指先に夫人の熱く熟した襞の層がまるで水中の藻草のようにねっとりとからみついてくる。そして無意識のうちにその熱い肉層は銀子の二本の指先をギューと緊めつけるのだった。銀子は夫人のその異様なばかりに粘りがある、その緊縮力をはっきり指先に感じとると嬉しそうな表情をして夫人の乳房を吸い合っている田代と森田に声をかけた。
  946. 「川田さんのいう通り、この奥様は名器の持主だわ」
  947.  そう、俗にいうキンチャク、といって川田は笑った。
  948.  どれどれ、私にも試させてよ、と、朱美が銀子に代って指先二本を深々と差し入れ、さ、緊めつけて御覧、と命令するようにいって小刻みに指先を操作し始める。
  949.  銀子や朱美に対し、最初から激しい敵意と反撥を示した静子夫人だったが今は、女二人のそれに対する熱っぽい口吻や巧みな指さばきによって身も心もどろどろに溶かされている。完全に屈伏した感じで熱い愛液は女達の指先の技巧で汲み出されるままとなり、そら、しっかり緊めないか、と朱美に叱咤されると緊縮力を甘く発揮して朱美の深く差し入れた指先に熟した花肉をからみつかせ、ぐっと緊めつけるのだった。
  950. 「こりゃ驚いたわ。遠山財閥の社長令夫人がキンチャクだなんて」
  951.  朱美と銀子は顔を見合わせ、大口をあけて笑い出した。
  952.  突然、静子夫人は何かにおびえたように真っ赤に上気した顔面を左右に揺さぶった。一方の指先で固く突起した肉牙を軽く揉みほぐしながら、もう一方の指先を腟口深くに差し入れて銀子が改めて愛撫を開始した途端、静子夫人は、
  953. 「ああ、待って、銀子さん。もう私、耐えられないわ」
  954.  と、ひきつった声音で口走った。
  955. 「どうしたの、気をやりそうだというの」
  956.  銀子はクスクス笑いながらいった。
  957.  静子夫人は狼狽気味に涙に潤んだ眼を銀子に向け、さも羞ずかしげにうなずいて見せている。
  958. 「こ、これ以上、そんな事をされると私、この場で、ああ、そんな羞ずかしい目に合わせないで」
  959.  銀子に哀願する静子夫人を見て川田はこれで夫人と女達の間のしこりが消えたといったような愉快な気分になった。先程まで女達に示した夫人の強い反撥心は稀薄になり、一つの連結が生じようとしているではないか。
  960. 「あら、まだ気をやっちゃ駄目よ。今は奥様の名器の出来具合を調査している段楷よ」
  961.  と、銀子が顔を突き出すようにいうと朱美が、そうよ、と調子を合わせていった。
  962. 「調査が終ったら、ずいき巻を深く呑みこませてあげるわ。そいつを名器でしっかりと喰いしめ、こってりと気をやって見せるのよ」
  963.  悪女達は時には甘く出るかと思うとそんな風に急に残忍な口調になり、夫人の乱れた神経を更にズタズタに引き製こうとしている。
  964. 「じゃ、川田さん、そこの、ずいき巻をとって頂戴」
  965.  銀子が川田に向かって手を差しのべると静子夫人は激しく泣きじゃくりながら、嫌よ、嫌っと全身をよじらせて叫んだ。
  966. 「おい、一寸、待てよ」
  967.  と、田代が顔を上げていった。
  968. 「何もそんなものを使う事はないだろう。どうせ気をやらせるなら俺達の肉棒を喰い緊めた方が奥様だって御満足頂ける筈だ」
  969.  そんな、ずいき巻みたいなもの、ぶちこむのは大家の令夫人に対して失礼だぞ、といって田代は笑った。
  970.  奥様のその名器をじかに賞味したいものだ、と田代はいうのだ。
  971. 「フフフ、そりゃ無理ないでしょうね。こんなところまで眼にすれば奥様のこの膨らんだおマメと同様、社長のそこだって固くなった筈だわ」
  972.  銀子がそういうと、田代は、
  973. 「それどころか、もう押さえがきかない程、つっ立っているよ」
  974.  と、いって苦笑した。
  975.  そこへまた廊下の方で足音が聞こえた。
  976. 「マリ達だわ」
  977.  朱美が腰を上げて襖を開けた。
  978.  数人のズベ公達に、突き立てられるようにして部屋の中に入って来たのは桂子で、これも静子夫人同様、黒ずんだ麻縄で高手小手に縛りあげられ、口にはきびしく猿轡を噛まされていた。
  979. 「はほう、それが遠山の娘かい。なかなか可愛い娘じゃないか」
  980.  田代は、淫らな眼をしばたいて、震えている桂子を見る。
  981.  マリ達は、桂子を大きなリュックサックに詰めこみ、タクシーを雇ってここまで連れこんだ事を、説明するのだった。悦子は、ふと地獄の苦しみと戦っている静子夫人を見て、
  982. 「あら奥さん、すばらしい恰好にされているじゃないの」
  983.  川田がいった。
  984. 「残念だったね。もう少し早くお嬢さんが来りゃ、面白いものが見られたのに。まあ、いいや。とにかくお嬢さんも、ここへ坐らしな」
  985.  銀子と朱美が必死になって後ずさりをしようとする桂子を無理やり引きずって、田代が陣どっている隣へ、ぺたんと尻もちをつかせ身動きの出来ぬように素早く桂子の両足をあぐらに組ませ、交叉させた両足に縄をかけ、いわゆるあぐら縛りにしてしまった。
  986.  田代は、ニヤニヤ笑って、桂子の顔をうかがう。見てはならないものの前に無理やりひきすえられた桂子は、ハッとばかりに顔をそむける。すると、銀子や朱美が横手から、
  987. 「見なきゃ駄目だよ。本当のママじゃないとしても、あんたにとっちゃ、ママであることには、変りはないじゃないか。しっかり眼を開いて見るんだよ!」
  988.  と桂子の髪の毛をわしづかみにして、顔を正面に向けさせる。
  989.  彼等は静子夫人の羞恥が一層昂まる事を計算して、桂子にも哀れな浅ましい姿を目撃させようとするのである。
  990.  
  991.  
  992.  
  993. 第五章 救援者来たる
  994.  
  995.  
  996.     羞恥地獄
  997.  
  998.  ソバカスだらけの顔を歪めて、高笑いしながら、田代と森田は酒を汲み交わしている。酒の肴は、眼の前に、開張縛りにされた静子夫人とあぐら縛りにされた桂子であった。
  999.  男達は興奮がさめやらず、放心忘我状態の静子夫人を取り巻いて、数え唄の合唱などを始める。
  1000. 「京ちゃん、どうしたい。ずいぶん顔色がわるいよ」
  1001.  銀子は、今日、葉桜団に入団したばかりの京子が先程から部屋の片隅で、呆然としてつっ立っているのを気にしていった。
  1002. 「ハハハハ、初めて、こんなところを見たんだろ。それで驚いちまったのね」
  1003.  朱美は面白そうに笑った。
  1004.  京子は、うん、ちょっと驚いたわ、と何かをごまかしているように笑ったが、実際、驚くどころの騒ぎではなかった。私立探偵の山崎の命令で、ズベ公に化け、うまく葉桜団にもぐりこむことが出来た探偵秘書の京子であったが、遠山財闘の令夫人が日夜、このような淫虐な方法で嬲られていたとは夢にも思わなかった。
  1005. 「もうそのへんで、かんべんしてやったらどう。いくら美人だってその恰好はあんまり見られた図じゃないわ」
  1006.  京子がいうと、銀子も朱美も、それもそうだわね、と笑い出し、ハンカチにビールをかけて、それをしぼると、
  1007. 「かわいそうだから後始末をしたげるわ」
  1008.  と、まるで品物でもみがくように静子夫人の身体を拭くのだった。
  1009.  ようやく縄を解かれた夫人は、すぐには上体を起こせぬぐらいであったが、やがてその場に立膝をして自由になった両手を交叉するように胸を抱き、首を垂れて、すすり泣く。
  1010.  死ぬ程の恥ずかしい姿と浅ましい状態をここに居並ぶ愚連隊とズベ公たちにはっきり目撃されてしまった口惜しさと情けなさ。静子夫人は絹のように柔らかい黒髪を振りながら、やがて歯ぎしりして口惜し泣きをするのだ。
  1011.  ハッと顔をそむける夫人。再び、夫人の顔は耳の附根まで真っ赤になる。
  1012. 「さて、この後は田代社長としっかり腰を振り合って名器の証拠をお見せするんだよ」
  1013.  川田は、自分の浴びせる言葉を夫人がどのように辛く聞くか、その効果をたしかめるかのように、夫人の顔をのぞきこむようにしていう。
  1014. 「ああー」
  1015.  静子夫人は思わず両手で顔を覆って、俯伏してしまった。艶のある雪のように白い背中を震わせて鳴咽する静子夫人に、朱美もまた川田と調子を合わせて、嬲りだす。
  1016. 「おしとやかで、こんなきれいな顔をしているくせに、男達の前で堂々と何でも見せてしまうんだからね。この奥さんも大した度胸だよ」
  1017.  静子夫人は、ひときわ激しく泣き出した。見かねたように京子が、
  1018. 「姐さん達も、もういいかげんにかんにんしておやりよ。また、明日という事もあるじゃないか」
  1019.  すると、川田が、ふと顔をあげて京子を見ると声をかけた。
  1020. 「おや、お前、新顔だな」
  1021. 「ええ、京子といいます。どうぞよろしく」
  1022. 「なかなかハクイ顔してるじゃねえか。お前ならミス葉桜団てとこだぜ。年はいくつだ」
  1023. 「二十二です」
  1024. 「ふーん。待てよ、おめえ、どこかで見たことがあるようだ」
  1025.  京子は、ドキッとした。京子は、川田が遠山家の運転手であることに今、気がついたのだ。たしか、山崎と一緒に、運転する車に乗ったことがある。
  1026. 「他人の空似かも知れねえな。まあいいや。一つ、葉桜団のためにしっかりやってくんねえ」
  1027.  川田がそういったので、京子は、ほっとした。見破られたのではないかと血も凍る思いだった。
  1028. 「もういいだろう。川田、奥さんに縄をかけなよ」
  1029.  森田が、声をかける。
  1030.  へい、川田は縄を拾いあげると、静子夫人の背後に廻って、彼女の肩に手をかけ、ひっぺ返すように上体を起こさせると、
  1031. 「充分、休んだろう。さ、両手を後ろへ廻して」
  1032.  静子夫人は、抵抗する気力も失ったように固く眼を閉じて、両手を背中に廻す。
  1033. 「大分、素直になったようだな。大家の令夫人らしく、往生ぎわはきれいにすることだ」
  1034.  などと川田はいいながら、手に唾をして、静子夫人を、がっしりと後手に縛りあげていく。
  1035.  弾力のある大きな乳房が上下を麻縄にしめあげられて、くびれて更に一段と大きなものになった。
  1036.  森田と田代は、二人で何かニヤニヤ話し合っていたが、森田が大きくうなずいて、川田にいう。
  1037. 「今夜は、社長と俺とで、遠山夫人をたっぷり楽しませてあげることにしたよ。金を払えば、品物はこちらのものだ。おめえに異存はあるめえな」
  1038.  川田は、手を振りながら、
  1039. 「とんでもねえ。こっちも、そちらへお譲りしたからにゃ、そう何時までも、色男ぶっちゃいませんょ。煮て喰うなり、焼いて喰うなり旦那方のお好きなようになすって下さい」
  1040. 「よし、そうと決まったら、遠山夫人を社長の部屋へ運びな」
  1041. 「承知しやした。へっへへ、社長と親分が、今後とも深く交際する上に、つまり、今後はなんとか兄弟になるってわけですね」
  1042. 「はっははは、まあ、そういうわけだな」
  1043.  土地ブローカーの田代は、大きな太穀腹をゆすって笑った。
  1044.  ズベ公達は、ズベ公達で、酒の余興に桂子の浣腸を始めようとして、準備にかかり出している。猿轡を外された桂子は、金切声をあげて、ズベ公達の押さえつけようとする手の中で暴れるが、後手に縛りあげられている悲しさ。わっしょ、と担ぎあげられて、先程まで、静子夫人がされていたような浅ましい姿に縛りあげられていくのだった。
  1045. 「ママ、ママ! 助けて」
  1046.  静子夫人は、ハッと顔をあげ、
  1047. 「け、桂子さん」
  1048.  と悲痛な声をあげ、ズベ公達に手荒く縛りあげられていく桂子の方へ、身を乗り出そうとする。
  1049. 「おっと、勝手に動き出されちゃ困るぜ」
  1050.  川田は、静子夫人の縄尻を激しく引く。
  1051. 「奥さんは、これから社長と親分に、たっぷり可愛がって
  1052. もらうんだ」
  1053.  川田は、夫人の縄尻をしごいて立ち上らせ、
  1054. 「さ、歩きな」
  1055.  と夫人の盛り上った尻を足で押す。
  1056.  静子夫人は、がっくり首を落とし肩を震わせて、すすりあげながら、川田に引き立てられ廊下へ出て行くのだった。そのあとへ森田と田代はニヤニヤしながら、ついていく。
  1057.  
  1058.  
  1059.     観念の座
  1060.  
  1061.  田代の寝室は、二階の廊下を二つばかり曲がった、突き当たりにある部屋だった。
  1062. 「尻をもっと振って、景気よく歩いたらどうだい。遠山夫人」
  1063.  田代は、舌なめずりしながら、静子夫人の尻を、平手でぶった。そんな屈辱にあえぎながら静子夫人は、縛めの身をくの字に曲げて、消え入るように歩みつづける。恐ろしい田代の寝室へ、運びこまれるのを、一分でも一秒でも、遅らせたいという切ない、あがきであった。
  1064. 「さてと、ここだよ、奥さん」
  1065.  田代は部屋の前へ来ると、酔って、ふらふらする足を踏みしめながら、ポケットをさぐって鍵を取り出し、森田に渡す。森田は、それでドアを開け、
  1066. 「さあ、どうぞ、遠山夫人」
  1067.  と、おどけたポーズで、静子夫人の肩に手をかけ、中へ突き入れるのだった。
  1068.  よろよろと部屋の中へ入った静子夫人は慄えながら顔をあげるとそこは粋をこらした日本間作りになっていて、花梨の卓や屏風などが型通りに置かれてあるが、奥の一間が寝室になっていて、花模様の水色の布団が敷かれている。その奥は風呂場になっていた。
  1069.  田代と森田は、静子夫人を風呂場へ押しやる。白いタイル張りの大きな浴室に夫人を押しこんだ川田は、
  1070. 「社長と親分に身体のすみずみまで、よく洗ってもらいな」
  1071.  と、美しい顔を伏せて、小さく震えつづける夫人にいうのだった。
  1072. 「じゃ、親分、社長さん。どうぞ、ごゆっくり。わっしはその間にお床の支度、それに酒の支度も部屋えておきます」
  1073.  川田は、夫人の縄尻を田代に渡して愛想笑いをする。風呂は、先程からガスに点火されていたらしく、いい湯加減にわいていて浴室一杯、もうもうと蒸気が立ちこめていた。
  1074.  静子夫人は、後手に麻縄で手荒く緊縛された身を流しの隅に小さくかがめ、すすりあげている。
  1075.  田代と森田は、そんな静子夫人の姿を舌なめずりしながら、なめるように見つめていたが、やがて、二人共、口笛を吹きながら脱衣場で服を脱ぎ始めるのだった。
  1076.  静子夫人は、ああ、と浴槽のふちに頬を押しつけて、激しく泣きじゃくる。死ぬより辛い姿を野卑な男達の目にさらけ出し、そして、その次には、悪魔に等しい田代と森田に嬲られ尽くされるのだ。いっそ、ひと思いに彼等の手で殺される事を夫人は心より祈ったに違いない。後日、たとえ、官憲の手で救出される事になっても、もう自分は日の当たる場所には出られぬ身となっているのだ♢♢そう思うと夫人は遠山家に嫁いでからの月日が遠い遠い昔の出来事のような懐かしい思いにさえなってくるのだった。
  1077.  ガラリと浴室の開き戸が動いたので、夫人は、ほっと我にかえり太腿をぴったり密着させて小さく身をかがめる。服を脱いで裸になった田代と森田が入って来たのだ。
  1078. 「へっへへへ、奥さん、今日は俺達二人できれいに洗ってやるぜ」
  1079.  森田は、そんな事をいって、浴槽の湯を汲みあげると、ざあと立ったままで肩からかける。湯のしぶきが隅にうずくまっている静子夫人のところまでも激しく飛んでくる。田代は浴槽の中に肥満した体を沈めて、
  1080. 「ああ、いい湯だ。さあ、奥さん、遠慮せずに入って来な」
  1081.  静子夫人は、たまらなくなって立ち上り、浴室の外へ走り出そうとしたが、
  1082. 「おっと、何処へ行くんだ。あの部屋には、奥さんの怖がる川田がいるんだぜ」
  1083.  森田は、静子夫人のすべすべした両肩を後ろから押さえていった。
  1084. 「社長がお待ちかねだよ。さ、お風呂へ入って、社長によく洗って貰いな」
  1085.  森田は静子夫人の縄尻をひいて、浴槽の前まで押し立て、夫人を縄つきのまま、湯の中につけようとするのだ。
  1086. 「何せぐずぐずしているんだ。足を上げて、風呂桶をまたがなきゃ駄目じゃないか」
  1087.  森田は、浴槽の前につっ立ったまま、浴槽をまたごうとしない静子夫人に業を煮やして激しく夫人の尻を平手打ちした。静子夫人は真っ赤な顔をして、唇を噛みしめている。
  1088. 「ははは、社長。この奥さん、社長がそう正面から眼を皿のようにしているので、恥ずかしくて、足が上げられないのですよ」
  1089.  静子夫人は、森田にいわれて、一層、頬を紅潮させた。森田は、夫人の紅潮した美しい頬をつついて、夫人が口惜し泣きするのを、心地よげに聞きながら、静子夫人の身体を抱き上げようとする。
  1090. 「な、何をなさるの。やめて」
  1091.  田代も、手を貸して、遂に二人は静子夫人のはかない抵抗を無視して浴槽の中へ押しこんだ。もうもうと立ちのぼる湯気の中で、湯から顔を出している静子夫人と田代。そこへ、森田もジャプンと入って来る。
  1092. 「へへへ、社長。遠山の奴、自分の女房がここで、こんな具合に我々と一緒に風呂に入っているなんて夢にも思わぬでしょうね」
  1093.  森田がいうと、田代も顔中をくずして、
  1094. 「遠山には、これで充分、昔の恨みがはらせたってもんだ。あとで奥さんの茂みを少し剃り落とし遠山の野郎に、送ってやろうじゃないか。さぞ、びっくりする事だろうな。はははー」
  1095.  田代は、そういうと静子夫人の肩を両手でつかみ、自分の方へ向かせる。
  1096. 「奥さん、今夜は、この森田親分と一緒に、骨身にこたえるまで楽しませてあげるぜ。どれだけ泣こうとわめこうと、この部屋の外へは聞こえない。遠慮なしに悩ましい声を出しつづけな」
  1097.  田代は、夫人の艶っぽい首筋を手拭で洗いながらいうのだった。
  1098.  一切をあきらめたように顔を伏せ、田代のするがままになっている静子夫人の形のいい鼻をつまみあげ、鼻の穴掃除をやり始めた森田が、さも面白そうに冷かした。
  1099. 「鼻の穴掃除が終ったら、口の中から耳の穴の掃除もしてあげるからね。ふふふ、どうだい、遠山夫人。俺達も案外親切な男だろ」
  1100.  静子夫人は耳たぶまで朱に染め、再び鳴咽し始めた。
  1101.  
  1102.  
  1103.     京子の活躍
  1104.  
  1105.  京子は、この場を抜け出て、山崎に電話すべきか、それとも、静子夫人と桂子を危機から救出すべきか迷った。桂子の浣腸責めに酔っている葉桜団や森田組のやくざ達♢♢このすきに表へ飛び出せぬ事はない。
  1106.  山崎等に連絡をとる事もむつかしくはないが、しかし、彼等がここへ救出にかけつける間、二階へ連れて行かれている静子夫人は卑劣な男達によって、どんな目に合わされるか。生きる気力も失せるばかり、淫虐な法で嬲り抜かれることは、たしかだ。
  1107.  とにかく、一旦、静子夫人を危機から救わねば、と京子は決心し、そっと、その場から離れ、ドアを開けて廊下へ出た。
  1108.  二階へ上がると、赤い絨毯の敷かれた廊下が再び続い
  1109. て、いくつかの部屋がある。京子は、その一つ一つを開けては、部屋の中を調べて行った。この二階の部屋のどれかに静子夫人は、田代達に連れこまれ、新たな地獄図の中にのたうち廻っているのだと思うと、京子は胸が激しく動悸する。ひょっとしてもう手遅れで、静子夫人は彼等の犠牲になってしまったのではないかと思うと気が気ではない。
  1110.  奥様、どうぞ、無事でいて下さい。♢♢と京子は祈りたいような気持で、血眼になって、部屋から部屋へと、夫人の姿を探して歩く。
  1111.  一番奥まった部屋のドアを開けようとした時、ほっとし、体を硬くした。
  1112.  川田達の笑声が聞こえ、静子夫人の糸をひくような、すすり泣きの声が聞こえたのだ。
  1113.  京子は、息をのみ、そっとドアを開けて体を入れる。忍び足で、襖の隙間から田代の寝室をのぞいた。京子は、思わず、あっと声が出るほどだった。
  1114.  寝室の床の間の柱に静子夫人は光輝ある裸身を立ち縛りにされているのだが、無残にも、片足をロープで高々と吊り上げられている。夫人の一方の足首を縛ったロープが、なげしの釘につなぎ止められて夫人は、無理やり足を大きくふり上げた恰好に強制され、その浅ましいばかりの緊縛図を、田代と森田の寝酒の肴にされているのだった。
  1115.  田代と森田の機嫌をとるために静子夫人をそんな姿に縛りあげたのは川田である。川田は田代と森田の盃に酒を注ぎながら、卑屈にペコペコ頭を下げているのだ。
  1116.  田代は、充血した眼で、身も世もあらず羞恥にのたうっている静子夫人の柔肌を凝視し、
  1117. 「いい恰好だぜ、奥さん、御主人が見たら、何というかな。ふふふ」
  1118.  田代は、口を歪めて笑った。社交界の花形夫人とか絶世の美女とか賞賛の的になっていた遠山夫人が、今は、畜生のような浅ましい姿を眼前にさらし、田代と森田に嬲られ尽くすのを待っているのだ。
  1119. 「まるで、レビューガールが踊っているような恰好じゃないか。え、遠山夫人」
  1120.  森田が、ビールをラッパ飲みしながら、のっそりと立ち上り、足揚げ縛りにされている静子夫人の傍へ近づいて行く。
  1121.  静子夫人は、ほっと顔をあげると、吊り上げられた片足を必死にゆすって、
  1122. 「ち、近寄らないで! お願い、私に近寄らないで」
  1123.  森田は田代の方をニヤリと見て、
  1124. 「社長、さすがに令夫人だけあって、あんなにすさまじい目に遭いながら、まだ、初心なところがありますぜ。近寄っちゃ嫌だなんて吐かしやがる。こりゃもう一度、たっぷり責め直さなきゃ、今後の商売ものに使えなくなりますよ」
  1125.  田代は、成程といいながら、腰をあげ、激しく泣きじゃくり出した静子夫人の美しい頬を両手ではさんで、ぐいと正面を向かし、
  1126. 「ふふふ、奥さん、あれ位の事じゃつまんないので、そん
  1127. なに泣くんだろ」
  1128.  静子夫人は、喉元からこみあがってくるような口惜しさに、切長の瞳を固く閉じ、歯をキリキリと噛みしめるのだった。
  1129.  川田が、酔った足を危なげに踏みしめ立ち上ると、静子夫人に寄り添っている森田と田代にいう。
  1130. 「旦那方、あまり御婦人をじらすもんじゃありませんや。女ってものは身体を任した男にゃ温順になるもんです。それに、旦那方は、色の道にかけちゃお二人とも相当な腕前でしょう。二人がかりで本気で責めりゃ、いくら大家の令夫人でも、旦那方のいいなりの女になってしまうものですよ」
  1131.  川田は、静子夫人の吊り上げられた片足を見上げながら、
  1132. 「全く見事な肢だな。内腿の肉の盛りあがりようなんか、色気たっぷりだぜ」
  1133.  森田も田代も淫靡な眼をギラギラさせて、それを見ていたが、
  1134. 「そろそろ味見をする事にしましょうか、社長」
  1135.  森田が、田代の腕をつつく。
  1136. 「それじゃ、ここらあたりで邪魔者は退散する事にしましょう」
  1137.  川田は、意味ありげに笑って、部屋を出ようとしたが、ふと、床の間に足揚げ縛りにされている静子夫人に視線を向けて、
  1138. 「いいかい、遠山夫人。今夜は、社長と親分のお相手だ。お二人に嫌われないように充分満足をさせてあげるんだぜ」
  1139.  京子は、屏風の後ろに隠れて、息を殺して、この地獄図を見守っている。
  1140.  川田は、ふらふらする足どりで、京子の隠れている屏風
  1141. の前を通過し、ドアを開けて、廊下へ出ていった。京子は、ほっとして、再び、眼を彼等の寝室へ向けた。敵は二人である。それに彼等はかなり酔っぱらっている。
  1142.  女ながらも空手二段の腕前を持つ京子は、酒に酔った二人の男を打ち倒すぐらい、わけはなかった。足を忍ばせて、そっと京子は寝室へ入る。無残な姿に縛りつけられている静子夫人のあちこちをくすぐったりして、夫人に悲鳴をあげさせ、田代と森田は、夫人をいたぶる事に夢中になっていて、京子がこっそり入って来たのに気がつかない。二人は、ダニのように静子夫人の柔肌に喰いついているのだ。
  1143. 「な、何だ。お前は?」
  1144.  静子夫人の吊り上げられた足の裏をなめたり、くすぐったりしていた森田が、京子の姿を見て驚いた。夫人の見事な乳房を鑑賞していた田代も、ギョツとして、京子を見る。
  1145.  京子は答えるより先に、畳を蹴って、突進し、森田に当て身を喰わした。
  1146.  あっと声をあげて、森田が横転する。
  1147. 「何者だ、貴様は!」
  1148.  田代は、京子の顔面めがけて、狂烈なパンチを振るったが、京子が身を沈めたので大きく空振りしてしまい、体がくずれたところへ逆に京子の空手打ちを肩先に受けて、ギャーと声をあげ、その場にうずくまってしまった。
  1149. 「奥様、しっかりして下さい。私は山崎の秘書です」
  1150.  京子は、そういうやポケットから登山ナイフを取り出し、夫人の片足を吊り上げているロープを切り落とす。
  1151. 「あ、ありがとうございます。私、私♢♢」
  1152.  静子夫人は、救われたのだと思うと、急に胸がこみあげてきて、むせび泣いてしまう。
  1153.  京子は、静子夫人の背後に廻り、夫人を後手に縛った縄をナイフで切りほぐした。
  1154. 「辛かったでしょう。奥様、もう大丈夫ですわ」
  1155.  京子は、静子夫人を元気づけるようにいった。ようやく手足の自由を得た夫人は、歩こうとしてみたが、手も足も痺れて、すぐには動けず、その場にかがみこんでしまう。それに、こうした奈落の底から扱われると、全裸にされたままの自分が、救援者の前に一層恥ずかしく感じられるのだ。
  1156.  片手で乳房を覆いながら静子夫人は、腰を低くかがめて何か身につけるものを探し廻るのだった。田代と森田は、京子に打たれた個所を手で押さえ、獣のようにうめきながら、のたうっている。風呂あがりで二人とも揃いの浴衣を着ているので、京子は、そうだとばかり、二人からそれを剥ぎ取った。
  1157. 「畜生、何をしやがる」
  1158.  田代も森田も、浴衣を剥がれると丸裸であった。必死になって、起き上がろうとするのだが、京子の一撃がよほどこたえたらしく、のたうちつづけるだけだった。
  1159. 「さ、奥様、とにかくこれでも着てすぐにここから逃げましょう」
  1160.  京子に手渡された浴衣を静子夫人は急いで着た。身に布をつける事が出来たのだ。
  1161.  京子は、裸の田代と森田を、つい今しがたまで静子夫人に巻きついていた縄で、がんじがらめに縛りあげた。
  1162. 「おい、かんべんしてくれ、縛らんでくれ。俺達が悪かった」
  1163.  田代と森田は、意気地なく、許しを乞うて悲鳴をあげる。
  1164. 「何いってるのさ。奥様に死ぬより辛い思いをさせておきながら、泣声をよくあげられるもんだ」
  1165.  京子は、ナイフを手に持ちかえる。
  1166.  田代は、ギョツとして、助けてくれ! と大声をあげた。
  1167. 刺されると思ったのだ。
  1168. 「あわてるない。お前みたいな岨虫を殺したりなんかするものか。警察にひきわたす前にその気に喰わないチョビヒゲを剃り落としてやるんだよ」
  1169.  田代は、森田の後ろに身体を隠そうとしていざる。森田も、うろたえて、田代の後ろへ身を隠そうとするが、二人とも、後手に縛りあげられているので、思うように身が動かせない。
  1170. 「お前達が奥様にした事からみりゃ、こんなもの何でもないよ。さ、覚悟しな」
  1171.  京子は、田代の耳を引っ張って、彼を畳の上へ横転させると、胸の上へ馬乗りになって顔を押さえつけ、田代のチョビヒゲを、とうとう剃り落としてしまった。
  1172. 「さ、奥様も、こいつを蹴るなり、なぐるなり、少しでも恨みをはらして下さい」
  1173.  京子は、傍に呆然と立ちすくんでいる静子夫人にいった。夫人の美しい顔は、田代と森田に対する憎悪で、硬化する。この二人に受けた辱しめは、この二人を殺しても心がおさまるものではない。それに、まだ、それだけの仕打ちでは満足せず、この二人は、自分を二人がかりで犯そうとしたのだ。京子が、ここへかけつけて来なければ、自分は、この二人に、骨までしゃぶられていたかも知れないのである。そんな事を考えると、静子夫人は、口惜しさのため、火の玉のようなものが胸元にこみあがって来て、思わず、傍に落ちていた青竹を取りあげ、
  1174. 「貴方達は人間じゃない。けだものだわ」
  1175.  そう叫んで、いきなり、田代の腰のあたりに青竹を振りおろした。パシッと鈍い音がして、田代は、他愛もなく、悲鳴をあげる。
  1176. 「助けてくれ、奥さん。頼む」
  1177.  静子夫人は、美しい柳眉をキリリとあげ、なおも二発、三発、田代の体を青竹で撃つ。
  1178. 「さあ、奥様、ここから逃げ出しましょう。ぐずぐずしてはいられません。すぐに山崎さん達に連絡し、桂子さんを救出しましょう」
  1179.  京子は、静子夫人をせかして部屋を出る。
  1180. 「京子さん、何とお礼をいってよいやら♢♢貴女は私の命の恩人です」
  1181.  静子夫人は、京子の手を握るようにして、いう。
  1182. 「まだまだ安心は出来ません。ここは敵中です。私の後についてそっと歩いて釆て下さい」
  1183.  京子は、静子夫人の手を引きながら、足音を忍ばせて廊下をよぎり、階段を降りる。川田をはさんだ葉桜団のズベ公と、森田組のちんぴらやくざ達のドンチャカ騒ぎが聞こえてくる。
  1184.  ああいう連中に桂子は、どんな目に遭わされているのかと考えると静子夫人は気が気ではなかったが、桂子を助けるには一旦、自分達が、この地獄屋敷から逃げ出さねばならないのだ。
  1185.  階段を降りると、葉桜団が騒いでいる部屋の前をそっと素通りして、縁先から庭へ、二人は降り立った。この庭を突っ切れば裏門があるのだ。
  1186.  二人は顔を見合わせて、一気に走った。
  1187. 「あっ、京子じゃないか」
  1188.  誰か、後ろの縁先でどなる。ほっとして京子が振り返る
  1189. と、それは、葉桜団首領の銀子であった。
  1190. 「畜生、京子。お前、サツの廻しものだったんだね」
  1191.  銀子は、眼をつり上げると、次に声をはりあげた。
  1192. 「大変だ。京子が裏切ったよ。遠山夫人を連れて逃げようとしてるんだ!」
  1193.  京子は、静子夫人の手を引いて、かける。夫人の足が遅いのでいらいらする。
  1194. 「奥さん、早く早く」
  1195.  静子夫人も歯を喰いしばった表情で走ったが、何しろ、長い間の拘束、監禁生活だったので、足が思うように動かない。松の根につまずいて、夫人は地面に横転した。
  1196.  バタバタと追手の足が追ってくる。
  1197. 「奥様、早く、早く。今度、奴等につかまったら最後です。元気を出して下さい」
  1198.  京子は、夫人の身体を抱き起こしたが、その時すでに遅く、二人のまわりを葉桜団と森田組が取り囲んだ。
  1199. 「畜生、どうも、てめえは最初からくせえと思ってたんだ」
  1200.  川田は、京子の顔を睨んでいった。銀子も朱美も、怒ったように、
  1201. 「よくも私達をだましたわね。ここからは生きて帰さないわよ」
  1202.  飛出しナイフの刃をパチンと出して身がまえる。京子は、静子夫人を後ろにかばいながら、護身用のナイフを抜いてかまえた。
  1203.  あと一歩というところまで漕ぎつけて、彼等に発見されてしまった口惜しさに、京子は歯ぎしりする。こうなったら、やぷれかぷれだ。何とか血路を開いて、遠山夫人だけでも逃がさねばならないと京子は決心すると、裏門の方を固めている森田組のチンピラやくざに突進した。
  1204. 「あいて! やりゃがったな」
  1205.  やくざの一人が、手の甲を押さえて飛び下る。たかが女と見て飛びつこうとしたところを、いきなりナイフで払われたのだ。
  1206. 「この阿女」
  1207.  川田が、続いて飛びこんだが、脇腹を足で蹴りあげられ、ギャーと悲鳴をあげ、横へすっ飛んだ。
  1208. 「この阿女、空手を使うぞ。気をつけろ」
  1209.  やくざ達は、途端に京子に対して、警戒態勢をとり、遠巻きに囲んで、ナイフを逆手にじわじわと追っていく。
  1210.  京子は、小刻みに震える静子夫人を背後にかばいながら、必死な眼で周囲の敵を睨みつづけるのだった。
  1211.  
  1212.  
  1213.  
  1214. 第六章 救援の失敗
  1215.  
  1216.  
  1217.     逆転
  1218.  
  1219.  何とか血路を開こうと、京子は、やくざ達が固めている裏門に向かって突進した。
  1220. 「逃がしてたまるもんか」
  1221.  朱美と銀子がナイフを逆手に持って、京子と静子夫人を追った。二人にここから逃げ出されたりすれば、森田組も葉桜団も壊滅する事になる。逃げる方も必死なら、追う方も必死であった。
  1222.  京子に脇腹を蹴りあげられ、だらしなく庭石の上にうずくまっている川田は、苦しそうにあえぎながら、
  1223. 「その阿女は空手を使うぞ。皆んな要心しろよ。いいか、絶対ここから逃がすんじゃねえぞ」
  1224.  と、うなるようにいいつづける。
  1225.  そうした川田の注意も耳に入らず、銀子と朱美は、猪のように京子に突進して行き、結果、京子の空手打ちを二人とも、いやというはど、肩先に受けて、
  1226. 「ギャー」
  1227.  と怪鳥のような声をあげて横転してしまった。大手を拡げるようにして、裏口を囲めていたやくざ達も京子の勢いに、はじかれたように左右に散る。
  1228. 「さ、奥様、早く!」
  1229.  京子は、静子夫人の手を取るようにして、裏門を開けようとする。
  1230. 「おっと、そうはさせねえぜ」
  1231.  先程、京子にチョビヒゲを剃り落とされた田代が眼をつり上げてその場へかけつけて来たのだ。彼の手には不気味に黒く光る拳銃が握られている。
  1232.  京子は、ハッとして、静子夫人を背後にかばい、田代を睨む。
  1233.  庭石の上に、うずくまっている川田は、田代の拳銃を見ると、ほっとしたように、
  1234. 「社長、もうこうなりゃ面倒な事にならねえうちに、この二人を天国へ送ってしまいやしょう。さあ、ひと思いに引金をお引きなせえ」
  1235.  と、田代に、いう。
  1236. 「二人とも覚悟をしろ。一緒にお陀仏させてやる」
  1237.  田代は、京子と静子夫人に拳銃をつきつけた。
  1238. 「お前さん方、この二人の阿女をふん縛っておくんなさい。まだ、じたばたするようだったら、社長に始末をつけてもらう事にしようじゃありせんか」
  1239.  と、川田がいう。やくざ達は、合点だとばかり、麻縄を持って、京子と静子夫人に迫る。
  1240.  あと一歩というところで、京子は遂に身動きがとれなくなってしまったのだ。空手二投の腕前も、やはり、飛び道具の前にはどうしようもない。
  1241.  京子は、キリキリと歯を口惜しげに噛みしめながら、じわじわと追って来たやくざ達を見廻した。
  1242. 「やい、京子。どてっ腹に風穴を開けられたくねえなら、おとなしくお手々を、うしろへ廻すんだ」
  1243.  男達は、それでも恐る恐る京子の背をつつく。彼女の空手打ちがよほど怖いらしい。
  1244.  自分はとにかく静子夫人の命を救うためには、自分が一旦、彼等の言いなりになる外、仕方がないのだと悲痛な決心をした京子は、固く眼を閉ざして、両手を背後へ廻すのだった。
  1245. 「なかなか、往生ぎわがいいぜ」
  1246.  男達は、勢いこんで、京子の背後へ廻した両手首を、がっしり麻縄で縛り、余った縄尻を前へ廻して、ふっくらした胸の隆起をブラウスの上からしめあげる。空手を使うぶっそうな京子の両手の自由を奪えば、もう安心と男達は調子づいてきて、
  1247. 「今までの礼を充分返させてもらうぜ。さ、こっちへ来な」
  1248.  力一杯、京子の縄尻を引いた。
  1249. 「さて、奥さんの方も、お手々を後ろへ廻してもらおうか」
  1250.  静子夫人も救われたと思ったのも束の間で男達に肩や背をつつかれ、ベソをかいたような表情で、両手を後ろへ廻すのだった。
  1251. 「とっとと、歩くんだ」
  1252.  後手に縛りあげられた京子と静子夫人は、がっくり首を垂れるようにして、男達に引き立てられて行く。
  1253.  背を邪慳に突かれたり、腰を蹴られたりして二人は庭をよぎり、再び、縁先から、下へ押し立てられて行った。
  1254. 「二度と逃げられねえよう、地下室へしょっぴいていきな」
  1255.  体中、傷だらけの森田が、ちんばをひきながら廊下へ出て来て、やくざ達に指示する。
  1256.  廊下を二つばかり曲がったところで、突き当たった壁のボタンをやくざの一人が押すとギイーときしむ音がして、壁がスルスルと上方にはね上り、そのあとにポッカリ大きな穴が開いた。階段が下方へ続いている。
  1257. 「奥様の方は俺達に任せて頂こう。さっきの続きを始めなきゃ、お互いに身体に悪いからな」
  1258.  といって田代は川田の手から静子夫人の縄尻をひったくるように取り上げた。
  1259. 「俺と森田親分に煮え湯を呑ませた罰だ。朝までこってりいじめてあげるからね、奥様」
  1260.  と、いって田代は力一杯、静子夫人の縄尻をたぐった。足元をよろけさせる夫人のしなやかな肩先を横から森田が抱きすくめるようにして、
  1261. 「田代社長のいう通りだ。今夜は朝まで寝かせねえからな。こってりと油を絞ってやるぜ」
  1262.  と、口元を歪めていった。
  1263. 「京子姐さんの方は私達がヤキを入れてやるよ。葉桜団のこわさをたっぷり味わわせてやる」
  1264.  静子夫人は田代に縄尻をたぐられ、京子の方は銀子達に縄尻を引っ張られて右と左に分けられようとする。
  1265. 「ああっ、奥様っ」
  1266.  と、京子が口惜しげに歯ぎしりして田代達に連れ去られようとする静子夫人に悲痛な眼差しを向けた。
  1267. 「ああ、京子さん。私のために、あなたまでこんな事になって、許して」
  1268.  静子夫人は耐えられなくなったように泣きじゃくりながら叫んだ。
  1269. 「奥様。希望は失わないで下さい。必ず助けが来る筈です。耐えて下さい、奥様」
  1270.  声を慄わして静子夫人を勇気づける京子だったが、
  1271. 「うるさいんだよ。お前さんはとっとと地下へ降りりゃいいんだ」
  1272.  と、邪険にいって銀子は京子の黒髪をわしづかみにした。
  1273.  京子がズベ公達に連れこまれた地下室は片隅には密輸品らしい荷造りした箱が積み重ねてあった。土間の中央には木柱が二本並んで立ち、木製のベッド、それに天井の梁からは鎖が数本吊り下がり、如何にも拷問部屋といった不気味さが漂う地下室である。
  1274. 「よくもコケにしてくれたね。これから葉桜団のお仕置はどんなものか、骨の髄まで思い知らせてやるよ」
  1275.  朱美が凄んで見せると、連れこまれた場所が陰気な拷問部屋だけにさすがに気丈な京子も硬化した表情になるのだ。
  1276. 「これから、裁判にかけるんだ。森田組と葉桜団を壊滅させようとした大罪に対する判決はどうなるか。ふふ。……川田さんが、さしづめ検事というところだな」
  1277.  などといって、銀子は笑い出す。
  1278. 「裁判にかける前に、もう二度と逃げようなんて気の起こらないよう京子姐さんに素っ裸になって頂こうじゃないか」
  1279.  葉桜団長、銀子が川田に提案した。
  1280.  失美も、はしゃぐように、
  1281. 「男達が飛びかかってもかなわない京子姐さんの空手の腕前には感心したわ。どんな体つきをしているのか、後学のため、京子姐さんのヌードをしみじみ鑑賞したいものだわね」
  1282.  という。
  1283.  後手のまま、壁に背をつけて立たされている京子の顔に血がのぼった。
  1284. 「なるはど、お前達のいう通りだ。じゃ、京子姐さん、とにかく丸裸になってもらおうか」
  1285.  川田は口を歪めてそういうと、銀子と朱美に眼くばせをした。
  1286.  銀子に朱美、それに森田組のやくざ達が、自由のきかぬ京子の前につめ寄る。彼等の手が身に触れると、京子は電気を感じたように身体を震わせ、声をはりあげた。
  1287. 「何をするんだよ! け、けだもの」
  1288.  衣類を剥ごうと近づく銀子と朱美の、腰のあたりを京子は自由な足をばたつかせて、蹴り上げる。
  1289. 「あいて!」
  1290.  銀子は、嫌というほど横腹を蹴られ、顔をしかめて、その場にうずくまってしまった。
  1291. 「やったね、育生!」
  1292.  朱美が眼をつり上げて、ナイフを抜く。
  1293. 「まあ、待ちな」
  1294.  川田は興奮している朱美の手からナイフを取りあげた。
  1295. 「あわてちゃいけねえ。こんないい玉を何も急いで殺すこたあねえよ。まあ、俺に任せておきな」
  1296.  川田は、朱美から取りあげたナイフを手に持ちかえると、
  1297. 「ここへ静子夫人を連れこんで、あの鎖で逆さに吊り上げてやろうか」
  1298.  といった。
  1299. 「奥さんの悲鳴が聞きたくねえのなら、おとなしく、自分で着ているものを全部脱ぐんだな。おめえがその気になるまで、奥さんに歌ってもらうとしようぜ」
  1300.  川田は笑いながら、京子の頬をうかがった。
  1301.  京子は逆上したように、そんな事、絶対にさせるものか、と首を振っていった。
  1302.  朱美が、ニタリと口元をゆがめて、末子に近づき、耳元に口を寄せるようにしていった。
  1303. 「じゃ、京子姐さん。裸になる決心がついたというわけね」
  1304.  京子は、血の出るほど固く唇を噛み、眼を横へ伏せた。
  1305.  自分はどうなっても、静子夫人は、何とかして助けなければならないと、屈辱に身をふるわせながら、京子は悲痛な決心をしたのである。
  1306. 「そうこなくちゃいけねえ。さすがは、サツの廻しものだけあっていい度胸だぜ」
  1307.  川田は、満足そうにうなずき、京子の縄を解くように森田組の男達に命じた。
  1308. 「いいかい、妙な気を起こして、また暴れ出したりしやがると、奥さんの命はねえぞ。縄を解いてもらったら、おとなしく看ているものを全部、脱ぐんだ」
  1309.  と、浴びせるのだった。
  1310.  縄尻に結びついている鎖が解かれ、京子は朱美と銀子に縄尻を取られて、土間の中央にまで引き立てられる。それを森田組のやくざが取り囲み、いざという時にそなえる意味か手に木刀などを持っている。
  1311.  縄を解かれた京子は、口惜しげに川田の方を睨んだ。
  1312. 「ぐずぐずしねえで、早く脱がねえか」
  1313.  川田がそうどなると、京子は、眼を閉じて、ブラウスのボタンを外し始めた。口惜しさのため、ボタンを外す京子の指先が震えている。ブラウスを脱ぎ、京子はスカートのチャックをひいた。
  1314.  淫靡な眼で森田組のやくざ、葉桜団のズベ公が見守っている中で、京子は遂にスカートを脱ぎ、淡いブルーのスリップ姿となる。
  1315.  均整のとれた京子の肢体に、男達は、ごくりと、唾を呑みこむ。
  1316.  奇跡的にこの場へ救援者が現われる事を念じつつ、京子は、ゆっくりと網の靴下を脱いだが、どうしても、これ以上、野卑なやくざやズベ公の中で、裸身をさらす事はできず、そのまま、棒立ちになってしまう京子であった。
  1317. 「何してるのさ。早くスリップも脱がなきゃ駄目じゃないか」
  1318.  朱美が、後ろから、スリップ姿の京子の背をつつく。
  1319. 「もう少し、ここで奥さんの泣声が聞きてえのかい」
  1320.  川田も、意地悪く、京子に浴びせるのだった。
  1321.  顔を朱に染めながら、京子は、我が手で、スリップのたすきを外す。ブルーのスリップが、京子の体から下へすべり落ちると、それに合わせるようにして、京子も、その場にちぢこまってしまった。
  1322.  京子の身にあるのは、刺繍のほどこしてあるブラジャーと、水色のフリルのついた艶めかしいナイロンパンティの二つだけである。
  1323.  さすがの京子も、そうした屈辱の姿で、けものに等しい人間達の前に立つ勇気はなかった。立膝をして猿のようにちぢかんでしまった京子を、女達は互いに顔を見合わせ含み笑いをする。
  1324. 「なかなか、いい体をしているじゃねえか。ふふ……」
  1325.  川田は、眼をギラギラさせて、
  1326. 「さあ、思い切って、残っているものを、全部取るんだ。生まれたまんまの素っ裸になって葉桜団と森田組のお仕置を、たっぷり受けるんだ。ぐずぐずしやがると、奥さんはここで、傷だらけになっちまうぜ」
  1327.  男の一人が、そっと、京子の背後に寄って素早く京子のブラジャーのホックを外す。
  1328. 「な、何をするのよ」
  1329.  京子は、男の一人に、ブラジャーをいきなり剥ぎ取られ、耳たぶまで真っ赤にして、ブルンと飛び出した弾力のある乳房を必死になって、両手で覆った。
  1330.  どっと哄笑がわく。
  1331.  乳房を硬い、消えいるように立膝をしている京子の切長の美しい眼尻から屈辱の口惜し涙が一筋二筋、白い頬を伝わって流れるのであった。
  1332.  四囲に散乱している京子の衣類を棄桜団のズベ公達が奪い合うように取りあげた。京子に脱がさせたスカートを浅ましくも引っ張り合い、あたいが先にひったくったものだよ! とががなり合っているのもいる。
  1333. 「手前達、ガード下時代のくせが、まだなおらねえのか。うるせえぞ」
  1334.  川田は、大声をあげて、スカートの奪い合いをやっている女達を突き飛ばした。
  1335. 「ちえっ、あたいの分捕り品は、何もありゃしない」
  1336.  悦子が口をとがらす。捕虜の持物は、何でも奪い取って自分のものにするというのが、彼女達の常織であった。
  1337. 「心配するねえ。まだ、一つ、残ってらあ」
  1338.  と川田は、うずくまっている京子の方を顎でしゃくった。
  1339. 「さ、京子姐さん。こうなったら、いさぎよく最後の一枚も、すっぽり脱いでもらいましょうか」
  1340.  朱美が、小腰をかがめて屈辱にむせんでいるような京子のなめらかな背をつつく。
  1341.  ギクッと体を振るわせて、京子は、身を固くするのだった。
  1342.  胸の隆起といい、腰から肢にかけての曲線といい、男達の官能をしぴれさせるに充分な京子の肉体である。
  1343. 「いつまで手間をとらすんだ。往生ぎわが悪いぜ」
  1344.  川田が、どなる。
  1345. 「お願い、こ、これだけは、かんにんして」
  1346.  京子は、ベソをかきそうな顔になって川田に哀願の眼を向ける。
  1347. 「ふふふ、鉄火娘も、素っ裸にされるのは、よほど辛えようだな。だが、て前のしたことをよく考えてみろ。素っ裸になった事ぐれえじゃ俺達の腹の虫は納まらねえ。ぐうの音も出ねえように責めあげてやるから、さ、早く取ったり取ったり」
  1348.  と、川田は、心地よさそうにいったが、京子が頑なにパンティのゴムを片手でしっかりと押さえているのを見ると業を煮やして、
  1349. 「仕様がねえな。おい、皆んな、その阿女を縛り上げるんだ。自分で脱げねえなら、手伝ってやらなきゃしようがない。じたばたできねえように、がっちり縛るんだ」
  1350.  男達が麻縄を持って京子の背後へ廻った。
  1351.  片手で乳房を片手でパンティのゴムをしっかり押さえていた京子の両腕を、男達は強引に背後にねじ曲げようとする。
  1352. 「な、何をするのよ」
  1353.  京子は、狂ったようになって、男の一人を思わず、突き飛ばした。こんな姿のまま、縛られてしまえば、野卑な連中にどのような淫虐な方法で嬲られる事になるか、想像するだけでも気が違いそうになる。
  1354. 「やい、京子。まだ暴れる気なのか」
  1355.  と川田は、いらいらしたように、静子夫人をここに連れてこいと女達にいった。京子はほっとしたように顔を上げる。
  1356. 「おとなしく、両手を後ろへ廻すんだ」
  1357.  川田にせかされ、京子は、もうどうしようもなくなったようにがっくり首を垂れ、静かに乳房を覆っていた両手を解いて、背中に廻すのだった。京子に突き飛ばされた吉村というチンピラやくざが再び縄を取り、いらいらした目つきをして、京子が背後に廻した両手首をがっちり交錯させ、ひしひしと縄をかけていく。
  1358.  京子は一切をあきらめたように首を垂れ小さくすすりあげている。睫毛が涙で光っていた。
  1359. 「しゃんと胸を張るんだ」
  1360.  京子の両手を背後で厳重に縛り上げた吉村は、あまった縄尻をたぐりながら、京子のすべすべした白い背をつつく。
  1361.  観念したように京子は目を固く閉じたまま胸を張った。椀を伏せたような形のいい乳房の上下を縄はしめあげるようにかけられた。
  1362. 「ふふふ、ずいぶんと手間をとらせやがったな。もう、こっちのもんだ」
  1363.  川田は、やくざやズベ公達の手で、ひしひしと縄をかけられていく京子を楽しそうに眺めている。
  1364. 「さ、立つんだ」
  1365.  水色のナイロンパンティ一枚を許されただけの京子は、見事な胸の隆起をくびれるばかりに麻縄でしめあげられ、ズベ公達に強引に引き起こされる。
  1366.  天井から垂れ下っている鎖に再び房子を縛った縄尻はつなぎ止められる。
  1367.  無念そうに眼を閉じ、唇を固く噛みしめている京子の顔を小気味よさそうに見た朱美は、
  1368. 「少しは、思い知ったか。このイヌめ」
  1369.  というや、二、三発、京子の頬に平手打ちを喰わせる。
  1370. 「ま、待ちな」
  1371.  川田は止めに入った。
  1372. 「これだけの別嬪なら、商売ものとして充分通用するぜ。そんな風に手荒にしねえ方がいいだろう。きれいな身体に傷がついちゃ損だ」
  1373.  もっと、面白い責め方が、いくらでもあるじゃないか、と川田は意味ありげに朱美に、いうのだった。
  1374. 「成程、蹴ったりなぐったりの仕置じゃつまらないものね」
  1375.  
  1376.  
  1377.     嬲りもの
  1378.  
  1379.  鴨居から垂れ下がる鎖に縄尻をつながれてそこへ立たされている京子の周囲には、葉桜団の女達が腕組みなどして取り巻いている。京子の肌身に残っているのは淡い水色のパンティ一枚のみ、それでぴっちり覆い隠されている京子の腹部はムチムチと肉が実って官能味を盛り上げていた。麻縄を上下に教本、喰いこませた乳房もむっちりと熟れて椀型に形よく盛り上っている。
  1380. 「いいケツをしてやがるな」
  1381.  川田が京子の上半身から下半身に至るまでを粘っこい視線で見つめてから朱美に向かっていった。
  1382. 「もう観念出来たろう。京子姐さんのパンティを優しく脱がせてやんな」
  1383.  あいよ、と朱美が淫靡に笑って京子に近づき、腰をかがませて、たった一枚、腰部だけを覆うそれを剥がそうとすると、それまで観念したように固く眼を閉ざしていた京子の頭に血が昇った。
  1384. 「そ、そんな真似はさせないわっ」
  1385.  屈辱に耐え切れなくなった京子は片肢を跳ね上げて朱美の顔面を蹴ったのだ。
  1386.  あっと朱美は悲鳴を上げて後ろへ転倒した。
  1387. 「やりゃがったな」
  1388.  森田組の幹部やくざである吉沢と山削は先程から、女達が京子に対してどんな私刑を加えるのかとそれを楽しみにして煙草をふかせていたが、急にむっとした表情になって腰を上げた。
  1389.  哀れなのは朱美で、転倒して腰を強く打ったのと同時に鼻血が噴き上げて来たのに気づいて、びっくりし、次に声をあげて泣き出した。
  1390. 「鼻が曲がっちまったよ。きっと鼻の骨が折れたんだ」
  1391.  と、泣きわめく朱美の鼻血をハンカチで拭っていた銀子は、
  1392. 「大丈夫だよ。一寸、鼻血が出ただけなんだから」
  1393.  と、笑った。
  1394.  すると、朱美は忽ち京子に憎悪のこもった眼を向け、落ちていた青竹をつかむといきなり京子に打ちかかろうとする。
  1395. 「あわてる事はないよ、朱美」
  1396.  と、銀子は鬼女のような形相になって京子に襲いかかろうとする朱美を押さえにかかった。
  1397. 「この女だって商売ものになるかも知れないのだからね。肌に傷をつけるような折檻はしない方がいいよ」
  1398.  それより、面白いものを見つけたんだけどね、といって銀子はシャツのポケットから一枚の写真を取り出した。さっき、京子の衣類を剥がしにかかった時、見つけたものなんだけど、といって銀子は狡猾そうな表情になった。
  1399.  それはどこかの校門の前で撮ったものらしく、白いブラウスに黒のスカートをはいているのは京子だが、その隣には女子高校生らしいセーラー服姿の美少女が幸せそうな笑顔を見せて立っている。
  1400. 「ね、この可愛い女子高生、この京子の妹だよ。よく似ているものね」
  1401.  銀子はニヤリとしてその写真を緊縛された裸身を晒す京子の眼に近づけた。
  1402. 「これ、あんたの妹だろう」
  1403.  京子はふとそれに視線を向けると狼狽気味になって、
  1404. 「そ、それがどうしたっていうの」
  1405.  と、敵意のこもった眼差しを銀子に向けていった。
  1406. 「やっぱり妹さんなんだね。この学校には見覚えがあるわ。夕霧女子高校。女子高の中でも名門校じゃないの」
  1407. 「だ、だから、それがどうしたっていうのです」
  1408.  京子は銀子が何か恐ろしい事を考えているように思えて顔面を更に硬化させていくのだ。
  1409. 「誘拐してやろうと思っているのさ」
  1410.  急に威猛高になって銀子は顎を突き出すようにしていった。
  1411. 「な、何ですって」
  1412.  京子は眼をつり上げた。
  1413. 「こういう事にかけちゃ、仕事の上手な若い愚連隊連中がいるのよ。背広をぴっちり着こなせばいい所のボンボンに見えるような連中だから妹だって罠にかかると思うわ。お姉さんが急病になったとかいって自家用車に乗せて案内させる。校門の近くに待機させておき放課後を狙うわけよ」
  1414.  銀子がそういうと京子の顔面は恐ろしい位にひきつった。
  1415. 「美津子に何の関係があるんです。馬鹿な事はいわないでっ」
  1416.  と、京子がひきつった声音で毒づくようにいうと、
  1417. 「あら、美津子というのね。誘拐のヒントを教えてくれて有難う」
  1418.  と銀子は悦び、京子はハッとして口をつぐんだ。
  1419. 「ま、後は私達に任せておけばいいわ。朱美の顔面を足蹴りされたお礼に美津子を罠にかけりゃ、お前さんの前で散々、オモチャにしてやれるからね」
  1420.  京子が悲痛な顔つきになるのを痛快そうに見た川田は、
  1421. 「妹まで巻き添えを喰わされるのは嫌だろう。この連中はやるといったらほんとにやっちゃうんだからな。朱美に詫びな。二度と足で蹴ったりは致しません、と、素直に詫びを入れるんだよ」
  1422.  と、京子の耳元に口を寄せるようにしていった。
  1423. 「早く詫びねえか。素直に詫びを人れておかないと、とんでもない事になるぜ」
  1424.  川田は京子の顎に手をかけてぐいと京子の額面を上にこじ上げるようにしていった。
  1425.  京子の固く閉ざした眼尻からは糸をひくように口惜し涙が滴り落ちて形のいい頬を濡らしている。
  1426. 「二度と、今のような真似は致しません」
  1427.  唇をわなわな慄わせるようにしてそういった京子は、のけぞるように顔面を横に伏せて激しい嗚咽の声を洩らすのだった。
  1428.  京子が屈伏しそうになっているのに気づいた川田は調子に乗って、更に京子の耳にじを寄せていった。
  1429. 「♢♢女だてらに空手を使って、皆様に乱暴を働いた事を心よりお詫び致します」
  1430.  川田に教示された通りの言葉を口にした京子は再び、川田に何か耳元で言葉を吹きこまれるとブルッと緊縛された裸身を痙攣させた。
  1431. 「嫌よっ、そ、そんな事、いえないわ」
  1432. 「馬鹿だな。そんな事、別にどうって事はないじゃないか」
  1433.  足蹴にした朱美にそんな風に機嫌をとっておかないと後で何をされるかわからないぜ、と、川田は鼻の穴にチリ紙をつめたまま不快そうな顔になっている朱美を指さし、ゲラゲラ笑いながらいった。
  1434. 「どうしたんだい、妹の美津子を誘拐されてもいいのかい」
  1435.  と、銀子は急に凶暴な発作に見舞われたように朱美の手から青竹を取り上げ、縄尻を鎖につながれている京子の背後へ廻った。
  1436. 「何時までも手こずらせるんじゃないよ。往生ぎわの悪い女だね」
  1437.  銀子はわめくようにそういうと、京子の薄いパンティ一枚にぴっちり覆われた弾力性のある尻のふくらみへぴしりっと青竹をぶち当てた。
  1438. 「朱美さん、京子はあなたのお仕置を悦んで受けますわ」
  1439.  と、京子は泣きじゃくりながらカスレた声音でいった。
  1440. 「お、お願い。朱美さん。京子のパンティを脱がして。京子を素っ裸にしてから、うんとお仕置して」
  1441.  川田に強要された音楽を必死になって口にした京子は耐え切れなくなったように火照った顔面をのけぞらせるようにして号泣した。
  1442. 「フン、女のくせに空手なんぞ使いやがって。うんと吠面かかせてやるからね」
  1443.  朱美は口元を歪めて京子に近づくと腰をかがませ、京子のパンティに手をかけた。
  1444. 「ああー」
  1445.  京子は羞恥と汚辱に真っ赤に火照った顔面をさっとねじり、ガクガクと全身を慄わせたが、朱美は情け容赦なく、たった一枚、残ったそれをまるで皮でもむくように京子の白い脛のあたりまで一気にずり下げていった。
  1446.  遂に常わになった京子の下腹部。肉づきのいい滑らかな両腿の間には溶けるように淡くて繊細な茂みが柔らかい膨らみを作り、それをはっきりと眼にした朱美は溜飲の下がった思いで、ざまあ見ろ、と口走り、京子の足首にまでずり下げたパンティを外し取ると無雑作にポイっと後方へ投げ捨てた。
  1447.  遂に京子を丸裸にむき上げ、女の羞恥の源泉を露呈させた事も痛快だが、川田が情感を掻き立てられるのは、そんな哀れな姿にされた京子の息の根も止まるばかりの羞恥の悶えであった。
  1448.  真っ赤に火照った顔面を右へねじったり、左にそむけたりをくり返しながら両脇をすり合わせるようにしながら全身をよじらせてすすり泣く。男勝りの気性の激しい女だけに、野卑な男女のギラギラした視線の前に全裸を晒しものにされた口惜しさと羞ずかしさは言語に絶するものだと、それを感じると川田の嗜虐の情念は燃えさかるのだ。
  1449. 「さて、この女スパイをどういう風にいたぶる気なんだ」
  1450.  と、川田が聞くと、銀子は当然、葉桜団式私刑よ。まず茂みを剃り上げてマメ吊りにかけてやるわ、と含み笑いしながらいった。
  1451. 「それよりも浣腸して、絞り出させた臭いものを山崎探偵偵事務所へ送り届けてやろうじゃないの」
  1452.  と朱美がいった。京子が山崎探偵事務所からの廻し者だという事はもうズベ公達も気がついている。お前達、京子のクソでも喰らえ、と京子の排泄物を小包にして送り届けてやるんだ、と、朱美は奇抜な着想を自慢するように銀子達に告げた。
  1453. 「よし、そうと決まったら、朱美。顔を蹴り上げた腹いに思いきりこの女のケツをこいつでぶちのめしてやりな」
  1454.  銀子は青竹を朱美の手に渡した。
  1455.  朱美はすぐに京子の背後に廻ると、その盛り上った双臀をいきなり二発、三発と激しく青竹でぶちまくった。ピシッと肉の炸裂する小気味のいい音が響く。京子は、ううっと歯を喰いしばって耐えているのだ。
  1456. 「朱美に詫びな。詫びないか」
  1457.  と、まくし立てながら銀子は京子の涙に濡れた滑らかな頬をぴしゃりと平手打ちするのだ。
  1458. 「朱美さん、あ、あなたに暴力を振るった事、反省しています。許して、許して下さい」
  1459.  京子は女二人に尻をぶたれ、頬をぶたれながらひきつった声音で詫びの言葉を吐かされている。
  1460. 「どう、少しは気分がおさまったかい」
  1461.  と、銀子は京子の双臀を青竹で叩き続け、フウフウ息をきらせている朱美に声をかけた。
  1462.  
  1463.  
  1464.  
  1465. 第七章 餓狼の好餌
  1466.  
  1467.  
  1468.     私刑
  1469.  
  1470. 「これ位じゃ腹の虫が収らないよ」
  1471.  といって青竹を投げ出した朱美は前面に廻ると、腰をかがませて京子の両腿の附根を潔く覆い包むような繊細で柔らかい茂みを指でつまんだ。羞恥と屈辱に歪んだ顔面を京子は横へねじり、血の出る程、固く唇を噛みしめている。
  1472. 「これから葉桜団式の私刑を徹底して教えてやるよ。俎台の上に乗せあげてからまずこの茂みを剃り上げ、割れ目をむき身にさせて、お核の糸吊り、貝柱の生作り」
  1473.  朱美はそういって銀子と顔を見合わせゲラゲラ笑い合った。
  1474. 「あんたみたいな空手使いの鉄火娘を責めるのは、ケツをぶったりしたって大して効果はないからね。やっぱり、マンコ責めが面白いのじゃない」
  1475.  銀子がそういうとやくざ達は、そうだ、そうだ、と手を叩いて囃し立てた。
  1476.  ズベ公達にそうした残忍な言葉を浴びせられた京子はさすがに顔面より血の気が失せ、ショックの色は隠せない。
  1477. 「私、本当に反省していますわ。ぶつなと、蹴るなと、気のすむようにして」
  1478.  でも、そんな淫らな真似だけは許して、と京子は叫びたかったのだが、声にはならなかった。
  1479. 「駄目よ、気が狂う程、羞ずかしい目に合わせてやるわ」
  1480.  銀子はそういって京子の乳色のスベスベした両腿の附根に悪戯っぽい眼を向けた。その部分の淡い溶けるような悩ましい繊毛が恐怖のためかフルフルと小刻みに慄えているかに感じとれ、銀子は嗜虐の悦びに酔い痴れて、
  1481. 「さ、支度にかかりな」
  1482.  と、仲間達に命令するようにいった。
  1483.  朱美のいう俎台というのは木製のベッドの事であるらしく、義子とマリは鎖につないであった京子の縄尻を外しとると、すぐに京子をベッドにつなぐべく引き立てて行こうとする。
  1484.  京子は義子やマリに縄尻をとられ、肩先を小突かれて二、三歩、よろめくように歩いたが、急にぞっとするような恐怖がこみ上げて腰くだけになったようにその場に跪いてしまうのだった。
  1485.  木製のベッドの真上には鴨居が複雑に入り組んで、幾つかの滑車が並び、細い鎖が何本か不気味に垂れ下がっている。ふと、それに眼を向けた京子は得体の知れぬ恐怖がまたこみ上げて来て緊縛された裸身を小刻みに慄わせているのだ。
  1486.  ベッドの上に乗っかったやくざの一人が銀子に指示されて滑車の一つに何か細工をほどこしている。
  1487. 「タコ糸をつないでいるのよ」
  1488.  と、マリが京子の恐怖と屈辱に硬化した横顔を楽しそうに見つめながらいった。
  1489. 「あれが葉桜団の編み出した女泣かせの私刑や、つまり、マメ吊りの刑」
  1490.  と、義子が笑いながらいった。揉み上げて突起したクリトリスにあのタコ糸をつなぎ、滑車で吊り上げ、それに樹脂を塗りたくってヒイヒイ泣かせてやるってわけ、悦子がそういって京子の硬化した頬を指で小突くと、京子は戦慄したように縮ませた裸身を痙攣させた。
  1491. 「悪魔でも、考えつかないような拷問だわ」
  1492.  と、京子が口惜しげに歯ぎしりしていうと、
  1493. 「そう。葉桜団は悪魔よりもこわいって事を思い知って頂くわけよ」
  1494.  と、銀子がせせら笑っていった。
  1495. 「あれだけ暴れ廻って男にも女にも、あなた、空手打ちを喰わしたじゃないの。それ位の私刑を受けるのは当然でしょう」
  1496.  と、いった銀子は次に、ねえ、と、淫靡に笑って京子の傍に身を寄せつけていく。
  1497. 「浣腸を先にする? それとも、毛剃りしてすぐにマメ吊りにしてもらう? どっちを先にするか、あなたに選ばせてあげるわ」
  1498.  どこまで淫虐に出来ているのか、わざとそんな質問をしてくる銀子に京子はぞーっとした嫌悪感を感じるのだ。
  1499. 「ねえ、どっちを先にするのよ」
  1500.  と、粘っこく肩先を抱くようにしてつめ寄って来る銀子に対して、耐えようのないおぞましさを感じながら京子は反撥するようにいった。
  1501. 「ど、どっちでもいいじゃないの。好きなようにすればいいわ」
  1502.  と、吐き出すようにいった京子は再び、乳色の肩先を激しく慄わせて号泣するのだった。
  1503. 「何もそんなに自棄になる事はないじゃないの。空手のお姐さんがそんなに泣くなんてみっともないわよ」
  1504.  銀子はハンカチを取り出して、そんなに泣くと綺麗な顔が汚れちゃうじゃない。と、楽しそうにいいながら京子の涙に濡れた頬を拭い出し、次にキッとした表情をやくざの吉沢と山田に向けた。
  1505. 「さ、京子姐さんも覚悟したようだわ。俎台の上に乗せて開張縛りに仕上げて頂戴」
  1506.  よしきた、とばかり、吉沢と山田は左右から京子の柔軟な肩先に手をかけて、どっこいしょ、とばかり強引に引き起こした。
  1507.  京子はズベ公達の淫虐な言葉のいたぶりで神経が麻痺してしまったのか、引き立てられ、おぞましい木製の古びたベッドの前に立たされても空虚な眼差しをぼんやり前に向けているだけだ。
  1508.  吉沢と山田、それに義子やマリが手伝って、よっこらしょ、と京子の緊縛された裸身を横抱きにし、ベッドの上へ仰臥位に乗せ上げているのを、少し離れた所から川田は浮き立つような気持で眺めている。ゆっくりと煙草の煙を吐き上げながら、これで女スパイの一件はめでたく落着したという痛快な気分を川田は味わっている。すると、急に静子夫人が恋しく思い出されるのだ。恐らく今頃は田代と森田の二人にからみつかれて田楽刺しのくり返しにのたうち廻っているかも知れない。嫉妬めいた気持がこみ上げて来た。あの女を一度でも抱いた男はもうあの女の甘美な肉の味わいに有頂天となり、のめり込んでいくに違いない。田代も森田も恐らく静子夫人の美貌とあの肉体のすばらしさに酔い痴れて我を忘れてしまうのではないか。そんな事を川田はぼんやりと考えている。
  1509. 「さ、京子姐さん、アンヨを大きく開いて頂きましょうか」
  1510.  銀子の勝ち誇ったような声が聞こえてきた。
  1511.  寝台の上に緊縛された裸身を仰臥位につながれた京子の両肢に女達の手が一斉にかかったようだ。痩台の下辺の両側には皮ベルトが取りつけてあり、それに京子の下肢を割ってつなごうとし、女達はお祭り騒ぎみたいにはしゃぎながら京子の下腹部にからみついているのだ。
  1512. 「川田さん、何をぼんやりしてるのよ。これからこの美人スパイの御開張よ。お核を吊り上げられてベソをかく女スパイを見物しないの」
  1513.  と、銀子に声をかけられた川田は煙草を土間に捨てて拷問台の方へ近づいていく。
  1514.  悶え揺れる京子の両肢に左右から女達の手がかかっている。京子の緊縛されたしなやかな裸身は台の上でのたうち、麻縄を上下に巻きつかせた形のいい乳房は激しく波打っているのだ。
  1515. 「そーら、御開張だ」
  1516.  左右から女達の手でぐっとたぐられた京子の伸びやかな両肢は滑らかで艶っぽい内腿を見せて扇を開くように左右へ大きく割れていく。
  1517.  毛穴から血が吹き出すばかりの屈辱感に京子は大きくうなじをのけぞらせて、ああっ、と悲痛なうめきを洩らした。
  1518. 「何が、ああ、だよ。空手で大暴れした、はねっ返り姐さんがみっともない声を出すんじゃないよ」
  1519.  と、ズベ公達は哄笑して引き絞った京子の足首をそれぞれ皮ベルトに素早くつなぎ止めるのだった。
  1520. 「こうして両足をつないでしまえば得意の空手蹴りも通用しないわね。これなら安心してこっちも料理が出来るってものだわ」
  1521.  と、銀子がいった。
  1522.  
  1523.  
  1524.     淫虐魔
  1525.  
  1526.  京子のその両腿は削いだように左右に割り裂かれたために附根に膨らむ淡い繊毛はふっくらと浮き上り、その奥に秘めた亀裂が薄く透けて見え、それに気づいた銀子達は遂にじゃじゃ馬娘をこんなあられもない肢体に縛りつける事の出来た悦びで調子づき、歯を喰いしばって屈辱に耐えている京子を揶揄しまくるのだ。
  1527. 「さて、一度、朱美の手で割れ口を拡げて頂きながら改めて朱美に詫びを入れるんだよ」
  1528.  と、銀子は浮き立つ京子の柔らかい繊毛を指でつまみながらいった。
  1529. 「こ、これ以上、どう詫びれば気がすむというの」
  1530.  京子は度重なる銀子のねちっこい言葉のいたぶりに我慢が出来ず、人の字型に縛りつけられた裸身を激しくよじらせて反撥するように口走った。
  1531. 「こんな風に言って頂こうか」
  1532.  と横から川田が口を出した。
  1533. 「これから二度と空手なんかを使わない優しい女に生まれ変ります、というのだ。そして、茂みを剃り、はっきり割れ目を晒させて京子が女である事を証明させてほしいと朱美に頼むんだよ」
  1534.  川田がそういうと悪女達はキャッキャッと笑いこけ、京子は屈辱に歪んだ顔面をねじってむせび泣いた。
  1535. 「いいか、素直に詫びを入れて、朱美の手で茂みを剃ってもらったら、観念してマメ吊りのお仕置を受けるんだ。ここでまた手こずらせるような事をしやがったら明日にでも美津子を誘拐するからな」
  1536.  川田は肩先を慄わせて鳴咽する京子におどしをかけてから銀子を手招きして、
  1537. 「一寸、静子夫人の方の様子が気になるんで社長の寝室をのぞいてくるよ」
  1538.  といった。
  1539. 「へえ、妬きもちかい」
  1540. 「そうじゃないよ」
  1541.  こっちは金で譲り渡した女なんだから未練はないが、と川田は苦笑して、
  1542. 「もし、静子奥様がまた駄々をこねたりして田代社長や森田親分を手こずらせているんじゃないかと気になるんだ。こっちの責任にもなるからな」
  1543.  といった時、京子の狂おしげなうめきが川田の耳に入ってきた。
  1544.  朱美が京子の溶けるように柔らかい繊毛を指先でかき分けるようにしてその内側の柔らかい襞の肉層を開花させようとしているのだ。
  1545. 「やくざ連中に暴力を使うような女のここはどうなっているのか、一寸、奥の方まで調べさせて頂くわよ」
  1546.  京子に顔面を足蹴にされた朱美はその恨みを晴らすつもりで指先を粘っこく使いながらピンク色に息づく花襞の層を露わに押し拡げていくのだ。京子は、ああっ、とせっぱつまった悲鳴をあげ、うなじを大きくのけぞらせ、ギューと苦しげに眉をしかめている。
  1547. 「さっき、鼻柱を足で蹴られた私の痛さにくらべりゃ、これ位、何さ。むしろ、気分がいいのじゃないの」
  1548.  朱美は更に自分に残忍な気持をけしかけながら両の親指で襞を押し拡げ、あんたも静子夫人と同じで見事な上つきね。それに色合も綺麗だし、あまり、ここは御使用になっていないようね、と、からかうのだった。そして、朱美の指の操作によって、薄い襞の間より桜貝にも似た可憐な蕾がさも羞ずかしげにかすかにのぞき出たのを眼にすると、
  1549. 「あら、可愛いわ。とても空手を使うお姐さんのクリトリスとは思えない」
  1550.  といって朱美はタスクス笑った。
  1551. 「でもさ、足で蹴りたくなる程の憎い朱美の眼に、こんな羞ずかしいものをはっきりのぞかせていいの、京子姐さん」
  1552.  と、銀子が片頬を歪めながら揶揄してその花の蕾を指裏で軽く押すと、開張縛りにされている京子の白い内腿の筋肉がブルっと電気に触れたように痙攣した。
  1553. 「あら、とても敏感そうね。糸吊りにする値打があるわ」
  1554.  京子は泣き濡れた眼を急に開いて銀子を見た。
  1555. 「嬲りものにするなら早くやったらどうなの。そ、そんなネチネチしたあなた達の言葉が私、耐えられないのよ」
  1556.  と、口走った京子はすぐに火照った顔面を横へねじり、乳色の肩先を慄わせて口惜しげに歯を噛み鳴らすのだ。
  1557.  京子が耐えようのない屈辱感に神経まで攪乱され、捨鉢の反撥を示したのだが、そうなればむしろ嗜虐魔にとっては反応を得たようなもので張合いを感じるのだ。
  1558. 「何さ、こんな羞ずかしいものまでのぞかせながら生意気いうんじゃないよ」
  1559.  と、朱美はいきなり指先でその微妙な肉芽をつまみ上げ、左右によじらせて京子に昂ぶった悲鳴を上げさせる。
  1560. 「それじゃ、お望み通り、お仕置を開始してあげるよ」
  1561.  まず、ここの茂みを綺麗に剃らなくちゃね、と、銀子は京子のその薄絹のような柔らかい繊毛を掌で撫で上げるようにしてから吉沢に、
  1562. 「すまないけど、石鹸に水、それに剃刀の用意をしてくれないかしら」
  1563.  と、注文した。
  1564.  そして、屈辱と汚辱に泣きじゃくっている京子の熱い頬を指ではじくようにして、
  1565. 「まだ剃刀なんかで剃り上げてもらえるなんて幸せな方だよ。これがズベ公仲間ともなると毛焼きされるんだから。ローソクの火なんかでジリジリ焼かれるなんてたまったものじゃないからね」
  1566.  といった。
  1567. 「あんたが美人だから毛焼きの刑は特別勘弁してあげたのさ。それに感謝してもう少し柔順にならなきゃ駄目だよ」
  1568.  私達はこれからあんたを殿方に好かれる色っぽくて情のある女として磨きにかけるんだから、と銀子はいった。更に銀子は何かにとり憑かれたように嗜虐の情念に酔ってしゃべり続けて、
  1569. 「そして、朱美の手で綺麗に茂みを剃ってもらったら、朱美お姐さん、有雑う、と、礼の言楽ぐらい吐かなきゃ駄目さ。さっきは本当に乱暴してごめんなさいね、と、朱美にそこで柔順に謝ったりすると朱美だって御機嫌が治るっていうものさ。朱美がクリトリスを吊るために糸を巻こうとしたら、私、お姐さまに乱暴したんだから羞ずかしいけど我慢するわ、なんていってごらん。朱美は悦んじゃって糸をかける前におマメの皮を優しくむいてくれるかも知れないわよ」
  1570.  といって甲高い声で笑いつづけたが、そんな銀子にはっきりと狂気を感じた京子は鳥肌が立つような恐怖を感じるのだった。
  1571.  
  1572.  
  1573.     淫鬼の情事
  1574.  
  1575.  川田は二階の廊下を一つ曲がった所にある田代の部屋に向かった。
  1576.  襖を軽くノックすると、誰だ、と内側で声を発したのは田代である。
  1577.  川田は襖越しに愛想笑いして、
  1578. 「川田ですよ。そちらの様子は順調にいってるか、どうか、一寸、気がかりになりましてね」
  1579.  というと、「ま、入れよ」と、田代はいった。
  1580. 「あの、お取り込み中ならまた、後で出直して参りますが」
  1581. 「遠慮するなよ」
  1582.  襖が開いて田代が顔を見せた。
  1583.  田代は全裸のませで肩先に浴衣をひょいとひっかけただけなので川田は呆然とした顔つきになった。
  1584.  緑なし眼鏡をかけた田代ののっぺりした顔はポーと上気している。
  1585. 「今、森田親分と交代したところだ。ま、こっちへ来い。見物させてやる」
  1586.  田代がそういうので川田はそわそわした気分で田代の後につき、二間続きになっている座敷へ入って行く。
  1587.  一歩、中へ足を踏み入れた川田はギョッとした。
  1588.  八畳の日本間だが、枕もシーツも飛び散っている中の乱れた夜具の中で森田と静子夫人のからみ合いが演じられているのだ。
  1589.  乱れた夜具の上にあぐらを組むようにしてでんと腰を落としている全裸の森田の膝の上に、後手に縛られたままの素っ裸の夫人が両腿を大きく割った形で乗っかり、こちらに茹で卵の白味のような粘りのある双臀を見せ、その量感のある双臀をゆるやかにうねらせながら森田の腰の動きに合わせているのだ。
  1590.  森田は自分の膝に乗せ上げた静子夫人の官能味豊かな双臀に手を廻してしっかり支え、もう一方の手で夫人の背中の中程で縛り合わされている華奢な両手首を押さえこみながら自分の方へ引きこんだり、離したりをくり返しているのだ。
  1591.  森田は田代に連れられて部屋に入って来た川田を見ると、よ、とばかり、顎を突き上げるようにして笑って見せた。
  1592.  森田も闖入者に対して別に不快がる様子はなく、むしろ、歓迎しているかに見える。
  1593. 「ま、ここに坐って一杯やりながら見物しろよ」
  1594.  と、田代は片隅の串の前に川田を坐らせようとする。串の上にはビールや銚子が乱雑に北べてあった。
  1595.  さ、一杯、いこ、と田代に酒をすすめられても川田は手にした盃を田代の方に向けたまま、眼は夜具の上で座位型で情交を演じている二人の方に釘づけになっている。
  1596.  森田の全身に刺青した赤銅色の肌と静子夫人の雪を溶かしたような艶やかな裸身がその部分をぴったり一つに連結させて座位型につながっている。それは川田の眼に墨と雪といった皮肉っぽい対比を感じさせ、また、異様な光景として映るのだ。
  1597.  森田の腰の動きに合わせてゆるやかに、また、急に激しく量感のある双臀で弧を描くようにして腰部を揺さぶる夫人は、ああっ、ああっと熱っぽく喘ぎ、乱れ髪を煙のようにもつれさせた上気した片頬を森田の頬に荒々しくすりつけている静子夫人を眼にして、川田はもうすでにここまで来てしまったかといった物哀しい気持を味わっている。一つの美術品を無残に破壊してしまった後悔めいた気持と、森田が唇を求めればためらわず森田と唇を重ね合わせている静子夫人をそこに見て、川田は狂おしい嫉妬を感じるのだ。
  1598.  自棄になったように一息に盃の酒を飲み干した川田に田代は、
  1599. 「これで森田親分と俺はめでたく穴兄弟の契りを結んだってわけだ。それにしても、あれだけの美人にしてすばらしい肉体、そして、名器の持主。あんないい女を世話してくれたお前に俺は大いに感謝するよ」
  1600.  と、田代は川田の肩を叩いて笑った。
  1601. 「お試しになってみて、如何がでしたか。味の方は」
  1602.  と、川田はわざと皮肉っぽい微笑を口元に浮かばせていった。
  1603. 「最高だよ」
  1604.  と、田代は顔面、しわだらけにくずしていった。そして、心根の優しさまでが気にいった、と田代は川田の耳に口を寄せるようにして低い声でいった。
  1605. 「自分はもうどうされてもかまわないから、自分を救出しょうとして捕まった京子さんにはどうか手荒な真似はしないでほしい、と、俺達に泣いて頼むんだ。それは奥様次第だと俺はいってやった。森田親分と俺と交互にからんで充分に満足させてくれれば京子には手荒な真似はさせないといってやったんだ。それに俺達は嗜虐趣味者だから奥様を縄つきのままでいたぶり抜くが、それでもいいか、というと、好きなようにしていいというのだね。それに、名器の機能を充分、発揮しなきゃ駄目だともいってやったが、それには答えなかったが実戦に及んで発揮したよ。いやはや、痺れたねえ」
  1606.  田代は真から満足したように喜悦の色を顔面一杯に浮かべている。
  1607.  田代のそんな言葉を聞いて川田は初めて静子夫人をものにした夜の事を思い出した。
  1608. ♢♢最初は徹夜して拒否を示した静子夫人も結局は暴力行使者の手にかかっては屈伏する事になる。やがては情感を掻き立てられて漆黒の艶っぽい繊毛を濡らすばかりに噴き上げて来る熱い樹液、しどろに熟した内部の粘膜は覆いかぶさって来た川田の硬化した肉棒を貝類のような強さで強く喰いしめ、柔らかく熟した花肉をねっとりからみつかせて強い吸引力と収縮カを同時に発揮する♢♢
  1609.  そんな静子夫人の女陰の機能を思い出し、それを今、静子夫人を座位型にしてつながる森田はその甘実な味わいを堪能していると感じると川田は嫉妬で体中が熱くなるのだった。
  1610.  その嫉妬の思いを森田に愛撫されている静子夫人に対する憤懣に代えて、
  1611. 「もっと、しつかりケツを振って、森田親分に甘えて見せな」
  1612.  と、叱咤するようにいった。
  1613.  身も心も官能の渦巻きの中に溶けこませている夫人は川田の存在すらもう意識しなくなっている。
  1614. 「お前のいう通りだぜ。奥さんのボボは極上品。緊めるわ、吸いつくわ、俺はもう最高の気分」
  1615.  森田は夫人の肩ごしに川田の方を見てニヤニヤしながらいった。そして、自分の膝の上に腿を割って跨がる夫人の豊かな双臀を両手を廻して支え、自分の方へ引きこむようにしながら激しく腰を動かせる。
  1616. 「ああっ、ああっ」
  1617.  と、夫人は狂おしく紅潮した顔面を揺さぶった。
  1618. 「い、いきそう。また、いきそう」
  1619.  夫人は、せっぱつまったような悲痛な声をはり上げて森田の膝に乗せ上げた双臀をブルブル慄わせた。
  1620. 「ああ、いくらでもいきな。遠慮はいらねえ」
  1621.  森田は余裕を見せてゆっくりと腰をうねらせたり、また、急に激しく腰を揺さぶったりしながら静子夫人を追い上げていく。
  1622.  嫌っ嫌っと夫人はすねてもがくように緊縛された裸身を悶えさせた。
  1623. 「私ばっかりが、嫌、あなたも私と一緒に♢♢」
  1624.  夫人は森田も自分と共に頂上にたどりつかせて、この色地獄の苦しみから解放されたい、と念じているのだろう。
  1625. 「俺が気をやりゃ、社長とまた交代しなきゃならねえからな。それが嫌なんだ。お前さんの蛤の味を出来るだけ時間をかけて楽しみてえからな」
  1626.  森田は田代の方に笑いかけながら静子夫人の赤く染まった耳元に口を寄せていった。
  1627.  静子夫人の乳色の柔軟な肩先から背筋にかけてねっとりと脂汗が滲み出ている。うなじにまで乱れかかる黒髪を大きく揺さぶりながらハア、ハアと激しく息づき、荒々しく口吻を求めて来る森田の分厚い唇に我を忘れて強く唇を重ね合わせるとチューチューと貪り合うように舌を吸い合う静子夫人♢♢それは川田の眼に一匹の淫獣と化した令夫人として映じるのだった。
  1628.  その場にじっとしていられなくなった田代と川田は狂態を演じ合っている二人の方へ吸い寄せられるように接近していく。
  1629. 「どうだね。森田親分。御気分がすこぶるいいようだけれど」
  1630.  と田代が淫靡に笑って声をかけると、
  1631. 「へえ、俺も随分と女遊びをして来ましたが、こんなに味のいい女にめぐり合ったのは初めてですよ」
  1632.  と、森田は膝の上でうねり動く夫人の緊縛された裸身を両手で強く抱きしめるようにして田代にいった。
  1633. 「何しろ、森田親分の一物は馬並みのでっかさだ。それを緊めつけて引きこむような女ってのは世間にそう見当たるものじゃないからな」
  1634.  田代は川田の顔を見てゲラゲラ笑った。
  1635.  森田もつられて笑いながら、さ、どうだ、さ、どうだ、とばかり膝の上の夫人を自分の方へ荒々しく引きこみながら腰部の回転を早めていく。
  1636.  静子夫人は官能の芯をすっかり痺れ切らせて咆吼に似たうめきを洩らせた。
  1637. 「ああ、駄目っ、いくっ、いきますっ」
  1638.  下腹部から灼熱の感覚が背筋にまで突き上がり、静子夫人は森田の赤黒い肩先に額を強く押しつけ、全身を小刻みに慄わせた。
  1639.  その瞬間、夫人の熱く溶けた肉襞がギューと自分の肉棒を強く喰いしめ、ヒクヒクと痙攣し始めたのを森田ははっきりと知覚する。と同時に森田もその甘い肉層の緊縮と収縮に引きこまれて情念がぐっとこみ上がり、陶酔の頂上を極めたのだ。
  1640. 「ううっ」とうめいて森田は静子夫人の汗ばんだ裸身を両手で抱きしめ、全身の緊張を解いたが、熱い男の体液をそこにはっきり感じとった静子夫人は痛烈な汚辱を伴う被虐性の快感に喰いしばった歯の間からむせ返るようなうめきを洩らし、再び求めて来た森田の口吻を受け入れ、ぴったり唇を重ね合わせると共に狂ったように舌先を吸い合うのだった。
  1641.  暴力団の親分と社長令夫人との変態的な情交、それを川田は眼の前にしてその激しさに舌を巻き、自分にとっては高嶺の花であった麗人がもうすでにこのような汚辱の泥沼に引きずりこまれている事を知って、呆然とした気持になるのだった。
  1642.  今の悦楽の余韻を告げ合うような熱っぽい口吻から唇を離した夫人は身も心も痺れ切ったように森田の大きな肩先に額を押しつけ、長い睫毛をうっとりと閉ざして熱っぽく息づいている。
  1643. 「さて、次はまた、社長と交代致しやしょう」
  1644.  と、森田は粘っこく潤んだ視線をこちらに向けている田代にいった。
  1645.  すると、がっくりとなって森田の胸に汗ばんだ裸身をあずけていた静子夫人は、嫌、もう許して、と、哀しげに身をよじらせた。
  1646. 「もうこれ以上、続けるなんて、とても無理ですわ。お、お願い」
  1647.  静子夫人は森田の肩に火照った顔面を押しつけながら声を慄わせ、低い鳴咽の声を洩らしている。
  1648. 「冗談いってもらっちゃ困るぜ。社長が三発、俺が三発、合計六発、やらせてもらう約束じゃねえか」
  1649.  森田は抱きしめた夫人を膝の上で揺さぶるようにして、せせら笑った。
  1650. 「今で社長と俺が仲よく一発ずつだから、あと四発。これだけは徹夜になったってやらせて頂くからな」
  1651.  静子夫人は激しくすすり上げながら、「無理です、これ以上、続くと息の根が止まってしまいます」とうわ言のようにいった。
  1652.  甘ったれるんじゃねえ、と、川田がやくざ口調になっていきなりがなり立て、首筋にまで垂れ下がっている夫人の乱れ髪を手につかんで荒々しく引っ張った。森田とすっかり呼応して腰部をうねり舞わせ、悦楽の頂上を極めた静子夫人に対する嫉妬の思いを夫人に対する憎しみに変えた川田は、
  1653. 「ここから逃げ出そうとした罰だ。それに、お前さんは京子と一緒に社長や森田親分にどえらい私をかかせたそうじゃないか」
  1654.  川田がそういうと田代は京子に剃りとられたチョビヒゲのあたりに思わず手をやった。
  1655. 「さ、駄々をこねずに田代社長を、も一、二度楽しませてやんな。大丈夫だよ。これだけのいい身体をしているんだし、お道具は抜群だ。あと三、四発、喰らったって名器ならびくともしない筈だぜ」
  1656.  森田はそういって田代の方に眼くばせを送った。
  1657. 「女がいいと何回だってやる気が起こるから不思議だな。さ、奥様。今度は僕がもう一度、お相手させて頂こう」
  1658.  田代がそういって背後から夫人の柔軟な乳色の肩先に手をかけた。
  1659. 「お、お願いです。ほんの少しでいいわ。休ませて下さい」
  1660.  夫人が鳴咽しながら哀願すると、
  1661. 「よし、濡れた所を一度、始末してやらなきゃならねえからな。じゃ、その間、十分間だけ休憩だ」
  1662.  森田はそういってモソモソ、身体を動かし、自分から引き抜いた夫人をそのまま夜具の上へ横転させていく。
  1663. 「おい、川田、そこのチリ紙をとってくれ」
  1664.  川田が枕元に積み重ねてあったチリ紙の束を取って森田に手渡すと、夫人はすすり上げながら、
  1665. 「そ、そんな事、自分で致しますわ。お願い、一度、この縄を解いて下さい」
  1666.  と哀願したが、
  1667. 「逃亡を計った罰で縄は解かないぜ。いいから、いいから、こっちに任せておきな」
  1668.  と、森田は無視して、さ、アンヨを少し開いてみな、といいながらそんな始末まで田代と一緒に楽しそうに始めている。
  1669.  部屋のあちこちに丸めたチリ紙が散乱しているのは、こんな変質的な方法で二人がかりで痴態狂態を演じ合っていた事が想像出来る。淫風吹きすさぶ場所とはこの事だと川田は、田代と森田の変態性に上には上があるものだと舌を巻くのだ。
  1670. 「へえ、茂みまでこんなにぐっしょり濡らしちまって、よっぽど気分がよかったんだねえ」
  1671.  腟口より噴きこぼれた熱いしたたりを拭いながら森田と田代は哄笑したが、そんな言葉に耐え切れぬ汚辱感を感じた静子夫人は男達の揶揄を耳から振り切るように、川田さんっ、と叫んだ。
  1672. 「京子さんにはお願い、手荒な真似はなさらないで」
  1673.  自分を救出するために命がけでこの地獄屋敷へ単身乗りこんで来た京子が自分と同じようないたぶりを受けているのでは、と想像すると静子夫人は耐えられない気持になったのだろう。
  1674. 「私はもうどうなってもかまわない。でも、京子さんまで巻き添えにしたくはないわ。お願い、京子さんと桂子は許して」
  1675.  声をつまらせてそういう夫人に対し、川田はわざと突っぱねるように冷酷な口調でいった。
  1676. 「葉桜団の連中を怒らせちまったんだ。京子は連中の手にかかって徹底してヤキを入れられているぜ」
  1677.  それを聞くと田代は顔を上げて、当然だ、といった。
  1678. 「せっかくこうして手に入れた掘出し物を奴は逃がそうとしただけじゃない。俺の大事なヒゲを剃り落とし、全く手のつけられないジャジャ馬だ」
  1679.  と、田代が吐き出すようにいった。
  1680.  さ、これでいいだろう、と、田代と森田は丸めたチリ紙を部屋の隅へ投げつけた。
  1681. 「さ、続きを始めよう」
  1682.  と、田代と森田は夫人のしなやかな肩に左右から手をかけてひっぺ返すように夜具の上へ上体を起こさせた。
  1683.  大人は乱れ髭をもつらせた頬をねじるように横にそむけてむせび泣いている。
  1684. 「京子の事をそんなに気にかけるなんて、ほんとに奥さんの優しい心根には感心するが♢♢」
  1685.  と、田代は夜具の上に立膝に身を縮ませてすすり泣く静子夫人の緊縛された優美な裸身に眼を向けながらいった。
  1686. 「京子は我々としては最も憎むべき女スパイだ。しかも、奥様を救い出そうとしてあれだけ暴れ廻ったのだから葉桜団の仕返しを受けるのは当然。京子の事は葉桜団に任しておけばいい」
  1687.  川田は田代と森田の手にコップを手渡し、一升瓶の酒を注いでいる。
  1688. 「いや、葉桜団の残忍さには俺も驚きましたよ。あの美人女スパイももう形なしですね。俎台の上に素っ裸で開張縛り、かわいそうに女達の手で襞までむき上げられ、お核の皮をむかれてヒイヒイ泣いていましたがね」
  1689.  と、川田はわざと静子夫人に聞かせるように大声で語り、田代と森田を笑わせている。
  1690. 「これから茂みを全部、剃りとられ、マメ吊りの私刑をあの女スパイは受けるんです。マメ吊りって何だかわかるかい」
  1691.  と、川田は消え入るようにうなだれている静子夫人を見つめながら、膨らましたクリトリスに糸をつなぎ、吊り上げるっていう、ひどい私刑なんだぜ、といってから、
  1692. 「そこへいくと奥様なんか幸せな方だ。社長と森田親分に交互に可愛がられてよがり声を出しながら何回も気をやらせて頂けるんだからな」
  1693.  と、からかうようにいった。
  1694. 「そうだ。川田の言う通りだよ、奥様。しかし、今後、ここからの脱走なんか考えたりすると奥様だって容赦はしないからね。京子の受けている私刑みたいに奥様だってそんな羞ずかしいお仕置を受ける事になるんだ」
  1695.  と、田代はいって腹を揺すって笑い出した。
  1696. 「それじゃ、続きを始めるが、その前に一杯、元気づけに酒は如何がかな」
  1697.  と、田代はコップに一升瓶の酒を注ぎ始めた。
  1698.  どうかね、といって田代が片手で肩を抱き寄せるようにしながら片手に持つコップ酒を静子夫人の唇にぐっと近づけていく。
  1699.  涙に濡れた長い陸毛をふっと開いた静子夫人は自棄になったように、
  1700. 「頂くわ」
  1701.  と、いって妖しい潤みを帯びた切長の瞳を田代に向けた。
  1702. 「そうかい。そうこなくちゃ」
  1703.  田代は夫人のふと妖艶な潤みを湛えた瞳を見てゾクゾクする程の色香を感じ、夫人の唇に並々と注いだコップ酒を押し当てていく。
  1704.  酒の力をかりて神経を麻痺させ、この地獄のいたぶりに耐え抜こうといった夫人の捨鉢めいた覚悟を感じとった川田は、更に残忍なものを自分にけしかけて、
  1705. 「名器がすり切れそうになったら、尻の穴を使いな。口を使ったっていいぜ。あと四発、何としても受けて立つんだ」
  1706.  と、いって大口を開けて笑った。
  1707.  静子夫人は睫毛を固く閉じ合わせながら田代に押しつけられたコップに唇を当てて苦しげに額を寄せて酒を飲む。ゴクゴクと喉が鳴り、滑らかなうなじに酒の滴が滴り落ちている。
  1708. 「よ、なかなか飲みっぷりがいいじゃないか。ますます気に入ったぜ」
  1709.  コップ酒の半分ばかりを自棄になったように一気に飲み干して、フーと熱い息を吐く夫人の顔面は忽ら酒気が廻って朱色に染まり出した。
  1710. “つねりゃ紫、喰いつきゃ紅よ、色で仕上げたこの身体”と森田が唄うと田代もホクホクした表情で、
  1711. 「さ、いい色になった所で始めようか、奥様」
  1712.  と、大人のしなやかな肩先を強く抱きしめていくのだった。
  1713.  
  1714.  
  1715.  
  1716. 第八章 悪魔の哄笑
  1717.  
  1718.  
  1719.     色地獄
  1720.  
  1721.  熱湯を入れた洗面器が持ちこまれ、その中に石鹸を溶かし、それを刷毛でかき廻す。
  1722.  京子に対して剃毛の刑が執行されようとしているのだ。
  1723.  ベッドの上に開張縛りにされている京子はすっかり観念したように固く眼を閉ざし、もう身動きも示さなくなっていた。
  1724. 「どうやら素直にお仕置を受ける気になってくれたようね」
  1725.  銀子は観念の眼を閉ざしているような京子を頼もしげに見て、
  1726. 「そっちがそういう風に柔順な態度に出れば、こっちだって優しく扱ってあげるわよ」
  1727.  というと、熱い湯で絞ったタオルを京子の割り裂かれた両腿の附根に持っていく。そこにふっくらと盛り上る薄絹の繊毛の上へ熱いタオルを乗せ、その繊細な茂みを蒸すようにさすり出すのだ。
  1728.  京子の顔面は紅潮した。血の出る程、きつく唇を噛みしめている京子を銀子は小気味よさそうに見つめて、
  1729. 「どう。ここを剃られるの羞ずかしい?」
  1730.  と、ねちっこい口調でいった。
  1731. 「さて、シャボンをたっぷり塗りましょうね」
  1732.  朱美が刷毛にシャボンをたっぷり浸して京子の下腹部に近づいた。
  1733.  左右にピーンと割り裂かれている京子の太腿の滑らかな表皮に、刷毛に浸したシャボンの滴がポタポタ落下すると、開張縛りにされた京子の裸身はブルっと痙攣した。
  1734. 「ね、銀子姐さん」
  1735.  朱美は銀子に向かって、
  1736. 「剃り上げる前にちょっと遊んでみない」
  1737.  と、薄笑いを口元に浮かべていった。
  1738. 「こんなに身体を固くしていると剃りにくいわ。何だか急に腰を突っ張らせて暴れるみたいな気がして」
  1739. 「遊ぶってどういう事さ」
  1740. 「さっき、静子夫人に使う筈だった、ずいき棒を京子にぶちこんでヒイヒイ泣かせてみようよ」
  1741.  一回、あいつで気をやらせてやりゃ、すっかりおとなしくなって毛を剃らせるだろうし、お核に糸を巻かせると思うんだけど、と、朱美がいうと、銀子は、それもそうだね、とうなずいた。
  1742. 「ずいき棒を持っといで」
  1743.  と、悦子に命じた銀子は、固く眼を閉ざし、ギューと唇を噛みしめている京子の汗ばんだ頬を指で小突いた。
  1744. 「そんなに観念されちまうと、こっちもあまり面白くないんだね。我ながらおかしな性分だと思うよ」
  1745.  銀子はクスクス笑いながら、毛剃りの前にずいき棒を使って少し、楽しませてあげるよ、といった。
  1746. 「空手娘のよがり泣きを一度、じっくり聞いてみたいのさ」
  1747.  と、銀子がいうと、京子はおびえ切った眼を開いた。
  1748. 「もう覚悟は出来ているんです。じらさずに、剃るなら剃って下さい」
  1749.  悲哀の色を滲ませた瞳を向けて京子がいうと、
  1750. 「まあ、あわてる事はないさ。私達が腕によりをかけてせんずってやるから。一度、気をやった方があんたも気持が落着くだろう」
  1751.  と、銀子はつっ放すようにいった。
  1752.  京子の唇は口惜しさにわなわな慄えている。どこまでこの女達は淫虐に出来ているのか、京子にはこの女の集団は狂っているとしか思えなかった。
  1753.  悦子がずいき棒を持ちこんで来ると銀子はそれを受け取って露わに晒け出されている薄絹の柔らかい繊毛の上をゆるやかにこすった。
  1754. 「どうだい。こいつをしっかり喰いしめてみたいとは思わないか」
  1755.  銀子はさも口惜しげに歯を噛み鳴らしている京子を小気味よさそうに見つめながら朱美に、
  1756. 「さ、朱美。顔を蹴られたお礼にこの女をヒイヒイ泣かせてやりな」
  1757.  と、いった。
  1758.  マリと悦子は麻縄に緊め上げられた京子の形のいい乳房を両手で包みこむようにして揉み上げ、その薄紅色の乳頭に口を押しつけて音をさせて吸い上げる。
  1759. 「や、やめてっ」
  1760.  今まですっかり観念したように静止していた京子だったが、女の手が乳房に触れた途端、激しい狼狽を示して開張縛りにされた裸身をのたうたせるのだ。
  1761. 「この女、おっぱいが凄く敏感みたいや」
  1762.  と、義子は京子の乳首を吸い、白い肉の丘をゆさゆさと
  1763. 揺さぶりながら嬉しそうにいった。
  1764.  朱美が掌で京子のその柔らかい繊毛の膨らみを撫で上げて指先を内側に沈ませていくと京子はけたたましい悲鳴を上げた。
  1765. 「そ、そんな真似だけはしないでっ」
  1766. 「何いってるのさ。私にした事をまだ反省していないのね」
  1767.  さ、静子夫人と見くらべてやるから奥の院まで晒け出しな、と朱美は鼻唄など唄いながら手馴れた指さばきで粘膜の層を愛撫し、肉襲を押し拡げて淡紅色の花肉を露呈させるのだった。
  1768. 「あんたも静子夫人と同じ、見事な上つきね。でも、潤みが足りないわ。静子夫人ならもうここまで来れば熱いのを流し出し、気持よさそうにニューとお核を突き出しでくるんだけど」
  1769.  朱美はそういって銀子に笑いかけた。
  1770. 「どうしたのよ。もっと気分をお出しよ。京子姐さん」
  1771.  嫌悪感のためか、京子は貝殻をぴったりと閉ざしたように女の指先の技巧には頑なに襞を閉じ合わせ、腟口を開口させようとはしなかった。
  1772. 「フフフ、いくら強情はったって私の手管にかかっちゃ通じないよ」
  1773.  朱美はふと自分の手管を感心したようにのぞきこんでいるやくざに気づくと、得意そうな表情になって女陰の責め方について講釈を始めるのだ。
  1774. 「そらね、これが京子のクリトリスでしょう。男ってこれが女の性感帯だと思ってやたらにつまんだり、揉んだりするけれど、それは間違い。たしかに性感帯だけど、こだわり過ぎてはいけないという事ね。ここの刺戟は膣の愛撫と
  1775. 同時に軽い刺戟を加えて効果があるのよ」
  1776.  などといいながら手本を示すように次第に屹立を示し始めた肉牙を指裏でボタンを押すような軽い刺戟を加えつつ、もう一方の指先で肉襞を開げるように小刻みの愛撫をくり返すのだった。
  1777.  ああー、と、京子は緊縛された上半身を大きくのけぞらし、明らかに情感の迫った事を示し始める。朱美は親指の裏を熱気を帯びて来た肉芽に当てがい、小刻みに振動させた。
  1778.  ハア、ハア、と京子は我を忘れたように乱れ髪を揺さぶったが、それも明らかに喜悦ののたうちであり、そうなると朱美はもう、こっちのものだとばかりますます巧妙な手管を発揮するのだ。
  1779. 「すっかり感じ出して来たようね。そーら、熱い愛液が堰を切ったように流れ出して来たでしょう」
  1780.  そら、クリトリスがこんなに膨らんだわ、とか、腟口も口をあけたわ、とか、朱美のそんな揶揄に一層、情感を掘りたてられたのか、京子は荒々しい喘ぎと一緒に淡紅色の熟した花層をすっかり朱美の手に委ねて薄絹の柔らかい繊毛も濡らすばかりに熱い愛液を滴らせるのだ。
  1781. 「それじゃ、銀子姐さん、そのずいき棒をかしてよ」
  1782.  銀子から手渡されたそれを朱美は京子の濡れて浮き立つような漆黒の繊毛に当てがっていく。
  1783. 「さ、いい子だから、これをしっかり呑み込むのよ」
  1784.  嫌っ、嫌です、と京子はすねて悶えるようにその筒頭をそらせようとして腰部を揺さぶった。
  1785. 「おい、今日はそれ位にしておきな」
  1786.  と、川田の声がして朱美と銀子はあわてて振り返った。
  1787. 「そのあとは俺が肉棒で決着をつけるよ。京子をこっちへ引き渡しな」
  1788.  何時の間にか田代の部屋から引き揚げて来た川田がそこに立ち、見物していたのに気づいた銀子は、
  1789. 「京子は今お仕置を受けている最中で忙しいんだよ。ずいき棒をぶちこんで充分、楽しませてから毛を剃り上げ、マメ吊りにするんだからね」
  1790.  と、不服そうにいった。
  1791. 「うるさい。俺の好きなようにさせろ」
  1792.  田代と森田を相手にして情痴に狂っている静子夫人を見て嫉妬に悶々としていた川田は、俺は気が立っているんだ、京子とやりてえといってるのがわからねえのか、といってベッドの脚を荒々しく蹴り上げるのだ。
  1793.  
  1794.  
  1795.     新鮮な生贄
  1796.  
  1797.  その翌日の午過ぎ、田代の家の前に大型車が止まる。
  1798.  地味なスーツを着、しかつめらしい眼鏡をかけた女がドアを開けて出て来たが、それは変装した銀子であった。
  1799. 「ここなのですよ。さ、どうぞ」
  1800.  銀子にいわれて、車から出て来たのは、十七、八のセーラー服を着た美少女である。白露を受けて育った野菊のように純朴で新鮮な美しさを持つ女子高校生である。
  1801.  彼女は美津子といい、野島京子の実の妹なのだ。姉が交通事故で倒れ、今、あるところで治療を受けていると学校へかけこんで来た見知らぬ女に聞かされ、早引けしてかけつけて来たのである。わざわざ自家用車を校門にまで乗りつけて、姉の事故を知らせてくれた見知らぬ女(つまり銀子)を美津子は、親切な金持の令嬢と思いこんでいた。
  1802. 「すみません。お手数をかけました」
  1803.  美津子は、車の運転手(つまり森田組の乾分)に厚く礼をのべ、急いで銀子の後に続く。
  1804.  大きな門柱にとりつけてあるベルを銀子が押すと、不気味な音を軋ませて、頑丈な扉が開く。中から二、三人の森田組のやくざ達が出て来て、芝居気たっぷりに、
  1805. 「お嬢さん、お帰りなさいまし」
  1806.  などと銀子にいい、美津子に対しては、
  1807. 「お姉さんは大したお怪我じゃありません。心配いりませんよ」
  1808.  といったりして、二人が内に入ると、急いで門戸を閉ざし、閂をかけてしまうのだった。
  1809. 「やれやれ、芝居をするのは楽じゃないね。肩がこっちゃったよ」
  1810.  門がしまると同時に銀子は、調子を自分に戻し、やくざ達にいう。
  1811. 「ハクイ顔してるぜ。可憐な乙女ってのは、こういうスケのことをいうんだろうな」
  1812.  男達のがらりと変った野卑な言葉と態度に美津子はギョッとして足を止める。
  1813. 「姉さんは、姉さんはどこなのです!」
  1814.  何か仕組まれた罠の中に自分は入ったのだと、美津子の顔から血の気がひく。
  1815. 「あんたのお姉さんは、ちゃんとこの家にいるわよ。おとなしくしていりゃ逢わせてあげるわ」
  1816.  銀子は煙草を出して、口にしながらいう。
  1817. 「貴方がたは一体、どういう人達ですの」
  1818.  美津子は、おろおろして、近づいて来る男達を見る。
  1819. 「文句はいいから、とっとと歩きな」
  1820.  男の一人が、美津子の肩をどんと突いた。魂を宙に飛ばしたような表情で、美津子は男達に背を小突かれながら玄関に入り、靴を脱いで上へ上がった。
  1821.  廊下の向こうの方から、葉桜団のズベ公達が、ばらばらと走って来る。
  1822. 「へえー、これが京子の妹かい。ずいぷんと可愛いじゃないの」
  1823.  ズベ公達は、しきりにチューインガムを噛みながら、生きた心地のない美津子の顔をのぞくように見るのだった。
  1824. 「年は十八、番茶も出花ってとこさ。まだ何も知らない、初心な娘なんだから、あまり一度に怖がらすんじゃやないよ」
  1825.  銀子は女達にそういい、美津子の震える肩に手をかけて押して行く。廊下を二つばかり曲がった突き当たりの部屋
  1826. へ美津子は押しこまれた。そこは、物置に使われていたらしい五坪の部屋であったが美津子を監禁するためにあらかじめ森田組の男達の手で部屋理されていて、中央の床の上に角材が一本打ちこまれ、その下に一束の麻縄が積み重ねてあった。
  1827. 「さあ、お嬢さん、鞄はこっちへ預かっておきましょう」
  1828.  銀子は、そういって美津子の手にある赤い鞄を取りあげた。
  1829. 「姉さんに、お姉さんに逢わせて下さい」
  1830.  美津子は、血の気のない硬化した顔をあげて銀子や朱美にいう。
  1831. 「おとなしくしていりゃ、逢わせてあげるわよ。さあ、お手々を後ろへ廻して」
  1832.  朱美は立木の下の麻縄を取って美津子の肩を突いた。
  1833. 「何をするのです。大体、貴方達はこの私を♢♢」
  1834.  どうする気なのです、が恐怖に喉がつまって声にならない美津子であった。
  1835. 「文句はいいから、手を後ろへ廻しな!」
  1836.  森田組のチンピラ達が近づいて来て、美津子の両腕を強引に背後へ、ねじ曲げた。
  1837. 「さ、縄だ」
  1838. 「あいよ」
  1839.  朱美から麻縄を受け取った男達は、なれた手つきで、美津子を後手に縛り始める。
  1840. 「助けて! 誰か、誰か助けて!」
  1841.  美津子は、やくざの手の中で必死に身を揉んだが、驚の手にかかった小雀同然だった。
  1842.  セーラー服姿の可憐な乙女の胸には二巻き三巻き、どす黒い非情な麻縄がかけられ、厳重に後手に縛りあげられてしまったのだ。
  1843.  そのまま美津子は立木を背負った形で縛りつけられてしまう。男達は、そんな美津子の足元にしやがみ、更に麻縄の残りを使って、彼女の黒い靴下に覆われているスラリとした足を揃えて立木に縛りつけるのだった。
  1844.  美津子は、自由のきかぬ体を必死によじって、泣いたり、わめいたりする。
  1845. 「いいかげんにおし!」
  1846.  朱美がイライラして、美津子に近づくと横面をいきなりひっぱたいた。
  1847. 「手荒な事をするんじゃないよ。川田の兄さんの科白じゃないが、商売ものは大事に取り扱わなくちゃね」
  1848.  銀子は、朱美を制していった。
  1849. 「じゃ、お嬢さん。かわいそうだけど、しばらくここに、そうしていてね。夜になったら、お姉さんに、きっと逢わせてあげるからね」
  1850.  銀子は、そう美津子にいい、ズベ公や、やくざ達に目くばせをして部屋を出て行く。
  1851.  廊下へ出た銀子達が部屋のドアを閉め、鍵をかけると、美津子のすすり泣く声がひときわ激しく聞こえてくるのだった。
  1852.  
  1853.  
  1854.     悪魔の笑い
  1855.  
  1856.  川田は、二階の洋間の一室につくられてあるホーム酒場で、田代や森田と一緒に、ウイスキーを、くみかわしていた。
  1857.  ノックの音。入って来たのは、銀子と朱美である。
  1858. 「銀子、成功したそうだな。どうでい、京子の妹てえのは」
  1859.  川田は、ウイスキーで真っ赤になった顔をなぜながら、えびす顔をつくっていう。
  1860. 「お人形のように可愛い子だよ。あまり純情過ぎるんで、商売ものにするのが、ちっとばかし、かわいそうだよ」
  1861. 「へへへ、柄にもねえ事、いいやがる」
  1862.  川田は田代や森田の顔を見ながら笑った。
  1863. 「それより、どうだったんだよ。京子の方は♢♢」
  1864.  銀子は川田の酌を受けてウイスキーを一息に飲むと、ニヤリと顔をくずしていった。
  1865. 「へっへへ、ずいぶんと手間どったが、京子姐さん、立派な女におなりなすったよ」
  1866.  川田は、顎のへんをいやらしくなぜながら、ニヤニヤしてそういうのだった。
  1867.  田代も森田も、静子夫人を充分、楽しませたのだという。
  1868.  田代もえびす顔で煙草に火をつけながら、
  1869. 「あんまり俺達が可愛がりすぎたんで、遠山夫人、今日の明け方、白眼を向いて気絶なさったよ。だが、あんなすばらしい体の女というのも珍しいな親分」
  1870.  森田も満足げに何度もうなずいている。
  1871. 「そうなの、あたいも胸がスーッとしたよ」
  1872.  銀子は、煙草に火をつけながら笑った。
  1873. 「じゃ、今日は葉桜団が可愛がってやる番だね、朱美」
  1874.  銀子は、朱美のグラスにウイスキーを注いでやりながらいう。
  1875. 「おめえ達も、ずいぶんと執念深えな」
  1876.  川田が笑っていうと、朱美は腕をまくって川田の前へ附根の青あざを見せていうのだった。
  1877. 「兄さん。これを見てごらんよ。京子の奴に空手で打たれたところだよ。この痛みの恨みを返すにゃ、ちょっとや、そっとじゃ気分が晴れるもんかい。責めて責めて、責め抜いてやるんだ」
  1878.  朱美は残忍な光を眼に浮かべていうのだった。京子夫人を責めるだけでは、あきたらず、朱美と銀子は、京子の妹の美津子まで誘拐したのだろう。
  1879. 「奥さんの方は、しばらく休ませて、京子の方を地下へしょっぴいてきなよ。朱美」
  1880.  銀子がいうと、朱美は、あいよ、と調子よくグラスを置いて立ち上った。
  1881. 「一体、どういう風に京子を責める気かね」
  1882.  朱美が、外へ出て行くと、田代がニヤニヤしながら銀子に聞く。
  1883. 「今のところは、全部、朱美に任してあるんですよ。もう少ししたら、見物に行ってみましょう。社長」
  1884.  銀子は、ただ顔をくずして、そういうだけだった。
  1885.  その時、わっしょい、わっしょいとズベ公達の賑やかなカケ声。おやと田代も森田も顔を見合わせて、ドアを開け廊下へ出て見る。
  1886.  二階の階段を数人のズベ公達が、腰にピンク色の褌一枚というあられもない京子を、胴上げする時のように担ぎあげて降りて行くのだ。鬼畜に等しい川田に操を奪われ、身も心も疲れ切ったような京子は、高手小手に縛りあげられている身を完全にズベ公達に任せてしまったような形である。
  1887.  ズベ公達は、そんな京子のスラリとした両肢をキャッキャッ騒ぎながら、お祭り騒ぎで担ぎあげているのだが、やがて彼女達は左右に分かれるように隊列を組み出したので、京子の両肢はズベ公の肩の上で大きく左右に割り開かれていく。
  1888. 「あ♢♢、嫌よ、嫌。離して!」
  1889.  京子は、女達の肩の上で身悶えし出した。
  1890.  股間にきびしく喰いこんでいる褌が張りさけるようになる。
  1891.  川田も森田も、それを見ると声を立てて笑い合うのだった。
  1892.  やがて、京子がズベ公達に担がれて地獄の地下室へ運ばれて行ったのを見とどけると、川田が銀子にいった。
  1893. 「京子の妹ってのを見ようじゃねえか。ずいぶんとハクイ娘らしいな」
  1894. 「物置に押しこんであるよ。じゃ社長も親分も、ちょっと顔見せにおいでになって下さい」
  1895.  
  1896.  
  1897.     遂に美津子も
  1898.  
  1899.  部屋の小央に立てられた一本の角材に、立ち縛りにされていた可憐なセーラー服の美津子は、田代や森田達が入って来ると一瞬ギクッと体を震わせたが、すぐに必死になって哀願し始めた。
  1900. 「お願いです。縄を解いて下さい。ここから出して下さい」
  1901.  川田は、そんな美津子をしげしげと見て、
  1902. 「なるはど、こいつは掘出物だ。あの鉄火娘に、こんな純情そうな妹がいるとは思わなかったな」
  1903.  と、いう。森田も顔中しわだらけにして、田代にいった。
  1904. 「社長、これで静子夫人に桂子、京子に美津子という看板スターが、揃った事になるじゃありませんか。いよいよ仕事が忙しくなりそうですね」
  1905.  田代は葉巻をくめらせながら、何度もうなずき、美津子の恐怖にひきつった顔を楽しんでいる。
  1906. 「どうして私を、こんな目に合わすのです。一体、貴方達は何なのです!」
  1907.  美津子は、必死な眼で周囲に止つ男達に向かっていった。何か叫んでいないと、恐ろしさのために気が遠くなりそうなのである。
  1908. 「あんたのお姉さんが、とんでもねえことをして、俺達の顔に泥をぬってくれたんだよ。姉さんの方は、昨日から罪の償いをしているんだが、どうも一人じゃ荷が重すぎるようなんだ。だから妹のあんたにも、おいで願ったというわけなんだ」
  1909.  川田は、美津子の顔をのぞきこむようにしていった。
  1910. 「姉さんは悪い人じゃありません。貴方達に罪のない姉さんをいじめる権利はないわ」
  1911.  美津子は、はじき返すようにいう。
  1912. 「京子の妹だけあって、なかなか気性は強いらしいな女学生とは思えねえぜ」
  1913.  川田は、苦笑して、
  1914. 「ちょっと、その可愛い口を、ふさいでやろうか」
  1915.  いきなり、美津子の自由のきかぬ肩に手をかけ、口を近づけようとした。
  1916. 「な、何をするの!」
  1917.  美津子は、狂ったように身悶えし、激しく首を振って、川田の突き出すようにして来た唇を避けた。川田は強引に美津子の顔を両手ではさみ込むようにして、口を押しつけようとする。
  1918.  突然、悲鳴をあげて、川田は美津子の傍労れら飛び離れた。
  1919.  川田の口から血が、したたり落ちている。
  1920. 「どうしたんだい。唇を噛まれたのかい!」
  1921.  銀子があわてて川田のもとへかけ寄った。
  1922. 「唇を噛み切りやがった。畜生」
  1923.  川田は、ハンカチを出して、しきりに唇の血を拭いている。美津子の唇にも川田の血がついている。美津子は激しく肩で息をしながら美しい眼をつり上げて川田を睨んでいるのだ。
  1924. 「舌をやられたら、大変だったじゃないか。こんな小娘のために命を落としたら、お笑い事だよ」
  1925.  銀子は、そういいながら川田の唇に薬をつけてやり、次に美津子に何かって、
  1926. 「小娘だと思って、おだやかに出りゃ、つけ上りゃがって、もう手加減はしないよ」
  1927.  そういって、ドアを開け、向かい側の部屋で花札賭博をしていた森田組の、ちんぴらやくざを呼び入れた。
  1928.  のっそりと入って来たのは、少年院を脱走してきて、この森田組に入ったといういずれも十八、九の札つきの不良少年ばかりである。
  1929.  竹田、石山、堀川というその三人のチンピラは角材に立ち縛りにされている美少女を見ると、ちょっと照れたように顔を赤らめた。
  1930.  銀子は、ふとそれに気づくと、くすぐったそうに笑っていう。
  1931. 「このお嬢さんはね、年はあんた達と同じ十八なんだけど、学校では成績は一番、しかもこれだけの美人、いうなれば月とスッポン、声一つかけてもらえぬ、あんた達にとっては高嶺の花だよ」
  1932.  三人のチンピラは、眼をパチパチさせて、銀子のいう事を聞いている。
  1933. 「だけど、あんた達が森田組のためにしっかり働いてくれりゃ、この美しいお嬢さんを花嫁にすることだって出来るんだよ」
  1934.  銀子にそういわれると、三人のチンピラ達は、顔を見合わせて、そわそわし始めた。
  1935. 「姐さん、なぐり込みなら俺が真っ先にやりますぜ」
  1936.  などと腕力に自信のある竹田が、一歩踏み出すようにして銀子にいった。
  1937.  銀子も川田も、笑い出す
  1938. 「まあ、それもいいけどさ。今日はもっといい仕事さ。ここにいるお嬢さん、今、川田兄貴に大変失礼な事をしなすったんで、これから、お詫びして頂くんだけど、それには、まず裸になってもらわなきゃならない。どうだい。ぞくぞくする仕事だろ。この美しいお嬢さんを素っ裸にするんだよ」
  1939.  それを聞いた三人のチンピラは、小躍りするように喜んで、ズカズカと美津子の傍に近寄って来る。
  1940.  美津子の方は、美しい顔から一瞬、血の色がひき、狂ったように自由を奪われた身を悶えさせる。
  1941.  銀子は、そんな美津子の前へ立って、意地悪そうに口を歪めていった。
  1942. 「かわいそうだけど、生まれたまんまの姿になって頂くわ。貴女のお姉さんだって、素っ裸で今頃、地下室でヒイヒイ脂汗を流しているのよ。裸になったら、川田兄さんに心から謝って、地下室へ行き、お姉さんと久しぶりの御対面というわけね」
  1943.  と笑うと、川田も調子を合わせ、
  1944. 「姉妹、地下室で素っ裸同士で対面というわけか」
  1945.  と、腹をゆすって笑う。
  1946.  ちんぴら達は、泣き叫ぶ美津子に、姐虫のように寄ってたかり一人が美津子の紺のスカートの裾を両手で持って、思い切り上へまくり上げた。
  1947. 「やめて! 嫌!」
  1948.  美津子は息もつまるばかりの屈辱に絶叫する。スカートがまくられたため、黒い靴下に覆われたスラリとした両肢の附根のあたりまで露呈し、赤い靴下止めが見ている男達の眼に、しみるように映ずる。
  1949.  銀子は、田代や森田達に、
  1950. 「じゃ、この場は、この連中に任せて、地下室へ行ってみましょう。朱美が、どんな風に京子を責めているか、見物しようじゃありませんか」
  1951.  といい、次に銀子はチンピラ達にいった。
  1952. 「いいかい。裸にしたら、しっかり縄で縛りあげておくんだよ。そして脱がせた衣類は全部、地下室へ持って来ておくれ」
  1953.  銀子は、地下室で責められている京子に、美津子のセーラー服などを見せて、驚かせてやろうという着想に、ホクホクしている。
  1954. 「俺達の許しなしに、その娘に手をつけるんじゃねえぞ。わかったな。眼の保養だけはさせてやるが♢♢」
  1955.  森田がチンピラ達につけ加えてどなった。
  1956.  銀子や川田達四人が部屋から出ていくと、チンピラ達は一層勢いづいたように美津子に襲いかかった。
  1957.  紺のスカートのホックは外されて、それは引っ張られるまま、スルスルと足元へ落ち、一人が赤い靴下止めを外して皮でもむくように靴下を脱がせた。
  1958.  美津子は、逆上したように身を揉み、
  1959. 「お願いです! 助けて、助けて下さい。嫌! 裸になるのは嫌」
  1960. 「裸になるのは嫌だろうけど、命令だから仕方がないさ」
  1961.  男達は笑い合いながら、手を休めようともしなかった。
  1962.  
  1963.  
  1964.  
  1965. 第九章 恐怖の地下室
  1966.  
  1967.  
  1968.     悪鬼の饗宴
  1969.  
  1970.  森田と田代、それに川田の三人が地下室へ降りて来ると、葉桜団は女達だけで酒盛りをやっている最中であった。
  1971. 「おや、社長、お待ちしていたところなんですよ」
  1972.  朱美が酒臭い息を吐きながらいう。
  1973.  地下室全体は煙と女達の賑やかな酒のやりとりで、むっとする熱気が充満している。
  1974.  地下室の中央には上から垂れ下っている一本の鎖にピンク色の褌一本の京子が縛りあげられた縄尻をつなぎとめられて、つま先立ちになり、ズベ公達の酒の肴になっているのである。身も心も疲れ果てたような京子は、がっくりと首を落とし、小さくすすりあげていた。
  1975.  田代達は朱美のいう特等席、つまりあられもない姿をさらしている京子の正面に敷かれてある座布団の上に各々坐るのだった。
  1976. 「一体、これから何が始まるのかね」
  1977.  田代は、ズベ公達に酌をされて茶碗酒を口に流しこみながら朱美に聞く。
  1978. 「今から社長さんを初め、葉桜団全員に詫びをさせるんですよ」
  1979.  朱美は、そういい、憎々しげに立ち縛りにされている京子に眼をやる。
  1980. 「この姐ちゃん。男を知って、一段と美しい娘になったじゃねえか」
  1981.  森田が、川田の方を見て笑った。
  1982. 「へっへへ、だが、ずいぷんと苦労しましたぜ。往生ぎわの悪い阿女で縛られたまんまのくせに、すごく抵抗しやがるんでさあ」
  1983.  川田は、とくとくとして昨夜、如何にして京子を陥落させたかを皆んなに語り出す。
  1984. 「へっへへ、いくらジャジャ馬でも、後手に縛られた上、足枷をはめられちゃ、どうしようもねえ。俺は、ゆっくりとお褌を脱がせてやり♢♢」
  1985.  川田の話を、男も女もゲラゲラ笑って聞いている。
  1986.  立ち縛りにされている京子は、悪魔の声が耳に入るのを防ぐように顔を真っ赤にして激しく首を振るのだった。
  1987. 「ところが社長、いよいよという時、この阿女、必死な声で、山崎さん、許して、と叫んで泣き出しやがった。山崎ってのは、この阿女が勤めている探偵社の社長なんですがね。つまり、そいつと、この阿女は恋人同士だったんですよ」
  1988.  それを聞くと、朱美は眼をつり上げて、
  1989. 「じゃ、この京子は、あのへっぽこ探偵のスケだったのかい」
  1990. 「まあ、そういうわけだ。かわいそうに山崎の野郎、自分の女を敵側の男に御馳走させたってわけだ」
  1991.  川田が酒を飲みながら、そういうと、京子は、たまらなくなったように声をあげ、身を震わせて泣き出した。
  1992. 「ふふふ、そうだったのかい、そりゃ、いい気味だよ」
  1993.  と朱美は、頭のてっぺんから声を出すようにして笑う。
  1994. 「お前も馬鹿な女だよ。空手なんぞ覚えて、えらそうにしてるから、罰が当たったんだよ」
  1995.  と銀子も立ち上って、京子の縄にくびられて大きく膨らんでいる両乳房を、ピチャピチャ叩きながらいう。
  1996. 「さてと、それはとにかく、もうお前さんは川田兄さんのおかげで女の悦びを知ったんだし、これからは森田組と葉桜団のために一生懸命、働くんだよ。わかったね」
  1997.  朱美は京子の頭髪をわしづかみにして、ぐいと羞恥に染まった顔を、正面に向けさせてそういい、更に、
  1998. 「さあ、皆んなの前で、宣誓するんだ。こう言いな。♢♢これからは、どのようなお仕置も喜んで受け、皆様に満足頂ける可愛い女になるまで努力致します、とね」
  1999.  京子は、ただ鳴咽するだけで、閉じた眼を開こうともしなかった。
  2000. 「強情をはると、ためにならないよ。ちょいと、これを見てごらん」
  2001.  銀子は、京子の妹の美津子の赤い鞄を京子の足元に置く。
  2002. 「美津子も、ちゃんと捕まえてあるんだよ。あんまり私達を手こずらすと、お前の見ている前で、美津子を痛めつけるからね」
  2003.  京子は、それを聞くと、ハッとして眼を開け、足元に置かれてある赤い鞄を見て、慄然とし、必死になって身を揉み始めた。
  2004. 「美津子に何の罪があるんです! 悪魔、けだもの!」
  2005.  京子は、狂ったようにわめき出した。たった一人の妹を、こんな野卑な畜生どもの嬲りものにされてたまるものかとばかり、京子は怒り狂い出したのだ。
  2006.  銀子や川田達にしてみれば、正に思う壷というところだろう。
  2007. 「そんなにもがいたって仕方がないよ。だから、いってるじゃないか。私達にさからわず素直にしてりゃ、何も美津子までしゃぶる気は私達にはないわよ」
  2008.  いわれた通りに京子がするなら、美津子は嬲りものにしないという葉桜団の言葉に、京子は従うより他はなかった。
  2009. 「さあ、皆んなの前で、今いった通りのことをいうのだよ」
  2010.  京子は激しく肩を振るわせながら、朱美のいった事を口に出していう。
  2011. 「皆様に御満足のい、い、頂ける、可愛い女に、なるまで努力、い、致します」
  2012.  ズベ公達は、ヤンヤと拍手する。眼を歯く閉じ、屈辱にむせんでいる京子に、朱美は更に浴びせるのだった。
  2013. 「川田の兄貴に、お礼をいうのだよ。こってり可愛がってもらったお礼をね」
  2014.  川田が、ニヤニヤして顔を京子に近づけて行く。京子は、身を固くして、顔をねじるようにして伏せる。
  2015. 「ちゃんと川田兄さんの顔を見て、心からお礼をいうのだよ。さもないと、美津子をここへ引っ張り出して嬲りものにするよ」
  2016. 「お願いです。美津子だけは、助けてやって下さい。私はどうなっても♢♢」
  2017.  京子は、涙にうるんだ美しい黒眼がちの瞳をあげ、銀子と朱美に哀願する。
  2018.  もう嬲られ尽くした自分だ。奇蹟的に救援者が現われることを念じつつ、時間をかせぐより方法のない京子であった。
  2019. 「じゃ、早く、川田兄さんにいうのだよ」
  2020.  朱美に尻をつねられて、京子は泣きはらした眼を近づいて来た川田に向けるのだった。
  2021. 「か、か、川田さん、有難うございました」
  2022.  ズベ公達は、どっと笑う。
  2023. 「そこで、熱いキッス!」
  2024.  誰かが、黄色い声で叫んだ。
  2025.  酔っている川田は、京子の適度に脂肪ののった白い肩を両手で抱く。
  2026.  激しく最初は首を振った京子であったが、どうにもならぬとあきらめたように、川田のいやらしく突き出して来る唇を、唇で受けるのだった。
  2027.  川田は、嵩にかかったように京子を抱きすくめる。両手の自由のきかぬ京子は、為す術を忘れたように、川田に唇を吸われるままになっていた。
  2028.  昨日、川田を空手で倒し、今少しで静子夫人救出に成功するところであった京子も、今は、その川田のため、肉体を奪われ、その上、衆人環視の中で、破廉恥漢の川田の執拗な抱擁を受けるという、みじめな嬲りものにされてしまったのである。
  2029.  ズベ公達は顔を見合わせて、ニヤニヤし出した。
  2030. 「こういう色事師に、かかっちゃ、空手二段のお姐さんも形なしだね」
  2031.  朱美と銀子も含み笑いしながら、話し合うのだった。
  2032.  ようやく、川田が京子の体から身をひく。
  2033.  
  2034.  
  2035.     美津子のおとり
  2036.  
  2037. 「ふふふ、なかなか気分の乗ったキッスだったよ。さて、次に田代社長と森田親分に、詫びを入れてもらおうか」
  2038.  朱美は、そういって、田代の方に眼くばせをした。ニヤニヤしながら、田代と森田は顔を見合わせて立ち上る。
  2039. 「さあ、このお二人に、お詫びしな」
  2040.  朱美に、尻をけられて、京子は、すすり上げながら、消え入るようにいう。
  2041. 「ど、どうか、許して下さい」
  2042.  口惜しさに歯ぎしりしていう京子を、朱美は小気味よさそうに見ていたが、
  2043. 「口先だけじゃ駄目だよ。これからは、社長と親分の望む事は、何でもしなくちゃならない。わかったね」
  2044.  京子は、震えるように、うなずく。
  2045.  朱美は、悦子とマリに眼くばせした。
  2046.  あらかじめ打ち合わせてあったらしく、悦子とマリは、あいよ、と立ち上ると、隅から一本のナイフと砥石を持ち出して来た。
  2047.  そのナイフは昨夜、京子が静子夫人を救出しようとして、夫人の縄を切り、悪魔に等しい田代をこらしめるべく、彼のチョビヒゲを剃り落としたナイフである。
  2048.  そんなものをわざわざ持ち出して来る葉桜団は、その復讐に、一寸試し五分試し、京子の身を斬り刻もうというのだろうか。京子はもうどうともなれと観念の眼を閉じ、美しい顔を横に伏せている。
  2049. 「おい、京子姐さん、このナイフに見覚えがあるだろう。あんたは、これで静子夫人の縄を切っただけじゃなく、田代社長にとんでもない恥をかかせたんだ。一応、これから、その埋め合わせを社長と親分につけて頂こうという趣向さ」
  2050.  朱美は、そういいながら、ナイフの先で、京子の豊かな乳房をチクチクつつく。
  2051.  京子は、悲鳴をあげて、身悶えた。
  2052.  川田が、茶碗酒をあおりながら、声をかける。
  2053. 「朱美、ナイフで肌に傷なんかつけるのは良くねえな。その娘は♢♢」
  2054. 「わかってますよ。昨日、やり忘れた事をこれからしてやるってわけです。田代社長の前でこの女の茂みを剃ってやるんです。社長のヒゲを剃った詫びを入れさせるんですよ」
  2055.  朱美は、含み笑いしながらいう。京子も朱美達が考えていることがわかったらしく顔面真っ赤にして、うなだれてしまうのであった。
  2056.  ズベ公達は、わあーと気炎をあげて、再び賑やかに酒をくみ合い出す。
  2057.  朱美は、耳たぶまで染めて、小さく需えている京子の尻を指で突く。
  2058. 「いいね。これから、田代社長のヒゲを剃り落とした罪の償いをするんだよ。田代社長と森田親分に仕上げて頂く事にするからね」
  2059.  京子は、嫌々をするように首を左右に振るのだった。
  2060.  そんな目に遭うぐらいなら、殺された方がどれぐらいいいか、実際に京子は思った事だろう。そういう姿にした後で、ズベ公達は屈辱の極にあえぐ京子に対し、どのように揶揄し、更に嬲る気なのか、京子は想像するだけで気が狂いそうになるのだった。
  2061.  いっそ、ひと思いに舌を噛んで、この屈辱から逃れたい位だ。その京子の心を見すかしたように、川田の横で酒を飲んでいた銀子が、声をかける。
  2062. 「舌を噛んで死にたきゃ、死んでもいいのだよ。お前さんの代りを、美津子にさせるだけだから♢♢」
  2063.  京子は、出鼻をくじかれたようにハッとした。
  2064. 「可愛い妹にそんな思いをさせたくなかったら、おとなしく、お仕置を受けるんだよ。十年も若返らせてもらえるようなものじゃないか。ふふふ」
  2065.  銀子は楽しくてたまらぬように、笑うのだった。
  2066.  美津子をこうしたズベ公達の嬲りものにさせないためには、自分が一旦、どうしても彼女達の酒の肴になるより仕方がないのだ。しかし、なんと、葉桜団の復讐の残忍なことか。
  2067.  京子は、肩を震わせて、激しく泣きじゃくる。
  2068.  葉桜団の不良少女達は、更に、悪どい計画を立てていたのである。それは、京子から、剃り落としたものを京子の愛人である山崎に送るという、悪どい計画であった。
  2069.  朱美が、その計画を声を大きくして仲間のズベ公達に話すと、
  2070. 「そいつは、傑作だ」
  2071.  と、皆、手を叩いて笑い合う。
  2072.  京子は、狂気したように激しく首を振り、泣きわめいていた。婚約者の山崎に自分のそんなものが封筒につめられ送られる、あまりの恥ずかしさに京子は声も出ない。不良少女にぶつける呪いの言葉さえ、気持が転倒してしまって口に出ないのだった。
  2073.  ズベ公達が、朱美の立てた計画の奇抜さに笑い合っている間、朱美自身は、口元を歪めながら、何かしきりと紙切れに書いていたが、ふと首をあげ、マリにテープレコーダーを持って来るようにいった。
  2074.  マリの手で小型のテープレコーダーが運ばれて来る。朱美は、それを持って、京子の足元に置き、コードをたぐりながら、マイクを京子の口元に近づけた。
  2075. 「さあ、恋しい山崎さんに、声の便りをするんだよ。この紙切れに書いてある通りの事を吹きこむんだ」
  2076.  無理やりに朱美は、自分が書いた紙切れを京子に見せようとする。京子は泣きはらした眼で、ちらとそれを見たが、ああ、と首をのけぞらせ、再び、すすり上げる。
  2077.  その紙切れには、朱美の乱暴な字で、次のように書かれてあったのだ。
  2078.  ♢♢私のいとしい山崎さん。貴方の命令で葉桜団に潜入出来ましたが、あるハンサムな青年と仲良くなり、昨夜、その方と私、親しくなってしまいましたの。そして、その方のすすめで、これから、ヌードスターとして働くことにしました。その方は、私のバストもヒップもすばらしいとはめて下さりながら、私を一人前の女にして下さったのです。だから、もう貴方とは別れるわ。お別れのプレゼントとして、私が一番大切にしていたものを貴方にお送りしますわ。時々こっそり眺めて私の事を思い出して頂戴ね。あんまり人に見せぴらかさないでね。だって、私、羞ずかしいのですもの♢♢
  2079.  如何に朱美が、京子の体をぶったり、つねったりしても、京子は歯を喰いしばるようにして、そんな文句をマイクに入れようとはしなかった。そこで、業を煮やした朱美達が例によって、大声で、仲間に声をかける。
  2080. 「仕方がない。美津子にヤキを入れよう。ここへ連れて来な」
  2081.  京子は、これで屈伏してしまうのだった。
  2082.  言葉が涙につまって、思うように出ず、何度も入れ直しを重ね、京子は、その都度、ズベ公達に青竹で尻をぷたれながら遂に、その恐ろしくもまた魂も凍るばかりの言葉を、テープに吹きこまれてしまったのだ。
  2083. 「あ、あんまり人に見せびらかさないでね。だって、だって私♢♢羞ずかしいのですもの♢♢」
  2084.  息が止まるような思いで、やっと、京子が口元に押しつけられたマイクに吹きこむと、
  2085. 「最後のところなんか、なかなか感じが出ていたぜ」
  2086.  と、川田が大きく口を開けて笑う。
  2087. 「さてと、このテープも、剃り落としたものと一緒に山崎のへっぽこ探偵に送ってやるからね。さぞ、びっくりして眼を白黒させるだろうよ」
  2088.  銀子も、茶碗に酒を注ぎながら、笑うのだった。
  2089.  じゃ、そろそろかかるとするか、悦子がナイフを砥石で研ぎ始める。
  2090.  朱美は、煙草を口にくわえて、火をつけると、ぷうと、煙を京子の顔に吹きかけた。
  2091. 「そんなに悲しむ事はないよ。若いんだから一週間もすりゃ、すっかり元通りになるさ」
  2092.  朱美は、羞恥の極に身を震わせている京子を見ていると、ぞくぞくする程、楽しくなるらしい。
  2093.  悦子が砥石から腰をあげてピカピカ光るナイフを朱美に見せた。
  2094. 「こんなもんで、いいですか」
  2095.  朱美は、うなずいて、田代にそれを渡し、森田には石鹸水の入った容器を渡す。
  2096.  そして、必死に首を垂れ、スラリとした両肢を固く閉じ合わせている京子に朱美は眼をやって、その両側に立っている悦子とマリに言った。
  2097. 「じゃ、京子姐さんの可愛いお褌、お解きしなさい」
  2098.  あいよ、と悦子とマリは、京子の背後へ廻って、固く結んであるピンクの褌の結び目に手をかけた。
  2099.  面白半分に、ズベ公達の手で腰にしめられた一本の屈辱的な褌であるが、それを剥がれる事によって、地獄の羞恥に突き落とされる事になるのだ。京子は、自分の背後で褌の結び目を解き始めている二人のズベ公に、無駄とは知りつつ哀願する。
  2100. 「お願いです、やめて。と、解かないで!」
  2101.  豊満な両乳房の上下を太い麻縄でしめあげられ、肉づきのいい両足をくねらせて立っている京子は、哀願するように美しい黒い瞳をナイフを手にしている田代に、向けているのだ。田代は、ニヤリと顔をくずしていう。
  2102. 「そう色っぽく睨まれると、手がすくんでしまうよ。そんなに、固くなっちゃ、しょうがねえな」
  2103.  くの字になって、腰をひき、涙にうるんだ美しい瞳に、必死なものを含ませている京子を、田代と森田は見て、妙に哀れっぽく思ったのか、相談を持ちかけるように朱美にいうのだった。
  2104.  川田が、いった。
  2105. 「暴れ出されて、傷でもつけちゃ大変だ。じたばた出来ねえよう、足をひっくくりな」
  2106.  坐っていたズベ公達が一斉に立ち上った。
  2107. 「やめて! お願いです!」
  2108.  青竹と新しい麻縄を持って、京子の足を搦め取ろうと追って来たズベ公達に、京子は必死になって足をばたつかせ、はかない抵抗を始めるのだった。
  2109. 「畜生、まだ素直にお仕置を受ける気になれないのかい」
  2110.  銀子が舌打ちしていった時、チンピラやくざの青木が、地下へ降りて来て、銀子の耳に何かささやき、手にかかえ持っていた衣類を手渡す。
  2111.  それは、物置に押しこめられている京子の妹、美津子の衣服であった。
  2112.  銀子は、ニヤリとしながら、それを狂乱の京子に見せる。紺のセーラー服にスカート、それから、純白のスリップ、ナイロンのブラジャーなどであった。
  2113. 「最近の女学生は、ずいぶん下着にもこるんだね。ふふふ、どう京子姐さん。このセーラー服や下着に見覚えがあるかい」
  2114.  京子は、銀子の手にあるものを見ると、更に逆上する。
  2115. 「悪魔! けだもの! よくも妹を♢♢」
  2116.  京子は、自分が今置かれている立場も忘れて、銀子をののしるのだった。
  2117. 「ふん。妹がこんな日に遭うのも、みんな、お前の故じゃないか。ふふふ。今、ここへ美津子を連れて来てやるからね。そうすりゃ、お前も、喜んで葉桜団のお仕置を受ける気になるだろうさ」
  2118.  銀子は、そういい捨てると、口笛を吹きながら、地下の階段を上って行った。
  2119. 「待ってっ、待って!」
  2120.  京子は、銀子の後姿に向かって絶叫する。
  2121. 「ぶつぶついわずに、おとなしくしてな」
  2122.  朱美が、足で京子の尻を蹴りあげた。
  2123.  京子はがっくり首を落として、口惜しげに身を震わせている。
  2124.  妹の美津子は、京子にとって生き甲斐にもなっている。京子が山崎探偵事務所で、かなり危険な仕事をやり、女としてはいい収入をとっているのも、この妹の美津子を来年大学へ入れ、将来、スチュワーデスにしてやりたい一心からなのである。その美津子が悪魔に等しい葉桜団に捕われの身となり、これから、どのような淫虐な嬲りものになるのかわからないのだ。そう思うと、京子は、居ても立ってもいられぬ、せっぱつまった気持になり、
  2125. 「お願い! 美津子、美津子だけは、かんにんして!」
  2126.  と身をくねらせ、声をはりあげて叫びつづけている。そんな京子の姿をズベ公達は、小気味よさそうに見ていたが、地下の階段がきしみ、銀子がくわえ煙草で降りて来た。
  2127. 「ふふふ、美津子嬢がおいでになったよ」
  2128.  銀子は、そういって、すぐに上を見上げ、
  2129. 「お姉さんがお待ちかねだよ。そう羞ずかしがらずに、早く降りておいで」
  2130.  階段の上から、三人のチンピラやくざに囲まれるようにして、陶器のように白い肌をした美津子が降りてくる。華奢で繊細で何から何まで細い線で取り囲まれているようで透き通るような雪白の美肌。まだ成熟しない白桃に似た可憐な乳房の上下には非情な麻縄が巻きつき、スラリと伸びた両脇の間の煙のように淡い繊細な茂みは恐怖のためかフルフル小刻みに慄えているように見える。
  2131.  花も羞じらう十八の乙女が、そんな無残な姿にされるまでには死物ぐるいの抵抗をしたに違いない。それを物語るように、彼女は肩を大きく波打たせるように息をし、引き立てて来た三人のチンピラ達も顔中、美津子にひっかかれたらしい傷あとが生々しくついていた。
  2132.  美津子は、耳たぶまで真っ赤に染まった顔を深く落としながら階段を一歩一歩、降りてくるのだが、今にも消えてしまうのではないかと思われるぐらいの羞じらいの姿態であった。
  2133. 「全く、お人形のように、可愛い子じゃないの」
  2134.  ズベ公達は、羞恥にむせぶような美津子を見て、待ってました、とばかり、一斉に拍手をするのだった。
  2135.  京子は、引き立てられて来た美津子の、その無残な姿を見ると、自由を奪われた身を激しく悶えさせ、
  2136. 「な、何てことを! 美津子に、美津子に何の罪があるというの!」
  2137.  と泣きわめく。美津子はハッとしたように火のように熱くなっている顔をあげ、姉の哀れな姿を眼にする。
  2138. 「お、お姉さん!」
  2139. 「美っちゃん!」
  2140.  美しい姉妹は、涙にうるんだ瞳を向け合い声をかけ合った。
  2141. 「さて、お嬢さん、お姉さんの横に並ばせてあげようね」
  2142.  銀子は、美津子の縄尻を男達から取って、美津子の背を突く。
  2143.  京子が立ち縛りにされているすぐ横にガラガラと一本の鎖が下りてきて、それに美津子の縄尻は、つなぎ止められた。
  2144.  遂に美津子も、姉の京子と共に葉桜団の中で晒しものにされる運命となったのである。
  2145.  朱美は、銀子の傍で茶碗酒を一息に飲み干し、がっくり首を落として、すすりあげている二人の美女を舌なめずりするように見つめている。
  2146.  京子は全身をゆすりながら、
  2147. 「後生です。妹を、妹までを嬲りものにしないで!」
  2148.  と絶叫する。
  2149. 「うるさいわね。お前の心がけが悪いからさ」
  2150.  隣にいる妹の美津子が無残な晒しものになったと知ると、京子は、まったく逆上してしまう。
  2151.  必死に、悶え、あがき、そしてわめく。だが、それが何時かズベ公達に対する哀願になっていくのだった。
  2152. 「美津子だけは、お願い♢♢美津子だけは助けて♢♢」
  2153.  あえぐように、京子はくり返す。
  2154. 「じゃ、二度とあたい達に楯をつかないと誓うんだね」
  2155.  朱美にいわれて、京子は、すすりあげながら、決心したようにうなずくのだった。
  2156.  川田と森田は、顔を見合わせて笑い合う。
  2157. 「へっへへ、二人とも、全く可愛いお臍をしているぜ」
  2158.  川田は、立ち縛りの二人の美女の前へ、ふらふらする足どりで近づいて行く。
  2159.  京子も美津子もハッとし、申し合わせたように両足をぴったり閉じ合わすのだった。
  2160.  京子は、川田に対して、憤怒の色を帯びた眼を向ける。自分の一生をめちゃめちゃにした呪い殺してやりたい程の男なのだ。だが、京子は、そんな男に対しても、美津子の救いを求めねばならぬ現在であった。
  2161. 「川田さん、お願いです。美津子の縄を解いてやって、服を返してやって、後生です」
  2162. 「じゃ、おめえは、俺達には絶対服従するというのだな。はっきり返事しろい」
  2163. 「♢♢ふ、服従します」
  2164. 「社長と親分が、これから、きれいさっぱり剃りあげて下さるそうだが、文句はねえな」
  2165.  京子の美しい顔が、再び真っ赤になったが、もう一切をあきらめたような表情になった京子は固く眼を閉じて、うなずくのだった。
  2166.  川田は、相好をくずして、舌なめずりをする。
  2167.  そんな姿にされた京子を想像すると、川田はおかしくてしようがないのだ。空手二段の銑火娘も、これで完全に屈伏させたことになると、川田は、ぞくぞくした気分になり、そんな姿に京子をさせたのち、京子の妹の美津子を如何にいたぶるかを考え始めていた。
  2168.  
  2169.  
  2170.  
  2171. 第十章 翻弄される美女
  2172.  
  2173.  
  2174.     屈辱と羞恥
  2175.  
  2176.  川田は、口にした煙草に火をつけながら、屈辱と羞恥の極にある京子の顔をしたり顔して眺め、
  2177. 「へっへへ、じゃ、素直に社長と親分のお仕置を受ける気になったというんだな。二度と今のように暴れたりしやがると、おめえのかわりに美津子に仕置をするぜ。いいな」
  2178.  川田に、ピシャリと尻を平手打ちにされた京子は、身を震わせて、屈辱にむせび泣くのだった。
  2179. 「ちょっと、お待ちよ」
  2180.  仲間の者に注がれたウイスキーを一息に飲んだ朱美が、川田にいう。
  2181. 「今、性こりもなく、あたい達にさからった罰として、先に浣腸してやったらどうさ。それがすめば、この空手姐ちゃんもおとなしくなって、社長と親分のお仕置を喜んで受けることになると思うよ」
  2182.  つまり、暴れ止めの注射がわりに先に浣腸を行うわけよ、と朱美はいう。
  2183.  そいつは妙案だよ、とズベ公達は手を叩いて、離したてた。
  2184.  京子は、血の出る程、固く唇を噛んで、首をがくりと落とす。妹の美津子が、この悪魔達の虜になっていなければ、舌を噛んで、この地獄の屈辱から逃げることも可能なのだが、それすら許されぬ京子は、ただ身を固くし、葉桜団の暴虐な責めを待つより仕方がないのである。
  2185. 「今更、嫌とはいわせないよ。いいね」
  2186.  銀子も煙草の煙を、京子の顔に吐きかけながら、含み笑いしていう。
  2187. 「静子夫人もここへ御出馬頂こうじゃありませんか」
  2188.  川田が、田代に提案する。
  2189. 「京子姐さんが、こうして色々と、これからお仕置を受けなきゃならないのに、令夫人が引っこんだままなのは、不公平じゃありませんか。夫人の方も同罪なのですからね」
  2190.  川田の説明を聞くと、田代は成程と顔をくずした。
  2191. 「じゃ、令夫人も、ここへお連れしろ」
  2192.  身を固くしていた京子は、思わず顔をあげ憤怒のこもった瞳を川田と田代に向けた。
  2193. 「お願いです。もうこれ以上、奥様を、嬲りものにするのはやめてっ。お願いです」
  2194.  京子は、黒眼がちの美しい瞳をキラキラ涙で光らせながら、川田に哀願するのだった。
  2195.  川田と田代は、ニヤニヤと含み笑いをして顔を見合わす。
  2196. 「そうかい。じゃ、おめえは、奥さんの浣腸の分まで自分が引き受けるというのだな。二人分、計六十CCになるが、文句はねえな」
  2197.  川田は、唇を舌でなめながら、京子の顔を見る。
  2198.  京子は、再び眼を伏せて、屈辱に大きく肩を波打たすのだった。
  2199.  ならず者達の衆人環視の中でこのように晒されているという地獄の羞恥に、更に気も狂わんばかりの浣腸責めが加えられようとしているのである。京子は、もう人間的な感情を捨て切ったように顔をあげる。
  2200. 「私は、私はどうなってもかまわないけれど、美津子と奥様だけは♢♢」
  2201.  あとは言葉にならず、激しく鳴咽する京子だった。そんな京子のすぐ隣は、これも姉と同じく妹の美津子が、がっちりと緊縛された素っ裸を一本の鎖に支えられ、つま先立ちをしている。必死に両足をぴったり密着させている美津子は紅生姜のように真っ赤に染まった顔を掛く垂れ、すすりあげているのだ。軽く自然のウェーブのかかった初々しい黒髪に女学生らしい黄色いリボンが結ばれてあったが、それが、美津子のすすりあげるたび、小刻みに震えて妙に哀れっぽい。
  2202.  川田は、そうした状態の美しい姉妹を眺めていたが、
  2203. 「そんなにまでいうなら、美津子と静子夫人を酒の肴にするのは、かんべんしてやろう。そのかわりおめえは、俺達や葉桜団のいう事にゃ絶対、服従だぞ。いいな」
  2204.  川田に再び弾力のある尻を平手打ちされ、京子は消え入るようにうなずくのだった。
  2205. 「じゃ、準備にかかろうか。六十CCの浣腸のためにね」
  2206.  朱美が酒に酔った足を、ふらふらさせながら、仲間の者達に指図する。
  2207.  ズベ公達は、キャッキャッ騒ぎながら、隅から大きなテーブルを持ち出して来る。
  2208.  悦子とマリが、京子を縛ってある縄尻を鎖から外し、鎖の先端に一米位の青竹を横にしてつなぎ止めた。悦子の合図で、青竹をつないだ鎖は、ガラガラと音を立て、上方へ上っていく。次に、テーブルが、その下へ置かれた。
  2209. 「さ、京子姐さん、そのテーブルの上に、仰向けにお寝んねするのよ」
  2210.  悦子が、京子を縛ってある縄尻を取って、どんと、京子のスベスベした背を突いた。
  2211.  テーブルのすぐ上に、鎖に中央部をつなぎ止められた青竹が、ゆらゆらと揺れている。京子は、ハッとして真っ赤になった顔を横に伏せた。ズベ公達が、どのようなポーズを自分に強いるのかが京子にわかり、体が硬直して、悦子に背を突かれても、京子は足を踏み出さない。
  2212.  川田が、声をかけた。
  2213. 「浣腸の最中に縄が解けちゃまずいぜ。どこかゆるんでねえか、よく点検しろい」
  2214.  ズベ公達は、京子の縄を調べ始める。背中に高々と縛り合わされているところを更に唾して固く結んだズベ公達は京子の前へ廻り、豊かな乳房の上下をしめあげている二本の麻縄を握ったりして試し、
  2215. 「大丈夫だよ。これだけ固くしめてありゃ、どんなに暴れたって、ゆるむもんかね」
  2216.  さあ、皆んな、手をかしな、と、銀子の合図で、京子は数人のズベ公達に寄ってたかって、担ぎあげられてしまうのだった。
  2217. 「よいしょ、こらしょっ」
  2218.  ズベ公達は、担ぎあげた京子をテーブルの上へ乱暴に置く。
  2219. 「ああ!」
  2220.  京子は、テーブルの上へ投げ出されるや、本能的に足をすくめ、横に身を伏せようとするのだった。
  2221. 「何をしているんだよ」
  2222.  朱美が鎖につないである青竹を引き寄せてどなった。
  2223.  ズベ公達は、京子の両足首を青竹の両端に縛りつけようとするのだ。
  2224.  京子は、ぴったりと両腿を閉じ、歯ぎしりして鳴咽する。
  2225. 「まだ、あたい達にさからう気なのかい。美津子の方に代りをさせるよっ」
  2226.  京子が、そうされまいとして両肢をカを入れると、朱美が舌打ちしていうのだった。
  2227.  川田が、ニヤリと顔をくずして、近づいて来る。
  2228. 「へへへへ、京子姐さん。可愛い妹を助けてえのなら、女達にさからっちゃいけねえな。空手を使って散々暴れたおめえじゃねえか。こうなりゃ、いさぎよく観念して、葉桜団のお仕置を受けなきゃ駄目だよ」
  2229.  川田や朱美に、美津子を代りに立てるぞと再三おどかされた京子は、もう一切をあきらめたように両肢のカを抜くのだった。朱美と銀子の手が京子の左右の足首にかかる。遂に京子のすらりとした形のいい両肢は左右に開かれ、青竹の両端に足首は縄でゆわえられてしまうのだった。京子の美しい顔は火のように真っ赤になる。
  2230. 「さあ、青竹を吊り上げて、この阿女を逆さに、うんと持ちあげるんだ」
  2231.  朱美に命令されたズベ公達は、よいしょ、よいしょと鎖を引く。
  2232.  ギイギイと鎖はきしんで、青竹が徐々に上へあがり、京子の肉ヅきのいい両肢が、それにつれて、上へたぐり上げられていく。
  2233. 「ああー」
  2234.  京子は、激しく首を振って、気が狂いそうになる屈辱を耐えているのだ。
  2235.  適当なところで青竹は停止し、京子はテーブルの上に仰向けになったまま、両の足首を高々と上へあげているという、言語に絶する姿を晒しているのだった。
  2236. 「ふ……、いい恰好ね」
  2237.  銀子は、テーブルの上の京子にいう。非情な麻縄に固くしめあげられ、くびれるばかりになっている京子の乳房を指ではじいた銀子は、ちらと、すぐ傍で立ち縛りにされている美津子の方を見た。
  2238.  黒真珠のように美しい美津子の瞳には、霧のような涙がにじみ、キラキラ光っている。
  2239.  どうか、姉を許して下さい、と哀願するようなそのキラキラする美津子の瞳を見ても、銀子は何の感情も起こらぬようだ。いや、それだけではない。少女が美しく可憐であるだけに、むしろ、もっといじめてみたいという倒錯的な心理に変っていくのである。
  2240.  銀子は、残忍なものを眼の中へ浮かべて、美津子にいった。
  2241. 「ねえ。あんたのお姐さん、これから、皆んなの見ている前で六十CCの浣腸を受けるのよ。助けてあげたくはない?」
  2242.  美津子は、銀子のその言葉にすがりつくように、恥も外聞も忘れたように哀願する。
  2243. 「お願いです。姉さんを、姉さんを助けて下さい!」
  2244.  銀子は、何か意味ありげに口元を歪めて笑う。
  2245. 「そう。じゃ姉を思う妹の気持に免じて、姉さんにこれからする六十CCの浣腸を、三十CCにへらしてあげるわ。その代り、姉さんからへらした三十CCは、貴女が受け持たなくちゃ駄目よ」
  2246.  それを聞く美津子の顔からは一瞬血がひいたようになったが、テーブルの上で、逆さにきびしく縛りあげられている京子も、激しく身悶えして叫び出すのだった。
  2247. 「そ、そんな事を美津子にしたら、承知しないわよっ。美津子には何の罪もない。約束が違うじゃないの!」
  2248.  京子は、青竹に吊られている両肢をくねらせながら、泣きわめくのだった。
  2249. 「美っちゃん、きっと誰かが救い出してくれる。負けちゃ駄目よ。姉さんの事は心配しないで! こんな連中と口をきいちゃ駄目よ」
  2250.  京子は必死になって、美津子にいうのだった。そして、京子は、周囲のズベ公達に、
  2251. 「貴女達も人間なら約束だけは守って頂戴。美津子には手を出さないで! さあ、私を責めるなら、早く責めて、六十CCでも、百CCでも、か、覚悟はできています」
  2252.  そう言い切ると、テーブルの上の京子は、たまらなくなったように、声をあげて泣き出すのだった。
  2253.  銀子と朱美は、顔を見合わせて舌を出す。
  2254.  朱美は、仲間のズベ公達にいった。
  2255. 「テーブルをもう一つ、それに青竹と縄を持って来な。せっかくだから、姉妹仲く並ばせて浣腸してやるんだ」
  2256.  京子は、それを聞くと逆上したようにテーブルの上でのたうち廻る。しかし、厳重にかけられた麻縄はビクともするものではない。ただ、無暗に空間に突き別している両肢を悶えさせるだけで、ズベ公達はそれを見て声をたてて笑うのだった。
  2257.  耳たぶまで朱に染めて、首を垂れ、震え出した美津子の縄にしめあげられている白桃のような乳房をつついた朱美は、
  2258. 「いいかい、お嬢さん。テーブルの上に乗っかったら、姉さんのように、青竹の上へ足首を乗せるんだよ」
  2259.  
  2260.  
  2261.     身代りにたつ夫人
  2262.  
  2263.  何かを思いついたように川田はふと地下室から出て行ったが、間もなく、静子夫人を引き立てて戻ってきた。
  2264.  田代と森田に散々痛めつけられた静子夫人は、身も心も疲れ果てたような乳白色の素肌を後手に縛りあげられたその縄尻を川田に取られ、よろめく足を踏みしめるようにして地下室へ降りて来たのだ。夫人の腰には紫地の色褌がしめられている。
  2265.  地下室では、京子の隣に同じくテーブルがすえられ、美津子がズベ公達の手で、その上へ仰向けにさせられているところであった。
  2266.  テーブルに平行するように上から垂れ下っている青竹に、ズベ公達は美津子のしなやかな両肢を開いて、足首を縛り止めようと懸命である。
  2267. 「嫌っ、嫌です。ああ、お姉さん、助けて」
  2268.  美津子は、狂乱して、両肢をばたつかせ、絶叫する。姉に助けを求めても、その京子は全身を台の上に固定され、どうしようもないのだ。
  2269. 「ち、畜生、悪魔っ、けだものっ、よくも美津子まで♢♢」
  2270.  京子は、台の上で、どうしようもない身を悶えさせ、わめきつづけているだけだ。
  2271.  遂に美津子は、ズベ公に足を取り押さえられ、青竹の両端へ開かされてしまう。ズベ公達は、素早く縄をかけるのだった。
  2272. 「ああ♢♢お、お姉さん!」
  2273.  美津子の全身は、火柱のように赤く燃え立つ。
  2274.  清純で無垢な十八の乙女が、けだものに等しい人間達の環視の中で、そのような姿をさらさねばならぬとは、京子は、妹の気持を思うと、気が狂いそうになる。
  2275. 「やれやれ、ずいぶんと骨が折れたよ」
  2276.  悦子とマリは、美津子を姉の京子と同じような恰好に縛り止めると、ほっとしたように川田の方を見た。
  2277. 「どう。そこから見りゃ、たまらない眺めでしょう」
  2278.  実際、田代も森田も、自分達が坐っているところからのこの美人姉妹の逆さ縛りの姿態が、あまりにも見事なので、呆然としていたのだ。
  2279.  田代と森田の間に立膝をして小さく坐っている静子夫人が、たまらなくなったように首をあげ、涙にうるんだ切長の美しい眼を川田に向けた。
  2280. 「川田さん、貴方は、な、何という、何という恐ろしい人なの」
  2281.  静子夫人は、柔軟な白い肌を振るわせいうのだった。
  2282. 「ふん、今更、何をいいやがる。おめえにわざわざここへ来てもらったのはな、その台の上の京子姐さんと美津子嬢が、自分達が浣腸され、排泄するまでをぜひとも奥様に見て頂きたいとうるさく頼むからなんだぜ。先輩として、批評をしてやってもらいてえんだ。ふふふ」
  2283.  川田のその言葉が耳に入ったのだろう。台の上に固定されている京子と美津子はひときわ激しく泣き出す。
  2284. 「用意にかかろうかね」
  2285.  朱美は、悦子の方に眼くばせをする。
  2286.  あらかじめ用意されてあったらしいガラス製の三十CC浣腸器が二本、それに洗面器、ブリキ製の便器などが、ズベ公達の手で持ちこまれて来る。
  2287.  静子夫人は、チラとこれを見ると、たまらなくなったように左右に坐ってこヤニヤしている森田と田代に、必死になって哀願し始めるのだった。
  2288. 「お願いです。京子さん達を許して! 私が、私が悪かったのです」
  2289.  静子夫人は、自分を救出しようとしてこの家へ忍びこんだ京子が、もうこれ以上、悪魔達の嬲りものになるのを見てはいられない。京子がこのような恐ろしい目に遭わねばならぬ羽目となったのも、つまりは自分のためなのだと静子夫人は、京子とその妹の美津子の身代りに自分がなると、三人の男達に泣きじゃくりながら哀願するのだ。
  2290. 「なるほどね。やっぱり、上流社会の令夫人ともなりゃ心がけが違うよ。京子がこんな事になったのも自分の故だから、身代りになりてえとおっしゃる。どうしましょうかねえ、社長」
  2291.  川田は、いやらしく笑いながら田代の方を見る。
  2292. 「とか何とかいって、本当は奥様だって浣腸をしてほしく、うずうずしてるんだろう」
  2293.  田代は、横で立膝をして、屈辱に身を震わせている静子夫人の美しい顔を、のぞきこむようにして、そんな事をいう。
  2294.  夫人は、口惜しさに歯をキリキリ噛み、憤怒に燃えた眼を田代に向けるのだった。
  2295. 「たまらねえな。そんな風に怒った顔をすると、ぞっとするような色気が出るぜ」
  2296.  田代は、隣の森田の肩をつつくようにして笑った。
  2297. 「じゃ、奥さん。この二人を助けるためなら、どんなひどい目に合わされても、かまわねえというんだな」
  2298.  川田は、静子夫人の顎に手をかけて、その美しい顔をぐいと上へこじあげた。
  2299.  静子夫人は、観念したように眼を固く閉じ、かすかにうなずく。
  2300.  今更、どんなひどい目にあってもいいかとおどかされても、これまで死ぬより辛い恥ずかしい目に遭わされつづけている彼女である。自分を救おうとして、この面白半分な嬲りものになってしまった京子と妹の美津子の身代りになろうと、静子夫人は悲痛な決心をしたのだった。
  2301. 「そうかい。じゃ、奥さんが、どれはど俺達に忠実になったか、テストさせて頂きましょうか」
  2302.  川田は静子夫人の縄尻を取って立ち上らせる。
  2303.  川田に耳打ちされた朱美が、あいよ、と顔をくずして、隅のハンドルに手をかける。
  2304.  天外から再び鎖が一本、がらがらと下って来た。静子夫人は、テーブルの上に固定されている京子と美津子を背後に、そして、ニヤニヤして酒をくみ交している田代と森田を正面にして形で、縄尻を鎖につなぎ止められてすっくと乳白色の肉づきのいい体を立たされているのだった。
  2305.  川田は、そんな静子夫人の横に立ち、眼の前の田代と森田に向かっていった。
  2306. 「じゃ、社長と親分はしばらく酒を飲んで、そのまま、待っていて下せえ、今、朱美と銀子と相談して、この奥様のお仕置を考えますから」
  2307.  お前達も社長さんのお酒の酌でもしてな、と川田にいわれたズベ公達、思い思いに田代と森田の周囲に陣どって、にぎやかにウイスキーを飲み、スルメをかじり出す。
  2308.  そんな喧噪の中で、これからどのような嬲りものにされるのかと身も凍る思いで震えている静子夫人を取り囲んでいる川田、銀子、朱美の三人は何やら笑い合いながら相談し合い、それを首を垂れつづけている夫人の耳元に口を寄せて何やら告げている。
  2309.  川田と銀子が交互に夫人に何か告げるたび、静子夫人の美しい瓜実顔にパッと血の気が浮かび、ああーと首をのけぞらせて、静子夫人は嫌々をするように、真っ赤な顔を左右に振っている。
  2310.  アルコールによどんだ眼を、そんな静子夫人に向けていた田代と森田は、組んだ足を解いて、腰をうかせながら、
  2311. 「ずいぶんと時間がかかるじゃねえか。まだ打ち合わせがすまねえのか」
  2312.  と、待ち切れなくなったように怒鳴る。
  2313.  川田は、ペコリと田代達に頭を下げ、再び静子夫人の縄にくびられている豊満な乳房を指ではじきながらいう。
  2314. 「じゃ、奥さん、いいね。今、教えた通りの事を、社長と親分に宣誓するんだ。実に簡単な事じゃねえか。さ、始めな」
  2315.  川田にそういわれた静子夫人は、もう一切をあきらめたように美しい顔をあげ、眼を閉じたまま、唇を小さく開くのだった。
  2316. 「♢♢色々と、御面倒を、お、おかけ致しましたが、遠山静子、二十六歳は、心を入れかえ、本日より、森田組のため、い、い、一生懸命、働く事を、ち、ち、背います♢♢」
  2317.  静子夫人は、血を吐く思いで、そこまでいうと、がっくりと首を落とし、肩を震わせて口惜しさに鳴咽する。
  2318.  銀子と朱美は、激しく泣きじゃくる静子夫人の顔を下からのぞきこむように見て、
  2319. 「ふ……、奥さんも大分素直になってきたようね。えらいわ。だけど、そんなに泣いてちゃせっかくの美しい顔が台なしじゃないの」
  2320.  銀子は、ハンカチを出して、静子夫人の涙を拭き出す。
  2321.  川田は、田代に注がれたウイスキーを口をとがらせて吸いこみ、再び、静子夫人のもとに戻ると、
  2322. 「さて、奥さん、次は、あんたの得意の小唄をお酒の余興として、社長と親分に聞いていただこうじゃないか」
  2323.  それを聞くと、田代は肩を乗り出すようにして、
  2324. 「ほほう。この奥さん、小唄ができるのかい?」
  2325.  川田は得意顔で、
  2326. 「できるってもんじゃありませんぜ。この奥さんは、れっきとした小唄の名取りでさあ。小唄だけじゃなく、日本舞踊、それに、お茶、お花、すべて一流ですよ。これだけの美貌と教養、その上、この見事なおっぱいにおヒップ。どうです、これだけの玉は、山と金を積んでも、手に入るもんじゃありませんぜ」
  2327.  川田は、鼻をムズムズさせながらいう。
  2328. 「なるほどな。遠山財閥の令夫人だけの事はある。それを森田流に飼育するんだから、これはど男冥利につきる事はないよ」
  2329.  田代は、太鼓腹をゆすって喜ぶ。
  2330.  社交界の花形でもあった実貌と教養に包まれた令夫人が、今は、その豪華な衣類はことごとく剥ぎ取られ、雪のように艶やかな肌を隠すものは紫地の色褌一本というみじめな姿をきびしく緊縛されて、晒しものになっているのである。
  2331. 「じゃ、日本舞踊の方は、いつか拝見させてもらうとして、一つ、今夜は、名取りの小唄ってのを、じっくり聞かせてもらおうか」
  2332.  いささか、その道を学んでいる田代は、興味を覚えたらしく、身を乗り出すのだった。
  2333.  川田は、静子夫人の頼をつつき、
  2334. 「奥さん。よかったね。田代社長は小唄が趣味なんだよ。銀子や朱美なんぞは、酒の席の余興にバナナなんかを使って、とんでもねえ事を奥さんにさせようとしてたんだぞ。芸は身を助けるってのはこの事だ。三味線はねえが、一ついい喉をきかせて社長を喜ばしてあげな」
  2335.  小唄を歌うだけで、ズベ公達が考えていたひどい責めは免れるとはいうものの、丸裸に祥一本の屈辱的な姿で、小唄を歌わねばならぬ情けなさ。静子夫人は、唇を固く噛みしめてうなだれてしまう。
  2336. 「それとも、朱美好みの責めの方がいいっていうのかい」
  2337.  川田に耳元でいわれた静子夫人は、ハッとしたように首をあげ、
  2338. 「ぅ、唄います。その代り、川田さん」
  2339. 「なんだ」
  2340. 「それで、京子さんと妹さんは、嬲りものにしないと約束して下さいますか?」
  2341.  川田は、ニヤニヤとして、
  2342. 「そら、田代社長の機嫌が、お前さんの小唄でよくなったらの話だ。さあ、うんと色っぽいやつを頼むぜ」
  2343.  静子夫人は、眼を固く閉じ、静かに美しい顔をあげた。川田は、田代に向かっていう。
  2344. 「社長、何かリクエストしておくんなさい。何しろこの奥さんは名取りさんですからね。何でも知っているでしょうが、もし、希望に応じられなかったら、女達に責めさせる事にしようじゃありませんか」
  2345.  なるはど、と田代はうなずき、意地悪く清元の雁金を希望し、それも唄う個所まで指定する。
  2346.  静子夫人は、肩まで垂れかかっている房々とした黒髪を後へ跳ねあげると、眼を閉じたまま唄い始めた。
  2347. 「さすがに教養高い令夫人だ。社長のリクエストにあっさりと応えましたね」
  2348.  森田が、田代の横顔を見ていう。
  2349.  田代は、感服したように静子夫人の美しい声に耳をかたむけている。洗練され、格調があり、色香を感じさせるその声色は、小唄や清元なんかとは縁のないズベ公達までうっとりと聞き惚れてしまう。
  2350.  ※櫛のしずくか、しずくか露か、
  2351.     濡れて嬉しき朝の雨♢♢
  2352.  川田は、森田と顔を見合わせて、ニヤニヤし、歌っている静子夫人の縄にしめあげられている、はち切れるばかりに豊かな乳房、形のいい臍、そして、むくむくと白い脂の乗った肉づきのいい太腿、股間を固くしめあげている紫地の色褌などに眼を注ぎつづける。
  2353.  静子夫人は、自分の背後で、無残な姿に縛りつけられている京子と美津子を救うのだとそれだけを胸の中でくり返しつつ、血を吐く思いで、やっと、一節を唄い終り、急にカが抜けたように、がっくりと首を落とすのだった。
  2354. 「見事だ」
  2355.  田代は、感激したように拍手をする。ズベ公達も、一斉に手を叩いて口々にいう。
  2356. 「全く、この奥さん、顔もきれいだが、声もきれいだね」
  2357.  静子夫人は、屈辱を必死にこらえるようにして、顔をあげる。
  2358. 「こ、これで、京子さんと妹さんは許していただけますね。お願い、川田さん。京子さん達の縄を解いてあげて下さい」
  2359.  川田は、わざとらしくゆっくり煙草に火をつけて、
  2360. 「なかなかいい声だったよ。社長さんもすっかり御機嫌がよくなったようだ。だから、ここから逃げ出そうとした事に対するお仕置はそれで棒引きにしてやろうじゃないか。どうです。社長」
  2361.  川田は、意味ありげに田代の方を見る。
  2362. 「よかろう。俺も、かなり小唄や清元に熱中したが、こんないい声を聞いた事はない。さすがは遠山財閥の令夫人だ」
  2363.  田代は、おろおろした表情の静子夫人から眼をそらせるようにしていうのだ。
  2364.  川田が続いていう。
  2365. 「だが、それだけじゃ、後ろの京子と美津子のお仕置を中止するわけにゃいかねえ。もうひと気張りしてもらわなきゃあね。なあ、朱美」
  2366.  川田は朱美と銀子の方を向いていうのだ。
  2367.  朱美は、口元を歪めて、静子夫人の横に立つ。
  2368. 「ふん。いくら小唄の名取りか知らないけれど、唄うだけで、京子達の身代りになれた気でいるのかい。虫が良すぎるよ、令夫人」
  2369.  朱美は、いきなり、夫人の尻をつねりあげるのだった。
  2370.  静子夫人は、悲鳴をあげて身悶えしながら半分、捨鉢になったように叫ぶ。
  2371. 「一体、ど、どうしろというのです。どうすれば貴女達の気がすむのです!」
  2372.  そんな状態の静子夫人の後方では、台の上に仰向きに縛りあげられ、両足を高々と吊られている京子が、自分の立場も忘れたようにたまらなくなって声をあげた。
  2373. 「奥様、お願いです。私達の事はかまわないで! こんな、けだもの達の口車に乗らないで下さい!」
  2374.  京子は、吊られている両足をくねらせるようにして、泣き叫ぶのだった。
  2375.  悦子が眼をつり上げて、狂乱状態の京子の横面を激しくひっぱたく。
  2376. 「うるさいよっ、おとなしくしないと、隣の美津子を痛めつけるわよ」
  2377.  悦子は、ナイフを出して、京子のすぐ隣にこれも京子と同様、台の上に縛りつけられ、両肢だけを高々と吊られている妹の美津子の体のあちこちをつつく。
  2378.  絹をさくような美津子の悲鳴。京子は、それを聞くと、もうどうしようもないように身悶えする事をやめ、顔を横へ伏せて、すすりあげるのだった。
  2379. 「ふん。姉妹揃ってケツの穴まで晒しながら生意気な口をきくんじゃねえ」
  2380.  川田は、舌打ちしてそういうと再び、視線を静子夫人に向ける。
  2381. 「何だかバタバタしたが、どうでい奥さん。後ろの京子と美津子をお前さん、本当に助けてやりたいのだね」
  2382.  静子夫人は、睫毛の長い美しい瞳を哀願的にしばたきながら川田を見て、はっきり意志を表示するようにうなずくのだったが、どのような辛い目を川田は自分に与えるのかと静子夫人の見事な肉体は、意志に反して、小刻みに震えるかのようだった。
  2383.  銀子と朱美は川田を中にはさむようにして何やらひそひそ相談し始める。如何に静子夫人をお仕置するかの相談に違いないが、思いきって、……やろうか、とか、……責めがいい、とか、想像するだに恐ろしい言葉が、うなだれている静子夫人の耳に入って来る。
  2384.  何か話がまとまったらしく、川田は、唇を舌でしめしたが、体を硬化している静子夫人に近づいて来た。
  2385.  川田は、震えている夫人の耳元に口を寄せる。
  2386. 「奥さん。一応、こういう責めなんだがね」
  2387.  ニヤニヤしながら、夫人の耳元で何か、ささやく川田。静子夫人の美しい顔は火のように真っ赤になった。
  2388. 「嫌よ、ああ嫌。そんな事だけは、か、かんにんして♢♢」
  2389.  静子夫人は、房々とした艶のある黒髪を激しく左右に振って、泣きじゃくる。
  2390. 「今更、嫌とはいわせねえぜ。京子と美津子をどうしても助けてえと、見得を切ったくせに悲鳴をあげるとは何でえ」
  2391.  川田は、せせら笑いながら、銀子達の方へ目くばせをする。
  2392.  静子夫人は、美しい艶やかなうなじを大きく見せて、あえぐように顔をのけぞらせ、
  2393. 「後生です。そ、そんな事だけは、かんにんして♢♢嫌、嫌。ああ嫌♢♢」
  2394.  うわ言のように叫びつづける天女のような静子夫人の泣顔を川田は、うっとりするように見つめていた。
  2395.  
  2396.  
  2397.  
  2398. 第十一章 淫蛇の執念
  2399.  
  2400.  
  2401.     裸踊り
  2402.  
  2403.  均整のとれた美しい乳白色の肉体を火柱のように燃え立たせて、静子夫人は激しく首を振り、川田に許しを乞いつづける。
  2404.  それを眺めていた田代は、
  2405. 「一体、どういうお仕置を考えついたんだ。川田♢♢」
  2406.  と、ウイスキーのグラスをロへ運びながらいう。
  2407. 「へっへへ、女である限り、一度はさせてみてえ責めなんですよ。葉桜流、悦虐責めッてやつなんで♢♢」
  2408.  と、川田は、その方法を、田代の耳元でニヤニヤして小声で告げる。
  2409.  田代の顔も、それを聞くと、しわだらけにくずれたが、
  2410. 「だが、そういう色責めは、もう少しなれさせてからの方がよくないか。何も一度に責め抜く事もあるまい」
  2411.  つい、今しがた静子夫人の唄った清元のすばらしさに陶然としてしまった田代は、このように日本的な素養を持つ淑やかな夫人を葉桜団好みの淫らな嬲りものにするのに、いささか気がとがめ出したらしい。
  2412. 「川田、この奥さん、踊りの方も、相当なものだといったな」
  2413. 「へい、踊りの方も立派な名取りの腕前ですよ。何とかの会という上流階級の有閑婦人だけの踊りの会があるのですが、そこの会長がこの奥さんでさあ」
  2414.  川田の説明を聞くと、田代は満足げにうなずいて、
  2415. 「じゃ、一つ、奥さんの見事な踊りを拝見させてもらおうか」
  2416.  田代は、静子夫人の日本舞踊を所望する。
  2417.  川田がズベ公達の手でさせようとした淫らな責めは免れたとはいうものの、こうした野卑な人間達の中で、踊らされるという口惜しさ。静子夫人は固く唇を噛んで、美しい顔を横へ伏せる。
  2418.  川田が近づいて、静子夫人にいう。
  2419. 「奥さん。よかったね。葉桜団は、あんたをこたえられねえ恥ずかしい責めにかけようとしていたんだが、社長のお情けで、今日のところは、かんべんしてもらえたよ。だから、一生懸命に踊って、社長の御機嫌をとらなきゃ駄目だぜ」
  2420.  そういいながら、川田は、静子夫人を縛めている麻縄を解き始める。
  2421.  肌身に喰いこんでいた固い縄が解かれた静子夫人は、ふらふらとその場にくずれるように膝をつき、陶器のように白い腕を交錯するようにして肩を抱くと、ほっと息をつくのだった。長い間、緊縛されていたため、肩から腕の附根あたりが麻痺したように重い。
  2422.  ふと、静子夫人は涙にうるんだ切長の瞳を京子と美津子の方へ向ける。
  2423.  二人の美しい姉妹は、二つのテーブルの上へ、各々、仰向けに固定されている。すらりとした白い両肢は、上より吊り下げられている青竹の両端に縛り止められ、言語に絶するあられもない姿をさらしているのだ。
  2424. 「ああ、京子さん」
  2425.  静子夫人は、京子とその妹のあまりにも無残なその姿を見ると、たまらなくって、二人の縄を解こうとして、かけ寄るのだった。
  2426. 「勝手な事、するんじゃないよ!」
  2427.  朱美が横手から足を出し、走り寄ろうとした静子夫人の脛を払う。
  2428.  あっと、その場へ転倒した静子夫人の柔軟な体の上へ馬乗りになった朱美は、
  2429. 「二人を助けたいのなら、やるだけの事をしなくちゃ駄目じゃないか」
  2430.  二、三発、豊満な尻を平手打ちされて静子夫人は引き起こされ、銀子は赤い扇子を夫人の前に投げる。
  2431. 「さあ、その扇子を拾って、踊りな。唄は社長にお願いしようよ」
  2432.  静子夫人は、屈辱にむせぴながら、土間に投げられた扇子を拾ったが、久しぶりで自由にされた両手は本能的に豊かな二つの乳房を抱き、両膝をぴっちりと合わせて、その場に小さく、ちぢかんでしまうのだった。
  2433.  そうした水々しい、娘らしさを失わぬ美貌の静子夫人を、田代は舌なめずりするように見て、
  2434. 「じゃ、奥さん、下田のお吉でも踊って頂こうかね」
  2435.  朱美が、ちぢかんでいる静子夫人の横へ、かがみこむようにして、
  2436. 「社長、全ストにしてしまいましょうか」
  2437.  と、田代に聞く。
  2438. 「まあ、今日のところは褌ぐらい、はかせてあげな。日本舞踊も小唄と同様、名取りでいらっしやる令夫人を、全ストで踊らせるのはかわいそうだ」
  2439.  静子夫人は、思わず両手で顔を青い、泣きじゃくる。
  2440.  そんな夫人の背を、足で突いた朱美は、
  2441. 「褌をとるのは、かんべんしてあげるとさ。社長のお情けに感謝して、さ、踊ったり、踊ったり」
  2442.  続いて、田代は、一杯機嫌で、ガラガラ声をはりあげ、端唄を歌い出す。
  2443.  京子と美津子を、この地獄の責めから救うためだと、静子夫人は自分の心にいい、我が身にムチ打つ思いで立ち上った。
  2444.  田代の奇妙な節廻しに合わせ、静子夫人は褌一本を腰に巻かれた屈辱的な裸身を、くねらせるようにして踊り始めた。
  2445.  そんなところへ、どやどやと森田の乾分達が七、八人、階段を降りてやってくる。
  2446. 「何でい。こんな面白い事が始まってるのなら、俺達にも知らせてくれたら、いいじゃねえか」
  2447.  森田組の幹部の吉村が、葉桜団のズベ公達に、口をとがらせていう。そして、台の上に半吊りにされた恰好で縛られている、京子と美津子に気づき、大声で笑い出した。
  2448. 「静かにしねえか。今、遠山令夫人が、その二人を救おうとして一生懸命に踊ってなさるんだ。手前達もそのへんに坐って、ゆっくり見物しろい」
  2449.  森田が、乾分達にどなった。
  2450.  酒気を帯びている男達は、じゃ、見物させていただきやしょう、とそのへんに散らばって腰をおろし、手にしているビールをラッパ飲みしだした。
  2451.  男達が加わった事で、いたたまれなくなった静子夫人は、その場へ伏せてしまいたくなるのを必死にこらえ、唇を血の出るほど噛んで、踊りつづけるのだった。
  2452.  やっと、一節が終わると、葉桜団も森田組もわあーと声をあげて拍手する。
  2453.  静子夫人は全身からカが抜けたようにふらふらと、その場へくずれてしまう。
  2454.  静子夫人が気も狂いそうになる羞恥と戦いながら、踊っている最中、男達は、いいおっぱいしてやがる、とか、たまらないぜ、その腰つき、とかいって、夫人を揶揄しつづけていたが、今、眼前にカ尽きたようくずれている夫人に対し、
  2455. 「奥さん、もう一曲、頼むぜ。今度は、カッボレだ。俺達が合唱するからな」
  2456.  と、浴びせかける。
  2457.  静子夫人は、土間に泣きくずれながら、嫌、嫌と首を振る。もうこれ以上、鬼蓄に等しい人間達の嬲りものに耐えるカは、静子夫人にはなかった。しかし、
  2458. 「男達の気分を悪くすると、面倒な事になるぜ。さ、奥さん。もう一曲、がんばるんだ」
  2459.  川田が、土間へ顔を埋めるようにして泣きつづけている静子夫人の白い背を指で突く。
  2460.  男達の希望に応えないと、京子と美津子はやっぱり、予定通り、浣腸責めにかけるという川田の言葉を聞くと、静子夫人は、ふらふらと立ち上った。
  2461.  男達は、拍手をし、ズベ公達と一緒になって、カッポレを歌い始める。
  2462.  ※カッポレ、カッポレ、よいとな、よいよい
  2463.  静子夫人は、毒喰らわば皿まで、といった気持で、その動きの早い踊りを始める。
  2464.  はち切れんばかりに見事な乳房が、身の動きに合わせて揺れ動くのだ。
  2465. 「さすがだね。名取りだけの事はあるよ。ちゃんと踊りの型に入ってる」
  2466.  田代は、褌一本で踊らされている静子夫人であるが、その艶麗な身のこなし方に感服したらしく、隣の森田にそういうのだった。
  2467.  ようやく、カッポレを踊り終えた静子夫人は、再び、土間に身を低め、両乳房を両手で隠しながら、激しく息づき、涙にうるんだ美しい切長の瞳を田代に向ける。
  2468. 「こ、これで、するだけの事は致しました。どうか京子さん達を許してあげて下さい。お願いです」
  2469.  静子夫人のうるんだ瞳から、屈辱の口惜し涙が一筋二筋、白い頬を伝って流れ落ちる。
  2470.  
  2471.  
  2472.     おしめを使う夫人
  2473.  
  2474.  田代は、凄惨なばかりに美しい静子大人の容貌に射すくめられたように視線をそらせ、川田の方を見る。
  2475. 「これからあとの事は、お前に一任するよ。どうするかね?」
  2476.  川田はニヤニヤして、静子夫人の横へ、しゃがむ。
  2477. 「後の、しめくくりが大切だよ。奥さん」
  2478.  川田は朱美から、麻縄の束を受け取って、
  2479. 「さて、元通りに縄をかけるから、お手々を後ろへ廻しな」
  2480.  川田に背を突かれた静子夫人は、ベソをかきそうな表情でいう。
  2481. 「そ、その前に、京子さんと美津子さんの縄を♢♢」
  2482. 「うるせえ。言われた通りにしねえと、お前さんの今までの努力は何にもならなくなるぜ」
  2483.  静子夫人は、眼を閉じ、口惜しさを呑みこむようにして、両乳房を覆っていた両手を解き、静かに後ろへ廻すのだ。
  2484. 「本縄をかけるんだ。誰か手伝って下せえ」
  2485.  川田は、森田組の男達に声をかける。
  2486.  幹部級の吉村と井上が、含み笑いして立ち上り、やって来た。
  2487.  観念して、両腕を背中に廻し、固く眼を閉じている静子夫人の艶やかな白い首へ手垢のついた麻縄が二巻きほど巻きつく。かつては何十万円もする豪華な首飾りがかかった夫人の白いうなじに、今はどす黒い首縄がかけられるのである。
  2488.  更に、形のいい見事な夫人の乳房の、一つ一つに縄の枠がかけられ、ことさら乳房は、大きくくびれた形になる。背後に交錯している夫人の両手首を頑丈に縛り合わせた川田は縄尻を引いて、夫人を強引に立ち上らせた。
  2489.  静子夫人は、もうどうともなれ、とすっかり観念したらしく、川田のするままになっている。川田は、元通り、縄尻を天井から下っている鎖につなぎ止めて、夫人を田代達の前へ立たせる。
  2490. 「はほう。そういう本縄をかけると、遠山夫人、ますます美しく見えるじゃないか」
  2491.  田代は、眼をギラギラさせながら、そういった。
  2492.  川田は、更に別の麻縄を持ち出して来て、
  2493. 「へっへへ、もっと美しく見えるよう、今仕上げて御覧に入れますよ」
  2494.  と田代にいい、恐怖に頬を強ばらせている静子夫人の眼の前に、手にしている麻縄を突きつけるようにして、川田は口元を歪める。
  2495. 「奥さん。すばらしい小唄と踊りを見せて頂いたお礼に、今、すばらしい縄をかけてあげるぜ。川田式、股間縛りというやつさ」
  2496.  股間縛り♢♢一体、それはどんなものなのか、静子夫人は知る由もないが、何か恐ろしいものに違いないことはわかる。
  2497.  銀子が、煙草をくゆらせながらいう。
  2498. 「そうそう。この奥さんにも、そろそろ、そういう縛りになれさせたいと思っていたところさ。色褌は、今日で卒業ってわけね」
  2499.  銀子は朱美に目くばせをし、どうんようもない静子夫人の背後へ廻ると、腰に固く喰いこんでいる紫地の褌の紐を解きにかかる。
  2500.  静子夫人の背後で、褌の結び目に手をかけていた銀子と朱美がふと手を止めて、何かニヤニヤしながら話し合っていたが、川田に向かっていい出した。
  2501. 「川田兄さん。股縄をかけるなら、その前にすますものは、すましておいてやらなきゃ、かわいそうじゃないか。そいつをかけられてからじゃ、粗相するにも出来なくなっちゃうんだからね」
  2502.  それを聞くと、川田は声を立てて笑う。
  2503. 「成程、そいつは気がつかなかった。そうならそうと奥さん、いってくれりゃいいのに」
  2504.  川田は、すすりあげている静子夫人の顎に手をかけて、ぐいと美しい顔を正面にこじ上げる。
  2505. 「奥さん、その色褌はおしめの代用にもなるんだ。遠慮はいらねえ。おしめを使って、早いとこ、すましちまいな」
  2506.  川田のいう言葉の恐ろしさに、静子夫人は息をのみ、柳眉をあげて、川田を睨むのだ。
  2507. 「何さ、その顔。まだ、あたい達に楯をつく気なのかい!」
  2508.  朱美が静子夫人の盛りあがった尻の肉をつねりあげた。夫人が悲鳴をあげて身をもむと銀子が夫人の黒髪をわしづかみにして、
  2509. 「ぐずぐずせず、早くおしめを使うんだよ。すばらしい股縄をかけてあげるからナ」
  2510.  続いて、朱美が、
  2511. 「奥さん、あんた、朝からまだトイレへ行かせてもらえないんだろ。かわいそうにお腹がはってるじゃないの」
  2512.  静子夫人はズベ公達のそうした言葉が耳に入るのを防ぐかのように、真っ赤になった頬を激しく振る。
  2513.  たしかに、ズベ公達のいうように静子夫人は朝から用便を許されず、先程から激しく襲ってきたのである。
  2514.  もし、用便の許しを川田や銀子に乞えば、それを責めの材料に使うに相違ないと、静子夫人は連中の恐ろしさを、骨身にこたえる程知っている。一体、どうすればいいのかと、静子夫人は次第に高まっていく、どうしようもない尿意を感じつつ、そんな自分を口惜しく思っていたのだった。
  2515.  そして、その苦しさと羞ずかしさを遂にズベ公達に見抜かれ、責めの道具にされてしまったのだ。
  2516.  銀子と朱美に、早くお始めったら、と邪慳に背や尻を小突き廻される静子夫人は、たまらなくなったように、眼の前で、酒を飲んでいる川田に声をかけた。
  2517. 「♢♢川田さん、後、後生です!」
  2518. 「どうしたんだ。奥さん?」
  2519.  川田は、ニヤニヤして、静子夫人の前に立つ。
  2520. 「お願いです。そ、そんな事だけは、させないで、この場で、そんな事だけは♢♢」
  2521.  静子夫人は、泣きじゃくりながら、必死になって川田に哀願するのだった。
  2522. 「そりゃ俺だって、遠山財閥の美しい令夫人に、そういうみっともねえ事はさせたくはねえが、何といっても、奥さんは、もうこの森田組の持物なんだ。俺の仕事は、奥さんを秘密ショーのスターとして飼育することなんだからな」
  2523.  川田に、頭からそう浴びせられた静子夫人は、望みの糸も切れたように、がっくり首を落としてしまう。
  2524.  そんな静子夫人にズベ公達は再び、寄りたかるようにして、拷問を始めるのだ。
  2525.  夫人は、耐えられなくなって長い黒髪を払いあげるようにして首をあげ、周囲のズベ公達をきっとして睨むのだった。
  2526. 「じゃ、貴女達のお好きなようにして頂戴。どこへでも縄をかけるがいいわ!」
  2527.  捨鉢になったように静子夫人は叫び、固く唇を噛みしめるのだった。どのようにいたぶられようとも、自分から、彼女達の期待する浅ましい姿を演じるなど、静子夫人に出来る事ではない。
  2528. 「さすがは上流階級の令夫人だね。出るものは、がまんするから、股間縛りにしてくれとおっしゃる」
  2529.  一切の望みを捨てたように、眼を固く閉じている静子夫人の、凄惨なばかりの美しい顔を見ながら、朱美は舌を出す。
  2530. 「お尻をもじもじさせているじゃないの。やせがまんするんじゃないよ、奥さん」
  2531.  銀子も、せせら笑って、静子夫人の腰のあたりに眼を落とす。
  2532.  そいつは、いけねえ。川田が再び、静子夫人の前に立った。
  2533. 「これ以上、がまんしていちゃ、身体にさわるよ。大切な商売ものなんだからね、奥さんは♢♢」
  2534.  川田は、静子夫人の艶やかな白い首筋を指で、くすぐりながら、
  2535. 「さあ、そんなに強情をはらずに、おしめを使うんだ。京子なんざ、生まれたまんまの姿で、おしめなんか使いたくっても、使わせて貰えなかったんだぜ。大家の令夫人だからこそ、特別におしめを使わせてやるんじゃないか」
  2536.  朱美も、それに付け足して、真っ赤な顔の静子夫人に浴びせる。
  2537. 「川田の兄さんがいう通り、おしめを使わせてもらえるなんて特別よ。そして、さっぱりしたところで、川田式の結び玉つきのすばらしい股間縛りにして頂けるのじゃないの、うらやましい位だわ」
  2538.  と、からかうのだった。
  2539.  静子夫人が、身を震わせ、鳴咽を続けるだけで、なかなか命じたことを演じようとはしないので、しぴれをきらした川田は、ズベ公に命じ、京子と、美津子の強制浣腸にかからせようとする。
  2540.  二本のガラス製浣腸器は各々、三十CCのグリセリン溶液を吸いこんで、不気味に光った。
  2541.  川田は、それを意地悪く静子夫人の鼻先へ近づけるのだ。
  2542. 「小唄を歌ってもらったり、踊ってもらったりしたが、とうとう無駄骨だったね。京子と美津子の泣声をよく聞いていな」
  2543.  川田は、そういって、背後の台に縛りつけられている京子達の方へ行こうとする。
  2544. 「待って、待って、川田さん!」
  2545.  静子夫人は、あえぐようにして、川田を呼び止める。
  2546. 「ふふふ、おしめを使う気になったかい」
  2547.  川田は、静子夫人の紅潮した顔をのぞくようにしていった。
  2548.  静子夫人は、命がけで自分を救おうとした京子と、その妹の急場を救うため、死ぬより辛い羞恥地獄へ身を投ずる決心をしたのである。
  2549. 「川田さん、そうすれば、本当に、本当に京子さん達を♢♢」
  2550.  涙にむせて、後は言葉にならない静子夫人である。
  2551. 「ぶつぷついうのは、おしめを使ってからにしなよ」
  2552.  朱美は、いやらしく殊更、口元を盃めて、静子夫人の美しい横顔を眺め、ぺっと唾を吐く。
  2553. 「小唄や踊りが、とてもお上手な事は、よくわかったよ。後は、おしめを上手に使って頂くことね」
  2554.  と銀子。
  2555. 「遠山財閥の令夫人として、恥ずかしくないようしっかり、おしめを使うのよ。わかった」
  2556.  と朱美。
  2557. 「さあ、早くすますんだ。俺は気の短い方なんだぜ」
  2558.  川田は、静子夫人の腰のあたりに眼を向けながら、愉快そうにいうのだった。静子夫人は、歯を噛み鳴らしながら、顔を横にそらし苦しげに眉を寄せる。
  2559.  息づまるような屈辱に耐えて小唄を唄い、裸踊りをし、そのあげく、畜生にも似た浅ましい状態をさらさねばならぬとは、夫人は喉元に熱っぽくこみあがってくる口惜しさを呑みこみ、先程から、必死になって集中していた下腹の力を抜いた。
  2560. 「ああ♢♢」
  2561.  静子夫人の柔軟な白い肉体は火柱のように燃え、美しい彼女の顔は、艶やかな白いうなじを見せて、大きく後ろへ切なげにのけぞる。
  2562.  静子夫人のしめている色褌の中で、小さいが激しい音が起こる。それを聞きつけたズベ公達、一度にどっと声をあげ、生地獄に身をゆだねている夫人の周囲を取り巻くのだ。
  2563. 「奥さん、しっかり。しっかり、がんばってっ」
  2564.  ズベ公達は、黄色い声を出して、まくし立て、火のついたような真っ赤な顔であえぎつづける静子夫人の顔と水分を含んで次第に重みを加えていく色褌とを交互に眺め、キャッキャッと笑い合うのだった。
  2565.  
  2566.  
  2567.     屈辱の挨拶
  2568.  
  2569.  野卑な愚連隊と下品なズベ公達に、死ぬ程の辛い姿を目撃されてしまった静子夫人は、放心したように、ぐったりと首を垂れ、流す涙も滑れてしまったようである。
  2570.  川田は、機嫌をうかがうように田代と森田の顔を見て、ニヤリと口元を歪め、放心忘我の静子夫人に近づく。
  2571. 「どうだい、奥さん、さっぱりしたろう」
  2572.  川田は、静子夫人の顎に手をかけ、消え入るように眉を寄せている夫人の顔を正面にあげさせる。
  2573.  静子夫人は、固く眼を閉じ唇を噛み、一切口をきかぬ事を、せめてもの抵抗としているのだろう。川田に、されるがままになった。
  2574.  銀子が、そんな夫人をぞくぞくした気分で眺めて、
  2575. 「奥さん。だけど、随分と派手におしめを使ったものね。ぐっしょりじゃないの」
  2576.  朱美も、夫人の縄にしめあげられている、はち切れるばかりの見事な乳房を指ではじいて、
  2577. 「せっかく巻いてあげたカッコいい色褌もそれじゃ台なしね。一体奥さん、この始末はどうする気?」
  2578.  と、声をたてて笑う。
  2579. 「何とか、おっしゃいよ」
  2580.  と、マリが足で、夫人の盛りあがった尻を押し、
  2581. 「もう少し、大家の令夫人らしく、おしとやかに、おしめを使うものよ。美しい顔をしているくせに、相当な心臓ね。あきれるわ」
  2582.  と、悦子は、夫人の鼻をつまみあげていうのだった。
  2583.  静子夫人は、気が狂いそうになる、こうした屈辱を全身
  2584. に力を入れて、ギリギリ耐えている。
  2585.  さて、と川田が、夫人にいい出す。
  2586. 「その派手に汚れたおしめの始末をしなきゃならねえが、社長と森田親分にお頼みしようじゃないか。ただしそいつは、奥さんからじかに、お二人様に頼んでみるんだな」
  2587.  川田は、静子夫人が頑なに口を結んでいるのが小憎らしくなったのか、そんな事を夫人の口からいわせようとするのだ。
  2588.  夫人は、川田の残忍さに、わなわなと肩のあたりを震わす。もう鉄仮面でもつけた気持で、声も出すまい、泣きもしない、と心に決めた静子夫人であったが、川田の言葉を聞くとたまらなくなって、声をたてて、泣き出すのだった。
  2589. 「泣けといったんじゃねえ。社長と親分に、おしめの後始末を、お願いしろ、といってるんだ」
  2590.  それがいえねえと、京子と美津子を嬲りものにするぞ、と川田は凄んで見せる。
  2591.  静子夫人は、胸のはりさける思いで決心し涙を振りはらうようにして、美しい顔をあげる。そして、川田に命ぜられた通りのことを田代と森田に向かっていうのだ。
  2592. 「田代社長様、森田親分様♢♢」
  2593.  静子夫人が、すすりあげるようにいうと、田代も、森田も、腰をあげながら、ニヤニヤする。
  2594. 「♢♢ど、どうか、私の♢♢おしめを 始末して下さいませ」
  2595.  静子夫人は息もたえだえにやっといい、再び、耳たぶまで真っ赤にして、わっと泣き出す。
  2596. 「他ならぬ遠山夫人の頼みとあらば、お引き受けしなきゃ、なるまい」
  2597.  田代と森田は、悶え泣く夫人の傍へ寄り、含み笑いしながら、背後へ廻ると腰をかがめべっとり夫人の腰に巻きついている色褌の結び目を解き始めるのだった。
  2598. 「ああ♢♢」
  2599.  静子夫人は、どうしようもないような真っ赤な顔を右へ伏せたり左へ伏せたりしている。
  2600.  田代は、ズベ公の一人にむしタオルを持ってこさせ、褌を解き放たれた腰のあたりを森田と二人で、念入りに拭き始める。
  2601.  何分かの後、静子夫人は、放心したように首を深く落とし、身動きもしなくなった。
  2602.  田代と森田は、ようやく夫人の足元から立ち上り、前へ廻って、縄にふちどられた見事な乳房、ゆるやかな起伏をもった腰のあたり、なまめかしい曲線を描く太腿から肢、それらをギラギラした眼で見つめている。
  2603. 「奥さん。後始末は終わったよ」
  2604.  川田は、静子夫人の背を突く。
  2605.  静子夫人は、ぼんやり眼を開き、自分の足元に蛇のように長くくねって落ちている紫の布を見ると、ハッとしたように眼を閉じ合わすのだった。
  2606.  愚連隊もズベ公も、どっと笑う。
  2607.  川田は、新しい麻縄を手でしごきながら、おろおろしている夫人にいう。
  2608. 「へっへへ。奥さん。ところで、最高の仕上げさ。すばらしい股間縛りにしてあげるぜ」
  2609.  川田は、今度は男達に目くばせする。
  2610.  吉村を初め、森田組の乾分達は一斉に立ち上り、嗜虐的な興味にぞくぞくしながら、静子夫人のまわりを取り囲むのだった。
  2611.  静子夫人は、乳白色の素肌を針のように緊張させ、おろおろした表情で、追って来る野蛮な男達を見る。
  2612.  川田は、そんな静子夫人の耳元に口を寄せるようにしていうのだ。
  2613. 「縄は、森田組の兄さん方にかけて頂くからね。奥さんからも一応このお兄さん方に挨拶しな。しっかり縄をかけて下さいと、お願いするんだ」
  2614.  狂ったように首を振って、泣きじゃくる夫人の頬を川田は、ひっぱたき、
  2615. 「まだ、素直になれねえのか。おめえは、俺達の奴隷なんだぜ。いつまで、大家の令夫人ぶってやがるんだ」
  2616.  静子夫人は、もうどうともなれ、と観念し再び、きっと美しい顔をあげ、眼を閉じたまま、川田に命じられた事を口にしようとするのだが、声は震え、思うようにならない。
  2617. 「はっきりと挨拶しなくちゃ駄目だよ。小唄の名取りなんだから、もっといい声が出る苦じゃないか」
  2618. 「これが最後じゃない。しつかりおし!」
  2619.  つねられ、平手打ちされ、静子夫人は、遂に口を開く。
  2620. 「森田組の皆様♢♢ 色々と、御迷惑おかけ致しましたが、遠山静子は♢♢二度と逃亡を計るような事は致しません。遠山静子は、永遠に、森田組のものです。至らぬ私でございますが、どうぞ末長く可変がって下さいませ」
  2621.  静子夫人は、あえぐようにそういい、口惜しさに身をよじる。
  2622. 「次を続けな」
  2623.  川田は、夫人の尻を指で突いた。
  2624.  静子夫人は、一種壮絶な美しい顔つきになり、
  2625. 「どうか、皆さん♢♢こ、この私の割れ目の奥までしっかりと縄をかけて、く、く、く、下さいませ」
  2626.  静子夫人は、そこまでいうと、気を失ったように、ぐったりとなってしまった。
  2627.  ズベ公達は、やんやと囃したて、やくざ達は、舌なめずりし、川田の指示に従って、麻縄を受け取ると、静子夫人の熟れ切った肉体に縄をかけ始めるのだ。
  2628.  豊満な静子夫人の両乳房を包むようにかけちれている胸縄に新たな麻縄がつながれ、それは、夫人の形のいい臍を中心に菱形に結ばれていく。男達は、消え入りそうな静子夫人の前と後にとりついて、そういう菱縄を実に手ぎわよくかけていくのだった。
  2629.  ようやく下半身を菱形に縛ったやくざ達は余った二本の縄尻を、夫人の腹部をしめつけるようにして、たぐりながら、
  2630. 「最後の縄止めは、川田兄貴に頼むぜ」
  2631.  と、その二本の縄尻を川田に渡すのだ。
  2632.  川田は、ニタニタ笑いながら、そのこ本の縄を揃えて、キリキリとねじり、小さい結び玉を一つ作りあげる。
  2633. 「へっへへ。さあ、奥さん、すばらしい股縄をかけてあげるぜ」
  2634.  静子夫人は、川田のしようとしている事がわかり、力一杯、両脇をぴったりと密着させる。
  2635. 「お願い♢♢川田さん、そ、そんな事だけは」
  2636.  泣きはらした美しい瞳を、夫人は川田に向けて哀願するのだったが、川田に通じる筈はない。
  2637. 「何いってやがるんだ。たった今、自分で、縄をかけて下さい、と、このお兄さん方に頼んだじゃねえか」
  2638.  川田がどなると、またしても、銀子と朱美が、夫人の傍へ寄る。
  2639. 「おしめを使わせてやったのも、股間縛りにしてあげるためじゃないか。生娘でもあるまいし、そんなに尻込みする事はないよ」
  2640.  銀子は、ガスライターをつけて、夫人の尻に近づけ、
  2641. 「さ、もたもたすると、こうだよ」
  2642.  静子夫人は、生身に炎を当てられて、悲鳴をあげる。ズベ公達は夫人にそういうポーズをどうしてもとらせようとし、責めつづける。
  2643.  遂に静子夫人は、屈伏し、激しく泣きながら、肢を小さく開くのだった。
  2644. 「よしというまで、開くんだ」
  2645.  銀子は、夫人の尻を足で押す。
  2646.  静子夫人は、キリキリと歯を噛み鳴らしながら、更に足を開き始めた。
  2647.  
  2648.  
  2649.  
  2650. 第十二章 美姉妹危うし
  2651.  
  2652.  
  2653.     屈辱の猿轡
  2654.  
  2655.  川田は、結び玉を作って、ねじりあげた縄尻をしごきながら、
  2656. 「奥さん、覚悟はいいね」
  2657.  と、静子夫人にいい、素早く縄をしごいて柔肌を力一杯、しめあげる。
  2658. 「あっ」
  2659.  と静子夫人は、電気に打たれたように触られた全身を痙攣させ、
  2660. 「い、嫌、嫌よ。待って、待って、川田さん!」
  2661.  耳たぶまで真っ赤にして、静子夫人は悶え泣く。川田が縄にわざわざ固い結び玉をこしらえた意味がやっとわかり、途端に静子夫人は激烈な羞恥と屈辱に呼吸が止まるのではないかと思われた。
  2662. 「お願いっ、川田さん、あっああ!」
  2663.  川田は身を低めて胴縄につないだ縄を夫人の熟れ切った両腿の間にくぐらせ、濃密な繊毛の間に深く喰いこませた。
  2664. 「こうして割れ目にしっかりはめこむんだ」
  2665. 「うっ」と夫人の口から鋭い悲鳴が送り出た。前からくぐらせた縄を後ろに廻って引きしぼり、教官の割れ目に強く喰いこませて胴縄につなぐ。
  2666.  茹で卵の白味のように艶のある熟れ切った静子夫人の素肌には、上半身下半身とも、頑丈な麻縄ががっちりかけられて、わずかの身動きも許さない。
  2667. 「どうだい。川田式股間縛りの味は? え、何とかいってみなよ、遠山夫人」
  2668.  川田は、夫人の麻縄にくぴれた肢体を、しみじみ見ながら、そういい、呆然として見とれている田代にいう。
  2669. 「どうです、社長。長年、日本舞踊で鍛えあげたこの見事な奥さんの身体に、こういうふうに股縄をかけると、美しさが一段と引き立つようじゃありませんか」
  2670.  田代は、何度も満足げにうなずき、ウイスキーをなめつづけている。
  2671.  静子夫人は、毛穴という毛穴から血でも噴き出しそうな屈辱と苦痛の入り交じった表情で必死な思いをこめて川田にいう。
  2672. 「♢♢か、川田さん、こ、これで気がすんだでしょう。さあ、約束通り、京子さんと美津子さんを♢♢」
  2673.  静子夫人は充血した眼を川田に向け、あえぎあえぎ、京子と美津子の縄を解いて、台から降ろす事を哀願し始めるのだ。
  2674.  朱美が、川田を押さえるようにして静子夫人の前へ出た。
  2675. 「そんなに、メソメソしながらいうのは気に喰わないね。一つ、ニッコリ笑ってごらん。あんた程の美人が笑顔を見せないってのは、宝の持ちぐされじゃないの」
  2676.  朱美がそういうと川田も調子を合わせて、
  2677. 「そうだ。俺は以前、奥さんの笑くぼを見てぞくぞくした事があるよ。久しく、奥さんの百万ドルの笑くぼに、お目にかからねえ。一つ、大きく笑くぼを作ってニンマリ笑ってみな。それで、本日の打ち止めという事にしようぜ」
  2678.  泣きの涙で、あえいでいた美女に、わざと笑顔を作らせようと、川田達は調子に乗って夫人をいたぶりだす。
  2679. 「ショーに出るスターが、客の前で笑顔一つ作れないと商売にならんからな」
  2680.  森田がいって、笑い出した。
  2681. 「ただ、笑うだけじゃ芸がないから、奥さんこういいな。股間縛りって、すばらしいわ。ああ、たまんないわ。いい気持ってね」
  2682.  銀子が、そういうと、やくざもズベ公も、どっとわいた。静子夫人は歯を噛み鳴らし、がたがた震えるだけで、首を垂れてしまうのだったが、川田も朱美も、嵩にかかって夫人を責めさいなみ、銀子は、豊かな肌をくびっている縄を更にきびしく上へしめあげて夫人に悲鳴をあげさせるのだった。
  2683.  遂に静子夫人は、その反吐にも似た屈辱の言葉を口に出す事を承許する。
  2684.  静子夫人は、身をよじりながら、声を出し固く眼を閉じた美しい顔を切なげに左右へ振る。長い睡毛の下から、涙が幾筋も尾をひいて頬を伝わる。
  2685.  やっと、夫人が屈辱の言葉をいい終わると、やんやと、ズベ公達は手を打って喜び、
  2686. 「さあ、ニッコリと笑うのよ。色っぽくね」
  2687.  ズベ公達に、つねられたり、くすぐられたりして、静子夫人は、無理に笑顔を作ろうとするのだが、ひきつったような哀れな顔になってしまう。
  2688. 「さ、笑って、可愛い笑くぼを作らなきゃ駄目よ」
  2689.  カメラをかまえたズベ公が、いった。
  2690.  静子夫人は、遂に抗し切れず、白い歯を見せ、何とか笑顔を作ろうと顔を歪めて必死に努力する。
  2691. 「そうそう、もっと歯をイーと出して、可愛いお顔をするのよ」
  2692.  ズベ公達は、夫人に無理やり笑顔を作らせ、わあーと面白くてたまらないというふうに、囃したてるのだった。
  2693. 「御苦労だったわね、奥さん」
  2694.  銀子と朱美は、静子夫人の縄尻を鎖から外す。
  2695. 「しばらく休憩させてあげるわよ。さ、さっさと、お歩き」
  2696.  銀子は、厳しく縄をかけられたままの静子夫人を、森田組の地下牢へ引き立てようとするのである。この地下室の隅に、赤さびた扉があって、それを森田組の男達が力一杯引っぱると、ギイギイ音を軋ませて、古びた扉が左右に割れる。その奥には時代劇に出て来るような牢屋が、三棟ばかり縦に並んでいるのだ。
  2697.  森田組が秘密ショーに使う女を飼育するため、炭倉か何かを改造したものらしく、牢舎の格子木は新しいものだった。
  2698. 「さ、行くのよ」
  2699.  銀子に、どんと背を突かれて、よろよろと前へつんのめった夫人は、うっと声を出して体をくの字に曲げる。
  2700.  川田にかけられた結び玉つきの縄が、いよいよ、その本領を発揮し出したのである。
  2701. 「ああ♢♢許して」
  2702.  静子夫人は、狂ったように首を振り、その場へ身を沈めようとしたが、
  2703. 「何をしてるんだよ。しゃんと歩きな」
  2704.  銀子が、ぐいと縄尻を引いた。
  2705.  川田がニヤニヤして、すすりあげている静子夫人の顔をのぞきこむようにしていう。
  2706. 「奥さん、どうしたんだよ。歩けない理由を聞かせてみな」
  2707.  静子夫人は、恨みと哀願の入り混じった瞳を川田に向ける。
  2708. 「川田さん、ど、どうして、私、こんなにひどい仕打ちを受けなきゃならないの。ね、どうしてなの」
  2709. 「ふふふ、それはね、奥さん。あんたがあんまり美し過ぎるから、なんだよ。さあ、がんばって、あそこの牢屋まで歩くんだ。そしたら、京子と美津子は嬲りものにならなくて、すむんだぜ」
  2710.  静子夫人は、眼を閉じ、一歩、一歩、踏みしめるようにして歩き出した。
  2711.  あんよは上手、手のなる方へ♢♢。
  2712.  ズベ公達は、キャッキャッと大笑いしながら、真っ赤な顔を横へ伏せるようにして、屈辱の歩みを続ける静子夫人の前後をはさんで手を叩く。
  2713.  やっと、一番奥の牢舎の前まで、静子夫人は、必死の思いで這うようにして、たどりついたのだ。
  2714.  牢屋の中は三坪ぐらいの広さで、二メートルほどの長さの柱が、二本並んで、その中に立っている。そして、一本の柱には、静子夫人と同様、厳重な縄を柔肌もくびれるばかりにかけられた若い娘が、がっちりと立ち縛りにされていた。
  2715. 「あっ、桂子さん!」
  2716.  静子夫人は、眼を見開き、絶句した。
  2717.  ぐったりしていた桂子であったが、その声に、ハッと首をあげ、
  2718. 「あっ、ママ、ママ!」
  2719.  と、声をはりあげる。
  2720.  遠山隆義の先妻の娘の桂子が、静子夫人の押しこめられた牢屋の中に、監禁されていたのである。
  2721.  静子夫人の縄尻を取っている銀子が、楽しそうにいう。
  2722. 「特別に母娘、一緒の牢屋につないでおいたげるわ。ふふふ、だけど、二十六歳のママに二十一歳の娘なんて奇妙ね。まるで、姉妹のようじゃないの」
  2723.  銀子と朱美は、静子夫人のきらめくように白い肉体を牢内に打ちこまれてある角材に押しつけるようにして、ひしひしと縄をかけ、ゆわえつける。夫人と桂子とは、向かい合った形で、二本の柱にそれぞれ立ち縛りにされてしまったのだ。
  2724. 「ふふふ、久しぶりで、母娘御対面というわけね」
  2725.  銀子が笑うと、朱美は桂子の顎に手をかけて、
  2726. 「どう、桂子。股縄をかけられたママって、素敵だと思わない。よく、見てあげな」
  2727.  桂子は、それに答えず、泣きはらした眼を静子夫人に向けて、
  2728. 「ママをこんな目に合わせたのも、みんな、私のせいよ。ママ♢♢かんにんして♢♢」
  2729.  たまらなくなったように、肩を振るわせて鳴咽する桂子である。
  2730.  静子夫人も、はらはら涙を頬に伝わらしつつ、
  2731. 「桂子さん。貴女と同様、私も死ぬより辛い目に遭ったわ。だけど負けちゃ駄目。生き抜くのよ。きっと、救われる時が来るわ」
  2732.  静子夫人は、半分は自分の心を励ますよう必死な思いで桂子にいうのだった。
  2733.  銀子は、せせら笑うようにいう。
  2734. 「ふん。救い出される時が来るだとさ。笑わせるよ。まあ、そんな事をあてにするより、これから、母娘協力して、立派な秘密ショーのスターになる事を考えるととね」
  2735.  銀子は、悦子に目くばせした。
  2736.  あいよ、と悦子がつまみあげるようにして出したものは、先程まで、静子夫人の腰をしめていた紫の色褌。おしめとして、無理やり使用させられたものである。
  2737.  静子夫人は、悦子の突き出したそれを見ると、ハッと顔を赤らめて、眼を伏せた。
  2738.  朱美は、悦子から、それを指でつまむようにして受け取ると、桂子の前へ持っていく。
  2739. 「ねえ、桂子、これを見てごらん。あんたのママって、美人のくせにずいぶんとお行儀が悪いわね。私達がせっかくしめてあげた品のいい色褌に粗相して、こんなに濡らしちまったのよ」
  2740.  静子夫人は、憎悪のこもった瞳を一瞬、朱美の方に向けたが、どうしようもないように真っ赤な顔を落とし、身を震わせる。
  2741. 「それでね、お灸をすえる意味で、股縄をかけてあげたんだけど、あんたのママったら、それを喜んじゃってね。皆んなに向かって嬉しいわ、いい気持だわ、なんていうのよ。全くあきれるわ」
  2742.  銀子は、朱美に代って、桂子にそう告げるのだ。そして、桂子にそんな事を聞かせ、それを静子夫人がどういう風に辛く受け取るか、意地悪く観察しようとするのである。
  2743.  二人のズベ公が、静子夫人の美しい顔をのぞきこむようにして見る。そして、満足したようにうなずき合い、ナイフを使って、べっとりしている紫の布地を引きさいた。
  2744. 「さあ 桂子、懐かしいママの匂いを充分にかがせてあげるわ。これで猿轡をするのよ」
  2745.  銀子と朱美は、その汚れた布で桂子の口を覆うつもりなのだ。
  2746.  静子夫人は、ズベ公達のあくなき残忍さに身震いし、たまらなくなって顔をあげた。
  2747. 「♢♢馬、馬鹿な事はしないでI」
  2748.  泣きはらした切長の美しい眼を見開いて、銀子と朱美を睨む静子夫人だが、
  2749. 「さあ、奥さんも、これで猿轡をするのよ。早く水分を吸いとって頂戴ね。自分が汚したものの洗潅ぐらいは、自分でして頂くわ」
  2750.  朱美と銀子は、桂子にそうした猿轡をはめ終わると、残りの布を適当な大きさに切りとり、夫人に近づいてくる。
  2751.  桂子は、これまで散々ズベ公達に折擬されて、抵抗する事の空しさを悟ったのか、二人のズベ公に鼻まで隠れるような、汚辱の猿轡をされるまま、観念しきっていた。
  2752. 「け、桂子さん!」
  2753.  静子夫人は、そんな猿轡をされる桂子を、まともに見ていなければならぬ辛さ、身を切り刻まれるような苦しさである。
  2754. 「♢♢が、がまんして、桂子さん♢♢」
  2755.  激しく泣きじゃくる静子夫人の顔の前に、屈辱の紫の布が迫る。
  2756. 「奥さんの方は、一番よく汚れたところでお願いしなくちゃあね。さあ、アーンと口を開けて♢♢」
  2757.  如何に哀願したとて、許すズベ公達ではない。静子夫人は、一切の望みを捨てたように固く眼を閉じ、小さく口を開けるのだった。
  2758.  紫の布のきれはしが夫人の口の中に強引に押しこまれ、その上をべっとり水分を含んだ猿轡が、かまされる。
  2759. 「どう。奥さん、御自分の匂いってものは? 甘いかい、すっぱいかい」
  2760.  朱美は、鼻まで覆う猿轡をはめられた静子夫人をまじまじと見て笑うのだった。
  2761. 「桂子、どうだい。ママの匂いは? ふふふ、明日は、あんたの匂いをママにたっぷりかがせてあげるからね」
  2762.  銀子は、桂子をいたぶっている。
  2763.  静子夫人も桂子も固く眼を閉じ、顔をよじるようにして、すすりあげているのだ。
  2764. 「じゃ、お二人とも、そこで、よく反省するのね。明日の朝まで、そうしていな」
  2765.  ズベ公達は、格子扉を押して、牢の外へ出る。悦子がガッチリと錠をおろし、
  2766. 「猿轡の水分を明日の朝までに、しつかり吸いとっておかなきゃ駄目よ」
  2767.  と捨科白を残して、せせら笑うのだった。
  2768.  
  2769.  
  2770.     浣腸競演
  2771.  
  2772. 「どうしますかね、社長。この京子姐さんと美津子嬢なんですが♢♢」
  2773.  田代に向かって、川田はいった。
  2774.  二つの並んだテーブルの上に、輝くように白い素肌を仰向けにくくりつけられ、両肢を高々と斬られている、美しい姉妹。これを、今、静子夫人が演じた数々の屈辱的な行為に免じて、これからの責めを打ち切るかどうか、と川田は田代と森田に持ちかけたのである。
  2775. 「涙ぐましい遠山夫人の努力に敬意を表して今日のところは、この別嬪さん方、解放してやろうじゃないか」
  2776.  田代は煙草に火をつけながら、そういう。
  2777.  気が狂いそうな羞恥と、これから悪魔達の嬲りものにされるという恐怖とで、生きた心地ではなかった台の上の美津子は、一時的とはいえ、情け容赦のない責めから解放される喜びに、ほっとしたように涙にうるんだ眼を開け、隣の姉の方を見た。
  2778.  京子は、固く眼を閉じ、化石のように身動きしない。ただ、上下にきびしく縄をかけられている見事な乳房がかすかに息づき、固く閉じている眼尻から屈辱の□惜し涙が、幾筋も白い頬を伝わって流れ落ちている。
  2779. 「お姉さん♢♢」
  2780.  美津子が小さく京子を呼ぶと、京子は、すぐに眼を開いて、美津子の方へ顔を向けた。
  2781. 「ああ、美っちゃん 」
  2782.  京子は、すすりあげながら、
  2783. 「お♢♢お姉さんが馬鹿なために、貴女にまでこんな目に遭わせてしまったのよ。許して、美っちゃん」
  2784.  京子は声を震わせて妹に、そう詫びるのだった。
  2785.  そこへ、川田が来る。
  2786. 「何を二人でぶつぶついってるんだ」
  2787.  川田は、京子と美津子の顔を交互に見下ろしながら、
  2788. 「せっかく浣腸の準備までしたんだが、社長が解放してやれとおっしゃるんだ。運がいいぜ、おめえ達は」
  2789.  京子は、悪鬼のような川田にうるんだ瞳を向けて、
  2790. 「♢♢川田さん、お願い、早く美津子の縄を解いてやって♢♢」
  2791.  京子は、妹の美津子を一秒でも早く、このいまわしい境地から解放させてやりたい一心で、川田に哀願するのだった。
  2792. 「そう、がっつくねえ。浣腸責めをかんべんして下さった社長に、心からお礼を申し上げるんだ」
  2793.  川田は、そういって、田代と森田を手招きする。
  2794.  田代と森田がニヤニヤして近づいて来ると川田は、京子にいった。
  2795. 「さあ、お礼を申し上げねえか。しっかり、社長のお顔を見て、心からいうのだぜ」
  2796.  京子は、田代と森田の酒に濁った眼を見上げて、
  2797. 「♢♢お許し下さって♢♢あ、有雑うございます♢♢」
  2798.  京子は、震える声でそういった。
  2799.  田代は、桜貝のような爪をした足首を高々と揚げて縛りあげられている京子を、小気味よさそうに、しげしげ眺めていう。
  2800. 「まあ、今夜のところは、遠山夫人が色々の芸を見せて俺等を楽しませてくれたからね。解放してはやるが、明朝は京子姐さん、あんたには、俺のヒゲを剃り落とした償いを、つけてもらうぜ。いいね」
  2801.  つまり、報復の私刑を明朝、行おうというわけだ。
  2802.  京子は、紅潮した顔を横へ伏せて、小さくうなずくのだった。美津子が捕われの身となっている限り、京子は、どうしようもない。鬼畜達の拷問に身を任すより、方法はないのだと観念したのである。
  2803. 「長い間、御苦労だったね。じゃ、お嬢さん、台から降ろしてあげるぜ」
  2804.  川田は、美津子の高々と吊り上げられている足の縄を解こうとしたが、その時、静子夫人を穴倉へ押しこんできた銀子と朱美が帰って来て、
  2805. 「ちょっと、お待ちよ」
  2806.  と、けわしい顔になって、川田の手を押さえた。
  2807. 「せっかく、ちゃんと支度が出来上ってるというのに、何故、浣腸責めを中止するのさ。あれ位の芸を静子夫人が見せたからって、それだけで、この二人を許すってことがあるかよ。葉桜団の恐ろしさを、充分この二人に味わわさせてやるんだ」
  2808.  朱美は、キバでもむき出しそうな表情で川田にいうのだった。
  2809. 「どうします。社長?」
  2810.  川田は、顔をくずして田代に相談を持ちかける。
  2811.  急に一変した空気に、台の上の京子と美津子は、おろおろした表情になり、助けを乞うように田代の顔へ哀切極まりない瞳を向けるのだった。
  2812. 「民主的に、多数決で決めようじゃありませんか」
  2813.  川田は、そう提案する。よかろう、とうなずく田代。
  2814.  川田は、周囲の森田組のやくざ、そして、葉桜団のズベ公達に、
  2815. 「この別嬪さん方に、浣腸の御馳走をやるべきだと思う者は手を上げて下せえ」
  2816.  と声を、はりあげる。
  2817.  わあーと、やくざもズベ公も一斉に手を上げた。
  2818. 「なんでえ、一人残らず手を上げたぜ。こいつは驚いた」
  2819.  川田は、満更でもないといった顔つきだ。
  2820.  京子は、胸をしめつけられるような口惜しさに歯ぎしりし、吊られている両肢を悶えさす。死ぬより辛い浣腸責めを免れたと思ったのも束の間、朱美と川田のために、再び、汚辱地獄へ蹴落とされてしまった感じだ。
  2821. 「か、川田さん、お願い、お願いです!」
  2822.  京子は、激しく身をもみながら、傍にニヤニヤつっ立っている川田を、呼ぶ。
  2823. 「何だい。京子姐さん」
  2824.  川田は、京子のせっぱつまった表情を楽しげに見ながらいう。
  2825. 「後生です、美津子だけは許してやって。お願いです!」
  2826. 「駄目だね。今、民主的に決定したんだ。姉妹仲よく、葉桜団と森田組のお仕置を、たっぷり受けるより仕方がないよ」
  2827.  川田が閉め出すようにいうと、京子も美津子もひときわ激しく、泣きじゃくるのだった。
  2828.  用意にかかりな、と銀子がズベ公達に命じる。あいよ、と、調子よくズベ公達は、便器やグリセリン三十CCを吸いこんだ浣腸器を持って、台の上の二人に近づいて来た。
  2829. 「待ちな。このお嬢さん方の浣腸を誰がするか、それをまず決めようじゃねえか」
  2830.  川田が手を上げて、いう。
  2831. 「京子に空手で痛めつけられた男達に任したら、どうでえ」
  2832.  と森田が、いう。
  2833. 「おっと、それなら、俺だ」
  2834.  と吉沢に村田という森田組の幹部級が立ち上って、やって来る。
  2835.  二人は腕をまくりあげて、青ずんでいるところを、親分の森田に見せる。
  2836. 「この阿女に空手チョップで打たれたところでさあ。その礼を返させておくんなさい」
  2837.  よかろう、と森田は、うなずく。
  2838.  銀子は、浣腸器の一つを吉沢に渡し、台の上で、すすりあげている京子の顎に手をかけていう。
  2839. 「あんたの体から出たものは、明日、あんたの体から剃り落としたものと一緒にビニールの袋につめて、山崎さんに送ってやるよ。恋人に対するプレゼントとしては、最高のものじゃないの」
  2840.  京子は、狂ったように真っ赤になった顔を振り、泣きじゃくる。そんなものまで、愛人の山崎のもとに送り、京子に赤恥をかかそうとする葉桜団の残忍さに、京子は気が遠くなりかけるのだった。
  2841.  川田が、ウイスキーを一飲みしていう。
  2842. 「ところで、こちらの、可愛いお嬢さんの方は、誰が受け持つ事にするかね」
  2843.  チンピラやくざの竹田と石山が立ち上った。
  2844. 「そのお嬢さんを裸にする時、ひっかかれた傷です。見て下せえ」
  2845.  二人は、顔についた引っかき傷や、噛みつかれた腕の傷などを、口をとがらすようにして川田に見せる。
  2846. 「なるはど、男の眉間に傷をつけられたとあっちゃ腹が立つのは当然だ。じゃ、お嬢さんの方は、お前さん方に任すとしようか」
  2847.  竹田と石山は、小躍りせんばかりに喜んで今一つの浣腸器を手にする。
  2848. 「嫌、ああ、嫌よ」
  2849.  台の上に、あられもない姿を晒している美津子は、吊るされている、すらりとした両肢を、のたうたせて泣きじゃくる。
  2850.  川田はそんな狂乱の美津子に近づいた。
  2851. 「お嬢さん、いくら相手が少年院出の不良とはいえ、男の顔に傷をつけるってのはよくないね。反省する意味でお姉さんと一緒にお仕置してもらうんだ」
  2852.  美津子は狂ったように首を振って泣きじゃくり、京子は眼をつり上げて、
  2853. 「美津子にだけはお願い、そんなむごい事をするのはやめてっ」
  2854.  と、吊り上げられた両肢を揺さぶるようにして悲痛な声をはり上げている。
  2855.  森田は川田の方に眼を向けていった。
  2856. 「一寸、美津子にのっけからこんな事をさせるのはかわいそうだが、馴れさせるのは早いうちの方がいいからな」
  2857.  そうですよ、親分、と川田は追従笑いするようにいった。
  2858.  イガ粟頭の竹田と石山はもう有頂天になって浣腸器に三十CCの溶液を注入すると、すぐに美津子の下腹部にからみついていくのだ。
  2859.  美津子の口からけたたましい悲鳴が送り出た。
  2860. 「そんなにガツガツしちゃ駄目だよ。お尻の下に枕でも当ててはっきり肛門を晒させないと的が狂うじゃないか。穴を間違っちゃ駄目だよ」
  2861.  と、銀子が笑いながらいった。
  2862.  二つ折りにされた座布団が京子と美津子の双臀の下に押しこまれる事になる。
  2863.  よっこらしょ、と、石山が美津子の腰を抱き上げると竹田が素早くその下へ座布団を押しこみ、その上にでんと双臀を乗せ上げた美津子は綺麗にカールされた黒髪を激しく揺さぶってひきつったような鳴咽の声を洩らしている。
  2864.  京子も女達の手で双臀の下へ二枚折の布団を当てられ、絶体絶命の窮地へ追いこまれてしまったのだ。
  2865.  両肢を高々と吊り上げられている美津子のむっちりと引き緊まった双臀は枕を下敷にして高々と浮き上った形になり、内腿深くに秘められた可憐な菊花の蕾にも似た愛くるしい肛門が露わとなる。
  2866.  ふと、それに眼をやった銀子は、まあ、可愛い、と甲高い声を出して笑った。
  2867. 「京子姐さんの方もはっきりのぞかせているわよ」
  2868.  と、朱美がいうと銀子はまたそれにふと眼を向けて、まあ、お姉さんの方も可愛い、と声せはり上げ、仲間と一緒に笑いこけるのだった。微妙な縦皺で縁どられた小梅にも似た陰微な蕾をはっきりと晒した京子のあられもない肢体を見て、
  2869. 「空手で大暴れした銑火娘もとうとうケツの穴まで晒け出してしまったか」
  2870.  といって悪女達は手を叩いて哄笑する。
  2871. 「ね、姉妹仲よくお尻の穴を並ばせているなんて傑作じゃないの。記念写真を撮っておこうよ」
  2872.  銀子がそういうとやくざの一人がカメラを持ち出して来た。
  2873.  よし、俺が撮ってやる、と、川田はカメラを受け取ると腰枕に乗った二つの微妙で陰微な女の菊座の蕾にレンズを向けるのだ。
  2874.  カメラのストロボの光波が走った途端、浮き上った二つの女の双臀はブルッと痙攣し、京子と美津子の口から同時に鋭い悲鳴が迸り出た。
  2875. 「普通、浣腸するには俯せにしてケツを上げさせるんだけど、こんな風に仰向けにした方が面白いわね。美人姉妹の表情なんかがこうしてはっきり見られるもの」
  2876.  銀子は仲間達にそういって、次から次にカメラのシャッターを切りつづける川田の方を楽しそうに見た。
  2877. 「美津子、我慢して。死んだ気になって耐えて頂戴」
  2878.  京子は美津子の方に眼を陶け、悲痛な声音で叫んだ。野卑な男女の眼の前にそんな姿を晒し、カメラの攻撃まで受けているという屈辱感に美津子は気も狂いそうになっている、そう思うと京子は耐え切れなくなり、
  2879. 「相手はけだものよ。けだもののする事だと思って耐えるのよ」
  2880.  と、励ますように声をかけるのだ。
  2881. 「何よ、けだもの、けだものと人聞きの悪い事をいわないでよ」
  2882.  と、銀子は口を歪めて京子の下腹部の方へ接近していく。
  2883. 「こんな羞ずかしい二つを晒け出しながらよく生意気な口がきけるものだ」
  2884.  銀子は京子の上層に盛り上る艶っぽい茂みを指でつまみ、その下層の微妙な菊座の蕾を指ではじいた。
  2885. 「これからうんと吠面をかかしてやるわ」
  2886.  銀子は竹田と石山に、
  2887. 「じゃ、あんた達には美津子の方を任したよ。まだ、処女なんだからあんまり手荒に扱うんじゃないよ。優しく浣腸してやんな」
  2888.  と、声をかけた。
  2889.  ヒイッと美津子は上半身を反り返らせるようにして悲鳴を上げた。
  2890. 「馬鹿野郎。いきなり突き通そうとしたって無理だよ」
  2891.  と、川田は慄える手つきで浣腸器の嘴管を美津子のそこに触れさせた石山を叱咤した。
  2892. 「姐さん達の方を見ろ。ああして油を塗って筋肉を柔らかく揉みはぐすんだよ」
  2893.  石山は血走った眼を隣に向けた。
  2894.  京子の下腹部には銀子と朱美が粘りつくようにからんでいる。銀子が京子の弾力性のある双臀をしっかりと支え、失美が小粒の中のクリームを指で掬い取り、京子のその微妙な菊座の蕾にゆるやかに塗りたくっている。腰枕の上に乗せ上げた京子の双臀は朱美の淫靡な行為にブルブル慄えている。
  2895. 「どうせなら、少し楽しませてやろうじゃないの」
  2896.  銀子は義子とマリに、京子姐さんのおっぱいをモミモミして気分を出させておくれ、といった。
  2897.  義子とマリは左右からつめ寄って京子の麻縄に緊め上げられた形のいい乳房を粘っこく愛撫し始めた。
  2898. 「美津子っ、お姉さんを許してっ、あ、あなたをこんな目に合わせてしまったお姉さんを許してっ」
  2899.  京子は女達に乳房を吸われ、乳房を掌で揉み上げられるとそのおぞましさを振り切るように激しく首を揺さぶりながら叫んだ。
  2900.  朱美は指先を巧みに使って汗で濡れた京子の微妙な菊座を粘っこく揉み上げている。
  2901. 「でも、京子姐さんの昨日の蹴りは強力だったわよ。まだ、鼻のあたりがズキズキ痛むわ」
  2902.  と、朱美は皮肉っぽい微笑を口元に浮かべながら、今日も徹底して昨日の仕返しをさせて頂くからね、といって愛撫する指先にカを入れた。と同時に銀子の指先は京子のその上層の薄絹の茂みをかき分けて花弁を開き始めている。そこの粘膜が何時の間にか熱く、じっとりと熟しているのに気づいた銀子は、
  2903. 「何さ、もう感じ出しているの、京子」
  2904.  といって、朱美と顔を見合わせ、クスクス笑い合うのだ。
  2905. 「そちらの坊や達。何をボヤボヤしてるのよ。お姉さんの方はもう肛門口をお開きになって何時だって浣腸出来るのよ」
  2906.  そら、といって朱美は指先一本をじっとり濡れて膨張した京子の菊座の蕾へぐっと押し入れていく。
  2907.  ううっと京子は汗ばんだうなじを大きくのけぞらせ、むせ返るようなうめきを発した。
  2908. 「お前達、一寸、そこをのきな。俺達が見本を示してやる」
  2909.  といって川田はチンピラ二人を押しのけるようにすると、田代を眼で呼び寄せて美津子の浮き上った双臀の傍へ身を寄せつけた。
  2910.  美津子は新たな恐怖に全身を硬化させた。
  2911.  美津子ちゃん、可愛い、可愛い、お美っちゃん、と川田は唄うようにしながら美津子の丸味を帯びた双臀を両手で支えるようにした。
  2912. 「こういう可愛い娘になるとお尻の穴まで可愛いね。キッスしてあげようか」
  2913. 「嫌っ、嫌ですっ」
  2914.  美津子は川田に支えられた双臀を哀しげにくなくなよじらせている。
  2915. 「浣腸されたらここからウンチを出さなくちゃならないだろ。キッスしてもらうなら今のうちだよ」
  2916.  川田はそういって田代と一緒に口を開けて笑った。
  2917.  そして、ほんとに可愛い子だ、といいながら川田がぐっと身を低めて美津子のそれに舌先を押しつけた時、美津子の全身は瘧にでもかかったように激しい痙攣が走り、切れ切れの悲鳴が美津子の口から迸り出た。
  2918.  美津子の額からはタラタラと汗が流れ落ち、玉の緒も凍るばかりの羞恥と屈辱感で美津子の顔面は火のように火照り出す。
  2919.  それに気づいた京子は川田に対し、何か毒づこうとして身を悶えさせるのだが、舌がもつれて声にならなかった。銀子と朱美の巧みな手管で全身は痺れきっている。自分を徹底して昨夜、凌辱した川田が今、毒牙を妹の美津子に向けようとしている。しかし、京子は腰枕に乗せ上げられた双臀を空しく揺さぶるだけで反撥する気力は喪失させているのだ。
  2920. 「さ、充分に柔らかくなったよ。じゃ、始めるよ」
  2921.  と、坐り直した朱美は溶液の入った浣腸器を匕口を握るように手に持ちかえた。
  2922. 「昨夜はよくも私に煮え湯を呑ませてくれたね。恨みを返させて頂くよ」
  2923.  朱美は浣腸器の嘴管で柔らかく膨らんだ京子の菊座を二度、三度、小突いたが、京子はむせび泣くだけで反撥する気力は失っている。
  2924. 「もう私の鼻柱を蹴り上げる事も出来ないようね。じゃ、行くよ」
  2925.  と、朱美はまるで匕ロを突き立てるような勢いでぐっと嘴管を突き立てる。
  2926.  京子は絶息するような荒々しいうめきを洩らし、汗を滲ませた首筋を大きくのけぞらせた。
  2927.  美津子の吊り上げられた内腿の間からようやく顔を離した川田は、半ば放心したように唇を半開きにして熱っぽく喘ぐ美津子の火照った頬に手をかけて京子の方に顔を向けさせた。
  2928. 「そら、お姉さんは素直になって浣腸器をぶちこまれているだろう」
  2929.  美津子はふと泣き濡れた眼を姉の方に注ぎ思わずハッとして視線をそらせた。
  2930. 「お嬢さんもお姉さんに負けねえように素直にならなきゃあな」
  2931.  川田はそういって瓶の中のクリームを指に掬い取り、美津子の内腿深くに秘めた菊座の蕾に塗り始め、指先の愛撫を加え始める。
  2932. 「ううっ」
  2933.  と、美津子はカールされた黒髪を激しく揺さぶり、痛烈な屈辱感に獣のようなうめきを口から洩らした。
  2934. 「社長、見て御覧なさいよ。あれが花も恥じらう十八娘の茂み。萌えたての若葉って感じがするじゃありませんか」
  2935.  川田は指先で下層の蕾をゆるやかに愛撫しながら、それに連なる上層の恥部をはんのりと覆い包む淡い煙のような乙女の茂みを顎で示しながら田代にいった。
  2936.  若草に似た淡い茂みは川田の淫靡な菊座の愛撫につれて哀しげにフルフルと慄えるようで、その薄い茂みの内側の桃の筋に似た秘裂はくっきりと浮き出して見える。
  2937.  川田は美津子のその緊まった固い筋肉が次第に軟化してきた事に気づき、
  2938. 「後はお前達に任せてやるぜ。やりたくてさっきからウズウズしているんだろう」
  2939.  と、先程から痴呆のような表情になって、つっ立ちながら川田の手管に見とれている石山と竹田に声をかけた。
  2940.  チンピラ二人は浮き先つような思いで川田に代って、顔を押しつけるばかりに美津子の腰枕に乗せ上げた双臀に寄りつき、指先の愛撫を交互にくり返すのだ。
  2941.  美津子の啼泣は一際、激しくなった。チンピラといっても美津子とはぼ同じ年齢かと思われる十七、八のイガ粟頭の少年であり、美津子の羞恥と屈辱感は一層、昂ぶったのかも知れない。
  2942.  息をはずませて美津子の丸味を持つ双臀や宙吊りにされた腿や下肢に口吻を注ぎ、川田に見習って秘めたる菊座に舌を這わせたり、指先の愛撫をせかせかくり返すチンピラ二人を森田はおかしそうに見つめている。
  2943.  彼等のそんな愛撫を受ける度に美津子は顔面一杯に嫌悪の表情を現わして、あっ、あっとひきつった悲鳴を上げている。
  2944. 「手前らみたいに少年院を脱走して来たような不良にとっちゃ、ちっと獲物が上等過ぎたようだな」
  2945.  と、森田は苦笑しながらいった。
  2946. 「そのお嬢さんは夕霧女子高の才媛で普通なら手前ら影も踏めねえ高嶺の花だ。優しく浣腸して差し上げて、ウンチをお出しになったら手前らの手で綺麗に始末して差し上げるんだぜ」
  2947.  わかったな、と、森田がわざと大声を出すと、石山と竹田はうろたえ気味に大声で返事して浣腸器を急いで取り上げるのだった。
  2948. 「さ、始めるぜ」
  2949. 「嫌よっ、ああ、そ、そんな事はしないでっ」
  2950. 「しないでっといったって、これは親分や兄貴達の命令なんだからな」
  2951. 「そんな事をされれば一体、私はどうなるの」
  2952. 「そりゃ、たれ流す事になるだろうな。でもよ、俺達がちゃんと始末してやるから安心してな。お嬢さんみたいな美人だったらウンコだって汚ねえとは思わねえよ」
  2953.  夕霧女子高校の才媛と少年院脱走者の取り組みだが、年齢が同じ故か、言葉のやりとりに差別がないといって田代は朱美を見て笑い出す。
  2954.  朱美は京子の双臀深くの菊座に済々と嘴管を突き立てたまま、美津子の方が追いつくまで煙草をすって一息入れているのだ。
  2955. 「美津子っ、ああ、美津子」
  2956.  と、額一杯に脂汗を滲ませている京子はうわ言のように唇を慄わせて美津子の名を呼びつづけている。
  2957. 「何時までお姉さんを待たせる気なんだよ。一緒に浣腸してやろうとこっちは待っているんだよ」
  2958.  早くぶちかまさないか、と、朱美は叱咤するようにチンピラ二人の方にきつい眼を向けていった。
  2959.  竹田の持つ浣腸器の冷たい嘴管がそこに触れた瞬間、反射的にブルっと腰枕に乗せた双臀を痙攣させ、嫌っ、嫌っ、とその矛先から逃れるように美津子は腰部を揺さぶるのだったが、何時までお姉さんを待たせる気なんだよ、という朱美の言葉に美津子はハッとしたように動きを止めた。
  2960.  姉はもう覚悟してこの凌辱を耐え切ろうとしていると感じとると自分の空しい抵抗が浅ましくも感じられ、美津子は観念したように眼を閉じ、反撥のあがきを停止したのだ。
  2961. 「そう、そう。そんな風に柔順にならなきゃ、お姉さんに笑われるわよ」
  2962.  銀子は美津子の砥抗が止まったのを見ると満足げにうなずき、美津子の双臀を押さえこんでいる竹田と石山の傍に近づく。
  2963.  さ、始めな、の眼くばせを受けた石山は生唾を呑みこんで嘴管を再び、そこに当てがって一気に突き立てようとしたが、ヒイッと美津子は悲鳴を上げ、再び、駄々をこねるようにゆさゆさと双臀を揺さぶりながら鳴咽の声を洩らすのだった。
  2964. 「下手糞だねえ。もっと上手にしてあげられないのかい」
  2965.  銀子は石山に向かって舌打ちしていうとマリに手伝わせて美津子の双臀に左右から手をかけ、桃でも割るように両の尻たぶを開げ、その奥に秘めた濡れそぼった菊座を生々しいばかりに露わにさせた。気が狂いそうな羞恥と汚辱感で美津子は泣きじゃくるのだが、銀子は子供の愚者をあやす医師みたいに甘い声でささやきかけるようにいった。
  2966. 「羞ずかしいでしょうけど一寸の間、我慢しましょうね。すぐに終わるわ」
  2967.  銀子の眼くばせを受けた石山はその溶けるように柔らかく膨張した美津子の菊座の蕾にぴったりと嘴管を当てがった。
  2968.  銀子はシャツのポケットから鳥の羽毛を取り出して美津子の溶けるように淡い股間の繊毛をかすかに撫で上げ始めた。
  2969. 「お嬢さんもお姉さんに似て形のいいおまんをしているわね。どう、こうされるといい気持でしょう」
  2970.  まるで催眠術にかかったように美津子はそれに、汚辱の感覚が伴わなくなってしまっている。銀子は更に淫靡に鳥の羽毛を使って美津子のその若草の淡くて薄い残みを撫で上げ、さすり上げ、可憐な処女の割れ目をそこに浮き立たせてしまうのだった。
  2971. 「まあ、可愛いわね。ね、蕾ちゃんも一寸、見せて下さらない」
  2972.  銀子は羽根を落として次に指先を羽根のように軽く動かしながら処女の繊細な茂みをかき分けるのだが、美津子は魂を奪い取られてしまったよう銀子の触角のように動く指先がそこをまさぐり始めても、シクシクすすり泣くだけで抵抗も反撥も示さなかった。
  2973.  美津子の屈辱感と汚辱感は銀子の催眠術にかかったように稀薄になり、それを待っていたように石山は銀子に合図されてぐっと嘴管を押して出る。
  2974.  冷たくおぞましい嘴管がその筋肉を突き破るかのように自分の体内に侵入した事をはっきり知覚した美津子は、急に我に返ったように、ああっと首筋をのけぞらせ、白い歯を苦しげにカチカチ噛み鳴らした。
  2975. 「フフフ、やっと舌みこんでくれたわね」
  2976.  いい子ちゃんだったわ、と銀子は美津子の真っ赤に火照った頬に軽く口吻して、急に、ざまあ見ろといった風に冷酷な眼差しで嘴管を深々と突き立てられた美しい姉妹を交互に見つめるのだった。
  2977. 「随分と手間をとらせてくれたわね。さ、姉妹仲よく同時浣腸だ」
  2978.  銀子は今までとは打って変って狂人めいた笑い方をする。
  2979. 「よーいドン、でポンプを押すんだよ」
  2980.  といって銀子が号令を下すと、石山に代って竹田が美津子に突き立った浣腸器のポンプを押し、朱美は京子に突き光った浣腸器のポンプを押した。
  2981. 「ああっ、お姉さんっ」
  2982. 「美津子っ、死んだ気になって我慢してっ」
  2983.  姉と妹はせっぱつまった悲鳴を上げ、共に全身を慄わせて号泣した。
  2984.  生暖かい溶液がキリキリと揉みこまれるように体内に注入される、その息も止まるような屈辱的な衝撃に京子も美津子も狂おしい啼泣を洩らし、吊り上げられた両肢をうねり舞わせて腰枕を当てられた双臀をのたうたせている。
  2985.  
  2986.  
  2987.  
  2988. 第十三章 色事調教師
  2989.  
  2990.  
  2991.     排泄タイム
  2992.  
  2993.  一仕事が終わったというわけで酒盛りが始まった。
  2994. 「これでやっと胸のつかえが降りたよ」
  2995.  朱美は川田にビールの酌をされながら痛快そうにいった。
  2996. 「妹の美津子と同時浣腸だなんて、これだけ痛めつけてやれば俺も本望だよ」
  2997.  田代もそういって、さすがの美人スパイもこれで形なしだな、といって笑うと、
  2998. 「いや、形なしになるのはこれからでしょう。浣腸の次には当然、生理的苦痛が生じてくる」
  2999.  と、川田はいった。
  3000.  ああ、そうか、といって田代と森田はテーブル台の上に両肢を宙吊りにされたままで苦悶する京子と美津子の方に眼をやった。
  3001. 「どうやら美津子の方が先にくたばるんじゃないか。見ろ、あんなに尻をもじつかせて我慢しているぞ」
  3002.  と、田代がいった時、
  3003. 「ねえっ、お願いですっ」
  3004.  と、ひきつったような声を出したのは京子の方だった。
  3005. 「なんだ、京子の方が先に降参か」
  3006.  男達は腰を上げてテーブル台の方へ近づいて行く。
  3007. 「美津子がもう駄目なのです。お願い、縄を解いて、トイレへ行かせてやって下さい」
  3008.  京子は川田や田代が近づくとおろおろした視線を向けて哀願するのだ。
  3009. 「それなら、さっきもいったように美津子の係は石山と竹田だ。あの二人に頼んでそのままお尻にお丸を当ててもらえばいい」
  3010.  田代がそういうと京子はひきつったような表情になった。
  3011. 「本気で、そんな事をおっしやるのですか」
  3012. 「ああ、そうとも。京子姐さんの担当は吉沢が買って出たよ。空手で蹴り飛ばされたお礼に京子姐さんのウンチの始末位させて頂きますというんだ」
  3013.  田代は森田と一緒に腹を揺すって笑った。
  3014.  京子は憤怒の眼差しを田代に向けたが、すぐにその眼を閉じ合わせ、口惜しげに唇を噛みしめる。
  3015. 「どうだい、お嬢さん、もう我慢が出来ないなら石山と竹田にたれ流しの世話をしてもらうかね」
  3016. 「嫌っ、そ、そんな事、死んだって嫌です」
  3017.  美津子は黒髪を揺さぶって泣きじゃくった。
  3018. 「お、お願いです。おトイレを使わせて」
  3019.  むせび泣きながら美津子は哀願したが、駄目だね、と、川田は非情な言い方をした。
  3020. 「お丸を使えないのなら何時までもそこで我慢している事だね。言っとくが、テーブルや床を汚したりすると折檻を受ける事になるからね」
  3021.  川田がそういって仲間と一緒に酒の席へ戻りかけると、待って、と美津子は涙で喉をつまらせながら声をかけた。
  3022. 「♢♢お姉さん、駄目。美津子、もう駄目だわ」
  3023.  のたうつように美津子は身を揉みながら、喘ぐ。
  3024.  川田が、そんな美津子の上気している頬を指でつついて言った。
  3025. 「お嬢さん。もう駄目なら、遠慮せず、浣腸係の竹田と石山にお願いするんだよ。便器を当てて下さいとね」
  3026.  ああーと、美津子は、真珠のような白い歯を見せて、美しい顔を大きくのけぞらす。
  3027.  もう美津子には、耐えるカはなかった。
  3028.  やくざとズベ公達が好奇の眼を光らせている真只中で、いよいよそういう姿をさらさねばならぬ口惜しさと羞ずかしさ。まして、けがれを知らぬ十八の乙女にとって、それは身をズタズタに引きさかれるよりも辛い羞恥の極であろう」
  3029.  竹田と石山が、そんな状態の美津子に便器を当てがうと、川田が息もたえだえといった顔つきの美津子の頭の下に手をかけるようにし、首を心持、上へ持ち上げるのだった。
  3030. 「お嬢さんの美しい顔もカメラに入れましようね。そうすりゃうんと値打ちが出る。さあカメラの方へ顔を向けて」
  3031.  体中が痺れてしまって、美津子は、もう抵抗する気力もなく、カメラの方に顔を向けられてしまう。
  3032.  そういう恐ろしい目に遭っている妹を眼にした京子は、狂ったように首を振り、眼を閉じた。もう美津子の方を正視することの出来ぬ京子である。だが、川田やズベ公達が、美津子をいたぶる声は、嫌でも京子の耳に入って来るのだ。
  3033. 「何をしているんだよ、お嬢さん。さあ、景気よく、すましちまいな」
  3034.  と、朱美の声。
  3035.  最後の気力をしぼるようにして、便意を耐えつづける美津子のうめき声♢♢だが、遂に最後が来たのだ。美津子は、断末魔の悲痛な声をあげた。腹の中でグリセリン溶液がごろごろと荒れ狂っているのだ。
  3036.  美津子の悲痛な最後の哀願とは逆に、京子の方を監視していたやくざやズベ公も、見逃してなるものかとばかり、どっと、美津子の側に寄りたかる。
  3037.  京子は、美津子の死んでしまいたいような辛い口惜しい気持を思うと気が狂いそうになる。自分の隣で、嬲りものになっている妹を助ける事の出来ぬ自分が口惜しい。
  3038.  突然、わあ♢♢とズベ公達の嬌声とやくざ達の哄笑が隣で巻き起こった。
  3039.  
  3040.  
  3041.     遂に京子も
  3042.  
  3043.  ズベ公達の喊声とやくざ達の哄笑で、地下室の中にはムッとする熱気が充満する。
  3044.  死ぬより辛い恥ずかしい状態を、淫獣のような人間達の目に、はっきりとさらけ出してしまった美津子の号泣が、姉の京子の耳に突き刺すように入って来るのだ。
  3045.  ♢♢美津子、がまんするのよ♢♢
  3046.  京子は、胸の中で祈るようにいい、我が身を襲ってくる生理の苦しさを、キリキリ歯を噛みしめて耐えるのだった。
  3047. 「全く健康的な色ね」
  3048. 「どう、お嬢さん、すっとしたでしょう」
  3049. 「もっと出したっていいのよ。便器は大きいのだから」
  3050.  ズベ公達は、さかんに美津子をからかっている。
  3051.  銀子は、ニヤニヤして、紅生姜のように真っ赤になった顔を肩にすりつけて泣きじゃくっている美津子の両頬に手をかけ、正面にすえる。
  3052. 「ふふふ、お嬢さん、お顔をよく見せて」
  3053.  美津子は、固く眼を閉じ、小さく開いた口から可愛い舌をのぞかせて、切なげにあえぎつづけている。
  3054. 「すばらしかったわよ。全部、撮影して上げたから、フィルムが出来上り次第、貴女にも見せてあげるわね」
  3055.  銀子はそういい、竹田と石山に後始末をするようにいう。イガ粟頭の二人の不良少年はまぶしいものでも見るように、美津子のあられもない姿態をぼんやり見つめていたが、銀子につつかれて、ほっと正気にもどり、便器を台の下へおろし、厚い布をとり出す。
  3056.  少年が美少女の後始末をやり始めようとすると、朱美が、ちょっと待った、と割って入る。
  3057. 「これから、このお嬢さんのお行儀も、しつけなきゃならないのだからね」
  3058.  と屈辱にあえぎつづける美津子に向かって、
  3059. 「お嬢さん、黙ったまま、男の子に始末させようというのはお行儀が悪いよ。感謝の気持を表わさなくちゃいけない。何から何までお世話をかけて申し訳けございません、とそれ位の事をいわなくちゃいけない。そして、始末してもらったら、有難うございます、と、いって、お礼にキッスをしてあげるんだよ」
  3060.  ズベ公達は、どっと笑った。
  3061.  美津子は、銀子にかかえられた顔をひきつらせて鳴咽する。
  3062. 「さあ、いわないか!」
  3063.  朱美に、どやしつけられて、美津子は、唇をわなわな震わせつつ、
  3064. 「な、何から何まで、お、お、お世話をかけて♢♢申し、申し訳けございません」
  3065.  そういうと、たまらなくなったように美津子は号泣する。
  3066.  朱美に眼くばせを受けた竹出と石山は、いそいそとして、後始末を始め出した。
  3067. 「ああ!」
  3068.  美津子は、息が止まるような屈辱に全身を硬直させる。
  3069. 「さあ、すんだよ。次は、どうするのだったかね。お嬢さん」
  3070.  朱美が美津子の縄にしめあげられている乳房をピチャピチャ叩いていう。
  3071. 「あ、有難う、ご、ございます♢♢」
  3072.  美津子が、あえぎあえぎいうと、
  3073. 「次は、お礼の熱いキッスを、このお二人にしてさし上げるんだよ」
  3074.  朱美は、調子づいたようにいうのだった。
  3075. 「おっと、そいつは俺が引き受けるぜ。このお嬢さんには、貸しがあるんだからな」
  3076.  川田が、美津子の顔を押さえている銀子と代り、美津子の上気した美しい類を両手ではさみこむようにする。
  3077.  川由は、先程、美津子の唇を吸おうとして不覚にも唇を噛み切られている。その埋め合わせを今つけようと、美津子の顔の上へかぷさっていくのだった。
  3078.  美津子の隣の台の上で、下腹を突きあげてくるような苦しさと戦っている京子は、それに気づくや、狂ったように首を振って叫ぶ。
  3079. 「♢♢鬼! 悪魔! 妹まで、よくも妹まで、よくも妹まで♢♢ああ」
  3080.  京子は再び激しくこみあげて来た生理的苦痛に顔をゆがめる。自分の操を暴力で奪った悪魔のような男が、次に妹の美津子にまで毒牙を向けた事を知って、京子は逆上するのである。
  3081. 「♢♢か、川田さん♢♢貴方は、それでも人間なの。ねえ、人間なの!」
  3082.  キリキリ歯を噛みならしながら、叫びつづける京子だったが、
  3083. 「うるさいよっ」
  3084.  銀子が大声をあげ京子の頬を平手打ちした。
  3085. 「美津子の事なんか、すこしも、心配しなくてもいいよ。それより妹に負けないよう、しつかり排泄しなきゃ駄目じゃないの」
  3086.  ズベ公達は、どっと笑うのだった。
  3087.  美津子の方は、浣腸、そして排泄という魂も凍るような羞恥責めにあい、放心したようになっている。もう川田のしようとする事に抵抗する気力もなく、いやらしく突き出してくる川田の唇に、自分の唇を合わせてしまうのだった。
  3088. 「まだ、おねんねだね。もっと楽な気分でキッスはするものよ」
  3089.  朱美が、川田に唇を合わされている美津子の一瞬、狼狽した表情を見つけて横からそういった。
  3090. 「ううーう」
  3091.  唇を塞がれて、美津子は悲しげにうめく。
  3092. 「キッズてのはね、舌を相手の口の中へ入れて、よく吸って頂き、自分も相手の舌をよく吸ってあげるのよ。わかった、お嬢さん」
  3093.  次に銀子がそんな事をいって、執拗な川田の接吻を受けつづけている美津子の大きな白桃のような尻を指ではじくのだった。
  3094.  やっと川田が美津子の顔から離れる。美津子は、全くの放心状態で、美しい顔をぐったり横に伏せてしまうのだった。
  3095. 「このお嬢さん、なかなか素質がありそうだぜ。みっちり仕込むと立派に商売ものとして通用するよ」
  3096.  川田は、満足げにそういい、改めて、しみじみ美津子の落花微塵の姿態を眺めるのであった。
  3097. 「じゃ、お嬢さん。お姉さんの方の排泄が終わったら、その台から降ろしてあげるからね。もう少し待っていな」
  3098.  朱美はそういって、京子の方へ残忍な視線を向けた。
  3099. 「ううー、ああー、うっ、ああー」
  3100.  京子は額にべっとり脂汗をにじませて、痛烈にこみあがって来る便意を歯を喰いしばって耐えている。
  3101.  京子に三十CCの浣腸をした吉沢が舌打ちするように、悶えつづける京子に浴びせた。
  3102. 「強情な阿女だ。てめえに痛めつけられた俺達が、御親切にも排泄の世話までしてやろうと言ってるんじゃねえか。何時まで時間をかけやがる気だ」
  3103.  まあ、お待ちよ、と悦子が笑って、
  3104. 「辛抱して時間をかけりゃかけるほど、沢山出るというじゃないか。この京子姐さん、それを心得ているから、どうせ排泄するなら思いきり沢山、出して、皆んなに見て頂こうというハラなのさ」
  3105.  なるはど、と吉沢と川田は顔を見合わせて笑うのだった。
  3106.  吉沢はニヤニヤしながら、京子の苦悶する表情を眺めていう。
  3107. 「ふふふ、京子姐さん、いくらでも待ってやるぜ。がまんすればするはど、浣腸の値打ちはあるという事だ。ただし、お前さんの体から出たものは、山崎のへっぽこ探偵に小包にして送らなきゃならないのだからな。なるべく固いめのやつを頼むぜ」
  3108.  ああーと京子は白い首筋を大きくのけぞらせて嫌々をするように首を振る。如何に耐えたところで、彼等に許される筈はないのだ。だが、そんな姿を憎みてもあまりある吉沢や川田達に目撃されねばならぬ口惜しさと私ずかしさ♢♢それに悪魔達は、京子の排泄したものを山崎に送るというおぞましい計画を立てている。京子は、屈辱の極にあえぎつづけるのだった。
  3109. 「いいかい。お前さんの排泄係は吉沢の兄貴だ。いいよという時は吉沢兄貴にお願いして、力一杯、排泄するんだぜ」
  3110.  川田が京子の熱気を帯びている頬を指で突いて笑った。
  3111.  ズベ公達は京子の縛りつけられている台の上へ頬づえをつくように寄りかかり、
  3112. 「空手二段の京子姐さんの排便って、すさまじいだろうね」
  3113. 「そりゃそうさ。お小用の時だって、すごいものだったじゃないの。立ったまま足を開いてさ」
  3114.  ズベ公達は、キャッキャッと楽しげに笑い合っている。
  3115. 「け、けだもの、鬼!」
  3116.  京子は、たまらなくなって叫び、突き上げてくるような下腹の苦しみを、息を止めてこらえる。
  3117. 「ふん、京子姐御。そんなざまになっても、大層、大きな口をきくじゃねえか。けだものとは俺の事かい」
  3118.  吉沢が京子の顔を上からのぞきこむようにしていう。森田組の中では、吉沢は一番腕の立つ幹部として知られていたのだが、それが静子夫人を救出しようとして、この家へ
  3119. もぐりこんだこの京子の空手の一撃で他愛もなくのされてしまったのだ。親分に対しても面目を失い、男として恥をかいたわけであり、それだけに京子に対する憎しみは大きいものであったが、京子にしても、今、一足で脱出出来るというところを、この吉沢に裏門を固められた結果、奮戦空しく捕われの身となってしまったのである。この吉沢さえ居なければ脱出に成功していたのだと思うと、京子にとっては、川田の次に憎くてたまらない男である。そんな男の手で浣腸を施され、その男の手で排泄の始末をされるなど、京子は胸のはりさけるばかりの口惜しさであった。
  3120. 「そのけだものが、どんなに恐ろしいか骨身にこたえさせてやるぜ。だが、さぞ口惜しいだろうな。憎いけだものに浣腸され、嫌でも排泄させられる気持ってのは」
  3121. 「♢♢死んだって、死んだって、そ、そんな事を♢♢ううっ♢♢するものか♢♢」
  3122.  京子は、歯ぎしりしながら、うめくようにいう。
  3123. 「そうかい。それなら、こっちにも考えがあるぜ」
  3124.  吉沢は含み笑いしながら川田の方を見る。
  3125. 「川田兄貴、どうやらこの姐さん、三十CCの浣腸じゃ不足らしいぜ。もう一回、三十CCを入れてあげようじゃねえか」
  3126.  川田はニタリとして、よかろう、とうなずく。先程、京子の体内に三十CCのグリセリンを注入して空になっているガラス製浣腸器は、悦子の手によって再び三十CCの石鹸水を吸い上げたのだ。
  3127.  京子はそれに気づくと、一瞬、血の気を失って、ひきつったような顔になる。もう限界に至り、最後の気力だけで耐えつづけている身に、更に三十CCの石鹸水を追加しようと鬼共はしているのだ。
  3128. 「♢♢待って、待って、お願いです。も、もうこれ以上♢♢ああ♢♢」
  3129.  京子は、逆上して身悶える。
  3130.  吉沢は、悦子から浣腸器を受けとると、
  3131. 「なんでい。どうとも好きなようにして頂戴と啖呵をきっておきながら、もう泣声をあげるのかい。空手二段の鉄火娘も案外だらしねえな」
  3132.  と、せせら笑いながら、近づいて行く。
  3133.  銀子が楽しそうに京子の顔を見て言った。
  3134. 「ふふふ、何度もいうようだけど、あんたの体から出たものは、山崎に送らなきゃならないのだからね。恋しい山崎さんの事を頭に浮かべながら、しっかり排泄するのよ。わかったわね」
  3135.  遂に京子は憎い男、吉沢のために二度日の浣腸を受けたのだ。
  3136.  合計、六十CCを注入された京子は、体中に脂汗をにじ
  3137. ませて苦悶する。だが、耐えられる道理はない。
  3138. 「♢♢お、お願い♢♢ああ♢♢」
  3139.  京子が大きく首をのけぞらし、うめくようにいうと、吉沢がそんな京子に顔を近づけて、
  3140. 「へっへへ、もう駄目かい」
  3141.  京子は、美しい眉を寄せて、切なげにうなずく。
  3142.  吉沢が便器を当てがおうとすると、銀子が手を出してそれを制し、
  3143. 「ちゃんと自分でいわせなきゃ駄目だよ。赤ん坊じゃないのだからね」
  3144.  と、次に京子のあえぎつづけている顔を両手で、はさむようにしていう。
  3145. 「吉沢の兄貴に生意気な口をきいた事を謝って、便器の使用をお願いするんだよ」
  3146.  続いて朱美が、
  3147. 「妹の美津子の方が、ずっと素直だよ。妹に対して恥ずかしいと思わないのかい」
  3148.  京子は、もう限界を通りすぎ、腹の中を錐でえぐられるような苦しさに、もう見栄も体裁もないといった、せっぱつまった気持であった。
  3149. 「♢♢よ、吉沢さん♢♢も、もう決して、生意気な♢♢口は、ききません♢♢ですから♢♢あっ、うう♢♢」
  3150.  京子は眼をつり上げ、歯を噛み鳴らして、押し寄せてくる激痛と戦い、言葉を続ける。
  3151. 「♢♢ですから♢♢お願いです、便器を♢♢便器を♢♢使わせて♢♢」
  3152.  吉沢は満足げにうなずいて、便器を持つ。
  3153. 「ちょっと待ちな。今、カメラを近づけるからな」
  3154.  撮影機が、ぐっと近づいて来る。
  3155.  京子は、もう何がどうなってるのか判断がつかぬ程、生理的欲求だけが先に立って血走った気分である。
  3156. 「♢♢早く、早く。ああ♢♢」
  3157.  吉沢が、おっとっと、といって便器を当てがったのと、ほとんど同時に京子の排泄が始まった。
  3158.  
  3159.  
  3160.     土牢の中
  3161.  
  3162. 「さ、入るんだ」
  3163.  静子夫人が閉じこめられている隣の牢屋に京子と美津子は、ズベ公達の手で押しこまれる。
  3164.  四畳ばかりの牢屋の中には、森田組の男達の手で二本の丸木が打ちこまれてあった。その丸木に京子と美津子は、それぞれ立ち縛りにされて、向かい合った形にされる。
  3165. 「明日からは、姉の方も妹の方も別々なところで、みっちり芸当を仕込むのだから、今夜は特別に二人一緒につないでおいたげるわ。つもる話を語り合うがいいわ」
  3166.  朱美は、丸木を背にがっちり立ち縛りにした二人の美女を、楽しそうに見くらべながらいう。
  3167.  浣腸、そして排泄という羞恥地獄にのたうち、この牢屋まで引き立てられて来た美しい姉妹は、半ば失神状態で、丸木を背負ったまま、ぐったりなっている。
  3168. 「ふふふ、三人とも、どうしたの。元気がないわね」
  3169.  銀子は、京子と美津子の、横に伏せている美しい顔を、のぞきこむように見て、笑うのだった。
  3170.  そこへ、悦子が、どう似合うでしょ、といって、美津子のセーラー服を、ちゃっかり着こんで入って来た。
  3171. 「どう、夕霧女子高校の生徒に見えるだろ」
  3172. 「駄目だね。あそこは美人ばかり揃っているので有名な学校だよ。そんな、ブタみたいな女学生がいるもんか」
  3173.  銀子と朱美が、声を出して大笑いする。
  3174.  悦子は、フンと口をとがらし、馬鹿にされたうっぷんを小さくすすりあげている美津子に向けるのだった。
  3175. 「あんたのこのセーラー服や下着類はあたいが頂戴したからね。安心して、立派なヌードスターになるがいいわ。あんたのような美人は、ヌードでいるのが一番美しく見えるものなのよ」
  3176.  美津子は、悦子のそうした残忍な言葉に透き通るように白い肉体を小刻みに討わせ、鳴咽する。
  3177. 「だけど、夕霧女子高校のナンバーワンの美人が裸のままとは、ちょっと、かわいそうね」
  3178.  悦子は、セーラー服を貰ったお返しをしてあげるといいながら、美津子の頬を指で突き、
  3179. 「ねえ、お嬢さん。褌がいい? それとも、バタフライにする?」
  3180.  美津子は、がっくり首を落とし、ひときわ激しく泣きじゃくるのだった。
  3181. 「最初は、バタフライがいいよ。それから色褌、その次に股縄ってわけね。一歩一歩、階投を上るように仕込んであげるわ」
  3182.  銀子が含み笑いしながらいうと、朱美が、
  3183. 「このお嬢さんに、ぴったりのバタフライがあるわよ。どう、これ」
  3184.  とスラックスのポケットから、オレンジ色のハート型になった小さなバタフライを取り出した。白兎の毛でふちどられているが、透き通るように薄いナイロン製のバタフライであった。
  3185. 「まあ、素敵じゃないの。きっと、よく似合うわよ」
  3186.  銀子が笑いながら、早速、取りつけるように朱美にいう。
  3187. 「ふふ、お嬢さん。バタフライなんて、学校じゃ教わらなかったろう。女学生のくせにバタフライなんかはかせてもらえるなんて、貴女、ほんとに幸せよ」
  3188.  などと朱美はいい、悦子と二人で、それを美津子の腰に取りつけようとするのだった。
  3189.  美津子は、真っ赤な顔を激しく振り、陶器のように白い肉体を硬化させる。
  3190. 「駄目よ。そんなに足に力を入れちゃあ」
  3191.  二人のズベ公は、笑い合いながら、美津子の腰に、それを強引に取りつけた。
  3192. 「おや、ぴったりじゃないの。うわあ、とても可愛いわ」
  3193.  ハート型の小さいバタフライをはかされて屈辱にむせんでいる美津子を取り巻くズベ公達は、囃し立てる。
  3194. 「どう、お嬢さん。初めてバタフライをつけた気分は? 一日も早く舞台に立ちたく思うでしょう」
  3195.  銀子は、美津子の腰を固くしめあげているバタフライに眼を落としながら口を歪めていうのだった。
  3196. 「京子姐さんの方は、どうするの」
  3197.  美津子のセーラー服を着ている悦子は、そのへんをくるくる踊るようにして、京子の傍へ寄り、がっくり首を落として、すすりあげている京子の顔をのぞきこんでいった。
  3198. 「京子の方は、そのままにしておきな。明日の朝、社長と親分が仕上げる事になっているんだ。だからさ、今夜は妹に、よく見させておいてやろうよ」
  3199.  朱美がチューインガムを口にほうりこみながらいう。銀子もニヤリとして、美津子の頬に手をかけて、ぐいと顔をこじあげ、
  3200. 「ふふふふ、お嬢さん。あんたのお姉さんは葉桜団と森田組へ泥をひっかけた罰として、明日、顔から下は全部剃り取られる事になっているのよ。だから、今夜は、お姉さんのありのままのヌードを、よく見ておいてあげる事ね」
  3201.  そういうと、他のズベ公達はどっと笑い、
  3202. 「京子姐さんの、そうされたヌードを早く見たいものだわ」
  3203.  と賑やかに、大声をあげ合うのだった。
  3204.  立ち縛りにした美しい姉妹をズベ公達は、そんな調子で、嬲りつづけ、ようやく、牢格子の外へ出て行く。
  3205. 「♢♢お姉さんっ!」
  3206.  周囲が静まると、美津子は、泣きはらした眼を姉の京子に向け、声をかけた。
  3207. 「美っちゃんっ」
  3208.  京子も、涙にうるんだ瞳をあげ、美津子を見る。互いに眼と鼻の近くに置かれてある姉妹だが、非情な麻縄で立木に緊縛されている悲しさ、近寄る事すら出来ないのだ。二人の美女は、ただ号泣するだけで、いう言葉もない。
  3209. 「♢♢美っちゃん、許して。私が、私が馬鹿だったのよ」
  3210.  京子は、肩を震わせ、やっと、妹にいうのだった。
  3211. 「♢♢お姉さん、一体、私達、どうなるの」
  3212.  美津子は、すすりあげながら京子を見る。がっちり柱に縛りつけられている姉に視線を向けた美津子は、見てはならないものを見たようにすぐに眼を伏せてしまうのであった。そして、我が身の私ずかしさに消え入るように鳴咽する。姉とはいえ、屈辱的なバタフライ一枚をはかされた肌身を、その正面にさらしている事は、やはり恥ずかしい。
  3213.  美しい姉妹は、互いに視線をそらし合いながら、我が身の不運をなげき、今後の恐怖におののくのであった。
  3214. 「美っちゃっん、望みを捨てちゃいけない。きっと、誰かが私達を救い出してくれるわ。貴女の身体だけは、姉さん、死んでも守りぬくつもりよ。だから、だから負けちゃ駄目よ。生き抜くのよ」
  3215.  京子は、必死な思いをこめて、妹にいうのだった。
  3216.  
  3217.  
  3218.     調教師来る
  3219.  
  3220.  二階の居間で、田代と森田は朝食を終え、煙草をくゆらせていたが、ノックの音。川田であった。
  3221. 「昨夜は愉快でしたね、社長」
  3222.  川田は、愛想笑いしながら、田代に差し出された煙草を口にする。それへ、ライターの火をうけてやりながら田代は、いう。
  3223. 「ぼちぼち本格的に御婦人方を仕込まなきゃならないが、しっかり頼むぜ。何時までも、遊んでばかりはおられんからな」
  3224. 「へえ。今日あたりから、本腰を入れます。そのため、浅草の鬼源もコーチとして呼んであるのですよ」
  3225.  鬼源とは、鬼村源一が本名で、花街近くのお座敷ショーに出す女の調教師で、つまり、花電車なるものを考えついた男であり、花街の玄人筋の女達からも、毒蛇のように恐れられている人間だ。
  3226. 「へい、ごめんなすって♢♢」
  3227.  黒眼鏡をかけた四十二、三の男が、川田の後ろからのっそり入って来て、田代と森田に挨拶した。
  3228. 「へえ、あんたが、あの有名な浅草の鬼源さんかい」
  3229.  森田が盃を鬼源に波し、酒を注いでやる。
  3230.  鬼源は、盃を押し頂くようにして、いやらしく口をとがらせて飲むと、
  3231. 「へい、鬼村と申します。ここの川田さんとは、古い友人なんでさあ。すごくいいものが入ったから、みっちり仕込んでくれとの通知があったんで♢♢」
  3232. 「そうかい。そいつは御苦労だったな。いい商品に仕込み上げてくれりゃ、礼はたんまりはずむぜ」
  3233.  森田は、鬼源の注ぐ盃を一気にあおってそういった。
  3234. 「ところで、女連中は、パン助あがりですかい」。
  3235.  鬼源が、そんな事をいうので、田代も森田も吹き出した。
  3236. 「おいおい、冗談じゃねえぜ。女達は、素人。一番年増の静子ってのは、遠山財閥の令夫人なんだぜ。それによ、映画女優の山本富士子ばりの美人なんだ」
  3237.  森田に、そういわれて、鬼源は、眼をパチパチさせた。
  3238. 「とにかく、商品を鬼源さんに一応お見せしようじゃないか。ここへ、静子夫人と京子を連れて来てくれんか。川田」
  3239.  と、森田がいう。
  3240.  承知しました、と川田は立ち上り、廊下へ出て行く。
  3241.  鬼源が田代や森田に盃をさされて、ペコペコしていると、間もなく、賑やかな話し声が廊下の方でし、静子夫人と京子を葉桜団員が引き立てて来たようである。
  3242. 「入ってもいいですかい」
  3243.  と銀子の声。ドアが開いて、生まれたままの素肌に本縄をかけられている静子夫人と京子がズベ公達に縄尻を取られ、引き立てられて来たのだ。
  3244. 「よっぽど、歩きにくいらしいので、股縄は外してやりましたよ」
  3245.  銀子は、静子夫人の尻を足で押すようにして部屋へ入って来る。京子は、朱美に縄尻をとられ、同じように尻を突かれるようにして、静子夫人の後に続くのだった。
  3246.  柔軟な乳白色の素肌をくの字に曲げて、引き立てられて来た静子夫人は、床の間の左の柱を背負わされた形で、ひしひしと縄がかけられ、立ち縛りにされ、京子は右側の柱に立ち縛りにされる。二人の美女は、身も心も疲れ果てたょうに、がっくり首を落とし、両肢を固く閉じ合わせているのだった。
  3247.  鬼源は、唖然としたように唾を呑みこんで床の間の緊縛
  3248. 美女を見つめている。
  3249. 「どうでい。鬼源さん、いい玉だろう」
  3250.  川田が鬼源の肩を叩くようにしていう。
  3251.  鬼源は、出歯をむき出して、
  3252. 「こんな別嬪さん方を俺に仕込めというのですかい。いっときますがね。わっしがこれまで手がけてた女ってのは、パン助以下の阿女ですよ。こんな、まぶしいような美人じゃ手がすくんでしまいまさぁ」
  3253.  それを聞くと、川田が笑いながら、
  3254. 「鬼源ともあろう者が、弱気を出すことはねえよ。そりゃこの奥さんは、もとはといえば遠山財閥の令夫人だし、このお嬢さんは、山崎探偵事務所の美人秘書だよ。だが、今は、この森田組の大切な商売物になってるんだ。遠慮する事はねえ。パン助を仕込みあげるより、手荒にあつかったって、かまわねえ。一日も早くショーへ出せるよう、ピッチをあげてほしいんだ」
  3255. 「じゃ、俺流の手荒な方法でかまわねえのですね」
  3256. 「勿論だとも。この二人も、その覚悟は充分、出来てるんだ。なあ、そうだろう」
  3257.  川田は、立ち縛りにされている静子夫人と京子の美しい頬を指でつつく。静子夫人も京子も、その瞬間、美しい柳眉を上げ、憤怒のこもった瞳を川田に向けるのだったが、どうしようもないよう再び首を垂れてしまうのだった。
  3258.  川田は、ニヤニヤしながら、二人の美女に対していう。
  3259. 「じゃ、今夜から、本格的な稽古を鬼源さんにつけてもらうからな。俺は助手というわけさ。二人とも一生懸命にやるんだぜ。お前達が熱心に励んで、客達を喜ばせてくれるょうになりゃ、美津子や桂子まで、ショーに出す気はねえのだからな」
  3260.  川田は、そういって、鬼源に、何か、あんたより、この女達にいう事はねえかい、と肩をつつく。鬼源は出歯をむき出して、二人の美女の前に立った。
  3261. 「俺も調教師として、社長や親分方に見込まれて、ここへ来たんだ。お前さん方の身元は俺にゃ関係ねえ。手加減はせず、こってりと絞りあげるから、そのつもりでいなきゃ駄目だぜ。ただ形だけで、ショーのスターになっちゃいけねえ。身も心も、ショーのスターになり切ってしまうのだ。俺は、そのように、お前さん方を仕込むつもりだからな」
  3262.  鬼源は、そういい、次に、田代と森田の方を向いて、
  3263. 「だけど、旦那、全くすばらしい女を手に入れたもんじゃありませんか。顔は、映画女優なみだし、体は一流のストリッパーなみだ。こういう御婦人方を仕込めるなんて、全く、夢のような気分ですよ」
  3264.  鬼源がそういうと、田代も森田も満足げにうなずき、
  3265. 「この別嬪さん方を商品にするまでには、ずいぶんと手数がかかったからな。ところで、どういう風に、この別嬪さん達を仕込みあげるつもりなんだ。一人一人に芸を仕込むよりこの二人をコンビにして、何か面白い事をさせりゃ、いいと思うんだが 」
  3266.  森田がそういうと、鬼源と川田はこヤリとして顔を見合わせ、川田がいう。
  3267. 「勿論ですよ。卵やバナナなんかの小道具を使う事も教えこみますが、結局は、この二人コンビにして、というより、夫婦のようにして♢♢」
  3268.  川田と鬼源が、調子づいて説明し始めたことを聞く田代と森田は、顔中しわだらけにして笑う。ズベ公達もキャッキャッ大声で笑い合うのだった。
  3269.  川田と鬼源の、悪魔の考えるような計画が柱を背負わされている静子夫人と京子の耳にも、おぞましく入って来る。両手の自由がきくなら、耳を押さえてしまいたい二人であった。鬼畜に等しい川田達の言葉が耳に入るのを防ぐよう静子夫人と京子は、激しく首を振り出す。それを見た川田は、□を歪めて、
  3270. 「ふふふ、何も今から、そんなに喜んで興奮しなくてもいいよ。稽古は今夜からだ。それまで、いろいろと準備しなくちゃならないからな」
  3271.  そういいながら、川田は、ズベ公達に命じて、夫人と京子の足首に縄をかけ、がっちりと、柱に固定させてしまう。
  3272.  それを見て、鬼源はポケットから、小さい巻尺を取り出し、まず京子の方へ近づいて来た。
  3273.  一体、何をする気なのか、京子は新たな恐怖におぴえた眼を見開く。横から、川田が京子にいった。
  3274. 「何もそうびくつく事はないやな。今いった通り、夫婦ごっこするとなりゃ男勝りの鉄火娘の方が、さしずめ、旦那の役どころだ。だけど、そのままじゃ絶好がつかねえ。鬼源さんが今夜の練習に間に合うように小道具を作って下さるというわけさ。だからよ。ちょっと、サイズを計らせてもらうぜ」
  3275.  川田がそういい終わらぬうちに、鬼源は、京子の足元へ身をかがめてしまった。
  3276. 「な、何をするの!」
  3277.  京子は真っ赤な顔になって、全身を固くした。
  3278. 「土手の高さ、割れ口のサイズなどを調べるんだ」
  3279.  鬼源はそういって京子の薄絹の柔らかい茂みをかき上げ、サイズを計り、手帳にメモしながら立ち上った。
  3280. 「奥さんの方のサイズも必要だそうだ」
  3281.  川田は、ニヤニヤして、静子夫人の動揺した表情を、うかがっている。
  3282.  鬼源が、巻尺を手にして、猫背の体を運んでくると、静子夫人は切長の美しい瞳に涙をにじませ、嫌々をするように顔を振るのだった。
  3283.  鬼源の小さな体が足元に沈むと、静子夫人は、歯ぎしりして、鳴咽し、体を硬化させる。
  3284.  ようやく、鬼源が計り終えて、メモした手帳を川田に見せると、川田は、含み笑いし、
  3285. 「よし、これでわかった。今夜までに、二人にぴったりの小道具を作ってもらってやるぜ。楽しみにしてな」
  3286.  静子夫人と京子は、もう顔をあげ得ず、よよと泣きじゃくるだけだった。
  3287.  
  3288.  
  3289.  
  3290. 第十四章 美津子受難
  3291.  
  3292.  
  3293.     二人の美女
  3294.  
  3295. 「どう、御気分は?」
  3296.  銀子と朱美が鍵を外して、牢屋の中へ入って来た。美津子は、慄然として、体を硬化させる。一時間ばかり前、この毒蛇のようなズベ公達は、調教師に顔を見せるんだと姉の京子を何処かへ引き立てて行ったのだ。
  3297.  屈辱の象徴のような小さいバタフライ一枚を身に許されただけの美津子は、緊縛された身をくねらせ、後ろの柱へ顔をすりつけるように伏せる。
  3298. 「お姉さんがいなくなって淋しいだろうと思ってね、お友達を連れて来てあげたよ」
  3299.  朱美は、そういって振り返り、手招きすると、悦子とマリが、桂子を引き立てて来た。
  3300.  今まで、姉の京子が立ち縛りにされていた柱へ、ズベ公達は桂子を押しつけ、ひしひしと縄をかけ始める。
  3301.  必死に顔をよじっている美津子の頬に手をかけた銀子は、ぐいと美津子の顔を桂子の方へ向けさせて、
  3302. 「お嬢さん、ちょいと見てごらん。こういうのを股間縛りというのだよ。そのうち、貴女にもしてあげるわね」
  3303.  銀子は、そんな事をいって笑い、次に、悦子とマリにいった。
  3304. 「桂子の股縄だけ外してやんな。それから、おしめを当てておやり。ふふふふ、だけど、よく辛抱したわね。桂子」
  3305.  悦子とマリに股縄を外された桂子は、その代りに、悦子が用意して来た真っ赤な布を褌のようにしめられていくのである。
  3306.  桂子は、もうこれらの悪女達に抵抗する気力を失ったように、されるがままになっている。
  3307.  美津子は、そうしたズベ公達の残忍な行為を見るに忍びず、眼を伏せ、恐ろしさに震え出す。
  3308. 「おっと、こちらのお嬢さんの方は、お姉さんのお古で間に合わせて頂くとしようよ」
  3309.  悦子は、桂子の腰に褌をしめ終えると、ズボンのバンドにはさんでいた、桃色の布♢♢一昨日まで京子がしめさせられていた褌を手に取って、美津子に近づくのだ。
  3310. 「やめて、嫌、嫌です!」
  3311.  美津子は、両肢を固く閉じ合わせて激しく首を振る。
  3312. 「何いってんのよ。その可愛いバタフライを汚されちゃ,こっちが嫌だわ」
  3313.  悦子とマリはそういって、美津子のバタフライの紐を解き始めていた。
  3314.  遂に、悦子とマリに、ピンクの褌をしめられてしまった美津子は、消えいるように首を垂れ、すすりあげる。
  3315.  赤と桃色の色褌を、キリリとしめられた、二人の美しい乙女を、しげしげと見た銀子と朱美。互いに顔を見合わせて、とってもよく似合うわね、と笑い合う。
  3316. 「いいかい。あと三十分ばかりしたら、また来るからね。それまでに今しめてあげた褌をおしめの代用にして、二人ともちゃんと用をすませておくのよ。もし、いわれた通りにしていないと、お仕置するからね」
  3317.  美津子は、それを聞くと真っ赤になり、声を震わせて泣きじゃくるのだった。
  3318. 「いいね、三十分以内にだよ。お互いに、よ—い、どん、と調子を合わせて、一緒にすませるがいいわ」
  3319.  ズベ公達は笑い合い、揃って出て行こうとしたが、銀子は、ふと足を止めて、
  3320. 「そうそう、二人とも、初対面だったわね。一時、この葉桜団と関係していた事があるのさ。馬鹿な娘だよ。自分が何時か葉桜団のいいカモになるってことも知らずにね。結局、美しいママと一緒に森田組の商品になっちまったわけさ」
  3321.  朱美が美津子の紅潮している頬を指でつつく。
  3322. 「こちらはね、美津子さん。夕霧女子高校の才媛よ。私立探偵美人秘書、京子の妹だったのが、運のつきね。これからは、お姉さんと一緒に秘密ショーのスターとしての修業をするのよ。年も背恰好も大体、二人とも同じ位だし、今後は二人コンビで色々な芸当を教えこんであげるわ」
  3323.  固く眼を閉じ、唇を噛んで、美津子と桂子は、鬼女のようなズベ公達の言葉を聞いている。
  3324.  ズベ公達が高笑いしながら、外へ出ていくと、ひときわ激しく屈辱がこみあがってきて、美津子は身を震わせて、号泣するのだった。
  3325.  そんな美津子に涙でうるむ瞳を向けた桂子は、すすりあげるようにいう。
  3326. 「♢♢美津子さん。貴女とお姉さんの事は、今の連中から私、よく聞かされて知っていましたわ。許して、一番悪いのは私なのよ。私のために、ママや貴女にまで♢♢」
  3327.  桂子は、たまらなくなったように声をふるわせて、すすりあげる。
  3328. 「桂子さん。ここから逃げる方法はないのでしょうか。私、私、気が狂いそうです」
  3329.  美津子は、眼の前の柱に緊縛されている桂子に、キラキラ涙で光る瞳を向け、声をつまらせていう。
  3330. 「駄目よ。ここは森田組の本拠ですもの。それに、こんな姿にされて、逃げられる筈はないわ。時期を待つより仕方がないわ」
  3331. 「でもそれまでに、私達、どんな目に遭わされるか、わからないじゃありませんか」
  3332.  美津子は、しきりに身をもみ、何とか縄目をゆるめようと悶え出したが、びくともするものではなかった。
  3333. 「駄目だわ。ああ、お姉さん」
  3334.  美津子は、どうしようもないようにぐったりして柱に背を押しつける。ここから連れ出されて行った姉の京子が、ズベ公達に今頃、どのような悪どい責めに遭っているのかと思うと美津子はたまらなくなってしまうのだ。
  3335. 「美津子さん。もうそろそろ時間だわ」
  3336.  桂子が、おろおろしながら美津子にいう。
  3337.  京子や朱美が再びここへ来る前に、彼女達が命じておいたことをしていないと、どのような責め折檻に遭うかわからないと、桂子は口ごもりながら美津子にいうのだ。
  3338. 「嫌よ。そ、そんな事、私、死んだって、嫌々」
  3339.  美津子は、真っ赤になった顔を激しく振った。
  3340. 「貴女は、連中の恐ろしさをまだ知らないのだわ。私だって、死ぬ程、恥ずかしい事よ。でも、一旦、そうしなきゃ、どんな目に遭わされるか♢♢それに♢♢」
  3341.  桂子は、先程から生理の苦しさに悶えていたのだ。だが、美津子は、泣きじゃくるだけで、桂子のいう事を聞こうとしない。
  3342. 「美津子さん、お願い。しばらく眼を閉じていて♢♢」
  3343.  桂子は、仕方なく、気弱に眼をしばたきがなら、美津子にいうのだった。
  3344.  美津子は、顔を横へねじるようにそむけ、固く眼を閉じる。
  3345. 「美、美津子さん、お願い。こっちを見ないでね」
  3346.  音はやんだが、桂子は哀願的に何度も美津子にくり返すのだった。
  3347.  と、同時に、ズベ公達の足音。ギーと扉の開く音。
  3348.  美津子は、ギクリと身を震わせ、深く首を垂れる。入って来たのは、悦子とマリの二人だった。
  3349. 「わあ、ずいぶんと派手に濡らしちまったわね。桂子、昨日のママそっくりじゃない」
  3350.  二人のズベ公の高笑い。しかし、それは、すぐ止まった。
  3351. 「なんだい。美津子の方は、おしめを使っちゃいないよ。一体、どういう気なんだよ。私達にさからう気なのかい」
  3352.  美津子のセーラー服を着こんでいる悦子が眼をつり上げて、どなった。
  3353.  美津子は、悦子とマリに、いきなり横面をひっぱたかれ、憤怒のこもった美しい瞳を開き、歯を喰いしばったような表情で、二人のズベ公を睨む。
  3354. 「何だい。その顔。あたい達にさからう気なんだね。よし、そういう了見なら、こっちにも考えがあるよ」
  3355.  悦子とマリは、美津子の縄尻を柱から外すと、どんと美津子の背を突いた。
  3356. 「おしめを使わなかった事を後悔するようにうんと責めてやるよ。さあ、表へ出な」
  3357.  美津子は二人のズベ公に縄尻を取られて牢舎の外へ突き出される。
  3358.  桂子のいう通り、葉桜団の残忍さを美津子は、骨身にこたえるほど思い知らされる時が来たのだ。
  3359.  
  3360.  
  3361.     調教室
  3362.  
  3363.  ちょうど、その頃、静子夫人と京子は、三階の突き当たりの物置、つまり、調教室として用意の部屋った室へ、川田や田代達に引き立てられて行く。赤い絨毯の敷かれてある階段を一歩一歩、くの字の恰好をして歩んで行く夫人と京子。布切一枚許されず、肌身にあるのは、両手を後手に緊縛している非情な麻縄だけであった。
  3364.  森田組の若い乾分達、それに葉桜団のズベ公達。それらが、屠所へひかれて行く子羊に等しい夫人と京子の周囲を取り囲むようにしてからかいながらついて行くのだ。
  3365.  いよいよ、人間である事を忘れさせられるような恐ろしい訓練を鬼源のような人間達の手で受けさせられるのだと思うと、静子夫人も京子も恐ろしさに足がすくみ、時々、二人とも階段の途中で、たまらなくなったように身をかがめかけた。
  3366. 「何をしてるんだ。しゃんと歩かねえか」
  3367.  その都度、川田は、縄尻を引いて、二人の美女の尻を蹴った。
  3368.  すすりあげ、身悶えしながら歩いて行く、夫人と京子の尻が、左右に色っぽく揺れ動くのを、森田組の若い男達がニヤニヤして、見つめている。
  3369.  調教室という事になっている三階の部屋まで、二人の美女を引き立てた川田は、ノックする。ドアが開いて、顔を出したのは、出歯をむき出した猫背の鬼源だ。
  3370.  部屋の中には、鬼源の指図で、森田組のチンピラ達が作ったらしい不気味な道具類が、部屋の隅にぎっちりと配置され、部屋の中央には、土俵のような大きなマットレスが敷かれてあった。その上に二本の麻縄がからみ合うように天井から垂れている。
  3371.  川田は、恐怖に身を硬くしている夫人と京子を追い立てるようにして、マットレスの上へ押しあげ、垂れ下っている縄に夫人と京子の縄尻をつなぎとめた。マットレスの上に二人の美女は、ぴったり体を寄せ合ったように立たされてしまう。
  3372.  これから、一体、どのような目に遭わされるのかと、二人の美女は生きた心地はなく、ぴったり体を寄せ合って、小刻みに震えているのだった。
  3373.  川田が煙草を口にしながらいう。
  3374. 「へっへへ、この部屋が、お前さん方の調教室というわけさ。見てみな。木馬も、磔台も、大俎も、全部揃っているぜ。素直に鬼源のいう通りの事が出来なきゃ、何時でも、ああいう責め道具が、ものをいうってわけさ」
  3375.  川田がいうと、田代も、
  3376. 「これだけの道具を揃えるには、ずいぶんと、金と手間がかかったよ。二人とも、しっかり調教を受けて、立派なスターになってくれなきゃ困るぜ」
  3377.  と、腹をゆすって笑う。
  3378.  静子夫人と京子は、互いの白い肩に顔を埋め合うようにして、この屈辱を必死にこらえ合っているようだった。
  3379. 「そんな風にしていると、まるで恋人同士のようね」
  3380.  と銀子がからかう。すると、鬼源が、
  3381. 「恋人同士になって頂かねえと、これからの調教もやりにくいんだ。つまり、同性戦ってやつだな。二人とも、そういう気分に本当にならなきゃ駄目だぜ。さあ、一つ、本当の調教に入る前に、二人でキッスしてみな。うんと熱の入ったやつをね」
  3382.  鬼源がそういい出したので、ズベ公達は、わあーとわき立った。
  3383.  静子夫人と京子は、反射的に身を離し、あまりの屈辱に、こめかみのあたりを痙攣させ、涙のにじんだ美しい瞳できっと鬼源と川田を睨む。
  3384. 「何でえ。それ位のことで驚くには当たるめえ。これから、しなきゃならねえ事にくらべりゃ序の口ってやつだぜ」
  3385.  さあ、やったり、やったり、と、やくざやズベ公達に身体のあちこちを突かれる夫人と京子である。
  3386. 「何なら、お前さん達の眼の前で、美津子と桂子に面白え実演をさせてもいいんだぜ」
  3387.  川田は、ちらりと奥の手を出した。
  3388. 「♢♢京子さん」
  3389.  静子夫人は、二人の少女が自分達の眼の前で嬲りものにされるのを見る勇気はない。少女達の危険を救うために、その犠牲になろうと覚悟を決めたのか、泣きはらした瞳を京子に向ける。
  3390. 「♢♢お、奥様♢♢」
  3391.  京子も静子夫人の覚悟を知って、すすりあげながら、悲痛な表情で夫人を見た。二人は頬と頼とをすり合わし、身体をふるわせて、口惜し泣きする。
  3392. 「何をもたもたしてるんだ。早くキッスしねえか。甘く激しいキッスをね」
  3393.  川田が、嵩にかかって大声をあげる。静子夫人と京子は、人間的な思念を一切、投げ捨てたような気持で、互いに固く眼を閉じ、唇を近づけ合っていく。
  3394.  夫人と京子の唇が触れると、ズベ公達は、どっと喊声をあげた。が、川田と鬼源は、
  3395. 「唇を合わすだけじゃ駄目だ。二人とも、しっかり舌を吸い合って、熱烈なキッスシーンを展げるんだ」
  3396.  川田と鬼源は、何度も夫人と京子にそういう行為を演じさせ、気に入らぬと、青竹を持って来て、後ろから二人の尻を激しくひっぱたく。
  3397.  一時間近くも、そのように強制された接吻を演じている二人の美女は、遂に鬼源と川田を満足させる本格的な接吻をするようになった。夫人も京子も歯を開いて、舌を交互に相手の口の中に入れ合い、吸ったり吸われたりしているのを見た川田と鬼源は、互いに顔を見合わせニヤリとする。
  3398.  ようやく、唇を離す事を許された夫人と京子は、すぐに体をねじり合い、互いに背を向け合って、激しく鳴咽する。
  3399. 「何も、そんなに照れる事はねえよ。きっといいコンビになれるぜ。なかなか気分の乗ったキッスだったよ」
  3400.  と川田は笑う。
  3401. 「さて、気分の乗ったところで、本格的トレーニングといきましょうか。小道具は出来てますかね。鬼源さん」
  3402.  川田が鬼源の一方を向いていうと、細工は流々と鬼源は笑い、黒鞄を持ち出してくる。鬼源は、ふと、そのあたりに群がっているやくざやズベ公達に向かっていった。
  3403. 「すみませんが、これからの事は、わっしと川田の兄さんだけに任せて、皆さんは、ひとまず、外へ出て行っておくんなさい。最初だけに、皆さんが、そうじろじろ見ていなさるとこの別嬪さん方、羞ずかしがって身体がコチコチになって、うまくいかねえんです」
  3404.  鬼源がそういうと、やくざもズベ公も、口をとがらしだした。
  3405. 「何だい。あたい達は、それを楽しみにしてここまでやって来たんじゃないか。邪魔はしないから見物さしとくれ」
  3406.  銀子と朱美が口を揃えていったが、川田がさえぎった。「まあ、お前達の気持もわかるが、この御婦人方は、俺達の玩具じゃねえ。森田組の資金源になるよう鬼源さんのやり方で、みっちり仕込まなきゃならないんだ。それによ、練習中を同性の女達に見られるってのは、たまらねえ恥ずかしさで、鬼源さんのおっしやるように美しいスターが固くなってしまっちゃ、俺達がやりにくい」
  3407.  夕方までに、みっちり訓練し、今夜は、必ず、皆んなの前で実演させるから、と鬼源がズベ公達に約束したので、やっと納得した銀子は森田組の若い連中をさそって、廊下へ出る。二階のホーム酒場で、大いに飲もうとズベ公達は、やくざ達を誘うのだ。
  3408. 「じゃ、今夜を楽しみにしてるよ。奥さんと京子嬢の成長が早く見たいものだわ」
  3409.  銀子と朱美は、身体をふるわせて、すすりあげている夫人と女子にそう浴びせ、笑いながら、ドアを閉めた。
  3410.  
  3411.  
  3412.     狂乱の美津子
  3413.  
  3414.  花模様の青い絨毯の敷かれた明るい部屋、そこは田代の邸の中の豪華なホーム酒場だ。十人ばかり坐れるスタンドが作られてあり、スタンド椅子にぎっしり坐っている森田組の若い連中に、カウンターの中に入ってズベ公達が壁の棚の洋酒をサービスしている。部屋の隅にあるテーブルには、田代と森田が向かい合い、メモを書いて何か話し合っているが、秘密ショーを開く時期や接待する客の打ち合わせであろう。
  3415.  やくざ達とズベ公達は、賑々しく盃のやりとりをし、異様な熱気が部屋全体に充満してきたが、その時、ドアが開いて、悦子が、姐さん、いるかい、と入って来た。
  3416.  やくざ達の間に交って、スタンドめ中央に女王然として坐っている銀子が、何だい、悦子、と酒に濁った眼を向ける。
  3417. 「姐さん。美津子の奴ったら、全く強情なんだよ。せっかくしてやったおしめを使って用をたそうとしないんだ。少し、生意気だよ。ちょっとばかり、ヤキを入れてやって下さいよ」
  3418.  悦子は、そういうと、廊下の方へ向かって、
  3419. 「マリ、その娘、こっちへしょっぴいておいで」
  3420.  外の廊下で、お願いです、許して、と美津子の悲鳴が聞こえる。野卑な愚連隊とズベ公達が酒を飲み合っているそんな場所へ、あられもない姿で、引っぱり出されようとしている美津子の必死の、あがきが聞こえてくる。
  3421. 「何をしてるんだよ。おいでったら!」
  3422.  マリのヒステリックな声、と同時に、マリにどんどんと背を突かれたらしい美津子が、倒れ落ちそうに部屋の中へ入って来た。
  3423.  身に許されているものは、ピンクの褌一つというあられもない姿を、ひしひしと麻縄で緊縛されている美津子は、酒に濁った男女の眼に射すくめられたように、その場にちぢかんでしまう。そんな美津子の縄尻を後ろから、ひったくるように取ったマリは、強引に美津子を立ち上らせ、スタンドに坐る銀子の傍まで押し立てた。
  3424. 「お嬢さんの褌姿って、全くよく似合うぜ。ふるいつきたいぐらい可愛いじゃねえか」
  3425.  やくざ達は口々にそういい、ニヤニヤしながら、近づいて来る。
  3426.  マリに縄尻を取られ、銀子の前に立たされている美津子は、体中を火の玉のように赤らめ、美しい顔を横に伏せ、血の出るはど固く唇を噛みしめている。
  3427.  銀子は、底意地の悪い眼つきで、美津子の腰のあたりに眼を落とす。
  3428. 「なるはどね。おしめを使うのは、嫌なようね。じゃ、いいわ。必要でないものを、していたってしかたがない。脱がせておしまい」
  3429.  銀子は、悦子とマリにいった。
  3430.  あいよ、と二人のズベ公が、ガムを噛みながら、結び目に手をかける。
  3431. 「♢♢か、かんにんして!」
  3432.  美津子は、悲鳴をあげて、その場にうずくまってしまった。その上へ、のしかかっていく、悦子とマリ。
  3433.  銀子は、自分の足元で、バタバタやっている三人を面白そうに眺めながら、ビールを飲みつづける。
  3434. 「ふふふ、お嬢さん。そんな褌でもないよりは、ましなようね」
  3435.  銀子が声をたてて笑うと、髪の毛をくしゃくしゃにしたマリと悦子が、ハアハア息をはずませて立ち上り、銀子の前のスタンド台に悦子を引き寄せて腰を置く。
  3436. 「全く、手のかかる娘だよ」
  3437.  悦子とマリは、コップに注がれたビールを一息に飲み干し、足元にうずくまり、激しく泣きじゃくっている美津子の尻を、憎々しげに、蹴る。銀子は、二人をなだめて、
  3438. 「手荒にしちゃ、いけないよ。商売ものじゃないか」
  3439.  そして、椅子から降りた銀子は、床に泣き伏している美津子の、すべすべした両肩に手をかけて、抱き起こす。
  3440. 「さあ、お嬢さん。この椅子に、お坐りするのよ」
  3441.  スタンドの止り木型になっている椅子へ、美津子は、ズベ公達に支えられるようにして坐らされる。
  3442. 「たまらねえ眺めだな」
  3443.  背後で、そんな光景を酒を飲みつつ眺めるやくざ達は、陶然としていうのだった。
  3444.  丸い平たい背のない椅子へ、絹餅のような美津子の尻がぺたりと乗っかっている。美津子のなめらかな背の中頃にある、痛々しく後手にくくり上げられた可憐な手首が、妙に艶めかしく見えるのだ。
  3445. 「お嬢さん。ビールがいい、それとも、ウイスキーにする?」
  3446.  銀子は、唇を噛んで、首を深く垂れている美津子の黒々とした髪を、手でいじりながらいう。
  3447. 「姐さん。何もそんなに優しくしなくたっていいじゃないか。おしめを使おうとしないこの娘の強情さを、叩き直そうじゃありませんか」
  3448.  悦子は、口をとがらせて、そういった。
  3449. 「まあ、そうあわてなくてもいいよ。お前だって、このお嬢さんのセーラー服をちゃっかり頂戴したんじゃないか。あまり、そういじめてやるもんじゃないよ」
  3450.  悦子のコップにビールを注いでやりながらそういった団長の銀子が、そんな風に嬲りものにする娘に対して優しく出る時は、嵐の前の静けさで、より一層の残忍さを発揮する時であり、悦子も、それを呑みこんで、顔をくずし、コップのビールをうまそうに飲み出す。
  3451. 「ところで、お嬢さん。貴女も、森田組の商品になったのだから、そう何時までも、我儘を通してもらっちゃ困るのょ。そこで、考えたのだけどね、貴女に、いいお婿さんを、お世話してあげようと思うの。十八といえばもうそろそろ、花嫁になっても、いい年頃じゃないの」
  3452.  銀子は、美津子の美しい横顔を眺めながらそんな事をいい出した。かなり酩酊した朱美が、割りこんで来て、美津子の雪のように白い肩に手をかけ、酒臭い息を吐きながら、
  3453. 「そうよ。あんただって、男を知っちまえばもっと素直になって、葉桜団や森田組のために働く気になるわよ」
  3454.  美津子は激しく首を振る。
  3455. 「一応、お見合いだけでもしてみたら」
  3456.  銀子は含み笑いして、美津子のすぐうしろに立って、ニヤニヤしている吉沢を呼び、席を開けて美津子の隣に坐らせる。
  3457.  ちらと吉沢を見た美津子は、反射的に顔をそむけ、石のように身体を硬くする。忘れもしない、昨日、不良少年達に残忍な強制浣腸を受けた自分をからかいつづけ、そのあと、姉の京子にむごたらしい浣腸を、ほどこした毒蛇のように恐ろしい男なのだ。
  3458.  屈辱と憤怒に、肌身を、わなわなふるわせている美津子に、銀子は煙草を吐きかけながら、
  3459. 「この人はね、森田組の幹部なんだよ。貴女のような初心な女学生が、とても好きだと、おっしゃるのさ。今朝から、私達にね、貴女との間を、とりもってくれ、と何度も頼みに来てるのさ」
  3460.  朱美が、続いて、
  3461. 「森田組の大幹部に、女にしてもらえるなんて、すばらしい事じゃないの。私達の顔をたててくれるわね」
  3462.  美津子は、狂ったように白い裸身を、震わせ、
  3463. 「嫌っ、嫌です! かんにんして、かんにんして下さい!」
  3464.  スタンドの台の上に、顔を押し当て、美津子は激しく泣きじゃくる。
  3465.  ずいぶんと嫌われたものね、と銀子は笑いながら、吉沢の顔を見る。
  3466.  派手な格子じま模様の背広を着、青色のソフトを横っちょかぶりにしている吉沢は、ウイスキーをなめるように飲みながら、
  3467. 「鳴くまで待とう、ほととぎす、てのが俺の気持さ。鳴かすのは、お前達の役目だぜ。そのかわり、これからは、大いにお前達を眼にかけてやるからな」
  3468.  わかってるよと、悦子が笑い、吉沢がポケットの中にしまっているものを出させる。それは、刺繍のほどこしてあるピンクのパンティであった。美津子のものである。悦子は、それを美津子の顔の前へ置き、
  3469. 「ふふふ、お嬢さん。これは貴女のものね。吉沢さんがぜひ譲ってほしいというので、譲ってあげたんだけど、こんなものをポケットに入れるほど貴女の事を想っているのよ。思いを遂げさせてあげる気にならないかい」
  3470.  眼の前に、自分の今の今まで穿いていた下着が、これ見よがしに置かれ、美津子は、羞恥にきゅっと唇を噛んで、それから眼をそらせる。
  3471. 「吉沢の兄さんに抱かれるのは嫌、となるとお嬢さん、今、おしめを使わなかったというような我儘は絶対に許さないよ、いいね」
  3472.  銀子は急に声を大きくして、いった。
  3473.  美津子は、涙を流しながら、小さくうなずく。吉沢の毒牙にかかる事を思えば、どんな辛い目に合わされても耐えようと悲痛な決心を美津子は、したのだ。
  3474. 「もうおしめなんて、贅沢なものは使わせないよ。朱美、そら、あれがどこかにあっただろう。病人の使うやつさ」
  3475.  朱美が、ああ、あれかい、と笑って、部屋を出て行ったが、すぐかけもどって来て、カウンターの上に、ガラス製の横にした壷のような容器を置いた。尿瓶である。
  3476.  耳たぶまで真っ赤にして、美津子は、再び顔をカウンター台に、すりつけるようにして泣きじゃくる。
  3477.  銀子の指図で、森田組の若い連中が、部屋の中央に椅子を積み重ねて、天井の梁に二本の縄を通した。二本の麻縄がゆらゆらと揺れているその下の床に、ズベ公達は、間隔をおいて、二本の短い棒を打ちこみ始める。
  3478.  それを見た田代が、驚いて椅子から立ち上り、
  3479. 「おいおい。部屋の床に杭なんか打ちこんで気でも狂っのか」
  3480.  と怒ったが、朱美が、
  3481. 「美津子嬢があまり強情なんでね。ちょいとばかり教育するんですよ。面白いものをお目にかけますから、今日のところは大目に見て下さいよ」
  3482.  カウンター台に顔を埋めて、激しく鳴咽している美津子の、すべすべした陶器のように白い肩を銀子は、後ろから抱くようにして、
  3483. 「お嬢さん、用意が出来たわよ。さあ、こっちへ、どうぞ」
  3484.  魂を失った人間のように、美津子は、銀子に体を支えられるようにして、床の上を腰をかがめて歩いて行く。
  3485.  天井から無気味に垂れ下っている二本の縄。そして、床の上に打ちこまれてある二本の棒杭。
  3486.  ちらっとそれを見た美津子は、眼まいがして、その場に膝をついてしまう。
  3487.  悦子とマリが、そんな美津子の両側にしゃがんで、固く後手に縛ってある縄を解き始めた。これから、どういう事を演じさせられるか、美津子は、想像するだけで息が止まりそうだった。羞ずかしさと口惜しさで火の玉のようなものが、喉元にこみあがってくる。
  3488.  縄を解かれた美津子は、本能的に両の胸を両手で固く押さえ、腿をぴったり閉じ合わせて、猿のようにちぢかんでしまう。
  3489. 「さあ、元気を出して、お嬢さん」
  3490.  銀子が、舌なめずりをするようにいい、悦子とマリが、死刑執行人のように美津子のしなやかな両腕を左右から、かいこむようにして立ち上らせた。
  3491. 「♢♢嫌です。お願いっ、や、やめて!」
  3492.  美津子は、待ちかまえていたズベ公や、やくざ達に取り囲まれ、上から垂れている二本の縄に両手を大きく高々とあげさせられ、その各々の手首を縛りつけられてしまう。
  3493.  両手首にきびししく喰いこむ縄目の痛さに、美津子は悲鳴をあげたが、吊られている両腿の附根のあたりに、真っ赤になった顔を、こすりつけつつ、すすり上げる。形のいい、ぴったり、くつついた可愛い膝小僧が、思いなしか、ぶるぶる震ええているようだ。
  3494.  銀子が、美津子の紅潮した頬を指でつつくと、含み笑いしながらいった。
  3495. 「ふふふ、どう、お嬢さん。貴女これから、皆んなの見ている前で、とんでもない事をしなきゃならないのだけど、思い直して、吉沢さんの花嫁になる気はないかい」
  3496.  美津子は、嫌々と首を振る。
  3497. 「♢♢嫌ですっ、死、死んだって、そんなこと♢♢」
  3498.  銀子は、舌打ちする。
  3499. 「そうかい。それなら仕方がないね。じゃ、酒の肴になってもらおうよ」
  3500.  銀子は、悦子とマリに眼くばせした。
  3501.  美津子の足元に身をかがめた悦子は、美津子の産毛の生えている白い脛を、パチンと平手で叩き、
  3502. 「さあ、お嬢さん」
  3503.  美津子は、悦子に足首を握られると、狂ったように悶え抜く。
  3504. 「往生ぎわの悪い事では、姉の京子とそっくりだね。吉沢の兄さんに満座の中でヒジテツを喰わす度胸があるんじゃないか。何も今更、羞ずかしがる事はないよ」
  3505.  マリは、そういって、見ている連中に応援を頼む。
  3506. 「♢♢やめてっ、嫌っ。ああ♢♢お姉さん」
  3507.  美津子は、かっと頭に血がのぼり、逆上したように悶えたが、どうしようもない。すらりとした両肢は、打ちこまれてあるくいに、がっちりと足首を、つなぎ止められてしまった。
  3508. 「お嬢さん。そういう恰好をね。どうでもして頂戴スタイルというのよ」
  3509.  銀子が、楽しくてたまらぬような口ぶりでいった。
  3510.  
  3511.  
  3512.  
  3513. 第十五章 スター誕生
  3514.  
  3515.  
  3516.     美津子の屈伏
  3517.  
  3518.  美津子の肉体を痛めつけるというのは、本心ではなく、美津子の心の底からの屈服を狙っているズベ公達は、眼にしみるばかりの白い素肌を、しばらくは黙って凝視する。
  3519.  輝くばかりに綺麗な白磁の裸身を‡]型に縄で固定されてしまった美津子。もう流す涙も涸れ果てたように、がっくり首を垂れ、切なく肩で息づいていた。
  3520.  そんな美津子の周囲を、美津子の肉体を綿密に観察するように、ぐるぐる廻り歩く銀子と朱美である。
  3521. 「どうだい、美津子嬢。そんな恰好にされても、吉沢兄貴のスケになるのは嫌かい。考え直すなら、今のうちだよ」
  3522.  朱美は、柔らかい白桃の様にふっくら盛りあがっている美津子の尻をつねっていった。
  3523.  美津子は悲鳴をあげて、裸身を悶えさす。
  3524. 「仕方がないね。じゃ、まず、擽り責めといこうか」
  3525.  銀子が、仲間のズベ公達に眼くばせした。
  3526. 「あっ、な、何をするのっ、やめて!」
  3527.  美津子は、狂乱したように吊り上げられている両手を悶えさせる。背後にいた朱美が、いきなり、後ろから美津子の胸をかかえこむように手を廻し、ふっくらとした胸の二つの隆起を両手でつかんだのである。
  3528. 「あたいの得意な乳房責めよ。形のいいおっぱいに仕上げてあげるわ」
  3529.  朱美は両手を動かしながら得意顔でいう。
  3530. 「お、お願い! かんにんしてえ!」
  3531.  美津子は、朱美の残忍な乳房責めに、逆上し、悲鳴をあげて悶えつづける。無垢な乙女にとって、何よりも辛い責めだ。
  3532. 「今からでも遅くないわよ。吉沢兄貴のスケになる決心をしな。皆の見ている前で、これ以上、私ずかしい思いはしたくないだろう」
  3533.  朱美は、責めの手は休める事なく、後ろから美津子の耳元に口を寄せ、そういうのだった。
  3534. 「♢♢ああ♢♢」
  3535.  美津子は、歯をキリキリ噛み鳴らし、美しい眉を寄せ、白い喉を大きく見せて、あえぎつづける。
  3536. 「お手伝いしましょうかね」
  3537.  悦子とマリが、ニヤニヤし、朱美と調子を合わせるようにして、大きく波打つ美津子の肌のあちこちを擽り出そうとするに及んで、遂に美津子は、
  3538. 「♢♢聞きますっ。言う事を、聞、聞きますから♢♢お願い。やめて♢♢」
  3539.  美しい美津子の額には、べっとり脂汗がにじんでいる。ハアハアと激しく肩で息をしながら、美津子はズベ公達の執拗な擽り責めに抗し切れず、彼女達の要求を承認したのだ。
  3540. 「ほんとだね。吉沢さんの花嫁になる決心がついたんだね」
  3541.  朱美は、やっと、乳房や脇腹の擽り責めを中止し、前へ廻って美津子に念を押す。
  3542.  顔を伏せながら、美津子は、屈辱にむせびつつ、小さくうなずいた、が、同時に、美津子は堰をきったように、激しく身をふるわせて泣き出すのであった。
  3543.  ズベ公もやくざ達も、どっと賑やかな喊声をあげる。
  3544. 「よかったね、吉沢さん。こんな可愛いお嬢さんを花嫁に出来てさ」
  3545.  銀子は、椅子に坐って、やたらにウイスキーを飲みつづけている、吉沢の肩を叩いていった。
  3546. 「お前達が、その娘をこれから、どういう風に責めるのか、もう少し見物したかったのが、残念だったな」
  3547.  吉沢は、いささか照れ臭そうな表情で、そんな事をいった。
  3548. 「ちゃんと、美津子に宣誓させようよ」
  3549.  朱美が銀子に持ちかける。そうだね、と銀子は、悦子やマリを呼んで、あられもない姿にされている美津子を取り巻いた。吉沢のスケになる事を承知した美津子に吉沢の前で宣誓させるべく、その要領を教えにかかっているらしい。
  3550.  吉沢は、一応、親分の森田の了解を得る必要があるので、改めて、森田にそのことの承諾を求める。
  3551. 「うん、うめえ事をしたな。だが、その娘も森田組の商品だって事を忘れるな。自分のスケにするのはいいが、森田組のため、うんと働くよう、お前からも、よくいって聞かせなきゃ、駄目だぜ」
  3552.  森田は、吉沢にウイスキーのグラスを渡してやりながら、えびす額で、そういった。
  3553. 「へえ、俺のスケにするからにゃ、今までのような事はさせません。任せておくんなせえ」
  3554.  そう吉沢がいった時、銀子が吉沢を物陰に呼んだ。
  3555. 「美津子に宣誓させるからね。ちょっと、ここへおいでよ」
  3556.  ズベ公達にとり囲まれている美津子は、眼の前に吉沢が、すっくと立つと、たまらなくなったように、吊られている腕の附根あたりに紅潮した顔を、すりつける。
  3557. 「ふふふ、何と言ったって、まだ女学生なんだからね。自分の夫と決まった人に、正面に立たれると羞ずかしいのだよ」
  3558.  銀子が笑って、いう。
  3559. 「さあ、美津子嬢。今、私達が教えてあげた事を吉沢さんに、はっきり、いうのよ。そしたら、縄を解いたげるわ。夫になる人の前だからといって、そんな羞ずかしい恰好を何時までもさらしていたくはないでしょう」
  3560.  と、朱美。
  3561.  美津子は、ズベ公達に尻を突かれ、腋の下をくすぐられたりして遂に顔を正面の吉沢に向けた。涙にうるんだ黒い瞳は、妖しいばかりにキラキラ光り、その凄惨なばかりの美貌を見た吉沢は、射すくめられたように、どきりとする。
  3562. 「♢♢吉沢さん。美津子は、喜んで、貴方の妻になる事を♢♢ち、誓います」
  3563.  血を吐くような思いで美津子がいうと、わあーとズベ公達は、勝ち誇ったように歓声をあげた。
  3564. 「よく決心してくれたわね。これであたい達の顔も立ったというもんだ。やっと肩の荷が下りたわ」
  3565.  銀子は、満足げに、うなずく。朱美が、狂い泣きしている美津子の耳元に口を寄せ、インタビューする記者の口ぶりを真似て、からかうのだ。
  3566. 「ところで、お嬢さん。目出度く結婚されたら、赤ちゃんは、何人ぐらい欲しいとお考えですか♢♢」
  3567.  どっと、ズベ公達は笑い出した。
  3568. 「お嬢さんの気の変らねえうち、式は早い方がいいな。てっとり早いところ、今夜にでもどうだ」
  3569.  森田がビールをうまそうに飲みながら、がらがら声でいう。
  3570. 「♢♢ああ」
  3571.  美津子は、紅潮した顔を横へねじるように伏せ、高々と吊られているしなやかな白い腕を苦しげに動かしながら、すすりあげている。
  3572. 「さあ、吉沢の兄さん。可愛い恋人に、キッスしてあげなよ」
  3573.  銀子にいわれて、吉沢は、いささか照れた顔つきになったが、すぐにズカズカと美津子に進み寄る。恐怖に黒眼がちの美しい瞳を大きく開き、嫌々と激しく首を振る美津子。
  3574. 「花婿のキッスをこばむ花嫁がいるかよ」
  3575.  と、朱美は、美津子の真っ白な尻をピシャリと平手で叩いた。
  3576.  如何に拒んだところで、‡]字型にきっちりと固定されている美津子は、どうしようもなく、遂には、いやらしく突き出してくる吉沢の唇を我が唇で受け止めなくては仕方なくなってしまうのだった。吉沢は、何かにとり憑かれたような血走った眼つきになり、美津子のきらめくように白い肩、そして、背後に廻り、すべすべした雪のような背筋から、ふっくらと盛りあがった胸のあたりにまで、接吻の雨を降らしまくる。体中をまむしが這いまわるような、ぞっと虫酸の走るような感触を、美津子は苦しげに首をのけぞらせ、歯を喰いしばって耐えている。
  3577. 「あっ、あ、何をするの? やめて!」
  3578.  吉沢が、腰をかがませて、美津子の割り開いた両腿を両手で支え、その両腿の附根に唇を触れさせようとすると美津子はもう耐えられなくなって、金切声をあげ、吊り上げられている両腕を必死になってひく。ふっくらした尻の筋肉までが、ピーンと、はった。
  3579.  ズベ公達が笑った。銀子は、もう、その位にしておおき、と口を歪めながら吉沢を制する。
  3580. 「あとの楽しみが薄くなるじゃないか。そういう事は、今夜、水いらずで、すりゃあいいよ。まだ、これからあんたがする事は、たんとあるんだから」
  3581.  吉沢は、へっへへ、といやらしく笑いながら、ようやく美津子の傍から離れる。
  3582.  銀子は、大きく肩で息をし、屈辱にのたうっている美津子に対し、急に手きびしい口調でいった。
  3583. 「大げさな悲鳴をあげるんじゃないよ。吉沢さんは、これからは、あんたの亭主になる人じゃないか。亭主のする事にさからっちゃ、私達が承知しないからね。いいね」
  3584.  銀子は、美津子の鼻をつまみあげた。そしてカウンターの上のガラス製の便器を取りあげ、それを吉沢にわたす。
  3585.  ほっとしたように耳たぶまで真っ赤にして、顔を横へねじった美津子。
  3586. 「何もそう真っ赤になって羞ずかしがる事はないだろう。あんたの亭主が世話してくれるんじゃないか。大きい方も、これからは全部、こういう具合に亭主任せにするのよ。わかったわね」
  3587.  酒臭い息を吐きながら朱美が、体中を火のように熱くしている美津子の耳元に、吹きこむのだった。
  3588. 「それがすんだらね、このテープレコーダーに吹きこんで、三階にいるお姉さんに報告しましょうね。貴女が吉沢さんと結婚する事をさ。貴女のお姉さんも、きっと、賛成して喜ぶ事だろうと忠うわ」
  3589.  銀子は、おかしくてたまらないといった調子で、美津子にいい、吉沢の方へ眼くばせをする。奇妙な形のガラス瓶を見た美津子は恐ろしさに体中を針のように緊張させて、吊り上げられた両手をねじるように、必死に悶えさせる。
  3590. 「嫌よ。ああ、嫌。あ、あんまりです。そ、そんな事、絶対に嫌!」
  3591.  美津子が逆上したように、わめきつづけると、ズベ公達はますます調子を出してくる。
  3592. 「何いってんのよ。吉沢さんにこういうものを使ってもらっているうち、貴女、吉沢さんに対する本当の愛情がわいてくるものなのよ。そりゃ、最初のうちは、とても羞ずかしいだろうけどさ、なれてくりゃ何でもないものよ。使わせてもらう時間が、そのうち待ち遠しくてたまらなくなるわ」
  3593.  銀子はそういいながら、ポケットから、ガスライターを出して、美津子の鼻先でパチリと火をつけた。美津子に絶対、拒ませないための、おどかしである。
  3594. 「その可愛いお鼻を、黒げにしてもらいたくなかったら、ふふふ、吉沢さんに甘ったるい声で、お願いするのよ、こんな風にね。ねえ、あなたあ。美津子、おしっこよう!」
  3595.  銀子が、頓狂な声を出したので、やくざもズベ公も腹をかかえて笑った。
  3596.  冗談ではなく、銀子は美津子に実際にそんなことをいわそうとしてムキになり、肌身をつねり、はては、ライターの火を尻のあたりに当て、美津子に悲鳴をあげさせる。銀子の残忍さに抗し切れず、遂に美津子は、固く眼を閉ざしたまま、
  3597. 「♢♢ねえ、貴方♢♢」
  3598. 「ねえ、貴方じゃ味もそっけもないよ。ねえ、あなたあーんと、色っぽく甘えかかるようにいうのさ」
  3599.  銀子は、美津子の尻をつねって叱る。
  3600. 「♢♢ね、ねえ、あなた♢♢あ」
  3601.  美津子は、体中を火柱のように燃えたたせて、血を吐くような思いでいう。
  3602. 「なんだい。何か用かね」
  3603.  吉沢がニヤニヤしながら、ガラス製便器をかかえて美津子に近づく。
  3604.  吉沢の赤黒い顔が美津子の白い顔をのぞきこむように近
  3605. づく。狂ったように首を振り悪魔のような吉沢の視線から、顔をそらせる美津子であったが、早くいわないか、と銀子や朱美に体のあちこちをつねり上げられる。
  3606. 「♢♢美、美津子。お、お、ああ♢♢」
  3607.  たまらなくなって、激しく号泣しだした美津子を、ズベ公達は腹を立てて、思い思いに折檻し出す。
  3608.  さあ、も一度、最初から、ちゃんとやり直すんだ、と銀子と朱美にぐいと、顎を持ちあげられた美津子。もうズベ公達にさからう気力も失せたよう、観念しきったように眼を閉じ、女達に命じられた通りの事を口にするのだった。
  3609.  
  3610.  
  3611.     二つの肉塊
  3612.  
  3613. 「どれ、このへんで一息つこうじゃないか」
  3614.  川田は、鬼源にコップを渡し、それにビールを注いだ。
  3615.  こりゃどうも、と鬼源は、コップのビールをうまそうに一息に飲みほす。川田も鬼源も上半身、裸になっている。汗びっしょりだ。静子夫人と京子の調教にとりかかって、もう三時間近くになろうか。川田も鬼源も、かなり疲れたらしく、窓ぎわの椅子に腰を下ろして一息、入れているのだ。
  3616.  部屋の中央に敷かれている大きなマットレスの上には、白い柔軟な二つの肉体が折り重なるようにして荷物のように投げ出されている。失神しているのか、二つの肉塊は、びくとも動かない。言うまでもなく、それは、静子夫人と京子であるが、無残にも後手に縛られたまま、精も根も尽き果てたようにマットレスに身を沈めて、俯伏せに倒れているのであった。
  3617. 「全く二人とも、いい肌をしてるじゃありませんか。え、どうです」
  3618.  鬼源は、マットレスの上の女体を楽しそうに眺めつつ、ビールを飲んで川田にいう。
  3619. 「どうだね、鬼源さん。この二人、商売ものとしての見込みは?」
  3620.  川田がニヤニヤしていう。
  3621. 「見込みはどうだって? 最高ですよ。顔はいうまでもないが、体にしたって、わっしゃ、こんないい体をした女を手がけるのは、生まれて初めてでさあ」
  3622.  鬼源は、そういって立ち上り、マットの上の二人の美女の傍に、しゃがみこむ。
  3623. 「ただ難をいえばですな。縄つきのままだから、あんたと私が人形使いみてえな事をして演じさせなきゃならねえ。それが、面倒といえば面倒だ。だが、それもわっし達の役得ってわけですねえ」
  3624.  鬼源は、川田の方を向いて笑っていう。
  3625. 「縄なしでこの二人が今みてえな事を演ずるにゃ、まあ半年はかかるだろうよ。何しろ、この別嬪さん方の育ちが育ちだからな。まあ、当分はお前さんと俺が人形使いの役をやろうぜ。案外、その方が客に受けるかも知れねえ」
  3626.  川田も鬼源と並んで、マットの上に気息奄々といった状態の美女二人に眼を落としながら、いうのだ。
  3627. 「ふふふふ。奥さん、大分、参ったようだね」
  3628.  川田は、静子夫人のふくよかな肉づきのいい白い肩に手をかけ、ひっぺ返すようにして上体を起こさせる。静子夫人は川田の懐の中へ、がっくりと首を仰向けに倒し、全くの放心状態であった。はち切れんばかりの胸の隆起が、切なげに大きく息づいている。艶やかな夫人の大きく見せた白い首筋を川田は、ぞくぞくした気分で眺めている。
  3629.  一方、京子も鬼源に肩を持たれて、上体を起こされたが、がっくり首を落とし、中身が空っぽの文楽人形のように夫人と同じ忘我状態であった。
  3630. 「さあ、しっかりするんだ。まだまだ、これ位で終わりじゃねえんだぜ」
  3631.  悪魔のような男達に、肩を揺すられた夫人と京子は同時に正気づいたのか、うっすら眼を開くのだった。静子夫人と京子の視線がぼんやりと合う。同時に、二人はハッとしたように顔を赤らめ、互いに視線をそらし合った。川田と鬼源に強制され、二人で今まで演じていた事を思い出すと、あまりの羞ずかしさに夫人も京子も、まともに顔を見られないのだ。
  3632.  川田は、そんな二人の様子を含み笑いしながら見て、
  3633. 「何も、二人とも、そんなに照れなくてもいいじゃないか。とにかく、二人とも、これで普通の関係じゃなくなったんだ。お互いに励まし合って、立派なスターになってくれなきゃ困るぜ」
  3634.  静子夫人と京子は、歯ぎしりし、絹のような感触の房々した黒髪を振って鳴咽するだけだった。
  3635.  そこへ、ノックの音。田代と森田の二人であった。入って来ると、
  3636. 「どうかね。御婦人方は、ものになりそうかい?」
  3637.  森田は鬼源と、マットの上に立膝をして、すすりあげている二人の美女を、交互に眺めながらいう。
  3638. 「とにかく、今夜、皆さんの前で、すばらしい実演をさせて御覧に入れますよ。ま、それを御覧になりゃ、よくわかりまさあ」
  3639.  と、鬼源は自信ありげに言う。
  3640.  そうか、それは楽しみだと、田代は、満足そうにうなず
  3641. きながら、
  3642. 「今、森田親分とも打ち合わせしたのだが、ショーの第一回開催は、来月の一日という事にきまったよ。まだ一過間ある。会員には、明日、案内状を出す事にしたんだ」
  3643. 「そうですかい。一週間もありゃ、まだ色々と芸当を教えこむ事が出来まさァ」
  3644.  川田と鬼源は、うなずき合っていう。
  3645. 「そこでだな、川田。今、森田親分とも相談したんだが、こういうアイデアはどうだ」
  3646.  田代は、川田と鬼源を部屋の隅へ呼んで何か小声で話しだす。
  3647. 「なるはど。そいつは面白えや。じゃ、とにかく京子と一緒に遠山夫人も剃り落とせばいいってわけで♢♢」
  3648.  川田は吹き出して、
  3649. 「遠山夫人も、そのアイデアには、大賛成だと思いますぜ。行って聞かせてみましょう」
  3650.  マットの上に立膝をし、小さくちぢかんでいる静子夫人に近づいた川田は、艶やかな夫人の房々と耳を覆っている黒髪をかきわけ、ニヤニヤしながら耳うちをする。
  3651.  川田に耳元で何かささやかれた夫人は、その途端、電気にでもうたれたようにギクッと身を震わせ、実しい柳眉をあげ、激しい憤怒をこめた瞳で川田を一瞬、睨んだが、たまらなくなったように首を垂れ、嫌々と長い黒髪を左右に振りながら、マットの上に泣き伏してしまうのだった。
  3652.  川田は唇を舌でなめながら、泣き伏している静子夫人に向かって続ける。
  3653. 「ショーを御覧になって下さった全員の方々に記念として、一本ずつ差し上げる、てのは全くいい思いつきじゃねえか。まだ、一週間もあるんだ。今日、剃ってしまえば、ショーを開く日までにゃ、何とか恰好がついてくるもんさ」
  3654.  静子夫人は、マットの上に体を、うつ伏せにしたまま、よよと泣きくずれている。川田達の立てている計画、その常軌を逸した残忍さ。静子夫人は、そんな目に逢う位なら、いっそ一思いに舌を噛んで、その生地獄から逃れようと思うのだったが。
  3655. 「奥さんと京子さえ、このショーを本心からやる気になって、成功させてくれりゃ、桂子や美津子まで何も無理やりショーのスターにする気はねえのだからな」
  3656.  川田が夫人の心を見すかしたようにいう。この悪魔達に桂子や美津子の事を引き出されると、全く手も足も出なくなってしまう夫人と京子であった。
  3657.  田代が、のっそり近づいて来て、川田と並び、屈辱に悶え泣きしている夫人に、いう。
  3658. 「剃りとったもののうち、その半分は、奥さんの最愛の御主人、遠山氏に奥さんからのプレゼントとして俺達から送ってあげるよ。どうだい。なかなか、俺達だって、気が利くだろう。奥さんの失踪以来、遠山氏は気が狂ったようになっているそうだ。そんな遠山氏に対して、何よりもいい贈り物だと忠うがね」
  3659.  田代は、太鼓腹を、ゆすって笑い出した。そして、歯ぎしりして屈辱に悶えている京子に対しても、
  3660. 「京子の方も、そのうち、半分は、まあ税金として森田組が頂戴するよ。あとの半分は、約束通り、山崎とかいう探偵さんに送り届けてあげるからね」
  3661.  といい、森田と顔を見合わせニタリとする。
  3662. 「じゃ、社長、どうしましょう。実演を先にごらんになりますか、それとも剃髪式の方を先に致しましょうか」
  3663.  と川田が聞くと、田代は、
  3664. 「剃髪式は少しでも早い方がいい。そうなった別嬪さん達のショーを見るのも、また一興じゃないか」
  3665.  と笑い、
  3666. 「そうだ。その前に、この奥さんにも、京子のように愛人に対しての声の便りをテープに吹きこませておかなきゃ。せっかくだから、プレゼントと一緒に声の便りも遠山氏に送ってやろう。遠山氏を悩殺するような、うんと色っぽいやつを吹きこませるんだ。わかったな、川田」
  3667.  任しといて下せえ、と川田は、マットの上で泣きくずれている静子夫人を舌なめずりしながら眺めた。
  3668. 「さて、奥さんの方は、これから吹きこみ、京子の方は、もう録音は、すんでるんだから一足先に舞台の方へ行き、社長や親分に仕上げて頂く事にしようじゃありませんか」
  3669.  よし、わかった、と森田は、京子の肉づきのいい肩に両手をかけ、
  3670. 「さあ京子、行こうじゃないか」
  3671.  と無理やり立ち上らせる。
  3672. 「き、京子さん!」
  3673. 「お、奥様!」
  3674.  たまらなくなったように夫人は後手に縛られている上体をくねらせて起き、連れ去られようとしている京子の肩に顔を押しつけて、激しく泣く。京子も房々とした夫人の黒髪に顔を埋めるようにして鳴咽するのだ。
  3675. 「とんだ愁嘆場だな。一時でも別れるのは、辛いって気持はよくわかるが、すぐにまた舞台で一緒になれるんじゃないか」
  3676.  川田は、強引に静子夫人を引き離し、マットの上にべったりと尻もちをつかせると、傍に落ちていた縄を拾いあげて、鬼源と二人で素早く夫人の均整のとれた両肢をあぐらに組ませて縛りつけ、テープレコーダーを持ち出して来て夫人の前にそれを置く。青竹や皮ムチをわざわざ取って来て、これをレコーダーの横へ川田が置いたのは、夫人が教えられた通りの言葉の、吹き込みを躊躇した場合、責めあげるハラだからである。
  3677.  そんな静子夫人の方を、すすりあげながら京子は、幾度も振りかえりつつ、森田と田代に縄尻をとられ、部屋の外へ引き立てられて行くのであった。
  3678.  
  3679.  
  3680.     絶体絶命
  3681.  
  3682.  田代や森田等が舞台と呼んでいるのは、かなり広い庭園の奥まったところにある古めかしい土蔵を改造して作ったもので、秘密会員は森田組からの通知があれば、ここへ集合する事になっているのだ。周囲は、鬱蒼とした竹薮に包まれていて、秘密会員の集合場所としては、うってつけのところである。
  3683.  縄尻を取った森田に背を突かれて、京子は縁側から沓ぬぎ石に降り、素足のまま、飛石伝いに歩かされる。このへんは数日前、京子が静子夫人を救出し、森田組の、やくざやチンピラ達と、激しい乱闘を演じたところであった。
  3684. 「あの時は、大奮闘だったね。京子」
  3685.  森田は、京子を引き立てながら、愉快そうにいう。柔軟な素肌をがっちりと、どす黒い麻縄で緊縛されている京子は、小砂利の上の上体を、くの字に曲げて、恐ろしい密室へ向け、歩ませられている。浣腸、強制排尿排泄。そして、魂も凍るばかりの屈辱の演技。そういった数々のむごたらしい責めを受けた身を、更にまた、羞恥の極致へ突き落とされるべく、竹薮の中の密室へ、震える素足を運んでいく京子であった。
  3686. 「待ってたわよ」
  3687.  竹薮の中から、銀子と朱美が顔を出した。
  3688.  田代と森田に、あらかじめ、密室の中の準備を部屋えておくように命じられたのだろう。銀子と朱美は、かけ寄って来ると、田代にいった。
  3689. 「社長、支度はちゃんと出来ていますよ。さあ、早く早く」
  3690.  と、うきうきした調子でいい、深く首を垂れて一歩一歩、足を運んでいる京子に、
  3691. 「ふふふ、京子姐さん、いよいよというわけね。さ、こちらへどうぞ」
  3692.  森田に代って、縄尻を取った銀子、どんと力一杯、京子の白い背を突いて、
  3693. 「あら京子姐さん。ずいぶんお尻の肉が発達してきたようじゃないの。色気たっぷりよ。浣腸のせいだろうかね。女になったからかしら」
  3694.  などと、朱美と顔を見合わせて笑い合う。
  3695.  古めかしい土蔵に達すると、朱美は鼻唄をうたいながら、ガラガラと網戸を開ける。中はかなり広い。十畳敷の広間に作られてあって、眼のさめるような明るい色の絨毯が敷きつめられてあり、特別に大型に作ってあるらしいピカピカと金色の模様が光る豪華な絹布団が、その中央に敷かれてあった。
  3696. 「これが、今夜、あたい達や森田組の兄さん達が見せて頂く舞台なのよ。つまり、来月開催するショーの試演会を開くってわけね。ここのベルを押すと、屋敷の方に通じて、葉桜団、森田組が、どっと、ここへやって来る事になっているの」
  3697.  朱美は、柱にとりつけてあるベルを、指で示しながら、京子の背を押していく。
  3698. 「だけど、ショーに入る前、仕上げておく事があったわね」
  3699.  この十畳の奥は、床の間のように一段高く作られている所があって、そこには二本の丸木が立てられてあった。それぞれの丸木の下方に一米位の横木が打ちこんである。十字架をちょうど、さかさまにしたような形にこしらえてあるのだ。更に不気味なことには、その奇妙な柱の前に洗面器が、一つずつ置かれてある。
  3700.  得体の知れない、恐ろしさを全身に感じ、京子はハッと止ち止まってしまう。
  3701. 「何をしてるんだよ、早く進まないか。こっちの柱が京子嬢、こっちの柱は静子夫人というわけさ。令夫人の方も、おっつけ、ここへ引き立てられて来るだろうさ」
  3702.  銀子は、京子の尻を蹴り、朱美と二人で、京子の背を柱へ押しつけると、田代や森田も手伝って、素早く京子の体を柱に立ち縛りに縄をかけ始めるのだった。京子は、もう一切の望みを捨てたように、ズベ公達にひしひしと縄をかけられるまま、ぐったりと首を落としていた。
  3703.  その時、川田と鬼源が、静子夫人を引き充てて入って来た。
  3704. 「ああ、奥様♢♢」
  3705.  京子は、夫人に気づくと、涙のにじんだ瞳をあげて、声を震わす。
  3706. 「♢♢京子さん」
  3707.  静子夫人も、一種、壮絶な表情で、泣きはらした瞳を京子に向けたが、川田と鬼源に、背を突かれ、緊縛された乳白色の熟し切った肉体を、丸い柱を背にして立たされるのであった。新しい縄を手にした川田と鬼源は、ひしひしと夫人のむっちりした上半身を柱へくくりあげていく。
  3708.  柱を背に立ち縛りされて並ばされている夫人と京子。申し合わせたように二人とも、がっくりと首を垂れて、すすり泣いているのだ。
  3709. 「いよいよ、始まるってわけね」
  3710.  悦子とマリ、それに森田組の幹部やくざである吉沢と井上が、酒で真っ赤になった頬を並べて、どやどやと入って来た。
  3711. 「あら、奥様も一緒なの♢♢」
  3712.  悦子が、京子と並んで柱に立ち縛りにされている静子夫人を見て、頓狂な声をあげた。
  3713.  川田が、ニタリと顔をくずしていう。
  3714. 「そうさ。二人ともこれから、子供のような素直な気持になって、森田組のために働きたいとおっしゃる。それには、まず、子供のような体になった方が、気持がすっきりすると奥さんは、いわれるんだ」
  3715.  静子夫人は、口惜しげにキリキリと歯を噛みならし、首を深く垂れ下げるのだった。
  3716.  柱の下方に打ちつけてある横木へ、夫人と京子の足をそれぞれ縛りつけようと、悦子とマリが麻縄を手にすると、銀子がそれを制して、
  3717. 「その前に悦子、奥さんと京子の髪をセットしてあげな。美しい顔も涙で大分曇ってるじゃないの。今夜は、森田組、葉桜団全員がここへ集合して、試演を見る事になっているのだからね。美しくお化粧してあげな」
  3718.  悦子は、昔、美容院に二年程勤めていた事があり、葉桜団員の髪のセットをたえずしてやっているのであった。
  3719. 「あいよ。今夜は、特別きれいに仕上げてあげるわよ」
  3720.  悦子は、マリを助手にして、化粧箱を取って来ると、なれた手つきで、おどろに乱れた静子夫人の髪をブラシでとき流すようにしてセットにかかり出す。房々と耳を覆うばかりの絹のような感触の夫人の黒髪は、初々しい若奥様向きヘアスタイルと、悦子のいう髪型に結い上げられ、夫人の美しい瓜実顔も、念入りに化粧されていく。
  3721.  京子の方も、マリの手で、悦子にセットされた艶々しい髪に、ヘアローションをかけられ、念入りに化粧されていくのだ。悦子は、静子夫人のふくよかな肩から、縄にしめあげられている豊満な乳房に至るまで、乳液を塗りたくりながら、ふと、隣の柱で、マリに口紅をひかれている京子を、楽しげに見て、いった。
  3722. 「あんたの妹の美津子嬢も、遠山財閥の令嬢も、あたい達が、花嫁化粧をしてあげたんだよ。見ちがえるようにきれいになったわよ。一眼見せてあげたかったわ」
  3723.  その瞬間、京子と夫人も、ひきつったような表情になった。京子は血走った気持で、
  3724. 「あ、あなた達は、もしや、桂子さんや美津子を♢♢」
  3725.  京子は唇をわなわな震わせながら、悦子や銀子の方を見る。
  3726. 「あら、私達、まだ、知らさなかったっけ。これは失礼」
  3727.  銀子は、おかしさを、噛み殺すようにしながら、
  3728. 「美津子嬢は、ここにいる吉沢さん、桂子嬢は、この井上さんとめでたく縁談が成立。これからのあんた達のショーが終わってから、結婚式を挙げる事になっているのさ」
  3729. 「美、美津子は、どこに。今、どこにいるのです!」
  3730.  京子は銀子に向かって喰いつくような調子でいった。美津子の体だけは、どんな事があっても♢♢京子はただそれだけを念じて、死ぬより辛い数々の責苦に耐えてきたのだ。それを今になって♢♢京子の胸に熟い火の塊のようなものがカッとこみあがってくる。
  3731. 「美津子嬢も桂子嬢も、あたい達の仲間に念入りに全身美容をされ、初夜の心得について色々講義されているわよ」
  3732.  銀子は、そういって、吉沢に顔を向けた。
  3733. 「美津子と夫婦になりゃ、この京子は、あんたにとっても姉だ。一言挨拶してやったらどうだい」
  3734.  吉沢は、顔を歪めるようにして笑いながら、抱えていたテープレコーダーを、京子の足元に置く。衆人環視の中で、自分に浣腸し、羞恥地獄へ突き落とした、憎みてもあまりある吉沢が、妹に対しても、その毒牙を向け出したのだ。京子は、キリキリ歯を噛みながら、どうしようもない憤懣に燃えた全身をぶるぶる怒りに震わせていた。
  3735.  レコーダーにコードをつないだ吉沢は、
  3736. 「へっへへ、俺からおめえに何のかんのいうより、美津子の声を聞けば、一番よくわかる事だ。お姉さんに、ぜひ自分の気持を説明したいと美津子がいうので、美津子の生の声をわざわざ、テープにとってやったんだぜ」
  3737.  吉沢は、ズベ公達と一緒に、美津子を責めさいなみ、やっと録音させたテープを京子に聞かそうとするのである。レコ—ダーは回転し始めた。
  3738. 「♢♢お姉さん、美津子の我儘を許して。美津子、もうどうしようもない程、吉沢さんが好きになってしまったのよ。吉沢さんの女になれて、一生こういう素敵な世界にいる事、それが美津子の今のたった一つの希望なの。美津子は吉沢さんに誓いました。女子高校の制服の事などきっぱり忘れ、これからは生まれたままの姿で優しい吉沢さんの傍に終生寄りそい、そして、吉沢さんのお仕事に協力する、という事です。今の美津子、とっても幸せよ。両手は、固く後手に縛られているけれど、何の不自由もないのだもの。優しい吉沢さんがおトイレの事だって面倒見て下さるとおっしゃるのです。お姉さん、美津子は今宵、吉沢さんの愛を受け入れ、いよいよ女になります。美津子も、もう十八、決して早すぎるとは思いません。お姉さんだって、きっと賛成して下さるわね。お姉さんに、あんなすばらしい浣腸をして下さった方ですもの。お姉さんも吉沢さんには好感を持って下さってると思うわ。じゃ、これからはお姉さんも森田組のため、しっかり働いてね。私もお姉さんに負けない、りっぱなショーのスターになるべく、がんばります」
  3739.  そうした美津子の声を聞かされた京子は、気も顛倒せんばかり、激しく身悶えして、わめき出す。
  3740. 「美っちゃんっ。負、負けちゃいけないっ。美っちゃん、
  3741. しっかりするのよI」
  3742.  姿の見えぬ妹の名を京子は必死になって呼びつづけるのだ。これだけの事をいわされるのに、美津子はどれはど辛い苦しい責めに遭わされたことか。京子はそれを想像すると、体中が、ズタズタに引きさかれるような気持になるのであった。
  3743.  
  3744.  
  3745.     美しい童女
  3746.  
  3747. 「どうでえ、これですっかり納得がいったろう。京子」
  3748.  吉沢は狂乱したように、しきりに身悶える京子を、愉快そうに見て笑った。同じく森田組の幹部の一人である精悍な顔つきの井上が静子夫人の前に先ち、
  3749. 「桂子は俺のスケにするからな。一応、おめえさんにも知らせておくぜ。桂子だって、ぞっこん俺には参ってるんだ。へっへへ……」
  3750.  静子夫人は、唇を固く噛みしめ、憤怒のこもった瞳をキラリと光らせて、井上を見たがすぐに顔を横へ伏せ、涙を流す。
  3751.  銀子が、したり顔して、夫人と京子に対していった。
  3752. 「せっかく、きれいにお化粧してあげたんだから、涙を流すのはやめな。だけど、そういう風に髪をセッートれ、化粧されてみると、二人とも、ふるいつきたいぐらいのハクイ女になったわね」
  3753.  悦子は、すすりあげる静子夫人の顎を押さえるようにして、ピンクの口紅を舌でしめしつつ、夫人の唇にひく。
  3754.  はい、これでお化粧は終わり、悦子とマリは、自分のした仕事を点検するように、少し離れて二人の容貌を眺める。
  3755.  京子の生々した新鮮さを失わぬ美しい容貌。静子夫人の彫りの深い、端正さを失わぬ両立、二重瞼で切長のキラキラする瞳、高貴な感じの美しく緊まった鼻筋、頬から鼻筋にかけての皮膚の艶々しさなど全くまばゆいばかりの美しさである。
  3756.  田代と森田は、念入りに美しく化粧された二人の美女を陶然として見つめ、
  3757. 「こんな美人を剃りあげるなんて、ちょっと気がひけるじゃないか」
  3758.  と顔を見合わすと、朱美が、今更、何をいってるんですよ、と笑いながら、二人の美女の間に立ち、
  3759. 「さて、桂子嬢と美津子嬢の決心が、よくわかったでしょう。だから、二人のお嬢さんの事は、こっちへ一切任して貴女達は何も心配することはないのよ。安心して、剃られっちまいな」
  3760.  朱美は、そういって、悦子達に眼くばせする。静子夫人の足元に朱美と銀子が腰をかがめる。柱の下に打ちつけてある横木に美女の両肢を縛りつけようというのだ。京子の方には、悦子とマリが小腰をかがめて足首を握り、左右へ力一杯、引っ張り始めていた。
  3761. 「な、何をするの! やめて!」
  3762.  夫人も京子も、かっと頭に血がのぼり、逆上したように悶え出し、必死になって両肢をばたばたし出す。
  3763. 「何をするのったって、今更、いわなくたって、わかっているでしょう」
  3764.  マリは、そういって男達に、
  3765. 「ぼんやり見ていないで早く手伝ってよ!」
  3766.  吉沢と井上が、ズベ公達のしている事を手伝い出した。
  3767.  男達のカが加わったとなると、もうどうしようもなく、夫人と京子は、かっちり横木へ、足首を縛りつけられてしまったのだ。
  3768.  京子は歯ぎしりし、キリキリ身を揉む。その度に身悶えして、もがく京子のむっちりした内腿の筋肉がピーンと張るのだ。静子夫人も、キリキリ舞いするように火のように燃えた顔を右へ伏せようとしたり左へ伏せようとしたりする。足首をくびられた指先が、くの字に助がっている。
  3769.  丸柱を背に、両肢を割った二人の美女を、男達も女達も、しばしの間、うっとりするように見つめている。
  3770. 「別嬪さんのそういう恰好は、いくら見ても見あきがしねえな。だが、そうもしていられないんだ」
  3771.  川田は、そういうと悦子に眼くばせする。
  3772.  あいよ、と悦子は用意して持って来ていた化粧箱の中から、石鹸水、二本の剃刀、小皿、ヒゲ剃りあとにつけるクリームなどを口笛を吹きながら取り出す。
  3773.  さて、と川田は、ピカピカ光る剃刀を手にして、それを静子夫人と京子の眼の前にちらつかせ、
  3774. 「へっへへ、どうでい。よく切れそうな剃刀だろ。二人とも覚悟は出来てるだろうな。剃り上げられる前に、何か言いてえ事があったら聞いてやるぜ」
  3775.  川田は、処刑者に対する教誨師みたいな事を、静子夫人の豊満な胸を剃刀の背でピチャピチャ叩きながらいうのだった。
  3776. 「か、川田さん、お願い。それでひと思いに殺して! これ以上、生恥をかかせないで!」
  3777.  静子夫人は、美しい顔をきっと上げ、激しい調子で川田にいうのだった。京子も、それに呼応するように眼を見開き、
  3778. 「殺して、ひと思いに殺して下さいっ」
  3779.  必死になって京子も川田に向かって叫ぷのだった。自分の命にかえても美津子だけはと決心し、数々の残忍な責め苦に耐えてきた京子であったが、美津子を救う事も不可能となった今、京子は死んで、この屈辱より早く逃れたい一心である。
  3780. 「言っとくがね。お前さん達がたとえば自殺なんかした場合、来月やる事になっているショーには美津子嬢と桂子嬢が、どうしても代役を勤めなきゃならなくなる。いいのかい」
  3781.  そう川田に浴びせられた夫人と京子は急に力が抜けたように、がっくりと首を落としてしまう。
  3782.  ざまあ見やがれ、と川田は胸の中で勝ち誇ったようにいい、ニタリと顔をくずす。
  3783.  銀子が、わざとらしく大きなのびをし、
  3784. 「モタモタせずに、やるなら早くやっちまおうよ。屋敷の方にいる仲間達は、令夫人と京子嬢のショーが見られるというので、楽しみにしているのよ」
  3785.  というと、静子夫人の横に立ち、
  3786. 「森田組のために一生懸命働くと何度も誓ったくせに、今更もったいぶるんじゃないよ。きれいさっぱり生まれ変って葉桜団、森田組の皆さんに、ゆっくり鑑賞して頂くんだ。わかったね」
  3787.  吉沢がぜひとも京子の方を任せてくれという。自分の妻と決まった美津子の姉に対し、充分サービスをしたいのだ、などと言い出したので一同、大笑いになった。
  3788. 「それなら、奥さんの方は、俺に任してくんな。桂子のママに俺も孝行してえ」
  3789.  井上がいったので、再び大笑い。
  3790.  結局、静子夫人は井上と悦子、京子は吉沢とマリに剃りあげられる事に決定。荒れ止めのクリームは、川田が受け持つという事になった。
  3791.  
  3792.  
  3793.     スター誕生
  3794.  
  3795.  体中の血が音をたてて逆流するような羞恥と恐怖。反吐にも似た口惜しさ。
  3796.  静子夫人は、白い歯を見せて、眉毛を八の字に寄せ、艶やかな乳白色のうなじを、くっきりと見せて、切なげに首を振った。京子も豊かな胸の隆起を波打たせ、苦しげにあえぎつづける。
  3797.  ウイスキーをくみ合いつつ、ニヤニヤして見つめている田代に森田。おかしさを噛み殺すように口をハンカチで押さえながら見ている銀子と朱美。
  3798.  川田は、井上や吉沢の肩を叩いて、グラスを渡し、ウイスキーを、注いでやったりする。
  3799.  両肢を左右に大きく割り開かされて柱につながれた静子夫人と京子の両腿の附根、そこは井上と吉沢の使うヒゲ剃り用の刷毛でシャボンがたっぷりと塗りつけられ、生暖かく盛り上った読みはシャボンに濡れて大きく膨らんでいく。
  3800. 「それじゃ、一本余さず綺麗に剃ってやるからな」
  3801.  と、井上はマリに手渡された西洋剃刀を手にすると、腰をかがませてシャボンに濡れた柔らかい濃密の繊毛に刃を当てがった。
  3802. 「じゃ、こっちも始めようか」
  3803.  と、吉沢は京子の膝元に身をずらし、同じく、京子のシャボンを含んでこんもりと膨らむ絹のように柔らかい茂みに刃を当てる。
  3804. 「大事な所に傷がつくとまずいからな。ガタガタ動くんじゃないぜ」
  3805.  井上は静子夫人のシャボンを含んで更にしっとりと艶っぽさが滲み出たような漆黒の茂みを一方の指先でつまみながら卑猥な笑いを口元に浮かべていった。
  3806.  井上と吉沢の持つ剃刀が遂に剃毛作業を開始する。
  3807. 「ああ、京子さんっ」
  3808. 「奥様っ」
  3809.  静子夫人と京子は共に悲壮味を帯びた声音で名を呼び合い、この羞ずかしさと口惜しさを耐え抜こうとしている。 ジョリ、ジョリ、とお互いの繊毛がわずかずつ男達の持つ剃刀で剃り取られていくと、静子夫人と京子の横木につながれた乳色の両脇が痛烈な屈辱感でブルブル小刻みに痙攣した。
  3810.  井上は夫人の女盛りの妖しい色香が匂い立つようなこんもり膨んだ繊毛を痺れるような気分で剃り上げながら、剃りとった繊毛を夫人の官能味のある太腿にこすりつける。それを助手役を買って出た悦子がさも大事なものでも扱うように指先でつまみ取り、洗面器の中の微温湯に浸して縮れ毛に附着したシャボンを丁寧に洗い落としているのだ。そして、水洗いした縮れ毛は小皿の中へ積み上げられていく。
  3811.  特別会員にこの遠山財閥令夫人の読みは貴重な記念品として配られるものであるから一本も無駄にしないようにと悦子は田代から言い渡されていた。
  3812.  京子から剃り取られた茂みもマリの手によって水洗いされ、小皿の上に載せられていた。
  3813. 「この茂みはあなたのかつての恋人、山崎さんに私から、京子からのプレゼントとして送ってあげるわ。さぞ、びっくりするでしょうね」
  3814.  マリは京子の柔らかい縮れ毛を微温湯の中で洗いながら
  3815. 歯を喰いしばって屈辱に耐えている京子を揶揄するのだ。
  3816.  井上と吉沢は身体を斜めに沈めたり、夫人と京子の大きく割った両腿の間へ体をくぐらせたりしながら微妙に剃刀を動かしている。ジョリ、ジョリとわずかずつだが剃り取られる度、夫人と京子の口からは、ああーと悲痛なうめきが洩れたり、切なげな熱っぽい鼻息が洩れたりした。
  3817.  この言語に絶する汚辱感を被虐性の快美感に置き代えよ
  3818. うとし二人は自分に情念を掘り立てているのでは♢♢田代
  3819. や森田、川田等と膝をくずして見物側に廻っていた銀子は、
  3820. 切なげな甘い吐息を洩らし始めた夫人と京子を見てふと感
  3821. じた。
  3822.  剃毛するという直接の暴力行使者も官能の芯を何時しか痺れ切らせて熱っぽく息づき始めている。井上は少し剃刀を使っては額の汗を手の甲で拭い、乾いた部分にまた水刷毛をなすりつけ、指先で撫で上げたりしたが、情欲の昂ぶりに耐え切れず、その指を夫人の秘裂の内側へ吸いこまれたかに見せて侵入させていく。そして、もうそこがねっとりと熱く熟している事に気づき、思わず、更に奥まで含ませようとするのだが、
  3823. 「駄目、駄目よ」
  3824.  と夫人は鼻を鳴らすようにして身をよじらせた。
  3825. 「途中でそんな事なさるの嫌。身体が慄えて傷がつくじゃありませんか」
  3826.  夫人の情感的な潤みを湛えた眼で見据えられた井上は叱られた気分で身をすくませるのだ。
  3827. 「悪戯がなさりたいのなら、それがすんでから。ね、いいでしょう」
  3828.  今度はたしなめられた気分になり、井上はそわそわし始めた。そんな自分をごまかすように井上は、わかったよ、と、剃刀の手を持ちかえ、
  3829. 「もう少し、剃りいいように腰を突き出しな」
  3830.  といった。
  3831.  夫人は長い睫毛を軽く閉じ合わせながら柔順に悩ましく、くびれた腰部を前に浮き出すようにして見せた。
  3832. 「これで、いい?」
  3833. 「ああ、結横だ。もうすぐだからな。綺麗に仕上げて皆んなに大蛤のむき身をお見せしなくちゃ」
  3834.  井上と静子夫人のそんな言葉のやりとりを耳にして田代は、
  3835. 「令夫人もなかなか柔順になってきたようじゃないか。この分ならショーの開幕となっても立派にお役を勤めてくれると思うよ」
  3836.  と、森田に向かって嬉しそうにいった。
  3837.  静子夫人は両肢を割った緊縛された裸身を半ば反らし、自分から腰部を浮き充たせるようにして井上の剃力の動きを甘受している。夫人のその濃密で艶を帯びた漆黒の繊毛もほとんどその翳りを失って、中心部の秘裂をほんのわずかに淡い翳りが覆い隠すだけとなっていた。
  3838.  その薄い翳りも井上が小刻みに動かす剃刀で剃り取られていく。
  3839.  さ、最後の仕上げだ、と井上が下腹部に喰いつくばかりに顔を押しつけて執拗に剃刀を使い始めると、夫人の熱っぽい喘ぎは次第に荒々しいものになっていく。
  3840.  そーら、出来上り、といって井上が腰を上げるのと同時に、こっちも出来上りとござい、といって吉沢が京子の前から腰を上げた。
  3841.  それを待っていたように見物側からは一斉に拍手。女愚連隊達の嬌声と歓声が捲き上る。
  3842. 「まあ、可愛いわ、京子。すごく若返った感じよ」
  3843. 「奥様はさすがに大社長令夫人。お見事な割れ目。貫禄充分」
  3844.  などと囃し立てた銀子や朱美達は、もっと傍へ寄ってくわしく鑑賞させて頂きましょうよ、と、川田達に笑いかけ、晒しものにされている美女二人の方へわらわらとつめ寄るのだった。
  3845.  静子夫人と京子は毛穴から血が噴き出しそうな屈辱感と羞恥に全身を一瞬、鋼鉄のように固くしたが、次第にもうどうにもならないという諦めがこみ上げて来て激しい狼狽も示づず、共に真っ赤に染まった頬を横に伏せて固く眼を閉ざしていた。
  3846. 「フフフ、これがベールを剥がされた名器なのね」
  3847.  と、銀子と朱美は晒されている夫人の前に坐りこみ、夫人の一切の翳りを剃りとられて息苦しいばかりに盛り上った小高い丘、その中心部を真一文字に走る仇っぽい切れこみに眼を走らせるのだ。
  3848. 「お見事ねえ」
  3849.  銀子が感心したように首を動かした時、酒気を帯びた鬼源がのっそり入って来た。
  3850. 「鬼源さん、こっち、こっち」
  3851.  と銀子は手招きして鬼源を呼び寄せると自分達の間に坐らせて彼の手にコップを握らせ、ビールを注ぐ。
  3852. 「どう、鬼源さん、静子夫人も京子も、とうとうこんな姿にされちまったわ」
  3853.  と銀子がゲラゲラ笑いながら晒されている夫人と京子を指さすと鬼源はこヤリとし、
  3854. 「手こずらさずにちゃんと剃らせたかい」
  3855. と女達に聞くのだ。
  3856. 「ええ、とても素直だったわよ。ああ、気分がいいわ、なんていって井上さんにおとなしく剃らせたわ」
  3857.  女愚連隊はそういって笑いこけた。
  3858.  乳色に粘っこく輝く両腿を割り開き、翳りをすっかり失った白い肉の丘と生々しい身の秘裂を誇張的に晒している静子夫人に密着するように身を寄せた悦子とマリは、その官能味のある両腿に左右から手をかけながらぞれに好奇の眼を向け、揶揄しつづけている。
  3859. 「正に名器の貫禄があるわね。見事な上つき、口の割けっぷりまで御立派」
  3860. 「でも、ちょっと見て。社長令夫人といっても、こうしてクリトリスをちょっぴりのぞかせている所なんか、すごく女っぽいわね」
  3861.  そんな女達のからかいに歯を喰いしばって憤辱に耐えていた夫人も忽ちベソをかきそうな表情になった。
  3862. 「そんなにからかうもんやないでえ。そら、令夫人が泣き出してしもたやないか」
  3863.  と、義子が仲間に加わっておかしそうにいった。
  3864. 「大社長の令夫人でありながら、うちら不良の前に素っ裸の晒しもの、しかも、茂みまで剃られて割れ目を晒す奥様の口惜しさと羞ずかしさ、皆んなも少し同情してやったらどないや」
  3865.  大阪育ちの義子は仲間内では人気者らしく、アクの強い関西弁でそういって一同を笑わせている。
  3866.  鬼源はふと何かを思いついたように立ち上り、剃毛された裸身を晒しものにされている夫人の傍に近づいていく。
  3867.  鬼源は真っ赤に火照った頬を棟にねじり、すすり上げている夫人の熱い耳を指でつまむと何か小声でささやいた。
  3868.  夫人は忽ち、富士額をギューと辛そうに歪めて、カなく左右に首を振った。
  3869. 「いいな。今日はショーの予行練習だぜ。お越しになって下さる会員は少々どぎついストリップショー位では満足なさらない方々ばかりだ」
  3870.  うんと色気を振りまいてお客を誘いこむ練習をするんだ、と鬼源は強い口調でがなり立てると、今、俺が教えてやった要領で演じてみな、と夫人の熱い頬を指で押すようにしていった。
  3871.  モタモタせずに早くやらねえか、と、調教師に再び、がなり立てられて夫人はおぴえたように顔を起こした。
  3872.  もう静子夫人には失われた意志があるだけである。
  3873.  マリと義子を助手につけるから口上から始めてみな、と、鬼源は義子と何か打ち合わせして静子夫人の左右に二人のズベ公を立たせた。
  3874.  夫人は再び、鬼源にせかされて涙を振り切ったように顔
  3875. を上げると、
  3876. 「皆様、もっと、傍にお寄りになって茂みもなくした静子の身体、くわしく御覧になって下さいまし」
  3877.  と、大粒の涙を端正な頬に滴らせながら鬼源に教示された口上というものを慄える声でいった。
  3878.  川田や田代、森田達がストリップ劇場の客となり、つめ寄っていくと夫人の股間を眼の前にして坐りこむ。
  3879. 「ねえ、静子、上つき、それとも下つき、もっと眼を近づけてよく御覧になって」
  3880.  すると鬼源は夫人の麻縄に緊め上げられた乳房をつねり上げてどなった。
  3881. 「そこで色っぽくケツを振って見せるんだ。お色気を精一杯振りまいて悩ましくケツを振って見せる。ストリッパーの初歩だぜ」
  3882.  さ、もう一ぺん、やってみろ、と鬼源にいわれて静子夫人は低い鳴咽の声を洩らしながら、くなくなと腰部を揺らせ始める。
  3883. 「ねえ、静子は、上つき♢♢そ、それとも♢♢」
  3884.  泣きながらケツを振ってどうするんだ、と鬼源はまた叱咤する。
  3885. 「ねえ、見て。もっとよく見て」
  3886.  静子夫人は涙をこらえながら甘く腰を揺さぶり、鬼源に指示された客を楽しませる演技を懸命になって演じるのだった。
  3887.  客となった男達から、見事な上つき、とか、割れ目ちゃん、可愛い、とか、哄笑の渦の中で甲高い彌次が飛んだ。「義子さん、静子、お客様にもっとくわしく見て頂きたいわ。今日のお客様はいい人ばかりだもの。お願い、割れ目の中までくわしくお見せして」
  3888.  すべて鬼源に教示された淫猥なショーを演ずるスターの口上であった。静子夫人はすっかり自分の意志を失って淫魔にとり憑かれたような放心の表情になっている。そうなると義子もなかなかの役者で、客になり切ってはしゃいでいる仲間達に、
  3889. 「皆さん、聞かはりましたか。遠山財閥の令夫人がでっせ、剃毛された私ずかしい素っ裸を皆様に御彼露しただけではなく、割れ目の奥まで見て欲しいいうてはりますのや。有難い話やおまへんか」
  3890.  遠山家の静子夫人というたら我々なら普通、影も踏む事
  3891. の出来ん高嶺の花や、と義子はいって得意そうに腰をかが
  3892. ませている仲間を見廻した。
  3893. 「ほな、奥様、お客さんの方へぐんと腰を突き出すように
  3894. しとくなはれ。どいつもこいつも助平揃いで、皆、生唾を
  3895. 呑んで待ちかまえてますわ」
  3896.  と、義子がいうと川田や森田が大口を開けて笑った。
  3897.  義子はマリと一緒に夫人の腰や双臀に手をかけてやくざ連中のギラギラした視線の前に夫人の股間を強調させるように突き上げた。上半身は逆に反り返らせて柱に強く背面を当てている夫人は喘ぐように熱っぽく息づいている。鬼源は満足そうな表情になり、また、夫人の耳に口を当てて、くすぐるように何かささやいている。
  3898. 「♢♢義子さん、お、お願い、拡げて。静子のこの羞ずかしい割れ目をうんと拡げて」
  3899.  よっしゃ、と、義子はマリと一緒に腰をかがませて夫人のその剃り跡の蒼々とした小高い丘に荒れ止めのクリームを塗りつけながら仇っぽい女の秘裂を指先で押し拡げていく。
  3900.  ひえっ、と凝視している男達は歓声をあげた。
  3901. 「皆さんに名器の奥の院を奥様はこうして特別に御開張してくれはるのや。こんなサービスは滅多にないで。皆んな、有難い思うて、よう拝んどきなはれ」
  3902.  と、義子は見物人達を笑わせ、そら、御開張や、といって溶けるように柔らかい肉襞を指先でかき分けていく。
  3903.  静子夫人はマリに下腹部を支えられて男達の好色の眼の前にぐっと腰部を突き出したまま、紅潮した顔面はのけぞらせて荒々しく息づいている。野卑で淫猥な男達の喰い入るような視線をそれに集中させて快感を感じるというストリッパーのようにこの一瞬、剃毛という淫らないたぶりを加えられた夫人は神経がおかしくなり、淫魔にとり憑かれたのではないかといった狂乱すら感じられるのだ。それは鬼源の魔術師めいたリードによる事はたしかで、夫人は鬼源に指示されるまま、
  3904. 「ああ、ねえ、見て。もっと奥まで見て」
  3905.  と、自分から挑発的に腰部を突き上げ、見物客を煽情するかのように、くなくなと双臀をうねらせて見せるのだ。
  3906.  義子は得意になって見物客に講釈している。指先で夫人のその淡紅色に潤んだねっとりした花肉の層をまさぐり、
  3907. 「ね、これがつまり小陰唇。綺麗な色に潤んでいて、とても人妻のおまんとは思えまへん。色素がこの年でこないに処女みたいに潤んでいる女は珍らしい」
  3908.  と、指先でそのあたりをなぞりながら得意になっているのだ。
  3909. 「そら、この襞の上の方からのぞき出ている突起が、いわずと知れたクリトリス。うちら大阪ではお核とか、おマメとかいいますが、女の身体の中では男の亀頭と同じで最も敏感、この奥様のは普通のと違って大きいし、形も花の蕾に似て恰好がええ。昂奮するとこれがヒクヒク痙攣して更に膨らんでくる。襞の外までニューと頭をもたげてくる」
  3910.  見物客達は義子の珍妙な名器の解説に手を叩いて笑い出
  3911. している。
  3912.  これが腟の入口、これが尿道、この美しい令夫人がおしっこをお出しになる穴です、などといって義子は更に見物客を笑わせるのだ。
  3913.  義子が夫人のねっとりした花肉の肉側へ指先を含ませ、そんな解説を自分でも面白がって続けていた時、急に静子夫人はがっくりと前のめりに首を垂れさせた。
  3914. 「あら、どうしたの」
  3915.  銀子と朱美が立ち上って夫人の柔軟な肩先を揺さぶった。
  3916.  今まで火照った横顔を見せて鳴咽をくり返していた京子がハッとしたように顔を上げ、狼狽気味に夫人の方へ限を向けた。
  3917. 「奥様っ、奥様っ」
  3918.  激しく身をよじらせて京子は大人に向かって声をかけたが、
  3919. 「大丈夫。死んだのじゃないから安心しな、京子」
  3920.  と、銀子がおろおろしている京子の顔を見ていった。
  3921. 「あまりの羞ずかしさと嬉しさに一寸、気を失っただけよ。すぐに正気に戻るわ」
  3922.  そういった朱美は義子に向かって、
  3923. 「奥様の方はしばらくこのままにしておいて京子の方の割れ目の解説をお願いするわ」
  3924.  と、笑いながらいった。
  3925.  うなずいた義子は見物人達に向かっていった。
  3926. 「それじゃ、皆様、京子の方へお集り下さい」
  3927.  
  3928.  
  3929.     屈伏第一号
  3930.  
  3931.  ♢♢何分か過ぎて、静子夫人は、心地よい夢心地の眠りからさめたように、そっと美しい眼を見開いた。天国ではなく、やはり地獄の真只中である。数人のズベ公、そして数人の愚連隊が、クックッ笑いながら、柱に固定されている、静子夫人に見入っている。
  3932.  肉体の芯までしびれきってしまった夫人ではあるが、野卑な男女の視線を全身に受けると、ハッとしたが、もう静子夫人は悪あがきはしない。一部始終を、はっきりと、これらの連中に目撃されてしまったという口惜しさは、完全な屈服と観念を夫人の心に与え、そこから、ほのぼのとした快感をくみとろうという、変化にまで至ったのである。
  3933.  銀子と朱美が、わざとらしい優しい口調で静子夫人の耳元に口を寄せる。
  3934. 「は、ほほ。若奥様、すばらしい場面を見せて頂いたわ。今までで一番、圧巻ね」
  3935.  と銀子。
  3936. 「奥様が、グロッキーになってしまわれている間に、ちゃんと、後始末はしてあげたわ。ふふふ。だって、今じゃ奥様は可愛い赤ちゃんなんですものね」
  3937.  と朱美。
  3938.  静子夫人は、一種、凄惨な冷淡さで、美しい瞳を見開き、じっと何かを思いつめたように前方を見つめている。
  3939.  川田が、静子夫人の前に立って、仕事の後の一服というょうに、いかにもうまそうに煙草を吸いながら、夫人の類をのぞく。
  3940.  静子夫人は、ふと、川田の眼と視線を合わす。どういうわけか、今までと違い、川田を見る静子夫人の黒眼がちに澄んだ美しい二つの瞳は、濡れた雨後の月の光のような輝きを走らせた。ぞくぞくとするような艶めかしい夫人の眼に川田はふとたじろぎながら、しかし、強引に一歩踏みこんで、夫人の耳に口を寄せ、柄になく優しい口調でいう。
  3941. 「満足したんだろ。返事してごらん」
  3942.  川田は、夫人の頬を指でつつく。
  3943.  静子夫人は、川田にうっとりと視線を注ぎながら小さくうなずいたが、その途端、夫人の澄んだ切長の瞳に、可憐な花のような初々しい羞恥の感情が走り、夫人は頬を赤らめて川田から眼をそらせるのであった。
  3944.  喜んだのは、川田である。ようやく、静子令夫人を開眼させる事が出来たという喜び。知性と教養にあふれた絶世の美女、遠山財閥の令夫人が、街のダニといわれる森田一家の手で、完全な秘密ショーのスターになりきるのも、もう時間の問題だとわかった川田は、嬉しくてしかたがない。
  3945. 豊満にして艶麗、川田に言わすなれば脂が乗って熟れ切った肉体の持主、静子夫人は、いよいよ完全に生まれ変った女として、再出発させられようとしているのだ。
  3946.  川田は、静子夫人の白い額に垂れかかった乱れ髪を、優しく上へ指でかきあげてやりながら、
  3947. 「どうやら、奥さん、女として眼覚め出してくれたようだね。それだけのいい体してるんだ。これからは、何時も、今のように素直にならなきゃ、損じゃねえか。ふっふふ」
  3948.  静子夫人は、川田に肉体を奪われただけではなく、田代、森田の嬲りものにもなったが、体は許しても心まではと、如何に彼等が責めの秘術を尽しても、天の守護を念じるようにして、決して示さなかったものがあった。だが、それも、今、川田の前に、しかも、衆人環視の中で、もろくもくずれ落ちてしまったのである。もうそれは、羞恥とか屈辱とかいうものを超越した一つの実体であり、その実体をさらけ出した事によって、夫の遠山隆義との幸せで懐かしい夫婦生活の追憶はあやふやになり、静子夫人の脳裏から、次第に消えて行きそうになったのだ。
  3949. 「さて、遠山夫人。これからは、もう決して駄々をこねたりしちゃ、いけねえぜ。あんたにゃ神秘のベールなんてものは、もう何一枚もねえんだからな、俺達のいう事は絶対服従だぜ、いいな。体だけじゃなく、心まで赤ちゃんのように素直になるんだ」
  3950.  川田にいわれた静子夫人は気品のある実しい顔を川田に向け、すっかり観念しきったように、静かにいった。
  3951. 「♢♢わかりましたわ。川田さん」
  3952.  川田は、うきうきした気分で、今度は京子の方を見ていった。
  3953. 「京子嬢も、異存はねえな」
  3954.  京子も、童女のようにされてしまった今、川田達に砥抗する気力がある筈はない。一切をあきらめたように、澄みきった声で、
  3955. 「♢♢わかりました」
  3956.  川田は、田代と森田の方を見て、どんなもんです、といわんばかりにウインクした。
  3957.  銀子と朱美は、夫人と京子が完全に屈服した事を喜び合いながら、奥から、大きな立鏡を持ち出して来て、静子夫人と京子の前へ立てた。
  3958.  夫人と京子に、自分のそうした姿を眺めさせ、森田組に対する忠誠を、はっきりと心に決めさせようとしたのである。
  3959.  静子夫人は、もう人間的な思念を超越したような、荘厳な美しさを盛った顔で、じっと鏡の中の自分を眺める。そんな夫人や京子の横顔を銀子や朱美等は、頼もしげに眺めて、
  3960. 「ねえ、すばらしいじゃない。奥さんも京子嬢も、ずっと魅力的に見えるわよ」
  3961.  といい、次に夫人と京子のものが入っている小皿を、二人の美女の鼻先へ近づけて、
  3962. 「約束通り、このうちの半分は、貴女達のいとしい殿御へ送ってあげるわね」
  3963.  川田が女達に、屋敷に残っている連中をここへ呼びな、と命ずる。若返った二人の美女を酒の肴にして、ショーの前景気をつけよう、というのだ。
  3964. 「ついでだ、美津子嬢も、桂子嬢も、ここへ連れて来て、すばらしい試演会を一緒に見せてやんな」
  3965.  森田が、いい出した。
  3966.  静子夫人と京子は、ハッとしたように首をあげる。
  3967. 「♢♢森田さん」
  3968.  静子夫人は、長い睫毛を哀願的にしばたきながら、川田に声をかける。
  3969. 「何だい奥さん」
  3970. 「♢♢何でも貴方のおっしやる通りに致します。だけど、美津子さんや桂子に、私達のする事だけは見せないで静子の最後のお願いです」
  3971. 「おや、我儘は申しません、といった口の下から、もう我儘をいうのかい」
  3972.  川田は、冷酷なものを眼の中に浮かべて、夫人を睨みつける。一言の哀願にも、耳をかそうとしない川田の手きぴしい態度に、静子夫人も京子も、それ以上、口をきこうとはしなかった。
  3973.  川田は、せせら笑って、
  3974. 「屋敷にいる連中が、もうすぐ美津子と桂子をしょっぴいて、ここへどっとやってくる。奥さんと京子嬢は、その若返った姿を、連中に鑑賞してもらったり、批評してもらってから、いいかい、そのままの恰好で、こいつを使ってみせるんだ」
  3975.  川田は、夫人と京子の肢の下に置かれてある洗面器を足の先でつつき、二人に示した。
  3976. 「いいね。わかったら、返事をしな」
  3977.  川田に、乳房を指ではじかれた静子夫人は額面を真っ赤にしながらも、
  3978. 「♢♢わかりました♢♢」
  3979.  と、はっきり承諾の意志を示したのである。その瞬間、静子は、自分の体内に、新たに生まれて来た別世界の女の血が、小さく渦巻き出して来た事をはっきり自覚した。
  3980.  抱きかかえた酒瓶をカチカチいわせながら、やくざ、ズベ公達が何か大声で笑い合い、土蔵の近くへ追って来たようである。
  3981.  
  3982.  
  3983.  
  3984. 第十六章 密室のショー
  3985.  
  3986.  
  3987.     嬲りもの
  3988.  
  3989.  田代の屋敷の庭は、かなりの広さである。
  3990.  三方は、赤松が斜めに生えている人工の小山が連なり、頑丈な塀がその向こうにそびえているといった念の入ったもの。その広大な庭園の一方には竹藪の茂みがあり、その一番奥まったところに密室、つまり秘密会員達が時折出入りする古めかしい土蔵が建っている。
  3991.  その日は、夕方頃より、この土蔵の内部には、こうこうと電気がともされていて、ぴったり閉ざされた木窓の隙間から光線がもれ、時々、大勢のどっと笑う声が流れてくる。
  3992.  森田組、愚連隊二十数人、葉桜団、ズベ公十数人が一堂に会し盛大な酒宴をはっているのだ。
  3993.  十畳ばかりの密室の中を埋め拝すばかりに立てこんだ野卑な男女の哄笑と嘲笑。
  3994.  コップになみなみと注がれたビール。煙草の煙。むしゃむしゃと、スルメを寄る大きな口。むっとするような熱気が、この狭い室内に一様にたれこめている。
  3995.  川田の提案で、台の上に並び、人の字の恰好に縛りつけられている静子夫人と京子の、若返った肉体に対する批評会が始まっているのだ。
  3996.  やくざやズベ公の一人一人が、二人の美女の、そうなった個所を見較べるようにしながら、何か言うごと、酒を飲む野卑な男女は、キャッキャッと笑い合う。
  3997.  その都度、静子夫人と京子の、横に伏せている美しい顔に、さっと血がのぼり、たまらなくなったように、更に深く前を垂れてしまうのだった。
  3998.  酒の酔いがまわるにつれ、やくざもズベ公も、露骨極まる言葉を嵩にかかって美女に投げつけ出す。
  3999.  川田が、ウイスキーびんをラッパ飲みにしながら立ち上り、司会者もどきで、夫人と京子を後ろに、埋め尽すやくざとズベ公を前にしゃべり出した。
  4000. 「さて、皆さん。今夜は、森田組のショー開催を、あと一週間後にひかえた、その前祝いであります。ここにおられる御婦人、お二人は、今夜は充分、皆さん方の御機嫌をとりたいと、はりきっておられます。間もなく、美しく花嫁化粧をすませた美津子嬢と桂子嬢もここへ応援に、かけつけて参ることと思います。何卒ごゆっくり、今夜のショーを楽しんで下さい」
  4001.  川田がそういうと、一斉に拍手。なかなか司会者うめえぞ、という声が見物人の間でわきあがる。
  4002.  川田は悦に入った顔つきで、銀子に眼くばせして、テープレコーダーを持って来させると、それを静子夫人の足元に置いた。
  4003. 「色々と余興に入る前、先程、奥さんに録音させた、このテープをちょっと聞いてみようじゃありませんか。これだけ、吹きこませるのに、ずいぶんと苦労しましたぜ。酒の余興の一つにもなると思いますよ」
  4004.  川田は、田代と森田の顔を見ながら、そういうのだった。
  4005.  がっくり首を垂れていた静子夫人は、ハッとしたように顔をあげ、川田に操作されているレコーダーを悲しげに見つめるのだったが、どうしようもないように再び首を落とし、小刻みに肩を震わせるのだった。
  4006.  レコーダーは、ゆっくりと回転し始め、静子夫人の涙で喉をつまらせたような声が、途切れ途切れに聞こえ始めた。時々、ぴしゃりと肉をぶつ音が聞こえるのは、静子夫人が声の吹きこみをためらい、それを怒った川田が夫人の横面をひっぱたいたものらしかった。テープに録音された言葉は、大体、次のようなことをいっていた。
  4007. 「♢♢貴方、私、静子でございます。本当に長い間、御無沙汰致し、申し訳けございません。実は私、現在、とても幸せな夢のような日々を送っているのでございます。貴方にはお詫びのしようもございませんが、私には、心から愛する人、名前は申し上げられませぬ故Kと致しておきますが、その方と、夢のように楽しい愛情生活に、浸っているのでございます。静子は、もう完全にKのもの、だってKは私に女としての本当の悦びを充分に与えてくれたのでございますもの。静子は、もう身も心もKに捧げて、この桃源境のような、すばらしい世界で、一生、Kにお仕えする事に決心致しました。もう私には身につける衣裳とて不要ですから、下着からお湯文字まで一切を、貴方に送り返したのでございます。静子は生まれたままの姿となって、日夜、Kにお仕えし、Kの愛を受け入れております。桂子も、今ではすっかり女らしくなり、Yというお方と晴れて夫婦となる事に決まり、私も喜んでいる次第でございます。これからは桂子も私も、KやYの御指導のもとに、色々な芸当を覚え、秘密ショーのヌードスターの道を歩むのでございますが、それが愛するKのためになる事なのですもの、少しも苦痛ではございません。早く、一人前の稼ぎが出来るようになり、Kに楽をさせてあげたい。静子は一生懸命働くつもりでございます。それから、今まで色々とお世話になった貴方のお誕生日に静子は、何のプレゼントもせず、心苦しく思っていたのでございますが、今日Kと相談し、私の一番、私ずかしい所の茂みを剃りとって、今までのお礼に、貴方にお送り致します。そんなに変な顔をなさっちゃ嫌。だって、今の静子、一銭のお金もなく、それに丸裸なのですもの。自分の体のものを剃りとってプレゼントするより方法がございませんわ。Kにお願いして、愛する彼の手で、一本残さず剃って頂きました。このようにして、お送りしました静子の心からのプレゼント♢♢出来る事なら額にでも入れ、貴方と私が愛を語り合ったあの豪華な寝室の壁へ飾って頂ければ、静子も嬉しく思います。まだ色々お話したく思いますが、ショーのお稽古の時間が参りました。今日のお稽古は、立ったまま、便器を♢♢ごめんなさい。近頃の静子、ここの生活に馴れて参りました故か、こんなはしたない事も口に出していえるようになってしまいましたの。では、最後にたった一つのお願い。どうか貴方、私の行方を深そうなどとはなさらないで。もし貴方が、その筋の手を借りたりして、この天国の幸せに浸っている静子を地上へ引き降ろそうとされるのなら静子、自殺してしまうかも知れません。そして貴方、どうか静子の事はお忘れになって、新しい奥様をもらって下さいませ。私の願いは、ただ一つ。貴方との過去をすっかり忘れ、Kの赤ちゃんを一日も早く、体に宿したいという事なのでございます」
  4008.  以上で、テープの声は途絶えた。
  4009.  ニヤニヤしながら聞いていた、やくざとズベ公達は、ほっと息をつき、次には一斉に拍手をして、
  4010. 「立派な心がけだ。見直したぜ。遠山夫人」
  4011.  と口々に叫び、笑い合うのだった。
  4012.  川田も得意顔で一座を見廻し、
  4013. 「へっへへ、これだけの事を吹きこますには俺もずいぷんと苦労しましたぜ」
  4014.  といいレコーダーよりテープを外して袋につめる。
  4015. 「奥さん。こいつは明日早速、遠山家に送り届けてやるからな。そら、これも一緒によ」
  4016.  川田はズベ公達の手で、ビニールの小袋につめられた艶のある黒い縮れ毛を、静子夫人の鼻先に近づけるのだった。
  4017.  夫人は、鼻先へ突きつけられたものから眼をそらし、耳たぶまで朱に染めて、唇を噛みしめている。
  4018. 「京子嬢の方も、山崎氏に送るものの用意はちゃんと出来ているからな」
  4019.  と、朱美は別のビニールの小袋を京子の鼻先へ持っていった。
  4020.  京子はハッと頼を染めて視線をそらし、怒りと励辱に白い肩をぶるぶる震わせるのであった。
  4021.  
  4022.  
  4023.     洗面器
  4024.  
  4025.  さて、と川田は、静子夫人と京子の間に立った。
  4026. 「お集まり願った皆さんの批評の言葉も出尽したようだし、社長や親分の御検分もすんだようだから、へっへへ、先程、約束した事をそろそろ始めて頂きたいんだがね。どうでい別嬪さん方」
  4027.  川田は、美女の足元にある洗面器を足の先で突いていう。
  4028.  静子夫人は、妖艶なばかりの美しい顔を静かに正面へ向け、眼を固く閉じるのだった。
  4029.  如何に泣き、哀願したとて、すべて無駄である。思った事は、どうしても、実行させる川田の恐ろしさを、夫人も京子も骨身にこたえるほど知っているのだ。
  4030.  しかし、何という破廉恥な狼共であろう。
  4031.  心臓もはりさけるばかりの恥ずかしい剃毛を二人に行った後、そんな姿のまま衆人環視の中で♢♢もはや、女に加えられる羞恥責め超越した責めである。
  4032.  静子夫人と京子は、もう人間的な感情を一切、捨て切った心地で、喉元までこみあがって来た火の塊のようなものを呑みこみ、観念の眼を閉じているのだ。
  4033.  川田は、静子夫人の彫りの深い、気品のある容貌を舌なめずりするように眺めていう。
  4034. 「へっへへ、奥さん。そうなった体で、洗面器を使うのは、いい気持だろうな。見る方も見ごたえがあるね」
  4035.  静子夫人は眼を開き、すべてを諦めきったというような澄みきった美しい黒い瞳を川田に注ぐ。
  4036. 「川田さん、お酒、お酒を飲ませて頂戴」
  4037.  酒の力でも借りて、神経を麻挿させねばとうてい演じられぬ事なのだ。
  4038. 「よかろう。酒は好きなだけ飲ませてやるがその代り、ちゃんと口上を述べて、元、遠山財閥の令夫人として恥ずかしくないよう、堂々と演じなきゃ駄目だぜ」
  4039.  川田に、そういわれた静子夫人は、悲しげに眼をしばたいて、小さくうなずき、川田から羞ずかしげに視線をそらせた。
  4040. 「京子嬢もどうだい。おめえも、元気づけに一杯やるかね」
  4041.  川田に頬を突かれた京子、
  4042. 「飲、飲ませて頂戴。私にも♢♢」
  4043.  と捨鉢になったように叫んだ。
  4044.  静子夫人も京子も飲める筈のない酒であるが、それを無理に飲む事によって、この息も止まるばかりの屈辱感から少しでも逃れようと思ったのである。
  4045. 「じゃ社長は静子令夫人に、親分は京子嬢に、それぞれ酒を飲ませてやっておくんなさい」
  4046.  田代と森田は、川田に頼まれると、承知致した、と笑いながら、コップになみなみと日本酒を注ぎ、それを手にして、それぞれ二人の美女の前に立った。
  4047.  銀子と朱美が、ふらふら、その中へ割って入って、
  4048. 「あんた達の要求を聞きとどけて、社長と親分がわざわざ運んで下さったのじゃないか。二人とも感謝して、最初の一杯は、口うつしで飲ませてもらうんだよ」
  4049.  静子夫人も、京子も、口惜しげに唇を噛み顔を横へ伏せてしまう。だが、田代は、すでにコップ酒を一息口に含んで、夫人の艶やかな首筋に手を巻きつけ、彼女の顔に自分の顔を押しつけていこうとする。
  4050.  静子夫人は、遂に抗し切れず、田代のいやらしく突ぜ出して来る唇に唇を合わす。苦しげに眉を八の字に寄せた夫人は、田代の吹き出す口中の酒を、ごくりごくりと音をさせて飲むのであった。
  4051. 「ああ♢♢」
  4052.  京子も、遂に、森田の唇を我が唇で受け、切なげに眼を閉じ、ごくりごくりと喉を鳴らしている。合わせた唇と唇の聞から、酒の滴と唾液がからまって流れ落ち、そうした光景は、美しい蝶をとらえた毒蜘蛛が、蝶の口に毒汁を注入しているのに似ていた。
  4053. 「どうだい。もう一杯、飲むかい」
  4054.  ようやく、唇を離した田代と森田は、眼の前の実女の顔をのぞきこむようにしていう。
  4055.  夫人も京子も、激しく首を横に振った。
  4056. 「そうかい。もう充分だというんだな。じゃ始めて頂く事にしようじゃないか」
  4057.  川田が乗りこんで来て、じゃ、奥さん、口上をいって頂こうか、再び、夫人の耳に口を寄せ、何かささやくのであった。
  4058.  ギラギラしたやくざ達の眼、ニヤニヤしたズベ公達の口元。静子夫人は、口うつしに田代から飲まされたコップ一杯の酒で、ほんのり染まってきた、妙になまめかしい眼元を上へあげ、死んだような気持になって、口を開く。
  4059. 「皆様、色々と御批評の言葉を頂き、有難うございました。そのお礼の意味で、只今からこのままの姿で演じさせて頂きます。ど、どうか、もっと、傍にお寄りになって一部始終くわしく御覧になって下さいまし」
  4060.  それを聞くと、野卑な男女はわっと歓声をあげて、二人の美女がさらされている台の上へかけ上って来て、夫人と京子の周囲に蟻のように寄りたかる。
  4061.  朱美は、京子の足下の洗面器をとって、
  4062. 「さあ、京子嬢、これは、どのへんに置くんだい。ちゃんと計算して場所を決めな。この前は、大目に見てやったが、ここは、舞台の上だ。一滴でも外へ洩らしちゃ承知しないからね。ふっふふ、すばらしいお仕置が用意してあるのょ」
  4063.  朱美はそんな事をいい、
  4064. 「さ、どのあたりに置くの、返事しないと、二米も離れた所に置いちゃうわよ」
  4065.  京子は、耳たぶまで真っ赤になった顔を肩にすりつけるようにし 眼を固く閉ざしたまま、蚊の鳴くような声を震わせて、
  4066. 「あ、足の、足の間に♢♢置いて下さい」
  4067.  それを聞くと、マリが口を歪めて、
  4068. 「あら、京子のお姐さん。足の間なんかでいいの。障害物がなくなったんだから、もっと遠くへ飛ばせるんじゃないの」
  4069.  などといったのでズベ公達は、どっと笑い出した。
  4070. 「ね、このへんにしなよ。遠慮することはないわよ」
  4071.  マリは、洗面器を一米ばかり離した所へ置く。
  4072.  京子は、たまらなくなったように肩を震わせて泣き出す。
  4073. 「さて、次は、奥様だけど♢♢」
  4074.  銀子は、夫人の足下にある洗面器を手にすると、京子の容器が置かれてある所よりも更に離した所へ、それを配置するのだった。
  4075. 「奥様は、小唄、踊り、お花と、どのような芸事にも秀れていらっしゃる遠山財閥の令夫人でいらっしゃるもの。ホホホホ、これ位、飛ばす事など何でもないでしょう」
  4076.  銀子は、そんな事をいって、声をたてて笑うのだった。
  4077.  川田も吹き出して、
  4078. 「ふっふふ、奥さん、ま、そんな情けない顔せず、遠山家の名誉のためだと思って、がんばってみるんだな。言っとくけど、一滴でも、外へ洩らしたりすりゃ、こたえられねえはどの羞ずかしい目に遭わされるんだぜ。そのつもりで、しっかりやんな」
  4079.  静子夫人は、こらえきれなくなり、わっと声をあげて泣き出した。
  4080. 「か、川田さん、あんまりです。あんまりですわ」
  4081.  後は言葉にならず、泣きじゃくる静子夫人であったがズベ公達は、そんな哀願など屁とも思わず二人の美女の周囲に寄りたかる。
  4082. 「いいかい。よーいどん、で、お尻を思いきりぶってあげるから、そしたら、二人同時に始めるのよ」
  4083.  銀子が、そういい、京子の方へ寄りそっている朱美と眼で合図し合いながら、手を振り上げた。
  4084. 「お尻をぶたれても、いわれた事を始めなきゃ♢♢わかってるわね。もうすぐ、ここへやって来る桂子と美津子が、あんた達の眼の前で、ひどい目に合うのよ」
  4085.  静子夫人と京子は、激しく、すすりあげながら、悲痛な決心をした。
  4086. 「さあ、奥様も京子嬢も、いいか」
  4087.  マリがくすくす笑いながらいい、銀子と朱美が、再び、大きく手を上げて、
  4088. 「よーい」
  4089.  その掛声も打ち消されるはどの哄笑と爆笑とが、狭い室内に充満して脂ぎった熱気が、むんむんと立ちこめるのであった。
  4090.  そんな室内の乱痴気さわぎにひきかえ、この土蔵の外では、次第に夜は更けわたり、竹薮の茂みでは、さやさやと吹く風が葉ずれを起こさせていた。
  4091.  
  4092.  
  4093.  
  4094. 第十七章 脱走の失敗
  4095.  
  4096.  
  4097.     美津子の脱走
  4098.  
  4099.  銀子があげた手を降ろそうとした時、土蔵の表戸がいきなり開いて、美津子に全身美容を行っていた葉桜団員の二人が血相を変えて飛びこんで来た。
  4100. 「大変だ、美、美津子が逃げやがった」
  4101. 「何だって!」
  4102.  密室の内の葉桜団員達も驚き、一斉に立ち上ったが、一番うろたえたのは吉沢である。今夜、美津子と結婚式を挙げることになっていただけに、また、それが先程からの楽しみになっていただけに、吉沢は、眼をつり上げる。
  4103. 「馬鹿野郎! 美津子を逃がしゃ、俺達もおめえ達も、只じゃすまなくなるんだぞ」
  4104.  美津子の美容を受け持っていたズベ公の説明によると、椅子に固定した美津子の上半身の美容マッサージが終わり、次に下半身の美容にかかるべく、寝台の上へ乗せようとして、縄を解いて、椅子から立たせたその瞬間、美津子は脱兎のように素早く走り出し、ドアを開けて逃亡したというのだ。
  4105.  朱美が、それを聞くと、声をたてて笑う。
  4106. 「裸のまま何処へ逃げようっていうのさ。きっと屋敷の中か、庭のどこかに隠れているのに違いないさ。あわてる事はないよ」
  4107.  続いて、銀子も、
  4108. 「表門も裏門も、ちゃんと錠がかかってるんだろ。なら、うろたえる事はないさ」
  4109.  だが、吉沢は、とにかく、ひっ捕えてくると、土蔵から出て行こうとするので、朱美、それに、悦子、マリ、その他、森田組のやくざ数人が、手分けして、逃げた美津子を追う事になった。
  4110. 「奥さんと京子嬢のショーは美津子をひっ捕えてからさ。それまでのおあずけということにしておこう」
  4111.  銀子は、そういって、田代と森田の方を見る。
  4112. 「大声を出して、塀の外へ救いを求めたりするとまずいことになるぜ。早いとこ、見つけ出して来な」
  4113.  と森田は吉沢にいった。
  4114.  吉沢達が表へ出て行くと、京子は、柱に固定されている体を必死に悶えさせて、
  4115. 「美津子っ、逃げるのよ! 命がけで逃げるのよっ。二度と、二度と、捕まっちゃいけない!」
  4116.  と大声をあげる。
  4117. 「うるせえ」
  4118.  川田が、京子に近づくや、ぴしゃりと京子の頬を平手打ちする。
  4119. 「つまらぬ事をいわず、そこの洗面器にとどかす事が出来るかどうか、よく狙いをつけておきな」
  4120.  川田は、そういいながら、破廉恥にも、静子夫人と京子の間に立ち、洗面器に向かって放尿し始めた。
  4121. 「へっへへ、どうだい。こういう風に景気よく飛ばさなきゃ駄目だぜ。どうだい、奥さんうまいもんだろ」
  4122.  川田は得意になって、静子夫人の美しい横顔を見るのだった。やがて、川田は、田代や森田、銀子、それに森田組の幹部達と人の字の形に固定されている夫人と京子の前に円座を組み、一週間後にせまったショーの綿密な打ち合わせを始めるのだった。
  4123.  鬼源も加わり、彼のアイデアが彼露されると、田代も森田も、それは、傑作だ、と手を打って喜ぶ。
  4124.  常軌を逸した、その着想が夫人と京子の耳に入り、二人の美女は、顔面を真っ赤にして嫌々をするように首を左右に振り、すすり泣く。
  4125. 「おや、奥さんも京子嬢も、そのアイデアには嬉し泣きして喜んでいるぜ」
  4126.  川田は、ふと首を上げて、二人の美女を眺め、そんな風な言い方をするのだ。
  4127. 「それにしても、まだ、小娘は捕まらねえのかな、吉沢の奴、何をしてやがるんだ」
  4128.  森田がいささか不安になってきたらしく、吉沢に手伝って美津子を見つけ出そうといいだした。もし、美津子が、この屋敷の外へ逃げたとなると大変である。田代も森田も壊滅する事になってしまう。
  4129.  田代も不気味になってきて、森田の意見に賛成し、懐中電灯を取り出して来ると、川田をうながし、土蔵の外へ出て行くのだった。
  4130.  静子夫人と京子は、無事、美津子が、この地獄屋敷から逃亡する事を心から祈っている。ここより救出されるか、更に地獄の責苦に遭うか、それは、美津子の逃亡の成功不成功にかかっているのだ。
  4131. 「美津子、どんな事があっても逃げるのよ、絶対に捕まっちゃいけない」
  4132.  京子は、口の中で何度も祈るようにくり返すのだった。
  4133.  
  4134.  
  4135.     望み破れて
  4136.  
  4137.  必死になって廊下を走り、階段をかけ降りた美津子は、キッチンの中へ飛びこみ、大きなテーブルの隅へ身を沈めた。
  4138.  ハアハアと激しく肩で息をしながら、美津子は四囲の気配をうかがった。
  4139.  二階からかけ降りて来た追手達は、美津子が庭園の方へ逃げたと思ったらしい。大声をあげながら庭へ降り、あちらこちら点検しながらは奥の竹藪の中へ向かって行く。
  4140.  一時的とはいえ、迫手の眼をごまかせた事に美津子はほっとした。無我夢中で、ここまで逃げて来たものの、一片の布も身にしていない我身に気づき、美津子は、乙女の本能でハッと両手を交錯するようにして乳房を抱き立膝をして、その場にちぢこまってしまう。身を覆う一片の布地でも欲しい美津子であった。
  4141.  一片の布を求めて、美津子は体をくの字に折り曲げ、再び廊下へ出る。近くの部屋を開けて、中へ入った美津子は、寝台の上のシーツに眼を止め、走り寄ると、そのシーツを剥いで、自分の体に巻きつけた。そのまま、窓を開けた美津子は、血走った思いで庭へ降りた。裏門から、表へ逃げ出そうと思ったのであるが♢♢美津子は、ギョッとして足を止め素早く縁の下へ身を伏せる。森田組のやくざ達が数人、裏門にたむろし、キョロキョロ周囲をうかがっているのである。
  4142.  縁から再び家の中へ入り、美津子は足音を忍ばせて、玄関の方へ廻ってみたが、そこはすでに葉桜団のズベ公達が固めている。
  4143. 「こんな手数をかけやがって。美津子の奴、ひっ捕えたら、うんとヤキを入れてやろうじゃないか」
  4144.  といっているのは、朱美のようだ。
  4145.  美津子は鳥肌立つ思いで二階へ上がった。あちらこちらで、美津子を深すやくざやズベ公の足音がしている。
  4146.  あのいまわしい吉沢のガラガラ声が聞こえて来た。姿を隠している美津子に対し、吉沢は、どなっているのである。
  4147. 「美津子っ、いくら逃げようたって無駄だ。観念して出て来な。これ以上、手間をかけやがると、ひっ捕えてからたまらねえ恥ずかしい責めにかけるぜ!」
  4148.  美津子は、体を硬化させて、壁にぴったり体を押しつけ、息を殺した。
  4149.  心臓もはりさけんばかりの恥ずかしい責めにこれまで散々かけておきながら、なお、これ以上に恥ずかしい責めにかけるぞと、おどす吉沢。美津子は恐怖に眼がつり上がり、足が、がくがく震えるのだった。
  4150.  進退極まった美津子は、もはや逃げ場もなく、三階へ上がって行く。そこで美津子はふと光明を見出したのだ。廊下の隅に電話がある。あれで外部と連絡をとり、救援を頼めばいい。
  4151.  美津子の顔に生気が出た。
  4152.  電話のある所まで、かけつけた美津子の脳裡には、とっさに、ボーイ・フレンドの村瀬文夫の電話番号が浮かび、震える指先でダイヤルを廻した。
  4153.  村瀬文夫は、ある大学の附属高校に通っている学生で、美津子とは小学校が同じ、つまり、幼馴染みなのである。
  4154. 「文夫さん、美津子なの、お願い助けて!」
  4155.  美津子は、文夫が直接電話に出て来たので嬉しさと懐かしさめいたものが、胸にこみあげどっと涙があふれ出る。
  4156.  文夫の方でも驚いたに違いない。三日も姿を消していた美津子から突然に電話がかかって来たのだから。
  4157. 「ど、どこにいるんだ。美っちゃんっ」
  4158.  文夫の声も、興奮に震えているようだ。美津子は、この地獄屋敷が地理の上では東京のどのへんにあるのか、わからない事に初めて気づき、うろたえる。
  4159. 「そ、それが一体、ここはどこなのか、わからないの。田代という悪魔のような男の住んでいる大きな家なのよ。ね、お願い、私達死ぬより辛い目に遭わされているのです。助けてっ、文夫さん、助けてっ」
  4160.  美津子は、血走った気分で必死になって、受話器に向かい叫ぶ。
  4161.  受話器の中の文夫の声が、
  4162. 「田代、なんという人間だ。田代だけじゃわからない。美っちゃん、落着くんだ!」
  4163.  その途端、美津子の握っている受話器が、さっと横からひったくられた。
  4164. 「あっ」
  4165.  美津子の顔から、さっと血の気がひく。
  4166.  朱美、悦子、マリの三人が、魔女のようにらんらんと眼を光らせて、何時の間にか美津子を取り囲んでいたのだ。
  4167.  受話器をひったくった朱美は、震える美津子を押しのけるようにして、受話器にこういった。
  4168. 「もしもし、いつも、美津子がお世話になりまして♢♢私、美津子の姉の京子でございます。実は、美津子が何だか近頃気がおかしくなり、今、ある精神病院に相談に参っているのでございますが♢♢」
  4169.  それを聞いた美津子は逆上したように、
  4170. 「嘘ょ、嘘なのよっ、文夫さん、助けてっ」
  4171.  と叫び、朱美の手から受話器をひったくろうとする。それを、マリと悦子がさえぎり、美津子の体を抱きすくめるようにして、その場へ押し倒し、組み敷いてしまう。
  4172.  朱美は、そんな美津子を冷やかに横目で見ながら、更に電話を続ける。
  4173. 「美津子の病気の事で、貴方にぜひ御相談したいと思うのですが、お越し願えないでしょうか。本人のため、あまり、世間へこの事を口外したくないので、どうか他の人には内密にしてお越し願いたいのです。え、お姉さんと御一緒においで下さるのですか。はあ、お姉さんならかまいませんが、その他の人には絶対口外なさらないようにお願い致します。では一時間後に新宿駅前にお越し下さい。病院の医師と看護婦がお迎えに参上致しますから♢♢はあ、よろしくお願い致します」
  4174.  朱美はほっとしたように電話を切った。
  4175. 「姉も美っちゃんの事を心配しているので、一緒に連れて行くってさ。とにかく、この姉弟を始末しなきゃ、こっちの首が危いよ。全く面倒な事をしてくれたもんだよ」
  4176.  朱美は、舌打ちしながら、悦子とマリに床へ押しつけられている美津子の尻のあたりを足で蹴った。美津子は顔を床に押しつけ激しく体を震わせて号泣している。
  4177. 「一時間後に新宿駅へ来るって、その二人は何処からやって来るんだい。姐さん」
  4178.  マリが聞いた。
  4179. 「四谷だよ。村瀬といったわね。え、美津子?」
  4180.  朱美は、美津子の髪の毛をつかんで、顔を上へこじあげて聞く。
  4181.  マリが小首をかしげるようにして、
  4182. 「四谷の村瀬といやあ、あの村瀬宝石店の事じゃないかい。そら、銀座で大きな店を出している村瀬宝石店さ。たしか、家は、四谷にあると誰かに聞いた事があるけど、もし、そうなら、こいつあ、すごい儲け口が転がりこんで来たようなものだよ」
  4183.  悦子が、朱美と一緒になって、組み敷いている美津子の頭髪を激しくひっぱって訊問を始める。
  4184. 「さ、美津子、白状しな、村瀬というのは、村瀬宝石店の事なのかいっ」
  4185.  美津子は、髪をつかまれ、キリキリ首を左右に振り廻され、ぴしゃりと横面をズベ公達にひっぱたかれる。
  4186. 「あ、悪魔、鬼。貴女達は、な、何という、何という恐ろしい人達なの!」
  4187.  美津子は、憎悪のこもった瞳をズベ公達に向け、血の出る程、唇を噛みしめる。
  4188. 「どうやら、図星らしいわね。となると、私達、村瀬の息子に連絡をとってくれた貴女にむしろ感謝したい位だわ」
  4189.  悦子は、手を叩いて喜ぶ。
  4190. 「さ、美津子、お立ち。吉沢の兄貴が、カンカンになって、貴女を探しているわ。ふふふ、よく謝って、二度と逃げるなんて了見の起こらぬよう、ウンとヤキを入れてもらう事ね」
  4191.  朱美と悦子は、美津子の両腕をかいこむようにして立ち上らせる。
  4192. 「さ、歩きな」
  4193.  マリに背を突かれた美津子は、身を包む、たった一枚のシーツを、両手でしっかりと押さえるようにし、屠所にひかれる小羊のように、身体をかがめるようにして歩き出すのであった。
  4194.  朱美とマリは、両手を口に当てるようにして、大声で叫びつづける。
  4195. 「皆んな。美津子が捕まったよ!」
  4196. 「出ておいで皆んな。美津子をひっつかまえたよっ」
  4197.  
  4198.  
  4199.     絶望の涙
  4200.  
  4201.  土蔵の戸が開き、美津子探索のため、あっちこっちに散らばっていた森田組のチンピラ、それに葉桜団のズベ公達が、キャッキャッ笑いながら戻って来た。
  4202.  台の上に相変らずの形で、固定されている静子夫人と京子は、ハッとして首をあげる。
  4203.  やくざ達やズベ公達が陽気に笑い合っているのを見て、一線の望みも遂に断ち切られてしまった事を二人の美女は感じとった。
  4204.  川田は、顔中しわだらけにくずして、静子夫人と京子の間に立ち、
  4205. 「へっへへ、奥さんも、京子嬢も安心しな。美津子嬢が捕まったよ。これから、吉沢兄貴達に二度と逃げ出さねえよう色々と意見され、いよいよ女になるって寸法さ」
  4206.  それを聞くと、京子は、ギクと体を震わせ、がっくりと首を落として、すすり泣き始めた。静子夫人も同様、絶望に眼を閉じ、小さく鳴咽する。
  4207. 「お、奥様♢♢」
  4208.  京子は、泣きじゃくりながら、静子夫人の方を見、もう駄目ですわ、と一切の望みを断ち切られた観念した表情を作るのだった。
  4209. 「京子さん♢♢」
  4210.  静子夫人も、美しい顔を苦痛に歪める。
  4211.  川田は、せせら笑いながら、
  4212. 「それがよ、静子夫人、全く妙な因縁じゃねえか。美津子が電話で救いを求めた村瀬という若僧。それは村瀬宝石店の息子なんだ。俺は以前よく、お前さんのお供で、村瀬商店まで車を運転したっけな。ダイヤだの真珠だの、お前さんは村瀬商店からよく買っていたものだ。村瀬のいいお得意さんだったじゃねえか。今夜はそこのお坊っちゃんとお嬢ちゃんが、こちとらの罠にかかるってわけさ。まあ一つ、これからは仲良くしてやってくんねえ」
  4213.  田代が上機嫌で、それにつけ加える。
  4214. 「村瀬商店の息子の方は知らないが、娘の方は、俺も二、三度見た事があるよ。ある化粧品会社の美人コンテストに一等入選した事もある八等身の大した美人だ。たしか、小夜子とかいったな」
  4215.  静子夫人も京子も固く眼を閉じたまま、もうこれらの悪鬼共に反抗する気力も失せたようにがっくり首を落としている。
  4216. 「さて、そろそろ時間だから、社長、わっしは医者に化けて、村瀬宝石の坊っちゃん、嬢ちゃんをここへお連れして参りますからね。ま、静子夫人と京子嬢のショーでも御覧になりながら、待っていておくんなさい」
  4217.  葉桜団のズベ公二人が看護婦に化けて、川田と一緒に行動する事になった。
  4218. 「まあ、お前の事だから、ドジを踏む事はねえだろうが、大きな仕事だ。慎重にやってくれよ」
  4219.  と森田が念を押す。
  4220.  川田は、笑顔でうなずき、ズベ公二人を連れて身支度にかかるべく、外へ出て行った。
  4221. 「さて♢♢」
  4222.  銀子は、口にしていた煙草を捨てて、静子夫人と京子の方へ向き直る。
  4223. 「さあ、これで何事も万事好都合に行くってわけよ。じゃ、そろそろ奥さん、さっきの続きを始める事にしましょうね。私達も、すっかり、酒の酔いがさめてしまったわ」
  4224.  田代、森田、それに森田組のやくざ達は元の位置に腰をおろして、酒盛りの続きを始めるのだった。
  4225. 「さあ、奥さん、京子嬢、発射準備はいいかい」
  4226.  銀子は、くすくす笑いながら、二人の美女のかなり前方へ洗面器を二つ配置する。
  4227. 「いいね。一滴でも外へ洩らしたりすると、承知しないからね。はい、よく狙って、用意♢♢始めっ」
  4228.  二人の美女は、その行為を演じるかわりに激しく首を振って、号泣し始める。
  4229. 「畜生、また、あたい達を馬鹿にする気なのかい」
  4230.  銀子は、台の上へかけあがって、夫人と京子の横面を、激しくひっぱたき、ガスライターに火をつけ、二人のお尻に交互に押しつける。
  4231. 「あっ、あつっ、嫌っ、あっ」
  4232.  夫人も京子も悲鳴をあげて、白い肉体を悶えさせた。
  4233. 「まだ、私達にさからうなら、二人とも、今度は、大事な所に火をつけるからね」
  4234.  銀子は、ガスライターの火を消すと、もう一度、くり返す。
  4235. 「発射用意♢♢さあ、よく狙うのよ。的を」
  4236.  静子夫人と京子は、涙に潤んだ眼で、前方の洗面器を見つめるのだった。
  4237. 「発射始めっ」
  4238.  
  4239.  
  4240.     美津子の覚悟
  4241.  
  4242.  美津子は、朱美達に、再び、美容室へ連れ戻され、そこで、吉沢と対面、逃亡をはかった事に対する、お仕置を受ける事になったのである。
  4243. 「美津子、よくも、俺に赤恥をかかせやがったな。精神を入れかえてやる。覚悟は出来てるだろうな」
  4244.  吉沢は、美津子に蛇のような眼を向ける。
  4245.  美津子は、シーツを胸に抱きながら、恐怖に体を硬化させ、じりじり後ずさりする。
  4246.  美容室の一隅では、すっかり全身美容の終わった桂子が寝台から降ろされ、ズベ公達の手で、ハート型になったピンク色のバタフライをはかされている。
  4247. 「桂子をごらん。段々と私達に素直になってきている。ああいう風に素直になってくれりゃ私達だって、優しく出るわよ。早く、あんたも、姉さんゆずりの、その強情な性質を直してくれなきゃ困るわ」
  4248.  朱美は、おろおろしている美津子に向かって、そんな事をいうのだった。
  4249.  桂子は、バタフライ一枚を身に許されただけで、頭の上から、薄いヴエールを、やはりズベ公達の手でかけられる。そして、前手錠をガチャリとかけられるのだった。
  4250. 「手錠の鍵は、あんたのハズバンドがお持ちなのよ。さ、密室へ行って、ママのショーを見て、それから、たのしく、お床入りにしましょうね」
  4251.  ズベ公達は、くすくす含み笑いしながら、そんな風に桂子にいい、肩に手を廻すようにして引き立てて行く。桂子は、もう一切をあきらめきってしまったように伏し眼をして、ズベ公達のされるがままになっているのだった。
  4252.  桂子の姿が消えると、朱美は、再び、美津子に眼を向け、冷やかな調子でいう。
  4253. 「桂子は、聞き分けのいい娘になってきたから、今のように恰好のいいバタフライをはかせてあげたんだけど、貴女は、当分、何も体につけさせてあげられないわ。さあ、そのシーツをこっちへ返すのよ」
  4254.  朱美は、美津子のまとっているシーツの端をつかんで、ひっぱったが、美津子は、ハッとし、本能的に固くシーツを抱きしめて、後退するのだった。
  4255.  朱美は、舌打ちして、
  4256. 「本当に、この娘は、甘く出るとつけあがるわね」
  4257.  突き当たりの壁に背を当てて、おろおろしている美津子を見て、朱美は吐き出すようにいう。
  4258.  じわじわと追って来た朱美、悦子、マリ、それに吉沢達に、美津子は恐怖に歪んだ顔を向けて、必死な思いをこめていう。
  4259. 「お願いです。もう二度と逃げようなんてことは致しません。ですから、村瀬さんを誘拐するのだけはやめて。村瀬さんに危害を与えるのだけは、かんにんして。お願いです」
  4260.  救援を頼もうとした村瀬文夫が、逆た森田組の手で捕えられ、数々のむごたらしい責めを受けるのではないかと想像すると美津子は気が狂いそうになる。自分はどのような目に遭っても、村瀬文夫を巻き添えにしてはならぬと、美津子は必死な気持で、追って来る吉沢を見すえて、哀願するのだった。
  4261. 「そんなにまでいうなら村瀬宝石店の息子や娘を誘拐するのは見合わせようじゃないか。何も、それはど、危い橋を渡る事もないからね」
  4262.  朱美は、吉沢の顔を見、意味ありげにウインクして、そんな事をいうのだった。村瀬文夫を助けるも助けないも、もう川田とズベ公二人は、村瀬姉弟と約束した新宿駅に向け出発しているのである。
  4263.  そんな事とは知らない美津子は、自分はどうなっても、何の関係もない村瀬文夫を、この連中の罠から守らなければならないと悲痛な決心をしたのである。
  4264. 「わ、私は、どうなっても、かまいません。村瀬さんには、お願い、悪い事はしないで下さい」
  4265.  美しい黒い瞳を、哀切的にまばたきながら吉沢とズベ公に哀願する美津子である。
  4266. 「よし、じゃ村瀬のお坊っちゃん達は、見逃す事にしよう。大変な獲物なんだが、お前がそんなに頼むなら仕方がねえ」
  4267.  吉沢は、煙草を口にして火をつけながら、わざとらしく、おだやかな口調になっていうのだった。
  4268. 「ほ、ほんとうですか、ほんとうに村瀬さんには♢♢」
  4269.  美津子は、涙のにじんだキラキラする黒眼を吉沢に向け、必死な気持になっていう。
  4270. 「その代り、今後、吉沢の兄貴やあたい達には絶対服従だよ。いいね」
  4271.  朱美が念をおす。
  4272.  美津子は、観念したように眼を閉じ、小さくうなずくのだった。
  4273. 「じゃ、元のままの姿になるのよ」
  4274.  朱美にそういわれて、美津子は、必死になって抱いていた両手を解き、シーツを脱ぐ。
  4275. 「借りていたものを返す時は、ていねいにたたまなくちゃ駄目じゃないの。近頃の女学校じゃ、お行儀は教えないのかしら」
  4276.  シーツが床へ落ち、それと同時に、両乳房を手で覆って、その場に小さくかがみこんでしまった美津子を、冷やかに見たマリがいった。
  4277.  美津子は、すすりあげながら、そっと手をのばし、シーツをたたみ始める。ぴったりと両腿を閉じ合わせて、消え入るように小さくなって正座し、シーツをたたんでいる美津子を一人のやくざと三人のズベ公は閉むようにして眺めていたが、美津子の仕事がすむと、朱美は次の室へ行って、頑丈な麻縄を持ち出して来た。
  4278. 「さ、胸をはって、両手を背中へ廻すのよ。しっかり縄をかけてあげるからね」
  4279.  美津子は、一切の望みが断ち切られた悲しさを噛みしめるように、別く固く眼を閉じ、静かに白い陶器のようにすべすべした両腕を後ろに廻す。
  4280.  朱美、マリ、悦子の三人は、そんな美津子の周囲に腰をかがめ、背中に廻している美津子の両手首を荒々しくつかんで、がっちりと交錯させ、ひしひしと縄をかける。
  4281.  あまった縄尻は前へ廻され、美津子の白桃のような柔らかい乳房の上下を、きびしくしめあげるのだった。
  4282. 「さっ、立って、吉沢兄貴に、心から詫びるんだよ」
  4283.  朱美は、ぐっと美津子の縄尻を引いて、彼女を強引に立ち上らせると、傍の柱に美津子の背を押しつけ、別の縄をつかって、固定してしまった。
  4284.  必死になって、両足をぴったり閉じ合わせ顔を伏せようとする美津子。恐ろしさに歯をキリキリ噛みならしている。
  4285. 「お嬢さん。あんた、吉沢兄貴に、妻になります、と宣誓した事を忘れちゃいけないよ。あたい達は、あんたを可愛いお嬢さんに、仕上げる義務があるんだ。あたい達にさからったりすると、村瀬の件や娘が、ひどい日に遭うだけじゃなく、竹藪の奥の密室にいる、あんたのお姉さんの命まで危くなるんだよ。いいわね」
  4286.  朱美にそういわれた美津子は、もう反撥する気力もなく、うなずくのであった。
  4287.  マリがニヤニヤしながら、うなだれている美津子に近づいて、ゆるんでいる美津子の黄色いヘアバンドを、ちゃんとしめ直してやり、
  4288. 「吉沢兄貴は、あんたの御主人なんだから、これからは、あなた、と呼ばなきゃ駄目よ。ふふ、ねえ、ちょっと、こういう風にいって吉沢さんに甘えてみな」
  4289.  マリは、美津子の耳に口を当てて何か、ささやく。
  4290.  美津子は、顔を真っ赤にして、のけぞるようにしてそらせる。
  4291. 「あたい達のいう事には、絶対服従の約束だったわね」
  4292.  と悦子は、冷酷な眼つきになって、美津子の太腿の肉をつねりあげる。
  4293.  美津子は、胸から喉元にこみあがってくる火の玉のような屈辱をこらえながら、マリに強制された言葉を、唇をわなわな震わせ眼の前に立った吉沢に何かって口にするのだった。
  4294. 「あ、あなた♢♢早く、早く美津子を、女、女にして頂
  4295. 覿。美津子、もう、これ以上、待つのは嫌、ねえ♢♢あな
  4296. た♢♢」
  4297.  朱美も、マリも、くすくす笑い出す。
  4298.  悦子は嵩にかかって、美津子の横に立ち、
  4299. 「あんたの美しい体の色々な部分を御主人に説明するのよ。美津子のお鼻、美津子のお口という風に、一つ一つ教えてあげるの。わかった?」
  4300.  悦子は、そういいながら、美津子の鼻先を指でつく。
  4301. 「さあ、教えて頂戴。これ、何というの?」
  4302.  美津子は、もうどうともなれ、といった捨鉢な気持で、ズベ公達のみだらないたぶりの中に身を投げこんでいった。
  4303. 「♢♢美、美津子の、お鼻」
  4304.  悦子は、満足げにうなずいて、
  4305. 「じゃ、これは?」
  4306.  と美津子の花びらのような唇をつつく。
  4307. 「美津子の♢♢お口」
  4308. 「そう、全くきれいな歯並びね、真珠のような歯とは、この事だわ」
  4309.  悦子は、指先で、美津子の可憐な唇を上下に押し開き、光沢のある真白な歯を感心したように見つめる。
  4310. 「じゃ、次は首の下に移って、これは、何ていうの」
  4311.  悦子は、両手を拡げて、いきなり、その両方をわしづかみにした。
  4312. 「うっ」
  4313.  美津子は、眉を寄せて、激しく首を振る。
  4314. 「言わなきゃ駄目よ。言うまで、こうするわよ」
  4315.  悦子の両手は執拗に動き始めた。
  4316. 「あっ、い、言います♢♢美、美津子のおっぱい、おっぱいですっ」
  4317.  美津子は、絞り出すような声を出す。
  4318. 「じゃあね」
  4319.  と悦子の指は移動する。
  4320. 「やめて、もう、かんにんして!」
  4321. 「何いってんのよ。こんな事、何でもないじゃないの」
  4322.  悦子の指は、美津子の臍の上で止まった。
  4323. 「さあ、お嬢さん、これは、な—に」
  4324.  美津子は、脂汗を浮かべ、唇をわなわな震わせた。その個所を口にしないと、悦子の指先にカが入るのだ。
  4325. 「♢♢美津子の、お、お、おへそ♢♢」
  4326.  ズベ公達も、吉沢も、吹き出して笑う。
  4327. 「ふふふ、さあ、あと一つよ」
  4328. 「ああ♢♢」
  4329.  美津子は、次に、悦子が口に出させようとしている個所の想像がついて、狂気したように首を振って、許しを乞う。
  4330. 「さあ、教えて頂戴。ここは、美津子の何というところなの?」
  4331.  美津子の足元に小腰をかがめた悦子は、狂気の美津子を下から眺めて、含み笑いをするのだった。
  4332. 「嫌っ、嫌っ、知らない、知りませんっ。ああ 」
  4333.  美津子は、真っ赤になった顔をのけぞらせるようにして、鳴咽する。
  4334. 「言えなきゃ、言えるようになるまで、悦子に責めさせようか」
  4335.  朱美が美津子の顎に手をかけて、ぐいと美しい顔を正面に向けさせ、涙で、キラキラ光る黒眼を頼もしげに眺めるのだった。
  4336.  マリが朱美にいう。
  4337. 「そりゃ姐さん、無理だよ。こんな純情なお嬢さんが、そんな処の呼び名を、はっきり知ってる苦はないじゃないか。優しく教えてやって、いわせなきゃ駄目だよ」
  4338.  それも、そうだね、と朱美はうなずいて、ちらと吉沢の方を見る。
  4339. 「御主人から、教えてやんなよ」
  4340.  吉沢は、ニヤリと顔をくずし、美津子の横に立つ。
  4341. 「ふふふ、お嬢さん、そこはだな、こういう風にいうのさ」
  4342.  と、美津子の耳に口を寄せ、吉沢は何かささやくのだった。
  4343. 「ああ—」
  4344.  吉沢が、口を寄せている美津子の耳たぶまで朱に染まる。
  4345.  女として、まして、けがれを知らぬ純真な乙女として、死んでも口に出来ない言葉が、吉沢の口から耳の中に流れこんで来たのだ。
  4346.  美津子は、体全体を熱くして激しく泣き出す。
  4347. 「わかったね。じゃ、お嬢さん、大きな声ではっきりいって頂きましょう」
  4348.  悦子が立ち上って、美津子にいった。
  4349.  そこへ、銀子が、入って来る。
  4350. 「何をしているんだよ。今、密室の方じゃ、静子大人と京子嬢のすばらしいショーが始まっているんだよ。早く見に来ないと終わってしまうじゃないか」
  4351.  あ、そうだったっけ、と朱美は舌を出し、
  4352. 「ところで、銀子姐さん、奥さん達の洗面器ショーは、どうだったの、ふふふ」
  4353.  銀子は、朱美の出す煙草を口にしながら、
  4354. 「あんな所まで、とどくわけがないじゃないか。全部、床へたれ流しさ。それで、実演がすんだら床を汚したお仕置を、鬼源が改めてするんだとさ」
  4355. 「鬼源さんも、なかなか精が出るわね」
  4356.  と朱美や悦子が顔を見合わせて笑う。
  4357. 「さあ、美津子嬢にも、姉の実演を後学のために見せてやろうよ。引き立てな」
  4358.  銀子は、煙草を床に捨て、足で踏み消しながらいう。
  4359. 「それがね。このお嬢さん、また、つまらない事で、駄々をこねるのさ」
  4360.  と朱美は、銀子に説明し始める。
  4361.  銀子は声をあげて笑った。がすぐ、身も世もあらず、すすり泣いている柱を背にした美津子に向かい、キッとした表情になって、
  4362. 「あんた、そんな事、言えないようでどうするの。あんたも、やがてはお姉さんと同様、立派なショーの花形スターになって貰うんだからね。そんな、つまらない事、口に出来ないようじゃ困るわよ」
  4363.  と、縄にしめあげられている白桃のような乳房を指ではじく。
  4364. 「それが言えたら、お姉さんのすばらしいショーを見物して、吉沢さんと甘く楽しい一夜が過ごせるのじゃないの。幸せな人よ。貴女って。さあ、もう強情ははらないわね。明日の朝になりゃ森田組大幹部、吉沢夫人だものね。生々と貫緑を示して、大声で、いわなきゃ駄目よ」
  4365.  銀子は、たて板に水を流すようにベラベラとしゃべりまくる。
  4366.  さ、もう一度、始めよう、と悦子は再び、美津子の足元に身を沈め、わざとらしい甘ったるい声を出すのだった。
  4367. 「ねえ、お嬢さん、ここは貴女の何という所なの」
  4368.  美津子は、紅生姜のように真っ赤になり、歯を喰いしばった表情を続けている。
  4369. 「仕方がないね。じゃ、責めるとするか」
  4370.  悦子の言葉に、美津子は、ギクッと体を震わせ、
  4371. 「待って、待って、いいます、いいますわ」
  4372.  美津子は、堰をきったように泣きながら、
  4373. 「そ、それは、美津子の、美津子の♢♢ああああ……」
  4374.  再び、号泣し始めた美津子のすべすべした尉を揺すぶりながら、朱美は、
  4375. 「美津子の♢♢だけじゃわからないよ。はっきりいわないか」
  4376.  美津子は、泣きじゃくりながら、崖から身を投ずるような気持で、吉沢に教えられた言葉を口にするべく、もう一度、唇を開くのだった。
  4377.  
  4378.  
  4379.  
  4380. 第十八章 華やかな宴
  4381.  
  4382.  
  4383.     狂乱の静子夫人
  4384.  
  4385.  静子夫人は、田代の寝室へ、京子は、その隣の森田の寝室へと、ズベ公達に引き立てられて行く。
  4386.  田代の部屋は、優雅なつくりの日本間である、十畳の間の中央に、豪華な絹布団が敷かれてあり、真新しい黄色と赤色の枕が、ぴったりと寄り添うようにして布団の上に並び、それが、ピンク色の蛍光灯に映えて、妙に艶めかしい。
  4387.  田代は、花梨の卓の前で、あぐらを組み、チビリチビリ、ウイスキーをなめつつ、そうした光景を眺め、静子夫人の到着を待っていたが、銀子と悦子に、静子夫人が引き充てられて来ると、
  4388. 「待ちかねていたよ」
  4389.  と、うきうきして立ち上り、これは、チップだと何枚かの千円札を銀子に渡す。
  4390.  こりゃ、どうも、と銀子はペコリと頭を下げ、
  4391. 「この奥さん、どのへんにつないどきましょうか」
  4392.  とまるで、犬か猫を連れて来たような口調でいうのだった。
  4393.  田代の指示を受けて、銀子と悦子は、ともすれば、その場に身を沈めようとする静子夫人を追い立てるようにして、床の間に押し上げ、ペタリと尻もちをつかせるや、なれた手つきで左右から夫人の両肢を曲げさせ、あぐらに組ませる。交錯させた両足首を縛りながら銀子は、静子夫人の美しい身体をまじまじと見て、
  4394. 「ふふふ、だけど、全く上手に剃りあげたものね」
  4395.  その言葉に、夫人は反射的に顔をそむけ、耳たぷまで赤くするのだった。
  4396.  銀子と悦子は、二人がかりで、夫人の顔に寝化粧をはどこし、乱れた黒髪を櫛ですきあげる。
  4397.   美しく化粧された静子夫人を悦子は満足げに眺めて、夫人の顎に手をかけ、ぐいと顔を上へ持ちあげるようにして、ピンクの口紅を舌でしめしつつ、夫人の唇にひき始める。
  4398.  静子夫人は、睫毛の長い切長の瞳を固く閉ざし、悦子や銀子にされるがまま、もう悪あがきはせず、一切を放棄した妙に艶めかしい美しさが、そこにあった。
  4399.  悦子は、静子夫人の頬に、つけぼくろを描いて、
  4400. 「はい、お待ち遠さま。後は、社長にお任せするわ」
  4401.  銀子と悦子は、田代の肩を叩くようにして、
  4402. 「じゃ、社長、充分、お楽しみ下さい」
  4403.  と笑いながら、ドアを開け、外へ出ようとして、
  4404. 「そうそう、さっき鬼源さんがいっていたのですけど、明日からの奥さんと京子の調教は、朝の九時からという事になってます。ショーの日まであと何日もないから、ピッチをあげるそうですよ。じゃ、明日、あたい達、九時前には、奥さんをお迎えに参りますからね、どうぞ、よろしく」
  4405.  銀子と悦子が姿を消すと、田代は、ほっとしたように、ウイスキー瓶とグラスを持ち床の間の柱を背に、あられもないあぐら縛りにされている静子夫人の豊満な肉体をギラギラした眼で眺めつつ、ウイスキーを飲み始めるのであった。
  4406.  その酒に濁った田代のいやらしい蛇のような眼つきを身体のすみずみに突きささるように感じ、たまらない気持になった夫人は、思わず、両腿を閉ざそうとしたが、口惜しくも、銀子の手で、固くあぐら縛りにされている両肢は微動する事さえも許されない。たまらないみじめさに、膝頭のみが、突しく、ぶるぶると震えるだけだった。
  4407. 「ふっふふ。遠山夫人、何も今更、そんなに恥ずかしがる事はないじゃないか。よし、じゃ僕も、奥さんのように、生まれたままの姿になってあげよう。そうすりゃ、少しは気が楽になるだろう」
  4408.  田代は、そんな事をいい、ついと立ち上ると口笛を吹きながら、洋服を脱ぎ始める。ついで、下着もかなぐり捨てた田代は、褌一丁で再び、夫人の前にどっかと坐るのだった。
  4409.  静子夫人は、よけいに羞恥心をかきたてられたのか、首を深く落とし、嫌々と首を振っている。
  4410. 「奥さん、ちょっと見てごらんよ。僕の胸毛は大したもんだと思わないかい」
  4411.  しかし、静子夫人は、消え入るように首を垂れて、小さく、すすり上げている。
  4412.  田代は、舌打ちして、
  4413. 「見たり、見られたりするより、この前のようにすぐにプレイがしたいというのだね。よし、わかった、わかった」
  4414.  田代は、貞の上にある丸味を帯びた酒瓶を取って来ると、
  4415. 「奥さん、この赤い酒はね、支那の有名な秘薬なんだ。赤マムシや数種の薬草が溶け合って出来ている精力酒で、こいつを一杯、ひっかけるとモリモリとスタミナがつく。さあ、遠慮せず飲みたまえ。これは奥さんのためにわざわざ取り寄せた貴重な酒なんだから」
  4416.  田代は、コップになみなみと奇妙な酒を注ぎ、静子夫人
  4417. の口元へ持って行く。
  4418.  静子夫人は、身体全体を硬直させ、頑なに、口をつぐんで、激しく首を振ったが田代は意地になって飲ませようとする。夫人の背後へ廻ると田代は、後ろから夫人の首筋を羽交いじめにするようにして、夫人の唇の間へ、コップを押しつける。
  4419.  もう静子夫人は、抵抗する術もなく、観念して、半分、捨鉢になって、田代の押しつける赤い酒を飲むのだった。ゴクゴクと喉を鳴らして、苦しげに酒を飲む静子夫人の表情を、刑代は舌なめずりをするように眺めている。
  4420.  静子夫人の艶やかな白い喉を伝わって、赤い酒の滴が一筋二筋、縄にしめあげられている豊満な乳房の上にまで流れ落ちていく。
  4421.  田代は、ぞくぞくした気持で、自分も一杯赤い酒を飲み干し、じっと、静子夫人の表情の変化を観察するのだった。
  4422.  夫人の熟れ切った肉体は、次第に桃色に色づき始め、縄に固く縛められている両乳房は波打つように息づき始める。
  4423.  静子夫人は、間もなく、眉を寄せ、白いうなじを大きく見せて、ああ、と溜息に似た切なげな声をあげ、狂おしく首を振り出した。
  4424.  田代は、そうした夫人の微妙な変化をニヤニヤして見て
  4425. いたが、
  4426. 「なるほど、この赤酒は高価なものだけに、なかなかききめもあるようだな。ずいぶんといい色になったよ。奥さん」
  4427.  田代は、ゆっくりと煙草を吸いながら、なおも意地悪く、身悶えしている静子夫人を凝視する。
  4428.  一体、どういう秘薬を使った酒なのであろうか。静子夫人は、キリキリ歯を噛み鳴らし白い背を柱に押しつけ、こすりつけて、悶えているのである。
  4429.  甘い、陶然としたものが、身体全体をふんわりと包み出す。と同時に、先程の余員もあり熱くほてったこの肉体を、ズタズタに引きさかれたいといった欲求が、身体の奥からこみ上って来るのである。眼の前であぐらを組み、ニヤニヤと眺めているだけの田代が、じれったくさえなってくる。そんな自分の気持に、ふと自意識がよみがえり、バカ、バカ、と自分の心を叱った夫人は、再び狂おしげに首を振って、激しく泣きじゃくる。
  4430.  ♢♢ほんとに、私は、こんな悪魔のような男達に、本当に女の悦びを教えられたのだろうか♢♢
  4431.  静子夫人は、口惜しく、悲しく、もう自分が何だかわからなくなってくるのだった。
  4432.  田代は、ふと何かに気づいたように、傍に脱ぎ捨ててあった自分の服のポケットから、チューブ入りのクリームを取り出す。
  4433. 「奥さん、これに見覚えがあるだろう。いつか川田にこれを使われて、すごく喜んだそうじゃないか。支那の赤酒で、熱くなっているその美しい身体に、こいつをすりこめば、全く鬼に金棒ってやつさ」
  4434.  田代は、チューブを押し、指先にたっぷりクリームを受けると、身をよじりつづけている静子夫人の顔を、楽しくてたまらぬというように眺める。
  4435. 「お願い、田代さん。も、もうこれ以上、わたしをいじめないで!」
  4436.  静子夫人は、哀願しつづけるのだったが、
  4437. 「何も遠慮する事はないよ。今夜は水入らずで、女の悦びというやつを骨身にこたえる程知らせてあげるからね。そら、布団の枕元を見てごらん。テープレコーダーの用意がしてあるだろう。今夜は、お前さんの声を、しっかり録音しておく予定なんだ。そのためにも、こいつは、どうしても使わせてもらうよ」
  4438.  如何に哀願したとて、許される筈はなく、如何に身悶えたところで、がっちりと縛られている身、川田のするがままになるより仕方のない静子夫人であった。
  4439. 「あっ、嫌、うっ、うっ、あ!」
  4440.  熱い粘膜の内側にその催淫クリームを塗りつけた田代は、してやったりと北叟笑み、切なげに身悶えする静子夫人の前より立ち上って、テープレコーダーのコードを、コンセントに挿し込む。
  4441. 「さあ、奥様、お布団の上へどうぞ」
  4442.  田代は、縄尻だけを解いてやる。
  4443.  田代は、悶え泣く静子夫人の肩を抱くようにして起こすと布団の上へ乗せ上げた。その一布団の枕元には、冷たい、不気味なテープレコーダーが静かにゆっくりと回転し始めていた。
  4444.  
  4445.  
  4446.     鬼女の計画
  4447.  
  4448.  吉沢の寝室は、小ぢんまりとした洋間である。奥に古風なダブルベッドがあり、すぐその横の壁にそった柱に、美津子は、吉沢の手で、一旦、立ち縛りにつながれていた。
  4449. 「少し、飲み過ぎちゃったよ。一寸トイレへ行ってくるからな。おとなしく待っているのだぜ」
  4450.  吉沢は、そういいながら、美津子を柱に縛りつけ、口を押さえるようにして、トイレに走って行った。
  4451.  美津子は、もう一切をあきらめきった表情で、うなだれている。身にある布は、髪をしめている水玉模様のヘアバンドだけという白磁の裸身を、柱を背に麻縄で縛りつけら
  4452. れ、吉沢の毒牙にかけられるのを、このまま待つだけの運命に追いこまれたのだった。
  4453. 「ああ、お姉さん」
  4454.  美津子は心の中で、姉を呼び、好色な森田達の手で残忍な責めを受けているのであろう姉を想像し、ハラハラと涙を流すのである。だが、寸時のうちに、自分も、姉と同じく、鬼畜のような吉沢の嬲りものにならなければならぬのだと思うと、いっそ、天地がひっくりかえってしまわぬものかとさえ思う美津子であった。
  4455.  五分たち、十分たったが、吉沢はもどってこない。泥酔して、どこかで寝てしまったのだろうか。そう思うと、死刑の執行が一日のびたような、ほっとした気持に美津子はなった。何とかして、ここから、逃げ出し、姉や、あの美しい奥様を救い出さなくては、と美津子は自分を励ますようにして、何とか縄目を脱しようと、必死になって身体をよじり始める。だが、いくら悶えても、縄目は空しく柱にこすれて、ギイギイと音をきしませるだけだった。
  4456. 「何をしてるんだよ」
  4457.  いきなり、外の廊下で声がし、銀子と朱美それにマリ、悦子の四人がけわしい顔をして入って来た。
  4458. 「また、性こりもなく、逃げ出そうとしているんだね。そんな細腕で、吉沢兄貴のかけた縄が解けると思うのかい」
  4459.  朱美が、白眼をむいていい、ぴしゃり、と美津子の頬を平手打ちした。
  4460.  美津子は悲鳴をあげて、顔を伏せる。
  4461. 「吉沢兄貴が悪酔いして、トイレでのびてしまったんだよ。一人ぼっちじゃかわいそうだと思って、こうして遊びに来てやったのに、また逃げようとしているのには驚いたわ。姐さん、小娘だと思って、甘やかしちゃ駄日よ。再教育てやろうじゃないの」
  4462.  マリが銀子に向かっていった。そうね、と銀子は、残忍なものをキラリと眼の中で光らせる。
  4463.  この女達の恐ろしさを骨身にこたえるほど知った美津子は、おろおろして、
  4464. 「か、かんにんして下さい、もう決して、決して逃げようとは致しません」
  4465.  男達より、むしろ、こうした女達の方が残忍で、恐ろしい人間である事のわかった美津子は、半分、ベソをかきながら、必死に謝るのだった。
  4466. 「ほんとだね。二度と逃げようなんて気は起こやないね」
  4467. 「♢♢は、はい」
  4468.  美津子は、涙にうるんだ瞳を銀子に何けながら、うなずく。
  4469.  続いて、朱美がいった。
  4470. 「吉沢さんに女にしてもらったら、一生懸命、森田組と葉桜団のために働くわね」
  4471.  美津子は、顔を伏せて、すすり上げる。
  4472. 「どうなんだよ。返事しな」
  4473. 「♢♢働きます」
  4474.  美津子は身体を小刻みに震わせながら、いうのであった。
  4475. 「よし、その言葉を忘れるんじゃないよ。じゃ、朱美。明日の美津子のスケジュールを聞かせてやんな」
  4476.  銀子は、傍の椅子に坐って、煙草を口にする。マリがライターの火を近づけた。
  4477. 「え—と、美津子の予定は、午後から、桂子と一緒に、鬼源さんの身体検査、サイズを計るわけよ。静子夫人と京子嬢に何か支障が起こった時、あんたと桂子は、その代役をつとめなきゃならないでしょう。だから一応、小道具を作っておかなきゃあね」
  4478.  朱美が、そういうと、銀子は、はっほ、と笑いながら、
  4479. 「ねえ、お嬢さん、貴女どちらがいい。男役それとも女役?」
  4480.  美津子は、そんな言草を、気が速くなる思いで聞いている。何という恐ろしい女達であろう。美津子は、両手が自由ならば耳を青いたい気分であった。
  4481.  朱美は、手帖に眼をやりながら、更に続ける。
  4482. 「それがすむとね。ふふふ。かわいそうだけど、お嬢さん、貴女も一旦、お姉さんと同じような身体になってもらうわ」
  4483.  銀子が、へえーと、頓狂な声を出し、
  4484. 「どうしてまた、そんな手数のかかる事をするんだい。せっかく、きれいに揃っているのかわいそうじゃないか」
  4485. 「だけど、客の中には、新鮮な乙女のそれを欲しがるのが案外、多いと鬼源さんはいうのですよ」
  4486.  朱美にそういわれて、なるほど、と銀子はうなずき、
  4487. 「それなら、なまじ、男に抱かれない前に、つみ取った方が値打ちがあるってわけだろ。マリ、どこかへ行って、よく切れそうな剃刀を持っといで」
  4488.  あいよ、マリが出て行こうとすると、朱美がそれを止めた。
  4489. 「姐さん、勝手にそんな事してしまっちゃ、やっぱり吉沢兄貴に悪いよ。事情を話して、吉沢兄貴の手でハサミを入れるのが筋じゃないか。この娘は吉沢兄貴のスケに決まったんだし」
  4490.  朱美にいわれて、銀子は、もっともだと、うなずく。
  4491. 「じゃ、明日の朝、吉沢兄貴の気分が治ったところで剃毛式だ。それから、鬼源さんの測定と、こういう順序にしようじゃないか」
  4492.  銀子は、事務的に、魚のように冷たい表情でペラペラしゃべり出す。マリが急に、ニャッニャッと陽気にはしゃぎ出し、
  4493. 「それで、明日の夜は、そうなった美津子と姉の京子を並ばせて鑑賞会を開こうじゃないの」
  4494.  美津子は、身体全体を火柱のように赤くして身も世もあらず、すすり泣いている。
  4495. 「どう、美津子、貴女の明日のスケジュールは今いった通りの事よ、わかったわね」
  4496.  悦子は、美津子の顎に手をかけて、ぐいと美しい顔をこじ上げる。
  4497. 「泣いていちゃ、わからないじゃないの。わかったわね」
  4498.  悦子に頬をつねられ、美津子は泣きじゃくりながら、
  4499. 「♢♢わ、わ、わかりました」
  4500.  ズベ公四人は、そんな美津子を満足げに眺める。
  4501. 「ところで、今夜は、吉沢兄貴が悪酔いなんかしてしまって、あいにくだったわね。静子夫人も京子嬢も桂子も、今頃は楽しいプレイの最中だというのに、一人ぼっちじゃ、つまんないでしょう。今夜は、あたい達が貴女のお相手をしてあげるわ」
  4502.  急に、朱美が何か意味ありげな眼つきになっていい出した。美津子は、泣き濡れた顔を朱美に向けて、
  4503. 「お願いです、今夜は、今夜は美津子を一人だけにして下さい」
  4504.  美津子は精神的な責めに、くたくたになって、とにかく
  4505. 一人になって、さめざめ泣きたいといった気分なのである。
  4506. 「駄目、駄目、貴女を一人にしておくと、ろくな事は考えない。私達と楽しい事をして遊ぼうじゃないの」
  4507.  朱美は、せせら笑うようにして、そんな事をいう。
  4508. 「一体、な、何をするんです」
  4509.  美津子は、ぞっとするような薄気味悪さを感じながら、恐る恐る朱美の頻を見る。
  4510. 「貴女、たしか、年は十八だったわね」
  4511.  朱美は、相変らずニヤニヤしながらいうのだった。
  4512.  美津子が、うなずくと、朱美は、
  4513. 「じゃ、オナニーをやった経験はあるんでしょう。なかなかいい身体をしているし、絶対、経験ありと私は睨んでいるのよ」
  4514.  オナニーという言築の意味がわからないのか美津子は、おろおろした顔つきであったが、朱美は、次に含み笑いしながら、美津子の耳元に口を寄せ、何かささやく。
  4515.  やっと、意味のわかった美津子は、けがらわしいものを耳の中へ吹きこまれたような、不快な顔つきになって、のけぞるようにして顔をそむける。
  4516. 「ね、した事があるでしょう。ある本によると、百人の女学生のうち、六十人は経験者だというわよ。ね、隠さずおっしゃいな」
  4517. 「そ、そんな事、した事はありません、絶対にありません」
  4518.  美津子は、半泣きになって、叫ぶようにいうのだった。
  4519.  マリが、へへえ、と驚いた顔をつくり、
  4520. 「今どき、めずらしい女学生ね。あたいなんか、十一か十二ぐらいの時に覚えてさ、家の者に見つかって、大恥かいた事があるわよ」
  4521.  と、いったので、銀子も朱美も、声をたてて笑った。
  4522.  朱美は、再び、美津子に向かっていう。
  4523. 「そう、貴女、本当に知らないの。なら、好都合だわ、あたい達が教えてあげるわ」
  4524.  ズベ公達の考えていた美津子に対する責めは、やっぱりそれであったのだ。美津子は、喉元に熱っぽくこみあがってくる口惜しさと目まいが起こりそうな恥ずかしさに、全く気持が顛倒してしまう。
  4525. 「別に、怖がる事はないよ。あたい達に任してりゃいいのさ。葉桜団のスペシャルサービスってわけよ」
  4526.  銀子とマリは、ベッドの方へ行き、何か、ガタガタと細工を始めている。
  4527. 「やめて下さい、嫌っ、そんな事、美津子、絶対に嫌っ」
  4528.  泣き叫ぷ美津子におかまいなしで、朱美はくすくす笑いながら、
  4529. 「何いってんのよ、貴女を、より美しく、女らしくしてあげようというのじゃないの。あたい達に任しておけばいいの。その薄い悩ましい茂みをぐっしょりにしてあげるわ」
  4530.  支度は、OKよ、とベッドの方のマリが声をかけた。四本のベッドの足につながれた麻縄が、それぞれ、ベッドの四隅にとぐろを巻いている。つまり、ベッドの上に乗った者を大の字に固定するための計画であった。
  4531. 「さ、皆んな、手をかして」
  4532.  朱美は、美津子の足にかけられた縄を解き柱より縄尻を外す。有無をいわさず、銀子、マリ、悦子が、美津子の身体を抱きこむようにして、ベッドの方へ引きずって行くのだ。
  4533. 「嫌っ、嫌っ、かんにんしてえ!」
  4534.  美津子は後手に縛められた身でありながら、駄々っ子のように腰をひいて悶えるのだったが、四人のズベ公達は遂に美津子を横抱きにして、ベッドの上へほうり投げ、素早く後手の縄を解くと、両手を拡げさせて、左右の縄につなぎ止める。
  4535.  両手をバンザイした恰好に固定されてしまった美津子は、もう抵抗する気力も失ったように、おとなしくなってしまった。
  4536. 「あたい達がしようとする事に、いくらさからっても無駄よ。これ以上、手数をかけると只じゃおかないわよ」
  4537.  銀子はハアハアと肩で息をしながら、いまいましげにそういい、ポケットから白い封筒を出して、これを美津子に見せてやんなと朱美に渡す。封筒の中には、二十葉ばかりの小型の写真が入っていた。昔、森田組の若い者が資金かせぎに街角で酔客相手に売りつけていたものである。
  4538.  鼻先へ、それを押しつけられた美津子はふと、それに眼をやるや、あっと小さい声をあげ、顔面を真っ赤にして、視線をそらせた。
  4539. 「大きく眼を開いて、はっきり見るんだよ。いう事を聞かないと、こうだからね」
  4540.  銀子は、パチリとガスライターをつけ、美津子の太腿のあたりに、それを近づける。
  4541.  悲鳴をあげて、美津子はのたうち、銀子に命令されるまま、美しい瞳を開いて、朱美が差し出す写真を一枚一枚、眺めるのであった。
  4542. 「どう、すばらしい写真でしょう。気に入ったのがあればいうがいいわ。吉沢の兄さんに頼んで、そういうポーズをつけてもらってあげるから」
  4543.  朱美は、写真を眺める美津子の美しい横顔をまじまじと眺めながら、楽しそうにいう。
  4544.  清純な乙女の正視出来る写真ではない。耐えられなくなり、思わず、眼を伏せてしまうと、朱美は、わざとらしく、
  4545. 「まあ、このポーズがいいの。これはシックス・ナイン、貴女、なかなか眼が高いわ。じゃ、これ、早速、吉沢の兄さんにお願いする事にしましょうね」
  4546.  と、美津子の正視出来なかった写真を一枚一枚、銀子に手渡していくのである。
  4547.  そんな風にして、二十葉あまりの写真を、ゆっくり美津
  4548. 子に眺めさせた朱美は、白昼夢でも見たようにぼんやりと
  4549. 眼を開き、切なげに息づき始めた美津子を、したり顔で眺
  4550. めて、
  4551. 「ふふふ、大分、お気に召したようね。これで、気分が落
  4552. 着いた所で、そろそろ、プレイに入りましょうね。さあ、
  4553. お嬢さん」
  4554.  美津子は、魔術師に催眠術をかけられたように魂を宙に飛ばせてしまった表情で、ぼんやり天井を見つめたまま、マリと悦子の手が左右から両肢にかかると、今まで、必死になって入れていたカを嘘のように抜いてしまうのだった。
  4555. 「まあ、いい子だこと。そんなに素直になっていたら、あたい達も意地になって痛めつけやしないんだよ」
  4556.  朱美は、おかしくてたまらぬように、一人でしゃべりつづけている。
  4557.  マリと悦子は、美津子の足首に素早く縄を巻きつけ、がっちりと固定してしまった。
  4558.  ほっと息をつき、四人のズベ公は汗をぬぐって、木製のベッドの上に、堂々という言葉がぴったり当てはまるように、大の字になって仰臥している美しい少女を息をのむようにして凝視するのだった。
  4559.  朱美は、再び、そっと美津子の耳元に顔を近づけ、天然真珠のような新鮮な美しさを持つ美津子の横顔を眺めつつ、
  4560. 「それじゃ、お嬢さん、いよいよプレイを開始するけど、
  4561. 固くなっちゃ駄目よ。私達に一切任せておけばいいのよ」
  4562.  朱美に頬をつつかれた美津子は、静かに眼を閉じて、かすかにうなずくのだった。
  4563. 「あのおしとやかな遠山令夫人が、大声で泣き出したクリームがあるんだけど、どう、使ってみる?」
  4564.  美津子は、神々しいばかりの冷静な表情になって、固く眼を閉じたまま、小さく唇を開く。
  4565. 「ど、どうとも、お好きなように、なさって下さい」
  4566.  閉じた美津子の睫毛から、涙が一筋一筋美しい頬を伝わって流れ落ちる。
  4567. 「そう。さすがに京子の妹だけあって、頼もしい事をいってくれるわね」
  4568. 「早く、プレイをしてよ、と、このお嬢さん、やかましく催促してるのよ」
  4569.  銀子は、心得た、とばかり、拳の中へクリームをたっぷり落とし、ゆっくりとかきまぜながら、美津子に近づく。
  4570. 「お望み通り、たっぷり使ってあげるけど、こいつは外国製の高価なものだからね。これを使うからにゃ、一度や二度スパークしたからって責めは中止しないわよ。覚悟はいいわね」
  4571.  銀子は、そんなことをいい、朱美、マリ、悦子の三人に眼くばせして、
  4572. 「じゃ、始めようか」
  4573.  銀子の声に、美津子は、血の出るほど固く唇をかみ、身体を石のように硬くし、天の守護を念じるように、しっかりと眼を閉じるのであった。
  4574.  銀子は羽毛のような柔らかい美津子の繊毛を優しく拳で撫であげ、朱美はまだ熟れ切っていない美津子の白桃のような形のいい乳房に唇を押しつけた。悦子は滑らかな大腿の表皮を軽くさするようにして唇を使い、マリは美津子の陶器のような脛のあたりにチロチロと舌先を這わせていた。
  4575.  
  4576.  
  4577.  
  4578. 第十九章 新顔の登場
  4579.  
  4580.  
  4581.     新たな獲物
  4582.  
  4583.  その夜おそく、田代の屋敷の門が開き、新型の高級車が入って来た。
  4584.  運転しているのは、村瀬宝石店の令嬢、小夜子、隣の助手席には学生服姿の文夫が坐っている。後ろの座席に坐っているのは、美津子が精神異常になったと、前の二人をだましてここまで案内して来た、医師の身なりをした川田と、看護婦に化けた義子ら二人のズベ公である。
  4585. 「これは病院と違うじゃありませんか」
  4586.  文夫が不審な顔つきになってキョロキョロあたりを見廻す。
  4587.  恋人の美津子が精神病になったと聞かされ、姉の小夜子と医師の道案内でかけつけた所が病院ではなく、豪壮な屋敷であったので、文夫が奇妙に思うのは当然だが、そこは川田が上手にごまかした。
  4588. 「ここは病院の重患だけを収容する所なんです。つまり、病院長の自宅なんですよ」
  4589.  川田は、小夜子と文夫をうながして、車の外へ出る。
  4590.  看護婦に化けた二人のズベ公は、ギリシャの彫刻のように気品のある文夫の横顔を見て圧倒されたような気分になる。それに、文夫の姉の小夜子の美しさ♢♢大げさではなく、月の世界から舞い降りたのではないかと思われるぐらい、ぞっとするばかりに気品に満ちた美女なのであった。目もさめるような純白のチャイナドレスを看ている小夜子は、豪奢な白皮のハンドバッグを持ち、文夫の後について車の外へ出たが、雲間より出た月の光が、彼女の真っ白で豪奢な首筋を艶めかしく、映し出し、高価な香料があたりにたちこめるような感じに、川田もズベ公も、思わず居ずまいを正すはどだった。
  4591. 「文夫さん、とにかく、美津子さんに逢ってみましょう」
  4592.  小夜子は、弟にそう声をかけ、川田に案内を頼むのである。
  4593. 「どうぞ、どうぞ、こちらです」
  4594.  川田は二人を案杓して玄関を開け、応接間へ導く。
  4595. 「しばらく、ここでお待ち下さい。今、院長に連絡しますから♢♢」
  4596.  川田は、小夜子と文夫に椅子をすすめ、ズベ公二人をうながして廊下へ出る。
  4597.  川田は、ほっと息をつくようにして、後ろについて来る義子らにいった。
  4598. 「すげえ美人だな。あの小夜子っていう娘」
  4599.  義子も眼をクリクリさせて、
  4600. 「美人コンテントで、一位をとったっていう位やからね。身体にしたって、均整がとれて、線がとてもきれいやわ」
  4601.  と、うなずく。
  4602.  義子が川田の腕をつついて、いたずらっぽく笑った。
  4603. 「川田はん。あのお嬢さんのヌードが早く見たいんと違います。そう顔に書いてあるわ」
  4604.  何をいいやがる、と川田は笑ったが、すぐにポケットへ手を入れて、薬入っているらしい小瓶を出した。
  4605. 「いいかい、伝染病の予防薬だといって、こいつをあの二人に飲ませるんだ。ものの五分とたたねえうち、二人とも寝入ってしまう。細工はそれからさ」
  4606.  川田は、薬を二人のズベ公に渡すと、田代と森田に報告すべく二階へ上がった。
  4607.  廊下で一升瓶をぶら下げて、ふらふら歩いている鬼源と、川田はばったり出会う。
  4608. 「社長と親分は、今、お楽しみの真っ最中ですよ。そっとしておいてあげた方がいいんじゃないですか」
  4609.  鬼源はしゃっくりをしながら、そういう。
  4610. 「銀子や朱美達は、何してるんだ」
  4611. 「吉沢の兄貴の部屋じゃねえですか。何かまたキテレツな事しているようですぜ」
  4612.  と鬼源は笑った。
  4613.  川田は舌打ちして、こんな忙しい時に一体何をしてやがるんだ、とぼやきながら、吉沢の部屋まで足をのばす。
  4614.  ドアを開けようとしたが、内から鍵がかかっている。川田は小首をかしげて、ドアに耳を当ててみた。女のすすり泣く声が断続的に聞こえる。銀子や朱美達もいるようだ。時々彼女達の押し殺すような含み笑いが聞こえるのである。
  4615. 「ふふふ、お人形のように可愛い顔をしているくせに、もうこんなになっちゃつてるわ。朱美、ちょっと見てごらんよ」
  4616. 「まあ、あきれた。このお嬢さん、なかなか隅へ置けないわね。ホホホ」
  4617.  一体、何をしてやがるのかと川田は腹立たしくなってきて、激しくドアを叩いた。内から鍵の音がして、銀子が顔を出す。
  4618. 「何をしてやがるんだ。今、村瀬宝石店の娘と息子を連れこんで来たんだ。早く手を貸さねえか」
  4619.  銀子はこヤリと笑って、
  4620. 「ここへ連れこめば、もうこっちのものじゃないの。あわてる事はないわよ。それよりもね、今、美津子が傑作なのよ。女として眼を開かせてやってる所だから、もうしばらく私達に任せておいてよ。処女のままで気をやらせるのは骨が折れるわ」
  4621.  というや、ドアをバタンと閉めて鍵をかけてしまう。
  4622.  川田は、あわてて、ドアを叩いたが、
  4623. 「本日は男子禁制よ」
  4624.  と内部のズベ公達は叫び、キャッキャッ笑うのだった。そして、ズベ公達は、再び美津子に立ち向かうらしい。
  4625. 「せっかく気分がのってきたところに、邪魔が入ってごめんね。さあ、続きを始めましょうね。貴女は遠慮はいらないわ。恋しい文夫さんの事でも考えるんだよ」
  4626.  ズベ公達の声が止まると、それに代るように美津子のすすり泣く声が再び聞こえ出す。
  4627.  川田は、勝手にしろ、と舌打ちして、階下へ降りる。銀子や朱美の美少女をいたぶる、その執拗さに、さすがの川田も閉口してしまった。
  4628.  階下の廊下を歩いていると、義子がかけ寄って来る。
  4629. 「川田兄はん。一うまくいったで」
  4630.  小夜子も文夫も、伝染病の予防薬だといって差し出した粉薬を何ら疑う事なく、一息に飲んでしまったというのだ。
  4631. 「そうかい。そいつは上出来だ」
  4632.  川田は、えびす顔になった。応接間に、とって返すと、文夫も小夜子も、それぞれの肘掛椅子にくずれかかるようにして寝入ってしまっている。
  4633. 「やれやれ」
  4634.  川田は、煙草を口にして、うまそうに一服すい始める。
  4635. 「とにかく、この二人を地下倉へ封じこめておこう。すべては明日の事だ。全く今夜は疲れたぜ」
  4636.  川田は、そういうて、美しい令嬢の横顔をほれぼれして、じっと眺めるのだった。
  4637. 「なあ、脱がしてしまわへんの」
  4638.  義子が川田の顔を見ていった。
  4639.  捕虜の所持品は一切、自分達の所有にしてしまうのが彼女達のやりかたである。豪奢なまばゆいばかりのチャイナドレスや、高級なハイヒールなどを見て、義子は、うずうずしてしまっているのだ。
  4640. 「脱がしてえのは俺だってそうだが、社長と親分の意向を聞かねえうちは、めったな事は出来ねえ。ささ、手を貸しな」
  4641.  川田は、煙草をもみ消すと、小夜子の柔軟な身体に手をかけ、どっこいしょ、と荷物のように肩に担いだ。
  4642. 「へっへへ、金持のお嬢さんだけあって、絹布団のような手ざわりだな。それによ、たまらねえいい匂いをさせやがる」
  4643.  義子達は、ぐったりとなっている文夫を持ちあげ川田の後へ続くのだった。
  4644.  
  4645.  
  4646.     テープレコーダー
  4647.  
  4648.  静子夫人は、森の中をさまよっているうち巨大な蛇に出会い、大声で助けを求めながら必死に逃げたが、どういうわけか、自分の足は少しも動かない。そんな奇妙な夢を見ていた。
  4649. 「♢♢奥さん、もう朝だよ」
  4650.  耳元で、恐ろしい大蛇の声がする。
  4651.  それで、今、自分は夢を見ていたのだと静子夫人は、おぼろげに悟ったが、この夢よりもっともっと恐ろしい現実が自分を待っているのだと気がついた夫人は、再び、深い眠りに落ちて行こうと努力する。が、大蛇は、夫人の身体をぐるぐる巻きにし始める。手足の関節あたりがキリキリ痛み、耐え切れず、ふっと眼を開くと、大蛇より恐ろしい男♢♢田代が、昨夜と同じく、自分の身体を床の間の柱に押しつけて両足をあぐらに組ませ、縄をかけている所なのであった。
  4652.  昨夜より今朝までの地獄図が、夫人の頭の中にあざやかに浮かび上る。
  4653. 「どうかね。はっきり眼が覚めたかい」
  4654.  田代は、静子夫人をがっちりあぐら縛りに仕上げると彼女の頬をつつき、口元を歪めるのであった。
  4655.  静子夫人は、眼の前の落花狼籍に荒らされた布団のシーツやその周辺を見ると、頬を染め、うつむいてしまう。
  4656.  田代は、遂に明け方まで、夫人を嬲りものにし、情念の滴りを満喫したのだ。
  4657.  頭はもうろうとし、身体は綿のように疲れ切ってしまった静子夫人は、もう自分は、この男達によって、自分も気づかなかった別の女に仕上げられてしまったのだという悲しいあきらめを胸で噛みしめ、気品ある美しい顔を横に伏せてしまうのである。
  4658.  田代は、そんな静子夫人を眼を細めて眺め、ぴったりと夫人に寄り添うようにして、彼女のふくよかな白い両肩に両手をかける。
  4659. 「奥さん、女の悦びがやっとわかってくれたようだね。本当に満足してくれたかい」
  4660.  静子夫人は、眼を閉じたまま、消え入るようにうなずく。そうした静子夫人は、田代の眼には滴るばかりに色っぽく見え、ますます艶めかしく映ずるのである。
  4661. 「全く僕も驚いたよ。あんなに奥さんがハッスルしてくれたのは初めてだものね」
  4662.  静子夫人は、再び頬を染め、深く頭を下げてしまう。
  4663. 「一つ、昨夜の愛の記録を聞いてみようじゃないか」
  4664.  田代は、ついと立ち上ってテープレコーダーを持って来る。そして、あぐら縛りにされている静子夫人の前へそれを置ぜ、コードを壁のコンセントにつなぐのだった。
  4665. 「ああ、田、田代さん」
  4666.  夫人は、悲しげに田代を見た。
  4667. 「ふふふ、自分の出した声を聞くなんて、面白いものだよ」
  4668. 「だって、だって♢♢は、はずかしいわ」
  4669. 「何いってるんだい。あれだけの声をあげながら今更、私ずかしいてな事はないだろう。さ、もうすぐ奥さんの悩ましい声が流れだすよ」
  4670.  田代は、舌なめずりをするように、ぴったりと夫人に寄り添う。
  4671.  夫人の声がレコーダーから流れだす。
  4672. 「ふふふ、そんなに私ずかしいのかい。さ、元気をお出し」
  4673.  田代は、夫人の美しい顔を両手ではさむようにして持ち上げ、自分の唇を近づける。
  4674.  静子夫人は、それが一つの逃避であるかのようにぴったりと唇を合わせてしまうのだった。
  4675.  田代は、もうこうなれば、この女も完全にこちらの思うままだと内心、悦に入っている。
  4676. 「そらそら、奥さん、もうすぐ、クライマックスだよ。よくテープを聞いてごらん」
  4677.  田代は、からかうように夫人の耳元に口を寄せていった。
  4678. 「嫌、嫌、お願い、田代さん、もうテープをお止めになって」
  4679. 「何いってるんだ。これから面白くなるところじゃないか」
  4680.  その時、コンコンとドアをノックする音。
  4681. 「鬼源です。そろそろ時間になりましたので、婦人方の調教にかかろうと思うのですが」
  4682.  ドアの外で鬼源の声がする。
  4683. 「なんだい。もうそんな時間か」
  4684.  田代は残念そうにテープを止めた。
  4685. 「じゃ、この続きは、今夜にでも聞かせてあげるからね。しっかり、鬼源さんの調教を受けてくるんだよ」
  4686.  恐ろしいテープを聞かされる事からは、やっと解放されたものの、次には身の毛のよだつ鬼源の調教が待ちかまえている。
  4687. 「田代さん、お願いです。もう私、くたくたなのです。今日だけ、今日一日だけ、お願いです。休ませて下さい」
  4688.  田代は煙草を口にして火をつけながら、
  4689. 「駄目だね。ショーまでは、あと何日もないんだ。そんな我儘は許せないよ。楽しみは楽しみ、ビジネスはビジネスと割切ってもらわないと困るよ」
  4690.  田代はそういうとドアに向かって、
  4691. 「鬼源さん、かまわないから遠慮なく入って来たまえ」
  4692.  ヘイ、どうも、といいながら鬼源は揉み手をしながら入って来る。ふと、中の様子におどろいたポーズを作って、
  4693. 「おっと、こりゃどうも、お楽しみの最中じゃなかったのですかい」
  4694.  田代は床の間の静子夫人のもとから、のっそりと立ち上って、
  4695. 「いや、充分、楽しませて頂いたよ。どうだい、鬼源さん。この遠山夫人、ますます色っぽくなってきたように見えないかい」
  4696. 「へえ、全く、ピチピチはじけるように脂の乗ったいい年増になりましたねえ」
  4697.  鬼源は眼鏡を外して、あぐら縛りにされている静子夫人の熟れきった肉体をしげしげと見つめる。
  4698. 「ところが、この奥さん、今日は休ませてくれと、我儘をいい出したので困っているんだ」
  4699. 「とんでもない。ショーまで後、何日もないんですからね。徹夜の稽古でもしなきゃならねえところですよ。女って奴は、ちょっと優しくすると、すぐつけあがりますからね。社長も気をつけて下せえ」
  4700.  鬼源は、そんな事をいいながら、静子夫人の前に身をかがめ、
  4701. 「そんないい身体をしているのに、一晩、社長のお守りをしたぐれえで何でもねえ筈だ。さあ行こうぜ。京子嬢の方は一足先に調教室へ入って、奥さんのお超しをお待ちかねだ」
  4702.  鬼源は、静子の足縄を解き始める。
  4703.  遂に鬼源の手で強引に引き起こされた静子夫人は、綿のように疲れ切った裸身を前かがみにした形で引き立てられて行くのだ。
  4704.  そんな夫人を田代は楽しそうに眺めていたが、ふっと思いついたように前のテープレコーダーを取り上げて、それを鬼源に渡すのだった。
  4705. 「昨夜の実況放送さ、美津子や桂子にも聞かせてやってくれ」
  4706.  静子夫人は恨めしげに田代を見、唇を固く噛む。何か言おうとするのだが、もう声も出ない静子夫人であった。夫人は、がっくりと首を落とし、小さくすすりあげながら鬼源にすべすべした背を突かれ、ふらふらと部屋の外へ出て行く。
  4707.  田代は、夫人が鬼源に縄尻を取られて、調教室の方へ引き立てられて行くのを見とどけると、大きく伸びをし、ごろりと布団の上へ倒れ、間もなくいぴきをかき始める。静子夫人のムクムクした肉体から情念を満喫した田代は、急にどっとこみ上ってきた満足感と疲労感に、深い深い眠りに入って行ったのである。
  4708.  
  4709.  
  4710.     美津子のいいわけ
  4711.  
  4712. 「いいわね。吉沢さんがここへ来たら、今、教えてあげた通りの事をはっきりいうのよ。そうじゃないと、あたい達、吉沢さんに恨まれてしまうからね。わかったわね」
  4713.  吉沢の寝室の壁にそった一本柱に背にし、美津子はがっちりと立ち縛りにされてしまっている。
  4714.  昨夜、これらのズベ公達の淫靡な責めにあったため、美津子の白桃のような形のいい乳房は心持大きくなったようだ。その、ふくよかな乳房の上下には、新しい麻縄が固く巻きついて、ことさらそれを大きく突き出したように見せている。
  4715.  昨夜、この悪女達は、無垢な美しい乙身に対し、あのような、言語に絶する卑猥な責めを加え、今朝になって何をまた始めようというのか。そして、また、吉沢に対し、どういう事を美津子の口からいわせるつもりなのだろう。
  4716. 「さ、もう一ぺん、復習しよう。まず、吉沢さんが、ここへ来たら、どういうのだったっけ。ねえ、お嬢さん」
  4717.  朱美は美津子の足元に腰をかがめ、縄の切れはしを使って、美津子の両肢をぴったり揃えさせて縛りながらいう。つまり、昨夜のああいう責めを受けた事の説明を、美津子の口から吉沢にいわせるわけで、それは、美津子が望んで銀子達に行わせた如くいわせようとするのだった。そうしておかないと吉沢が、自分のスケを嬲りものにされたように思いこみ、気を悪くするのを恐れた故である。
  4718.  何度も美津子に、吉沢に対する説明を念入りに教えこんだ朱美は、
  4719. 「いいわね。もし、教えられた通りの事をしゃべらず、私達に恥をかかせたりしたら、承知しないよ」
  4720.  と凄んで見せたが、銀子は妙に優しい口調で、
  4721. 「美津子ちゃんは昨夜、あたい達に、あんなすばらしい事をしてもらって、すっかり生まれ変ったのですものね。あたい達のいう事に、絶対服従してくれるわね」
  4722.  と、あきらめ切った表情で、うなだれている美津子の頬を指で突く。
  4723. 「わかったわね」
  4724. 「♢♢はい」
  4725.  美津子は、消え入るように震え声で返事し一層、首を深く垂れてしまうのだった。
  4726.  もうどのような無理難題を持ちかけられても、服従をしなくてはならないのだと美津子は昨夜のあの恐ろしい責めにあって身も心も参ってしまったのである。清純で無垢な乙女はど、もろく、くずれやすいものなのか。あのように女として一番辛い、恐ろしい責めにさいなまれ、そして、ズベ公達の待ち受けていた、あられもない状態を遂にさらけ出し、はっきり目撃されてしまった今、どうして、美津子に反省する気力が持てよう。
  4727. 「ふふふ、だけど、お嬢さん、昨夜は、ずいぷん泣いたわね。ああいうのをよがり泣きというのだよ」
  4728.  銀子は、含み笑いしながら、美津子の顔をのぞくように見る。美津子は真っ赤になった顔を銀子の視線から外して横へねじったが、今度は、朱美が反対側からニヤリと歯をむき出して美津子の美しい顔を見て、
  4729. 「涙を流すばかりか、愛液をあんなに流しつづけるのだもの、その後始末であたい達も、テンテコ舞いだったわ」
  4730.  そんな風に美津子をからかっている時、ひょっこり吉沢が入って来た。二日酔いのガンガンする頭をかかえるようにしてやって来た吉沢は、柱にがっちりと止ち縛りにされている美津子を見て、ふと照れくさそうに笑う。
  4731. 「どうも昨夜は大醜態だ。さぞ淋しかったろうな。許してくんな」
  4732.  吉沢は、美津子の前に近づいたが、その辺にごろごろしているズベ公達を見て、
  4733. 「なんだい。お前達も来ていたのかい。美津子の見張りをしていてくれたってわけだな」
  4734.  そして、再び、美津子に眼をやった吉沢は、
  4735. 「何だか急に大人っぽい体つきになったようじゃないか。妙に色っぽく見えるぜ」
  4736.  銀子がニヤニヤし始める。
  4737. 「そのわけは美津子の口から山間いてみな」
  4738.  そして銀子は朱美と顔を見合わせ、くすくす笑いだすのだった。
  4739.  吉沢は狐につままれたような顔つきになって、一体、どうしたってんだ、というと、銀子と朱美は、体を硬直させ、膝頭のあたりをぶるぶる震わせている美津子の左右に再び近寄って、
  4740. 「さ、お嬢さん、御主人にわけを聞かせてあげな」
  4741.  と口元を歪める。
  4742.  美津子は紅潮した美しい顔をやっとあげ、涙にうるんだ黒眼勝ちの瞳を吉沢に注ぐのだった。
  4743. 「さ、早くわけを、おっしゃいってば♢♢」
  4744.  朱美にせかされて、美津子は、唇をわなわな震わせるようにして開く。
  4745. 「あ、あなた、お願い。美、美津子を♢♢美津子を叱らないで。美津子は本当は悪い子なのよ」
  4746. 「どうしたってんだ」
  4747.  吉沢は眼をパチパチさせる。
  4748. 「美津子には、人に言えないような悪い習慣があったのです。女子高校に入った時からですわ。悪い友達に教えられて♢♢週に一度か二度、どうしても、それをしないと、どぅにもならなくなってしまったのです」
  4749.  一体、何の事だ、と吉沢が奇妙な顔をすると、銀子が、感の鈍い人だねェ、と笑いながら、吉沢の耳に口を寄せてささやく。
  4750. 「へえ、なるはど、そういうわけかい。無理ねえや。どう見たって、立派な大人の身体だものな」
  4751.  吉沢は、歯をむき出して、面白そうに笑った。
  4752. 「さ、それでどうしたの。御主人に全部報告しなきゃ駄目よ」
  4753.  朱美に後ろから背を突かれて、美津子はすすりあげるようにしながら続ける。
  4754. 「♢♢貴方に、女にして頂ける事によって、美津子の悩みは解けると喜んでいたのに、貴方は昨夜、いくら待ってもおいでになって下さらない。一人で長い時間、柱にもたれているうち、美津子、どうにも、がまんが出来なくなってしまったのです。でも、手も足も、がっちり柱に縛りつけられているのですもの、どうにもなりません。今頃、桂子さんなどは井上さんとすばらしい事をしておられるだろうと想像すると切なくなって泣きましたわ。そこへ、葉桜団のお姐様方が、美津子の様子を見るため、ここへおいでになったのです」
  4755.  美津子は、ビルの上から飛び降りたような気持で銀子や
  4756. 朱美に教えられた通りの事を吉沢に向かって、しゃべりつ
  4757. づけるのだった。
  4758.  吉沢は、呆気にとられた面持で、聞いていたが、ズベ公達が美津子に、わざとそういう事をいわせているのだとすぐ悟る。だがむしろ吉沢にしてみれば愉快な気分であった。如何に強制されたとはいえ、美津子が、そのような傑作な説明をする気になったという事は、それだけ、美津子がだんだんこちらの思い通りの女に形作られて来た事になるのだと喜ぶのであった。
  4759. 「そうかい。それから、どうしたんだ」
  4760.  吉沢は、ニヤニヤして煙草を口にし、火をつける。
  4761. 「早くおっしゃいよ。その次を♢♢」
  4762.  朱美が底意地の悪い眼つきで、美津子を眺めている。
  4763.  美津子は、屈辱に眼を固く閉じ、再び、わなわな唇を震わせるのだった。
  4764. 「美、美津子は恥も体裁も忘れて、それをさせて下さるようお願いしたのです。すると、お姐様方は、まあ、変な子ね、と笑われて、縄を解いてあげるわけにはいかないとおっしやいます。美津子はもう必死になって、縄は解いて頂かなくても結横です、お姐様方の手で行って下さい。そのかわり美津子は明日より生まれ変ったように一生懸命、森田組のために働きますと幾度もお願いしたのです」
  4765.  やっとの思いでそこまでいった美津子は、たまらなくなったように、わっと号泣してしまった。
  4766.  銀子が満足げに笑いながら、吉沢の方を見ていう。
  4767. 「♢♢というわけさ。あんまりうるさくせがむので、あたい達もたいくつしのぎに、この娘の希望をかなえてやったのだけど、ああしろ、とか、こういう風にしてくれとか、とにかく注文がうるさくてね」
  4768.  朱美も、それに調子を合わせ、
  4769. 「可愛いお人形のような顔をしているくせに大したものよ、この娘ったら」
  4770.  朱美は、屈辱の極に悶え泣く美津子の美しい横顔を小気味よげに眺めながら、
  4771. 「ねえ、貴女、まだ十八の生娘のくせに、お核はとんがらせるわ、お汁は流すは、あたい達、後始末をするのが大変だったわ。少しは恥ずかしいと思いなさいよ」
  4772.  などといいながら、次に小声で、さ、最後のしめくくりよ。ちゃんと教えられた通りに答えるのよと美津子に耳打ちする。美津子は涙をはらはらと流しながら、銀子と朱美の視線を避けるようにして声をつまらせながらいう。
  4773. 「♢♢だって、だって、あんまりお姐様方がお上手なんですもの。美、美津子、がまんが出来なかったのですわ」
  4774.  わっとズベ公達は、肩を抱き合うようにして笑い出す。
  4775.  美津子は死んだようにがっくり首を落とし身動きもせず、女愚連隊の哄笑を全身に浴びていた。
  4776.  ふと、美津子が気がつくと、吉沢が何時の間にか足元に身をかがめ、鼻を押しつけんばかりにしている。うっと美津子は、再び顔面真っ赤にして、苦しげに首をのけぞらせた。
  4777. 「なるはどな。どう見ても一人前の立派な女だ。おめえがそんな事を銀子達にせがむのも無理はねえ。俺が早く、おめえを立派な女にしてやらなかったのが悪かったよ。それじゃ朝っぱらからで、ちょっと照れ臭えが、てっとり早く、本当の夫婦になろうじゃねえか」
  4778.  吉沢は、そういって、銀子達に、すまねえが俺達二人を水いらずにしてくれねえか、と彼女達の撤退を求めたが、
  4779. 「ちょっと、お待ちよ」
  4780.  と銀子が吉沢の顔を見た。
  4781. 「あんた方が夫婦になる前に、美津子にしておかねばならない事が出来たのさ」
  4782.  銀子は、鬼源達の計画を吉沢に話して聞かせる。
  4783. 「そりゃ、ちょっと、かわいそうじゃねえか。せっかく、こんなに美しく生え揃っているものを♢♢静子夫人の時みてえなら、やり甲斐もあるだろうけどよ」
  4784.  自分のスケと決まった美津子だけに、吉沢は口をとがらすのだった。
  4785. 「あんたの気持もわかるけど、生娘のそんなものを欲しがる会員もいると、社長や親分までが、そういうのだから、仕方がないじゃやないか」
  4786.  銀子がいい、朱美実はくすくす笑って、鼻昇の下を指でしきりにこすり、
  4787. 「無くなったヒゲを元通りに生やすにはね、毎日、こうして、こすればいいんだよ。わかるかい」
  4788.  吉沢は苦笑して、
  4789. 「社長命令とありゃ仕方がねえや」
  4790.  と、ようやく承知する。
  4791.  朱美は美津子の方へ眼をやって、
  4792. 「美津子嬢も、覚悟は出来ているわね。昨夜のような事をしたからって、まだ貴女は処女なのよ。お姉さんより、きっと美しい線をしていると思うわ」
  4793.  といって笑う。
  4794. 「それじゃ、準備が出来るまで、一時間ばかり休ませてあげるわ。地下室へ行くのよ」
  4795.  銀子と朱美は、美津子の体を柱から外して縄尻を取った。
  4796.  
  4797.  
  4798.     美少年
  4799.  
  4800.  薄暗い地下室の牢舎の中で、文夫は、うっすらと眼を開けた。頭がずきずき痛む。いや、それよりも手足の関節のあたりが、麻痺したように痛むのだ。
  4801.  上体を起こそうとして、文夫は両腕の関節の激痛に、うっと顔をしかめた。何時の間にか後手に縛りあげられているのである。
  4802.  驚いたのは、それだけではない。服から下着からことごとく剥ぎとられた上、厳重に縄をかけられているのであるが、下半身にはかされているものを見て、文夫は、あっと声をあげた。それは、ピンク色の女性用のパンティであったからだ。
  4803.  恐怖と屈辱に、文夫は、わなわなと体を髭わせる。
  4804. 「お坊っちゃん。お目覚めかい」
  4805.  牢格子の向こうに二人のジーパンをはいた野卑な感じの女が顔をのぞかせる。義子だ。
  4806. 「ふふふ、女物のパンティがよう似合うよ」
  4807.  ガムを噛みながら、義子がニヤニヤしていった。
  4808. 「貴、貴様は何だ。どうしてこんな事をするんだ。解いてくれ、この縄を解いてくれ!」
  4809.  文夫は逆上したようにわめき出し、よろよろと立ち上ると、どしんと牢格子に体当たりをして、わめきつづけるのであった。
  4810. 「ふふふ、ふくらんだ女物パンティなんて初めてやわ」
  4811.  義子は、柵の中の猿でも見るように格子に手をかけて、キャッキャッと笑っている。
  4812. 「あんさんはな、姉さんの小夜子と一緒に誘拐されたんや。身代金がとれるまで、おとなしくしてはった方が身のためだっせ」
  4813. 「姉さんは、姉さんは何処にいるんだ」
  4814. 「小夜子嬢はね、よはど昨夜飲まされた薬がきいたんか、この隣の部屋で、まだ、すやすやお寝んねや。お目覚めにならはったら、因果を含めて、大金持のパパさんに身代金を出すよう手紙を書いて頂くつもりなんや。あんたはスポーツの選手らしいし、眼が覚めて、暴れられたら面倒やと思うてね。眠っている間に、ちょいと細工をしておいたんや。悪く思わなんといてね」
  4815.  義子は勝ちほこったように、そういい、外へ出て行こうとする。義子は両手に抱きかかえるように文夫から剥ぎ取った衣類を持っている。
  4816. 「待て、お前達は、美津子さんをどうしたんだ」
  4817.  文夫は、憤怒と屈辱で顔を真っ赤にして牢格子の間から叫んだ。
  4818. 「ああ美津子嬢か。秘密ショーのスターになるいうて、毎日はげんではるよ。そら、あんたのはいているそのパンティは、ゴムをつけ足して大きくしたんやけど美津子嬢のはいてたもんや。ふふふ、嬉しやろ。恋人のパンティを、はかせてもろうて」
  4819.  と義子はいって笑った。
  4820.  ギィーと軋む音がし、地下室の上扉が開いたようである。義子は、ふと、前方にヤブニラミの視線を向けて、
  4821. 「あれ、うわさをすれば何とやらやわ。姐さん達が美津子をしょっぴいて来いはった」
  4822.  地下の階段を一歩一歩、素肌をきびしく麻縄で後手に緊縛されている美津子が、その縄尻を銀子に取られて、降りて来る。
  4823.  精神的にも肉体的にも、いじめ抜かれた美津子は、がっくり首を前に垂れ、虚脱したような状態で引き立てられてきたのだ。
  4824.  美津子の縄尻を取る銀子は、鼻唄をうたったりして、すこぶる機嫌がいい。
  4825. 「ほんとに美津子は、素直ないい子になってくれたわ。あれだけの事を吉沢さんにいってくれたので、私達はほっとしたわょ。断髪式が始まるまで、しばらく休ませてあげるわね」
  4826.  そんな事をいいながら地下牢までやってきた銀子に対し、義子が文夫の監禁されている牢を指さしながらいう。
  4827. 「銀子姐さん。この中におるのが、美津子の恋人の文夫よ。村瀬宝石のお坊っちゃん」
  4828.  それを聞いた美津子は、ヒイーッと悲鳴をあげて、その場にうずくまってしまった。
  4829.  やっぱり、文夫は、この悪魔達の手に捕われの身となってしまったのだ。あんな電話をかけたばっかりに、と思うと、口惜しく、悲しく、そして、文夫の前に、こんな姿のまま引き立てられて来た気が狂うばかりの恥ずかしさに、美津子はまともに顔を上げ得ず、その場に泣きくずれてしまう。
  4830. 「あ、美津子さん!」
  4831.  文夫も、牢格子の間から美津子の姿を見て、我が身の屈辱を忘れ、一瞬、血も凍るばかりに驚くのである。美津子は、冷たい土間に海老のように体を曲げて、激しくすすりあげながら、
  4832. 「文夫さん、許して、美津子が、美津子が貴方を、こんな目に遭わせてしまったのよ。ああああ」
  4833.  激しく体を震わせて泣く美津子である。
  4834.  銀子は、そんな美津子を楽しそうに眺めながら、
  4835. 「美津子、素直ないい子になってきた御ほうびに、しばらく文夫さんのいる、この牢に入れてあげるわね。恋しい彼氏と、色々お話をさせてあげるわ。どう、あたい達だって、なかなか優しいところがあるだろう」
  4836.  銀子と朱美は、美津子の白い陶器のような肩に手をかけて引き起こすと、年の扉を開き中へ突き入れようとする。
  4837. 「嫌、嫌っ、こ、こんな姿のまま、文夫さんの所へやらないで、お願いです!」
  4838.  吉沢の部屋で、昨夜からのあくどい責めに完全に屈服したかと見えた美津子であるが、今こんな姿のまま、文夫の入っている牢に突き入れられるという事に、新たな羞恥をパッと全身によみがえらせ、銀子や朱美が驚くほどの抵抗を示しだしたのだ。
  4839.  開いた牢の扉を両肢で、はさみこむようにして、中へ入れられまいと美津子は必死に抵抗するのである。
  4840.  愛する人の前に、こんなみじめな姿をさらしたくないという美少女の、いじらしいばかりの心情は、銀子にもわかるのであるが、銀子や朱美には先天的に加虐の倒錯した悦びというものがあるのだろう。美少女が、泣き、悶えれば悶えるほど、銀子の残忍な血はあおられるのだ。
  4841.  朱美は、義子のかかえている文夫の衣類の中に、サポーターがあるのを見つけると、奇妙な事を考え出し、銀子にいうのである。
  4842. 「銀子姐さん、文夫の方が美津子のパンティをはいているのに、美津子が何もつけていないのは不公平よ。これを美津子にはかせようよ。そうしたら、美津子も喜んで、この中へ入るわよ」
  4843.  朱美は、そういって、サポーターを指でつまみあげる。
  4844. 「グッド・アイデアだわ」
  4845.  義子も声をたてて笑った。
  4846. 「ああ、な、何をするのよ。嫌よ、嫌よ、嫌っ」
  4847.  美津子は、全身を火の塊のようにして、身をちぢませたが、ズベ公達は、よってたかって、がむしゃらに、美津子にサポーターをはかせてしまう。
  4848. 「さ、これならいいだろう。入ったり、入ったり」
  4849.  銀子と朱美は、そんなものをはかせられた美津子の背を激しく突いて、遂に、牢の中へ押し込んでしまった。
  4850.   四坪ばかりの狭い牢舎の中、美津子は激しく泣きながら身をかがめて、小走りに突き当たりの壁にまで転がるようにいざり、背をこちらへ向けたまま消え入るように小さく身をかがめてしまう。まともに、こんなあられもない姿のまま文夫の方へ顔を向ける勇気が美津子にある筈はなかった。消えたい! この瞬間に、自分の体が溶けて、煙のように消えてしまいたい。
  4851.  美津子は、死にたいと思うより、そう願う気持で一杯だった。
  4852.  美津子のなめらかな、真っ白の背中の中程で、麻縄に固く縛りあわされている可憐な白い手首が、思いなしか、小刻みに震えているようである。
  4853.  文夫も、女物のパンティをはかされた裸身を緊縛されて、美津子が小さく立膝してかがんでいる反対側の壁に身をかがめ、赤らんだ顔を伏せている。
  4854.  そんな牢の中の美少年と美少女をズベ公達は、わいわいはやし立てて牢格子の聞から、からかうのだった。
  4855. 「どうだい。恋人のものを、お互いにはいた気分は。ふふふ、そんなに、お尻ばっかり向け合っていないで、もっと
  4856. 近づいて色々話し合いなよ」
  4857.  意地悪いズベ公達の嘲笑を、全身に浴びながら美少女と美少年は、別々の壁に身をすり寄せ石のように硬くなっていた。
  4858.  
  4859.  
  4860.  
  4861. 第二十章 翻弄カップル
  4862.  
  4863.  
  4864.     美少年と美少女
  4865.  
  4866.  牢舎の中で互いに背を向け合い、屈辱に身を震わせている文夫と美津子を、ズベ公達は格子の聞からのぞいて、盛んにからかいつづけていたが、
  4867. 「それじゃ、美津子、剃毛式の用意が出来たら迎えに来るからね」
  4868.  と、銀子は声をかけ朱美達をうながして外へ出て行くのだった。身を小さくかがめている二人の間に、冷たい風が足元から吹き上ってくるような不気味な沈黙が続く。
  4869.  文夫は、美津子の方から顔をそらせたまま思いきって口をきいた。
  4870. 「美津子さん。一体これはどうした事なんだ」
  4871.  美津子は、文夫の方に背を向けたまま、消えいるように縮みこんでいる。
  4872. 「こ、こんな事を聞いて気を悪くしないでくれよね。君は、この屋敷にいる男達に、身体まで♢♢」
  4873.  文夫は、おろおろした声で美津子にいう。
  4874.  美津子は、激しく首を振ったが、
  4875. 「でも、でも美津子は、あの恐ろしい女達にひどい目に遭って、純潔を失ったも同然なのです。文夫さんの前に出られる美津子ではありません。駄目、もう私は駄目なの」
  4876.  そう言うや美津子は肩をぶるぶる震わせて泣きじゃくる。
  4877. 「しっかりするんだ。望みを失っちゃいけないよ。僕がついている」
  4878.  僕がついている、などといったものの、哀れな美津子を目前にしながら、どうしようもない自分の浅ましい姿、文夫は、何とかこの縄目から脱しようと身悶えする。
  4879.  その時、ギイーと再び、この地下へ通ずる階段の上扉が開き、ズベ公達の高笑い、続いて、どやどやと地下へ降りて来る足音がする。
  4880.  文夫も、美津子も、ギクッと身体を硬直させる。
  4881.  銀子、朱美、悦子、マリ達が、牢格子に手をかけて中をのぞきこみ、
  4882. 「あら、二人とも、まだ、そんなに離れ合っていたのかい。全く内気なお坊っちゃんに、お嬢ちゃんね」
  4883.  銀子は、そんな事をいって笑い、牢の扉を開けて、朱美達と一緒に入って来る。
  4884. 「ちょっと時間が早いようだけど、今、静子夫人達の朝の調教が終わって、鬼源さんの手があいたのよ。貴女の剃毛式に鬼源さんが立ち会って下さるそうよ。サイズをとっておきたいのですって、ホホホ、だから、早い目に、すませてしまいましょうね」
  4885.  銀子と朱美は、壁の下にうずくまっている美津子のきらめくように白い肩を手をかけて引き起こしにかかる。
  4886.  それを見た文夫は、逆上したように、後手に縛りあげられている不自由な身体を必死に動かして立ち上った。
  4887. 「美津子さんに乱暴すると承知しないぞ」
  4888.  文夫は、美津子を牢舎の外へ連れて行こうとする銀子と朱美に体当たりして暴れ廻る。
  4889.  あわただしく地下の階段をかけ降りる足音がして、吉沢と川田が飛びこんで来た。
  4890. 「何を、どたばたしてるんだ」
  4891.  川田と吉沢は、狂ったように暴れ廻る文夫を羽交じめにして、牢の中央に突き飛ばし、銀子達をせかせて扉の外へ出すと、バタンと扉をしめ、錠をかけた。
  4892.  一人、牢屋の中へ取り残された文夫は、口惜し泣きしながら、
  4893. 「待てっ、美津子さんをどうする気だ。けだもの!」
  4894.  川田と吉沢は、美津子の肩に手をかけ、文夫に見せびらかすようにして、
  4895. 「へへへ、これから、このお嬢さんが、どういう目に遭うのか、そんなに知りてえってのかい。だが、そいつは、あとのお楽しみにしておきな」
  4896.  さ、美津子、歩きな、と縄尻を取った銀子は美津子のすべすべした背を突いた。
  4897.  川田は、ふと、美津子の腰を見て、
  4898. 「おや、今日はまた、ずいぶんと変ったのをはいてるじゃねえか。なるはど。そいつは文夫のサポーターつてわけかい」
  4899.  美津子は、そんな川田達の揶揄を無視したように、ハラハラ涙を流しながら、牢格子の間から文夫を見る。
  4900. 「文夫さん、貴方だけは何とかここから逃げ出して頂戴。美津子の事は心配しないで。美津子は、もう駄目なのよ」
  4901.  そういうと美津子は、堰をきったように泣き出し、銀子や朱美に背をつつかれるまま、地下の階段に向かって前かがみに歩き出すのであった。
  4902.  
  4903.     折檻部屋
  4904.  
  4905.  川田と吉沢は、鬼源を連れて来るといって三階の調教室の方へ行き、美津子は銀子と朱美に縄尻を引かれて一階の廊下を二つばかり曲がった突き当たりの物置、美津子がこの屋敷へ誘拐されて来た時、最初に監禁された五坪ばかりの板張りになっている部屋へ引き立てられて来た。森田組のチンビラやくざ達に寄ってたかって丸裸にされた、あの恐ろしい思いは、今でも美津子の脳裡に生々しく残っている。
  4906.  板張りの床の上には、角材が一本打ちこまれてあり、部屋の中の様子は、チンビラ達に襲われたあの時と同じままである。
  4907. 「あんたが、初めてここへ来た時は、可愛いセーラー服のまま、この柱を背に縛られたわね。ふふふ、でも今じゃ、サポーターをはいた変った女子学生」
  4908.  朱美は含み笑いしながら、美津子の背をその柱に押しつけて、銀子と一緒に、ひしひしと縄をかけていく。
  4909. 「美津子、こうして見ると、初めてこの座敷へ来た時とは違って、ずいぶんとおっぱいが成熟してきたようね」
  4910. 「ヒップなんかも、めきめき色っぽく成長してきたようだわ」
  4911.  上半身をがっちり柱に固定されてしまった美津子は、ぴったりと両肢を閉ざして、首をたれている。悦子は、ジーパンのポケットからピンクの新しいヘアバンドを出して美津子の艶のある黒々とした部屋をしめてやる。
  4912. 「素直になった貴女へのプレゼントよ。別にお化粧しなくても、貴女は天然の美を生かした方がきれいだわ。少しお櫛だけ、当てておきましょうね」
  4913.  と悦子は小さな櫛を取り出して、美津子の部屋をすきあげ、さて、といって腰をかがめた。
  4914.  くすくす笑いながら、それを見ている銀子と朱美。
  4915. 「なるはどね。剃毛式を行うに当たってのエチケットというわけね」
  4916. 「そう、乱れ毛のないように、きれいに揃えてやってるのよ」
  4917.  悦子は美津子の腰から男物のサポーターをゆっくりと脱がし、煙のように繊細な茂みの形を部屋えるように櫛を使い始めた。
  4918.  美津子は、もうどうともなれ、と観念しているものの、ズベ公達の残忍さに、がたがた身が震え出すのだ。
  4919.  悦子は、はい、終わり、と光ち上ると、代って、銀子が美津子の前に立つ
  4920. 「さて、間もなく、吉沢の兄さん達がここへ来るだろうけど、吉沢さんは、貴女の今朝からの成長ぶりに、大変な喜びようなのよ。だから、この際、吉沢さんの愛情を高めるために、一生懸命、甘えてみる事ね。あたい達が、その甘え方を教えてあげるわ。さっきみたいにね」
  4921.  銀子と朱美は、くすくす笑いながら、また二人で相談し合い、美津子が吉沢に語りかける色々な、いまわしい言葉を教え始める。
  4922.  その身の毛もよだつ屈辱的な言葉に、美津子が激しく首を振り、眉を寄せると、
  4923. 「そんな風に吉沢さんに持ちかけて、楽しい気分にさせてあげるのなら、文夫やその姉の小夜子嬢に対し、あたい達は指一本ふれはしない。約束するよ」
  4924.  と銀子はいうのだ。
  4925. 「ほほ、ほんとに、文夫さん達に、ひどい事をなさらないなら、美津子は、、おっしやる通りに♢♢」
  4926.  実しい十八の乙女は、すすりあげながら、銀子達の要求を承認するのだった。こんな蛇のようなズベ公達が約束を守るとは信じられないが、美津子が承知しなくても、そのまま黙って、ひっ込むズベ公達ではない。
  4927.  美津子が、小さくうなずいた事に喜んだ銀子や朱美達は、一生懸命、美津子の教育にかかり出した。
  4928.  やがて、吉沢、川田、鬼源の三人が、何か高笑いしながら入って来る。
  4929. 「なるはど、富沢さんのいう通りだ。こいつは不思議だ。一晩見ねえうちに、このお嬢さん、ずいぶんと色っぽい美人になったじゃないか」
  4930.  鬼源は、柱を背に立ち縛りされている美津子を見て、うなずく。
  4931.  吉沢は、我が意を得たというような顔つきで、
  4932. 「そればかりじゃねえ。実に素直になってよ、男心をとろかせるような事をいってくれるんだ」
  4933.  銀子と朱美は、すっかり観念したようにうなだれている美津子の両側に立って、吉沢を手招きし、笑いながらいう。
  4934. 「美津子がね、今日は、うんと夫に甘えてみたいというのだよ。一つ、美津子の前に立って聞いてやんなよ」
  4935.  吉沢は、へっへへと、頬をなでながら美津子の前に立つ。
  4936. 「なんだい、美津子。へっへへ、可愛いほっぺたをしてるじゃないか。そら、用意してきてやったぞ。これが新品の西洋剃刀、これが石鹸水、こいつは、ヒゲ剃り跡につけるクリームさ」
  4937.  吉沢は、そんなものを一つ一つ、美津子の鼻先へ突きつけるようにして見せ、
  4938. 「俺としても、清純な美しい乙女に、そんなことをやりたくはねえのだが、社長や親分の特別の言いつけなんだ。悪く思わねえでくれよな」
  4939.  美しい顔を横に伏せて、小さくすすりあげている美津子に対し、吉沢はそんな事をいって笑ったが、朱美が横から口を出す。
  4940. 「なにも吉沢さん、そんなに気をつかう事なんかいらないょ。このお嬢さん、そんな風にされる事を喜んで、お姉さんと、どっちがいい形をしているか、皆さんに集まって頂いて、ぜひくわしく見較べて欲しいなんて、たいそうなことをいってるのよ」
  4941.  と愉快そうにいうのだった。そして、朱美は美津子の方に向き直り、美津子の髪の毛を手入れするように見せかけながら、小声で美津子の耳元にささやく。
  4942. 「いいかい。甘ったるい声を出して、あたいが教えてあげた通りの事を、吉沢さんにいうのだよ。さ、始めな」
  4943.  美津子は悲痛な決意をしたように伏せていた顔をあげ、黒真珠のようにキラキラ光る黒眼を吉沢に向けるのだった。
  4944. 「♢♢ねえ、あなた、森田組のお仕事のためですもの、美津子、喜んで協力させて頂きますわ。でも、お剃りになるなら、他の人に任せちゃ嫌よ。あなたに美津子は、きれいに剃り上げて頂きたいの」
  4945. 「へへへ、嬉しい事をいってくれるじゃねえか。誰がそんな事を他人にさせるものか。俺がきれいに仕上げてやるら安心しな」
  4946.  吉沢は泥えぴすのような顔になっていう。
  4947. 「♢♢だけど、そんなになった美津子でも、あなた、笑っ
  4948. ちゃ嫌。ずっと愛して下さいますわね」
  4949. 「勿論だとも」
  4950.  美津子が吉沢に対していう言葉を忘れると朱美や銀子が、芝居のプロンプターのように美津子の耳にささやいてやるのだった。
  4951. 「美津子、小学校を卒業する頃から、大切に大切に育ててきたものですもの。ねえ、あなた、お別れのキッスをしてあげて」
  4952.  そう言い終わるや美津子は、たまらなくなったように体を慄わせて泣きじゃくる。
  4953. 少し、離れた所から、美津子と吉沢のやりとりを眺めている川田と鬼源は顔を見合わせて、ケッケと笑い合った。
  4954.  吉沢が腰を低め、美津子の丸味を持って盛り上がった臀部を両手で引き寄せて唇を触れていくと、あっと美津子は声をあげ、い、いい♢♢と白い歯を見せて、切なげに大きく首をのけぞらせた。べっとり脂汗が額ににじんでいる。
  4955.  ようやく、吉沢が美津子の足元から立ち上ったが、すぐに朱美は美津子の肩をつついて次を催促する。
  4956. 「♢♢こ、これで、気がすみましたわ。さ、あなた、遠慮なさらず、きれいさっぱりお剃りになって頂戴。
  4957.  美津子は、真っ赤になった顔を横にねじ曲げるようにした。
  4958.  一体、この羞恥地獄は何時まで続くのだろうか。美津子は、地がひっくりかえり、世の中が消えてくれぬものかとさえ思うのである。
  4959.  
  4960.  
  4961.     毒牙は迫る
  4962.  
  4963. 「さて、そろそろ始めるとしようか」
  4964.  吉沢は、身も世もあらず悶え泣きしている美津子を眺めながら、剃刀を持ち直す。
  4965. 「おっと、そんなに固くなっちゃ仕事がやりにくい。さ、楽な気分になって♢♢」
  4966.  美津子は、そう吉沢にいわれても、一層、身体を強ばらせ、涙を一杯浮かべた美しい黒眼に必死な哀願をこめて、吉沢を見た。如何に観念したとはいえ、たまらない屈辱感と恐怖感が突風のようにこみあがってきたのである。
  4967.  死んだような気持になっていた美津子は、次に、銀子がいい出した事を耳にして、再び、かっと身体中に電流が走った。
  4968. 「ねえ、せっかくだから、美津子の剃毛式を文夫に見せてやろうよ」
  4969.  そうだ、そいつは面白いと川田、鬼源などは、隅に積んであった角材を一本担いで来る。美津子が立ち縛りにされている前方五尺ばかりのところに四角い穴があいていて、その中へ角材の根をねじこんだ川田と鬼源は、大きな木槌で打ちこみ出した。つまり、美津子の眼の前に打ちこんだ柱に、文夫も同じく立ち縛りにしようというわけだ。
  4970. 「じゃ、お坊っちゃんを、ここへお連れして来るぜ」
  4971.  と川田と鬼源は、廊下へ出て行く。
  4972. 「待って。嫌っ、お願いです。文夫さんをここへ連れて来るのだけは、やめて下さい!」
  4973.  美津子は、おろおろし、けたたましい声を出した。
  4974. 「後生です。美津子、何でもいう事を聞きます。どんな恥ずかしい目に遭わされてもかまいません。ですけど、こんな姿を文夫さんに見られるのだけは嫌っ。お願いです吉沢さん、ああ、お願い♢♢」
  4975.  激しく泣きじゃくりながら、美津子は、前に立っている吉沢にくり返したが、
  4976. 「もう遅いぜ。川田兄貴と鬼源さんは、文夫を迎えに出て行っちまった」
  4977.  ああ♢♢と美津子は、眼を閉じ、激しく首を振る。ここへ、文夫が引き立てられて来て、眼の前の柱に縛られ、そして、自分は、文夫の眼にとんでもない姿を晒さねばならぬのだと思うと、美津子は恐ろしさに、がくがくと歯がなり、震えが止まらない。
  4978.  吉沢は、そんな美津子を小気味よげに見つめていたが、文夫に自分の姿を見られるという事に、うろたえ、悲しみ、そして、文夫の身の上を案じつづける美津子に対し、ムラムラと嫉妬がわいてきたのである。
  4979. 「やい、美津子。手前、まだ文夫が好きなんだな。いいか、手前は俺の女だって事を忘れるな。まだ、文夫に未練があるなら、仕方がねえ。未練が残らねえよう、お前の前で文夫の奴を殺してやる」
  4980.  えっと美津子は顔をひきつらせる。
  4981. 「この剃刀でよ、文夫のものをバッサリ斬り落とすんだ。そうすりゃ、もう三文の値うちもない男さ。いくらハンサムでもな」
  4982.  吉沢は、ゲラゲラ笑い出した。
  4983.  朱美がいった。
  4984. 「つまりね。あんた、文夫の身を思うなら、文夫とはっきり別れてくれなきゃ困るというわけよ。まだ、身体の関係はないとしても、あんたは吉沢さんのお嫁さんに決まっているのだからね。吉沢さんの気持もくんでやらなきゃ、かわいそうじゃないの」
  4985.  どう、文夫と別れる決心をする? と朱美に頬をつつかれて、美津子は、小さくうなずいた。もう文夫の前に出られる身体ではないと美津子の心の中は、悲しいあきらめで占められている。何とか、文夫に無傷のまま、この地獄屋敷から逃げ出してほしい。あの美しい遠山夫人や姉の京子達を、ここから救い出す方法は、男の文夫のカが、頼みの網なのだ。
  4986. 「文夫と切れるという事は、吉沢さんを喜ばせる事だよ。でもね、ただ、文夫に向かってあんたなんか大嫌い、と愛想づかしをいうだけじゃ駄目よ。ちゃんと、文夫に証拠を見せてやらなきゃ面白くない」
  4987.  証拠を見せる♢♢一体この気狂いじみた不良女子達は、また何を考え出したのであろう。身動きもできない身体を立ち縛りにされている狂乱の美津子の前へ、文夫を立たせるという残酷な方法だけでは満足せず、更に美津子に何をいわせ、何を演じさせようというのか。
  4988.  それについて、銀子、朱美、吉沢の三人は含み笑いをしながら、打ち合わせをし始める。
  4989.  そして、銀子がそれを美津子に告げるのだったが、半ば失神しかけていた美津子もそれが耳に入るや、あっと声をあげ、青ざめてしまった。魂まで凍るようなへ恐ろしい悪魔の着想である。
  4990. 「な、何て恐ろしい事を♢♢ああ、いっそ殺して」
  4991.  美津子は、わなわな震え出す。
  4992.  文夫の前で、美津子を剃りあげるだけでは面白味が薄いと、銀子の考えだした方法は常軌を逸していた。
  4993. 「いいかい。いわれた通りにしないと、あんたの見ている前で、文夫さんは、すっぱりと斬り落とされてしまうんだからね。さあ返事しな。あんたの気持をたしかめる一番大切な場合なんだからね」
  4994.  死んでも、そんなことは♢♢とキリキリ歯を噛みならしていた美津子であるが、この悪鬼達の望む事をしなければ文夫の命が危いのだ。美津子は、ピルから身を投じた気持で、仮面をつけたような冷静さをつくって顔をあげた。
  4995. 「わかりましたわ。おっしゃる通りに致します。そ、その代り、文夫さんには絶対に手荒な事は、なさらないで」
  4996.  わかったよ、と銀子達は、うきうきした顔つきでいう。
  4997. 「じゃ、あたいは、また芝居の黒ん坊役をひきうけるわ」
  4998.  と朱美は、美津子の柱の後ろに立ち、
  4999. 「あたいが小声で教えてあげる通りにいってればいいのよ。
  5000. もし、拒んだりしたら、忽ち、文夫はばっさりよ」
  5001.  と何度も念を押す。
  5002.  やがて、がんじがらめに縛りあげられた文夫が、川田と鬼源に縄尻を取れて引き立てられて来た。引き立てられるというより、引きずられて来たようなものだ。文夫は猿轡を固くはめられていた。
  5003.  うっ、うっ、と口の中でうめきながら、必死に抵抗しているが、馬鹿カのある鬼源と川田の二人にかかっては敵わない。鬼源は、まるで牛でも追いたてるように片手に持った棒切れで文夫の肩を突いている。
  5004.  そういう風にして、文夫がこちらへ近づいて来ると、美津子の全身は、みるみるうちに火柱のように真っ赤になった。文夫に自分のこんな姿を見せなければならないという事は人間的な思念を超越した心境になったといっても、何といっても、まだ女子高校生である。身体中がずたずたにされるよりも辛かった。
  5005.  文夫が、前の柱に背を押しつけられ、鬼源達にひしひしと縄をかけられるに及んで美津子は、紅生姜のように真っ赤になった顔を右へ伏せたり、左へ伏せようとしたり、見ていて面白いほどうろたえる。銀子や朱美は顔を見合わせ笑うのだった。
  5006.  文夫も、眼の前の美津子を見て猿轡の中で、あっと声を出し、あわてて眼をそらせる。が、すぐ横手に立っている川田に向かって憤怒に眼をつり上げ、何か叫んだが、それ
  5007. は猿轡の中でぷつぶついったぐらいにしか聞こえなかった。
  5008. おそらく文夫は川田に対し、女をこんなにいじめて、貴様達、それでも人間か、というような意味の事をいったのであろう。文夫の声をさえぎる猿轡は女物のパンティらしかった。
  5009.  川田は、ゲラゲラ笑いながら、
  5010. 「おい、お坊っちゃん。おめえが猿轡にしているブルーのパンティはな、この美津子の姉の京子のものなんだ。その腰にしているピンクのパンティは美津子のものだ。おめえも幸せな男だぜ。美人姉妹のパンティを、上と下にはかせてもらってよ。どうでい。満更でもねえ気分だろ」
  5011.   文夫は逆上して獣のように眼をつり上げ柱に縛りつけられた身体を、必死に悶えさしている。
  5012.  銀子が、美津子の横に伏せて、真っ赤になっている頬を指でつついて、
  5013. 「さあ、お嬢さん。この坊っちゃんに何か優しい言葉をかけておあげ。先程から妙にいきり立っているのよ」
  5014.  そして、銀子は、立ち縛りにされている美津子の横へ寄り添うようにしながら、文夫に向かっていう。
  5015. 「お坊っちゃんにわざわざ、ここへお越し願ったのはね、美津子嬢の希望で、あたい達、このお嬢さんを剃ってあげることになったのだけど、このお嬢さんたら、そうなった姿をぜひとも文夫さんに見て欲しいとうるさく頼むのさ。だから、これから始まる事を見てあげておくれ」
  5016.  朱美が柱の後ろから美津子の白い肩をつついて、さ、始めな、と何やら耳元でささやき始める。
  5017.  ちゃんと、文夫に眼を向けて、大きな声で話しかけるんだよ、と朱美にいわれるまま、美津子は、悲痛な決心をしたように、ヘアバンドのかかった、きれいな黒髪をひらり
  5018. と動かせて顔をあげ、キラキラ光る黒眼を文夫に向けるのだ。
  5019. 「文夫さん。本当の事をいいますわ。美津子は今とても幸せなのよ。こんなすばらしい世界があるってこと少しも知らなかったわ。美津子って、本当は悪い子だったのね。文夫さんの恋人には向かない女なのよ。それを知って頂こうと思って、美津子は貴方を、このお屋敷へお誘いしたの」
  5020.  眼の前にさらされている美津子に眼を向けてはならないと、文夫は顔を横に伏せていたが、そのショッキングな美津子の言葉に、文夫は、ふと顔を美津子の方へ向ける。
  5021.  文夫の視線と美津子の視線が、もろにぶつかると、さすがに美津子はハッとして顔を伏せようとしたが、駄目よ、眼をそらしちゃ、と後の朱美が叱り、次を続けさせる。
  5022.  文夫を見る美津子の美しい瞳から、はらはらと涙が流れる。一つ二つすすりあげた美津子は、無理に作り笑いをし、朱美に指示されたことを口にするのだった。
  5023. 「あら、文夫さんたらいじわるね。貴方ったら、美津子の下着をちゃっかり、はいてるんですもの。そんなの、ずるいわ」
  5024.  川田と鬼源が、文夫に近づき、美津子がずるいってよ、と激しく身悶えする文夫から、剥ぎとってしまう。
  5025.  文夫より、むしろ、美津子の方がよけいに頬を赤らめて、首をねじるのだった。
  5026. 「そら、また眼をそらす。見なきゃ駄目よ」
  5027.  朱美は美津子の顎を、指で上へ持ちあげるのだった。
  5028. 「まあ、ふ、文夫さんたら。す、す、すばらしいじゃないの。頼もしいわ」
  5029.  美津子は、舌を噛んで死にたいぐらいだ。朱美が教示する事を口にするたび、美津子は目まいが起こりそうになる。しかし口にせねば文夫の命が危いとズベ公達は相変らず美津子をおどすのであった。
  5030. 「ねえ、美津子だって、すばらしいとは、お思いにならない。どう、このおっぱい。このお屋敷へ来てから、一段と成熟したのよ。それに、腰の線も美しいでしょう。ねえ、よくごらんになって」
  5031.  文夫は美津子の誘惑に負けたように何時の間にか何かに憑かれたような眼つきになって美津子の方を見つめている。実際、美津子の身体は美しかった。縄にしばられているが乳房は白桃のように美しい形をしているし、ゆるやかな起伏をもつ腹部からヒップにかけての曲線、如何にも処女らしい肉のしまった太腿、そして、全身雪白の美肌なのだ。
  5032.  文夫は、陶然としたように、縄にしめあげられた美津子に見とれてしまったが、動物的になってしまった自分に、ふと自意識がこみあがり、うろたえ気味に眼をそらす。いきなり、美津子のきらめくような白磁の美肌を見せつけられて、眼をそらしてしまったものの、しかし意志の力では、どうにもならないという事を文夫は、はっきりと悟り出していた。
  5033.  ズベ公達が、それを見逃す筈はない。最初から、そういう事を計算に入れ文夫を美津子の前へ立たせたのである。つまり、文夫の責め道具に文夫の恋人の美津子をつかったわけだ。文夫は美津子にたまらない恥ずかしい責めを受けているのと同じであった。勿論、ズベ公達に強制され、文夫を誘惑したり揶揄したりする美津子の方がその数倍もやるせなく、苦しい事に違いはないが。
  5034.  ズベ公達は、そういう状態になってしまった文夫を見るや、待ってました、とばかり、声をたてて笑い出し、
  5035. 「まあ、この坊っちゃんたら、嫌な子ね。レディのたくさんいる中で、みっともないじゃないの」
  5036.  銀子と悦子が、文夫の傍へより、くすくす笑って、一体、どうするのよ、などといって吃立した文夫の肉棒を指先ではじき笑いこける。
  5037. 「うっ、う♢♢」
  5038.  文夫は、顔面を真っ赤にして、何とか気分の転換をはかろうとあせったが、ズベ公達に囃し立てられて、むしろ、逆効果だった。
  5039. 「♢♢ふ、文夫さん、美津子、貴方が、どんなに私を、愛して下さっているか、わかったわ。でも、貴方の御希望にそうわけにはいかないの。ごめんなさいね。美津子には好きな人がいるのよ」
  5040.  朱美が再び、美津子に強制している。言わないと、文夫のものを斬り落とす、と美津子がためらうたびにおどすのだ。そして、朱美は柱の後ろから、吉沢を手招きし、美津子の隣へ立たせる。
  5041.  美津子は、失美に教示されるまま、
  5042. 「ね、文夫さん。美津子が身も心も捧げつくすお方は、この吉沢さん一人なのよ」
  5043.  文夫は、嫉妬に燃える瞳を吉沢に向ける。
  5044.  朱美は、吉沢と美津子の仲のいい芝居を演じさせ、文夫を逆上させ、嫉妬に悶えさせ、そして、美津子に対する愛想づかしにまで持っていこうとしているのだ。
  5045.  吉沢と美津子は、やがて、ぴったりと口を合わせ、熱い接吻をし始める。うっとりと眼を閉じ、吉沢に唇を吸われるままになってしまった美津子を見るや、文夫は猿轡の叫で獣のようにうめき、縄にしめあげられている全身を狂気して悶えさせた。あきらかに、嫉妬に苦しみ出したのだと見てとったズベ公達は、してやったりとばかり北叟笑む。そして嵩にかかって、美津子に強要するのだった。
  5046.  やっと、吉沢に口を離された美津子は、耳たぶまで、真っ赤にしながら、
  5047. 「ねえ、吉沢さん。美津子、貴方の赤ちゃんが早くほしいわ」
  5048.  川田と鬼源は、ゲラゲラ笑いながら、胸を錐でえぐられるような嫉妬に、悶え抜いている文夫の左右に立ち、
  5049. 「どうだい、美津子の気持がよくわかったろう。こうなりゃ、おめえも男だ。美津子の事はきっぱりあきらめ、吉沢兄貴と美津子の、これからの幸せを祈ってやるんだな」
  5050.  数々の言語に絶する屈辱を、文夫の命を救うためだと、キリキリ歯を噛みしめて耐えつづけた美津子は、がっくり首を垂れ、小さくすすりあげている。
  5051.  よく、いってくれたわね、御苦労さま。と朱美は含み笑いいしながら、後ろから、美津子の耳元に口を寄せていう。
  5052.  美津子は涙の一杯にじんだ美しい瞳を朱美に向けて、
  5053. 「お願いです。文夫さんを、早くここから連れ出して下さい」
  5054.  もうこれ以上、文夫の前に、このようなあさましい姿をさらし、屈辱の演技を続ける気力は美津子になかった。
  5055.  そうね、と朱美は、少し、考えこんで、
  5056. 「じゃ、これが最後よ。最後を美しく飾らなくちゃあね。それがすめば、文夫をここから連れ出してあげるわ。そうしたら断髪式を彼に見られなくともすむのよ」
  5057.  断髪式を彼に見られなくともすむ♢♢その言葉に美津子は、すがりつくように、最後の屈辱に耐えるべく、息をつめて、朱美の言葉を待った。
  5058. 「ああ♢♢」
  5059.  美津子は嫌々をするように首を振る。
  5060. 「最後じゃないの、しっかりおしよ」
  5061.  美津子は、朱美に、耳うちされ、遂に、ひきつったような顔になって、前方の文夫に眼をやった。文夫さん、堪忍して、と美津子は心の中で、叫ぶ。自分がズベ公達に強制されて、とらされる一挙一動が、どんなに文夫を懊悩させ、
  5062. 苦しませ、みじめな立場に追いこませて、悪魔共に、それを嘲笑されることになるか、美津子もよくわかっているのである。だが、これが最後なのだと美津子は自分の心にいいきかせ、火の玉のようなものを呑みこんで、わなわな唇を開くのだった。
  5063. 「ねえ、文夫さん。これで、私がどんな女かおわかりになったでしょう。美津子の身体の中には、こういう世界を喜ぶ血が流れていたのです。もう貴方と、お逢い出来るのも、これが最後なの。美津子は、京子姉さんと一緒に、これから秘密ショーのスターの道を歩くのです。ですから、最後に、最後に♢♢」
  5064.  美津子は、喉をつまらせ、肩をぶるぶる震わせる。
  5065.  さあ、あと一息よ、しっかり、がんばってと朱美は、後ろから美津子を励ますのだ。
  5066. 「♢♢ですから、最後に、最後にねえ、もう、これで
  5067. お別れなんですもの。思いきりお互いにうんと股を開けて、見せっこしましょ」
  5068.  そこまでいった美津子は、気を失ったように、ぐったり首を垂れてしまった。
  5069.  朱美の眼くばせを受けて、川田は奥から、一米位の長さの棒を二本、取り出して来る。美津子と文夫に足枷をはめようというのだ。
  5070.  銀子と朱美が美津子に、川田と鬼源が、文夫に♢♢それぞれ足枷をとりつける作業にかかり出す。
  5071.  文夫は、足首をつかもうとする川田と鬼源に猛烈な抵抗を始めた。狂乱したように両足をばたつかせ、猿轡の中でうめき声をあげつづける。
  5072. 「やい、じたばたすんねえ。美津子がああいうから手伝っ
  5073. てやるんじゃねえか。♢♢そら美津子の方を見てみな。あ
  5074. んなに素直に股をおっぴろげているぜ」
  5075.  文夫は、ふと、血走った眼を開けて、美津子の方を見た途端、あっと猿轡の中で声をあげる。その一瞬、ひるんだすきに、文夫の足首を左右からとった川田と鬼源は、ずるずるとひっぱって、素中く足枷をはめこみ、縄をかける。
  5076.  美津子は、もう悪あがきはせず、銀子と朱美に足枷をはめられ、堂々とばかりに両腿を左右に割り開いたまま化石になったように身動きしなかった。伸ばされた足の指の爪先が、濡れたように窓から射しこむ日の光に、キラキラと美しく照りはえている。上下を麻縄に固くしめあげられている、ふっくらとした乳房が、かすかに波をうっていた。
  5077. 「美津子。眼を開いて、前を見るのよ」
  5078.  銀子に顎を指でこじ上げられ、そっと眼を開けた美津子は、びくっと全身を痙攣させ、首をのけぞらせた。文夫の横に身を低くしてニヤニヤしている悦子が文夫の硬化し、屹立した肉棒を握りしめようとしている。あっと思わず声を洩らし、感覚的な嫌悪の戦慄が美津子の身内を走った。新たな恐怖に見舞われ、美津子の胸は高鳴った。
  5079. 「全く、こうして眺めると、二人とも、申し分のない理想的なカップルだね」
  5080.  と銀子はこ人を見くらべ、口を歪める。
  5081. 「何しろ童貞と処女だものな」
  5082.  と川田も相槌をうつ。
  5083. 「駄目よ。そんなに、二人とも眼をそらせていちゃ。あたい達の努力が、何もならないじゃないの。さあ、今から五分間、二人でしっかり見つめ合うのよ。そうすりゃ、あんた達の努力に免じて、今日はかんにんしてあげるわ」
  5084.  眼をそむければ何時までも、この状態を続けていなければならないよ。朱美は意地悪く、つけ加えるのだ。
  5085.  あと、五分で、このいまわしい責めから、解放されるのだと思うと、美津子は、必死の思いで、文夫に向かって叫ぶようにいった。
  5086. 「文夫さん。あと少しの辛抱よ。お願いっ、私から眼をそらさないで!」
  5087.  それは、朱美達に強制された言葉ではなく、せっぱつまって、美津子が血を吐く思いでいったのだ。文夫も、美津子の苦痛を救けようとして必死に努力している。その心情がわかり、心の中で美津子に詫びつつ、美津子に視線を向ける。
  5088.  互いに視線を向け合った文夫と美津子を、ズベ公とやくざ達は、やんやと囃し立てる。
  5089.  
  5090.  
  5091.     羞恥の対決
  5092.  
  5093.  緊縛された素っ裸の両腿を共に大きく割って対面させられている美少年と美少女。これは銀子や吉沢にとっては嗜虐の快楽を惹起させる最高の見世物だったかも知れない。
  5094. 「おい、こりゃ、いい酒の肴になるじゃないか。一杯やりてえな」
  5095.  と、吉沢がいうと、あいよ、といってマリが腰を上げ、酒を取りに部屋から出て行った。
  5096. 「吉沢さん、お願い、もうこんな真似はやめさせてっ」
  5097.  強制されて文夫に視線を向けていた美津子は耐えられなくなって顔面をよじり、泣き濡れた視線を吉沢に向けた。
  5098.  吉沢はほんの少しだけ視線を向け合うだけでいいと言いながら自分達を酒の肴にする気なのだと感じるとぞっとし、
  5099. 「もう充分でしょう。私は何でも吉沢さんのいう事は聞きます。ですから、文夫さんはここから解放して下さい。後生です、吉沢さん」
  5100.  と、美津子が狂おしく哀願すると吉沢は、フン、と鼻で笑った。
  5101. 「随分と文夫の肩を持つじゃねえか。まだ、文夫に対しておめえ、未練を持っているようだな」
  5102.  吉沢は美津子に凄味のある眼つきを見せていった。そして、ふと、文夫の方に眼をやって、文夫が火照った顔面をねじるようにして美津子から視線をそらせているのに気づくと、
  5103. 「野郎、誰が眼を離せといった。しっかり美津子の素っ裸を見るんだ」
  5104.  と、わめいて腰を上げ、文夫につめ寄ると文夫の顎に手をかけてぐっと顔をこじ上げた。それでも文夫は頑なに眼を閉ざし、口惜しげに歯を噛み鳴らしている。
  5105. 「大きく眼を開いて、美津子を見てやんな。おめえのために美津子はパンティまで脱いで股まで拡げてサービスしてくれているんだぞ」
  5106.  と、文夫の耳元にがなりつけ、ふと、銀子と顔を見合わせて淫靡に笑い合った。
  5107.  銀子は再び、美津子のつながれている柱の後ろに廻って、美津子の耳に語りかける。そんな銀子の言葉は魔女のささやきのように美津子には聞こえるのだ。
  5108. 「文夫を庇うような言い方をしちゃ吉沢さんが気分を害するのは当然じゃない。いいかい。文夫があんたに愛想づかしするよう演技しなきゃ駄目よ。それにはあなたが、もうすっかり手のつけられない淫婦に成長したように文夫に見
  5109. せかけなきゃ駄目じゃない」
  5110.  たとえばこんな風にやってごらん、と、クスクス笑って銀子は美津子の熱い耳に熱い息を吹きかけるように粘っこくささやいた。
  5111. 「ああ、そ、そんな事、とても、出来ないわ」
  5112.  美津子が苦悶の表情を見せ、無気力に首を振り始めると、
  5113. 「出来るわよ。あなたは私達にもう色々な事を教えられてすっかり成長した筈よ。吉沢さんの機嫌をとり、文夫を助けるにはそれしか方法はないって事さ」
  5114.  銀子は美津子の紅潮した頬に軽くキッスして、もうあなたは私達の商品になっちまった事を忘れちゃ駄目よ、と、念を押すようにいうのだった。
  5115.  美津子はそれより文夫を救う方策はないのだと悲痛な決心をすると、頬にもつれかかった黒髪をさっとはね上げるようにして文夫の方に悲壮味を帯びた顔を向けた。
  5116. 「どうしたの、文夫さん、美津子がこうして肢まで拡げて見せてあげているのに、どうして見て下さらないの。女に恥をかかせるものじゃないわ」
  5117.  美津子の思いがけぬ大胆な言葉に文夫はギョッとして眼を開いた。
  5118. 「さ、見て、よく見て。美津子のおま♢♢をよく見て」
  5119.  思い切って口にした美津子は急にタラタラと眩暈が生じたが、必死な思いで再び、ひきつったような顔を文夫に向けた。
  5120.  美津子の可憐な花びらのような口から、銀子に強制されたとはいえ、そんなどぎつい単語が飛び出したので、さすがの吉沢も驚いた表情になる。
  5121. 「吉沢さん、そこにいると邪魔だわ。文夫さんのそこが美津子だってくわしく見たいわ」
  5122.  邪魔だからのけと美津子にいわれたようなもので吉沢は、へえーと感心した表情になって文夫の傍から身を引いた。
  5123.  文夫の視線と美津子の視線が一瞬、合致した。美津子の黒眼には涙が充満し、唇は口惜しさと哀しさを伝えるように小さく慄えて、許して、文夫さん、という美津子の必死
  5124. に詫びている気持は痛い位に文夫には伝わるのだ。遂に美津子の眼尻からは一筋の涙が頬を伝わって滑り落ちる。しかし、銀子や朱美がこの一瞬、静止した時間を乱すようにモソモソ動き出して来ると、美津子は文夫の視線に合わせていた視線をあわて気味に文夫の下腹部に向けた。
  5125.  文夫のその包皮より生肉を大きく突出させた肉棒が、熱気を帯びて膨らみ始めているのは、正面に立つ十八の乙女の全裸像の故に違いない。
  5126. 「男らしくて、立派だわ、文夫さん。美津子の裸を見て、そんなに硬くして下さったのね」
  5127.  それも銀子に強制された文夫に対するいたぶりの言葉だが、美津子はもう人間の意志を喪失させた気持になっている。
  5128.  文夫は美津子の全裸像を前にし、美津子のそんな誘いこむような声を耳に聞く。これは敵の仕掛けた罠なのだと下腹部のうづきから逃れようと懸命に緊縛された裸身をよじらせるのだが、それを逆に裏切るように下腹部は更に熱気を帯びて文夫は、窮地に追いこまれていく自分を口惜しくも感じとるのだった。
  5129.  朱美の口元に淫虐な笑いが珍み出た。
  5130. 「あら、お坊ちゃま。そんなにチンチンを硬くして、一体、どうするのよ」
  5131.  何とか自分から淫情を振り切ろうとして、緊縛された上半身と左右に割ってつながれた両肢とを交互によじらせ、猿轡された顔面を苦悶に歪める文夫をしばらく観察していた朱美は、吸い寄せられるように懊悩する文夫に近づいていく。
  5132.  朱美は悶え動く文夫の太腿の表皮を掌で微妙に、そして粘っこく撫で廻し、
  5133. 「お苦しそうね。何なら私がして差し上げましょうか」
  5134.  と、含み笑いしていった。
  5135.  女の掌が太腿、内腿を淫靡にまさぐるだけで文夫の下腹部は更に充血を早めた。
  5136. 「恋人の素っ裸を眼の前に晒されるなんて若い文夫さんにとっては一番、辛い拷問だわね」
  5137.  朱美は狡猾そうな表情になり、文夫の太腿を撫でさすっていた掌をそっと文夫の内腿深くへくぐりこませると屹立した肉棒の下へ滑らせ、たれ袋をそっと掌の上へ乗せ上げるのだった。
  5138. 「まあ、あったかなタマタマだこと」
  5139.  掌の上でそれを転がせるようにすると文夫は猿轡の中で、ううっ、と獣のようなうめきを洩らした。文夫の鼻から口までをぴっちり覆っている猿轡は美津子の姉、京子の水色地のパンティだが、文夫の唾液でべったり濡れている。
  5140.  朱美は掌の上の玉を転がすようにそれを軽く弄んでいるだけだが、文夫の肉棒はそれを敏感に反応させて一層の硬化と膨張を示し、包皮は更にはじけて薄紅く充血した生肉をはっきりと屹立させていくのだ。
  5141.  ふと、それを眼にした美津子は戦慄したようにブルッとしなやかな白磁の肩先を慄わせた。激しく浪狽したように火照った顔面をねじったが、そんな美津子に向かって文夫を弄んでいる朱美が、ね、美津子、と声をかけて来た。
  5142. 「これは一応、礼儀としてあなたの許可がいるわね。そら、こんなに文夫さん、硬く充血させているでしょう。かわいそうだからせんずってやろうと思うのよ」
  5143.  私が絞り出してやってもいいかしら、と失美がおかしそうに質問してくるのだ。
  5144.  美津子は反射的に、嫌よっと叫びかけたが、肩に手をかけている銀子の存在に気づき、ギューと唇を噛みしめる。
  5145.  悦子がそんな哀しげな美津子の眉を寄せた表情を下からのぞきこむようにして、
  5146. 「朱美姐さんに任しておきな。ああいう美少年には眼がないんだからね。こってり可愛がってドバッと射精させてくれるよ」
  5147.  と、からかうようにいった。
  5148. 「文夫さんには、文夫さんには、ひどい事をなさらないという約束じゃありませんか」
  5149.  美津子がフルフルと陶器のように白い華奢な肩先を慄わせてすすり上げながらいうと、
  5150. 「だって、あなたのような美少女の素っ裸をまともに見せられりゃ、若い文夫さんがこうなるのは当然じゃないの」
  5151.  と、朱美が反撥するようにいった。
  5152. 「あんまり、このまま我慢させると身体に悪いわよ。私が上手に絞り出させてあげるから、あなた、色っぽく腰をよじったりして文夫さんを挑発してよ。それが援護射撃というものでしょう」
  5153.  朱美は美津子にそう語りかけると、腰を据え直して遂に淫虐な行為を開始しようとする。
  5154.  そこへマリと義子がビールやピーナツを盆に乗せて入って来た。
  5155. 「あらあ、朱美姐さん、その美少年のせんずりかく気か」
  5156.  と、義子は頓狂な声をはり上げていった。
  5157.  朱美はチラと義子の方を見ると、
  5158. 「義子、乳液があったら持っといで」
  5159.  と、いって、桃色のシャツをかなぐり捨てるように脱ぎ、スカートのホックを外し始めた。
  5160.  朱美は如何にも玄人っぽい黒絹のスリップ姿になったので、
  5161. 「わあ、恰好いい」
  5162.  と、マリと悦子が手を叩いた。
  5163.  さあ、やってやるぞ、とばかり、朱美は黒いスリップの肩紐に手をやってから、腰をかがませるようにして剛い縮れ毛で縁どりされた文夫の肉棒を両手で包みこむようにつかんだ。
  5164. 「ううっ」と、文夫は水色地の猿轡の中で悲痛なうめきを洩らした。
  5165. 「さ、優しくモミモミしてあげるから、前に晒されている恋人の素っ裸をよく見て、気分を出すんだよ」
  5166.  両手の掌で包みこむように握ったそれを朱美がゆっくりしごき始めると、前面に晒されている美津子は恐ろしいものから逃れるように、おびえ切った顔面をさっと横へねじった。
  5167. 「お、お願いです、銀子さん。文夫さんをあんなむごい目に合わせないで」
  5168. 「何いってるんだよ。あれで結横、文夫は悦んでいる苦だよ。そら、御覧、もうあんなに大きくしちゃってるじゃないか」
  5169.  銀子は涙を頬へ滴らせている美津子の頬に手をかけてぐっと顔を上げさせる。
  5170. 「そら、あんただって、今まで文夫をけしかけておきながら手を引いちゃ駄目だよ」
  5171.  銀子は因果を含めるように美津子を説得している。あれで文夫さんが射精をして見せりゃ吉沢さんの機嫌がよくなるというものさ。文夫さんがあんたの前で恥をさらせば吉沢さんは単純な人間だから恋仇に勝った気分になるんだよ、ね、わかるだろう、と、銀子が諭すようにいった時、ビールの入ったコップを持った吉沢がフラフラ、美津子の方に近づいて来た。
  5172. 「へへへ、朱美って女は何をさせても器用な奴だな」
  5173.   もうすでに酒気を帯びている吉沢は朱美にいたぶられている文夫の方を痛快そうに指さしていった。
  5174. 「おめえもおびえていちゃ仕様がねえよ。さっきみたいに文夫を煽り立てるんだ。おめえもこうなったら、やくざの情婦になったつもりで文夫をいたぶり抜くんだ」
  5175.  吉沢が鋭い口調でいうと、銀子が、よし、一つ、こういう方法でやってみようじゃないの、と、狡猾そうな顔つきになって吉沢にいった。文夫を煽り立て、燃え上らせる手段として、その方法を吉沢と銀子に説得された美津子は耐えようのない屈辱感に打ちのめされたよう深く首を垂れさせた。
  5176. 「そんな風におめえが努力して文夫をキリキリ舞いさせてくれりゃ、それにて今夜は無罪放免だ」
  5177.  
  5178.  
  5179.     稚兒いじめ
  5180.  
  5181. 「こんな風に稚兒いじめをするのは久しぷりだよ」
  5182.  と、朱美実は乳液を持って走り込んで来た義子にいった。
  5183.  義子は熱っぽく息づきながら文夫の額に汗を滲ませる苦悶の表情と、切なげによじらせている割られた太腿、そして、朱美の手の中で弄ばれている熱気を帯びた肉棒などに血走った眼を走らせている。
  5184. 「ハンサムやなあ。こんな美少年、うちも久しぶりで見たわ」
  5185.  それに、せんずられて歪め顔る顔は女より色っぽく見えるわ、と、息をはずませて義子はいった。
  5186. 「それに、朱美姐さんのテクニック、うまいもんやなあ。昔、プロやってはったんか」
  5187. 「一々、うるさいね。こっちだって相手がこういう可愛い坊っちゃんだから気分を出しているんだから」
  5188.  ますます情感が昂り、更に包皮がはじけて綺麗な紅色の生肉を生々しく露呈させて来た文夫のその先端を、朱美は片手で包みこむように持ち、片手でたれ袋から附根のあたりを粘っこく撫でさするようにしながら、ゆるやかに揉みはぐす。その技巧は明らかにプロのそれだと義子は舌を巻くのだった。
  5189. 「どう、文夫さん、気持がいい?」
  5190.  朱美はソツのない鮮やかな指さばきで激しく揉みほぐした次にはゆるやかな掌の愛撫に切りかえて、ふと、顔面を火のように燃えたたせている文夫を見上げて、誘いこむような甘い声音でささやくようにいうのだ。
  5191. 「ねえ、いきたい?」
  5192.   文夫は水色地の猿轡を噛まされた顔面を狂気したように振っている。こんな卑劣な女共の玩具になってそんな醜態を晒してなるものかと、文夫は、口を封じられているその汚辱の猿轡をキリキリ歯で噛みながら、腰骨までも痺れさせて来る情感を必死に耐えているのだ。
  5193. 「朱美姐さん、乳液を塗りつけまひょか。わてに塗らしとくなはれ」
  5194. 「まだ、いいわよ。こっちも少しは楽しまなきゃ」
  5195.  朱美は熱気を帯びて怒張した肉塊からふと手を離すと、文夫の左右に割った両腿に両手を巻きつかせるようにして腰を前にかがませた。
  5196. 「うう、うっ」と、文夫は眉をギューと寄せ、苦しげに首を激しく振った。
  5197.  朱美の唇がはっきりと自分の怒張した肉魂に触れて来たのを文夫は知覚し、抜き差しのならぬ汚辱感に猿轡の中で鳴咽の声を洩らしている。失美は大きくのぞかせた舌先で熱い生肉の先端をくすぐるように舐め起した。次に亀頭の先端から茎の中程にかけて舌先を這わし、唾液をすりつけるように舐め廻すと、指で鉄塊のように硬直した肉棒を押し上げ、その裏側にも、たれ袋にもチロチロと小刻みに舌先を這わしていく。
  5198.  文夫はもう抜き差しならぬ場面へ追いこまれている。緊縛された裸身を悶えさせようにも、もう力が入らない。文夫のそれを唇で舌で粘っこく愛撫している朱美を義子はとろんとした眼差しで羨ましげに見つめていたが、ふと、前面に晒されている美津子の喘ぎながらの甘い声が聞こえたので、あわてて視線をそちらに向けた。
  5199. 「ねえ、文夫さん。見て」
  5200.  両肢を割って柱に立位でつながれている美津子は、熱っぽく喘ぎながら、くなくなと裸身をよじらせている。
  5201.  柱の後ろから麻縄に緊め上げられた美津子の、白桃に似た柔らかい両乳房に両手を伸ばし、白い丘をゆっくりと押し上げ、可憐な薄紅色の乳頭を指でつまんでコリコリと揉み上げているのは悦子であった。そして、美津子の膝のあたりに腰をかがませ、美津子の両腿の附根の溶けるように淡い茂みを鳥の羽毛を使って梳かすように撫で上げているのは銀子であった。
  5202.  義子は立ち上って横にねじっている文夫の顔面を、両手で支えると強引に正面に向けさせようとした。
  5203. 「はら、恋人が見てほしいと頼んでるがな。はっきり眼を開いて見たらんかい」
  5204.  文夫はふっと眼を開き、淫らな触手に身を揉む美津子のあられもない姿態を見てハッとした表情になる。
  5205.  朱美もそれに気づいて文夫の股間から身を引くと、銀子達の狙いに気づき、
  5206. 「じゃ、美津子さんのあの、あられもない姿を見ながら射精しましょうね」
  5207.  といって、乳液をたっぷりと掌に落とし、手馴れた手管で火のように怒張した文夫の肉棒に塗りつけていくのだった。
  5208. 「ね、お願い、文夫さん。美津子を愛して下さるなら、こんな美津子をしっかり見ながら射精して」
  5209.  と、美津子は涙に濡れてキラキラ光る黒眼を文夫に向けながら薄紙を慄わせるような声音でいった。
  5210.  文夫はもう義子に強制されるまでもなく、何かにとり憑かれたような放心の表情で、美津子の裸身へ視線を釘づけにしている。蛇に見込まれた蛙のように、文夫は淫魔にとり憑かれたような美津子から逃れられなくなっているのだ。美津子が鬼女達に強制されてそんな淫魔を演じているのはわかっている。だが、文夫の男の性のうずきはそうした事は超越して、美津子の白磁の美しい裸身と、その淫らな悶えを前にしてもう限界に到達しているのだ。
  5211.  朱美は身体を斜めに文夫につけて、美津子の眼に文夫の全裸像がはっきり目撃出来るようにしてから、片手だけを差しのべ、息苦しいばかりに火のように熱く、高々と屹立した文夫の肉棒に甘い、ゆるやかな愛撫を加えている。
  5212.  また、銀子も美津子の横に身を低め、片手に持つ羽毛で美津子の煙のように淡くて溶けるような繊毛をさすり上げ、また、指先をふと粘膜に含ませるような微妙な愛撫をくり返すだけであった。
  5213.  涙を潤ませながら、必死な眼差しを向け合っている美津子と文夫を、銀子と朱美は頼もしげに交互に見くらべている。
  5214. 「もっと、もっと、彼氏を挑発しなきゃ駄目よ、美津子。何時までもこんな風に向き合っているのは、あなただって辛いし、恥ずかしいでしょう」
  5215.  と、背後から美津子の乳房を甘く揉み上げている悦子が、文夫に対する挑発の毒っぽい手管を美津子の耳に口を寄せて教えている。
  5216. 「もう彼氏、あなたの魅力に悩殺されて、いきかかっているわよ。がんばるのよ、美津子」
  5217.  美津子は凍りついた表情になって、
  5218. 「ねえ、まだ、射精出来ないの、文夫さん。そんなに美津子の身体って魅力がないのかしら」
  5219.  続いて美津子は胸が張り裂けそうな屈辱を必死にこらえながら、
  5220. 「美津子なんか、もう、文夫さんの突き上げているそれを見ただけでぐっしょり濡らしているのよ」
  5221.   と、声を慄わせていった。
  5222.  文夫の生々しく怒張した肉塊をゆるやかに片手で操作していた朱美は腰を浮かすとせかせるように義子にいった。
  5223. 「そこの丼鉢で受けておやり。先走りの涎を出して来たから、もうすぐ射精が始まるよ」
  5224.  義子はうろたえ気味に欠けた丼鉢を拾い上げると文夫の割った両腿の間へ差し入れた。
  5225. 「美津子に証拠として見せてやらなきゃならないからね。美津子の愛の努力なんだから」
  5226.  朱美がタスクス笑ってそういうと、文夫は水色地のパンティで覆われた顔面をひきつらせ、後手に縛られた上半身と下肢とを交互に狂おしくよじらせた。美しい女の容貌にも似た美少年が、いや、いや、と身をすねている風情は嗜虐趣味者の銀子や朱美の情念を掻き立てる事になる。
  5227. 「文夫さん、私から眼をそらさないでっ、私をしっかり見つめながら出してっ」
  5228.  と、美津子は銀子と悦子に強制された言葦を、狂ったように首を振りながら吐きつづけるのだった。
  5229.  それにつられたように銀子がそわそわと腰を上げて、がなり立てるように文夫にいった。
  5230. 「お待ち、文夫さん。今、美津子がね、文夫さんにもっと美津子の羞ずかしい姿を見せたいというのだよ。そしたら、きっと文夫さん。出して下さるに違いないって」
  5231.  銀子は狂女のように甲高い声で笑いながら悦子と一緒に美津子の左右へ腰をかがませ、美津子のじっとり濡れた薄い繊毛をさすり上げ、悩ましい乙女の桃の切筋を露わにさせた。
  5232. 「わかるかい、文夫。よく、御覧。この可憐な割れ目まで開いて、処女の花の蕾まで見せれば文夫さんはきっと悦んで一気に出して下さるだろうと。ほんとに美津子は可愛い事をいうじゃないか」
  5233.  銀子は文夫をいたぶっている朱美と眼を見合わせて笑い合った。
  5234.  朱美は美津子を責める銀子と呼応して文夫を責めているわけで、八合目から九合目に追い上げた文夫の熱を操作一つで八合目から七合目にまで下げる手管を心得ている。
  5235.  そら、と銀子に催促された美津子は緊縛された上半身を反らせ、ぐっと腰部を前に突き出すようにした。
  5236. 「さ、文夫さん、愛するあなたには何もかもお見せするわ。美津子はもう羞ずかしいなんて思わない。さ、見て」
  5237.  銀子と悦子の指先がそれに触れてくると美津子は左右にピーンと張った伸びのある両肢を狂おしくうねらせながら、
  5238. 「もっと、もっと、拡げて文夫さんにお見せして」
  5239.  と、自棄になったように叫ぷのだ。
  5240.  それを合図にしたように朱美はもう限界に達したような深々しいばかりに吃立した熱い肉棒をしっかりと握りしめ、はずみをつけてしごき始める。
  5241.  忽ち、耐えようのない限界に到達した文夫は汚辱の猿轡の中でむせ返すようなうめきを洩らした。
  5242.  美津子の前で、ズベ公達が環視する中で醜態を演じる屈辱感に、もう甘んじるより手はないと覚悟した文夫の耳に、
  5243. 「ねえ、見て、文夫さん、これが、美津子のク、クリトリス」
  5244.  と、息も絶え絶えの美津子の声が聞こえて来る。ふと瞼を開いて文夫は、その声の方にねっとり潤んだ瞳を向けた。
  5245.  ぐっと前面に腰部を押し出している美津子。乙女の秘裂を押し開げた銀子と朱美の指先によって花襞は圧縮され、絞り出されるように、あるか、なきかの徹妙な肉芽がその先端をのぞかせている。それを眼にした文夫の下腹部はジーンと痺れ、被虐性の甘い悩ましさを伴った快感が腰骨を突き破るようにズキン、ズキンとこみ上げてきたのだ。
  5246. 「ひゃあ」
  5247.  と奇声を発して丼鉢をそこへ当てがっていた義子は尻餅をついた。最初にピュッ、と発射された文夫の熟い体液は丼鉢の上を通過して、それを両手で支えていた義子の鼻の頭に直撃したのだ。
  5248. 「な、何さらすんや。ちゃんと丼鉢に入れんかい」
  5249.  と、眼をつり上げた義子の額にピュッと文夫の第二弾が炸裂する。
  5250.  それを見た朱美は銀子達の方を向いて、
  5251. 「やったわよ」
  5252.  と、勝誇ったような声を出した。
  5253.  銀子も悦子も歓声を上げたが、美津子はその華奢な白磁の裸身を慄わせて号泣する。このような野卑な連中の取り囲む中で言語に絶する羞しめを受けた文夫の屈辱、また、それを手助けして文夫に一層の汚辱を与えたのは自分ではないか、そう思うと美津子はこのまま石にでもなりたい狂おしい気持だった。
  5254. 「何で泣いたりするんだよ。文夫を射精させたのはあんたのお手柄じゃないか」
  5255.  と、銀子は肩先を慄わせてむせび泣く美津子の耳を邪険に引っ張った。
  5256. 「さ、続けないか。こんな風に文夫にハッパをかけるんだよ」
  5257.  銀子に叱咤された美津子は涙をさっと振り切ったように蒼ずんだ顔を正面に向けた。
  5258. 「もっと出して、文夫さん。うんと出しで文夫さん。美津子を愛しているなら、絞り尽くすようにうんと出して」
  5259.  ズベ公達は手を叩いて笑いこけた。
  5260. 「やっぱり若いだけに元気がいいわね。ピュッ、ピュッと三段発射よ」
  5261.  朱美は精も魂も尽き果てたようにがっくりとなり、汚辱の猿轡の中で鳴咽の声を洩らしている文夫を頼もしげに見つめていった。
  5262.  
  5263.  
  5264.  
  5265. 第二十一章 一千万円の身代金
  5266.  
  5267.  
  5268.     正気づいた小夜子
  5269.  
  5270.  田代と森田は、昏睡している小夜子の寝顔を、うっとりした表情で見つめている。
  5271.  夜毎に下りる白露に育まれた白い花のような小夜子の美貌に、田代も森田も圧倒された気分になっていた。
  5272. 「美人だな。さすがは村瀬宝石店の箱入り娘だ。宝石の感じさえするじゃねえか。ねえ、社長」
  5273.  森田が田代の顔を、うかがうようにしていう。
  5274. 「うん。それに、身体つきもすばらしく均整がとれているよ。しかし、いくら何でも、この令嬢を森田組の手で仕込みあげ、ヌードスターにするわけにゃいかんだろう。それだけに村瀬に対しては一千万円ぐらい大きく吹っかけてみるか。どう思うかね。親分」
  5275. 「これだけの、すばらしい別嬪の身代金としちゃ、それでも安い位ですよ。もし、何だかんだと先方が出し惜しみすりゃ、へっへへ、このお嬢さんに稼いで頂きゃ、いいわけじゃありませんか」
  5276.  森田は舌なめずりをするようにして田代にいう。
  5277. 「どうです、脱がしましょうか。社長」
  5278.  何かに憑かれたように、小夜子の美しい寝顔に見とれている田代を見て、森田は、口に薄笑いを浮かべていった。
  5279. 「うむ、しかし、ちょっと気がとがめるな。たんまり金を頂く上に、眼の保養までさせてもらうというのは♢♢」
  5280.  最初、川田が、あの天性の美貌と気品とを兼ね備えた静子夫人を前にして、ふと、たじろぎ、いきなり暴虐の手を振るえなかった時と同様に、田代もまた、深窓に育った気品あふれる美貌の令嬢を眼の前にしては、おいそれと森田の言うようには手が出なかった。
  5281. 「なんです、社長。おじけづかれたのですかい。ハッハハ。何も丸裸にむきあげるというのじゃございやせん。上着ぐらい脱がしたって、罰は当たるめえと思うんですよ」
  5282.  森田はそういうや、牢舎の土間に敷かれたせんべい布団の上に横たわっている小夜子の傍に身をかがめる。
  5283.  薄暗く、かびくさい牢舎の中央に寝かされている小夜子の豪華な衣服と、きらめくような色の白さだけが、くっきり、そこだけスポットを当てられたような感じで浮かび上っている。
  5284.  森田は横臥している小夜子の肩に手をかけて、回転させるようにして、仰臥させる。美しい小夜子の頬が、がっくり仰向いた。かすかに小夜子は呼吸はしているが、意識は失っている。
  5285.  森田は、チャイナドレスのホックを外し、田代の方へ、手伝いませんか、というように眼くばせをした。田代は、ごくりと生唾をのみこみ、森田に協力すべく、彼の傍にしゃがみこむ。
  5286.  森田と田代が、まるで皮でもむくように、純白のチャイナドレスを剥ぎとると、甘い香料の匂いに包まれたスリップ姿の小夜子の肢体が、二人の眼の前にあらわになった。如何にも金持の令嬢らしい、しゃれた刺繍のはどこしてある眼にしみるばかりに白いスリップ。しかし、田代と森田の眼は異様な光を帯びて、小夜子の胸の深い谷間に向けられている。
  5287.  乳房の見事さを想像させる、そのあたりに眼をやった二人は、気を失ったまま発散させる小夜子の天性の魅力に官能を昂らせたのか、モソモソと動き出し、ストッキングを脱がせ始めた。
  5288.  白い芙蓉の花を思わせる乳白色の艶やかな小夜子の内腿が、田代の眼に痛く突きささるように映じた時、小夜子はふと正気づき、おぼろげな視線を自分へのしかかるようにしている田代と森田の二人に向けたのである。
  5289. 「ああっ」
  5290.  小夜子は、電気に打たれたように上体を起こし、美しい顔を恐怖にひきつらせた。
  5291. 「あ、あなた達は♢♢」
  5292.  一体、何者か、といおうにも恐怖に声がつまって出てこない。はっきりと正気にもどった小夜子は柳眉をあげて、田代と森田を睨みつつ、よろよろと立ち上る。
  5293.  二人の手を逃がれて、走ったものの、わずか四、五坪のせまい牢舎の中。小夜子は、突き当たりの壁を背にして、じわじわ追ってくる田代と森田に、血走った必死の限を向けるのであった。
  5294. 「あっ」
  5295.  小夜子は、再び、恐怖の叫びをあげた。今まで、突然の事で気持が顛倒し、気がつかなかったが、何時の間にか、スリップ一枚のあられもない姿に、されてしまった事を知ったのだ。
  5296.  かっと体中が羞恥のために熱くなり、思わず両手を胸の上で交錯させた小夜子は、今にもベソをかきそうな表情で、その場に小さく身をかがめる。
  5297.  そんな小夜子に眼を向けながら、森田は、顔中しわだらけにしていった。
  5298. 「へっへへ、わっし達は、何も、お嬢さんを取って喰おうというのじゃありませんよ。苦心して、お嬢さんを誘拐したというのは、お嬢さんのパパさんから、たんまりとお金を頂きたいからなんですよ」
  5299.  それに、つけ加えて、田代が、おとなしくいわれた通りに父親に電話して、一千万の金を今夜中に作って、こっちへ渡すようにしてくれれば、あんたも、あんたの弟さんも無事ここから家へ帰してやる、という。
  5300. 「嫌なら嫌でもいいんだぜ。お嬢さんの、その美しい身体を元手にして、俺達は、それぐらいの金、稼ごうと思えば稼げねえ事はないんだからね」
  5301.  と森田は更に浴びせるのだった。そして、その稼ぐ方法について、小夜子に話し出す。
  5302.  身の毛もよだつような、彼等の計画を開かされて、小夜子は気が遠くなりかけた。
  5303. 「ふ、文夫は何処にいるのです。逢わせて、逢わせて下さい」
  5304.  小夜子は、弟の文夫が、この悪魔のような連中の中で、何かひどい目に遭わされているのではないかと直感的に感じたのである。
  5305. 「文夫は、どうも聞きわけがないので、俺の乾分達に痛めつけられているようなんだよ。お嬢さんが俺達の言いつけ通り、電話をパパにかけて、金を作るようにしてくれりゃ、文夫を痛めつけている乾分達をなだめる事が出来るんだがな」
  5306.  森出が口元を歪めながらそういった。
  5307.  小夜子は、せっぱつまった顔つきをして、うなずく。とにかく家へ電話して、この恐ろしい場所から解放されたい。小夜子はいたたまれない気持であった。
  5308. 「じゃ、こちらへどうぞ、お嬢さん」
  5309.  森田と田代は、牢の扉を内から押し開き小夜子を招く。
  5310.  小夜子は、小刻みに震えながら立ち上り、両手を胸のあたりで交錯させつつ、腰をかがめて歩き出したが、土間の隅に押しやられている自分の着ていたチャイナドレスに眼をやると、素早く、それを身につけようとして手を伸ばす。
  5311. 「おっと待った」
  5312.  森田は、電光のような早さで、小夜子のドレスをひったくる。
  5313. 「一応、これはこっちへ預らせておいてもらうぜ。この座敷から、逃げ出されたら元も子もなくなっちまうからな。まさか、大家のお嬢さんが、スリップ一枚のまま、外へ逃げ出すてな事は出来ねえだろう」
  5314.  さあ、行くんだ、と小夜子は森田に後ろから白い艶やかな肩を突かれ、よろよろとつんのめるように前へ歩き出した。
  5315.  
  5316.  
  5317.     眼の保養
  5318.  
  5319.  廊下の中程に、備えつけられてある電話の前へ小夜子を押しやるようにして、森田は小夜子に自宅へ電話させた。
  5320.  スリップ姿の小夜子は、その場へちぢこむようにして受話器を耳に当てる。
  5321. 「♢♢お願い、パパを呼んで頂戴」
  5322.  電話に出た女中に小夜子は、震え声でいった。驚いた女中がすぐに小夜子の父親に連絡をとりに走る。
  5323. 「どうしたんだ、小夜子。一体、ゆうべは、どこに泊ったのだ。文夫も帰って来ないのだぞ」
  5324.  小夜子の父親、村瀬善吉の甲高い声が受話器の中にひびいてくる。
  5325. 「パパ、お願い。一千万円のお金を小夜子と文夫のために作って頂戴。今夜の八時に、新宿のコマ劇場の前へ、それだけのお金を持って来て下さらないと、私達、どんな目に遭うかわからないのです。ね、パパ、お願い♢♢」
  5326.  そこで、森田がいきなり横手から受話器をもぎとって、ドスのきいた声で小夜子の父に対して溶びせかけるようにいう。
  5327. 「いいか、小夜子のいった通りにしねえと、小夜子は血の気の多いやくざ達の嬲りものになるんだぜ。あんた一人が一千万円入りのカバン一つを持ってやって来ればいいんだ。わかったな」
  5328.  そういい捨てるや、ガチャリと、森田は電話を切ってしまった。
  5329. 「ごくろうだったね。じゃ、お嬢さん、こちらへどうぞ」
  5330.  森田は、ニヤニヤしながら虚脱したような顔つきになっている小夜子の肩へ手をかけるのだった。
  5331. 「ま、とりあえず、この部屋にでも入っていただこうか」
  5332.  田代は、すぐ近くの部屋を開けた。
  5333.  そこは、青葉の庭に面した明るい部屋で、床には青い絨毯が敷かれてあった。絹の小布団が取りつけてある肘掛椅子が三脚ばかりテーブルのまわりに配置酎置されている。
  5334. 「ここは来客用の寝室で、上等な部屋さ。大家の令嬢を地下室や物置に監禁するのは残酷だからな。お嬢さんには、この特別室をお貸しするよ」
  5335.  田代はそういいながら、部展の入口あたりで震えつづけている小夜子の背を突き、壁に沿って並んでいる木製の椅子の一つを指さし、そこへ坐って頂きましょうか、と小夜子をうながすのだった。
  5336. 「さ、早くいわれた通りにするんだよ。お嬢さん」
  5337.  モタモタしている小夜子をせかせて、椅子に坐らせた森田は、
  5338. 「社長、そのテーブルの下に麻縄が一本あります。取って下せえ」
  5339.  という。
  5340.  田代は、うなずいてテーブルの下の縄を引っぱり出した。
  5341. 「な、何を、なさるのですっ」
  5342.  田代から受け取った麻縄をしごきながら、森田は小夜子の胸のあたりに当てている両手を払いのけるようにして、椅子の背へねじ曲げようとしたので、小夜子は、反射的に身体を硬化させ、悲鳴をあげた。
  5343. 「何も、そんなに大げさに驚かなくてもいいだろう。ズラかられないよう念のため、椅子に固定しておくんだよ」
  5344.  森田のしようとする事に田代も手伝い、必死に暴れる小夜子を椅子に押さえつけるようにして、遂にその茹で卵の白味のように艶のある小夜子の両腕を椅子の背へ強引にねじ助げ、左右の手首に巻きつけた縄をたぐり、つなぎ合わせてしまうのだった。小夜子は、後手錠をかけられた恰好になり、
  5345. 「嫌よ、嫌です。解いて、解いて下さい!」
  5346.  声をはりあげて、両足をばたつかせる。そのために、スリップの裾がはね上り、乳白色のむっちりした太腿、内腿が大きく露出してしまうのだった。
  5347. 「おや、こいつは、たまらねえ眺めだな」
  5348.  森田が眼をギラギラさせて、あられもない姿態を演ずる小夜子の、そんな状態を凝視し始める。
  5349.  小夜子は、無意識のうちにとった自分の姿態に気づき、あっと顔を赤らめ、ぱったりと両腿を閉ざしたが、森田はあまった麻縄をたぐりつつ、身をかがめて、小夜子の両肢を左右の椅子の脚へ、別々に縛り止めようとするのだ。
  5350. 「な、何をなさるの!」
  5351.  小夜子は恥ずかしさと怒りとで、再び、かっと頭に血がのぼり、逆上したように両肢をばたつかせた。眼にしみるばかりの純白のパンティまでが、まくれ上ったスリップの裾からとうとう露出してしまう。その上、小夜子の必死のあがきも徒労に終わる。森田は、田代と手分けして、遂に小夜子の両足首を、がっちりと椅子の二つの脚に縛りつけてしまったのだ。
  5352. 「助けて。誰か、助けて下さい!」
  5353.  小夜子は、それでも身をよじるようにして悲鳴をあげつづけるのだった。
  5354. 「丸裸にされたわけじゃなし、何もそうがなりたてる事はないじゃないか」
  5355.  田代は、額の汗をぬぐいながらいった。
  5356. 「もし、このお嬢さんを仕込みあげる事になったら、全く手こずりますぜ。いい所のお嬢さんであればあるはど、苦労が多いってわけでさあ」
  5357.  森田はそういいながら、ズボンのバンドにはさみこんでいた手拭を引きぬくと、鷲が小鳥に飛びかかるような素早さで、小夜子に迫り固く猿轡をはめてしまう。
  5358.  口を手拭で固く覆われた小夜子は、もうどうしようもないように、がっくり首を垂れて身動きしなくなってしまった。
  5359. 「へっへへ、あんまり世話をやかすものじゃないぜ、お嬢さん」
  5360.  森田は、顔を横に伏せ、とめどなく涙を流しつづけている深窓の美女を、しげしげと見つめ含み笑いをする。
  5361. 「だが、村瀬宝石店の御令嬢も、ずいぶんとすさまじい恰好になったものだな。何だか、こちとらも少し、変な気分になってきたぜ」
  5362.  小夜子の大きく乱れたスリップの裾。そして、その聞から、あらわに露出した白い艶のある、むっちりと肉のしまった大腿。そしてその元を包んでいる艶めかしい、縁に刺繍のほどこしてある純白のパンティなどを見ているうち、
  5363. 森田も田代も、官能の昂りをどうしようもないように、なってしまっていた。
  5364. 「せっかく、そこまで色っぽくなったんだ。もう少し、引き立つように細工してみようじゃありませんか。ねえ、社長」
  5365.  森田は田代の同意をうながして、小夜子に再び近づくと、いきなり、スリップの一方の紐をずり下げて、ブラジャーに覆われた一方の乳房をあらわにしてしまった。
  5366.  うっと小夜子は、猿轡の中でうめき声をあげ、椅子に固く固定されたまま、のたうち廻る。
  5367. 「どうせそうするなら、親分、スリップだけ全部とってしまおうじゃありませんか。その方が、もっと美しく見えますぜ」
  5368.  田代もつい引きこまれたように森田にいい、今度は自分が乗り出して、ポケットからナイフを取り出し、小夜子のスリップのたすきをぶっつり切ってしまった。
  5369.  恐怖と屈辱と羞恥にのたうちまわる小夜子をアブナ絵的に嬲りつづけ、寸時の後には、田代と森田は、ズタズタにひきさかれたスリップを手にして立ち上り、ブラジャーとパンティのみを許された小夜子を血走った眼で見下ろしていた。
  5370. 「ずいぶん、お楽しみですわね」
  5371.  突然、後ろの方で声がし、田代と森田は驚いて振りかえった。銀子がニヤニヤ笑って立っている。
  5372. 「なんだ、銀子か。今までどこにいたんだ」
  5373. 「隣の郡屋ですよ。社長や親分の声がしたので、一体、何をしているのかと、ちょいとのぞきに来たんですよ。♢♢へえ、そのお嬢さんが文夫の姉なんですね。なるほど、聞きしにまさる美人ですわね」
  5374.  うむ、田代は薄笑いを浮かべながら、
  5375. 「このお嬢さんはな、まだ森田組の商品と決まったわけじゃないんだ。いいか、勝手に手を出して妙な事を仕込むんじゃないぞ」
  5376.  田代は、誘拐して来たばかりの令嬢を早速、森田と二人で、このようにいたぶっているのを銀子に目撃されて照れくさくもあり、きびしい口調で、そんな事をいった。
  5377.  森田も銀子に顔を向けて、
  5378. 「隣の部屋で、そういや、さっきからガタゴト音がしているが、一体、何をしてるんだ」
  5379. 「ふふ、ちょっと、この御令嬢の前ではいえない事よ。じゃ、失礼。社長、すみませんがここにあるウイスキー下さいね」
  5380.  銀子は、棚の上にある来客用のウイスキー瓶をとり、ニコリと笑って外へ出て行く。
  5381. 「あきれた奴だ。昼間から、酒を飲む気でいやがる。だから、ズベ公達ってわけだが」
  5382.  森田は苦笑して、田代を見た。田代も銀子の急の闖入で、燃え立って来た火に水をかけられたような苦々しい気分になり、ふと、時計を見て、
  5383. 「じゃ、親分。一千万円の大勝負についての細かい打ち合わせを、しておこうじゃありませんか」
  5384.  そして、中年の悪党は、扉を開け、作戦を練るために、戻って行く。部屋を出る時、森田は椅子の上で、屈辱の涙にむせんでいる小夜子に対し、こういい残した。
  5385. 「じゃ、お嬢さん。今夜、大金が転がりこんで来たら、ゆっくりとまたお相手をしてあげるからね。おとなしく待ってるんだよ」
  5386.  バタンとドアがしまり、田代と森田が高笑いしながら足音が遠ざかっていく。
  5387.  小夜子は、悪党二人が眼の前から、消えた事に安堵したが、何時また彼等は、ここへ引き返して来るかわからないと考えると、我が身の恥ずかしさも忘れて、何とか縄目から脱出しようと必死に身をくねらせ、椅子の足に固く縛り止められている両肢を、悶えさせるのだった。
  5388.  突然、隣の部屋で、そんな小夜子の努力を嘲笑するかのような笑いがどっと起こった。
  5389.  ほっとして、小夜子は静止する。今まで恐怖の連続で、気がつかなかったが、隣の部屋には、やくざや、ズベ公達がつめかけていたらしい。小夜子は、ぞっとした気分になり、身動きする事をやめて、耳を澄ませた。
  5390. 「若いだけあって、すごく元気がいいわ。ふふふ、どう、お坊っちゃん。すっとしたでしょう」
  5391.  ゲラゲラ笑いながらいっているのは、朱美の声だ。銀子、悦子の哄笑が、それに続いている。
  5392. 「海千山千の朱美にかかっちゃ、どうしようもないわね。だけど、すごい勢いだったじゃない」
  5393.  キャッキャッと笑う銀子と悦子である。
  5394. 「どう、吉沢、川田両親分。先程からずいぶんとご精が出るけど、美津子の方はどんな具合なのよ」
  5395. 「へっへへ、どうもこうも、ちょっと、これを見てみな。文夫の後を追うのも時間の問題ってところさ」
  5396. 「まあ、こっちもすごいわ。ホホホ、嫌だ嫌だと口ではいっても、やっぱり、美津子、あんた、こういう事が好きなのね」
  5397.  という銀子に続いて、朱美の甘ったるい声が流れて来た。
  5398. 「ねえ、美津子。そんなに鼻ばかり鳴らしていず、嬉しいわ、とか幸せだわ、とか何とかおっしゃいよ」
  5399.  ♢♢隣の部屋から洩れてくるズベ公達の言葉を聞く小夜子。どのような光景が隣で展開しているか。もとより想像もつかなかったが、文夫と美津子が何か、やくざとズベ公達の間で悪どい責めにかけられている事はわかった。恐ろしさと怒りに、椅子の脚につながれている小夜子の雪のように白い内腿の筋肉がピクピクと痙攣する。
  5400.  突然、美津子の肺腑をえぐるような声が隣の部屋で起こった。
  5401. 「ふ、文夫さんっ、許して頂戴」
  5402.  それは、断末魔を告げるようなうめきに似た声であった。
  5403.  再び、どっと、ズベ公達の哄笑が巻き起こった。
  5404.  
  5405.  
  5406.     嵐のあと
  5407.  
  5408.  テーブルの上へ並べられたコップになみなみと注がれる淡泊色のウイスキー。
  5409.  銀子は、その一つ一つを「お疲れさま」などといいながら、吉沢や川田達にくばって廻っている。
  5410. 「お坊っちゃんとお嬢さんは、このままにしておくのかい」
  5411.  と朱美がいうと、銀子が、
  5412. 「そうだね。もうこれで二人とも逢えなくなるかも知れないのだから、しばらく、寄り添わせておいてやろうよ」
  5413.  成程、銀子の指示を受けた川田と吉沢は、天井の梁へ太い縄をひっかけるべく椅子を重ねて、その上へのぼった。
  5414.  バラリと二本の縄がからみ合うようにして天井から垂れ下がったのを見たズベ公達は、それぞれ二手に別れて、文夫と美津子の足枷を外し、その一本一本に縄尻をつなぎ止めるべく、押し立てて行こうとする。
  5415.  精も根も尽き果てたように美少年と美少女は、反抗する気力もなく、ぐったりしたままやくざとズベ公達の、されるがままになっている。文夫と美津子の両腕を固く後手に縛っている縄尻は、天井から垂れ下がっている二本の縄に、それぞれつなぎ止められた。
  5416.  完全に放心してしまっているような二人であったが、若々しい皮膚が接触すると、文夫も美津子も、ほっとして、互いに顔を伏せ合い背を向け合ってしまう。
  5417. 「遠慮する事はねえぜ。もっと、ぴったり体を寄せ合ったらいいじゃないか」
  5418.  川田は身体を硬くしてしまった二人を面白そうに見て揶揄した。
  5419. 「そうよ、お尻を向け合っていたって、つまんないじゃない。まっすぐ向き合いなよ」
  5420.  と銀子もからかう。
  5421.  身動きすれば、肩とか背とかが接触し、それを恥じて、再び、身をよじる美少年と美少女は、何ともいじらしい風趣に、見つめている悪鬼達の眼に映ずるのであった。
  5422.  今の感激をお互いに語り合うがいいわ、と銀子が笑い、さあ行こう、と一同を見廻すと朱美がいった。
  5423. 「だって、姐さん。この二人、このままにしてほっておくと、変な気持になってしまうんじゃない。ここで美津子に浮気されちゃ吉沢兄さん、たまったもんじゃないわ」
  5424.  そりゃそうだ、と吉沢はうなずき、背中合わせにして、二人を縛りつけておくべく、柱の下あたりに散らばっている麻縄を取りあげたが、川田がそれを止めて、
  5425. 「ちょっと待ちなよ。腰のあたりが自由だからといっても、二人ともがっちり後手に縛られているんだ。そんな器用な真似が出来る筈はねえよ」
  5426.  だがよ、と吉沢は口を歪めた。
  5427. 「一心通れば、岩に矢のたつためしあり、というぜ。若いんだから、何をしでかすかわからねえ。この若造に初物を喰われちゃ、たまらねえからな」
  5428.  それならよ、川田はニヤリと笑った。
  5429. 「背中合わせに縛っておくなんて芸のない事をするより、川田式縦縄をかけておきな。そうしておきゃ立派な貞操帯だ」
  5430.  そいつは名案だ、吉沢もズベ公達も北叟笑む。その縄のかけ方の説明を川田から聞いたズベ公達は、歓声をあげて、手に手に長い麻縄を持ち、屈辱の極に打ちのめされてしまったような状態の文夫と美津子の周囲を埋めた。
  5431.  文夫に縦縄をキリキリかけているのは、悦子と朱美。臍を中心に菱形に縄をかけた二人のズベ公は、あまった縄尻をたぐりながら結び輪を一つ作りあげた。
  5432. 「♢♢な、何をするんだ」
  5433.  文夫は、ズベ公達のしようという事にさからつて勝を振ったが、それは、最初のように激しい魅抗ではなく、如何にも敗残者めいた哀れなあがきであった。
  5434. 「駄目よ」
  5435.  朱美と悦子は、キャッキャッ笑いながら、遂に仕上げると、うしろに廻って、力一杯縄をしめ上げ出した。
  5436. 「ホホホ、うまくいったわ」
  5437.  縄止めを終えた朱美と悦子は、改めて前へ廻り、しげしげ見つめて、吹き出すのだ。
  5438.  美津子の方も、白い弾力のある腹部に黒ずんだ麻縄をキリキリかけられている。可愛い臍を中心に菱形に縄がけをしている銀子に川田も手伝って、あまった縄尻をしごき、小さな結び玉を作り、銀子に渡すのだった。
  5439.  涙も潤れ果てた美津子は、一切を断念した心で固く眼を閉じ、かすかに息づいている。
  5440.  暴虐の嵐で、遂に心をゆすぷられ、それを憎悪する心とはうらはらに、あのような、みじめな敗北の姿を赤裸々にさらけ出してしまった美津子は、今更、抵抗する気力のあろう筈はない。
  5441. 「文夫さんも、おとなしく縄をかけさせたのよ。さあ、美津子」
  5442.  銀子は、ぴったりと閉ざしている美津子の太腿あたりを指でつついていった。
  5443.  ぐずぐずするんじゃないよ、と銀子は邪慳にいって、ピシャリと今度は美津子のふっくらと丸味を持った白い尻を平手打ちした。
  5444.  美津子は、ふっと美しい瞳を開き、哀願するような、ベソをかくような、またたきをして銀子を見た。
  5445. 「今更、恥ずかしがる事はないだろう。あんな風になった身体を皆んなに、はっきり見せちまったくせに、もじもじするんじゃないよ」
  5446.  朱美や悦子も、美津子の側へ廻ってきて、はじき出すようにいうのだった。
  5447.  美津子は、再び、観念の眼を閉じ、白い頬を充血させて開き始めた。待ってましたとばかり三人のズベ公は寄ってたかって縄をかけ出す。美津子は、縦に縛るという意味がはっきりとわかり、その恐ろしい悪魔達の着想と身体の内部から噴きあげてくるたまらない屈辱に、思わず、
  5448. 「♢♢ああ、そ、そんな事♢♢嫌、嫌よっ」
  5449.  と消極的な抵抗を見せて身をよじったが、もう遅かった。キリキリと尻の方へ縄をたぐりあげた銀子が腰縄につなぎ始める。
  5450.  と、吉沢が鬼源達と灘んで、ニヤニヤしながら眺めていた川田が、
  5451. 「それじゃ割れ目からそれてるぜ。俺が作ってやった縄をうまく使わなきゃ、駄目じゃないか。下手クソ奴」
  5452.  と笑いながらいう。
  5453. 「おっとこれはいけない。やり直しだ」
  5454.  朱美が眺めて声をあげ、銀子は腰につないだ縄を解き出した。そして、再び、腰縄に縄をつないだが、川田は、首を振って、駄目だ駄目だ、と笑うのだった。
  5455.  二度も三度も、そんな事をくり返される美津子は、毛穴かち血が噴き出るばかりの屈辱感♢♢同時に奇妙なじれったさのようなものを感じ出したのである。
  5456.  そんな美津子の後ろへ廻り、引きしぼった縄を腰縄に固くつないだ川田は、前へ来て、美しい美津子の身体を唾を呑みこんで凝視する。美津子は、絶対服従の意志を表示するかの如く、端然として白磁のきらめく肌を縄にゆだねて立っているのだ。
  5457.  やくざもズベ公も吐息をつくようにして、美津子のすさまじい全身像に見とれている。
  5458.  だが、朱美や悦子は、美津子の容貌が、それだけ美しく、肉体がそのようにきれいであればあるだけ、倒錯的な嫉妬にかられるらしい。二人のズベ公は、そんな美津子の左右に立って、縄に上下をしめあげられている形のいい乳房をねたましげに指でつつきだすのだった。
  5459. 「貴女、最初、ここへ来た時はずいぶん固いおっぱいだったようだけど、今じゃ、こんなに柔らかく、ふっくらとしちゃってさ。全く魅力的になったじゃない」
  5460.  と朱美がいうと、悦子は、おっぱいだけじゃないわよ、お姐さん、といって笑うのだった。
  5461. 「どう、川田兄さんの作ってくれた縦縄のお味は?」
  5462.  朱美は更にそんな事をいって、無抵抗の美津子をからかうのだったが、美津子は、それに答える代りのように、背後にある文夫の背へ、自分の背をぴたりと押しつけたのである。
  5463.  美津子の急に示した大胆な仕草に、文夫の方がうろたえた位であった。美津子は、美しい眼を開いて、朱美や悦子をさげすむように見、文夫の背へ寄りかかるようにしたのだから、今までの美津子になかった、そんな妖艶なポーズを眼にしたやくざやズベ公は、眼をパチパチさせた。美津子にしてみれば、それは、この悪魔共に対する無言の抵抗だったのである。
  5464.  ♢♢私の肉体は、あんた達の思っている通りのものに、作り変えられるかも知れないわ。でも、美津子の心の中には何時も文夫さんが、入っているのよ。それだけは覚えておいて頂戴♢♢
  5465.  美津子は、そんな事を心の中でいったのであろう。そして、凄惨な感じさえする鋭い光のこもった、言いかえれば、妖艶なばかりに色っぽい眼つきに敵意を含ませて、ズベ公達を睨んだのである。
  5466.  野に育った新鮮な果実が、温室へ入れられ特殊な注射などによる方法で、次第に水々しく成熟の度を加えたように、美津子の熟し始めた肉体が、そのように妖艶なポーズをとらせてしまったともいえる。
  5467.  美津子に背を押しつけられ、こすりつけられる文夫は、それに煽られたように、いきなり、後手に縛られている手首を動かして美津子の、背に同じく縛り合わされている手首をまさぐり始めた。
  5468. 「美、美津子」
  5469. 「♢♢文夫さん」
  5470.  美少年と美少女はこらえたものが爆発したように激しく鳴咽しながら背といわず尻といわず、すりつけ合い、後手に縛られた手首をつかみ合うという哀れな抱擁を続けるのであった。
  5471.  唖然として、そんな二人を眺めていた川田と吉沢は、顔を見合わす。
  5472. 「へっへへ。こいつは、とんだ濡れ場だな。どうでい。やり切れねえ気分だろ。お互いに後手に縛られている身体がよ」
  5473.  川田は、声をたてて笑い出した。
  5474.  さて、と銀子と朱美は床に落ちているピンクのパンティとサポーターを取り上げた。この二人の魔女は、周囲の哄笑に対する反撥かのように必死になって肌を触れ合わせた美少年と美少女に嫉妬したのだ。自分達がこの部屋を去った後、二人が言葉を勝手にかわし合う事が腹立たしくなったのだろう。そんなものでこ人の口を封じようとする。
  5475.  サポーターをわざわざ裏返しにして、折り曲げた銀子は、美津子の前に先ち、
  5476. 「さ、お嬢さん、猿轡をするのよ。アーンとお口をお開け」
  5477. 「お坊っちゃん、はい、お口を開けて」
  5478.  朱美も、銀子にならって、美津子のパンティを裏返しにして折りたたみ、文夫に対している。
  5479.  そんなものを鼻先に銀子に突きつけられた美津子。一瞬、美しい黒い瞳を憤怒にキラリと光らせたが、すぐに悲しげに唇を噛みしめ固く限を閉じて、小さく日を開くのだった。
  5480.  文夫も、怒りと恐怖の色を浮かべて、朱美を睨んだものの、美津子が自分のサポーターできびしく猿轡を銀子にされてしまった事に気づくと、自分の運命を察知したかのように気弱に眼を伏せ、口を開く。
  5481.   白と赤の奇妙な猿轡をはめられ、残忍な縦縄をかけられている美津子と文夫の周囲をズベ公達はグルグル廻って、キャッキャッと笑う。
  5482. 「恋人の匂いと身体のぬくもりを充分味わうがいいわ」
  5483.  と、朱美がいい、続いて銀子が、
  5484. 「じゃ、あたい達は、隣のお嬢さんを慰めに行くからね。あんた達、退屈だったら、お尻を押しっくらでもして遊んでいるがいいわ」
  5485.  
  5486.  
  5487.  
  5488. 第二十二章 身代金奪取の失敗
  5489.  
  5490.  
  5491.     小夜子の受難
  5492.  
  5493. 「これが村瀬宝石店のご令嬢、小夜子嬢よ。どう、すごい美人でしょう」
  5494.  銀子は、仲間のズベ公ややくざたちに説明した。
  5495.  川田と吉沢は、ごくりと唾を呑みこみ、椅子に固定されている小夜子の傍に近寄った。
  5496.  ブラジャーとパンティのみを許されただけの、あられもない肌身を椅子に固く縛りつけられている小夜子は、この不意の侵入者を見てギクリと身を震わせ、思わず椅子の前脚に割り開いてつなぎとめられている両肢を閉じようとしたが、空しく椅子がきしむだけ。真っ赤になった顔を激しく振りながら小夜子は身悶えるのだった。
  5497. 「どうだい、お嬢さん、ご気分は」
  5498.  川田は、ニヤリと口元を歪めて、小夜子の頬を突き、吉村は、ゴム紐に指をひっかけて、ピシャリとはなしたりするのだった。
  5499. 「助けて、助けて下さい。お金なら、パパにお願いして、いくらでも、もらいますから」
  5500.  小夜子は、長い睫毛に屈辱の涙を一杯に浮かべ、左右のやくざに哀願し始める。銀子が口を開いた。
  5501. 「そうそう、このお嬢さんは大変な金づるだったわね、粗末にゃ、あつかえないわよ」
  5502.  そして、よだれでもたらしそうな顔つきでいる、川田と吉沢を押しのけるようにする。
  5503. 「お嬢さん、心酎しなくてもいいよ。貴女は特別待遇。嬲りものなんかにはしないから安心おし」
  5504.  銀子がそんな風にいった時、チンピラやくざの竹田と木村が入って来た。
  5505. 「川田兄貴に吉沢兄貴。親分が、お呼びですぜ。娘の身代金を取りに行くのだそうで♢♢」
  5506.  川田と吉沢は、美しい獲物の前から、爪をひかねばならぬ腹立たしさに舌打ちしたが、一千万円の身代金という大きな仕事に身震いしてすぐに部屋を出て行った。
  5507. 「さてと、俺も、夫人と京子嬢の調教にもどるとするか」
  5508.  鬼源も腕時計に眼をやって、二人の後を追うように出て行く。
  5509.  とにかく、恐ろしい男たちが一旦、ここより出て行ったという事で小夜子はほっとしたが、眼の前の不良少女たちの何か妬むような残忍な眼つきが胸に突きささってくる。
  5510. 「お願いです。おとなしくしていますから、この縄を解いて下さい。服を、服を返して下さい」
  5511.  小夜子は哀願的に眼をしばたき、つっ立っている銀子と朱美にいう。
  5512. 「ぜいたく、いうんじゃないよ」
  5513.  朱美が突っぱねるようにいい、小夜子のふさふさと耳まで覆うウェーブのかかった黒い髪をひっぱった。
  5514. 「はかの女たちは、丸裸で色々と芸当を仕込まれているんだよ。大家のお嬢さんだからこそこっちは特別扱いにしてやっているんだ。あんまり、つけ上ると承知しないよ」
  5515.  朱美は、陰険な眼つきでそう浴びせた。
  5516.  銀子は興奮する朱美をなだめるようにして、
  5517. 「だけど、大家のお嬢さんが椅子に坐って、足をおっぴろげている図なんて哀れね。椅子から外してやろうよ」
  5518.  そして、ドアの所で立ち去りがたく、中の様子をキョロキョロ見ているチンピラの竹田と木村に銀子は声をかけた。
  5519. 「あんたたち、遠慮しなくってもいいじゃないか。入っといでよ」
  5520.  二人のチンピラは、照れくさそうに入ってくる。
  5521. 「美しいお嬢さんの、こういう姿を目にしちゃ、ちょっと立ち去り難いってところね」
  5522.  銀子は、含み笑いしてそういうと、
  5523. 「このお嬢さんを、そこの柱に縛りつけな」
  5524.  と命令するのだった。
  5525. 「お願い。逃げたりしませんから、寄らないで、さわらないで!」
  5526.  小夜子は、近寄って来たチンピラ二人に必死な声をあげて身悶えする。竹田と木村は、小夜子の足首の縄を解き、縄尻を取って、立ち上らせると、小夜子の哀願を楽しむようにして隅の壁にそった柱に、そのきらめくように白い肌を押しつけて、ひしひしと縄をかけていくのだ。
  5527. 「嫌よ、嫌よ。ああ、お父さん、助けて!」
  5528.  小夜子は、黒髪を左右に大きくゆすって、声をたてつづける。
  5529.  豊かな胸の隆起を隠すブラジャーの上下を麻縄はキリキリと二巻き三巻きし、深窓の美女は、がっちりと柱を背に立ち縛りにされてしまったのだ。
  5530. 「さすがに宝石商の箱入娘だけあって、ピカピカするような肌をしてるわ」
  5531. 「全部、脱がしてしまいましょうか」
  5532.  小夜子の両肢を揃えて、かっちり柱に縛りつけると、竹田はニヤリとして銀子の顔を見上げた。
  5533. 「ふふ、男のあんたたちにゃ、ちょっと気の毒だけど、このお嬢さんは一千万円の金ヅルなんだものね。あんまり、ひどい事をするわけにゃいかないのよ。社長命令である事だしね」
  5534.  竹田と木村は未練たらしげに、小夜子のきらめくような白磁の裸身に見とれている。
  5535. 「まあ、馬鹿みたいに笑っていないで、こっちへ来て、お飲みよ」
  5536.  朱美は、二人のチンピラを手招きして椅子に坐らせ、ウイスキーを注いでやる。
  5537. 「あんた達にもずいぶんと世話になったからね。仲間の者達をここへ呼んどいでよ。酒でも飲みながら、大金がころがりこんで来るのを待とうじゃないか」
  5538.  朱美にいわれて、竹田は二つ返事で表へ出て行き、仲間のチンピラ達を七、八人、伴なってもどって来た。いずれも十七、八の連中で、ニヤケたようなのや妙に薄ぎたないのやが銀子と朱美にペコリと頭を下げ、ぞろぞろ入って来たが、あられもない姿のまま、柱に立ち縛りにされ、恐怖におののいている小夜子に眼をうつすや、
  5539. 「ひゃー、すげえ別嬪だな」
  5540.  と、そのまわりに寄っていく。
  5541. 「お待ち、勝手な事しちゃいけないよ。このお嬢さんは特別なんだからね。うかつに手を出すと、社長のかみなりが落ちるよ」
  5542.  朱美と銀子はチンピラ達を押しもどし、コップを渡してウイスキーを注いでやる。
  5543.  やむを得ず、これらの若い不艮集団は、晒しものになっている小夜子の周囲に円座を組むようにして坐りこみ、わいわいはしゃぎながら、ウイスキーを飲むのだった。
  5544.  小夜子は、美しい横顔を見せて顔を伏せ、膝頭のあたりをブルブル震わせている。恐ろしさと恥ずかしさで、震えが止まらないのだ。
  5545. 「畜生、いい体してやがんな。姐さん、いいじゃありませんか、眼の保養ぐらいさせて下さいよ」
  5546.  チンピラ達は口をとがらせ始める。
  5547.  兄貴達ばかりいい目をして、俺達はいつも貧乏くじばかりだ、などと不公平をとなえ始めるのだった。
  5548.  銀子は、ニヤニヤ笑って、ウイスキーを飲み、チンピラ達のぼやきを聞いている。
  5549. 「美津子の話だって、しっかり働きゃスケにする事が出来るといいながら、結局は吉沢兄貴のものになったじゃありませんか。浣腸まで俺達にさせて、ハッスルさせるだけさせときながら、全く、トンビに油揚げですぜ」
  5550.  竹田は盛んに、ぐちり出す。
  5551. 「ふふふ、そのうち、埋め合わせをつけてあげるから」
  5552.  銀子は、そういいながらウイスキーを一飲みして立ち上り、恐怖と羞恥にさいなまれている小夜子の横に立った。
  5553. 「ねえ、お嬢さん。ここにいる坊や達は、おんば日傘で育ったあんたとは違ってみんな泥まみれの苦労の末、ぐれてしまった連中なのさ。どう、一つ、この血の気の多い若い連中に善根をはどこす意味で、生まれたまんまの姿になって眼の保養をさせてやってはくれないかね」
  5554.  小夜子は、それを聞くと、ギクッと全身を震わせ、ひきつったような顔になって激しく首を振った。
  5555. 「嫌っ、嫌です。お金はきっと、パパが都合してくれますから、どうか、どうか、もう許して」
  5556.  小夜子は必死になって叫び、たまらなくなったように泣きじゃくるのだった。
  5557. 「温室育ちのお嬢さんの素肌を、一眼、この連中にすっかり見せてやっとくれよ」
  5558.  朱美もいったが、小夜子は激しく泣きじゃくり、必死に首を振って、許して、許して、を連呼する。処置なし、といったポーズをとつて朱美は、チンピラ達の方を見ながら、
  5559. 「どうしても嫌だとさ。何しろ、大した金ヅルのお嬢さんだからね。あたいとしても、これ以上、無理に頼むわけにゃいかないよ。いいじゃないか。こんな美しいお嬢さんの、こうした姿を見るだけでも有難いと思わなきゃバチが当たるよ」
  5560.  といったが、かなり酒気を帯び始めたチンピラ達は、わいわいと蛮声をあげ始めた。
  5561. 「出し惜しみするねえ」
  5562. 「脱がしちまえ」
  5563.  チンピラ達は今にも立ち上って、小夜子からむしり取ろうとする気配を見せる。
  5564.  銀子は口元を歪めて朱美と並び、チンピラ達から小夜子を守るような恰好で立ちはだかった。
  5565.  やかましくがなり立て始めたチンピラ達に閉口したように朱美は、小夜子の美しい顔に眼をやる。
  5566. 「ねえ、お嬢さん、この連中は気分をこわすと野犬みたいになっちまうのさ。あんまり怒らせるとかえって損というものよ。だからさ、ちょっと、おっぱいぐらいのぞかせてやってよ。ね、それくらい、いいでしょ」
  5567.  そういうと朱美は、恐怖に眼をつり上げている深窓の美女にせまると、いきなりブラジャーの片側をずり下げて、ふっくらと丸味をもつ乳房の一方を露出させてしまった。 あっと小夜子は顔面を真っ赤にして、狂ったように首を振ったが、わっとチンピラ達は大喜びである。
  5568.  全部を剥がさず、わざと片一方だけ引き下げて弾力のある白い乳房の一つをさらけ出させてしまうという朱美の意地悪さ。と同時に銀子も、それに呼応するように、
  5569. 「お臍ぐらいはいいでしょう。はっきり見せてごらんよ」
  5570.  ゴム紐に手をかけるや、有無をいわさず少し引きおろして、形のいい臍を露出させてしまった。
  5571. 「や、やめて!」
  5572.  小夜子は、かっと頭に血をのぼらせて、赤く火照った体を石のように硬化させる。
  5573. 「ケチケチせず、姐さん、さっぱりととっちまって、お嬢さんを涼しくしてやんなよ」
  5574.  チンピラ達は、どっとわき立った。
  5575. 「これ以上は駄目だよ。さあ、皆んな、じゃんじゃん飲みなよ」
  5576.  銀子は、チンピラ達にウイスキーを再び注いで廻る。
  5577.  屈辱の極致に身を震わせて鳴咽する深窓の美女を酒の肴にして、熱気のこもった酒宴が始まった。
  5578.  段々、酪酎してくるにつれ、チンピラ達は次第に狂暴な眼つきになり、ともすれば立ち上って、どうしようもないみじめな姿の小夜子に近づこうとする。
  5579.  それを幾度も制しながら、銀子と朱美は、
  5580. 「いいかい。勝手に手を出しちゃ、社長の大目玉を喰う事になるんだよ」
  5581.  と、念を押すと、この場を悦子に任せて立ち上り、三階の調教室をのぞきに行こうとする。鬼源の静子夫人と京子に対する調教の追いこみぶりを急にのぞきたくなったのだ。
  5582.  
  5583.  
  5584.     女体の悲しさ
  5585.  
  5586.  静子夫人と京子は、鬼源の調教、つまり、レスボスの演技がひとまず終わって、わずかの休憩をとらされているところであった。部屋の隅の床の上に、二人の美女は互いに背を合わすようにして、縛り合わされ、美しい眼を伏せているのだった。
  5587.  今まで強制され、演じつづけていた魂も凍るばかりの……演技に対する猛烈な自意識がこみあがってくるのだろう。時折、二人の美女は、たまらなくなったように声を震わせて互いに鳴咽するのだったが、それはただ羞恥と苦痛ゆえ流す涙ではなく、鬼源に強制されたプレイを演じているうちに、何時しか演技というものを超越し、陶酔めいた気分につつまれて、静子夫人と京子は、何か離れられないものをお互いに感じ合う結果となり、そこに、ふと女体の悲しさを感じとって、泣きつづけるのであった。言いかえれば、田代や森田、そして、鬼源達の嬲りものとなり更に今後も、そうした屈辱の世界より逃避する事の出来ぬ、自分達の運命を知る時、その肉体的、精神的な苦痛より逃れる手段として、このプレイは二人の美女にとつては、一つの救いにもなっていった。今の境遇を互いに慰め合い、いたわり合うために夫人と京子は一切を忘れた思いで、いつしか必死の思いをこめてプレイをし合うのだった。そして、それが皮肉にも本当の意味の同性愛に進行して行ったのである。
  5588. 「♢♢奥様、許して、許して下さい」
  5589.  京子は、鬼源に強制されて、不本意ながら静子夫人を責めているうちに、はしたなくも必死の思いになってしまった自分を口惜しがり、すすりあげながら背後の夫人に謝るのであったが、静子夫人も首を振りつつ、
  5590. 「私、ああ、私、私ずかしい。京子さん。お願い、笑わないで♢♢」
  5591.  と静子夫人も京子に責められ、夢中になってしまった自分を恥じ入るのだった。
  5592. 「♢♢奥様♢♢」
  5593. 「京子さん♢♢」
  5594.  二人の美女は、背と背を押しつけ合うようにし、後手にくくりあげられている手と手でお互いをまさぐり合う。
  5595. 「ど、どんなひどい目にあっても、奥様、生き抜きましょう。奥様は、奥様は、もう私のものよ♢♢」
  5596. 「私だって、私だって、もう貴女を離さないわ」
  5597.  二人の美女は、背と背を更に強く接触させ合ったが、その時、隣の部屋で、酒を飲みながら一息入れていた鬼源が銀子と朱美を連れて、のっそり入って来た。
  5598. 「へへへ、ご両人、仲むつまじい事じゃねえか」
  5599.  ほっとして、静子夫人と京子は顔を伏せ合い、体を硬化させる。
  5600. 「二人とも、なかなか調子が出てきたんで俺もはり合いが出来たってもんだ」
  5601.  鬼源が手にした一升租をラッパ飲みしながら、そういうと、酒気を帯びた銀子と朱美が背中合わせに縛りあわされている静子夫人と京子の左右にしゃがみこみ、ニヤニヤしながらこ人の美女の頬を指でつつくのだった。
  5602. 「ずいぶん上達したんだってね。どんな具合なのか、ちょっと見学させて頂きに来たんだよ」
  5603.  静子夫人と京子は、深く首を垂れて嫌々と頭を振る。
  5604.  一人の同性の眼に、自分達の演ずる浅ましい姿を見せるのは、十人の男達に見られるよりも辛いのだった。
  5605. 「ね、道具の演技とやらを見せて頂戴。奥様と京子嬢の成長ぶりが見たいのよ」
  5606.  朱美が煙草の煙を二人の美女の顔に吐きかけながらいうのだ。
  5607. 「お願いです。今日は、今日はもう許して」
  5608.  京子が涙にうるんだ瞳をあげ、静子夫人をかばうようにして朱美にいった。
  5609. 「何いってんのよ。せっかく、ここまで見物に来てあげたのに……」
  5610.  さあ、鬼源さん、と銀子と朱美は鬼源の顔を見て催促する。
  5611. 「そうだな」
  5612.  と鬼源は、夫人と京子をニヤニヤしながら見下ろして、「じゃ、一つ、美女のスタンド・プレイを葉桜団団長に、ご彼露するとしようか」
  5613.  鬼源は、その方法を銀子達に説明し始めるのだった。
  5614. 「面白そうだわ」
  5615.  銀子と朱美は、はしゃぎながら、つながれている縄尻を取って、二人の美女を充ち上らせる。
  5616. 「お願い、かんにんして」
  5617.  静子夫人と京子は、お互いに相手をかばい合うようにして、その場へ身をちぢませようとするのだが、
  5618. 「もたもたするんじゃないよ。しゃんと立つんだ!」
  5619.  銀子と朱美は、後ずさりする京子の両肩をわしづかみするようにして立ち上らせる。そして、鬼源の指示通り、すぐ傍に不気味に立っている丸太の柱に京子を、がっちりと立ち縛りにするのだった。
  5620.  鬼源は、静子夫人の縄尻を取って、カーテンを開き、次の間に押し立てて行く。そこには、やはり、二米ばかりの丸太の柱が床の中央に打ちこまれてあるのだ。
  5621. 「さ、歩きな」
  5622.  鬼源は、茹で卵の白味のように艶のある静子夫人の肩や背を突きながら柱の所まで押し立て、丸太柱を背にさせて、夫人をひしひしと立ち縛りにしていく。
  5623.  カーテンの向こうから、銀子と朱美の声がする。
  5624. 「鬼源さん。スタンド・プレイをさせるというのに、どうして二人を別々の柱につなぐんだよ」
  5625.  鬼源は、夫人を丸太柱に縛りつけながらいった。
  5626. 「奥様は、ここでいとしい京子嬢のお越しをお待ちになるって趣向さ。つまり、京子嬢はな、そこで男化粧をするわけさ」
  5627.  鬼源がそういうと、朱美がくすくす笑いながら、
  5628. 「なるほど、じゃ、この柱は、化粧柱ってわけね。ここでつけるわけなんだろう」
  5629. 「そうさ。今、奥様の方の支度が出来りゃ、そっちへ行くからな」
  5630.  鬼源は、そういいながち立ち縛りにした静子夫人の美しい全身をしげしげ見つめる。
  5631.  静子夫人は、涙でキラキラ光る黒眼を鬼源に向けながら、精一杯に哀願するのだったが、鬼源は別の縄切れを手にして、柱の後ろへ廻り、身をかがめる。
  5632. 「さあ、奥さん、アンヨを後ろへ廻すんだ。柱をはさむようにしてな」
  5633.  鬼源は手に唾しながら、柱の後ろから、静子夫人の雪白の脛をつつくのだった。無残にも静子夫人の両足首を柱の後ろへねじ曲げ、縄でつなぎとめようというのだ。
  5634. 「嫌っ、嫌よ」
  5635.  夫人は、後ろにしゃがんだ鬼源に両足首をつかまれるや激しく身悶えし、すすり上げる。たまらない屈辱感に夫人は、火柱のようになった全身を硬直させたが、鬼源は、一切おかまいなしといった顔つきで、馬鹿力を発揮し、力一杯後ろへ引っ張り、がむしゃらに縄をかけて行く。
  5636. 「あっ、あ♢♢」
  5637.  太腿の附根あたりの激痛に、夫人は美しい顔を歪めて、キリキリ歯を噛みしめる。足の関節あたりの痛みもさる事ながら、何よりも苦しいのは、言語に絶するあられもないポーズを組まされた事だ。
  5638.  立ったまま、柱にまたがった恰好に夫人を縛り終えた鬼源は、仕事の出来具合を点検するように酒に濁った眼で、柱のまわりを廻りながら凝視しつづける。静子夫人の雪をとかしたように白い、むっちりとした内腿には、青い血管がかすかに浮かび上り、地図のように美しく見える。
  5639.  静子夫人は血の出るほど固く唇を噛んで、この激痛と憤辱を必死になってこらえているようであった。
  5640. 「へっへへ、さあ、いらっしゃい、というスタイルだな。いい恰好だぜ」
  5641.  鬼源が煙草を口にしながら、そんな事をいった時、カーテンの向こうで銀子と朱美の声がする。
  5642. 「ね、鬼源さん、京子の男化粧はあたい達がしてやるわ。道具は何処にあるのよ」
  5643.  鬼源は、静子夫人の姿態に眼を向けながら、
  5644. 「あんた達が手伝ってくれりゃ、こっちも大いに助かるぜ」
  5645.  といい、どっかりと夫人の前にあぐらを組んで坐りこむと、傍の一升瓶をひき寄せて茶碗に注ぎ、ぐいと一あおりする。
  5646. 「そこのテーブルの上に、桐の箱があるだろう。その中に入っているものが、道具ってわけさ。じゃ、頼んだぜ。俺はここで一服させてもらうからな」
  5647.  鬼源は、そういいながら、再び、酒を飲み出すのだった。
  5648. 「ああ、これね。♢♢まあ」
  5649.  銀子と朱美の笑い声が、カーテンの向こうで起こる。
  5650. 「さあ、京子嬢、今日は、一切、あたい達に任せて貰うからね」
  5651.  二人のズベ公は、柱に立ち縛りにされている京子に立ち向かったらしい。
  5652. 「嫌よっ、嫌っ」
  5653.  突然、周章狼狽した京子の、けたたましい悲鳴が起こる。
  5654.  どうともなれと覚悟をしているものの、京子は狂気して悶え始めたようだ。
  5655. 「あら、鬼源さんならいいけど、あたい連なら嫌だっていうの、心配しなくたっていいわよ。しっかりと取りつけてあげるから」
  5656.  銀子と朱美はキャッキャッと、はしゃぎつづけている。
  5657. 「な、何をするのよ! 馬鹿っ、馬鹿! ああ……」
  5658.  京子のつんざくような悲鳴が続く。
  5659.  鬼源は、うるさそうに顔をしかめて舌打ちすると、
  5660. 「何してるんだ。商売もんなんだからな。あんまり乱暴しちゃ駄目だぜ。やさしく、やさしく……やるんだ」
  5661.  ケッケッと鬼源は出歯をむき出して笑い、茶碗酒をあおりつづけた。
  5662.  銀子と朱美の声がはね返ってくる。
  5663. 「足をばたつかせやがって、仕様がないんだよ。仕方がない、朱美、足をひっくくろう」
  5664.  カーテンの向こうでは、ズベ公二人と京子の足との乱闘が始まったようだ。
  5665. 「何でえ、まだ手間どってやがんのか」
  5666.  鬼源は、のっそり立ち上り、ふらふら足を踏みしめるようにして声を出した。そして、鬼源の考案した柱割り縛りという無残なポーズを組まされている静子夫人の全身を再び、なめるように見廻し、
  5667. 「今日は、俺の方は高見の見物だ。銀子と朱美に踊らせてもらいな」
  5668.  静子夫人は、美しい横顔を見せて、すすり上げている。銀子の声がカーテン越しに聞こえて来た。
  5669. 「やれやれ、手間をとらせやがって。足を、こう縛られちまえば、どうしようもないだろう。さ、どうだい、京子嬢、暴れられるものなら暴れてみな」
  5670.  京子の激しい鳴咽が流れてくる。
  5671.  続いて、勝ち誇ったような朱美の声。
  5672. 「さ、姐さん。てっとり早く、そいつを」
  5673.  再び、京子の一きわ激しい悲鳴に似た鳴咽が流れて来、それは、静子夫人の耳にも突きさすように入ってくるのだ。
  5674. 「ああ、京子さん♢♢」
  5675.  静子夫人は、我が身の辛さも忘れたようにカーテンの向こう側で、残忍なズベ公二人に嬲られつづけている京子の身を思い、すすりあげるのだった。
  5676.  そんな静子夫人の動揺を楽しむように鬼源は相変らず茶碗酒を飲みつつ、ギラギラした眼を、そのきらめくような光沢のある全身に向けている。
  5677.  カーテンの向こう側には、不気味な妖気がたれこめているようだ。
  5678. 「あっ、あっ、嫌!」
  5679. 「何が嫌だよ。本当は嬉しいくせに」
  5680.  やがて、銀子と朱美の高笑い。
  5681. 「まあ、よく似合う事。♢♢鬼源さん、出来上りよ」
  5682. 「男勝りの、はね返り姐さんとしては、一番よく似合うスタイルね」
  5683.  そんなズベ公達の笑声に対して、鬼源も笑いながらカーテン越しにいう。
  5684. 「そいつは俺の作った芸術品だからな。一旦取りつけてし
  5685. まえば、ちょっとやそっとでは落っこちたりはしねえ。さ、先程から遠山令夫人が身悶えしてお待ちかねだぜ。取りつけがすんだら、こっちへ京子嬢をしょっ引いて来な」
  5686.  やがて、カーテンが開き、銀子と朱美に縄尻を取られた京子が押し立てられて来た。
  5687. 「ああ♢♢」
  5688.  京子は静子夫人の前へ押し出そうとする二人のズベ公にさからって、へなへなとその場にちぢこまり、嫌、嫌、と首を振り、屈辱にむせび泣くのだった。
  5689. 「何をしてんの、さ、行くのよ」
  5690.  銀子と朱美は、ゲラゲラ笑いながら、かがみこんでしまった京子の柔軟な肩に手をかけ上へ引きずり上げる。
  5691. 「嫌、嫌っ。ああ、かんにんして!」
  5692.  静子夫人の前へ、ズベ公達の手で押し出されて行くと京子は全身を火のように燃えたたせて、再び体を石のように硬化させ、前へ押し出されるのだった。
  5693. 「ほんとにうまく作ってあるわね。こうして歩かせても、落っこちない。不思議だわ」
  5694.  銀子がクスクス笑いながらいうと、鬼源は、
  5695. 「当たりめえよ。俺が長年かかって発明したものなんだ。つまり、芸術品ってわけよ」
  5696.  と出歯をむき出して笑う。
  5697.  京子は、二人のズベ公に縄尻を取られ、邪慳に背や尻を突きまくられて、遂に、静子夫人の正面にすっくと立たされてしまった。
  5698.  京子も静子夫人も、真っ赤になった顔を互いにそむけ合い、呼吸も止まるばかりの屈辱に、わなわな震えているのだった。
  5699.  そんな羞恥の極にある二人の美女に向かって鬼源はいう。
  5700. 「わかってるだろうな。お互いにもう生娘でもあるめえし、今更、もたもたしやがると承知しねえぞ。美津子と桂子に、こんな事の代役はさせたくはねえだろう。俺が教えてやった手筈通りにちゃんと演じなくちゃ駄目だぜ」
  5701.  鬼源にポンと背を突かれた京子。美津子と桂子を代役に立てるぞとおどかされては、どうしようもない。
  5702. 「♢♢お、奥様♢♢」
  5703.  京子は、すすりあげながら、鬼源に調教を受けた通り、眼を閉じると、そっと唇を静子夫人の唇に近づけていくのだ。夫人も、この屈辱を呑みこんだように悲痛な覚悟をして、切長の美しい瞳を固く閉じ、京子の唇に自分の唇を当てがうのだった。
  5704. 「ふふふふ」
  5705.  銀子と朱美は、顔を見合わせて笑い合う。
  5706. 「さあ、うんと気分を出して」
  5707. 「ああ、き、京子さん」
  5708.  静子夫人は、美しい富士額に脂汗をにじませ、白い歯をのぞかせ、大きくうなじを見せて首をのけぞらせる。
  5709.  ギラギラした眼で、それを凝視しつづける銀子と朱美。
  5710. 「それ位でいいだろう。さあ、お願いするぜ」
  5711.  鬼源は、静子夫人の足元にひざまずくようにしている京子に向かって声をかけた。
  5712.  その時、ドアを誰かがノックする。
  5713. 「誰だい、せっかくムードが高まってきた時に水をさす奴は♢♢」
  5714.  朱美が舌打ちしてドアを開けるとチンピラの竹田と石山である。
  5715. 「姐さん、川田兄貴から電話なんです。ちょっと出て下さい」
  5716.  という。
  5717. 「そうかい。きっと、大金が手に入ったんで今夜、祝賀会でも開こうてんだろう」
  5718.  朱美は、わくわくした気分でそういい、
  5719. 「じゃ、銀子姐さん、あたい電話に出て来るからね。奥様と京子嬢、中途半端にしておくのはかわいそうだ。ちゃんと思いを遂げさせてやっておくれ」
  5720.  朱美は、そういうと口笛を吹きながら外へ出て行った。
  5721.  そのあと、鬼源と銀子も妙にうきうきした気分になり、
  5722. 「一千万円とは凄いね。何だか体が震えてくるぜ」
  5723. 「ほんとね。あたい達も相当な分け前が頂戴出来るってわけさ」
  5724.  銀子は舌なめずりするような調子で、そういったが、ふと眼を元へもどして、
  5725. 「あんた達も、しっかり稼いでくれなきゃ駄目よ。さあ」
  5726.  銀子と鬼源は、立膝をして、しゃがみこんでしまっている京子のスベスベした肩に手をかけて強引に引き起こし始めた。
  5727.  
  5728.  
  5729.  
  5730.     ニューフェイス
  5731.  
  5732. 「もしもし」
  5733.  朱美は、電話の受話器をとると、はずんだ声を出した。恐らく川田が、一千万円の札束ってのは、かなり重てえもんだな、とぞくぞくするような嬉しい事をいってくるのだろうと思ったのであったが♢♢。
  5734. 「ああ朱美か。畜生、小夜子の親父が網を張りやがったんだ」
  5735. 「何だって?」
  5736.  途端に朱美は、青ざめた顔つきになり、受話器を持つ手まで震え出す。
  5737. 「そ、それで、どうしたんだよ!」
  5738. 「危機一髪、虎口は逃れる事が出来たが、全く、いのちが十年も、ちぢまったぜ」
  5739.  川田の説明によると、金の受け取り場所附近には、その筋の者らしい人間が、うろうろしていたというのである。それに驚いた事にはその中に、遠山隆義の屋敷へ出入りしていた私立探偵の山崎までが、とりすました顔で新聞など
  5740. を読み、キョロキョロ四囲に気を配っていたというのだ。取引する場所を時間前にこっそり偵察に行ったからよかったものの、もし、すぐに指定場所へ顔を出したりしたら最後、田代社長、森田親分以下、一網打尽にされる所だったと、川田は、思い起こしてもぞっとするような口調でいってくる。
  5741. 「危ないところだったじゃないの。それにしても山崎っていう探偵までが、どうして一枚、加わってやがるんだろう」
  5742.  朱美は、いまいましげに舌打ちしていうと川田は、
  5743. 「今まで誰にも話さなかった事だが、実は、遠山の屋敷に俺の妹が女中になって前から住みこんでいるんだ。そいつが色々と俺に情報を送ってくれているんだが、今、妹に連絡をとって聞いてみるとだね、山崎っていう野郎は村瀬宝石店とは遠い親類に当たるらしいのだよ。それで、村瀬の親父が、この身代金の事について、ひとまず、山崎に相談したってわけさ。山崎は、この事件は、静子夫人静拐事件とも関係ありと見て、今度はドジ踏まねえよう一千万の金も用意したが、その筋の連中まで大勢用意して、取引場所に網を張りやがったというわけさ」
  5744.  受話器を通って、朱美の耳に入ってくる川田の声は、かなり興奮しているようだ。
  5745. 「怪我がなくてよかったわ、早く帰っておいでよ。奴等に対する見せしめという意味で、小夜子達に、うんとヤキを入れてやろうじゃないの」
  5746. 「ところがよ。俺達、連中が張りこんでいる事を知って、あわてたもんだから、帰り道にスピードを出し過ぎて、車を街路樹にぶっつけちゃったんだ。そのため、吉沢兄貴は全身打撲、まあ、一週間ばかりは起きられねえだろう。全く、今日はついちゃいねえ」
  5747. 「まあ、それで、あんた達どこにいるのさ」
  5748. 「幸い、車が事故を起こした所が、森田親分とは兄弟分の熊沢一家の近くだったので、俺達は、怪我人を担いで、ひとまず、熊沢親分の所で世話になったというわけさ」
  5749.  熊沢一家といえば、森田組と同じく、秘密写真密造販売などを手がけているケチな暴力団体である。取らぬ狸の皮算用をして、金を受け取りに出かけた田代、森田、川田、吉沢の四人は、山崎に網を張られた事に気づいてうろたえて逃走、交通事故を引き起こすという、散々な日に遭い、近くの熊沢一家の所へ、ほうほうの体で転げこんだというわけだ。
  5750. 「とにかく、吉沢の兄貴の体の調子が少し持ち直したら明日にでも帰るが、いいか、もうこうなった以上、あの小夜子という娘を何も特別扱いなんかにする必要はねえ。因果をいい含めて、静子や京子達と同じようにスターに仕上げるんだ」
  5751.  川田は、そういって電話を切った。
  5752.  朱美は、大きく溜息をつく。
  5753.  一千万の大金を今夜眼にする事が出来ると浮わついた気分でいたのが、一夜の夢と化してしまったのである。が、それよりも、宝の山に入りながら、張りこまれていると知って逃走しなければならなくなった川田達は、地団駄踏んで口惜しがったに違いない。
  5754. 「畜生、村瀬も山崎も、よくも罠にかけようとしやがったな。小夜子をうんと痛めつけてこの恨みを晴らしてやるよ」
  5755.  朱美は、ブツブツロの中でいいながら廊下を歩き、酒に酔った笑声や嬌声のわき起こっている部屋の戸を開けた。
  5756.  いうまでもなく、そこは、チンピラ達が葉桜団の振舞酒に御機嫌となり、柱に立ち縛りにされている小夜子を肴にして、ドンチャン騒ぎをやっている。
  5757.  朱美が入って来たのに気づいた悦子は、
  5758. 「姐さん、傑作なのよ。今、このお嬢さんがね。蚊の鳴くような声で、お願いです、というから、あたいが耳を近づけて聞いてやったらね。ふふふ、おしっこがしたいだって」
  5759.  とゲラゲラ笑いながらいい、それにつけ加えるようにマリが、
  5760. 「無理もないわよ。昨日から一度もしてないらしいものね。朱美姐さん、ちょっと見てごらんよ。かわいそうにこのお嬢さん、先程から腰のあたりをモジモジさせているのよ」
  5761.  乳房の一方を露出させ、形のいい臍を丸出しにさせられるというみじめな姿にされ、かっちりと柱に固定されている小夜子は、火のついたように真っ赤になった顔をねじ曲げるようにしながら、義子のいうように必死になって、耐えているようであった。雪を溶かしたように、白く、適度に肉の盛り上ったむっちりとした太腿から脛のあたりが、海草のようにくねくねと揺れているのは、その努力を続けている証拠であろう。
  5762.  時折、小夜子は、切々げにキリキリと歯を噛み鳴らし、美しい眉を八の字に寄せて、うわ言のように、お願い、お願いです、と哀願しているのだ。
  5763.  悦子が、さも楽しそうにクスクス笑いながら、そんな哀れな状態に追いこまれてしまった美女の傍へ近寄って、
  5764. 「どうしたのよ、お嬢さん。そんなにモジモジしているわけを、あたいにも、はっきり聞かせてごらんよ」
  5765.  小夜子は、もうどうしようもないように、のっぺりした顔をぬうと近づけて来た義子に涙でキラキラ光る美しい瞳を、哀切的に向けるのだった。
  5766. 「お、お願いです。おトイレへ、おトイレへ行かせて」
  5767. 「あらま、そうやったの。そやから、さっきからモジモジ、お尻を振りつづけていたというわけやね」
  5768.  義子は声をたてて笑いながら、
  5769. 「おトイレなんて上品な言葉は、ここでは通用せえへんのよ、おしっこに行かせてと、はっきりいうてごらん」
  5770.  チンピラ達も、どっと笑い、
  5771. 「そのままやんなよ。後始末は俺達が引き受けてやるぜ」
  5772.  と、はやし立てる。
  5773.  悦子が、しゃつくりをしながらいった。
  5774. 「そうね。本当なら、男達がいうようにさせてしまうんだけど、貴女は大変な金ヅルだから、特別待遇という事になってるらしいわ。ねえ、どうします。朱美姐さん」
  5775.  悦子は、華桜団の副団長である朱美の指図を求めた。朱美の瞳の中に冷酷で残忍なものがピカリと光る。
  5776. 「ふふふふ、お嬢さん、もう洩れそうなのかい」
  5777.  小夜子は、そのいまわしい朱美の言葉に、再び顔面を紅潮させて、俯いてしまう。
  5778. 「返事をはっきりしな。もう洩れそうなのかと聞いてるんだ」
  5779.  朱美は、急に居丈高になって、うなだれている小夜子の顎に手をかけ、ぐいと小夜子の顔をこじ上げた。
  5780.  小夜子は、激しくすすりあげながら、美しい瞳を気弱にしばたき、小さくうなずくのだった。
  5781. 「そうかい。でもね、ちょっと事態が変ってきたからね。もう特別扱いにしてやるわけにゃいかなくなったのさ。つまり、あんたは今日限り、村瀬宝石店の令嬢という看板は外して、森田組のため働いてもらう事になったのさ」
  5782.  小夜子は慄然とし、眼を大きく見開いて朱美を見たが、チンピラや悦子達も驚き出す。
  5783. 「じゃ朱美姐さん。この御令嬢にスター業をさせるってわけですかい」
  5784.  石山、竹田達が勢いこんで朱美に聞く。
  5785. 「そうさ。この娘の親父はね、山崎探偵と相談しやがって、社長や親分達をおびき寄せ、ひっつかまえようとしたんだ。危く逃げる事は出来たけれど、吉沢兄貴は大怪我をしちまったのだよ」
  5786.  えっとチンピラ達は顔色を変えて立ち上る。
  5787. 「まあ、明日には、親分達は無事御帰還になるだろうけど、相当頭にきている事はたしかだよ。ヤケ酒を飲むって事になるだろうからな。その席で、あんたは充分お詫びをし、お酒の余興に、今、お腹に溜まっているものをすっかり出して、お見せするんだ。わかったね。今夜は辛抱して溜めるだけ溜めておくがいいさ」
  5788.  どっと哄笑がわく。
  5789.  小夜子は、恐ろしい朱美の言葉に一瞬、気を失いそうになった。四囲に居並ぶズベ公やチンピラやくざ達が、小夜子の眼には地獄の赤鬼青鬼に映ずるのだった。
  5790.  小夜子は、小刻みに体を震わせ、わなわなと唇を開く。
  5791. 「♢♢もう一度、もう一度、私からパパにお願いしてみます。ですから、お願い、そ、そんな恐ろしい事だけは♢♢」
  5792.  小夜子は、じりじりと追ってくる下腹の鈍痛を必死にこらえながら哀願したが、
  5793. 「もう手おくれさ。あたい達はあきらめが早いんだからね。同じ失敗を二度もくり返すって事は絶対にしない主義なんだよ」
  5794.  朱美は、ぴしゃりと閉め出すようにいう。
  5795. 「あんたのお父さんから取れなかった金は、これからあんたが、その美しい体で、みっちり稼いでくれりゃいいのさ」
  5796.  とマリ。
  5797. 「いいかい。これからは、あんたはあたい達の持物なんだ」
  5798. 「いいところの御令嬢でございますって生意気な顔をするんじゃないよ」
  5799.  と悦子。
  5800.  小夜子は絶望の底へ突き落とされたように、ああ、と顔を歪めて、苦しげに首を振る。再び、腹部がキリキリと痛み出し、小夜子は、血の出る程、固く唇を噛んで、全身で耐え始めた。少しでも油断をすれば、この悪魔達の期待している死ぬより辛い羞恥図を展開させる事になるのだ。
  5801. 「ああ♢♢」
  5802.  小夜子は、固く噛み合わせた真珠のように白い歯を見せて、首をのけぞらせ悶え苦しみ出す。
  5803. 「ちょっとでも洩らしてみろ。只じゃおかないから」
  5804.  朱美は、魔女のような顔つきになり、ニタリと笑うのだった。
  5805. 「そやかて、朱美姐さん。そりゃ無理とちゃいますか。こいつばかりは辛抱しようたって、出来るもんやないさかいな。もうこんなにしてるんやもの」
  5806.  義子は笑いながら指で小夜子の腹部をつつく。
  5807. 「うっうっ」
  5808.  小夜子は、つんのめるように身悶えし、悲鳴をあげる。「そうね。こんな高級な下着を汚しちゃ大変だわ。用心のために、全部取っておいておやりよ」
  5809.  朱美がいうと、そうこなくちゃ面白くないといいながら、チンピラが、わらわらと、小夜子の周囲に寄りたかった。
  5810. 「やめてっ、ああ、お父様!」
  5811.  小夜子は逆上したように、すさまじい悲鳴をあげる。
  5812. 「そのお父様を恨むがいいさ。あんたのお父様が、あんたを裏切ったのだからね」
  5813.  朱美は小気味よさそうにせせら笑い、チンピラ達のする事を眺めている。
  5814. 「まあ、美しいわ。まるで、ヴィーナスの女神のようね」
  5815.   悦子も義子も、うっとりとして、小夜子の美しい全裸像を眺めるのだった。
  5816.  やがて、床の上に毛布が敷かれ、その上に小夜子の豪奢な純白のチャイナドレスや本皮のハンドバッグ、首飾りにイヤリング、腕時計などが並べられる。つまり、小夜子の身につけていた一切のも取が、ズベ公達の手で、これから競売されるというわけだ。
  5817. 「さすがに大金持のお嬢さんだけあって、どれもこれも、みんな高価なものばかりね」
  5818.  ズベ公達は、毛布の上に陳列された品物に眼を瞠る。
  5819. 「この指環だって本物のダイヤじゃないか。十万や二十万じゃ買えない代物だよ」
  5820.  朱美はピカピカ光るダイヤの指環を手にしていう。
  5821. 「そんな高いものは、あたい達、手が出ないわよ。もっと安いものから競売しなよ」
  5822.  と悦子がいい出したので、朱美は、一番隅においてあるものをつまみあげて、
  5823. 「さあ、誰か買うものはいないか。フリルのついたハイカラな絹のおパンティだよ」
  5824.  ズベ公達はキャッキャッと笑い合う。
  5825.  そんな奇妙な競売が一段落すると、ズベ公達は、光沢のある白い全身を充血させ、血でも吐きそうな屈辱に悶え泣いている小夜子の傍に、再び近寄る。
  5826. 「大家の御令嬢らしからぬ、いいおっぱいをしているわね」
  5827. 「お尻の肉も充分発育しているわ」
  5828. 「仕込み甲斐がありそうね」
  5829.  不良少女達は、そんな事をいいながら、チンピラ達と立ったり、しゃがんだりして、小夜子の肉体を鑑賞する。小夜子は、こまかい汗の玉を額に浮かべて固く眼を閉じ、唇を小さく開いて呼吸している。悪魔達にいたぶられる苦痛と、限界に近づいて来た尿意の苦痛で、小夜子は気が狂いそうなのであちた。
  5830.  このような姿にされたうえ、更に♢♢小夜子は、獣のようにうめいて、気力をふりしぼり、悶え抜く。
  5831. 「ふふふ、朱美姐さん、ごらんよ。いよいよこのお嬢さん、限界にきたようよ。お尻の動かし方が、段々激しくなってきたようじゃないの」
  5832.  マリがいうと、朱美もせせら笑いながら、
  5833. 「村瀬宝石店の御令嬢だもの、いくら苦しくたって、まさか、まき散らすような事はなさらないと思うよ。それより、お嬢さんの尻振りダンスを見ながら、酒を飲もうよ。少し、酔いがさめてきたわ」
  5834.  そういう哀れな状態に追いこまれた美女の周囲にズベ公と、チンピラ達は円座を組むようにして坐り、運ばれた新しい一升瓶の口を抜き、賑々しく酒盛りを始める。
  5835. 「さあ、お嬢さん、遠慮せず、うんとお尻をもじつかせな」
  5836.  ズベ公とチンピラ達は、身も世もあらず悶え苦しんでいる小夜子を一旦、柱から外すと今度は、後ろ向きにさせ、柱へ押しつけて再び、かっちりと縄をかける。小夜子は、卑劣な男女の眼を今度は背後に受けて、悶え苦しむのだった。
  5837. 「何をしているんだよ。もっと派手に尻を踊らせなきゃ、面白くないじゃないか」
  5838.  悦子は、そういって、弾力のある丸い小夜子の尻をピシャリと平手打ちする。
  5839.  小夜子は、この地獄の屈辱にもう耐え切るカを失ったように柱に美しい顔をこすりつけるようにして声をあげて泣くのだった。光沢のあるスベスベした背中の中程にどす黒い麻縄でくくりあげられている両手首、ピンクのマニキュアをほどこしてある白魚のように美しい指先が釘のように曲ったり、のびたりするのは、キリキリと突きさすように痛む腹部の苦痛を示すものだと思われる。
  5840.  朱美の命令で、チンピラ達は、立ち上り、再び小夜子を正面に向けさせて柱につなぐ。
  5841.  精も根も尽き果てたようにぐったりし、全身で呼吸している小夜子を朱美は、口元に薄笑いを浮かべて眺めながら、
  5842. 「さすがは、大家のお嬢さんだけあって、よくそこまで辛抱したわね。感心だよ」
  5843. 「お尻の振りかたの上手なのにも感心したわ」
  5844.  と、悦子もいい、ケッケッ、と笑う。
  5845.  マリが、朱美に向かって、案を出した。
  5846. 「ねえ、朱美姐さん、こんな風に立ち縛りにしたまま、モジモジさせてばかりいても面白くないじゃないの。今度は、ちょっと変った方法でケツを振らせてやろうよ」
  5847.  一体、どうするというのさ、とユリが聞くと、義子は、チンピラ達に向かって、
  5848. 「ねえ、あんた達、物置に行って、木馬を引っぱり出しておいでよ」
  5849.  オーケーと二、三人のチンピラが廊下へ飛び出した。
  5850. 「なるはど、そいつは面白いや」
  5851.  と朱美は笑う。
  5852.  ぐったりとなっていた小夜子であるが、残忍な女達の恐ろしい言葉が耳に入り、耳たぶまで真っ赤にして一きわ激しく泣き出すのであった。
  5853. 「何もそんなに驚く事はないさ。木馬といったって、丸太に足が四本打ちつけてある単純なものさ。乗り心地満点だよ。今度は、そいつに乗っかって、お尻をもじつかせるがいいわ」
  5854.  マリが、そんな事をいっていると、チンピラ達が、ヨイショ、ヨイショ、と木馬を担いで入って来た。
  5855.  マリのいう通り太い丸太に角材の足を打ちつけた簡単な木馬であるが、こんな姿のまま、しかも限界に達している身を、その上に乗せられるという、総毛立つような恐ろしさに、小夜子は、充血した美しい顔を狂気したように振るのだった。
  5856.  木馬は、ずしりと小夜子の前へ置かれる。と同時に、マリと悦子が、小夜子をそれに乗せるべく、柱につないである縄尻を解き始めるのだった。
  5857. 「ちょっと、お待ちよ。お馬にまたがる前にお嬢さん、こいつを一杯、飲んでお行き」
  5858.  朱美は、何時の間に用意したのか、塩水の一杯入った丼鉢を持って、小夜子に近づく。
  5859. 「あっ、な、何をするの?」
  5860.  小夜子は悲鳴をあげて、狂ったように首を振ったが、悦子も義子も手伝って、小夜子の首を押さえつけ、唇をこじ開けて、有無をいわさず塩水を流しこむのであった。
  5861.  
  5862.  
  5863.  
  5864. 第二十三章 涙の宣誓文
  5865.  
  5866.  
  5867.     美女の木馬
  5868.  
  5869.  小夜子は、柱より外されたが、後手に縛められた縄は解かれず、眼の前に引き出された木馬の上に、いよいよまたがせられようとしている。きらめくように白い光沢のある小夜子の肩のあたりに、チンピラ達はごくりと生唾を呑みこみながら手をかけて木馬に乗せ上げるべく引き起こそうとし始めたが、小夜子はそれにさからって、激しく首を振って泣きじゃくりながら、木馬の足のあたりに猿のようにちぢかんでしまうのだった。
  5870. 「ああ、お願い、許して。許して頂戴!」
  5871.  小夜子はぴったりと腿をすり合わすようにし、身をちぢませ、キリキリと歯を噛み鳴らして鳴咽する。
  5872.  何という残忍な人間共。深窓に育った気品のある美しい令嬢を、生まれたままの姿にするだけではあき足らず、塩水などを無理やり飲ませて生理の限界に追いこみ、更にその身を、おぞましい木馬の上に乗せ上げて、美女の苦悶する姿態を眺め、酒の肴にしようとするのである。
  5873. 「う、うう♢♢」
  5874.  小夜子は、美しい額に脂汗をにじませて、木馬の下で生理の苦痛と戦っている。ふと気をゆるませれば、死ぬより辛い落花微塵のみじめな浅ましい姿を、これら悪鬼達の眼に晒さなければならなくなるのだ。
  5875.  小夜子は、獣のようにうめき、頭を床にすりつけるようにして、悶えつづけている。
  5876. 「ふふふ、そんな所でもじもじするより、木馬にまたがってもじもじしなよ、さあ、立ちな、お嬢さん」
  5877.  朱美は、チンピラ達と一緒になって、後ろから小夜子の肩をつかみ、有無をいわせず立ち上らせる。
  5878.  小夜子は絶叫したが、チンピビラ達は嵩にかかったように手とり足とり小夜子を横抱きにして木馬に乗せ上げようとするのだ。
  5879. 「誰か、ああ、誰か助けて!」
  5880.  小夜子の悲鳴を悪鬼達は心地よく聞きながら、遂に彼女を木馬へ乗せあげる。
  5881. 「しっかり股を開いて、ちゃんと乗らなきゃ駄目じゃないか」
  5882.  ズベ公達は、クスクス笑い合いながら、その股の間に夢幻的にほんのりと膨らむ丸味を帯びた令嬢のつつましやかな茂みをのぞき見するのだ。
  5883.  チンピラ達に木馬の上へ追い上げられたものの、頑なに足を閉ざし、全身を石のように硬直させて、火のように熱くなった顔を振りつづける小夜子を、ズベ公達は木馬の下から、囃し立てるのだった。
  5884. 「普通、拷問用に木馬の背は、削ってとがらせてあるものだよ。そんなスベスベした丸い背に乗せてもらえるなんて、幸せじゃないか。さあ、ちゃんとまたがるんだ」
  5885.  抱き上げられた小夜子と一緒に木馬の背に飛び乗ったチンピラ達は、狂乱の小夜子をようやく木馬にまたがらせ、ほっとして木馬から飛び降りる。
  5886. 「いいスタイルね。美しい令嬢の乗馬姿ってのは、なかなかいかすわ」
  5887.  ズベ公達は陶然としたように木馬の上の小夜子を眺めるのだった。
  5888.  雪白の美肌を麻縄で後手に縛りあげられ、木馬の上に堂々とまたがった小夜子の美しい姿態。
  5889.  何よりもズベ公やチンピラ達の眼を瞠らせたのは、その光沢のある美女の肌と、均整のとれた姿態である。麻縄にその上下を固くしめあげられた、ふっくらとした形のいい乳房。ウエストからヒップに至るまでの見事な曲線。木馬の背の上で左右に割れてすらりと伸びた肢の線も美しい。
  5890.  その割った両腿の間にふっくらと盛り上がる気品まで湛えた繊毛。
  5891.  そして、木馬に乗った美女の全身からは、艶めかしい香料が四囲に拡がっていくようである。ズベ公もチンピラ達も、小夜子のそんな美しさにただ眼を瞠るばかりであったが、木馬の上の美女は、自分のそうしたみじめな姿態に恥ずかしさを覚える余裕も、もうないようであった。全身を火柱のように熱くさせながら、必死になり、ただ一途に、耐えつづけているのである。
  5892. 「ああ、も、もう、うう♢♢」
  5893.  美しい顔を伏せたり、のけぞらせたりして悶えている。
  5894. 八の字になっている形のいい白い足が海草のようにゆれ動くのだ。
  5895. 「ふふふ、木馬の上で茂みをこすりつけてもじもじし始めたよ。この御令嬢」
  5896.  悦子が笑い出す。
  5897. 「川田兄貴達がもどってくるまで、がまんしなきゃ駄目よ。木馬の背を汚したりしちゃ承知しないからね」
  5898.  続いてマリが、
  5899. 「木馬を足でしっかりはさんでしめてみな。そうすりゃ少しは楽になるさ。ふふふ」
  5900.  そんな揶揄を受けながら、木馬の上の小夜子は、もう悲鳴をあげる気分も失せたかのようにがっくりと首を落とし、マリがいうように自然に両肢で木馬の背を固くしめ始める。だが、いよいよどうしようもない限界に達したのだろう。
  5901. 小夜子は、キリキリ歯を噛み鳴らしながら、深く垂れてい
  5902. た首を大きく後ろへのけぞらせた。固く閉ざした瞳からは
  5903. 幾筋もの涙が実しい桃を伝わって流れ落ちるのだった。
  5904.  
  5905.  
  5906.     毒婦の恋
  5907.  
  5908.  さて、鬼源の調教室では♢♢静子夫人と京子の熱演を眺めている銀子の顔が次第に強ばり、眼までつり上っていくのである。二人の美女が鬼源に強制され、演じ始めた事を見ているうち、最初のうちは、銀子も倒錯したサディスチックな喜びと、妙に身内が燃えはじめる一種の快感に、陶然とした気分に浸っていたのであるが、次第に静子夫人と京子が一切を忘れたように没我の境地に入って、お互いを責め始めた様子を見ているうち、嫉妬めいたものが胸をキリキリしめつけ出したのである。美しいものに対する憎悪も裏返せば嫉妬になる。
  5909.  それにしても、鬼源と共謀して、二人の美女にそういう行為を強制し、我を忘れて、そういう行為に浸らせるべく、努力しながら、実際に二人の美女が思い通りのコンビになればなったで、それを嫉妬するとは♢♢全く銀子という女は、どこまでも変質的に出来ているのだろう。
  5910. 「どうしたい。銀子姐さん」
  5911.  鬼源は、茶碗酒をあおりながら、妙に青ざめた表情になって、美女のプレイを眺めている銀子にいった。
  5912.  銀子は、それには答えず、二人の美女に、ギラギラする瞳を向けているのだ。
  5913.  鬼源はニヤニヤしながら、動かなくなった二人の美女に近づき、小腰をかがめて、
  5914. 「こりゃすげえや。待ってな。今、その汗を拭いてやるからな」
  5915.  鬼源に汗を始末されると、静子夫人も京子も、ふと我に返ったように真っ赤になった美しい顔を互いにそむけ合い、自意識がもどってたまらない屈辱に、わなわな体を震わせるのだった。
  5916. 「さあ、さっぱりしたところで、もう一度」
  5917.  鬼源が口元を認めてそういった時、銀子が吐き出すように、
  5918. 「もういいわよ。それ位にしておおき!」
  5919.  といった。
  5920. 「何だ、もういいのかい。俺はあんたがどうしても、三回以上、プレイさせてくれというもんだから♢♢」
  5921. 「もういいわよ。たくさんだ」
  5922.  銀子は、白眼をむくようにして夫人と京子の間に立つ。
  5923. 「ふん、いい気なもんだ。遠山財閥の令夫人が、嬉し泣きなんかしてさ」
  5924.  銀子は、眼を伏せ、顔をそむけている静子夫人に向かって憎々しげにいう。
  5925. 「あたいはね、奥さんの近寄りがたい美しさや気品の高さってものに、あこがれたし、ひがんでもいたのさ。可愛さあまって、憎さが百倍。だからずいぶんとひどい目にも遭わせたんだよ。ところが何だい、今のざまは、笑わせるんじゃないよ」
  5926.  それを聞く鬼源も、ゲラゲラ笑いながら、奇妙な声を出す。
  5927. 「ねえ、京子さん。静子、静子、どうしたらいいの、なんて全く可愛い事を、おっしゃったぜ。桂子に聞かせてえぐれえだ」
  5928.  すると、銀子はニヤリと口を歪めて、
  5929. 「そうだわ。桂子や美津子にも、そろそろこういう事を教えなきゃならないわね。じゃ静子夫人、明日は、貴女に桂子の稽古台になってもらう事にしようじゃないの」
  5930.  それを聞いた静子夫人は、ほっとしたように伏せていた顔をあげ、おびえた美しい瞳を銀子に向けるのだった。
  5931.  桂子の稽古台♢♢何という恐ろしい銀子の着想であろう。自分の本当の娘ではないにしても、夫、遠山隆義の先妻の娘、桂子。その桂子が、つまり継母である自分と、そんな事を♢♢。静子夫人は、くらくらと眼まいが起こりそうになった。
  5932. 「後、後生です。銀子さん、それだけは、それだけは♢♢かんにんして」
  5933.  静子夫人は激しく肩を震わせて泣きじゃくる。いっそ、舌でも噛み切りたい気持だった。
  5934. 「何いってんのよ。ママが優しくリードして教えてあげる方が、娘としても、一番よく理解出来るってものじゃないの。桂子の成長ぶりをたしかめるためにも、それが一番いい方法だと思うわ」
  5935.  銀子は小気味よさそうに、そういう気違いじみた笑い方をするのだった。
  5936. 「鬼、鬼よ、貴女達は!」
  5937.  京子も歯を喰いしばったような表情をして銀子の顔を見上げていう。葉桜団ズベ公達の常軌を逸した残忍さに、京子はわなわなと体を震わせ、憎悪のこもった瞳を向けたのだが、いきなり、銀子に頬を平手打ちされ、京子は、あっと声をあげ、その場につんのめってしまう。
  5938. 「生意気な口をきくんじゃないよ。毎日、楽しい思いをさせてもらってるくせに何だよ、そのいい草は。そうだ、美津子の稽古は、お前さんにつけさせてやろうよ。そんなら文句はないだろう」
  5939.  そして、銀子は鬼源に向かい、
  5940. 「今、いったように、桂子は静子夫人、美津子は京子に指導させる事にするからね。一つよろしく頼むよ。明日までに、そういうコンビにぴったりの道具を作ってやっておくれ」
  5941.  よかろう、鬼源は、相変らず、茶碗酒をロへ運びながら、
  5942. 「俺は田代社長から、たんまり礼金を貰う事になってるんだ。礼さえ頂けりゃ、こちとらも好きな道さ。お前さん達が望む事を、何でもやってやるぜ」
  5943.  と銀子にいうのだった。
  5944. 「そうかい、頼もしい事をいってくれるじゃないか」
  5945.  と銀子は顔をくずす。
  5946. 「いくら本当の姉と妹とはいえ、とにかく、二人とも女であることにゃ違えねえ。女の体ってものは不思議なものさ。ま、一つ俺の腕前を見せてやるさ」
  5947.  鬼源がそういった途端、ヒイーと京子は悲鳴に似た声をあげ、床にうずくまり、深く首を落としてしまった。
  5948.  この狂気じみた悪魔達に対し、夫人も京子も反抗的な言葉一つ、投げかける気力とてもなかったのである。
  5949. 「さあ、今夜はこの位にしておいてやろう。二人とも自分のねぐらに戻ったら、どんな風に桂子や美津子を指導すりゃいいか、よく考えておく事ね」
  5950.  静子夫人は、柱に固定された体は離されたが、後手に縛りあげられている縄は解かれず銀子に縄尻を取られ、尻を足で押されながらふらふらと歩み出す。京子は鬼源に引き立てられるのだ。
  5951.  三階の調教室から一階へ、そして、廊下の隅の上げ板を外して、二人の美女は地下室へ押し立てられて行く。
  5952.  物置を改造して作られた、幾つかの牢舎の一番奥へ静子夫人を銀子は引き立て、その中へ押しこむと自分も一緒になって、もぐりこむのだった。
  5953.  静子夫人の押しこめられた隣の牢舎には、京子が鬼源に押しこまれている。
  5954. 「御苦労だったな。ゆっくり休むがいいぜ」
  5955.  鬼源は、そういいながら縄を解いてやる。京子は、自由になった両手で本能的に乳房を抱き、冷たい土間の上に小さくちぢこまってしまうのだ。薄いせんべい布団が土間の中央に敷かれてある。
  5956.  この屋敷は、全室くまなく暖房がきいている。裸でいたって風邪はひきっこないから心配するな、という意味の事を鬼源はいい、手にしていた徳利の酒をラッパ飲みすると、
  5957. 「さあ、もういいだろう。両手を前へ出して頂こうか」
  5958.  鬼源は懐から手錠を取り出すのだった。もう反抗する気力もない京子は従順に胸を抱いていた両手を解いて前へ差し出し、顔を伏せる。
  5959.  ガチャリと両手に手錠をかけた鬼源は、のっそりと立ち上り、
  5960. 「用を足したくなりゃ隅に洗面器があるからな。じゃ、お休み」
  5961.  鬼源は、京子を閉じこめた牢舎から出て、鍵をかけたが、ふと、隣の牢舎から流れてくる話し声に気づき、そっとのぞき見するのだった。
  5962.  静子夫人の閉じ込められた牢舎の中では、奇妙な光景が展開しているのだ。
  5963.  後手に縛られたまま、せんべい布団の上にぴったり立膝をして坐っている静子夫人の横に銀子はにじり寄るようにして、盛んにかき口説いているのだが、夫人は美しい顔を紅潮させて嫌々と拒否しつづけているのである。
  5964.  鬼源は面白くなってきて、足音を忍ばせ、牢格子の聞から顔をのぞかせて、中を盗み見する。
  5965. 「ねえ奥さん、あたいね、初めて、奥さんを見た時、世の中にこんな美しい人がいるものなのかと、びっくりしたのよ。と同時に、何だか妬ましくなってきて、あたい達とはまるで月とスッポンの上流社会に育ち、栄耀贅沢して暮している奥さんが憎らしくてたまらなくなったのよ。あたい連なんか鼻もひっかけてもらえない高原に咲く美しい花を、泥田の中へ引きずりこんで無茶苦茶にしてやれという気持になって、まず川田兄貴のおもちゃにさせ、浣腸をはじめ、色々と手を尽して貴女をひどい目にあわせたわ。美しいものにきたない泥水をかぶせて、あたい達は溜飲を下げようとしたのよ。だけど、どんなに泥水をかぶせても、奥さんは天性の美しさを失わない。あたい達、手こずるというより、参ったという気分になっちまった。今の京子とのプレイを見ても、肉体的に成長してきた奥さんは、ますます魅力的に、あたいの眼に映るのだもの」
  5966.  そして、銀子は、静子夫人の柔軟な白い肩に手をかけ、背後より、そのすべすべした白蝋の背に頬をすりつけ始めるのだった。
  5967. 「もう京子なんかと、あんな真似はさせたくないわ。だから、ねえ、奥さん、銀子のものになっておくれよ」
  5968.  静子夫人の身も心もズタズタにするまで責めさいなんだものの実は、天性の美しさを失わず、気高い貞淑な心根を持ちつづける令夫人を、前々から思慕し、心の中では悶々としていたのである事を、銀子は自ら告白し、つまり、誘惑し始めたのである。
  5969. 「ねえ、貴女があたいのものになってくれるなら、こんな暗い牢舎から、今すぐにでも出してあげる。毎日あたいの部屋で暮し、羽根布団の上で、安らかに眠らせてあげるのよ。貴女のその美貌と肉体美に、あたいがうんと、みがきをかけてあげる」
  5970.  銀子は盛んに静子夫人を、かき口説くのであった。
  5971. 「そりゃ貴女はもう森田組の完全な所有物だから、秘密ショー、秘密写真では大いに稼いでもらわなけりゃ困るけど、そんなことで疲れた貴女の心を、これからあたいが優しくいたわってあげるわ。悪いようにはしない。ね、奥さん、はっきり私の愛を受けると約束して頂戴」
  5972.  そんな風に銀子は、静子夫人にいい寄るのだったが、夫人は、眼を閉じ、物悲しげな表情でじっと、俯向いたきりなのだ。
  5973. 「いいわね、奥さん」
  5974.  銀子は前へ贈って、再び夫人の両肩に手をかけ、返事をうながすように、ゆすりはじめる。
  5975.  静子夫人は、うろたえ気味に、ふと、美しい瞳を開いて銀子を見たが、すぐに視線をそらせ、恥ずかしげに顔をそむける。
  5976. 「ねえ、奥さん、貴女、まさか、あたいに恥をかかせようってのじゃないだろうね」
  5977.  銀子の眼はきらりと光り、残忍なものを浮かばせた。
  5978. 「♢♢銀子さん、あ、あんまりです。あんまりです」
  5979.  静子夫人は、急に身を震わせ、たまらなくなったように鳴咽し始めるのだった。
  5980. 「わ、わたしを死ぬより辛い目に遭わせ、その上、京子さんと二人であんなことまでさせて嬲り抜きながら、この上まだ私に恥をかかせようというのですか。貴女達がどう解釈し、さげすもうと勝手ですが、京子さんも私もあのような事を強要されているうち、気持の上でも本当に離れられない関係になってしまいました。それは、貴女達の望んでいらっしゃった事じゃございませんか。でも、私達は貴女達に報復する意味で、そういうつながりになったのよ」
  5981.  静子夫人は、涙にうるんだ切れ長の美しい瞳を銀子に向け、口惜しげに唇を、噛みしめる。
  5982.  静子夫人は銀子の邪恋の誘惑を、きっぱりとはねつけたのだ。
  5983. 「そうかい。よくわかったよ」
  5984.  銀子は青ざめた顔つきになって、はじき出すようにいう。怒りのために、こめかみのあたりがピクピク痙攣するのだった。
  5985. 「よ、よくも、あたいに赤恥をかかせてくれたわね。こう見えたって、あたいも女。女のあたいが見栄も体裁も忘れて、真心を尽して話したのに、それを仇で返しやがった。どうするか覚えとくがいいさ」
  5986.  憤懣やる方なしといった銀子は、かんしゃくを起こしたのか、いきなり静子夫人の頬を激しく平手打ちし、悲鳴をあげた夫人の腰のあたりを足蹴にして、その場へ横転させてしまう。
  5987.  横倒しになった静子夫人は、後手に縛られているため立ち上ることは出来ず、その場へ海老のように伏せてしまうのだったが、量感のある夫人の尻を銀子は狂ったように足で蹴りまくるのだ。それを格子の外から見ていた鬼源は、あわてて、中へ飛びこみ、狂乱の銀子を抱きとめる。
  5988. 「まあ、おめえの気持もよくわかるが、この令夫人は商売ものだ。それに、ショーの日も追ってる。こんなきれいな体に生傷でもつけちゃ大変だ。俺の責任になる事だからな。まあ、それ位にしといてくんねえ」
  5989.  銀子は、静子夫人をかき口説いていた光景をこの鬼源にも目撃されたのだと気づくと、一層、猛り出し、夫人の尻を踏んづけようとするのだが、鬼源に押さえられ、なだめられると、今度は子供のように、わーと手放しで泣き出し、鬼源にしがみつくのだった。
  5990. 「みっともねえぜ。葉桜団の団長がよ、たかが女にふられた事ぐらいで、そんなに泣くのはよしな」
  5991.  鬼源は、ゲラゲラ笑いながら、銀子の肩をかるく叩く。銀子は、急に、きっとした顔つきになって顔をあげると、何時もの調子にもどって、激しい口調になって鬼源にいうのだった。
  5992. 「鬼源さん、あんたの調教、少し、手ぬるいようじゃないか。泣く子も黙る浅草の鬼源も少し、もうろくしたんじゃないかい」
  5993.  ええ? と鬼源は眼をパチパチさせて銀子を見る。
  5994. 「あと、ショーまで何日もないんだろう。もっと、ピッチをあげてびしびしおやりよ。これからあたいも調教の時には立ち会って、手をかす事にするよ」
  5995.  とベラベラ早口でしゃべり始め、わざとらしい無表情をつくって、
  5996. 「美津子や桂子だって、遊ばせておくことはない。コンビにして、出演させなきゃ駄目だよ。そのためにも、さっきもいったようにかなり上達してきた静子と京子に、二人の稽古をつけさせるのさ。明日は、早速それにかかっておくれよ」
  5997.  鬼源は、ニヤニヤしながら、わかった、わかった、と大きくうなずき、
  5998. 「じゃ、美津子と桂子のサイズを計って、早速、作らなきゃならねえな。やれやれ何だかんだと忙しいことだ」
  5999.  土間に海老のように体を曲げて、横臥している静子夫人は、背中の中程に縛り合わされている両手首を震わせながら、激しく泣きじゃくるのだった。
  6000.  
  6001.  
  6002.     嵐に立つ小夜子
  6003.  
  6004.  散々な月にあった田代、森田、川田、吉沢の四人は、その翌日の昼頃、不機嫌極まる表情で田代邸へ引き揚げて来た。
  6005. 「御苦労だったわね」
  6006. 「また、そのうち、いい事があるわよ」
  6007.  男達の気分を察して、ズベ公達は、しきりと慰める。
  6008.  逃げる途中で、車が街路樹にぷつかったりして吉沢などは全身に打撲を受け、川田に背負われて帰着するという哀れさだ。
  6009.  吉沢を寝室に運び、チンピラ達に傷の手当てなどさせてから、川田、田代、森田の三人は浮かぬ顔つきで、二階のホームバーに入り銀子や朱美の酌でウイスキーを飲み始めた。
  6010. 「ああ畜生、おもしろくねえ。思いだしてもむしゃくしゃする。久しぶりで大金にお目にかかれると、わくわくしていたのにな」
  6011.  森田は、朱美の酌で、ウイスキーを投げ込むようにロへ流しこみながら、酸っぱい顔をしていうのだった。
  6012. 「こうなりゃ村瀬の息子も娘も、かまう事はねえ。ショーのスターとして徹底的に仕込みあげるんだ。幸い小夜子っていう娘は、静子夫人や美津子に負けず劣らずの器量よしで、雪白美人ときてやがる。俺達に相当稼がせてくれる事
  6013. と思いますよ。ねえ、社長」
  6014.  森田は田代の顔を上目使いにうかがうように見ていう。
  6015. 「よし、じゃ鬼源さん。また荷がふえたってものだが、何しろ、あれだけの美人だ。一つよろしく調教を頼むぜ」
  6016.  田代は、カウンターの一番、隅に坐ってちびりちびりウイスキーをなめている鬼源に向かい、そういうのだった。
  6017. 「へえ、大家のお嬢さんだけに、ちと骨が折れるとは思いますが、ベストを尽して仕込んでみますよ」
  6018.   などと鬼源はいい、いやらしい口を曲げて、へっへへと出歯をむき出して笑うのだった。
  6019. 「ところで、小夜子嬢の方はどうなんだ。昨夜はおとなしくしていたかい」
  6020.  田代は朱美の方を見ていう。朱美は、川田の酌を受けて、ウイスキーをうまそうに飲みこむと、
  6021. 「昨夜、川田兄さんからの電話で、小夜子の家の者達が山崎探偵に連絡をとって網を張ったっていうでしょう。あたいは、かっと頭にきちゃつてね。あの娘だけは特別に扱ってやろうと思ってたんですが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってな気分になっちゃったのですよ」
  6022.  朱美は笑いながら小夜子を裸にして、木馬に乗せた事を報告する。どれ位、辛抱が出来るものかテストしたのだという朱美の話を聞くと、田代も森田も声をあげて笑うのだった。
  6023. 「なるはど、そいつは面白かっただろうな。あの気品のある令嬢が木馬にまたがって、モジモジする姿は俺も見たかったよ」
  6024.  田代は、別段、朱美が小夜子に対してとった行為を叱ろうともせず、しきりに笑いつづけていうのだ。
  6025. 「ところで、お嬢さん、今朝まで辛抱したのかい」
  6026. 「そりゃ無理ですよ。はとんどまる一日、行かせて貰えなかった上に、塩水まで飲まされたんですもの。♢♢でも感心に、木馬に乗せられてから二、三時間は辛抱したわね。だけど、明け方近くには、とうとうやっちまったわ。ふふふ」
  6027.  朱美は、煙草に火をつけて、煙の輪を吹き出しながら、
  6028. 「若い衆が、小躍りして喜んじゃってね。でも、見せしめのためだから、社長達がお帰りになるまで、そのままの姿で木馬に乗せてあるんですよ。どうですか。一寸、ごらんになりますか」
  6029.  粗相をしたみじめな姿を田代や森田の眼にさらさせるべく、小夜子をそのままの姿で木馬に乗せつづけていると朱美はいうのだ。
  6030. 「そいつは、ぜひとも拝見させてもらおうじゃないか」
  6031.  田代も森田も、楽しそうにいうのだった。昨日、山崎探偵等に煮え湯を飲まされた不快な気分は大分薄らいできたらしく、酒にほてった顔をなぜながら上機嫌になっている。
  6032. 「じゃ、あたいは一足先に行って、小夜子の様子を見て来ますよ。居眠りなんかしてやがったら、どやしつけてやります」
  6033.  朱美は、そういって廊下へ出て階下の、木馬に乗った小夜子のいる部屋へ向かうのだった。
  6034.  木馬に乗ったまま、そういうみじめな姿を晒け出し、地獄の羞恥に眼をつり、歯を噛み鳴らしてがたがた震えつづける小夜子を盛んに揶揄しまくったチンピラ達も、夜明けともなれば、さすがに騒ぎ疲れたのであろう。あちらこちらに丸太棒を投げ出したような恰好で、だらしなくいびきをかいている。
  6035.  だが、勿論、木馬の上の小夜子は眠るどころではなかった。白い頬を充血させ、毛穴から血でも噴き出すばかりの屈辱感に悶え泣きつづけているのである。
  6036. 「どう、お嬢さん、御気分は?」
  6037.  そっとドアを押して入って来た朱美は、ニヤリと顔をくずして、木馬の上の小夜子を見上げる。
  6038.  小夜子は、ほっとしたように、火のように熱くなった美しい顔を横に伏せて、再び、激しく声をたてて泣き出すのであった。
  6039. 「まあ、まるで洪水のようじゃないの。すごいわ」
  6040.  朱美は、木馬の下の床に眼をやる。そこには、大きな水溜りが出来ているのだ。
  6041. 「きれいにみがいてある床をこんなにして、一体、どうしてくれるのさ」
  6042.  朱美は、口をとがらせるようにして、木馬に乗っている美女にいうのだった。
  6043.  木馬の背から、左右に垂れ下がっている小夜子の白い美しい曲線をもつ両肢。時折、それをゆるやかに伝わって流れる水滴が、ボチャリと水溜りの上に落下する。その都度、小夜子は、たまらなく私ずかしい衝動に打たれたように、真っ赤になった顔を苦しげにのけぞらせるのだ。
  6044. 「フフフ、ちゃんと後始末をしてあげたいんだけど、一度、こういう結果になった事を、社長や親分に報告して、とくと見て頂こうと思うのよ」
  6045.  朱美は木馬の背に、ふと手をかけようとして、わざとらしく大仰に手をひっこめる。
  6046. 「あら嫌だ。木馬の背中も全部、水びたしだわ。貴女、前も後ろもところかまわずまき散らしたのね。ずいぷんと器用な事が出来るじゃないの。お嬢さん」
  6047.  朱美は声をあげて笑うのだ。木馬の小夜子は、あまりの屈辱に狂ったように首を振り、房々とした絹のような感触の艶のある黒髪をゆさぶるようにして、蚊きじゃくるのであったが、その時、廊下の方で男達の賑々しい話し声、続いて、ドアをノックする音。
  6048. 「朱美、入ってもいいかい」
  6049.  という声は、小夜子にも聞き覚えのある、この屋敷の主人、魔王のような男の田代なのだ。
  6050.  朱美は、薄笑いを浮かべて、小夜子を見上げ、
  6051. 「礼長のお出ましだよ。その傑作な恰好をじっくり見て頂いて粗相をしたお仕置を考えてもらうんだね」
  6052.  そして、朱美は、ドアの方に向かって、
  6053. 「社長、どうぞ、遠慮なさらずにお入りになって下さい。小夜子嬢も先程から社長のお越しを、お待ちかねなんですからね」
  6054.  田代、森田、川田、それに鬼源までが加わった四人が、何か高笑いしながら、どやどやと入って来たのである。
  6055.  小夜子は、恐ろしい四人の悪鬼達の出現に恐怖のあまり、強烈な電気に感電したかの如く、身体全部を石のように硬化させ、首をのけぞらせるのであった。これから、この四人は、朱美と一緒に、地獄の羞恥に泣く小夜子に対し、どのようにからかい、どのように嬲る気なのであろう。小夜子は生きた心地もなかった。
  6056. 「ほほう、こりゃ、ずいぶんと派手にやらかしたものだな」
  6057.  四人の男の眼は、一斉に木馬の下の水溜りに向けられる。
  6058.  森田は、その辺に、ごろごろ寝ころがっているチンピラ達を見ると舌打ちして、
  6059. 「手前達、社長がお帰りだというのに、何時まで寝ころがってやがんだ」
  6060.  と大声でどなり、足で踏みつけて廻る。
  6061.  チンピラ達が飛び起き、眼の前の親分と社長に気がつくと、うろたえて、ペコペコ頭を下げ、隅の方へ一かたまりになって、ちぢこまってしまうのだ。
  6062.  田代は、そんな事には頓着なく、盛んに木馬にまたがっている小夜子に向かい、からかいつづけているのだ。
  6063. 「ハッハハ、お嬢さん、一日溜めこんでいたものを、一時にすませてしまったわけなんだね。それにしても、木馬に乗っかったまますませるってのはどうだい。さぞ、いい気持だったろうね」
  6064.  これから何時も、その時その都度、木馬に乗せてやったらどうですと川田がいったので、田代も森田も口をあけて笑うのだった。
  6065. 「朱美から聞いたろうが、あんたの親父さんは約束を破って、俺達に煮え湯を飲ませたんだよ。だから、俺達としては、その復讐という意味もあるので、不本意ながら、お嬢さんを、秘密ショーのスターとして、みがき上げる事にきめたんだ。おんば日傘で育った大家のお嬢さんを、そういうスターに仕上げるのはかわいそうなんだが、恨むんなら裏切った親父さんを恨むことだな」
  6066.  川田が煙草をすいながら、木馬の上の美女に向かって因果を含めるようにいう。
  6067. 「それにしても、顔といい、スタイルといい全くケチのつけようのねえお嬢さんじゃありませんか。これで、静子夫人、京子、美津子、桂子、それにこの深窓の御令嬢、小夜子が加わったんで計五人だ。飛び抜けた美人を五人揃えたとありゃ、全国のこんな稼業の渡世人が、束になってかかつてきたって、こっちゃびくともするもんじゃ、ありませんよ。昨日、まんまと一杯喰わされた大金だって、すぐ取り戻すことが出来るってものです」
  6068.  森田は、泥えびすのような顔つきになって田代にいう。
  6069. 「まあ、難をいやあ、五人とも揃って、育ちのいいズブの素人ってことですが、それも、鬼源さんの調教一つで、どうともなるってもんですよ。現に、あのおしとやかで慎み深い静子夫人が、鬼源さんの努力が実って男勝りで気性の激しかった京子と、ああいうプレイを本心から悦び合ってするようになっちまったのですからね」
  6070.  川田も森田も調子を合わせるようにして、そんな事を田代にいうのだった。
  6071.  フムフム、と田代は愉快そうにうなずきながら木馬にまたがった美女をギラギラする眼で見上げていたが、何かに潜かれたように木馬のまわりをぐるぐる歩きながら、美女のなめらかな雪肌を仔細に観察し始める。
  6072.  木馬にまたがっている小夜子の一方の足を手にし、脛から膝小僧、そして、太腿と、そのゆるやかな曲線を楽しむかのように手でさすり、色の白さに眼を見張り、肉づきの良さに感心し、太腿に頬ずりなどしていたが、やがて、田代の手は、足首をつかみ、薄いピンクのペディキュアがはどこされている足の指の一つ一つを押し拡げるようにして見入っているのだ。
  6073.  木馬の上の美女は固く眼を閉じ、眉をしかめて、この屈辱に耐えている。
  6074. 「社長、余程、この御令嬢がお気に召したようですな」
  6075.  森田が田代のそうした姿態を眺めて、くすくす笑い出した。
  6076. 「どうだい、親分。この柔らかい温かい肉、いっそ食べてしまいたい気分になるよ」
  6077.  田代は、次に、手をのばして、木馬の上にどんと坐っている美女の尻の肉を軽くつまんだり、さすったりしているのだ。
  6078. 「お嬢さん、あんた、いくつになるんだい」
  6079.  田代は、小夜子の尻の上を軽く手でたたきながら質問する。
  6080.  小夜子は、固く唇を噛みしめ、首を深く垂れつづけたままである。
  6081.  小夜子が田代の質問に答えないのに腹を立てた失美が、ついと田代の横に立ち、
  6082. 「何時までも大家のお嬢さんぶってやがると承知しないよ。おまえは、今日から、森田組の持物なんだからね。静子夫人や京子達に負けないよう、しっかり働くのさ。さあ、社長の質問に答えるんだ!」
  6083.  小夜子は、その返事の代りに、声をあげて泣き出す。
  6084. 「泣けといったんじゃないよ。今年いくつになるかと社長さんは聞いておられるんだ」
  6085.  朱美は、田代の上衣のポケットから、シャープペンシルを抜き取って、いきなり、小夜子の尻の肉へ突き立てた。
  6086. 「あっ」
  6087.  小夜子は木馬の上で狂ったように悶え始める。
  6088. 「さ、答えるんだ。さもないと、今度は、とんでもない所へ突き入れるわよ」
  6089.  小夜子は、激しくすすり上げながら、
  6090. 「♢♢二十♢♢二十二♢♢です」
  6091.  田代は、満足げにうなずく。
  6092. 「そうか、女になるのに一山番適当な年だな」
  6093.  静子夫人が二十六、京子が二十三、桂子が二十二、美津子が十八、年齢においても、それぞれ異なり、それだけにバラエティにとんで面白い、と川田は田代に話しかけるのだった。
  6094. 「一応、お嬢さんの事について、こっちとしても予備知識をつけておきたいのだよ」
  6095.  朱美は、小夜子から、彼女自身の二十二歳に至るまでの略歴を聞きとろうとするのだ。シャープペンシルの先をつかって、おどしながら、朱美は小夜子の日から彼女自身の大体の予備知織を得たのである。
  6096.  やはり、朱美が想像していた通り、小夜子は昔ならば貴族階級の者しか行けなかった青葉学院を出、花嫁修業にいそしむかたわら、ピアノのレッスンに励み、去年は父親の取引先の会社がスポンサーをしているミス宝石の美人コンテストに、無理やり口説かれて参加したところ、これが一位に入賞、続いて、音楽コンクールにも、在学中の教師に懇望されて参加し、ピアノの部で一位入賞の輝かしい栄光を持っている。
  6097. 「すばらしいわね。二十二の若さで、それだけの栄光を受けたんだもの。もう思い残すことはないってわけだわ。ここじゃね、ピアノで、ショパンやシューベルトなんかをひく必要は全くないのよ。大いに活躍して頂かなきゃならないのは、貴女のその美しい体よ。わかるでしょう」
  6098.  朱美は、そういって、ニヤリと笑い、紙と鉛筆を用意して、
  6099. 「それじゃ、これからは、ここで必要な事をお聞きするわ。まず、バストやヒップなんかのサイズをいってごらん」
  6100.  小夜子は、再び、顔面を紅潮させて、俯向いてしまうのだ。すると、朱美は、ペンシルを指でいじり出し、小夜子の太腿のあたりをチクチクつつく。
  6101. 「痛い目に合うのは嫌でしょ」
  6102.  小夜子は小刻みに震えながら、朱美の質問に小さな声で答えていくのだ。
  6103.  朱美は事務的にメモしていきながら、
  6104. 「そう、じゃ最後に、そこのサイズは」
  6105.  小夜子は、涙でキラキラ光る美しい黒眼を開いて、ふと、朱美の指さすところを見たがあまりの事に、かっと頭に血がのぼり、反射的に顔をそむけて、身体を硬化させた。のど元に熱っぽいものがこみあがり、たまらない屈辱感にわなわなと雪白の全身を震わせるのだった。
  6106. 「おっと、ごめんなさい。お嬢さんは、ここへ来たばかりだったわね。でもショーのスターとして一番肝心なところだから、あとで鬼源さんに、くわしく計ってもらわなきゃ駄目よ」
  6107.  朱美は、そういって笑い、
  6108. 「それから、念のために聞いておくけど、お嬢さん、あんた、まだ男は知らないでしょうね」
  6109.  男と寝たことがあるかって聞いてるんだよと、川田が横から口を出す。
  6110.  小夜子は、すすりあげながら、激しく首を振りつづけた。
  6111. 「そうでしょうね。その方が、やっぱり女として値うちがつくってものよ。でも、何時までも娘のまんまだと、やはり調教が本格的になってくると、具合が悪い事があるのよ。だから、なるだけ、早い目に、ここにいる人達と相談して女にしてあげるわ」
  6112.  小夜子は、朱美のそうした恐ろしい言葉に身も心もくたくたにされてしまって顔を伏せるのだった。
  6113. 「それから、お嬢さん、あんたの生理日は何時なの」
  6114.  小夜子はもう抵抗する気力が失せ、朱美の発する屈辱的な質問に対し、すすり上げながら答えるのであった。
  6115. 「そう、じゃ、その日だけは、お休みという事にしてあげる。つまり、世間でいう生理休暇ってやつよ」
  6116.  じゃこれから、宣誓式をやろう、と川田がいい出し、ようやく小夜子は、木馬から、降ろされることとなった。
  6117.  川田と鬼源と二人に、かかえられるようにして木馬からやっとの事で降ろされた小夜子であるが、長時間、おぞましい木馬にまたがっていたため、太腿の附根あたりの筋肉がひきつったように痛み、まともに床の上に立つ事が出来ず、腰がくだけたように、その場へ、くず折れてしまうのであった。
  6118.  田代は舌なめずりをしながら、木馬の足元に、くずれ泣いている小夜子のスベスベした雪白の肌を唾を呑みこんで見つめるのだった。
  6119. 「さ、お嬢さん、今から、森田組のショーのスターとして出発する事になった、あんたの宣誓式をやるのよ。しゃんと立って♢♢」
  6120.  朱美はそういいつつ、鬼源に眼くばせし、二人で、くずれ泣いている小夜子の両側に身をかがめると、乳白色の艶ゃかな肩に手をかけて引き起こしにかかるのである。
  6121.  ふらふらとして足元も、おぼつかなく、体をくの字に曲げる小夜子を朱美と鬼源はがむしゃらに縄尻を取り、背をついて押し充て、部屋の隅の柱に正面を向けさせて、押しつけ、新しく用意した麻縄で、ひしひしと、立ち縛りに仕上げていく。
  6122.  小夜子は柱を背に立位で縛りつけられると固く眼を閉ざし、両腿を頑なにぴったりと閉じ合わせた。その腿の附根
  6123. には絹のように柔らかそうな繊毛が、気品のある匂いを立たせて夢のようにふっくらと盛り上っている。
  6124.  川田は、テーブルの上に白い紙を置くと、森田と相談しながら、筆をつかって、しきりに何かを書いている。
  6125.  小夜子を、柱を背にさせて立たせ、がっちりと縄がけをした朱美と鬼源は、紙に筆を走らせている川田に向かって、
  6126. 「宣誓文は出来ましたかね。川田兄貴」
  6127.  つまり、川田は小夜子自身の口から読み上げさせる宣誓文の作成を、森田と二人でやっていたのだ。
  6128.  さて、出来たぜ、と川田は紙を手にして立ち上り、立ち縛りにされている小夜子に近づく。
  6129.  小夜子は、正面に立った川田から、うろたえ気味に視線をそらせる。おぞましい木馬にまたがらせられた気の狂うばかりの私ずかしい姿を長時間、野卑な男達の眼に晒した小夜子は今、その白磁の麗身を真正面から、あます所なく、
  6130. 卑劣漢のにごった眼にさらさねばならないのだ。
  6131. 「たまらねえな。いい所の娘ってのは茂みでさえ気品があるぜ」
  6132.  川田も森田も、田代も、そんな姿にされている小夜子の前に立ちはだかるようにして酒やウイスキーによどんだギラギラする眼で上半身を睨みつづけるのだった。
  6133.  日本舞踊やバレーなどで鍛練されたのであろう、小夜子のスタイルのいい肢は、太腿のあたりの肉づきがきりきりとしまり、眺める男達をやるせないばかりの思いにさせ、また上下を麻縄に固くしめつけられてはいるが、その発達した胸の隆起、羞恥のため波打っている腰の周辺など、男達を陶酔の境地にさそいこんでいくのだった。
  6134.  川田は、涎を流すような表情で、しばらく見とれていたが、ふと我に返ったように手にしていた紙、つまり宣誓文なるものを、小夜子の気品のある鼻先へ押しつけるようにする。
  6135. 「さあ、お嬢さん、この宣誓文を大きな声で読むんだ」
  6136.  小夜子は鼻先へ押しつけられたその紙を、涙でうるむ美しいエキゾチックな瞳をふと開いて見たが、その屈辱的な文字を見た途端、思わず体を震わせて、顔を伏せてしまう。
  6137. 「何をもたもたしているんだよ。いい家庭に育って、これまでうんと楽しい日を送ってきたんじゃないか。もう思い残すことなんかないだろう。さあ、大きな声をあげて、しっかり音読するんだ。ぐずぐずしやがると、承知しないよ」
  6138.  朱美は、テーブルの上のペンを取って来ると、むっちり肉のしまった小夜子の太腿のあたりへ、それを突き立てる。
  6139. 「あっ、あっ」
  6140.  小夜子は、けたたましい悲鳴をあげて、大きく身悶えさせた。
  6141. 「あんまり、手こずらせると、口じゃいえねえ私ずかしい責めにかけるぜ」
  6142.  川田は、小夜子の形のいい顎に手をかけて、美しい顔をぐいと上へこじ上げ、朱美は川田の作った宣誓文を拡げて、小夜子の眼の前へ押しつけるようにする。
  6143.  小夜子は、もう抵抗する事の空しさを思い知ったように再びキラキラ涙で光る美しい黒眼を開いて、それへ向けるのだった。そして歯をカチカチ噛み鳴らすようにしながら、このいまわしい宣誓文を声を震わせて読み始めたのである。川田が森田と相談し、半分ふざけて作った宣誓文には、大体、このような事が書いてあったのである。
  6144.  ♢♢村瀬小夜子、二十二歳は、これまでの実生活とは、いさぎよく決別し、本日より森田組の完全な所有物となり、秘密ショーのスターとして、秘密映画、実演、写真等に出演する事を確約致します。なお実習期間中は森田組幹部及び葉桜団幹部の許可があるまでこの屋敷内において、全裸、または、褌姿で日常を過ごし、幹部の要求ある時は、体内の臓物一切さらけ出すが如き恥ずかしい行為も、喜んでなす事を誓います♢♢。
  6145.  このような、おぞましい文章をどうして小夜子が、まして、世の中の汚れを知らぬ深窓に育った麗人が声をあげて読む事が出来ようか。少し読んではすすりあげ、また少し読んでは号泣する小夜子であったが、朱美は意地悪く、小夜子がためらい出すと、ペン先で体のあちこちをつつき出し、とうとう最後まで小夜子に音読させてしまったのである。
  6146.  さて、と川田は、その奇妙な宣誓文を立ち縛りにされている小夜子の足元に拡げて置くと、
  6147. 「署名捺印をして頂きゃしょう。だが、両手が使えないのだから仕方がねえ。足で間に合わせようじゃないか」
  6148.  川田は、筆にたっぷり墨をつけると、身をかがめて、小夜子の片方の足首をつかみあげ、そのピンクのペディキュアがほどこされてある可愛い指と指との間へ、筆をはさみ、自分も手伝ってやりながら、文章の末尾に、村瀬小夜子と署名させるのだった。
  6149. 「へっへへ、お嬢さん、足でサインしたっての初めてだろ。だが、そのうち、この筆をもっと変ったところにはさんでサイン出来るようになるぜ。ま、それは鬼源さんに教えてもらうことだよ」
  6150.  川田は、次に、ポケットから、印肉をとり出し、小夜子の足の拇指の裏に朱肉を塗り、小夜子の署名に奇妙な方法の捺印を無理やりにさせるのだった。
  6151. 「さあ、いいかい、お嬢さん。お前さんは、ちゃんとこの宣誓文に自分で署名捺印したんだ。約束を破っちゃ困るぜ」
  6152.  川田は、再び、その奇妙な宣誓文を小夜子の顔の前へ拡げて押しつけ、田代にそれを渡すのだった。
  6153.  田代は、ニヤニヤしながら、それに眼をやったが、足で署名捺印させるとは、川田も仲々面白い事を考えつくじゃないかと、おかしくてたまらぬように笑うのだ。
  6154. 「だが、俺なら、も少し、色っぽい方法を考えるな。宣誓文にも迫力を持たせる意味で署名の下へ、この美しいお嬢さんのパーマのあたった下の毛を二、三本はりつけておくってのはどうだい」
  6155.  その意味がわかって、川田は、くしゃくしゃに顔をくずし、
  6156. 「なるはど、やっぱり社長の考える事は、俺達とは違うぜ」
  6157.  と、大きく口を開けて笑うのだ。朱美も笑いながら、隅の机のひき出しを開け、小さな鋏を持ち出してくる。
  6158. 「ちょっと二、三本、つみ取らせて頂くよ」
  6159.  精も根も尽き果てたように、がっくり首を落として、すすりあげていた小夜子であるが朱美がしようとしている事の意味がわかると、
  6160. 「な、何をするのです!」
  6161.  思わず、生き返ったように大声を出し、均整のとれた両肢を、激しく揺り動かせるのだった。
  6162.  朱美は、頓狂な顔つきになって、笑いながら、
  6163. 「まあ、この御令嬢、ずいぶんケチね。いいじゃないの、二、三本ぐらい」
  6164.  朱美が再び近寄ろうとすると、小夜子は、逆上したように身悶えする。小夜子のきらめくような美しい肌をゆわえつけている麻縄が、柱にこすれてギイギイと重苦しい音をたてるのだ。
  6165.  川田は、くすくす笑いながら、鬼源に眼で合図し、テーブルの下に束ねてある、麻縄の一本を手にして狂乱の小夜子に近づくのだ。
  6166. 「あっ、嫌、嫌っ」
  6167.  鬼源がいきなり、タックルでもするように小夜子の両肢に抱きつき、馬鹿力を発揮してその両方をぴったり揃えさせて、柱に押しつけ、そこをすかさず川田が麻縄をつかって、キリキリ柱に巻きつけ、遂に小夜子は上半身、下半身とも身動きのとれぬように縛りつけられてしまったのである。
  6168. 「へっへへ、こうなっちゃ、どうしようもあるめえ。暴れた罰だ。少し、よけいめにつみ取らせてもらうぜ」
  6169.  川田は、朱美から鋏を受け取って身を沈ませる。
  6170. 「ああ♢♢」
  6171.  小夜子は、背のびをするように、美しい顔を大きく後ろへのけぞらせ、真珠のような光沢のある歯を見せて、いいい♢♢と歯ぎしりする。
  6172. 「艶があって、全く見事な髪の毛だ。それに多からず、少なからず、烏の濡れ羽色ってのは、この事だ」
  6173.  川田は、勝手な事をいいながら、鋏を使っている。
  6174. 「やいやい夢中になって、丸坊主にしちゃうんじゃねえぞ」
  6175.  森田が、のぞきこみながら笑っているのだった。
  6176. 「ついでだ。俺も、くわしく測量させてもらうとするか」 鬼源は、懐から巻尺をとり出し、川田に並んで身を低める。
  6177.  小夜子は、切なげに眼を閉じ、眉をしかめて、屈辱と羞恥の呻きをあげながら、甘ずっぱい女の体臭をまき散らすように緊縛されたどうしようもない全身を、ゆるやかにうねらせているだけだった。
  6178.  
  6179.  
  6180.  
  6181. 第二十四章 恐怖の逆転劇
  6182.  
  6183.  
  6184.     悪魔の相談
  6185.  
  6186.  その日、つまり、田代と森田が計画したショーは、明日に迫った。
  6187.  おそい朝食をとりながら、悪魔紳士の田代は森田と川田を自室に呼んで、最後の打ち合わせを始める。
  6188.  青葉の庭に面した日当たりのいい十畳の間。床の間の掛軸にしろ、壁にかかった墨字の額にしろ、部屋然と配置されていて、日本間の風趣が満ち、ここが秘密ショー実行委員会の会議の場とは、どうしても思えない。
  6189.  血のしたたるようなビフテキをフォークで突き刺し、口へ運びながら、精力的な体つきの田代は、森田と川田に話しかけるのである。
  6190. 「御婦人方のコンディションは、どうかね」
  6191.  美しいスターに仕上げるため栄養だけは充分とらせるようにというのが田代の口ぐせであり、五人の美女の食事には、森田がかなり気を使い、肉やスープと滋養物を与えているのだった。
  6192. 「コンディションは上々の上というところですな。今日は、朝から鬼源さんが最後の仕上げに入っていますよ」
  6193.  川田が、森田の前のコップにビールを注ぎながらいう。
  6194. 「ところで客人の方の連絡は、全部出来たのだろうな」
  6195. 「へい、その点、抜かりはありません」
  6196.  森田は、懐から、メモを取り出して、田代の前へ置くのだった。
  6197.  第一日は、招待日というわけで、ほとんどが博徒、テキ屋の親分連である。こういう秘密ショー、秘密写真を渡世にしている親分もいるだけに、つまり、見る眼というものを持っている。その点、大丈夫か、と田代が聞くと、
  6198. 「ま、浅草で一流といわれた調教師、鬼源が奮闘してるんですから、その点、任しといて下さい」
  6199.  と、川田は自信ありげに笑っている。
  6200.  森田も、それに調子を合わせて、
  6201. 「何しろ、社長。御婦人方が、素人とはいっても、どれもこれも飛びきりの美人ぞろいなんですからね。見る者の度ギモを抜く事、請け合いますよ」
  6202.  と、これも自信充分である。
  6203.  映画女優の山本富士子そっくりの静子夫人が舞台に立った時、あっけにとられた親分衆の顔が眼に浮かぶよ、と田代も上機嫌であった。
  6204.  そこへ、ひょっこり、鬼源が入って来る。
  6205. 「ああ、朝から御苦労だな。どうだい、奥さんと京子嬢は?」
  6206.  田代は、眼を細めて鬼源を招き、コップを渡して、ビールを注いでやる。
  6207.  鬼源は、押し頂くようにしてコップを持ち、うまそうに一息に飲み干すと、
  6208. 「ま、色々苦労した甲斐があって、同性愛プレイは完全なものになりましたよ。それだけではありませんよ。今朝は、あの令夫人、とうとうバナナを切って見せましたぜ」
  6209.  それを聞くと、田代も森田も顔を見合わせて大声で笑い合う。
  6210. 「そうかい。あの遠山令夫人、遂にそこまで進歩したかい」
  6211.  鬼源は、出歯をむき出して追従笑いをしながら、
  6212. 「最初は、泣いたり、わめいたりして、ずいぶんと手こずりましたよ。だが、ここまでくりゃ、こっちのもんでさあ。午後からは、生卵を使っての芸当を仕込み上げますよ」
  6213.  そういう鬼源の報告を聞くと、田代も森田も、すこぶる満足げな顔をし、盛んにビールを鬼源にすすめる。
  6214.  ところで、美津子や小夜子達はどうするかという事の相談になったが、鬼源の意見としては、第一回目のショーに出すのは、まだまだ無理。しかし、第二回目までには、徹底的に調教して、必ず出演させる、ということである。
  6215. 「俺の考えなんですが、こうしちゃどうでしょう。あの文夫っていう若造と美津子をですね♢♢」
  6216.  鬼源は美津子と文夫が恋人同士であり、その激しい愛情を逆用して♢♢と彼の着想は田代達の舌を巻かせた。
  6217. 「てっとり早くいえば、二人の思いを遂げさせてやるんですよ」
  6218.  鬼源は、ニヤリと口を歪めて、田代の顔をうかがうようにしていう。
  6219. 「吉沢兄貴にゃ悪いが、まだ起き上れない怪我人だ。一つここは、森田組のために譲って貰うわけですよ。美津子だって、好きな男とそうなりゃ案外素直になって、そのままショーに♢♢」
  6220.  なるほどな、と森田は、大きくうなずく。
  6221. 「そりゃ名案だぜ。そんなコンビが出来上りゃショーもバラエティに富むってもんだ。どうです、社長」
  6222.  田代も、楽しそうに幾度もうなずく。
  6223. 「その役目は、銀子と朱美達にさせようじゃありませんか」
  6224.  川田がそういうと、森田も鬼源も賛成し、早速、川田は銀子達のいる二階へ向かった。
  6225.  
  6226.  
  6227.     恐ろしい計画
  6228.  
  6229.  二階の隅に近い一部展を当てがわれている葉桜団のズベ公達は、花札、トランプ、丁半バクチなどをキャッキャッ笑いながらやっている。
  6230.  川田は、彼女達の部屋へ入るなり、大声でどなった。
  6231. 「明日から、いよいよショーの開幕ってのに何をのんきに遊んでやがるんだ」
  6232. 「大きなお世話だよ」
  6233.  とズベ公達は声をあげて笑う。
  6234. 「一体、あたい達は何をすりゃいいんだよ。閑で閑で困ってるんだ。仕事がありゃ、何でもするよ」
  6235.  悦子が、力一杯めくった花札を布団に叩きつけていうのだった。
  6236. 「へへへ、おめえ達の喜びそうな仕事さ。美津子と文夫の二人をよ、夫婦にするんだ」
  6237.  川田がいうと、ズベ公達は、一斉に川田の顔に眼を向ける。
  6238. 「美津子と文夫を♢♢」
  6239.  銀子と朱美も、眼をパチパチさせる。
  6240. 「美津子は、吉沢兄貴のスケにするんじゃなかったのかい」
  6241. 「事情が変ったのさ。吉沢兄貴は、あの通りまだ起きられぬ怪我人だ。ここは一つ、森田組のため、泣いてもらうより仕方がねえ。つまり、美津子と文夫をコンビにするってわけだょ」
  6242.  そりゃ愉快だわ、とズベ公達は調子づく。
  6243.  吉沢には川田から説明し、納得させるというからには、ズベ公達に異存のあろう筈はない。
  6244. 「ね、美津子と文夫の調教は、あたい達に任せておくれよ」
  6245.  悦子が何か魂胆ありげにいうのだった。
  6246. 「よし、任せるぜ。ところで、美津子の断髪の方はすんだのかい」
  6247. 「まだなんだよ。吉沢兄貴にハサミを入れさせるのが筋だと思ったからね」
  6248. 「そんな事にこだわる必要はねえ。今日中にてっとり早く仕上げるんだ。何しろ、客は多いのだからな。美津子と京子のものだけじゃ、足りねえかも知れねえ」
  6249.  川田は、いやらしく唇を舌でなめて、そういうのだった。
  6250.  川田が、再び森田達とショーの打ち合わせのために部屋を出て行くと、銀子は、悦子や義子に命じて、地下倉に押しこめてある美津子をこの部屋へ連れて来させるのだった。
  6251.  言語に絶するズベ公達のみだらな責めを、それも恋人の文夫と一緒に加えられて、一時は全く虚脱してしまった美津子であったが、二、三日、休養を与えられたためか、かなり生気をとりもどしていた。
  6252. 「ホホホ、段々と女らしい体つきになってきたわね。あたい達も仕込み甲斐があったというものだわ」
  6253.  朱美は、悦子に引き立てられて来た美津子を、ギラギラする眼で眺めながら、そういうのだ。
  6254.  その上と下を細いロープで固く緊縛されている白磁のようにふっくらと成熟した乳房、弾力のある盛り上った尻、すらりとした肢、健康な美しい十八歳の肉体である。
  6255.  緊縛された姿態を悦子に縄尻を取られて入って来た美津子は、これからこの場所で、このズベ公達に何をされるか、大体、想像はついているのだろう。銀子と朱美の顔を見た途端、それだけはしないで、と哀願するように美しい顔を振り、その場へ身をちぢませ、剃られるのをこばむように、ぴったり立膝をする。それは何ともいじらしい風趣にズベ公達の眼に映ずるのだった。
  6256. 「三日も延長してあげたんだ。充分お名残りも惜しんだでしょ。今日は、遠慮せず、きれいに剃ってあげるから、ちゃんと覚悟を決めるんだよ。さ、物置に行きましょ」
  6257.  朱美はそういうと美津子のスベスベした背の中程で交錯され、固く縛り合わされている両手首に手をかけて美津子を上へ引き起こすのだった。
  6258. 「一階の物置には、貴女の恋しくてたまらない文夫さんが監禁されているのよ。ね、もう覚悟は出来てるわね。文夫さんに、一切を見せてあげるのよ」
  6259.  マリが含み笑いしながら、美津子の耳元にいうのだった。
  6260. 「あれだけの事を二人で見せ合ったじゃないの。今更、恥ずかしい事なんかないでしょ」
  6261.  マリは更にそう浴びせて、真っ赤な顔を伏せつづけている美津子の顔を、のぞきこむようにするのだった。
  6262.  さ、行きましょ、と、朱美が美津子の縄尻を取り、邪慳に美津子の背を押した。
  6263.  ふらふらと二、三歩、歩いたものの美津子はたまらなくなったように、涙にうるむ美しい瞳を、背後で縄尻を取る朱美に向けるのだった。
  6264. 「お、お願い。どのような目に合わされてもかまいません。けど、そ、そんな姿を、文夫さんに見せるのは嫌っ、後生です。それだけは許して♢♢」
  6265.  引き立てようとする朱美と銀子にさからって、美津子は身をよじり哀願し始めたのだ。
  6266.  銀子は、フンと鼻で笑いかえす。
  6267. 「もうすっかり、あたい達に従順になったとばかり思っていたら、まだそんなことで駄々をこねるの。これじゃ、また考え直さなくちゃなんないわね」
  6268.  続いて朱美が、
  6269. 「仕方がない。姐さん、やっちまおうじゃないか」
  6270. 「何をさ」
  6271. 「美津子の前で、文夫をバッサリさ」
  6272.  それを聞くと、美津子はハッと血の気を失った顔をあげる。
  6273. 「もともと足手まといなんだから、やっちまおうと思っていたんだ。じゃ、文夫をここへ連れて来なよ」
  6274.  銀子にいわれて、マリ達が出て行こうとすると、美津子は、悲痛な声をはりあげる。
  6275. 「待って、待って下さい」
  6276. 「じゃ、もうあたい達にさからわないと約束するんだね」
  6277.  朱美は常にかかって、美津子をつつく。美津子は消え入るようにうなづいた。
  6278. 「そうかい。貴女がそういう風に素直になってくれるなら、あたい達も、貴女に対して、すばらしいプレゼントがあるのよ。つまりね、貴女を吉沢さんの女にする事は中止したの。それほど嫌ってる人の女にするのはかわいそうだからね。まあ、くわしい話は剃毛式がすんでからしてあげるわ」
  6279.  銀子は、そういって美津子の背をつつき前へ押し始めた。
  6280. 「そのかわり、何時かのように、あたい達が今から教えてあげる科白をいいながら、心から感謝して、剃ってもらわなきゃ駄目よ。いいわね」
  6281.  朱美は、銀子に引き立てられて行く美津子にささやき始めるのだった。
  6282.  
  6283.  
  6284.     千代夫人と悪徳弁護士
  6285.  
  6286.  その頃、川田は、遠山家に住み込ませてあった妹の千代と彼女が連れて来た伊沢という弁護士を名乗る男と、一階の応接間で対していた。
  6287.  千代が至急話したい事があると先程電話をかけてよこし、寸時の後には、このキザな縁なし眼鏡をかけた自称弁護士なる男と連れ立ってやって来たのである。川田にしてはスパイとして、遠山家に住みこませてある千代の訪問を受けるのは、尾行などされているのではないかというような不安で、むしろ迷惑な気分であったが、千代と伊沢の話を聞いているうち、川田の顔は、喜色に満ち、思わず立ち上って、奇声を発するのである。
  6288.  というのは♢♢遠山が発狂し、勿論、美しい最愛の妻が行方不明になった事が原因であるが、千代を静子夫人と見違えて、或る日、肉体関係を、結んでしまったというのであろ。千代は、三角眼で頬骨が出っぱり、おかめにあらずひょっとこに近い醜女で、そのため、三十近くなっても嫁の口もなく、女中奉公を続けている哀れな女なのであるが、それを、絶世の美女と評される静子夫人と見違えて、関係を迫るなど、遠山の狂いようは尋常のものではないようだ。だが、都合のいい事に、人眼には狂ったとは見えず、側に仕える千代だけには、わかっているものだという。千代は、遠山に自分は静子夫人ではない事を声を大きくして説明したが、傑作なことに、遠山は、静子でなくとも、静子にお前はそっくりだ、結婚してくれ、とかき口説いたそうだ。それだけではなく、この遠山家の財産は半分はお前にやる、嘘と思うなら、弁護士を呼んで、正式の手続きをとってもよい、というので、千代は、知り合いの悪徳弁護士、伊沢♢♢酒と女とバクチで、半分身を持ちくずし、事務所も借金の抵当に入れているのだが、頭はなかなかきれる男♢♢に相談し、遠山家に連れこんで、実際に法律上の手続きをとらせたというのである。
  6289.  川田が眼を廻さんばかりに驚いたのは無理もない。
  6290. 「とにかく、狂った奴ほど、扱いやすいものはありませんよ」
  6291.  と、悪徳弁護士の伊沢は、奇妙な声で笑いながら、黒鞄から、色々な書類を出すのであった。
  6292.  川田は眼をギラギラさせながら、その一枚一枚、つまり、妹の千代が遠山から譲り渡された財産目録に等しいものを、眺めるのであった。
  6293. 「♢♢結婚式は来月の一日。フフフ、兄さん驚いたでしょ」
  6294.  驚くも驚かないも、川田にしてみれば、まだ夢見心地であった。遠山財閥の半分、それは何億という巨額なものである。それが実際に法律的にはっきりした書類となって、眼の前の卓に積まれてある。静子夫人や小夜子を誘拐して、身代金一千万円たらずをせしめようとしたことなど、千代と伊沢が組んでやった仕事に比べれば、ものの数ではない。
  6295. 「どう、私、来月には、もう遠山夫人よ。たいした出世でしょう」
  6296.  そういって、千代は立ち上って、上流階級の貴婦人のようなポーズをわざとらしくとったが、そういえば、千代の着ている眼もさめるようなアフタヌーンは、以前、静子夫人が着ていたものである事が川田にもわかり、千代がそれだけ遠山家の奥深く、自分の座を作りあげた証拠だと、川田はほくほくした気分になるのであった。
  6297. 「とにかく、ここの社長にも報告しなきゃ。きっと眼を剥いて驚くぜ」
  6298.  ♢♢何分かの後には、千代と伊沢は、二階のホームバーのソファに腰をおろし、卓の上に山と積まれた料理をつつき、カクテルを飲んでいる。円型のソファには、田代、森田、それに葉桜団の銀子、朱美、鬼源まで加わって千代と伊沢の接待をつとめているのだった。
  6299.  色々と兄がお世話になった礼に、何か事業でもなさるのでしたら投資させて頂く、という千代の言葉に、田代は顔中、しわだらけにして、
  6300. 「ま、どうぞ、どうぞ」
  6301.  と、カクテルをすすめる。
  6302. 「伊沢先生、どうぞ一つ、どんどんやって下さい。次は何にしますか」
  6303.  森田が揉み手をするように伊沢にいうと、
  6304. 「じゃ、ボルト・シックスナインを頂きましょうか。大好物なんです」
  6305. 「なるはど、シックスナインね」
  6306.  田代も森田も、ゲラゲラ笑う。壷型の緑色の瓶が、卓に置かれると、伊沢は、嬉しそうに、それを指さし、
  6307. 「僕は、アノ方でも、これが好きでね。いやお恥ずかしい話だが♢♢」
  6308.  銀子も朱美もキャッキャッ笑う。
  6309. 「ね、鬼源さん。静子令夫人も、そういう事教えておかなきゃだめよ。お客の中には、それが好きな人、ずいぶん多いようだから」
  6310.  といって笑いつづける。
  6311.  すると、田代が、
  6312. 「そうそう、事の次第を、あの美しい奥様に聞かせておいた方がいいな。おい、川田、ここへ奥様と桂子嬢をお連れしな。このビッグニュースを遠山夫人と遠山令嬢が、どう聞くか拝見しようじゃないか」
  6313.  合点だと川田と鬼源が、静子夫人と桂子をこの場へ引き出すために、ドアを開けて出て行った。
  6314.  とにかく、田代や森田にとっては、この悪徳弁護士の伊沢と千代は、今後、何かと役に立つ、いわば、大変な金ヅルである。それだけに下へも置かぬもてなしをするのも当然である。
  6315. 「ねえ、先生、今夜は、ここでお泊りになって下さいよ。何もねえが、美人だけは、揃えております。お好みに合ったものを、お世話致しますぜ」
  6316.  森田は、えびす顔になって、そんな事をいうのだった。
  6317. 「そうですか。ははは、そりゃ、実に光栄ですね」
  6318.  伊沢は、照れくさそうに、グラスを口に運んだが、満更でもない顔つきである。
  6319.  千代が、ホホホと笑いながら、伊沢にいった。
  6320. 「ねえ、先生、いつかおっしゃってたでしょう。慈善パーティで、ちらと見た静子夫人の美しさがなかなか頭から去らないって。その静子令夫人は、今では兄が世話になっている森田組の商品なんですの。煮て喰おうと焼いて喰おうと、お気に召すまま。♢♢ねえ、森田親分」
  6321.  千代は、甲高い声をはりあげて笑いながら、森田の顔を見た。
  6322. 「なるほど、たしかに、お目が高い。あれだけの美貌と教養を身につけた女は、めったに手に入るもんじゃありません。まあいうなれば、こちらのとっておきの女なんですが、他ならぬ先生のためだ。今夜、お相手をつとめさせましょう」
  6323.  田代は、伊沢のグラスに、ウイスキーを注ぎながら、いうのだった。
  6324. 「はあ、そりゃ、全く、どうも恐縮です」
  6325.  伊沢は、嬉しさを包み隠しえず、そわそわしながら、
  6326. 「ま、色々な美人を見てきましたが、あれだけの美人は、
  6327. たしかに、そうざらにいるもんじゃありませんな。ハハハ」
  6328.  伊沢が、そういって笑った時、川田と鬼源は、静子夫人
  6329. と桂子の二人を引き立てて来たのである。
  6330.  柔軟で、ねばりのある裸身を麻縄で固く後手に緊縛された静子夫人と、同じく弾力のある若々しい裸身をきびしく縛められている桂子の二人は、前かがみに身を伏せ、賑やかに酒を飲み合う連中の前へ押し止てられて来たが、ふと、その中で女王の如く、端然としてグラスを口に当てている千代を眼にした静子は、思わずあっと声をあげた。長い間、遠山家に女中として住みこんでいる千代が悪鬼に等しい田代や森田の間に入って、酒を飲んでいるのは、どういうわけなのか。
  6331. 「千、千代さん!」
  6332.  静子夫人は、我が身の恥ずかしさも忘れて、悲鳴に似た叫び声をあげるのだった。と同時に、自分の身のまわりの世話などしていた女中の眼に、こんな恥ずかしいみじめな姿をさらさねばならぬ口惜しさに、ハッと紅潮した美しい顔をそむけてしまう静子夫人である。
  6333.  ホホホ、と千代は、特徴のある甲高い声をはりあげて笑い出した。
  6334. 「まあ、おどろいた。奥様もお嬢様も丸裸にされちゃったのね。おかわいそうに♢♢」
  6335.  千代は、グラスを手にしたまま笑いつづけている。
  6336.  静子夫人と桂子は、たまらない屈辱にぶるぶる身を震わせ、お互いの肩に顔を埋め合うようにして、千代の前に立たされているのだ。
  6337.  しかし、千代が川田の妹である事は知る由もない静子夫人と桂子である。一体、どういうわけで、こんな場所に
  6338.  ♢♢静子夫人は一縷の望みをもったのか、気弱な眼差しを千代に向け、
  6339. 「千代さん、お願い。助けて、助けて頂戴」
  6340.  そんな静子夫人の哀願を、はねとばすように、銀子が、
  6341. 「ま、あきれた。助けてくれだとさ。貴女、まだ助かる気でいるの、冗談じゃないわよ。明日からショーが開幕だというのに」
  6342.  銀子はそういって、朱美に眼くばせし、川田と鬼源の二人に手伝わせて、壁にそって、打ちつけてある二つの柱へ、夫人と桂子の背を押しつけ、ひしひしと縄をかけ、立ち縛りにしてしまう。
  6343.  二人の美女は、酒を飲み合う卑劣な男女の一団の前に、身動き出来ぬ立ち縛りにされてしまったわけだ。
  6344.  川田が、ビールをコップに注ぎながら、千代にいう。
  6345. 「お前も、いい気分だろ。今までこき使われていた奥様とお嬢様の、こうした姿を眺めて酒が飲めるなんて。へへへ」
  6346.  千代は、かなり酩酊したらしく、のっそりと立ち上り、
  6347. ふらつく足どりで、立ち縛りにされている夫人と桂子の傍へ近づく。
  6348. 「私しゃ、このお二人に、恨みなんかは毛頭ないわ。むしろ、この静子奥様には、色々と親切にして頂いたし感謝している位ですよ。だからさ、これからは、奥様になりかわって、いや、奥様以上に、遠山老人の面倒を見てさし上げますわ」
  6349.  千代のいう言葉の意味がはっきりのみこめず、というより、その裏に何か不気味な恐ろしいものを感じとって、静子夫人は、涙に曇った美しい二重の瞳をふと上にあげた。
  6350. 「ホホホ、奥様、実を申し上げますとね」
  6351.  千代は如何にも楽しそうに、遠山隆義が発狂したこと、自分に結婚を申し込んだこと、そして、遠山家の財産の半分は自分の名義になった事をとくとくと話し出すのであった。あまりの事に、静子夫人は、打ちのめされたように首をのけぞらす。夫の隆義が発狂して千代と結婚の約束をする。何という事であろう。
  6352.  銀子や朱美も、千代をはさむようにして、ショックのため気持の顛倒してしまった静子夫人の前に立ち、
  6353. 「フフフ、静子夫人、これで貴女も安心出来たでしょう。御主人は、この千代さんと結婚することになったのよ。だからさ、これからは家の事なんて何も心配いらないよ。一生懸命、森田組のために働くことね」
  6354.  ああ、そう、大切なことを忘れていたわ。と千代は、ソファに坐っている悪徳弁護士を手招きした。
  6355.  伊沢は、先程から静子夫人の見事な肉体に圧倒されて、ただ眼だけを夫人の全身に注ぎ、ウイスキーをなめつづけていた。縄に上下を固くしめあげられたはち切れんばかりに豊満な夫人の乳房、たくましいばかりに美しいカーブを描くウエストからヒップにかけての曲線、むっちりと脂の乗った肉づきのよい太腿、それらを伊沢は、溜息の出る心地で眺めつづけていたのである。
  6356. 「伊沢先生、ちょっと」
  6357.  再び、千代に呼ばれて、伊沢は、ほっと正気にかえったように視線を千代に向けた。
  6358. 「ビジネスだけは、ちゃんとすませてしまいましょ。例の書類、お願いしますわ」
  6359.  伊沢は、黒鞄の中から、二、三通の書類を取り出し、千代は静子夫人に対していう。
  6360. 「伊沢先生に調査してもらったら、遠山老人に譲られた奥様名義の土地不動産が約五千万円もあるのね。こんなもの、もう奥様、必要じゃないでしょう。一応、この譲渡書に署名捺印をして頂くわ。と、それから、これは、遠山氏に対する離婚承認書。手回しがいいでしょ。ちゃんと、ここに奥様の実印を用意して来たの」
  6361.  静子夫人は、次に、伊沢がペラペラ話し始めた法律上の説明を、放心した気持で聞いていた。
  6362. 「それじゃ、この書類に、署名捺印を♢♢」
  6363.  伊沢がそういうと、川田と鬼源が、静子夫人の足元にそれを拡げ、ペンを夫人の足の指の間へはさみこみ、サインをさせるのだった。夫人は、もう抵抗する気力もなく、川田と鬼源の二人に片足をあずけて、されるがままにさせてしまっている。次に、川田は、夫人の足の指の間に、彼女の実印をはさみこみ幾枚もの書類に捺印させるのだった。
  6364. 「へへへ、さ、静子夫人。これで、離婚承認書も出来上ったし、熱海や伊東の土地不動産、それに、銀座に出してい
  6365. る洋裁店、渋谷のレストラン、すべて、千代に譲渡したことになったんだ。これで、文字通り、裸一貫、何も心配することはなく、秘密ショーのスターとして修業することが出来るってわけさ。塘しいだろう」
  6366.  川田はほこらしげにいって、静子夫人のベソをかきそうな顔をのぞきこむように見る。
  6367. 「ま、一生懸命、働けば、特別に、褌の一本ぐらい新調してもらってやるからな」
  6368.  川田は、書類を伊沢に返し、更に夫人に向かって揶揄するのだった。
  6369.  銀子と朱美も、ニヤニヤして、屈辱の極にある静子夫人と桂子の横に立つ。
  6370. 「フフフ、よかったわね。これで、奥様もお嬢さんも肩の荷がおりたでしょう。ところでここまで苦労して下さった伊沢先生に、今夜は充分、楽しんで傾きたいと思うの。貴女達二人、感謝の心をこめて、今夜は二人がかりでお相手してあげてね」
  6371.  それを聞くと、静子夫人と桂子は、同時にハッと顔をあげた。銀子はそれには知らんふりをして、朱美に向かっていう。
  6372. 「ね、朱美。先生にはこ階の六号室に泊って頂こうじゃないの。あそこのダブルベッドが一番豪華じゃない。両手に花には丁度いいわ」
  6373. 「そうね。じゃ、黒い枕一つに赤い枕二つ用意するわ」
  6374.  静子夫人は、ひきつったような顔になって口ごもりながら、銀子にいった。
  6375. 「後、後生です。それだけは、それだけは、かんにんして。
  6376. 嫌よ、嫌、そんな畜生みたいなこと♢♢」
  6377.  あとは言葉にならず、激しく泣きじゃくる静子夫人であった。
  6378. 「なにいってんの」
  6379.  と、朱美がくすくす笑う。
  6380. 「この先生はね、何時か週刊誌に出ていたけれど、精力絶倫で有名な方よ。一日、三回以上プレイしないと、体がもたないんですって。ねえ、そうでしょ、千代さん」
  6381. 「そうなの。それが、ここ一週間、御無沙汰しているというのだから、大変よ。奥様一人だけじゃいくらいい身体してるといったって続かないわ。やはり、お嬢さんにも手伝って頂いた方がよくはないかしら」
  6382.  千代は、ホホホとハンカチで口をおさえて笑いこける。
  6383.  が、お二人ともお二階へ行きましょ、と銀子と朱美が身体に手をのばしかけると、静子夫人も桂子も、狂ったように身をよじり、
  6384. 「お願い。そ、それだけは♢♢」
  6385.  と、泣きわめくのだった。
  6386. 「フフフ、よっぽど、それは嫌らしいわね。どうしてなの。一応、母娘ということになってるから」
  6387.  朱美は、処置なしといったポーズをとって泣きじゃくる二人の美女を眺めるのだった。
  6388. 「ど、どうしても、そうしなければならないのでしたら、お願いです。私、私一人で♢♢」
  6389.  静子夫人は肩を震わせて泣きじゃくる。
  6390.  強制的に離婚承認書にサインさせられ、一切の財産もことごとく没収された上、一枚の布すら与えられぬ哀れな姿で、しかも、まだこの上、憎みてもあまりある悪徳弁護士
  6391. の伊沢のなぐさみものにならねばならぬとは♢♢静子夫人は胸のはりさける思いで、それも甘受し、ただただ桂子の身をかばうのだった。卑劣な一人の男に桂子と自分が同時に嬲られるということにくらべれば、どのような責めも苦痛ではない筈である。
  6392. 「じゃ、奥様、お一人で伊沢先生のお相手をするとおっしゃるの。でも、大変ですわよ」
  6393.  千代は含み笑いしながら、静子夫人に一歩近づき、ふと眼をやって、
  6394. 「あら、奥様、お薄いのね。まあ、お剃られになったの。いやーね」
  6395.  静子夫人は、耳たぶまで真っ赤にして、美しい面長の顔を横へ伏せる。
  6396. 「へへへ、こう見ると、桂子の方が大人ってわけだな」
  6397.  川田も、そういって、笑ったが、すぐ、銀子に、
  6398. 「ベッドに入るのが、それほど嫌なら、仕方がねえ。この場で、お二人に演じて頂こうじゃないか」
  6399. 「何をさ」
  6400. 「おめえがいってたじゃないか。ママのリードで桂子を仕込むってな」
  6401. 「ああ、なるほどね」
  6402.  銀子は、声をたてて笑い、すぐ辞子夫人に、
  6403. 「じゃ、二階のベッドに入るのは、桂子の方は許してやるよ。ただし、この場で、少し、伊沢先生の御機嫌を二人にとって頂くよ。わかってるね」
  6404.  静子夫人は、新たな恐怖に全身を硬化させる。
  6405.  川田や鬼源は、極めて事務的に、その辺のテーブルや椅子を隅へ持ち運び、空間をつくったが、そこへ銀子と朱美が、どこからか布団を持ち出して来て、てきぱきと敷き始めるのだった。
  6406. 「一体、何を、何をなさろうというの?」
  6407.  必死に緊縛された身をよじり、叫ぶ静子夫人であったが、これらの悪鬼達が考えている事はわかっている。体中の血が逆流するような屈辱。静子夫人と桂子は、あまりのことにもう、まともに顔を上げる気力もなかった。娘にあたる桂子と、そのようなことを♢♢。
  6408. 「さて、土俵の用意は出来たわ」
  6409.  朱美が、柱に緊縛されている二人の美女を楽しそうに見ていった。
  6410.  水色のシーツの敷かれた布団が、床の上へ敷かれている。それに赤い枕が二つ、ぴったりと揃えられているのだ。ふと、それに視線を向けた静子夫人と桂子は、電気に感電したようにビクと全身を痙攣させ、狂おしげに首を振る。
  6411. 「さ、準備OKよ。いいわね、静子夫人。桂子をみっちり仕込みあげて頂戴」
  6412.  銀子は、すすりあげている静子夫人の顎に手をかけて、その美しい顔を上へこじあげた。
  6413. 「♢♢お、お願い、お願いです。ああ♢♢」
  6414.  静子夫人は、涙でキラキラ光る切長の美しい瞳を銀子に向ける。
  6415. 「あんまり手こずらせると承知しないわよ。二階のベッドに入るのも嫌、ここで演じるのも嫌、それじゃ何もないってわけかい。貴女がたはね、森田組の商品なんだよ。勝手な事をいうんじゃないよ」
  6416.  銀子は眼をつり上げて、そういい、鬼源に向かって、
  6417. 「鬼源さん。お道具の支度、たのむわよ」
  6418.  鬼源は、うなずいて、それをとりに外へ出て行く。
  6419. 「さあ、先生も千代さんも、どんどん召し上って下さい。そうね、ここのお布団のまわりに皆んなで円座を組みましょうよ」
  6420.  朱美が提案したので、ソファに坐っていた田代や森田達も、手に手に、グラスを持ち、布団の周囲に円座を組むのだった。
  6421.  千代は、銀子や朱美が、静子夫人と桂子に演じさせることの意味が、はっきりのみこめなかったが、川田の説明を聞かされて声をあげて笑い出す。
  6422. 「まあ、奥様とお嬢様が元女中だった私に、そのような事をして見せて下さるというの。光栄だわ」
  6423.  銀子と朱美は、桂子の顔を二人がかりで化粧し始めている。涙をガーゼで拭きとり、乱れた髭を撫で梳きあげてローションをかけ、赤いリボンを結んでやり、
  6424. 「さ、お嬢さんの方は、一足先にお布団に行って、ママの来るのを待ちましょうね。ママはこれからお支度をしなきゃならないのよ。わかるでしょ」
  6425.  二人のズベ公は桂子を柱から外し、悪鬼達が円座を組む、その中央へ引き立てて行くのであった。
  6426. 「♢♢嫌、嫌。ああ、ママ!」
  6427.  桂子は朱美に縄尻を取られながら、静子夫人の方へ顔を向けて、泣きじゃくる。
  6428. 「け、桂子さん!」
  6429.  静子夫人も、あとは言葉にならず、後ろの柱に顔をすりつけるようにして、号泣するのだった。
  6430.  
  6431.  
  6432.     静子夫人の慟哭
  6433.  
  6434.  桂子は、野卑な男女のギラギラする眼がとり囲む布団の上へすえつけられると、猿のように小さく身をちぢめ、顔を布団のシーツに押しつけて、すすりあげている。
  6435.  無残にも、銀子と朱美は、そんな桂子を後手に縛ってある縄すら解いてやろうとはしないのだ。
  6436. 「お客様の方に尻を向けていちゃ失礼じゃないか。枕をあててお寝んねするのよ。行儀よくしてママのお越しを待たなきゃ駄目」
  6437.  銀子と朱美は、桂子の身体のあちこちをつついたり、くすぐったりして、悲鳴をあげさせる。桂子は、ズベ公達の哄笑を背に受けながら遂に枕を顔に押し当てるようにして、俯伏してしまった。
  6438. 「そんなお行儀の悪いお寝んねは駄目よ。ちゃんと上を向いて横になってごらん」
  6439.  銀子は、川田から皮バンドを借りると、ぴしゃりと桂子の尻に打ちおろした。
  6440.  桂子は悲鳴をあげて布団の上をのたうち廻ったが、遂に、枕に頭をあてて、仰臥した姿態をとらされてしまう。周囲を取り囲む卑劣な男女の酒に濁った眼が、桂子の身体の隅々に痛いほど突き刺さるのだった。
  6441. 「ああ、桂子さん!」
  6442.  柱に固定されている静子夫人は、眼の前でひどい仕打ちをうけている桂子を見るに忍びず、ただ首を振りつづけて泣くだけであったが、そんな静子夫人を、ニヤニヤして見ていた千代は、のっそりと立ち上り、再び、近づいていく。
  6443.  静子夫人は、キラリと憎悪のこもった瞳を千代に向け、口惜しげに唇を噛みしめる。女中であった千代に、しかも、何くれと面倒を見てやり大事にしてやった女中に、静子夫人は裏切られ、いや、奈落の底に突き落とされたわけなのだ。しかし、もう呪いの言葉さえ口に出す気力も、今の静子夫人にはなかったのである。
  6444. 「♢♢ホホホ、ねえ、奥様。私、奥様にぜひとも、お願いしておきたい事があるの」
  6445.  千代は、キラリと残忍なものを眼に浮かべていうのだった。
  6446. 「もうこれで、奥様のものは、すべて私のもの。奥様はもう帰るお屋敷もなければ、御自分の財産は一銭もない。それだけじゃなく、お腰のまわりを隠す布一枚もない。ホホホ、つまり、これからは一生、森田組の商品としてこの屋敷でお暮しになるのだから、私も安心なのですけど、何しろ奥様は絶世の美人、何だか私としても油断がならないわ。だから身も心も森田組のショーのスターになりきってもらうためには、もっと大切な事をしておかなきゃならないと私、考えましたの」
  6447.  千代は、妖気をただよわせるように、ネチネチと恐怖に身を強ばらせている美しい静子夫人に語りかけるのだ。川田の妹だけあって千代は、口数は少ないが、銀子や朱美より、陰険で残忍なものを内に秘めているようだ。
  6448. 「ホホホ、何もそう怖がらなくてもよろしいのよ。ショーで男役などする時は、困るでしょうけど、私は奥様に一日も早く妊娠して頂きたいのですわ」
  6449.  何という毒婦であろう。千代は、静子夫人の身も心も完全に屈服させるためには、妊娠させる事が一番いい方法だと考えたのだ。
  6450. 「女ってものは、誰の子供でもいい、産んでしまえば、やはり母性愛というものがわいてきて、一生懸命、働く気になるものですわ。おわかり」
  6451.  千代は、そういって、再び大声で笑うのだった。
  6452.  静子夫人は、千代の恐ろしい言葉に、身を小刻みに震わせながら、
  6453. 「♢♢千、千代さん、あ、貴女は、貴女という人は♢♢」
  6454.  というや、がっくりと首を落とし、大声で泣き出すのであった。
  6455. 「勿論、奥様のような美人なら、男は誰でも自分の子供を作りたがるでしょうけど、それじゃまずいの。奥様だって、そんなの嫌でしょ。だから、誰の子かわからない子を孕んで頂きたいのよ」
  6456.  静子夫人は、首を振りつづけ号泣するだけである。
  6457.  千代は、田代や森田に向かい、
  6458. 「♢♢今いった通り、出来るだけ早く、この奥様を妊娠させて下さいね。出来れば、そのお嬢さんも♢♢ホホホ、そうすりゃ私も安心だし、皆さんも安心じゃありませんか」
  6459.  千代は、ハンドバッグの中から、二枚の小切手をとって、田代に渡した。
  6460. 「種つけ料なんていうとおかしいけど、とりあえず二百万円お渡ししておきますわ。半年以内に見事に種がつけば、あと二百万円、現金でお渡ししますからね」
  6461.  小切手を受け取った田代は、ハハハ、と顔をしわだらけにして、
  6462. 「何しろ、これぐらいの美人になると、なかなか妊娠しないものらしいですね。ま、しかし、何とか努力して、種をつけますよ。僕のところも妊婦ショーという企画もあることですしね」
  6463.  田代は、小切手をポケットに入れると、川田に向かって、
  6464. 「一応、明日から始まるショーの期間中、お疲れのところ御苦労だが、この奥様とお嬢さんにゃ、夜の客をとって頂く事にしようじゃないか」
  6465. 「それで駄目なら、竹田達、チンピラのごろごろしている部屋に、二、三日ほうりこんでみてもいいじゃありませんか。血の気の多い連中の誰かが、うまく種つけをやるかも知れませんぜ」
  6466.  森田も笑いながら、そんな事をいうのであった。
  6467.  銀子と朱美も、酒に酔ってふらつく足を踏みしめながら、号泣している静子夫人の両側に立ち、
  6468. 「わかったわね、静子夫人。こちらも貴女を一日も早く妊娠させるよう努力するけど、貴女もその気になって、努力してくれなきゃ駄目よ。フフフ、桂子嬢もうまく妊娠してくれて、ママと娘が仲良く妊婦ショーに出演出来るってことにでもなりゃ傑作なんだけどね」
  6469.  銀子がそういって笑うと、朱美が、
  6470. 「ねえ、前遠山令夫人より、新遠山令夫人にお祝いの言葉をかけさせようよ」
  6471.  そりゃ面白いわ、と、銀子と朱美は、さ、奥さんも遠山千代夫人に、こういう風にお祝いの言葉をかけてごらん、と右から左から、くすくす笑って、夫人の耳に何か吹きこむのだった。
  6472.  静子夫人は、嫌々と緊縛された美しい裸身を悶えさせ、銀子と朱美のおぞましい言葉を耳から払い落とそうとする。
  6473. 「貴女、お客さんの前で強情はるなんて、まだ性根が出来ていないのね」
  6474.  朱美は、狂ったように泣きじゃくる静子夫人の頬を平手打ちし、円座を組んでいる男達の方に向かって、桂子をムチでぶちつづけるよう頼むのだった。
  6475.  川田は立ち上って、再び、腰から皮バンドを外しはじめる。
  6476.  それをチラと見た静子夫人は、もう抵抗する事の空しさを悟ったように一切をあきらめた気持になって、
  6477. 「お、おっしゃる通りに、致します」
  6478.  美しい顔を横へ伏せて、激しくすすり上げながらいうのだった。
  6479. 「ほんとに、世話のやける奥さんだことね♢♢フフフ」
  6480.  銀子と朱美は顔を見合わせて笑い、千代に静子夫人の前に立つようにいう。
  6481. 「さ、静子夫人。今、教えてあげた通り、ここにおられる新遠山夫人にお祝いの言葉を申し上げるのだよ」
  6482.  銀子と朱美は、相変らず静子夫人の両横に仁王のように立って、言葉を強要するのだった。
  6483. 「さ、早く、おっしゃいってば」
  6484.  静子夫人は切長の美しい瞳を固く閉じ合わせたまま、顔をあげる。唇がピクピク震えている。
  6485. 「どうか、お幸せに、千、千代奥様」
  6486. 「だめだよ、遠山千代奥様というんだ」
  6487. 「♢♢遠山千代奥様」
  6488.  夫人は、たまらなくなって、顔を横へそらせてしまったが、銀子が邪慳に顎に手をかけて、千代の方へ向け、次を続けなと催促する。
  6489.  銀子と朱美が静子夫人に強制して、やっと口に出させた千代に対するお祝いの言葉は、大体次のようなものであった。
  6490. 「♢♢今まで千代夫人を自分のような者の女中として働かせました無礼を心よりお詫び申し上げます。本日より、静子は遠山家とは何のゆかりもない女、私名義になっております資産、及び遠山家に残して参りました衣類、宝石など私の所有物一切もすべて千代夫人のものでございます。なお、娘の桂子と私は、ここ森田組の皆様方に、これより一生の面倒を見て頂く事となりました故、千代夫人もどうぞ御安心下さいまして、幸福な家庭を築いて下さいまし。最後に、千代夫人及び森田組の皆様に安心して頂くため、私は半年以内に必ず妊娠し、妊婦スターとして働かせて頂くつもりでございます」
  6491.  やっと、ここまで、静子夫人にしゃべらせた銀子と朱美は、ほっとして、互いに額の汗を拭き合うのだった。
  6492. 「千代夫人、どうです。これで御満足頂けましたか」
  6493.  銀子は、千代の顔を見ていった。
  6494.  千代は、肉づきのいい白い肩で息をし、屈辱をこらえている静子夫人を満足げに眺めながら、
  6495. 「ホホホ、よくいって下さったわ、奥様。これで私も安心というわけ。じゃ、ほんとに、今度、私がここへ来るまでに、必ず、さっきのお約束通りにしておいて下さいね」
  6496.  女中であった千代に、そのような恥辱を受け、腹部をなでさすられて、その虫酸の走るような嫌悪感に、静子夫人はキリキリ歯を噛みしめ、美しい眉を八の字に寄せるのだったが、鬼源が小脇に桐の箱をかかえて部屋へ戻って来た。
  6497. 「へへへ、さあ、静子夫人。お待ちかねのお道具が到着よ。千代夫人と伊沢先生に、すばらしい親娘ショーをお見せして御機嫌をとって下さいね」
  6498.  朱美は、口元を歪めてそういい、鬼源の持って来た桐の箱を受け取ると、そのふたを開け千代に中身を見せるのだった。
  6499. 「まあ、そんなものを、この奥様に♢♢いやーね、ホホホ」
  6500.  千代は、吹き出して笑いこける。
  6501.  銀子は、箱を千代の手から取り、それを屈辱にあえぎつづけている静子夫人の眼の前へ持っていく。ちらとそれに眼をやった静子夫人は、再び、火がついたように美しい顔を真っ赤にして、眼をそらせるのだった。
  6502. 「フフフ、鬼源さんが苦心して、奥さんのために作ってくれたものよ。京子とコンビの時は、何時も奥さんは女役だったけど、今日は初めて男役ね。しっかり頼むわよ」
  6503.  銀子がそういうと、千代もいよいよ悪女の本領をむき出して、
  6504. 「つまり、それを奥様にとりつけるわけなんでしょ。わかったわ。ね、それ、私にさせて下さいな。ホホホ、女中の千代として、静子夫人に最後の御奉公をして差し上げるというわけなのよ」
  6505.  そりゃ、愉快だわ、と銀子が桐の箱を渡すと千代は、円座の中にあって、ニヤニヤ女達のする事を眺めている伊沢を手招きする。
  6506. 「先生、面白いじゃありませんか。私に手伝って下さらない」
  6507.  伊沢は舌なめずりをしながら、立ち上り千代の傍へやってくる。田代も森田も川田も、キャッキャッ笑って手を叩くのだった。
  6508.  じゃ、ここは千代夫人と先生にお任せするわ、と銀子と朱美は、少し離れた所に立って千代と伊沢のすることを興味深げに眺めている。
  6509. 「♢♢千、千代さん!」
  6510.  静子夫人は、身体の内部からふき上げてくるような屈辱感に、石のように体を硬化させ、ぴったりと肉づきのいい太腿を閉じ合わせて、追って来た千代に必死な瞳を向けるのだった。
  6511.  如何に観念したとはいえ、そんなものを、しかも女中の千代と自分から一切を奪いとった伊沢の二人に、とりつけられる恐怖と口惜しさ。
  6512. 「馬、馬鹿なことはしないで! 嫌っ」
  6513.  静子夫人は、狂乱したように自分の足元に身を沈めた千代と伊沢に向かって叫ぶのであった。
  6514. 「お願いっ、嫌っ、ああー、そ、そんなことやめて!」
  6515.  激烈な苦痛に、静子夫人は傷ついた獣のように歯を噛み鳴らし、脂汗を流して、悶えつづけている。
  6516. 「ずいぶんと嫌われたものだね。こんなに固くなられちゃ仕事がやりにくいわ」
  6517.  千代が閉口したようにいうと、伊沢も苦笑して、
  6518. 「少し時間をかけなきゃそりゃ無理ですよ」
  6519.  という。
  6520.  見ているだけじゃつまらないと思ったのか、川田が立ち上って来て、先生、少し手伝いましょうか、と柱のうしろへ廻り、いきなりうしろから両手を拡げるようにして、静子夫人の豊満な乳房を♢♢。
  6521.  静子夫人は、美しい眉を八の字に寄せ、嫌々をするように首を振る。
  6522.  千代さん、少しは、休んでいなさい、と千代を退けた伊沢は、これも本性むき出した如く、上着を脱ぎワイシャツの袖をまくりあげるのだった。
  6523.  静子夫人は、艶やかな白いうなじを大きく見せて切なげに首をのけぞらせる。
  6524.  千代は唖然として、二人の男に責められ始めた静子夫人の狂乱図を眺めている。
  6525.  雪山のような見事な胸の隆起は、川田の毛むくじゃらな手の中で暴風雨にあったように激しく揺れているのだ。それに呼応するように伊沢も必死になって責めつづけている。
  6526.  銀子と朱美は、顔を見合わせて、
  6527. 「さすがに先生はベテランね。うまいものだわ」
  6528.  川田と伊沢の荒々しい攻撃の前に、遂に静子夫人は体中をずたずたにされる思いになり、美しい乳白色の肉体は火柱のように燃えさかってしまったのだ。
  6529.  
  6530.  
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  6532. 第二十五章 奇妙な三々九度
  6533.  
  6534.  
  6535.     鬼女の嬌声
  6536.  
  6537.  千代は、田代と森田に注がれるブランデーを飲みながら、大声を立て、笑いつづける。それは、あたかも勝利に酔った魔女の嬌声にも似ていた。
  6538.  川田と伊沢に責められる静子夫人は、最初は狂乱したように悶え、恐怖と屈辱にがくがくと歯を噛み鳴らしていたが、次第に頬は上気し始め、もう備えを忘れ、何時しか攻め手の中へひっぱりこまれてしまったのである。
  6539.  完全に責め手の術中に陥って、艶やかなうなじを大きく見せ、美しい顔を切なげに歪めて歯ぎしりをする。心とは逆に、二十六歳の豊満な肉体は、どうしようもなく燃え立ってしまうのだった。
  6540. 「さすがはベテランの伊沢先生と川田兄さんだ。うまいものだわ」
  6541.  銀子と朱美も、二人の男の手練手管に舌を巻いたようにいう。そして、柱に緊縛されたまま、何ら抵抗する術もなく、そういうあくどい責めを受けて、次第に燃え立ち始めた静子夫人の美しい肉体をしげしげと見て、
  6542. 「フフフ、奥様、御気分はどう? もうそろそろ、取りつけてもらってもいいのじゃないのかい」
  6543.  静子夫人の胸の豊かな隆起を後ろから賓めつづけていた川田が、夫人の耳元に口を寄せていう。
  6544. 「さ、奥さん、これだけサービスしてもらえばもう充分だろう。千代夫人にお願いして、しっかりと取りつけてもらいな」
  6545. 「ああ♢♢」
  6546.  静子夫人は、真っ赤になった美しい頬を再び後ろへねじ曲げるようにし、眉を寄せて泣きじゃくる。
  6547.  遠山家の女中であった千代に、そんなことをされる♢♢身体中の血管が破裂するような屈辱感に、静子夫人は、もうどうしようもない境地に追いこまれているものの、狂乱したように首を振るのだった。
  6548. 「やい、乙にすましていねえで、千代に、いや千代夫人にお願いするんだ。いわれた通りにしねえと、桂子を逆さ吊りにして責めあげるぜ」
  6549.  川田は、そういいながら一層、カを入れて絞めあげる。 銀子や朱美も加わって、身体のあちこちをつつき出すに及び、遂に静子夫人は屈伏して川田や銀子の命令を承認するのだった。
  6550.  どうやらこれで充分のようだね、と伊沢も立ち上る。
  6551. 「さ、奥さん、千代夫人にお願いするんだよ」
  6552.  朱美は、くすくす笑いながら、夫人の火のついたような頬をつつくのだった。
  6553.  銀子や朱美が面白半分に耳元に吹きこんだ言葉を、口にしなければならない口惜しさは、腸がひきちぎられるよりも、静子夫人にとっては辛い事である。それも、今までの使用人千代に対して、そんな辱しめを受けるなど、静子夫
  6554. 人は、もう声も出ず涙も出ない。気も狂うばかりのおぞましい責めから解放されたものの、今、静子夫人の眼の前には、銀子や朱美よりも恐ろしい鬼女、千代が口元に冷笑を浮かべて立っているのだ。
  6555. 「さ、奥さん、早くおっしゃいってば」
  6556.  銀子がくすくす笑いながら、横手より静子夫人の艶やかな肩をつつく。
  6557. 「♢♢千、千代さん」
  6558.  静子夫人が涙にうるんだ美しい切長の瞳を哀切的にしばたきながら眼の前に立つ千代に向けると、
  6559. 「千代さんじゃないよ。千代奥様だよ。まだわかんないのかい」
  6560.  朱美が、ぴしゃりと静子夫人の盛りあがった尻を叩く。
  6561.  静子夫人の美しい頬に、屈辱の口惜し涙が一筋二筋、糸をひくように流れ落ちた。
  6562. 「ち、千代奥様♢♢し、静子は只今より桂子と♢♢女同士のショーを演じます。お、お酒の余興に、どうぞ、ごらんになって下さいまし♢♢」
  6563.  静子夫人は、わなわな肩のあたりを震わせながら、息もたえだえといった調子で、そういったが、
  6564. 「ホホホ、それは、ぜひとも見せて頂くわ。奥様とお嬢様のショーって、私にとっては、何よりも面白いものですもの」
  6565.  千代は、おかしくてたまらぬようにハンカチで口を押さえて、くすくす笑う。
  6566.  銀子と朱美は、再び、静子夫人にまといつくようにして、次の言葉を教えているようであった。
  6567. 「♢♢し、静子。千代奥様に、お、お願いが♢♢ございます」
  6568. 「ええ、何なの」
  6569.  千代は、伊沢に火をつけてもらった煙草の煙を吐きながら、愉快そうに静子夫人の美しい顔を見る。
  6570.  静子夫人は、ぶるぶる唇を震わせたが、どうしても、次の言葉を口にする勇気はなく、思わず顔を横へそらせ、身体全体を震わせて号泣するのだった。
  6571. 「何をもたもたしてるんだよ。次を続けなきゃ駄目じゃないか」
  6572. 「生娘みたいに、何時までも恥ずかしがるんじゃないよ」
  6573.  銀子と朱美は、盛んに静子夫人の尻をたたいたり、乳首をつねりあげたりし始める。彼女達の陰険な拷問に静子夫人は抗し切れず、遂に観念したように眼を固く閉じたまま、
  6574. 「ショーをお見せするにも、このままの姿では♢♢ですから♢♢お願い、箱の中のものを静子、静子の体にしっかりと♢♢」
  6575.  静子夫人は、やっとそこまでいい、がっくりと首を落として号泣し始めるのだったが、銀子は、高笑いしながら、残忍な蛇のような目で美しい静子夫人の横顔を見つめる。静子夫人に恋情を抱き、いい寄ったものの、すげなく拒絶された恨みを晴らすのは、この時と思っているのであろうか。ニタリと口元を歪め、そんな姿に仕上げられた時の令夫人の姿を想像して、思わず吹き出してしまう銀子であった。
  6576.  何よりも傑作なのは、そんな姿にされた静子夫人と桂子とのプレイである。銀子はグラスのウイスキーを一口飲んで、朱美をうながして、消えいるようにうなだれ、すすり上げている静子夫人の顎に手をかけて、正面へ上げさせ、おどろに乱れた艶のある黒髪を櫛で梳きあげてやり、口紅をひき、手早く化粧をほどこしていくのだ。
  6577.  色香あふれる雪白の首筋から、豊かな二つの乳房に至るまで乳液をぬり、
  6578. 「さて、元通りの美人になったわ」
  6579.  銀子と朱美は、しげしげと正面に廻って、化粧された美女の全身を見つめ合う。
  6580.  銀子は、千代に向かっていった。
  6581. 「それじゃ千代夫人、お願いしますわ。この元遠山夫人は、かわいそうに、このようにお手々を後手に縛られているので、御自分じゃ取りつけるわけにはいかないのよ。お手数でしょうけど、昔のよしみで、しっかりと取りつけてあげ
  6582. て下さらない」
  6583.  ふざけた調子でそういうと、千代も、
  6584. 「いいわ。私もこの奥様には、ずいぶんとお世話になったし、優しくして頂いたの。その位のサービス、喜んでさせて頂きますわ」
  6585.  そういった千代は、静子夫人の前に立ち、桐の箱を開けて、その中身を夫人の鼻先へ、これ見よがしに押しつける。ちらとそれに眼を走らせ、耳たぶまで真っ赤に染め、ほっと顔をそむける静子夫人。
  6586. 「よかったね、静子さん。鬼源さんが、苦心して作って下さった、このすばらしい芸術品を千代夫人が特別に取りつけて下やるそうよ。心から感謝して、お受けしなきゃ駄目よ」
  6587.  銀子と朱美は、そんな事をいい、その場は千代一人に任して、川田達のいる酒の席に戻るのだった。
  6588.  静子夫人と千代との、奇妙な争いが始まった。
  6589. 「♢♢あっ、や、やめてっ、やめて!」
  6590.  静子夫人は絶叫し、激しく身をくねらせ始めたのである。
  6591. 「ま、奥様、御自分で頼んでおきながら、みっともないじゃございません。大きなお尻をお振りになったりして」
  6592.  千代は、くすくす笑いながら、しかし、眼だけは蛇のように光らせて、静子夫人をそういう姿に仕上げようとして必死になる。
  6593.  美しい顔を紅潮させ、毛穴から血でもふき出しそうな憤辱に、静子夫人は最後の気力を振りしぼるようにして身をよじったが、千代も何かに憑かれたように必死だ。その執拗さに静子夫人は遂に根負けしたのか観念の眼を閉じ、身をゆするのを止め、千代のなすがままに任せようと覚悟を
  6594. 決めたが。♢♢しかし千代が嵩にかかったように取りつけ
  6595. にかかり出すと、思わず、頭に血がかっとのぼり、
  6596. 「嫌っ、嫌よっ」
  6597.  静子夫人の肉づきのいい美しい曲線を持つ肢は反射的に
  6598. はねあがり、千代の顔を白い脛は押しのけるようにしたの
  6599. である。
  6600.  ぺたんと尻もちをつく千代。それを眺めていた銀子や朱美は、思わず、キャッキャッと笑い合った。だが、大切な金主の千代に対しては失礼な笑いだと思ったのか、あわてて、二人のズベ公は立ち上がり、肩で息づき、美しい切長の瞳を憤辱に燃え立たせている静子夫人の前に立ちはだかる。
  6601. 「遠山新夫人を足で押し上げるとは、静子、何て事をしてくれるのよ。あたい達の顔に泥をひっかけたのも同然よ」
  6602.  銀子が凄めば、朱美も、
  6603. 「きれいに顔も化粧してやったし、伊沢先生や川田兄さん方に、あんなすばらしいサービスをしてもらったくせに、まだ貴女、駄々をこねつづける気なの」
  6604.  と、続ける。
  6605.  静子夫人は、これらズベ公達の恐ろしいしっぺ返しを予想して、思わず身をすくませ、ただ、肩を震わせて、すすりあげるだけであったが、銀子は、ギラリと眼を光らせ、朱美に向かっていう。
  6606. 「伊沢先生のサービスが、少し紳士的すぎたんじゃない、こうなりゃ仕方がない。一度、させちゃおうよ」
  6607. 「何をさ」
  6608.  フフフ、と銀子は笑いながら、静子夫人の耳元に口を寄せて何かささやく。
  6609.  静子夫人はピクッと身体を痙攣させ、打ちひしがれたように首をのけぞらす。
  6610. 「ね、いいでしょ。もう一度、川田さん達に責めてもらって、一度、完全に気をやらせちゃうのよ」
  6611. 「嫌っ、嫌っ。銀子さん、ど、どうして、私に、それほど赤恥をかかせるのですっ。後生です。もうこれ以上、嬲りものにしないで」
  6612.  静子夫人は激しく首を振って、わめくように銀子に哀願するのだったが、満座で、そういう状態にされる事が最も辛いのだと知った銀子は、むしろ北叟笑んで、川田の方を振り返る。
  6613. 「ね、川田さん。何時かのように、例のクリームなんかを使って、一度、この元遠山夫人を完全にノックアウトしちゃつてくれない。どうもまだ身体が固くて、千代夫人が手こずっておられるようなのよ」
  6614.  それを聞くと、川田は、よしわかった、と立ち上り、ク
  6615. リームを取ってくるからな、と急いで廊下へ飛び出して行く。
  6616. 「嫌ですっ。お願いっ、そ、それだけは、やめてっ」
  6617.  静子夫人は、逆上したように、柱に固定された身体を悶えさせ、泣きわめく。
  6618. 「よほど、皆んなの見ている中で、そんなことになっちゃうのが辛いようね。ふふふ」
  6619.  銀子は、そういって笑い、朱美をうながして、隣の部屋から、大きなテーブルを持ち運んできて、静子夫人の前へ置く。
  6620. 「横になった方が楽でしょ。この台はね、美津子を女として開眼させた台なの。静子夫人を今更、開眼させる必要はないけど、今夜はお客様も見物しておられるんだから、女盛りの女らしく、見事に♢♢して頂戴ね」
  6621.  銀子と朱美は、静子夫人の縄尻を柱から外しとり、どんと彼女のすべすべした白い背を前へ突く。静子夫人は、両手を後手に縛められた体を台の足のあたりにかがませ、ぴったり立膝をして、すすりあげるのだった。
  6622. 「さ、立つのよ」
  6623.  銀子は、静子夫人の肉づきのいい肩に手をかけて上へ引きあげたが、
  6624. 「何しろ、あたい達が美津子に教えこんだ時と違って、その道のベテランが、熟れ切った奥さんを責めるんだ。喜びすぎて、台の上で飛んだり跳ねたりして、縄がゆるむかも知れないから、しっかり縛り直しておこうよ」
  6625.  銀子は、意地悪く、そんなことをいい、朱美と二人、手に唾して、更にきびしく、静子夫人を緊縛し始める。
  6626. 「さ、乗っかるんだ」
  6627.  銀子と朱美が、静子夫人の麗身を台の上へ乗せ上げようとし、静子夫人が激しくすすりあげて、それに抵抗していると、田代と森田が立ち上って近づいてきて、ズベ公達に手をかし、遂に夫人を台上へ乗せあげてしまったのである。
  6628. 「ああ♢♢」
  6629.  静子夫人は、台の上で、柔軟な白い足の指先をくの字に曲げて、白い頬を冷たい板にすりつけている。
  6630. 「さあ、鯉が俎に乗っかったように、おとなしくするんだよ」
  6631.  銀子と朱美は、別のロープを使って、夫人の乳白色の肩を、がっちりと台に固定し、仰臥させてしまった。
  6632.  両肢をぴったりと閉じ合わせ、台の上で石のように固くなってしまっている静子夫人。
  6633. 「ほんとに、奥様は、お美しい身体をしてらっしゃいますわね」
  6634.  千代は、爼に乗せられた美女を眼を細めるようにして眺める。
  6635.  銀子も、台に乗せられて観念の眼を閉じ小さく息づいている美女を、小気味よさそうに眺めながら、
  6636. 「せっかく、千代夫人が取りつけて下さろうとしたのに、どうして、さからったりしたのよ。千代夫人は今までは、貴女の女中だったかも知れないけどさ、これからは、貴女の御主人も同然の方よ。なさろうとする事に一々さからったりすると、あたい達が承知しないわよ」
  6637.  という。
  6638.  鬼源や川田の数々のむごい調教を受け、精神的にも肉体的にも別個の人間に作りかえられてしまった筈の令夫人が、今、使用人であった千代の嬲りものになろうとして、必死になって反抗を示した事に、むしろ、銀子や朱美は、一種のハリアイのようなものを感じだしたのである。
  6639.  京子と二人、地獄の調教を受けた身でも、さすがに、女中として使っていた千代に、数々の羞恥責めを受ける辛さには耐えられないものらしい。そう感じた銀子は、自分の意に従わなかった腹いせもあり、千代の見ている前で、静子夫人を女として最も辛い責めにかけ骨抜きにして、千代に対して心より屈服させてやるのだと意気ごむのであった。
  6640.  銀子は、朱美に目くばせをし、台の末端に縄がけし、
  6641. 「さ、静子夫人、も一度、川田兄さん方に徹底的に責めて貰ってあげるわ。貴女が本心から千代夫人のため、母娘ショーを演じる気持になるまでね♢♢さ、足を開いて♢♢しっかり縄をかけてあげるわ」
  6642.  静子夫人は、全身鳥肌の立つ思いで、ほっと一層固く両肢を閉じ合わせ、歯ぎしりをしながら、台上の身を硬化させている。
  6643. 「まだ、貴女、あたい達にさからう気なの。あたい達は、元遠山夫人が、あたい達の仕込みで、現在どれほど進歩したか、千代夫人に見て頂こうとしているのよ。あたい達に私をかかせる気なの」
  6644.  銀子は本当に怒ったような顔つきになり、顔を台へ押しつけるようにして、すすりあげている静子夫人の横面を手荒くひっぱたくのであった。
  6645. 「おめえは気が短くていけねえ。何かといやすぐに商売ものをなぐったり、蹴ったりするんだから始末が悪いよ」
  6646.  そういって、鬼源は、台のまわりを一回転し、仰臥している静子夫人の両足首を両手で握る。
  6647. 「嫌、嫌っ♢♢」
  6648.  静子夫人は電気に打たれたように身体を硬直させた。
  6649. 「後、後生です。千代さんの前では恥を晒したくない」
  6650.  静子夫人がこれはど、哀願し、反抗を示すのは久しぷりの事だと田代も森田も、酒を注ぎ合いながら話し合う。
  6651. 「へへへ、そりゃ、今まで、顎で使っていた人間に、そういう身体にされちまったところを見られるのは辛えだろうけど、まあ、これも修業だと思いねえ」
  6652.  鬼源は、そういって、強引にカを入れ、割り開かせようとしたが、静子夫人は、泣きわめいて足を悶えさす。
  6653. 「ねえ、京子を、ここへしょっぴいておいでよ。この奥さんと同じように台に縛りつけるんだ。何しろ、恋人同士なんだからね。二人一緒なら、そういう責めを受けるのも楽しいもんじゃない」
  6654.  銀子がいい出したので、それは妙案だと、朱美が飛び出して行こうとする。
  6655. 「待、待って下さい」
  6656.  静子夫人は、激しくすすりあげながら、部屋を出て行こうとする朱美を呼び止めた。
  6657.  こんな野卑で残忍な男女のなぐさみものに地獄の調教でくたくたになっている京子を巻き添えにしたくない。ここにいる千代は、長年仕えていた女主人の苦しみ悶える姿を見たいだけなのだ。そう思うと静子夫人は、もう一切をあきらめ、千代の前に生恥をさらすより方法はないと、悲痛な決心をしたのであった。
  6658. 「♢♢き、京子さんには関係ありません。わたしが、千代♢♢千代夫人のいう通りにすればいいのです」
  6659.  静子夫人は、わなわな唇を震わせながら、そういい、堰をきったように泣きだすのだった。
  6660.  ホホホ、と千代が金歯をむき出して大声で笑う。
  6661. 「そうよ、奥様。私は、奥様とお嬢様が、このお屋敷の中で、どれ位、御修業されたのかそれを見せて頂ければ満足ですのよ。他の人には興味ございませんわ」
  6662.  唇を噛み、息もつまる屈辱を全身で耐えている静子夫人のまわりに、銀子、朱美、田代に森田、鬼源、そして伊沢達が取り囲む。
  6663. 「おっと、桂子が一人ぼっちじゃ、かわいそうだ。ここへ連れて来て、ママがどんな風になるか見物させようぜ」
  6664.  森田と鬼源は、布団の上へ仰臥している桂子を抱き起こし、二人でかかえるようにして戻って来た。
  6665.  静子夫人は、ふと、それに気づくと、ほっと青ざめた顔になり、
  6666. 「♢♢お、お願い。桂子に、桂子に見せたりしないでっ」
  6667. 「何いってるんだよ。あんまり注文が多すぎるわよ。いいかげんにおし」
  6668.  と朱美は眼をつり上げたが、すぐ、そうだ、いい事がある、と銀子にいい出した。
  6669. 「ね、何時か、京子と美津子を並ばせて、浣腸してやったように、この静子夫人と桂子を並ばせて♢♢」
  6670.  そりゃ傑作だ、と森田と鬼源は、更に一台の卓を持ち出して来て、静子夫人が乗せられている卓の隣へ置く。
  6671.  静子夫人は、必死になって、桂子だけは許してと頼むのだったが、もとより、そんなことにかまう鬼源ではない。
  6672. 「さ、桂子も乗っかるんだ。今まで散々こきつかった千代夫人に、どれほど成長したかを見せてあげるんだよ」
  6673.  桂子は、森田と鬼源に遂に卓の上へ乗せあげられ、素早く縄止めされていく。
  6674. 「♢♢ああ、ママ、助けてっ」
  6675. 「♢♢け、桂子さんっ」
  6676.  桂子は、馬力のある鬼源と森田の手で、遂に人の字型に卓に固定されてしまったのだった。
  6677.  銀子は、それを見るとニヤリとして、静子夫人の方へ向き直る。
  6678. 「ごらんよ。桂子の方がずっと聞きわけがいいわよ。さあ、ママさんの方も娘に負けないよう、しっかり見習いな」
  6679.  銀子と手と朱美の手が、夫人のぴったり閉ざしている足首にかかった。
  6680.  もう静子夫人は、哀願も哀訴も空しい事と観念し、キリキリ歯を噛み鳴らしながら、銀子と朱美の手で、屈辱の谷へ突き落とされていくのであった。それを見つめている千代は、勝ちほこったように大声で笑いつづける。
  6681.  銀子と朱美は、卓の両端へ引っ張った夫人の足首をしっかりとロープでつなぎ終わるとほっとして、固く眼を閉ざしている美しい静子夫人の顔を両手ではさむようにして、
  6682. 「ふふふ、ずいぶんと手間をとらせてくれたわね。だけど、もうどうにもならないわ。後は、うんといい声で泣いて貰うだけよ」
  6683.  そこへ、川田が戻ってくる。
  6684. 「おや、へへへ、なるほどな。たしかに、その方が面白いぜ。さあ、千代。こいつをたっぷりと静子夫人に塗りこんでやりな」
  6685.  川田から、渡された茶色の小さな壺に入ったクリームを千代は指先にたっぷりと塗りながら、静子夫人に近づき、「ホホホ、色々、お世話になった御恩返しという意味で、うんとサービスさせて頂きますわよ」
  6686.  銀子も、千代から、壷を受け取り、桂子にいどんでいく。
  6687. 「嫌よ、嫌っ。ああー、ママ、どうしよう」
  6688. 「♢♢桂、桂子さん、が、がまんするのよ。負けちゃいけない—あ、うっ、うっ♢♢」
  6689.  静子夫人も千代の攻撃をまともに受け、眉を寄せて、首
  6690. を切なげにのけぞらせるのだった。
  6691.  
  6692.  
  6693.     地獄の花嫁
  6694.  
  6695.  何時か静子夫人と京子が、葉桜団と森田組の手で、血も凍るばかりに恐ろしい剃毛式を行わされた離れの密室♢♢その奥の一段高く作られた台の上の二本の丸木には、美津子と文夫が、がっちりと立ち縛りにされている。
  6696.  二人とも申し合わせたように、ぴったりと両肢を閉じ合わせ、がっくりと首を垂れて、これから始まるズベ公達の責めを観念して待っているという風情であった。
  6697.  美少女と美少年が、さらしものになっている台の下♢♢つまり、静子夫人と京子が、剃毛されたあと、屈辱の演技を強要された場所では、義子、悦子のズベ公が、チンピラやくざの竹田、堀川達と花札賭博をして遊んでいる。
  6698. 「何をしてるんだろうな。姐さん達は?」
  6699.  悦子が花札を激しく敷布に叩きつけながら、そういった時、マリが入ってくる。
  6700. 「傑作なのよ。静子夫人と桂子が♢♢」
  6701.  悦子と義子は、マリの話を聞くと、花札を投げ出し、声を立てて笑った。
  6702.  静子夫人が千代に取りつけられる事を拒みつづけたので、今、人形責めに桂子も一緒にかけられているというのだ。
  6703. 「へえー、静子夫人も桂子も、さぞ口惜しいことだろうね。長い間、自分の家で使っていた女中に、そんな姿を見られるなんて」
  6704.  悦子がいうと、マリもうなずきながら、
  6705. 「そうよ。でも、銀子姐さん、近頃、静子夫人をまるで目の敵のようにして責めるわね。鬼源さんの作ったゴム人形で責めるなんて、ちょっと残酷すぎやしない」
  6706. 「ふふふ、今更、残酷もなにもあらへんわ」
  6707.  義子は笑い、
  6708. 「ところで、台の上のお坊っちゃんとお嬢ちゃんなあ、いいつけ通り剃毛式を行う準備はしたんやけど、お客さん方は見に来はるのか来はらへんのか、どっちなんや」
  6709.  とマリに聞く。
  6710. 「社長がいわれるんだけど、まだ、これから静子夫人と桂子のショーがあるので大分時間がかかりそうなの。だから、予定通り、先にすすめて二人の結婚式をやれって。ただし、美津子と文夫のプレイだけは、必ず客と一緒に見るから、土俵の支度だけはしておくようにということよ」
  6711.  よし、わかった、と義子は竹村と堀川に、床の支度をするようにいうのだった。
  6712.  オーケーと二人は、隅へ行き、積み重ねてある布団を運んでくる。ズベ公達も手伝って以前、静子夫人と京子が夫婦ショーを演じた床の上へテキパキと敷き始める。
  6713. 「静子夫人と京子の時と違って、今夜のショーは、年は若いが本格的なものだよ。おい、そこの御両人、しっかり頼むよ。恋人同士だけに、ぴったり息も合うはずだ」
  6714.  悦子は、台の上にさらされている美少女と美少年の方を見ながら、そんな事をいうのだった。
  6715.  恐ろしい準備がズベ公とチンピラ達の手で出来たわけだ。
  6716.  美津子は、ふっと眼を開け、それを見たが、途端に、あっと小さく声を出し、美しい頬を朱に染めて、首をねじる。
  6717.  鬼女達の美津子と文夫の結婚式をするという事の意味がはっきりわかった二人の美しい晒しものは、柱に縄をきしませて、震えだす。好奇の眼を光らせる野卑な男女の前で、無理やり、そのような事を演じさせられるのだと思うと、おぞましい羞恥の戦慄が全身を走るのだった。
  6718.  義子や悦子達は、審査席を作らなきゃといいながら、敷いた寝具の周囲に座布団を敷きつめる。
  6719.  それが終わると、悦子は、かっちりと立ち縛りにされている美津子と文夫の足元へ、洗面器を一つずつ置くのだった。
  6720.  一体、何をする気なのかと、文夫も美津子も新たな恐怖に見舞われて、全身を硬化させたが、悦子が、くすくす笑いながら説明し始める。
  6721. 「幹部の人達が、色々協議した結果、特別の情けによって、熱烈に愛し合っているあんた達二人を結婚させてあげる事になったの。つまり、そうすれば、貴女達は相思相愛の仲だけにすばらしい息の合ったコンビになる事が出来るでしょう。私達の特別の計らいに感謝して、これからは大いに稼ぐんだよ」
  6722.  美津子も文夫も、恐怖のために肩のあたりを、がくがく震わせている。
  6723. 「これから、貴方達を仕込むのは、あたい達の仕事なのよ。腕によりをかけて、すばらしいコンビに仕上げてあげるわ」
  6724.  マリは、そういって
  6725. 「静子夫人と桂子のショー、どれ位、進行してるか、ちょっと見てくるわね」
  6726.  といって、廊下へ出て行くのだった。
  6727. 「ね、二人とも、わかったわね」
  6728.  悦子は、立ち縛りにされている二人の間に身体を入れてニヤニヤしながら、続ける。
  6729. 「じゃ、結婚式を始めるけど、まず、三々九度の盃をしなきゃならないでしょ。でも、普通のお酒じゃ芸がないわ。そこで、あたいが思いついたんだけど、御神酒は、二人でそれぞれ作って貰うのよ。この洗面器に注ぎこまれた二人のものを、あたいがミックスして盃に入れてあげるから、それをお互いに飲み合う。愛の誓いを立てる意味からいっても、すばらしい方法だとは思わない」
  6730.  ズベ公達の考えている常軌を逸した恐ろしい着想に、狂ったように真っ赤になった顔を振りつづける美津子と文夫。
  6731.  そんな二人を楽しそうに悦子は  見て、
  6732. 「それに、あんた達、今日はお昼からまだすましていないんでしょ。プレイの最中に粗相があっちゃ大変だし、先にすますものは、すましておきましょうよ、ね」
  6733.  と笑いこける。そして、二人の足元にかがむようにして、文夫の洗面器を少し前へずらしてやり、美津子の洗面器は、ぴったり彼女の足指の前へ置くのだった。
  6734. 「さ、始めなはれ、二人とも」
  6735.  義子は、文夫の背と美津子の背を同時に突いた。
  6736.  反射的に美少年と美少女は、石のように体を硬くし、ぴったりと両肢を固く閉じ合わせてしまう。
  6737. 「ちょつと、あんた達。まだ、あたい達の命令が聞けないっていうの。この間は銀子姐さん達に責められて、あれだけ素直に色々な事を演じたのに、あたい連なら相手が不足というのかよ」
  6738.  悦子は眼尻をつり上げてどなった。
  6739.  抵抗すれば、それだけ、折檻が苛酷なものになってくるという事は、美津子も文夫もわかっている。だが、どうして、そんな事が演じられよう。しかも、器に投入したものを互いに飲み合わねばならぬなど、これらのズベ公達は気狂い以外の何ものでもないのだ。
  6740.  美津子と文夫が、互いに歯を喰いしばり、命じた事を演じようとしないのに業を煮やした義子と悦子は、文夫を指ではじいたり、美津子をひっぱったりして、悲鳴をあげさせていたが、なお、それでも、頑強に拒みつづける二人に舌打ちして、竹田や堀川に、地下室にいる美津子の姉の京子と文夫の姉の小夜子をここへ連れてくるようにいう。
  6741. 「二人とも、姉の見ている前で、この間のような責めにかけてやるよ。京子や小夜子は、さぞ、びっくりすることだろうな」
  6742.  美津子も文夫も、ほっとしたように顔をあげる。あの人間として耐え得る限界を超越した恥ずかしい責めを姉の見ている前で♢♢。
  6743.  美津子は鳴咽しながら、部屋より出て行こうとする竹田と堀川に哀願するのだった。
  6744. 「後生です。姉さん達を♢♢こ、ここへ呼ぷのだけは♢♢やめて下さい」
  6745. 「そう。ほな、うちらにさからわんで、いわれた通りにするんやね」
  6746.  義子は、ぞくぞくした気分になって、美津子の頬をつつくのだった。
  6747.  美津子は、激しくすすりあげながら、うなずき、たまらなくなったように、
  6748. 「ああ♢♢ふ、文夫さん」
  6749.  口には出さねど、文夫の覚悟を求めたのであろう。京子や小夜子が引き立てられてきた前で、数々の卑しめを受け、姉達を驚かせたり悲しませたりする事を思えば、むしろ二人だけで耐え忍べるだけは耐え忍ぼうと悲痛な決心をしたのであった。
  6750.  文夫とて、同じ思いである。姉の小夜子の前で、そのような言語に絶する責めを受けるよりは、このまま、鬼畜の責めを我身で受けとめた方が♢♢と、決心をしたのである。
  6751. 「さあ、始めて始めて♢♢」
  6752.  義子と悦子、それに、竹田、堀川までが、ニヤニヤしながら、二人の足元に身をかがめるようにして、仔細に観察しようとする。
  6753. 「何をぐずぐずしてるんだよ。あたい達は気が短いんだからね」
  6754.  悦子が業を煮やして、立ち上り、美津子と文夫の耳を同時にひっぱるのだ。
  6755. 「♢♢ふ、文夫さん。ああ♢♢」
  6756.  美津子は、もうこれ以上、ズベ公達の気分を高ぶらせ、姉達が引き立てて来られることになってはと、身投げでもするように羞恥地獄へ飛びこんだのである。
  6757. 「美津子さん、美津♢♢」
  6758.  文夫も、またほざくように泣き、美津子の後に続く。
  6759.  ズベ公もチンピラも、どっとわき、美しい二つの若い肉体の羞恥を嘲り、小瀑布を眺めるのだ。
  6760.  美少年と美少女にとっては、それは実に長い苦しい時間であった。その間、心臓は高鳴りつづけ、二人の美しい顔からは血の気は消えた。
  6761.  文夫はとにかく、悲惨だったのは、立ち縛りにされたまま、そういう地獄図を演じた美津子の方である。まるで蔦がまきつくように若々しい弾力のある太腿から脛のあたりにかけて、幾筋もの名残りが描かれていた。
  6762. 「まあ、お行儀が悪いわ。ちゃんと、洗面器に入れなきゃ駄目じゃないの」
  6763.  悦子はそういい、義子の顔をみて舌を出して笑う。そして、二人で、台の上へおいた掌ぐらいの盃の中へ、文夫のものと美津子のものを少量ずつ入れ、その盃を、まず文夫のロへ♢♢。
  6764.  うっと、一瞬、文夫は、首をねじったが、
  6765. 「三々九度の盃を拒んだんじゃ結婚式にならないじゃないの。さ、一息に飲んで」
  6766.  悦子と義子は、やっと、文夫に御神酒を飲ますと、次に、美津子の口へそれを運ぶ。
  6767. 「ああ♢♢」
  6768.  美津子も、嫌々をするように首を振ったが悦子に鼻をつままれ口を開く。
  6769.  やっと流しこみ、ごくりと飲みこむところまで念を入れたズベ公達は、
  6770. 「さて、これで、三々九度の盃は終わったよ」
  6771.  とんでもないものを飲まされて、もう反抗する気力もなく、ぐったりと首を垂れてしまっている二人を見くらべるようにしながら、
  6772. 「お互いに愛し合ってるんやから、今更、くどくどいう事もないけどな、まあ、末長く円満にやっておくれ。ただし、自分達がこれで森田組のショーのスターになったという事を忘れへんようにな。つまり、あんた達が愛し合うプレイそのものが、今後大事な商売ものになるんやからね」
  6773.  義子はそんな事をいって、くすくす笑い、二人を見くらべるようにしながら、
  6774. 「理想的なカップルのようやね。一応二人のサイズを竹やんと掘やんに、くわしく計って貰う事にしようやないの」
  6775.  義子の眼くばせを受けた竹田と堀川は、待ってましたとばかり巻尺を取り出し、ずかずかと美津子の方に近づいていく。
  6776.  自分の肩に頬を埋めるようにして、小さくすすりあげていた美津子であるが、二人の不良がニヤニヤして眼の前にやって来たのに気づくと、再び、別の衝動に打ちのめされたように耳たぶまで朱に染めて「いや、いやっ」と首を振る。
  6777.  そんな美津子を楽しそうに見ながら、義子と悦子は、何時か銀子や朱美がやっていた事を真似て、美津子の背後に廻り、若々しい黒い髪をかきわけて、彼女の耳元に、色々なおぞましい言葉を吹きこむのだ。
  6778. 「お兄さん方が、わざわざ計って下さろうっていうのに、美津子、すましこんでいちゃ失礼じゃないの」
  6779.  そして、こういうのよ、ああいうのよ、と二人のズベ公は、言葉による一種の拷問を始めるのだった。
  6780. 「ね、お姉さん方に来られるのは、嫌なんでしょ。だったら、いわれた通りの事を、おっしやいな」
  6781.  美津子は、もう抗し切れず、涙に光った美しい黒眼を前に立つ竹田と堀川に向けるのだった。その瞬間、柱にかっちり立ち縛りにされている美しい乙女の全身から、十八とは思えぬムンムンとする女らしさが立ちこめてくるのを不良二人は感じて狼狽する。自分達が立ち入り、犯すことの出来ない気品のある色気というものを感じとったのだ。
  6782.  美津子は、首も顔も燃えるように赤くしながらも、冷静な、人間的思考を投げ捨てた表情をして、義子や悦子に耳元へ吹きこまれたことを、口にするのだった。
  6783. 「♢♢竹田お兄様、堀川お兄様。以前は、美津子にすばらしい浣腸をして下さり、あの時の感激は、未だに忘れられません。♢♢その上今日は美津子のサイズを計って下さるとの事、お、お礼の申しようもございません」
  6784.  美津子は、わなわな唇を震わせ、涙にうるんだ黒眼勝ちの瞳を、二人の不良少年に向けながら、やっというのだった。
  6785. 「さ、次を続けて♢♢」
  6786.  義子と悦子は、くすくす笑いながら、次を催促する。
  6787. 「さ、お兄さま、くわしく、計って下さいまし。でも、美津子、まだ十八。おとなしくしようとしても、つい恥ずかしくなって身体を固くしてしまうかも知れませんわ。ですから、しっかり縄をかけて下さいませ」
  6788.  竹田と堀川は、ぞくぞくした気分で、台の後ろに立てかけてある木材を取り出し、美津子を立ち縛りにしている丸木の根元に、それを横木にして打ちこみ始めたのだ。
  6789.  悦子と義子も、それにならって、文夫の方の丸木の根に木を打ちこみ始める。
  6790. 「お坊っちゃんの方のサイズは、あたい達が計ってあげるわよ」
  6791.  美津子と文夫を人の字の形に縛り止めるべく、ズベ公もチンピラも身をかがめる。
  6792.  悦子と義子の手が足首にかかると、文夫はぴくっと身体を震わせ、
  6793. 「は、はなせっ。けだもの!」
  6794.  と叫んで、一瞬、抵抗を示したが、竹田や堀川が手をかして、まるで、タックルでもするように文夫の足元へ襲いかかり、有無をいわせず左右へ大きく割り開かせて、横木に縛り止めてしまうのだった。
  6795. 「く、くそっ」
  6796.  文夫は、息もつまるばかりの憤辱に、必死になって身体をゆすったものの、全身にがっちりとかけられた縄は、びくともゆるむものではなかった。文夫は、もう抵抗の空しさをはっきりと悟ったように、がっくりと首を垂れて、おとなしくなってしまう。
  6797.  ほっと一息ついたズベ公は、再び、美津子に攻撃の矛先を向けるのだった。
  6798. 「さあ、貴女の恋人は、堂々と縛られたわ。貴女も負けないようにね」
  6799.  美津子は、竹田と堀川の手が足首にかかると、一瞬、電気を打たれたように身体を震わせたが、もうどうしようもないようにカを抜き、不良少年のするがままに任せてしまったのである。
  6800. 「まあ、いい子だこと。これからは何時も、そういう風に、素直にならなきゃ駄目よ」
  6801.  美津子の足を難なく思い通りにした竹田と堀川は、しっかりと縄止めをし、ニヤニヤ笑いながら、その前に立ったり、しゃがんだりして美しい身体を凝視する。
  6802. 「普通なら、鼻もひっかけてくれない夕霧女子高校の才媛を、こういう姿にして観賞出来るんや。あんた達も本望やろう」
  6803.  義子はギラギラした眼つきで、美津子の全身をなめるように見廻している竹田と堀川にいい、
  6804. 「さ、くわしく測定してあげな。あたい達は文夫の方を調べるからね」
  6805.  チンピラ二人は、美津子を、ズベ公二人は文夫を各々、手に巻尺を持って、仔細に調べ始めるのだった。
  6806.  美津子も文夫も、がくがく歯を噛み鳴らし額に脂汗を浮かべて、この言語に絶する屈辱を全身を鋼鉄のようにして耐えている。
  6807. 「♢♢ああ、も、もう♢♢やめて♢♢」
  6808.  美津子は、い♢♢と白い歯を唇の間からのぞかせ、不良少年達の執拗さに耐えられなくなったように大きく首をのけぞらせる。
  6809.  ようやく、ズベ公もチンピラ達も、仕事をすませて立ち上り、巻尺を指でもって、サイズを示し合い、笑い合う。
  6810. 「それならぴったりよ。いいコンビになれるわ」
  6811.  悦子が大きな口を開けて笑った時、マリがウイスキー瓶をぶら下げて入ってきた。
  6812. 「いよいよ、お客様の御入来やね。ええよ、準備は出来てるんやから」
  6813.  義子が、放心したように首を垂れ合っている晒しものの美男と美女に眼をやって、そういうと、
  6814. 「今ね、社長と親分の意見が出て、童貞と処女のショーを今夜してしまうのは惜しいというのよ。どうせ、散らすものなら、明日の夜のショーに出て、客を喜ばせた方が得だという考えなのよ。たしかに、その方が愉快じゃない。すばらしいプログラムになるわよ」
  6815.  とマリはいうのだった。
  6816.  なるほど、と悦子も義子もうなずく。
  6817.  水揚げショーなどという言葉はおかしいが童貞と処女を今、ここで失わせてしまうより明日のショーで、それを行えば、たしかに観客の度肝をぬく事になるとズベ公達は了解するのだった。
  6818. 「ほな、そういう事にしましょ。二人ともええね」
  6819.  義子は台の上の美しい晒しものに向かってそういう。文夫も美津子も、もう一言も発する気力もなく、ただ、申し合わせたように首を垂れつづけているだけであった。
  6820. 「ところで、静子夫人と桂子のプレイは終わったの」
  6821.  悦子が聞くと、マリはウイスキーを義子やチンピラ達にすすめながら、
  6822. 「ところが、それがまだ、お人形責めの最中なのよ」
  6823. 「まあ、まだ、そんな事やってんの」
  6824. 「桂子の方は、スパークして完全に往生しちゃったんだけどね、奥様の方は、汗まみれになっているのに歯を喰いしばって、がまんしてるのさ」
  6825. 「明日のショーの主役やのに、そんな責めを続けちゃ身体が痛んでまうで。いいかげん、解放してやらな」
  6826.  義子もマリに注がれたウイスキーをなめながら、台の上に腰をおろしていうのだった。
  6827. 「私も、そう思ったんだけどさ。何しろ、銀子姐さんが、どうしても、千代夫人の眼に、静子夫人の降参した姿をはっきり見させるのだといって自棄になって責めるんだもの。あの千代夫人だって、達者なものよ。自分も銀子姐さんに調子を合わせて、キャッキャッいって責めてるのよ」
  6828. 「まあ、あきれた。ふふふ、でも、静子夫人、そんなにまでされても、がんばりつづけるのは、よっぽど嫌なのね。元の女中に、そんなになった身体を見られるってことが」
  6829.  恐らく静子夫人にしてみれば、銀子や千代の待ちうけているそんな状態に陥らないよう必死に耐える事のみが残された最後の抵抗なのであろう。だが、それならそれで、銀子や川田、それに千代などは一層意地になって責め抜くであろうし、つまり、マリにいわせれば、静子夫人が赤恥をさらけ出すのも時間の問題だということになる。
  6830.  義子は、台の上の美しい晒しものに眼を転じ、ふと何かを思いついたように、
  6831. 「けど、明日が本番なら、少し、この初心なこ人、教育しとかないかんわ。実際のプレイなんて真似事もろくにしてないし、見せてもないんやから」
  6832.  勉強のために映画を見せてやろうよ、と義子がいい出し、チンピラ二人は、グッドアイデアだなどといいながら、表へ飛び出して行き、どこからか八ミリ映写機とフィルムを数本とって帰って来た。
  6833.  義子と悦子は、この密室の隅に立てかけてあった映写幕を距離を見計らいながら、台の上の、つまり、美しい晒しものの前三米ばかりのところに椅子をつみ重ねて、はりつける。
  6834.  映写機は、人の字型に立ち縛りにされている文夫と美津子の間に配置された。
  6835. 「森田組が製作して、あっちこっちの温泉場に流しているフィルムなんだ。勉強のためによく見るんだよ。あんた達もやがて、こういう映画に出演させて貰えるんだからね」
  6836.  悦子は、タスクス笑いながら、密室の電気を消し、豆電球一つが台の上にともった。
  6837.  映写機が回転し始めると、映写幕に『ある夜の出来事』というタイトルが、あざやかにうつし出された。
  6838.  ズベ公達は文夫の側に、チンピラ達は美津子の側に寄り添うようにして、映画鑑賞を始める。
  6839.  顎を指でこじあげられ、強制されて眼の前の映写幕を見る文夫と美津子。
  6840.  あっと小さく叫んで美津子は眼を閉じた。映画の中に正視出来ない場面が現われたのである。美しい十八の乙女は、思わず顔を熱くして、首をねじ助げようとしたが、竹田は、美津子の熱くなった頬を、手ではさむように持って正面に向けさせ、
  6841. 「見なきゃ駄目だよ。せっかく勉強させてやろうとしているのに」
  6842. 「強引に顔を正面に向けられたものの、どうしてそんな映画がまともに見られよう。
  6843.  固く眼を閉ざしている美津子に気がついた竹田と堀川は舌打ちして、見なきゃ、こうするぜ、と美津子の太腿を抓る。
  6844. 「あち、なにすんのっ、やめて!」
  6845.  髪の毛をひっぱられて、美津子が悲鳴をあげ始めると竹田と堀川は、嵩にかかったようにきびしい声で、
  6846. 「じゃ、しっかりと眼を開いて見るんだ」
  6847.  美津子は、もうどうしようもなく、涙にうるんだ美しい黒眼を、前の画面に向けるのだった。
  6848.  文夫の方も、義子と悦子の二人に強制されている。顔をそらせたり、眼を閉じたりすると、ズベ公二人が、抓ったり、はじいたり引っ張ったりするのだ。
  6849.  遂に文夫も美津子も、どうともなれ、と、覚悟をきめたのか、おぞましい画面に視線を向け合う。
  6850.  それを見た義子と悦子は顔を見合わせて、くすくす笑いながら、更に一本、また一本と竹田達が持ってきたフィルムを映写していくのだ。
  6851. 「ふふふ、面白い映画でしょ。でも、出演している男も女も顔はよくないし、身体も不恰好。若くて、ピチピチしたニューフェイスを森田組も欲しく思っていたところなのよ。
  6852. あんた達二人は恐らく森田組映画部のドル箱スターになる事と思うわ。しっかり頼むわよ」
  6853.  と悦子がいえば義子も、いくつものいまわしい映画を一種の虚脱状態になって見入っている美津子の、お臍をつついたりして、
  6854. 「十八んなったばかりで、映画の主演女優、大した出世やないの。しっかり勉強しいや」
  6855.  といって笑いこける。
  6856.  五本のフィルムの映写は、ようやく終わった。
  6857.  長時間、そんな映画を強制的に観賞させられた美少年と美少女の額には、べっとりと脂汗がにじんでいる。
  6858. 「どう、すばらしかったでしょう。明日のプレイの参考になった事と思うわ」
  6859.  嫌悪の戦慄と不思議な陶酔がミックスされた気分で、美津子は思わず両肢を閉じ合わそうと下半身にカが入ったが、大きく開かされて横木に縛り止められた肢は、ぴくとも動くものではなかった。
  6860.  悦子は何かに気づいたように笑いだし、義子の肩を叩いて、文夫のそれを示す。
  6861. 「まあ、いややわ。でも無理ないわ。感じゃすい年頃なんやから」
  6862.  文夫の顔は、見る見る充血していく。
  6863. 「美津子嬢だって、きっとそうよ。しきりに両肢をもじもじさせているじゃない」
  6864.  義子と悦子に笑われて、美津子は打ちひしがれたように首を垂れてしまう。
  6865. 「ねえ、こんな映画を見せられて、このまま二人別々のところで淋しくお寝んねするのかわいそうじゃない」
  6866. 「でもなあ、悦子、プレイは明日、お客さんの揃うた所でさせなあかんのや」
  6867. 「だからさ、今夜のところは、虫おさえに、あたい達と竹やん達とで、スペッシャル・サービスをしてやったらどう。静子夫人と桂子も、銀子姐さん達にして貰っているんだし♢♢」
  6868. 「それもそうやな」
  6869.  美津子と文夫は、お互いに首をがっくり垂れ合ったまま、すすりあげるように首を振っている。
  6870.  小躍りせんばかりに喜んだ竹田と堀川は美津子にとりかかろうとしたが、ちょっとお待ち、と義子が二人のチンピラをさえぎる。
  6871.  さかりがついてしまったような二人は、口をとがらせて、
  6872. 「なんでとめるんだよ。俺達と、このお嬢さんとは、浣腸までしてやった仲だぜ。そういうサービスなら、俺達がするのが当然じゃないか」
  6873.  まあ、わかってるがな、と義子は笑いながら、
  6874. 「まあ、そうガツガツいわなんでも、あんた達の気持はようわかってる。気がすむまで美津子のサービスは、させてあげるけど、その前にちょっと、美津子にして貰いたい事があるんよ」
  6875.  義子は、竹田の耳に口をあてて何かいう。ニヤリと口をゆがめた竹田、
  6876. 「なるはど、そいつは面白いや」
  6877. 「ね、わかったろう。じゃ、美津子の縄を解いてやっとくれ」
  6878.  竹田と堀川は、いそいそとして、美津子の全身にかけられている縄を、解き始めたのである。
  6879.  地獄の羞恥責めに、しかも今日は野犬のような竹田と堀川にかけられるのだと半分失心しかけていた美津子であるが、急に二人が自分の身にかけられている縄を解き出したので美津子は夢ではないかと思ったくらいだ。
  6880.  ようやく、全身の縄を解かれた美津子は、ふらふらと、その場に身をかがめ、縄目のあとが痛々しくついた陶器のように白い両手を前へ廻して二つの乳房を押さえ、ぴったりと腿を閉じ合わす。数々のむごい責めにあいながらも、そうした初々しい羞恥を忘れぬ美津子を竹田や堀川は、頼もしげに見つめているのだ。
  6881. 「ねえ、美津子嬢。貴女の縄を解いてあげたわけはね、あたい、文夫さんにサービスしてあげようと思ったけど、昨日から指の先が痛んで仕方がないのよ。ですから♢♢ふふふ」
  6882.  悦子は、身をかがめている美少女の顔を、のぞきこむようにして笑う。
  6883.  マリが続けていった。
  6884. 「今の映画を見て、文夫さんたら、そら、こんなになっちゃったでしょ。何とか解決してあげなきゃかわいそうよ。だからさ、貴女、竹田さん達にサービスしてもらう前に、恋人の悩みを、貴女のその美しい手で♢♢わかったでしょ」
  6885.  美津子は、ズベ公達のいう意味がやっとわかり、床に頭を押しつけるようにして、肩を震わせて泣きじゃくる。竹田や堀川が、自分の縄を解いたのは、こういう恐ろしい計画を充てたからなのだと知った美津子は、あまりの恐怖に全身をがくがく震わせて鳴咽しつづけるのだった。
  6886.  義子が目くばせすると、竹田と堀川は、ずかずかと身を伏せて激しく泣いている美津子の傍に近づき、その白い肩に手をかけて、ひっぺ返すように上半身を起こし、美津子のすべすべした両腕を、両側からかいこむようにして無理やり立ち上らせるのだった。
  6887.  美津子は、竹田と堀川の二人に、引きずられるようにして、文夫の前へ引き立てて行かれた。
  6888.  
  6889.  
  6890.  
  6891. 第二十六章 飼育される動物
  6892.  
  6893.  
  6894.     美しき敗北者
  6895.  
  6896.  全身に脂汗をにじませ、キリキリ歯を噛み鳴らして、狂気のようになって首を振り、傷ついた獣のようにうめきつづける静子夫人。
  6897.  深窓の令夫人の断末魔を見ようとして、夫人が人の字型に固定されている卓の周囲には悪徳弁護士の伊沢をはじめ、田代、森田、川田や鬼源達までがつめ寄り、酒に潤った眼を細めて、仔細に観察しつつ、盛んに揶揄しつづけるが、もう夫人の耳には、悪魔達の哄笑も冷笑も雑音のように聞こえるだけであった。
  6898.  身分も自尊心も、一切の人間的感情も剥奪され、生まれたままの光沢のある裸身を卓の上へ乗せている令夫人に残された最後の彼抗は、悪魔達の期待する敗北者のみじめな浅ましい姿を、晒け出さないという、ただそれだけであった。
  6899.  だが、悪魔達は、それを一層面白がり、嵩にかかって攻撃の手をゆるめない。命をかけたよう、必死にがんばったものの、生身の悲しさ、夫人の体内の血は音をたてて、逆巻き始め、もう意志の力では、どうしようもなくなってしまったのである。嘔吐とも悦びともつかぬものが、身体の内部から、吹き上げ出し、静子夫人は悲鳴に似た叫び声をあげて、艶やかなうなじを大きく見せて、のけぞるようにしたかと思うと、がっくり悶絶してしまった。
  6900. 「まあ、ホホホ」
  6901.  千代のけたたましい怪息のような笑い声。銀子の淫微な含み笑い。
  6902.  美い白い芙蓉の花びらが、ハラリと落ちた如く、静子夫人は、くずおれている。
  6903.  静子夫人が失心する事によって、ようやく鬼達の責めは中止される。
  6904. 「まあ、すごいわ」
  6905.  千代は、ハンカチで口元を押さえ、じっと見入っていたが、頓狂な声をはりあげて笑いこけた。
  6906.  激しい暴風雨に遭い、ついに決壊してしまった堤防を悪魔達は、乗り出すようにして眺め合い、手を叩いて笑い合うのだった。
  6907. 「おい、しっかりしろよ。みっともねえぜ」
  6908.  川田は、意識を失っている静子夫人の頬を指でつついた。
  6909. がっくり仰向いた静子夫人は眼を閉じたまま、小さく唇を開き呼吸している。彼女の美しい富士額には、べっとり脂汗が浮かんでいるのだ。
  6910.  稀代の好色漢というレッテルをはられている悪徳弁護士の伊沢も、この屋敷に巣くう人間達が人もあろうに、絶世の美女と評されている遠山財閥の令夫人、静子に対し、このようなみだらな責めを加えるとは夢想だにしていなかった。唖然とした顔つきになり、気を失ってしまった美女の顔と痙攣しつづける身体に眼を落としている。
  6911.  全身にべっとり脂汗を浮かべ、台上に固定されている美女二人。桂子の方は意識が回復し、顔を横へねじ曲げるようにして地獄の羞恥にすすりあげているが、静子夫人の方は、豊満な乳房を波打たせながら、意識はまだ回復しない。
  6912. 「これが名器というものですよ。御覧になって下さい」
  6913.  と、田代は千代に夫人の下腹部の方を指さして見せた。 左右に割られた夫人の乳色の光沢を持つ太腿はヒクヒクと微妙に痙攣し、悦楽の頂上を極めてその余韻を伝えている。その両腿の附根を覆う繊毛は剃毛されてまだ日も浅いためにほんのりとした淡さだけだったが、情感に酔い痴れた夫人の奥から噴き上げて来た熱い愛液で、その薄い茂みはしどろに濡れている。露わに等しい小高く盛り上ったその中心部には鬼源愛用のゴム製の張形が深々と突き立てられ、それがヒクヒクと断続的に揺れ動いているのも悦楽の余韻を伝える粘膜の収縮によるものかも知れない。鬼源は静子夫人の女陰の機能を千代に教示するため、両手の親指を使って割れ口を押し開げ、筒具を咥えこんだままの花肉の層を露わに開花させた。淡紅色の甘実な花肉はねっとりと潤み、幾重にも重なり合った花襞はまるで軟体動物が収縮するかのよつに、深く咥えこんだ筒具をしっかりと緊めつけている。
  6914.  鬼源が筒具をゆっくりと引き揚げようとすると、花襞は無意識のうちに貝類のような緊縛カを発揮して、逃がすものかとばかり責具をギューと強く緊めつけるのだ。
  6915. 「ね、貝が獲物に喰らいついたみたいでしょう。こういうのを名器というのですがね。何千人に一人いるか、いないかで、こういうおまんを知った男は骨抜きにされてしまいますよ」
  6916.  といって鬼源は笑った。
  6917.  へえ、と千代は信じられないような顔になってもう一度、静子夫人の女陰の内部に眼を近づけて見る。未だにその筋肉はヒクヒクと悦びの痙攣を伝え、ゆるやかな収縮を見せ、まるで別の生物をそこに見たような錯覚を千代は感じるのだ。
  6918.  気をやったりするとその収縮は一瞬、異常なものになるので、こんな時は筋肉の緩むのをしばらく待つ、と鬼源はいい、やがて、粘膜層の弛緩を感じとった鬼源はゆっくりと責筒を引き抜いていく。
  6919. 「まるで、貝みたいね」
  6920.  千代がそういって笑うと、鬼源は、そう、これなんか、正に貝柱ですね、といって熱く熟した花肉の上壁部より突起し、生々しいばかりの屹立を示す陰核を指裏でそっと押しながら千代に示すのだった。
  6921.  一つ大きく息づいた静子夫人はようやく意識を取り戻したのか、長い睫毛をそっと開いた。何か遠いものでも見つめるように夫人はキラキラと濡れ潤む黒い瞳をぼんやり天井の方に向けたが、
  6922. 「気がついたようですな。奥様」
  6923.  といって悪徳弁護士の伊沢がその縁なし眼鏡をかけたニヤニヤした顔をぬーと顔の上へのぞかせてくると、夫人は恐ろしい現実に引き戻されたようにおびえた表情になり、さっと赤らんだ頬を横に伏せた。
  6924. 「いや、恐れ入れました。今、鬼源さんの解説を聞いたのですが、正に奥様は名器の持主。僕はね、名器というものを話には聞いた事がありますが、こんなにはっきりと実物を眼にしたのは始めてですよ」
  6925.  伊沢はそういって夫人の火照った頬を指で軽く押してから、再び、夫人の下腹部へ廻って千代と一緒に夫人の女陰の横造について鬼源の解説を聞いている。
  6926. 「こういうキンチャクとか、タコという壷を持った女はいわゆる花電車という座敷芸を仕込むのに持ってこいなんですよ。バナナ切り、卵割り、なんて楽なもんですよ。客をとっても三段緊めみたいな事がやってのけられるから、まあ、その道の商売人にとっちゃ、大儲けが出来るってものです」
  6927.  鬼源は夫人のその部分をまさぐり、襞をかき分け、開口した腟口まで千代や伊沢の眼に晒させて得意になって講釈している。自分を破滅の道に追い込み、世間より抹消しようとしている伊沢と千代。その憎みても余りある男女の眼に女の羞恥の源泉を生々しく晒し、嬲り抜かれる口惜しさは名状の出来ぬ屈辱だが、身心ともに打ちひしがれてしまった夫人はもはや、人間的な思念を喪失させてしまっている。人間ではなく、自分が一つの物体と化しているように思われてくるのだった。
  6928. 「まさか、ここで奥様のクリトリスまでこんなに、はっきり見られるとはねえ」
  6929.  千代はまた、怪鳥のような笑い方をするのだ。そして、ぴったりと夫人の下半身へ身を寄せていくと、
  6930. 「それにしても、御立派ねえ。貝柱とはよくいったものだわ。昂奮すると、ここ、こんなに大きくのぞき出るものなの」
  6931.  といって、指先でその屹立した肉芽を軽く押すのだ。さすがに、そこに憎悪以外の何ものでもない千代の手が触れると心身共に打ちひしがれている夫人だったが、ぞっとする程の生理町嫌悪が身内に走ったのだろう。夫人の全身は電気に触れたように痙攣した。
  6932.  夫人がおどろに乱れた黒髪を揺さぶって号泣すると千代と伊沢は顔を見合わせて笑い合った。
  6933. 「千代夫人と伊沢先生に奥の院まで見て頂く事が出来て、この奥様は嬉し泣きなさっているんですよ」
  6934.  と、田代が突然、肩先を慄わせて泣き出した夫人をおかしそうに見ながら千代達にいった。
  6935. 「嬉しさのあまり、普通なら恥ずかしくて見せられない貝柱まで、こんなに突き上げているんだわ」
  6936.  と銀子がいうと千代は金歯を見せて笑いこけている。
  6937.  こうなったら、お核の皮までしっかりむいて千代夫人に見て頂きましょうよ、と銀子は朱美にいって静子夫人の熱く溶けた粘膜の層に指先を含ませていく。それはまるで料理人が魚の臓物でも扱うような手馴れた手管を感じさせるものがあった。
  6938. 「何だか、もう無茶苦茶みたいね」
  6939.  千代はハンカチで口を押さえて笑いながら、銀子達の手管を面白そうに見つめている。
  6940. 「ここは薄い皮包があって男の一物と同じよ。そら、こうして優しく皮をむいてあげると、ね、実がはっきり出てくるでしょう」
  6941.  銀子はそんな淫靡な作業にとりかかりながら、薄紙を慄わせるような声で泣きじゃくっている夫人に向かって、
  6942. 「いちいち、こんな事を辛く感じていちゃ、この世界じゃやっていけないわよ。羞ずかしさなんか超越して、来るなら来い、と開き直らなきゃ」
  6943.  と、説教するようにいった。
  6944.  その通りだ。静子夫人は、遂に言語に絶する。おぞましい責めを受けて、浅ましい姿をこれら卑劣な人間達の目前にさらけ出してしまったのである。もうそこには、口惜しさもなければ羞恥もない。そんな言葉で形容出来る生易し
  6945. いものではなかった。自分の身体の内部に巣くう女という実体を、これら悪魔達にひきずり出され、臓物に至るまで、はっきり目撃されてしまった今となっては♢♢。
  6946.  嬲りものにされるという事に、精神的な嫌悪はあっても、肉体的な苦痛は、一種の悦びに変化しつつあるという事を、夫人は、はっきりと知ったのである。やがて、こういう恐ろしい責めに対しても、精神的な嫌音感は次第に薄れていくのではないか。静子夫人は、もうこうした異次元の世界よりの脱出は不可能である事を知悉した今は、この世界に狂い咲いた花として、生き抜く事を決心し、今後更に、この屋敷の化物達が自分の肉体を如何に変化させていくかという事に、むしろ、妖しい期待を持ち始めたのである。
  6947.  静子夫人は、ズベ公達に如何に揶揄され、如何に笑われても、眼をうっとりと閉じ合わせ、小さく口で息づいているだけであった。
  6948.  千代もズベ公二人の間に混って、
  6949. 「すっかり拝見致しましたわ。ホホホ、本当に今日はいい勉強になったわ」
  6950.  静子夫人は、元女中だった千代に頬を両手ではさむように持たれ、顔をしげしげ見つめられるのだった。それで、完全に敗北した事を悟った夫人は、
  6951. 「ね、今、奥様、完全にゴールインしたのでしょう。御返事して頂戴な」
  6952.  と催促され、うっすらと眼を開き、妖艶なばかりの瞳をキラリと光らせたが、すぐにうっとりと眼を閉じ、かすかにうなずくのであった。
  6953.  それは、無事、出産を終えた美しい人妻のような幸福に浸っている表情でもあった。
  6954. 「じゃ、記念に写真を撮っておいたげるわ」
  6955.  銀子、朱美、千代の三人は、カメラを手にして夫人の足の方へ廻っていく。彼女達は、くすくす笑いながら、夫人にレンズを向け、シャッターを切り始めるのだった。
  6956.  今までの激しい抵抗が、まるで嘘のように静子夫人は、わめきもしなければ、あがきもしなかった。
  6957. 「色々な角度から、たんと写真をとってあげたわ。これが遠山静子夫人の写真だとわかりゃ、ものすごいプレミアがついて飛ぷように売れるわよ」
  6958.  朱美が銀子の肩を抱くようにして笑いこける。
  6959.  そうだわ、と銀子がホクホクした顔つきになって、夫人の耳元へやってくる。
  6960. 「ね、こうなりゃ、ついでじゃないの。お嬢様と一緒にお尻の穴まで千代夫人に見て預きましょうよ」
  6961.  次に鑑賞したい花は、菊の花、と銀子は唄うようにいい、川田や鬼源に自分のアイデアを説明する。
  6962. 「なるほど、そいつは愉快だ」
  6963.  早速、川田と鬼源は手分けし、梯子を持ってくると、天井の梁へ一本ずつの縄を通し、垂れ下がって来た縄の先端に各々一本ずつの青竹を横にしてつなぎ止める。
  6964. 「さあ、奥様もお嬢様も、いいわね」
  6965.  かっちり台に縛り止められている二人の美女、すぐまた、青竹の両端へ両肢をつながれる。
  6966.  身も心も完全に屈服してしまった夫人と桂子は、中身のない人形と化したように、やくざやズベ公達のするがままになっている。
  6967.  幾分かの後、静子夫人と桂子の足は、台上から直角に折り曲げられた恰好をとらされていた。何時か京子とその妹の美津子が、すさまじい浣腸責めをかけられたのと同じポーズを今、静子夫人と桂子は強制的にとらされたわけだ。
  6968.  手に手にウイスキーの入ったコップを持ち、野卑な男女は、みじめなというより一種グロテスクなポーズをとらされた二人の美女のまわりを取り囲み、揶揄しつづける。
  6969.  静子夫人の官能味のある脚線が大きく割れたまま南に向かって伸び、切なげにくねくねと揺れ、それに調子を合わせるように同じく宙吊りにされた桂子の伸びのある下肢が慄え泣くように揺れ動いているのだ。
  6970. 「ね、はっきり見えないわ。枕を尻の下に敷いてみてよ、川田さん」
  6971.  と、銀子が川田の方を見ていった。
  6972.  川田が持ちこんで来た二つの枕をそれぞれ受け取った銀子と朱美はすぐにそれを静子夫人と桂子の尻の下へ敷こうとする。
  6973. 「手伝いましょうか」
  6974.  と、伊沢と千代が好奇心にかられたように夫人の方へ近づいていく。
  6975.  桂子は田代と川田に二人がかりで腰部を持ち上げられていた。その下へ朱美が素早く枕を押しこんでいる。押しこまれた枕の上に桂子の尻がでんと乗っかると、
  6976. 「ひえっ、桂子のお尻の穴、丸見え」
  6977.  と、朱美は頓狂な声をはり上げて笑い出した。
  6978. 「それじゃ、こっちも」
  6979.  伊沢は笑いながら千代と一緒に静子夫人の宙に浮き上った肉ずきのいい太腿と豊かな双臀の下に手をかけ、よっこらしょ、と、持ち上げている。
  6980. 「随分と重たいわね。奥様のお尻は」
  6981.  千代は楽しそうにいって夫人の腰部を伊沢と一緒に持ち上げ、銀子が素早く枕を差し入れるのを待って、その上にでんと夫人の双臀を乗せ上げる。
  6982.  銀子はすぐに腰枕を当てられた静子夫人の裏面に廻ってのぞきこむようにした途端、朱美を真似たように、
  6983. 「わあ、奥様のお尻の穴だわ」
  6984.  と、甲高い声をはり上げて全員を笑わせた。
  6985.  銀子にとっては初めて眼にする静子夫人のベールを剥がれた生々しい羞恥の一つの個所であった。
  6986.  あちら、こちらへ全裸の静子夫人を引き立てる時、縄尻をとる銀子は歩む度にかすかに左右に揺れ動く夫人の量感のある悩ましい双臀に見惚れたものだ。何ていいヒップをしているのだろう、と、思わず足を止めて凝視した事もある。その官能味を盛って、むっと盛り上った双臀の深い割れ目は暗い翳りを帯びて、それにまた何ともいえぬ成熟した色っぽさを感じたものだ。
  6987.  その秒密っぽい割れ目の翳りも、今、仰向けに両肢を宙吊りにされ、双臀は腰枕の上で反り返り、そのベールをすっかり剥がされて内部の秘密を逃げも隠れもならず、露呈させてしまった静子夫人。
  6988.  銀子は一瞬、見てはならぬ禁断の花の実を眼にしてしまったように息を呑んだ。
  6989. 「まあ、奥様、そんなものまで私に見せて下さっていいのですか」
  6990.  千代はまた、ハンカチで口を押さえるようにして苦しそうに笑い出している。千代が笑う度に口をハンカチで覆うのは、その醜い出歯を隠すためだろうと銀子はおかしくなった。静子夫人と千代夫人の対比は誰が見ても観音様と鬼女ではないかと思った。
  6991. 「まさか、ここで奥様とお嬢様のお尻の穴まで見せられるとは思わなかったね」
  6992.  と、伊沢は吸い寄せられるように夫人の裏返しにされたような双臀の近くに寄り添っていき、テーブルの片端に腰を乗せた。そして、縁なし眼鏡を外して夫人のその双臀の内側に秘めた菊花の蕾に似た陰微な膨らみを好色そうな眼で凝視する。微妙な縦皺が薄く取り巻くような蠱惑の花の蕾に似た夫人のそれは、先程まで淡紅色の花層を奔放なばかりに収縮させて花汁を噴き上げた上層の割れ目とは逆にひっそりと息づいている。その二つの羞恥の部分を見くらべるようにして、伊沢は淫猥な笑いを片頬に浮かべているのだった。
  6993. 「こんな美人が、ここからはおしっこ、ここからはウンチを出すなんてとても信じられませんな」
  6994.  と、伊沢がいうと千代はプッと吹き出した。
  6995. 「伊沢先生、そんなにひどい事をおっしゃるものじゃありませんわ。そら、静子奥様がまたシクシク泣き出したじゃありませんか」
  6996.  千代は伊沢の腕をつねるようにして低く笑った。
  6997. 「私達は遠山家を乗っ取って大儲けしようっていう悪人なのですからね。その憎い悪人二人の眼に貝柱を立てて見せたり、お尻の穴まで晒け出して機嫌をとらねばならない奥様の口惜しさを想像してごらんなさいよ」
  6998.  と、千代はわざと静子夫人に聞こえるように声を大きくしていった。
  6999. 「ま、静子夫人と桂子の事は俺達に任せて下さればいいですよ。二度と外へ逃がすような真似は致しません。俺達が一生、ここで面倒見てやるつもりですから、安心して下さっていいですよ」
  7000.  と、田代は千代に向かって愛想笑いを見せながらいった。
  7001. 「お礼は充分にはずみますから、よろしくお願いしますよ、田代さん」
  7002. 「ええ、うちには、この鬼源という強い味方がついていますからね。この男に徹底して調教させて身も心も別の女に作り変えるつもりです。エロショーの大スターに仕上げるつもりですからね」
  7003.  な、そうだろ、鬼源、と田代が手招澄すると、腰を落として一息入れていた鬼源は喫っていた煙草を灰皿に落として田代と千代の傍に近づいた。
  7004. 「今、こうして晒している奥様のケツの穴は来週位から調教に入ります」
  7005.  と、だしぬけに自分の受け持つ仕事についての予定を語り出したので田代も面喰らった表情になった。
  7006. 「玉割りとか、三段締めとかいうのは前の方だろう。後ろなんて使いものになるのかね」
  7007. 「立派になるもんですよ。少なくとも男とつながって緊めまくるって事は可能です」
  7008.  女の腱と肛門ってのは薄い皮一枚でつながっているもので性感帯の一つであり、それで充分、男を楽しませる事も出来るし、女だって楽しむ事が出来るんです、と、鬼源は小鼻を動かせていった。
  7009. 「へえ、そんな事が出来るとは知らなかったわ」
  7010.  と。千代が呆れたような表情になっていうと、調教次第ですよ、と、鬼源はいばるようにいった。
  7011. 「桂子嬢の方は調教するのに骨が折れるかも知れないが、静子夫人の方は案外スムーズにいくと思いますよ、素質がありますから」
  7012.  といって鬼源は笑った。
  7013. 「一寸、私、静子夫人にお話していいかしら」
  7014.  と千代は田代にいった。
  7015.  どうぞ、何なりとも、と田代にいわれて千代はテーブルの上の静子夫人に声をかけた。
  7016. 「それじゃ、奥様、これからは遠山家と奥様とは何の関係もないのよ。それはわかって頂けるわね」
  7017.  と。千代はふと陰険な眼差しをテーブルの上の全裸の静子夫人に向けていった。
  7018.  後手に縛り上げられた素っ裸を卓の上に仰臥位に縛りつけられ、宙に向けて割った両肢を吊り上げられ、腰枕の上にでんと双臀を乗せ上げて女の羞恥の二つの源水を誇張的に晒け出している夫人の悲惨なばかりにみじめな姿。それを千代は改めてしげしげと見つめるのだ。
  7019. 「何という恥知らずの女におなりなの。見ていて情けなくなるわ」
  7020.  千代は今までとはがらりと調子を変えて皮肉っぽく笑った。
  7021.  恥知らずの女になった、といっても、これは静子夫人が好んでこうなったわけではないんで、と田代が苦笑していうと、
  7022. 「いいえ、事情はともかく、こういう恥知らずの女が出たという事は遠山家の恥ですわ」
  7023.  と、千代は何だか支離滅裂な事をいい出した。
  7024.  少し、頭がおかしくなっているのでは、と田代は感じ出している。しかし、今後、大事な金ヅルになる女だから、とにかく怒らせてはならない。
  7025.  千代は扇子を取り出し、枕の上に乗せ上げた静子夫人の量感のあるむっちりとした双臀をピシリと叩いた。
  7026. 「茂みまで剃られ、割れ口まで晒したこんな所、それにお尻の穴までむき出しにして、よく平気でいられるものだと感心するわ。これでも女でしょうか」
  7027.  千代は夫人のその上層の花弁と下層の菊座を交互に扇子の先端で小突きながらキンキン声でいった。静子夫人は千代の陰湿さと毒っぽさに耐え切れず、全身を慄わせながら遂に号泣した。
  7028.  川田は千代の異常な昂奮が気になり、
  7029. 「まあ、まあ、そうむきにならなくてもいいじゃないか。静子夫人はもう遠山家とは何の関係もないんだ。これからはお前の天下だよ」
  7030.  と、後ろから肩を叩くようにしていった。すると、また、千代の気分に変化が生じて来たらしい。
  7031. 「いえね。私は何もこの奥様に恨みがあるというのじゃないのよ。この奥様は私のかっての御主人様。私は女中としてお仕えしていたんです。随分と奥様には優しくして頂きわしたわ。でもね。あれ程、私が尊敬していた知性にも美貌にも恵まれた奥様が、こうして万座でお尻の穴まで晒すような哀れで、浅ましい女になられたのかと思うと♢♢」
  7032.  銀子は必死に笑いをこらえている。
  7033. 「ね、奥様。かつての女中の眼の前にそんな羞ずかしい所を晒け出してよく平気でいられるわね」
  7034.  静子夫人は胸が張り裂けそうになり、
  7035. 「ああ、川田さんっ」
  7036.  と、川田に救いを求めるのだった。
  7037. 「ねっ、何時まで私達にこんなみじめな恰好をさせるつもりなの。こ、こんな浅ましい姿は千代さんだけには見られたくないわ。ね、お願いっ、縄を解いてっ」
  7038.  ま、ま、奥様まで昂奮する事はねえだろう、と、川田は夫人に近づき、腰枕の上でのたうたせている夫人の双臀をなだめるようにピチャ、ピチャと掌で叩くのだった。
  7039. 「千代は時々、発作的に神経がおかしくなるんだ。御機嫌さえとっておけば、すぐに治るさ」
  7040.  と、川田は鳴咽する夫人の耳に口を寄せていった。
  7041. 「ちょつと。鬼源さん」
  7042.  千代は今度は鬼源を手招きした。ハンドバッグの中から千代はまた一万円札を抜き出した。
  7043. 「これ、少ないけど」
  7044. 「いえ、さっきも頂きましたし」
  7045. 「いいじゃないの。とっておきなさい。その代り、この遠山家に泥を塗った女は徹底してこらしめてやって頂戴。布切一枚、身体につけさせず、素っ裸の女奴線として一生こき使ってやるのよ。わかったわね」
  7046.  と、威猛高になっていった。
  7047.  銀子はそっと川田の腰を後ろから小突いていった。
  7048. 「私達の中ではあの千代さんが一番残忍かもしれないわね。少し、頭がどうかしてるんじゃないの」
  7049.  テーブルの上ですすり泣いていた静子夫人は、かすれた声音で、
  7050. 「千代さん」
  7051.  と声をかけた。
  7052.  千代はきっとした表情を静子夫人に向けた。
  7053. 「お、おっしゃるように静子はこんな恥知らずの女になってしまいましたわ。もう静子は日の当たる場所に出られる筈はありません。今では遠山家とは何の関係もございませんわ。皆様の前へ二度と静子が姿を現わす事はありません。安心して下さいまし」
  7054.  それを聞くと千代は、金歯をむき出して、顔をくずし、「さすがは、元遠山夫人だわ。よく、そこまで決心して下さったわね。私も及ばずながら、遠山老人に対し、貴女が尽して来た以上に尽し、幸せにしてさし上げますわ、だから決して、遠山家の事は心配しないで。というより、昔の事は一切忘れて頂戴。これからの貴女は、どのような芸当も出来る日本一、いえ世界一の秘密ショーのスターになるべく修業することだけよ。それと同時に、一日も早く美し
  7055. い妊婦になって下さる事。女ってものは妊娠しなきゃ一人前とはいえないそうよ」
  7056.  千代は、煙草を口にしながら、ペラペラしゃべりつづけた。
  7057. 「わかったわね、奥様」
  7058.  銀子が含み笑いしながら、近寄って来て、静子夫人にいう。
  7059. 「♢♢わ、わかりました」
  7060.  静子夫人は、眼を閉じて、唇を震わせるようにいった。
  7061.  銀子は続けていう。
  7062. 「じゃ、奥様、次に今夜のお相手になって下さる伊沢先生に対して何か言いたい事があったそうね。朱美のいうよう、うんと先生に甘えてごらんよ。ショーのスターとして、奥様はまだ色気が不足よ。先生には悪いけど少し稽古台になってもらって、さあ、お色気の練習といきましょう」
  7063.  静子夫人は、銀子と朱美に教えられた科白を使って、のっぺりした顔を、ぬーと近づけて来た伊沢に対し、話しかけねばならなくなったのだ。
  7064. 「♢♢ねえ、先生」
  7065.  静子夫人は、気を持ち直したように、ごくりと唾を呑みこみ、妖艶なまなざしを伊沢に向けるのだった。
  7066.  伊沢も、静子夫人のその乳白色のきらめくような肌全体から巻きあがるばかりの色香を感じて、ごくりと唾を呑みこみ、圧倒された気分になる。かつての慈善パーティでふと見かけた艶麗な静子夫人が、長い間、脳裏から去らず、一度でもいいから、あの女をと、悶々としたものであったが、その夢にまで見た美女の眼もくらむばかりの落花無残の姿を、次々と見せられた上、なおも今夜は共に朝まで過ごせるのだと思うと、果たしてこれはこの世の出来事かとばかり、しきりに自分の頬をつつく伊沢であった。
  7067. 「♢♢静子♢♢何もかも、あからさまに先生の眼に晒してしまったので、何だか、お床に入るのが、恥ずかしいわ。こんな静子ですけど、可愛がって下さいます?」
  7068.  静子夫人が話しかけた言葉に、伊沢は、これが色事師という名をつけられた男とは思えぬほどうろたえ出す。
  7069. 「一度、あんな風になったからって、静子、今が女盛り、熟れ切った身体ですもの、先生が直接責めて下さるなら、二度でも、三度でも♢♢」
  7070.  伊沢はたまらなくなったように、吊り上げられている夫人に接吻の雨を降らす。
  7071. 「ああ♢♢先生」
  7072.  静子夫人は、白い歯を見せて、うめく。
  7073.  銀子は、そっと、伊沢の傍へ寄って来て、女に耳打ちするようにいう。
  7074. 「何なら先生、浣腸してやったら」
  7075.  それをふと耳にした千代は、頓狂な声をあげた。
  7076. 「まあ、浣腸ですって?」
  7077.  すっかり機嫌がよくなった千代は、大笑いするのだった。
  7078. 「至れり居せりの大サービスってわけよ」
  7079.  朱美もゲラゲラ笑ったが、
  7080. 「でもね♢♢」
  7081.  千代は、川田に注がれたウイスキーをちびりちびり飲みながら、
  7082. 「これから先生のお相手をなさろうという奥様に、そんな事をするのはどうかと思うわ。こんないい匂いをなさっている奥様を臭くするなんて、先生に失礼じゃない」
  7083. 「それもそうね。じゃ、お部屋の中での事がすんでから、先生の手でしてあげて頂きましょうよ」
  7084.  銀子は一人でうなずきながら、台の上で仰臥している静子夫人にいう。
  7085. 「じゃ、奥様。大分、時間も喰ったから、先を急ぎましょうね。これから、たっぷり一時間、親娘ショーを、先生と千代夫人のお眼にかける。それがすめば、二階の寝室へ先生のお供をする。浣腸は明日の朝、桂子嬢も一緒に、先生と千代夫人の手で行って頂く。わかった、こういう予定でお願いするわ」
  7086.  静子夫人は、身じろぎもせず、静かに眼を閉じ合わせているだけだった。
  7087. 「じゃ、先生、明朝、十時頃、浣腸器と便器を、お部屋へお持ちしますわ」
  7088.  朱美が夫人の美しい、そしてすさまじい肢体を喰い入るように見つめている伊沢に対してそういった。
  7089.  悪魔達は、なおも写真を撮りまくり、酒を汲みかわして笑い合っていたが、頃を見計らって、川田と鬼源は室の中央に敷かれている布団の上の天井梁へ、ロープを二本つなぎ止める。
  7090.  二本のロープは蛇がからみ合うように垂れ下がったが、その一本一本に夫人と桂子をつなぎ止めるべく仕事を開始したのである。
  7091. 「立技三十分、寝技三十分というわけよ」
  7092.  銀子と朱美は、あられもない姿態となって卓上に仰臥している夫人と桂子の縄を解きながら、おかしくてたまらぬように顔を見合わせて笑いつづける。
  7093.  両手両足の縄を解かれ、卓上から下へようやく降ろされた静子夫人と桂子は、もう立ち上る気力もないように、床の上へ、へなへなとくずれ落ち、互いに身を寄せ合い、抱き合うようにして小さくなっている。
  7094. 「それだけ休めば充分だ。さ、土俵の上へ行くんだよ」
  7095.  川田に背をつかれ、若い母親と娘は、互いにかばい合うようにして立ち上る。それは、古いローマの美しい彫刻の裸女のようで、見ている野卑な男女も溜息をついて眺め入るのだった。
  7096.  
  7097.  
  7098.     プレイ開始
  7099.  
  7100.  追いあげられた二人の美女は、川田の命令で気をつけの姿勢をとらされる。
  7101.  夫人も桂子も、小きざみに身体を震わせつつ、消え入るような姿態で、並んで立つのだった。
  7102. 「そんな気をつけがあるかよ」
  7103.  川田は舌打ちして、
  7104. 「両手を頭の後ろで組み、足を開くんだ」
  7105.  川田や鬼源は、布団の上に、もじもじしながら立っている二人の美女に色々なポーズを面白がってとらせるのだ。
  7106. 「銅像の西郷隆盛、桂子は犬の役目よ」
  7107.  銀子がいうと、朱美が演出者気どりで、美女二人に、そういうポーズをつける。
  7108. 「広瀬中佐に杉野兵曹長!」
  7109.  千代も、キャッキャッ笑いながら声をあげる。
  7110.  次に川田がいった。
  7111. 「こんなのはどうでい。小便小僧だ」
  7112.  どっと爆笑が起こった。
  7113.  朱美も吹き出しながら、
  7114. 「そう、それも銅像に違いないわね」
  7115.  そして、夫人と桂子を並ばせて、
  7116. 「あんた達も見た事あるでしょう。さ、足を開いて、お手々は後ろに組むのよ」
  7117.  朱美の指導で、そんなポーズを二人がとった時、再び、どっと野卑な男女の哄笑が巻き起こった。
  7118.  千代は、舌なめずりをしながら、カメラを横えて盛んに撮りまくっている。
  7119.  これで、いよいよ静子夫人も桂子も本物のスターとして完成されてきたのだと田代と森田は顔を見合わせ、口元を歪めるのだった。
  7120.  やがて、川田と鬼源は、それぞれ麻縄を手にして朱美に代って布団に上る。
  7121.  森田が川田にいった。
  7122. 「何も縛り上げなくたって、ここまで素直になって来た奥様とお嬢さんだ。手数をかけず演じて下さると思うぜ」
  7123. 「しかし、親分」
  7124.  鬼源が首を振っていった。
  7125. 「まだ、そいつは無理でさあ。やっぱり、これだけは、当分、こういう方法で仕込みあげていかねえと駄目です。うまくごまかしやがるもんですよ」
  7126.  成程、鬼源さんの言う事だから間違いねえだろう、と森田も納得して何度もうなずく。
  7127. 「さあ、別嬪さん」
  7128.  鬼源は、立ったまま、互いの肩に顔をうずめ合うようにして鳴咽している美女のスベスベした白い背をつく。
  7129. 「本縄をかけるからな、しっかり胸をはって両腕を背中へ廻すんだ」
  7130.  静子夫人と桂子は、すすりあげながら、観念の眼を閉じ、抱き合っていた腕を解き、静かに、後ろへ廻していくのだ。
  7131. 「縛りやすいように、ちゃんと背中で手首を組み合わすんだ」
  7132.  鬼源はライオンでも調教するかのように、大声をあげる。
  7133.  静子夫人も桂子も、自分はもう人間ではないのだと心にいい聞かせた如く、正面を向き胸をはり、両手を背中へ廻すと、手首を重ね合わせるのだった。
  7134. 「ほんとに、素直になってきたわね。教育のしがいがあったというものよ。あたいも肩の荷が降りたような気持よ」
  7135.  銀子は、川田に手伝って、静子夫人に、ひしひしと縄がけをしながらいう。
  7136.  静子夫人の雪を溶かしたような、色香あふれる首筋には、どす黒い麻縄が、一巻き二巻きし、縄は更にたぐられて、キリキリとしめあげていく。
  7137. 「全くいいおっぱいをしてるわ。この半分でもいいから欲しい位。何だか口惜しいわ」
  7138.  銀子は、枠をはめると、妬ましげに川田と一緒にあまった縄尻をたぐりながら、形のいい臍を中心に菱形に縛りあげていく。更にあまった縄尻を、二本にしつらえ、その一本一本は、尻の方から通されて、逆三角に二巻きばかり、固く巻きつけていくのだ。
  7139.  桂子の方も、鬼源と朱美の手で、夫人と全く同じ形に縄がけされていた。
  7140. 「さあ、これでよし」
  7141.  川田と鬼源は、仕事の点検をするように、本線をかけられた二人の美女の周囲をでるぐる贈る。
  7142. 「いいおっぱいをしてるぜ。二人とも」
  7143.  川田は、ビールをラッパ飲みしながら、夫人と桂子を平手で叩くのだった。
  7144.  銀子と朱美は、じっとしていられなくなったのか、再び、近寄って来て、がっくり首を垂れている美しい顔をこじ上げ、
  7145. 「さ、奥さん、今度こそ、本当に面倒を起こさないでよ。じゃ、もう一度、千代夫人と先生に心からお願いしてごらん」
  7146.  そして、銀子と朱美は、一流のスターらしく、うんと色っぽくおねだりして、今夜のお客様である伊沢先生を、カッカさせてくれなきゃ駄目よ、などと、その方法を色々指導し始めるのだった。
  7147.  鬼女達が面白がって、耳元でしゃべりつづける、おぞましい言葉を静子夫人は、魂を失った人間のように聞いていたが、
  7148. 「♢♢銀子さん、静子、♢♢千代夫人や先生のおもちゃに喜んでなりますわ。でも、一つだけ、お願いがあるの。静子、一生のお願いです♢♢」
  7149.  美しい黒眼に一杯浮かべた涙が、キラキラ光っている。静子夫人は、もうほんとに、これが最後の哀願ですとばかり、必死な眼を銀子と朱美、更に川田や鬼源にまで向けるのだった。
  7150. 「一体、何なのよ」
  7151.  銀子は、ウイスキーを飲みながら、
  7152. 「まさか、今夜、伊沢先生のお相手するのが嫌だというんじゃないだろうね」
  7153.  蛇のように陰険な眼を夫人に向けて、銀子はいう。
  7154.  夫人の縄尻と桂子の縄尻を合わせて、天井から垂れ下がつているロープにつなぎながら川田も、
  7155. 「先生と寝るのが嫌だなんていったら、奥さん、銀子や朱美が只じゃおかないぜ」
  7156. 「ち、ちがいます。そうじゃありません。静子は、よ、喜んで先生のお部屋へ参ります。でも♢♢」
  7157.  静子は、ハラハラ涙を頬へ流しつつ周囲につめ寄っている悪鬼達にいうのだった。
  7158. 「じゃ、一体、何だよ」
  7159. 「お、お願いです。今夜限り、桂子と私とを一緒にして、嬲るような事は、なさらないで。それに、伊沢先生のお部屋へ、私と一緒に桂子も入れるというような恐ろしい事は、なさらないで下さい」
  7160.  静子はたまらなくなったように激しく鳴咽しながら、ひきつったような声を出していうのだった。
  7161. 「娘を思う親心ってやつだね」
  7162.  川田は、鼻で笑うようにいうのだった。
  7163.  静子夫人の必死の哀願を黙って聞いていた千代が、のっそり近づいて来ていう。
  7164. 「わかったわ、奥様。奥様がお嬢様の身を思われる気持を知って、私、感動しましたの。じゃ、そのお願い事、たしかに聞いてあげますわ」
  7165. 「♢♢ああ、千代、千代奥様」
  7166.  静子夫人は、千代の顔に、美しい、うるんだ黒眼を向ける。
  7167. 「私は、最初はお嬢様の方も、奥様同様、たとえ、人工授精という手段を用いても妊娠させ、奥様とコンビにして、出演させようと思っていましたの」
  7168.  千代は、恐ろしい最初の計画を話し出すのであった。
  7169. 「でも、考えてみりゃ、それは、あまりに残酷だし、私だって、それはど悪どい方法を好む女でもありませんわ。奥様が私に約束して下さるなら、私、社長にお願いして、桂子嬢は、明日から始まるショーに出演させることもせず、ただ地下牢に監禁しておくだけに致しますわ」
  7170.  それを聞くと、静子夫人は、
  7171. 「お願いです。桂、桂子だけは♢♢」
  7172.  後は青葉にならず、声をあげて泣く夫人であったが、千代は、意地悪そうに口元を歪めて、
  7173. 「その代り、私との約束を守って下さらなきゃ、いけませんわ。それはね、簡単なことですの。いいですか、これから始まる親娘ショーは大熱演して、私を充分、楽しませて下さること。それから、今夜、伊沢先生をたっぷり楽しませる事、そして最後に、何度もいうようだけど、半年以内に妊娠すること。もし、半年後、私がここへ来て、奥様が約束を守っていて下さらなかったら、私は知合いの婦人科医を連れて参ります。確実な人工授精を致しますわ。勿論、約束を守らなかった罰として、お嬢様の方も、お受けになるわけよ」
  7174.  千代は、そこまでいうと、例の怪鳥のような声をはりあげて笑い出すのであった。
  7175. 「いいわね、奥様」
  7176.  銀子と朱美が夫人の両側に立ち、ぴしゃりと尻を叩いて念を押す。
  7177.  半年以内に妊娠しなければ、桂子も共に人工授精を受ける。何という恐ろしい悪魔の計画であろう。静子夫人は、身も心も完全に屈服した状態におかれていたが、千代のそういう言葉に全身、鳥肌立つ思いになった。
  7178. 「じゃ、三つの約末のうちの一つ、すばらしい親娘ショーを、お願いしましょうか」
  7179.  千代は、桐の箱をとって、夫人に近づいていく。
  7180. 「今、教えてあげたように、ショーのスターらしく、お客様にサービスしなきゃだめよ」
  7181.  今度は朱美が、ピチャリと夫人の尻を叩くのだった。
  7182. 「さ、千代夫人と先生におねだりするのよ」
  7183.  銀子に肩をつつかれ、静子夫人は、涙がキラキラ光を美しい黒眼を開き、足下で桐の箱を開き、それをキャッキャッ笑いながら、手に持ち合っている伊沢と千代を見る。
  7184. 「♢♢さ、先程は、お手数をおかけ致しまして、申し訳けございません。どうぞ、取りつけて下さいまし、静子、喜んで、お受け致しますわ」
  7185.  それを聞いて、千代と伊沢は坐り直し、
  7186. 「ホホホ、じゃ、今度は、ほんとに、おとなしくして下さいましね」
  7187.  千代は伊沢と一緒に仕事にかかり始めた。
  7188.  川田、鬼源、それに銀子達の眼が、一斉に千代の動作に注がれる。
  7189.  静子夫人は、先程までの狂乱した姿とは、うってかわり、その熟れ切った光沢のある肉体は、風の凪いだ海のように静かになり、うっとりと眼を閉じ合わせ、千代と伊沢の作業を甘受しているのだった。
  7190.  やがて♢♢静子夫人は、美しい眉を八の字に寄せ、いーと白い歯を見せて、大きく首をのけぞらせた。
  7191. 「うまくいったわ、やれやれ」
  7192.  千代と伊沢は、額の汗をふきながら、立ち上る。
  7193. 「どう、御気分は?」
  7194.  千代に頬をつつかれた令夫人は、苦痛というよりも、むしろ、悦びに顔を歪めているように、見物する卑劣な男女の眼に映じたのである。
  7195. 「まあ、奥様、よくお似合いですこと」
  7196.  千代は、自分の仕上げた仕事をしみじみ観察し、たまらなくなったように、伊沢の肩にもたれかかって笑いこける。
  7197. 「傑作だわ。ね、銀子さん、この奥様の姿、カメラに撮っておいて頂戴よ」
  7198. 「あいよ」
  7199.  と銀子はカメラを手にし、そうなった静子夫人にレンズを向け、幾枚も撮りつづける。
  7200. 「駄目よ、眼を閉じちゃ。大きく眼を開いてニッコリ笑って♢♢」
  7201.  朱美に尻を叩かれ、乳首をはじかれ、静子夫人は、カメラに美しい瞳を注ぐ。
  7202. 「さ、桂子もよ」
  7203.  言語に絶する悪鬼達の責めを受けつづける夫人の横に、これも同じく、立ち縛りにされている桂子は、先程から恐ろしきのため、声もあげ得ず、夫人の背に顔を押し当てるようにして泣きつづけていたが、朱美は、桂子の頭髪をひきつかむようにして、ぐいとカメラの眼に向けるのだった。
  7204. 「さ、二人とも、ニッコリ笑うのよ」
  7205.  銀子がいい、二人の美女の背後に廻って、その両方の肩に手をかけるようにして、カメラの前に、しっかりと並んで立たせるのであった。
  7206.  静子夫人も、桂子も、もう完全に骨抜きにされた女のように、やがて、その美しい顔をカメラに向け、朱美に強制されるまま、白い歯を見せ、何とか笑顔を作ろうとして、努力し始める。
  7207. 「これ以上の、幸せはないという風に、にっこり笑ってごらん。奥様の百万ドルのえくぼをカメラにおさめたいのですわ」
  7208.  千代は、そういって、カメラを持ち直したが、たまらなくなったように吹き出して、
  7209. 「でも、まあ、奥様、ほんとに傑作ね、そのスタイル♢♢」
  7210.  千代や銀子、朱美に強制されて、静子夫人は、無理にえくぼをつくり、白い歯を見せてひきつったような笑顔を作るのだった。
  7211. 「さて、写真も充分、撮らせて貰ったし、じゃ銀子さん。ホホホ、そろそろ次のショーを、お願いしましょうか」
  7212.  千代は、カメラをケースにしまいながらいう。銀子は、うなずいて、異様に光る眼を二人の美女に向けるのだった。
  7213. 「さ、奥様とお嬢さん、千代夫人がお待ちかねよ。そろそろ始めて預くわ。お互いに向かい合って下さいナ」
  7214.   鬼源が、近づいて、
  7215. 「さあ、向かい合うんだ」
  7216.  とドスのきいた声をはりあげる。
  7217.  静子夫人と桂子は、鬼源に強要されて、互いに向かい合い、涙にうるんだ美しい黒眼を向け合うのだった。
  7218. 「まず、熱い熱い接吻からね。ふふふ」
  7219.  銀子は、朱美に注がれたウイスキーを一息に飲み、静子夫人の盛り上った尻を一発ずつ平手打ちするのだった。
  7220.  静子夫人も桂子も、もう飼育された白い動物と同じである。二人の美女は、互いに向かい合い、気弱な眼差しを向け合っていたが、
  7221. 「桂子さん、♢♢許して」
  7222.  二十六歳と二十一歳のまるで姉妹のような若く美しい母親と娘は、元遠山家の女中、千代の好奇に光る眼の前で、魂も凍るばかりの恐ろしい演技を示さねばならなくなったのだ。接吻し合わねばならぬ、という身の毛もよだつ屈辱だけではない。その次に、悪魔達は、どういう行為をとらせるつもりであるのか、夫人も桂子もわかっている。あのように身も心もバラバラにされるような、おぞましい責めを互いに受け、森田組の永遠の奴隷になる事を誓わされた二人であるとはいえ、胸のはりさけるばかりの屈辱に、全身をぶるぶる震わせるのであった。
  7223. 「なにを、ぐずぐずしてるんだよ。あんた達は、ショーのスターなんだよ。母親と娘の関係にあるかも知れないが、こっちは知ったことじゃない。照れたりせずしっかりおやり」
  7224.  銀子と朱美は、互いに青竹を手にして、夫人と桂子の尻を突いたり、叩いたりするのだった。
  7225. 「♢♢け、桂子さん」
  7226. 「ああ、ママ♢♢」
  7227.  静子夫人も桂子も互いに決意し合ったよう固く眼を閉ざし、そっと唇を近づけていく。唇と唇を静かにあてて、そっと、触れ合っている二人の美女に、再び、銀子や朱美の叱咤が飛ぶ。
  7228. 「レスビアンてものは、そんな生ぬるいもんじゃないだろう。お互いに舌を吸い合って、もっと熱烈にやらなきゃ、駄目じゃないの」
  7229.  後ろから、青竹で尻を突かれる大人と桂子は、遂に、唇を開き、舌を使って、銀子のいう熱烈な接吻を始めるのだった。吸って吸わせて、涎まで流し合い、本格的な接吻を演じるところまで、二人の美女を追い上げた銀子と朱美は、どんなものです、といわんばかりに千代の顔を見る。千代は、くすくす笑いながら、
  7230. 「こうして見ていると、山本富士子、若尾文子共演の『卍』といったところね」
  7231.  といい、銀子に向かって、次はどういう風にするの、と聞く。
  7232.  銀子はうなずき、屈辱の接吻をつブける美女の顔をニヤニヤして眺め、
  7233. 「じゃ、次をお願いするわ。ふふふ、いわなくても、わかっているでしょ」
  7234.  銀子は、夫人と桂子に最後のものを要求するのだった。
  7235. 「ホホホ、今更、照れることはないじゃないの。そうね。二人とも両手が使えないのだから、専門家に手伝ってもらったげるわ」
  7236.  朱美はそういって、鬼源と川田に眼くばせをする。
  7237. 「へへへ、三人とも、全く、いいケツをしているぜ」
  7238.  川田と鬼源が、大人と桂子を眺めつつ身を沈ませる。
  7239.  途端に、静子夫人も桂子も、唇を離し、激しく首を振るのだった。
  7240. 「待、待って、川田さん!」
  7241.  静子夫人は、がくがくと体を震わせつつ、泣き出す一歩手前のような哀願的な眼つきで川田を見おろす。
  7242. 「♢♢や、約束して。今夜で、今夜かぎりで、桂子と私とを、こんな目に合わさないって♢♢」
  7243.  ハハハ、と大声で笑ったのは銀子である。
  7244. 「だから、それは、奥様の心がけ一つだといってるでしょう。すばらしいプレイを演じて千代夫人を充分満足させてくれたらの話よ。ごまかしたプレイをしちゃ駄目よ。桂子を完全に♢♢ふふふ、そうしてくれなきゃ、今夜は桂子も、先生の寝室に入らねばならなくなるわよ」
  7245.  銀子は、坐って、グラスを口に当てている千代の方を見ながら楽しそうにいう。
  7246.  ああ♢♢と静子夫人は打ちのめされたように、首を垂れる。
  7247.  悪魔達の眼に一切を晒け出し、完全に屈服した肌身とはいえ、実の親娘ではないにせよ、こうした畜生にも似た浅ましい行為を演じさせられるという事に痛烈な屈辱感がこみ上ってきた静子夫人ではあるが、鬼女達は更にそれに追い打ちをかけるよう、もし、静子夫人が桂子を、そこまで到達させ得なかった時は、伊沢の相手を夫人と共にさせるだけではなく、妊娠させるための手術を受けさせるとおどすのである。
  7248. 「あ、あんまりです。そんなこと、そんなこと、私♢♢ああ」
  7249.  静子夫人は、泣きじゃくる。
  7250. 「やってやれない事はないさ。桂子を助ける方法は、それしかないのよ。一生懸命、がんばってみることね」
  7251.  銀子は高笑いして、次に、桂子にいう。
  7252. 「いいわね、桂子嬢。これからママがその気になって貴女を責めるそうだから、ママの努力を無駄にさしちゃいけないわ。貴女もその気になって、ふふふ、わかってるわね」
  7253.  さ、川田さん、と銀子が催促する。
  7254. 「うっ、あっ、嫌、嫌っ」
  7255.  静子夫人と桂子は、激しく歯ぎしりし、脂汗のべっとりにじんだ額と額を押しつけるようにしていたが、やがて、頬と頬をぴったり合わせるようにして、むせび泣く。静子夫人の頬を流れる涙は、桂子の頬を伝わって流れ、桂子の涙は静子夫人の頬にうつって、滴り流れるのだ。
  7256.  かなりの時間がかかったが、ようやく川田と鬼源は仕事を終え、ほっとしたように立ち上る。
  7257.  二人の美女は、張り合わされたように、ぴったり、体をつけ合い、そのすべすべした白磁の背中の中程に、たくしあげられている両手首が、憤辱のためか、ぶるぶる震えているのだった。
  7258.  千代は、身をのり出し、のぞき見するように眺めて、狂ったように笑い出す。
  7259.  長年、仕えていた遠山財閥の令夫人と令嬢が、畜生にも似た浅ましい姿を、眼の前に晒しているのだ。
  7260. 「ホホホ、私の主人の遠山が、これを見たら何というでしょうね」
  7261.  卑劣な男女の一団は、そんなポーズを上らされている美女の周囲を取り囲むようにして、一層、賑々しく、酒を飲み始める。
  7262.  川田は、静子夫人の尻と、桂子の尻を交互にピチャピチャ叩きながら、
  7263. 「ここまでお膳立てをしてやったんだ。あとは奥さんの腕次第というところだぜ」
  7264.  どっと、哄笑が巻き起こる。
  7265. 「さあ、ぐずぐずしてちゃ駄目、始めて、始めて♢♢。うんとお尻を振り合うのよ」
  7266.  朱美がそういって、笑いこける。それに調子を合わせるようにして、千代が、ふらふらと立ち上り、全身を火柱のように熱くして、桂子と頬を合わせている静子夫人にいうのだった。
  7267. 「ね、奥様。先程から伊沢先生、早く寝室へ入りたくて、うずうずなさってますの、あまり時間がかかると先生に失礼ですわ。ですから、ショーの時間は三十分と致します。その時間内で、お嬢様を♢♢ホホホ、もし、時間内に果たすことが出来なければ、お気の毒だけど、お嬢様にも、先生のお相手をつとめて頂く事になりますわ。まあ、そう言っているうち五分すぎましたわ。あと、二十五分、ホホホ奥様、お急ぎになった方が、よろしくはございませんこと」
  7268.  どっと、一座がわき立った。
  7269.  静子夫人が取り囲む卑劣漢の冷笑、哄笑を全身に浴びながら始めたのである。それにつられて、桂子も双臀をうねらせあう。
  7270.  再び、どっと爆笑がわく。
  7271. 「場末の三流ストリッパーだって、もっと、上手に振るぜ。あと二十分だよっ」
  7272.  川田が、げらげら笑いながらいった。
  7273.  やがて、悪魔の一団は、伴奏してやるぜ、と手を叩き出し、お座敷小唄を唄い出す。金切声をはりあげて唄っているのは千代である。ざまを見ろ、という気分で、美女のダンスを眺めているのだ。貧民窟で育った千代は、上流階級にある人間に対しては、常にひがんだ見方をするのが習慣になっていたが、美人に対しても、同じようなひがみを持っていた。同じ女でありながら、どうしてこう差別されなきゃならないのか。あるえらい人は、人は、生まれながらにして平等である、などといったが、それはとんでもない間違いだと思うのである。容貌や肉体が平等でない限り、ほんとうの平等なんてありはしない。遠山家に女中奉公することになり、絶世の美女だと評判される静子夫人の世話をしながら、夫人の美しさを、妬みつづけて来た千代である。
  7274.  眼の前で、言語に絶するプレイを演じつづける静子夫人と桂子の二人を、千代は、薄笑いを浮かべて、銀子達と一緒にからかいつづける。静子夫人は、遠山の娘、桂子の成熟した肉体を、また桂子は、父の後妻、静子の脂の乗りきった女盛りにある肉体を、如何に二人は感じ合い、如何に、苦しい切ない気持で、強制されたプレイを演じ合っているか、想像するだに、わくわくする千代であった。肉体的苦痛より精神的苦痛の方が、夫人と桂子にとって、たまらないものであるはずだ。桂子が、そういう状態になるまで、静子夫人に責めさせる、という銀子の念の入った残忍さ。そういう銀子の異常神経は、千代にとってはむしろ頼もしく、この、いわば、母親と娘という立場におかれている二人の美女を肉体的極致に陶酔させ、親娘という関係を同性愛的に追いこんでやるんだと千代の体内に銀子に負けず劣らずの残忍な血が逆流し始めたのである。となると、静子夫人と桂子に、はっきりした共通の秘密を持たせるべきだと思われる。やはり、この若い母と娘は今夜、伊沢の相手をさせるべきだ。そう自分にいって、自分でうなずいた千代は、素知らぬ顔をして腕時計を見ていう。
  7275. 「奥様、あと、十分よ、大丈夫なの」
  7276.  千代の腹の中は知るよしもなく、静子夫人は桂子と共に、伊沢の嬲りものになるよりは、と、もう何もかもかなぐり捨てた心境でそこに命をかけたように必死になり始めた。
  7277. 「そうそう、その調子」
  7278.  美女の尻ふりダンスを酒の肴にしている悪魔達は、どっとわき立ったが、もうそんな声は夫人の耳に入らない。
  7279. 「♢♢嫌、嫌よ、待って、ママ」
  7280.  荒々しくなった静子夫人のテンポに合わせきれず、桂子は、激しく首を振り、泣きじゃくる。
  7281. 「お願い、け、桂子さん、お願いよ。ね、お願いだからいくのよ。いかなきゃ駄目」
  7282.  静子夫人も激しく泣きじゃくる。
  7283. 「あと五分よ」
  7284.  銀子と朱美が、キャッキャッ笑いながら、携帯ラジオのダイヤルを廻し、
  7285. 「このリズムに合わせてごらん」
  7286.  ラジオは、ダンスをする美女の足元へ置かれる。
  7287.  ジャズの、急調子な旋律が流れ始める。悪魔達は、酒を飲む手を止め、声を殺してギラギラする濁った眼を、ショーに向けるのだった。
  7288.  体中、汗みどろになって、演じつづける白い女体。静子夫人も桂子も、一瞬、催眠術にかかったように、その急テンポなリズムに合わせて動き始めたのである。見守る男女の間から、どっと爆笑が渦巻き上る。
  7289. 「ホホホ、奥様、大熱演ね。でも、もう間もなく、お時間よ」
  7290.  千代はふらふら近づいて行き、再び、たくましいばかりに盛り上った静子夫人の尻を平手打ちするのだった。
  7291.  その途端、がくりと桂子は、夫人の肩に顔を落としてしまう。
  7292. 「桂子さん、ゆ、ゆるして、許して」
  7293.  静子夫人は、激しく泣きながら、失心したように動かなくなった桂子につぶやくのだった。
  7294.  
  7295.  
  7296.     白い指
  7297.  
  7298. 「どうしたのよ、美津子。まだ世話をやかせる気なの」
  7299.   文夫の足元に俯伏して、泣きじゃくっている美津子の背やお尻をつついて、義子と悦子は、催促する。
  7300. 「貴女の恋人やないの、今更、恥ずかしがるなんて、けったいやわ」
  7301.  義子と悦子は、業を煮やして、床に泣き伏している美津子の肩に手をかけるようにして引き起こしにかかる。
  7302. 「あっ、嫌、嫌です!」
  7303.  義子が美津子の白い手をつかんで、触れさせるべく持っていこうとすると、美津子は狂乱したように首を振り、尻をひいて、逃げようとするのだ。
  7304. 「馬鹿ね、こういう風にすればいいのよ」
  7305.  悦子は、まるで蛇使いが蛇の鎌首でも持ち上げるような平気さで、文夫をつかむと揺り動かして見せる。
  7306.  美津子は、恐怖に顔を歪めて尻ごみをするだけだった。
  7307. 「しゃあないわ。恋人に、それ位のサービスがしてあげられへんのなら、こんなもの、あったってしょもないわ。ね、悦子、チョン切ってしまお」
  7308.  義子が笑いながらいう。
  7309. 「そうね、そうしなければならないっていうのも、美津子嬢の愛情が足りないからよ。文夫さん、恨むなら美津子を恨むがいいわ」
  7310.  悦子は、竹田に眼くばせをする。
  7311. 「こんなもので、いいかい」
  7312.  竹田はポケットの中から大きなジャックナイフをとり出して、美津子の眼の前の床にズブリと突き立てた。
  7313.  美津子の恐怖を充分に計算してから、竹田はナイフを引き抜き、文夫の傍に近づく。
  7314. 「どうでえ、お坊っちゃん。よく切れそうだろう」
  7315.  竹田は、ナイフの背で文夫の頬を軽く叩く。
  7316. 「殺せ、ひと思いに殺してくれっ」
  7317.  文夫は、わなわな唇を震わせていう。
  7318. 「へへへ、ひと思いと、いうわけにはいかねえ。まず、ここを切り落とし、それから、耳にするか、鼻にするか♢♢なあ、可愛いお嬢ちゃん」
  7319.  竹田は、恐怖に顔を強ばらせている美津子を面白そうに見て、
  7320. 「どうだい。まだ、決心がつかないのか」
  7321.  美津子は恐怖にがくがく歯が鳴り、一体どうすればいいのか、自分で自分がわからなくなっている。
  7322. 「仕方がねえ」
  7323.  竹田は、やくざが人を刺す時のように、ぴたりと自分の体を文夫の体に押し当てるようにして、左手で、ぐいと持ち上げ、右手のナイフを当てがった。
  7324. 「待って、待って下さい!」
  7325.  美津子は、竹田の足に取りすがるようにして許しせ乞う。
  7326. 「じゃ、恋人の悩みをといてあげるのね」
  7327.  悦子が美津子の傍にしやがみこんで、ニヤニヤしながらいった。
  7328.  美津子は、すすりあげながら、小さくうなずく。
  7329.  悦子は、舌なめずりしながら、胸を抱き、立て膝をして」
  7330. 小さくなっている美津子の横へしやがみこむ。
  7331. 「ね、お嬢ちゃん。貴女も色々と修業して、女らしくなってきてくれたけど、これからはいよいよ本格的な修業に入るわけよ。明日は待望の夫婦プレイでしょう。その前に、男性というものの身体の横造を、はっきり知っておかなきゃまずいわ。私達がそれを今、貴女に勉強させてあげようというのじゃないの。しかも、相手がフィアンセであり、ショーのコンビである文夫さんなら、文句があろう筈はないでしょう」
  7332.  さ、始めるんよ、と義子がひったくるように美津子の手首をつかんだ。
  7333. 「ああ♢♢」
  7334.  文夫の苦痛よりも、美津子の羞恥の方が大きかった。
  7335. 「遠慮する事はないわよ。さあ♢♢」
  7336.  義子と悦子は顔を見合わせて、くすくす笑いながら、慄えつづける美津子の身体を一層前へ押しやり、竹田も手伝つて、美津子の白い手を文夫のそれにからませる。
  7337.  美津子の美しい額から汗がたらたら流れ落ちる。
  7338.  文夫の方も強烈な電気に感動した瞬間のように首をのけぞらせた。
  7339. 「ええね。うちらがよしというまで、恋人の悩みを解決してあげるんやで」
  7340.  義子は、文夫の前に、お祈りでも捧げるように跪き、すすりあげている美津子の背を突いていうのだった。
  7341.  悦子も意地悪く、耳たぶまで熱くしている美津子に、
  7342. 「ね、わかったでしょう。お嬢ちゃんは夕霧女子高校の才媛ということだし、これだけ教えてあげりゃ、あとは一人で出来る苦だわ」
  7343.  悦子は手をひいて、義子と二人、美津子の両側にあぐらを組むように坐り、美津子の仕事ぶりを点検しようとする。
  7344.  義子、悦子、そして、竹田にまで背を突かれ、尻を突かれて、催促される美津子は、聖母像でも見上げるように、屈辱に眼を閉じている文夫に、うるんだ美しい黒い瞳を向け、
  7345. 「♢♢ふ、文夫さん、ゆ、許して……」
  7346. 「お嬢ちゃん、その気になってくれはったのはええけど、あかんやないの、眼をそらしちゃ。しっかり見つめな」
  7347.  美津子が必死に眼をそらしているのに気づいた義子は、美津子の頬に手をかけて視線を向けさせる。
  7348. 「眼を閉じちゃ駄目。彼に対して失礼じゃないの。これ以上、あたい達に世話をやかせないでね」
  7349.  悦子が美津子の涙に濡れている美しい横顔を見ながらいった。
  7350.  美津子は、心も休も、何か得体の知れぬ魔物に占領されてしまったように静かに眼を開き、ほのかに漂ってくる男性の妖気に、酔ったかのように、言われたままになるのだった。
  7351.  
  7352.  
  7353.  
  7354. 第二十七章 悪魔と悪女
  7355.  
  7356.  
  7357.     恐ろしい仕事
  7358.  
  7359.  悦子は、眉を寄せ、歯をキリキリ噛みながらしつづける美少年の上気した頬を指でつつき、
  7360. 「フフフ、どう、お坊っちゃん、まだなの」
  7361.  ズベ公達は顔を見合わせて笑い合うのだった。
  7362.  美津子の作業が少しでも停滞すると、悦子や義子は、
  7363. 「解決するまで、夜が明けても、続けさせるよ。さ、しっかり仕事をするんだ」
  7364.   美津子は、もう完全に魂を喪失した人形と化し、もうどうともなれ、と心に叫びつづけているのであった。
  7365. 「美、美っちゃん♢♢やめてくれ、お願いだ!」
  7366. 「馬鹿ね。今がチャンスじゃないの」
  7367. 「♢♢ゆ、許して!」
  7368.  美津子は悲鳴に似た叫び声をあげ、感電したように、床の上へ、よよと泣きくずれるのだった。
  7369.  落花無残♢♢そのようになった少年の姿を、美少女はまともに見られる筈はない。
  7370.  しかし、ズベ公達は、わあー、と賑やかに歓声をあげ、
  7371. 「ようやったわ、美津子」
  7372. 「なかなか、うまいじゃない」
  7373.  などと、囃したてるのだった。
  7374.  次にズベ公達は、みじめな敗残の姿を晒している文夫の上気した頬をつついたり、耳をひっぱったりして、
  7375. 「フフフ、あたい達と違って、相手が美津子の時は一層すさまじいようね。ね、何とかおっしゃいよ」
  7376.  そんな風に文夫を揶揄したズベ公達は、床に顔を押し当て、身を震わせて泣きつづけている美津子に、ハンカチを投げるのだった。
  7377. 「何時までもメソメソしてるんじゃないよ。このままじゃお坊っちゃん、恰好がつかないじゃないか」
  7378.  真っ赤になった顔を床にこすりつけるようにしている美津子の白い肩に、竹田と堀川が手をかける。
  7379. 「ああ!」
  7380.  美津子は、ひっぺ返すように二人のチンピラに上体を引き起こされた。竹田がすぐ美津子の白い手にハンカチを握らせる。美津子は、見てはならぬものの前に置かれた如く、ほっと顔をそむけるのであった。
  7381. 「ぐずぐずしちゃ駄目よ。さ、美津子」
  7382.  義子や悦子に肩や背を再びこづき廻され、激しくすすりあげながら後始末にかかるのだった。
  7383. 「フフフ」
  7384.  ズベ公達は顔を見合わせて、美津子の作業を見つめている。
  7385.  美少年は、真っ赤になった顔を横へそむけて、ぶるぶると全身を震わせているのだ。
  7386.  美津子も身体全体が痙攣し、耳鳴りが起こってくる。
  7387. 「御苦労さま、フフフ、どう? 美津子、これで男性というものが、大体わかってきたでしょう」
  7388.  作業を終えて、再び、文夫の足元に泣き伏してしまった美津子を、ニヤニヤ見下ろしながらズベ公達は、そんな事をいうのだった。
  7389.  一種の憧れのようなものを抱いていた文夫の、現実的な男性の匂い♢♢美津子は、何か人間、つまり、男性の肉体内部のからくりをのぞいたようなやり切れない気持でもあった。しかし、美しい文夫を、このようなみじめな姿に追いやったのは自分なのだと思うと、美津子は、もう天も地もひっくり返り、何もかも消えてなくなればよいという切ない気持となり、ただ、羞恥と屈辱にむせび泣いているだけである。
  7390. 「さ、お嬢さん、今度はお前さんの番だよ」
  7391.  床にくずれ泣いている美津子の両側に竹田と堀川は、舌なめずりするように身をかがませる。
  7392. 「恋人の悩みを解決させた御褒美に、お嬢ちゃんの悩みは俺達が解決してやるぜ」
  7393.  美津子は、もう声も出なかった。放心したようなうつろな表情をしたまま、その両手を二人のチンピラにとられて立ち上らされる。
  7394.  がっくりと首を垂れ、身体をくの字に肋げ、屠所へ引き立てられる小羊のように柱の前へ歩む美津子であった。
  7395.  首も顔も燃えるように赤くしているが、もうどうともなれと観念したのだろう、美津子は恐ろしい柱を背にして、手を静かに後ろへ廻していくのだった。
  7396. 「まあ、聞きわけがよくなったこと。そのうち貴女、お姉さんなんかより、もっとすばらしい大スターになれるわよ」
  7397.  義子と悦子は、肩を抱き合うようにして、竹田と堀川に、ヒシヒシ縄がけをされている美津子を頼もしげに眺めている。
  7398.  美津子の雪のように白い、茎のように細い、そして、陶器のように冷たい腕は、背中の中程にねじ曲げられ、キリキリ縄がけされてい。る。やがて、チンピラ二人は、美津子を柱につなぎ止めようとするのだったが、見ていた悦子が口を出した。
  7399. 「あら、向かい合わせなきゃ駄目よ。今度は、お坊っちゃんに勉強をさせるんだから」
  7400.  なるほど、とチンピラ二人はうなずいて、一旦縄尻を外し、再び柱を背にして縛りつける。
  7401.  竹田と堀川の二人に、がっちりと柱に縄がけをされている美津子は、ふと、涙の一杯にじんだ瞳を開いて、同じく眼前に立ち縛りにされている文夫を見る。
  7402. (文夫さん、美津子は、たとえ、どのような地獄の辛苦にあっても、決して、心までは腐りませんわ、信じて頂戴)
  7403.  美津子は心の中で言った。しかし、文夫はぐったりと首をうなだれ、完全に敗北したみじめな姿をさらしている。「どうしたのよ、お坊っちゃん。元気を出しなよ。あんたの恋人が、これからすばらしい気持に淫るのよ」
  7404.  悦子は、くすくす笑いながら、面白そうに指先で文夫の鼻をつまみあげるのだった。
  7405. 「さて、準備はよし」
  7406.  竹田と堀川は、身体全体を熱くして、すすりあげている美津子の鼻を指でつつき、受持を上にするか下にするかジャンケンを始めるのだった。
  7407.  
  7408.  
  7409.     全身美容
  7410.  
  7411.  立ったまま泣きじゃくっている静子夫人と桂子。一瞬、悶絶してしまった桂子も、時間が経てば、正気にもどり、同時に、たまらなく恥ずかしい白意織にさいなまれて、夫人の肩に額を押しつけるようにして、身を震わせて号泣し始めるのであった。
  7412. 「ホホホ♢♢」
  7413.  千代は笑いこけるようにしながら、ぴったり身体を合わせあったままの静子夫人と桂子のまわりを、ゆっくりと歩き廻る。
  7414. 「ほんとに傑作。もう言うべき言葉なしといったところですわ。すばらしいショーでしたわよ。ホホホ、奥様とお嬢様の♢♢ホホホ」
  7415.  千代は笑いつづける。
  7416.  千代が御機嫌になったということは、銀子や朱美にとっても楽しい事である。
  7417.  静子夫人と京子の同性愛に激しい嫉妬の火を燃やした銀子にしてみれば、これで充分、その復讐をした気分で溜飲が下ったわけだ。
  7418.  銀子は酒に酔ってフラフラする足を朱美に支えられるようにしてやって来ると、千代に調子を合わせて、キャッキャッ笑いながら、
  7419. 「よくやったわ、奥さん」
  7420.  銀子は、夫人の背をつつき、ピシャリと尻を叩いて笑うのだった。そして、千代の顔を見て、
  7421. 「ねえ、もう一度ダンスをさせましょうよ。そして今度は奥さんと桂子を同時に頂上へ登らせるフフフ、そうしなくちゃ面白くないわ」
  7422.  静子夫人はもう顔をあげる気力とてない。自分の肩に額を押し当てるようにして、すすりあげている桂子の黒髪に自分も顔を埋め、身体を震わせて鳴咽しているのだ。
  7423. 「さ、もう一度尻ふりダンス。そして、今度は二人一緒にゴールインするのよ♢♢フフフ」
  7424.  朱美も、肩や尻、膝までブルブル震わせて泣き合っている二人の美女の、あちこちをつつきながらいうのである。
  7425. 「でも、それは、ちょっとかわいそう」
  7426.  千代が銀子と朱美を制した。
  7427. 「これから、奥様は先生とプレイでしょう。いくらいい身体をしているからっていったって、一度にそんなに責めちゃ、ガタガタになっちまうわよ」
  7428.  それもそうね♢♢と銀子と朱美はうなずいて身をかがめ、引き離してやる。
  7429.  うっ、と夫人も桂子も、互いに美しい顔を歪めるのだった。
  7430. 「まあ、二人ともすごい」
  7431. 「これで、親娘というのだから、あきれてものがいえないわ」
  7432.  銀子と朱美は、二人を見くらべるようにして、くすくすと笑い合うのだった。
  7433.  もう人間ではなく、獣の肉体に堕してしまったのだと、静子夫人も桂子も自分の心に言い聞かせてはいるものの、大きな口をあけて笑いつづけている女中の千代の醜悪な顔をふと眼にすると、口惜しさとも情けなさとも切なさともつかぬものが、二人の胸底に充満するのだった。
  7434. 「じゃ、先生」
  7435.  千代は、先程から、数々のすさまじいショーに酔ったかのようポカンとして、ウイスキーを飲んでいる伊沢に向かっていった。
  7436. 「先生は一足お先へお部屋の方へどうぞ。私、この元遠山静子夫人をきれいに寝化粧して、すぐにお連れ致しますから」
  7437.  伊沢は、急に顔をくずして、そわそわ立ち上る。
  7438. 「じゃ、あたいが御案内致しますわ」
  7439.  朱美が伊沢を案内して出て行った。
  7440.  伊沢が出て行くと、千代は、ニコリと笑って夫人の椅子の前に立つ。
  7441.  銀子達に身体の自由をとかれたこ人の美女は、今まで演じ合っていた屈辱の演技に対する猛烈な自意識が、恐ろしいばかりにこみあげて来たのであろう。今までとは逆に、今度は背を向け合い、がっくり皿自を落としている。
  7442. 「何も、そう照れる事はねえぜ」
  7443.  川田も、千代の横に立ち、互いに顔をそらせ合っている二人をニヤニヤ見つめるのだ。
  7444. 「何だかんだといったって、二人とも満更じゃなかったぜ。何よりも、そいつが証拠だ」
  7445.  川田は指さして、げらげら笑うのだ。
  7446.  二人の美女は一層身をすくませて鳴咽する。
  7447. 「じゃ、奥様、約束通り、これから先生のお相手をして頂くわけだけど、ね、悪い事はいわないわ。お嬢様にも手伝って頂いた方がよくはございません。だって、あの先生、ほんとに、すごいのよ」
  7448.  それを聞くと、静子夫人は、涙にうるんだ美しい瞳をきっと見開いて千代にいった。
  7449. 「や、約束が違いますっ。後生です、先生の相手は、静子一人で♢♢」
  7450.  歯を喰いしばった表情をして、きっぱりと静子夫人はいうのだった。
  7451. 「そう、それほどまでにいうのなら、私だって無理におすすめは致しませんわ。ただし、奥様があの精力絶倫の伊沢先生を満足させられなかった場合、お嬢様にはすぐ応援にかけつけて頂きますからね」
  7452.  千代は、残忍なものをキラリと眼の底に浮かべてそういい、次に銀子へ、
  7453. 「じゃ、この奥様に全身美容しましょうよ」
  7454.  あいよ、と銀子が化粧道具を取りに走る。
  7455.  千代は、再び、静子夫人の豊満な肉体を仔細に視察しつづけていたが、ふと、何かに気づき、
  7456. 「まあ、奥様ったら、お行儀の悪い。先生に笑われますわよ」
  7457.  千代は、婉然と笑って、口にチリ紙をくわえ、身を沈ませる。
  7458.  静子夫人は、ほっとしたように再び美しい顔を朱に染めて、歯ぎしりしつつ、身体を震わせる。
  7459.  川田と鬼源が、大きな円形のテーブルを持ち出して釆た。
  7460.  千代の手で、きれいに後始末をされた静子夫人は、川田、鬼源、それに田代、森田も手伝って、一旦、縄は解かれたが、すぐに、よいしょ、と手とり足とりされて、円形のテーブルの上へ♢♢。静子夫人に対する全身美容が始まった
  7461. わけだ。銀子と千代は乳液を塗りたくり、田代は夫人の耳と首筋に香水をふりかけて、森田と鬼源は香料をこすりつけていくのだった。
  7462.  伊沢を寝室へ案内した朱美が戻って来ると夫人の足へ廻り、爪掃除セットの中からやすりを取り出すと、夫人の足の指を磨き始め、ピンクのマニキュアをほどこしていくのだった。
  7463.  やがて、全身くまなく美容をほどこされた静子夫人は縄を解かれ、上体を起こされる。朱美と銀子が、次に夫人の髪のセットを始め出したのだ。
  7464.  弥次馬気分で、美津子の方をのぞきに行ったり、静子夫人の方をのぞいたりして廻っているマリが、川田の背をつついた。
  7465. 「ね、今、吉沢さんのいる部屋の前を通ったら大変なのよ。吉沢さんすごく荒れてるの」
  7466.  人を馬鹿にしやがって、こん畜生♢♢と、足の怪我で床についている吉沢は、そのへんにある花瓶や灰皿を床に投げつけて暴れ廻っているというのだ。
  7467. 「仕様がねえな」
  7468.  川田は舌打ちした。吉沢の暴れ出した原因はわかっている。昨日であったか、川田が、森田組のためだ、美津子をスケにする事は断念してくれ、と頼んだが、床の中であれやこれや考えているうち、せっかくあそこまでいったものをと、口惜しく、腹立たしくなったのであろう。
  7469.  川田は、しばらく考えたが、ふと、ある事に気づいて、初々しく若々しい若奥様髪スタイルに銀子と朱美の手でセットされている静子夫人に見とれている森田の肩をつついた。
  7470.  川田は、森田を部屋の隅へ連れて行き、美津子を我がものに出来ず荒れ狂い出した吉沢の事を話し、
  7471. 「どうでしょう。京子を吉沢兄貴のスケにしちゃあ。吉沢兄貴は森田組の大幹部、一人や二人、スケがいなきゃ恰好がつかねえでしょう」
  7472.  と提案をする。
  7473. 「成程、思いこがれた美津子の姉をスケにするってのはいい思いつきだ。それなら吉沢の奴も異存はあるめえ」
  7474.  森田は、口元を歪めてそういい、早速、地下牢にいる京子へ因果を含めるよう、川田にいうのであった。
  7475.  
  7476.  
  7477.     悪魔の寝室
  7478.  
  7479.  伊沢は洋間より日本間の方が趣味に合うと朱美にいい、二階の廊下を二つばかり曲がった突き当たりの日本間を寝室に選んでいた。
  7480.  金地に桐の紋をちりばめた柄の豪脊な稜具の前で、ウイスキーをちびりちびり飲みつづけている伊沢は、静子夫人の到着を今か今かと待っている。夢にまで見た絶世の美女と今夜はこの上で、誰の邪魔もされず朝まで過せるのだと思うと、伊沢はもう気もそぞろである。
  7481.  やがて、廊下を通る二、三人の足音が聞こえて来た。
  7482. 「ごめん下さい」
  7483.  千代の声である。襖が開いて、酒に酔った足を踏みしめるようにして千代が入って来、続いて静子夫人が、銀子に引き立てられて入って来たのだ。何よりも、伊沢を陶然とさせたのは、全身美容され、髪を初々しくセットされた静子夫人の、まばゆいばかりの美しさである。
  7484. 「さ、奥様、そうモジモジ私ずかしがってちゃ駄目。先生の前へ行って、お行儀よくお坐りして下さいな」
  7485.  千代は、含み笑いしながら、夫人の肩をそっと押す。
  7486.  静子夫人は、身を折り曲げるようにしながら、歩き出し、ウイスキーを飲む伊沢の前にぴったりと正座する。甘ずっぱい香料の匂いが切ないばかり伊沢の鼻をくすぐるのであった。
  7487.  心持ち、頭を垂れている静子夫人。これからの恐怖を想像してか、時折、ブルブル震えるのだ。
  7488.  そんな静子夫人の両側に千代と銀子は身をかがめて、夫人の頬を指で突き、
  7489. 「じゃ、奥様、お願いするわよ。先生を充分満足させてあげて♢♢」
  7490.  銀子がそういうと、千代も、
  7491. 「お嬢さんも今、全身美容を朱美さんやマリさんの手でされていますわ。何故だかはおわかりでしょう。奥様のスタミナが切れた時のピンチヒッターにすぐ仕立てるためですわ」
  7492.  唇を噛みしめ、じつと俯向いている静子夫人に、二人の悪女は自分達の言葉を楽しみ合うようにしていうのだった。
  7493. 「駄目ねえ奥様。そんなに固くなっていちゃ先生に失礼よ。色気が大切なのよ、ショーのスターというものは♢♢」
  7494.  さ、顔をあげて、と千代は夫人の勒に手をかけ、上へ持ちあげる。顔を持ちあげられた静子夫人は、もう抗し切れず、固く閉ざしていた眼を静かに開いて、伊沢の顔を見るのであった。その涙のにじんだキラキラ光る夫人の妖艶な瞳を見た伊沢の方が、むしろ、月の光に射すくめられたようにドキリとし、視線をそらせてしまう。
  7495.  それに気づいた銀子が、面白そうに声を立てて笑った。
  7496. 「あら、先生の方が照れちゃってるわ」
  7497.  千代もくすくす笑いながら、
  7498. 「桃の花も菊の花も、くわしく観賞されたのに、今更、照
  7499. れるなんて、おかしいじゃありませんか、先生」
  7500. 「それに明日の朝は、浣腸。もうこれで、この女の秘密は何もかも、先生はお知りになったわけ♢♢ああ、一つ忘れていたわ」
  7501.  銀子は、フフフ、と淫靡な笑いを口に浮かべた。
  7502. 「何なのよ。銀子さん」
  7503. 「おしっこよ」
  7504. 「まあ」
  7505.  二人の悪女は、身体を揺するようにして笑い合った。
  7506. 「ねえ、先生。私達、何時までも、ここへおじゃましてちゃ悪いと思うけど、それを見たら、おとなしくこの部屋から出ますわ」
  7507.  千代は、手をのばして、伊沢の前のウイスキーの入ったコップを手にすると一息に飲み、そういぅのだった。
  7508. 「この奥さんね、立ったままだって、もう出来るのよ」
  7509.  銀子がいうと千代も狂ったように笑い出したが、
  7510. 「そんな無茶な事、私、要求しないわ。普通の方法でいいわ。この令夫人、トイレの中じゃ一体、どのような顔をして用を足していたのか、のぞかせて頂きたいのよ♢♢いいでしょう。奥様」
  7511.  千代は、夫人の顔をのぞくようにしていった。静子夫人は、再び、がっくり首を落とし、肩のあたりを震わせて、すすりあげだす。外道、人非人、これらの悪女達は、飽く事を知らず夫人を責めさいなもうとするのだ。
  7512.  銀子は、立ち上り、
  7513. 「たしか、この部屋は、トイレつきだった筈よ」
  7514.  襖を開き、次の間の六畳の壁にそったガラス戸を開ける。
  7515. 「あったわ。立派な西洋トイレよ」
  7516.  それを聞くと千代は、
  7517. 「西洋式であろうが日本式であろうが、この貴婦人、どちらも上手に、使いこなせるわ」
  7518.  といい、フラフラ立ち上って、夫人の肩に手をかける。
  7519. 「御苦労だけど、奥様お願いしますわ。私一度、見てみたいと思ってましたの。それにプレイの前に、それはすましておいた方が、奥様だっていいでしょう」
  7520.  千代は、夫人を立ち上らせるべく、その縄尻を取ったのだ。
  7521. 「待、待って、千代さん!
  7522.  静子夫人は、首を横に振り、眼の前でウイスキーを飲みつづける伊沢に、哀願的な瞳を向けた。
  7523.  何となく、自分に同情的な眼つきをする伊沢に対し、救いの言葉を夫人は待ったのだ。
  7524.  そんな馬鹿な事はよせ、という一言三日を夫人は、腰を半分浮かしながら待ったのであるが♢♢。
  7525. 「じゃ、俺もひとつ拝見させて頂くか」
  7526.  伊沢は、キラキラ涙に光る夫人の美しい黒眼から眼をそらせるようにして、ウイスキーを取り、立ち上る。
  7527. 「ああー」
  7528. 「立ったままじゃなく、今日は、女らしく、ちゃんとしゃがませてあげるのよ。早くおいで」
  7529.  トイレの入口に立っている銀子が、大きな声でいう。
  7530.  千代に縄尻をとられ、伊沢に肩を押され、静かに歩み始める静子夫人。
  7531.  銀子は夫人がやって来ると、がらりと洗面所の戸を開け、どうぞ、というように、その奥を手で示した。白い陶器が夫人の着座を待って、不気味に光っている。
  7532.  銀子、千代は、夫人を取り囲むようにして、ぞろぞろと、その狭い個所へ入って行く。
  7533. 「さ、奥様」
  7534.  千代は、陶器の前に立ち、赤く染まった美しい顔をねじ曲げるようにして、身体を硬くしている夫人を眺めながら、ニヤリとするのだった。
  7535.  
  7536.  
  7537.  
  7538. 第二十八章 屈辱の図絵
  7539.  
  7540.  
  7541.     猫と鼠
  7542.  
  7543. 「さ、奥さん」
  7544.  銀子と千代は、白い陶器の前に立ちすくんでしまった静子夫人の、なめらかな白い背を押す。
  7545. 「遠山家にあったものと同じじゃありませんか。西洋式は初めてというわけじゃないでしょう。さあ、奥様」
  7546.  千代は静子夫人の尻をつつく。
  7547.  しかし、静子夫人は赤らんだ美しい顔を必死にそむけ、硬直して立ちすくんでいるだけであった。
  7548. 「何をぐずぐずしてんのよ。桂子をこの部屋へ連れて来て、伊沢先生のお相手をさせてもいいというの」
  7549.  銀子は、小さくすすりあげている夫人の横顔を陰険な目つきで見てそういうのだった。
  7550.  静子夫人は桂子を、この部屋へ連れて来るという恐ろしい銀子の言葉には勝てず、遂に前へ向かって歩き始める。
  7551. 「さ、しっかり乗っかんのよ」
  7552.  銀子はくすくす笑いながら、西洋式の上蓋を上げるのだった。
  7553.  銀子に縄尻を取られる静子夫人は、激しく鳴咽しながら、その上へ乗っかる。
  7554. 「ホホホ」
  7555.  千代が独特の甲高い声で笑い始め、
  7556. 「伊沢先生がおいでにならないうち、始めちゃ駄目ですわよ、奥様。今、ここへ先生をお連れして参りますからね」
  7557.  千代は、洗面所を出、奥の部屋で、女達のこれからしようとする事を胸をときめかして待ちつつウイスキーを飲んでいる伊沢の所へ行くのだった。
  7558.  その後、銀子は、陶器の上に乗っかり首を垂れてすすりあげている静子夫人の耳元に口を寄せるようにしてささやいている。
  7559. 「先生がおいでになったら黙ってすましてしまうんじゃないよ。こういう時こそ、うんとお色気を発揮して、先生を楽しい気分にしなきゃ駄目。ね、たとえば、こういう風に♢♢」
  7560.  耳元から何か銀子に吹きこまれた静子夫人は、一層、耳たぶまで赤くして、首を深く垂れてしまうのだったが、
  7561. 「それ位の事いえないようじゃ、桂子に先生の相手をさせるからね」
  7562.  陶器の上に乗っている夫人の尻を銀子は、ピシャリと平手打ちしていうのだった。
  7563.  やがて、伊沢と千代が何か話し合い、声をたてて笑いながら入ってくる。
  7564. 「狭いから気をつけて頂戴。さあ、先生、どうぞ、こちらへ」
  7565.  千代は、伊沢を静子夫人の側面にかがませようとした。すると、銀子が、静子夫人の背をつつく。
  7566. 「さ、奥さん、おっしゃいな」
  7567.  静子夫人は、固く眼を閉ざしたまま、唇を動かす。
  7568. 「はっきりおっしゃいな。そんな蚊の鳴くような声じゃ気分が出ないよ。いいおっぱいをしているくせに、だらしがないわね」
  7569.  銀子はそういい、夫人の背を押すのだ。
  7570. 「♢♢先生♢♢静子を♢♢」
  7571.  再び、夫人が唇を開いたが、
  7572. 「駄目、駄目、もっと甘ったるく、鼻にかけてい、うのよ。スターとしては、まだまだ色気が不足よ。
  7573.  銀子は、含み笑いをしながら、しかし、眼には残忍な光を浮かべて首をふるのだった。
  7574. 「ねえ先生、静子を愛して下さるなら♢♢」
  7575.  静子夫人は、銀子のいうように努めて甘ったるい声を出すのだった。
  7576. 「♢♢もっと傍へ来て、くわしく見て下さらなきゃ嫌。ねえ、お願い。前へ出て、しっかり見ていて頂戴」
  7577.  静子夫人は、真っ赤に染まった美しい顔を右へ伏せようとしたり、左へ伏せようとしたりしながら、やっとそれだけの事をいう。
  7578.  伊沢は、ニヤニヤしながら、静子夫人がいった通り、夫人の前へ廻って、身をかがませるのだ。
  7579. 「♢♢嫌、嫌、静子、お顔にかけたりはしませんから、もっと眼を近づけて、よく見て頂戴。ねえ、早く」
  7580.  静子夫人は、完全に意志を失った人間の如く、銀子に強制された通り、陶器の上にある尻をもじつかせながら、いうのであった。
  7581.  伊沢は、ふちなし眼鏡を外して、更に眼を近づける。
  7582. 「さてと、よく見てあげるよ、奥さん。♢♢ハハハ」
  7583.  伊沢がそんな事をいって笑うと、静子夫人は全身を火柱のように熱くしながら、
  7584. 「♢♢それじゃ、静子♢♢始めてもいい?」
  7585. 「ああいいとも。その後、すばらしいプレイをしてあげるからね。さ、少しも遠慮はいらないよ」
  7586.  続いて、千代と銀子が両側につめ寄り、顔を隠しがちの静子夫人の顎に手をかけてぐいと持ち上げ、同時に夫人の肩に片手をかけて心持ち後ろへ、その美しい豊満な肉体をそらせるのだった。
  7587. 「ううー」
  7588.  極端なポーズを二人の悪女にとらされ、その一点を伊沢に凝視される静子夫人であったが、もうどうともなれと観念しきっている夫人は、羞恥も屈辱も一切呑みこんでしまった心境で、
  7589. 「さ、奥様、始めてごらん」
  7590.  と千代にいわれて、地獄の釜の中へでも飛びこむように、呼吸をとめ、下半身にカをいれたのである。
  7591. 「ホホホホホ」
  7592. 「フフフフフ」
  7593.  千代と銀子は、両側から、ブルブル震える静子夫人の柔軟な肩を手で押さえるようにしながら笑い合っている。
  7594. 「まあ、ずいぶんと長いのね」
  7595.  千代は、のぞきこむようにして、笑いこける。
  7596.  羞恥地獄の何秒かがすぎ、ようやく、それは終わった。
  7597.  静子夫人の火がついたような真っ赤になった顔は、歯を喰いしばったような表情を続けている。形のいい豊かな乳房が、屈辱の極に大きく波打っているのだ。
  7598. 「ああ、愉快ね」
  7599.  千代は、ほっと息をつくようにして、伊沢の顔を見る。
  7600. 「じゃ、先生。お床の支度をしておをますから、奥様には、ちゃんと後始末をしてあげて下さいましね」
  7601.  千代はタイルの壁に取りつけてあるペーパーを指さし、銀子をうながすようにして、そこを出るのであった。
  7602. 「何だか気持がすーっとしたわ。念願の仇討がようやく出来たというような気分よ」
  7603.  千代は、座敷へもどり、べたりと畳に尻餅をつくと、煙草を取り出しながらいう。
  7604.  千代の口にした煙草へ火をつけながら銀子がいった。
  7605. 「ま、あの女の事は、あたい達に任しておいて下さい。千代夫人のお気のすむよう必ず妊娠させてやりますから」
  7606. 「お願い致しますよ。そうなりゃ私も安心して、遠山夫人におさまれるというわけですものね」
  7607.  千代は、そういいながら、ハンドバッグを開け、一万円札を取り出し、銀子の手に握らせる。
  7608. 「これはどうも。こんな事して頂かなくてもいいのですよ」
  7609. 「ま、とっておいて頂戴。あの女に見事に種がつけば、貴女にも充分お礼はするわ」
  7610.  その時、手洗所の方で、静子夫人の悲鳴が聞こえる。
  7611. 「あっ、嫌、嫌っ」
  7612. 「駄目、駄目、ちゃんとお掃除しなきゃ」
  7613.  千代と銀子は顔を見合わして、くすくす笑い合う。
  7614. 「今夜は先生も御機嫌ですわね」
  7615. 「そりゃそうよ。長い間の思いが、やっと叶ったわけだもの」
  7616.  そこへ、廊下の方から、ノックする音がし、森田と田代が、かっちりと縛りなおした桂子を引き立てて来た。桂子も全身美容をほどこされ、甘い香料の匂いが全身を包んでいる。
  7617. 「へへへ、今夜の補欠は、どこへつないでおこうかね」
  7618.  桂子は、枕の並んだ布団の前に立つと、ほっとしたような顔をそらし、ぴったり閉じ合わした両肢をぶるぶる震わすのであった。
  7619.  銀子は、ニヤリと口元を歪めて、
  7620. 「まあ、桂子。ずいぶんと、きれいにお化粧してもらったじゃないの。♢♢そう。そこの床の間の柱がいいわ」
  7621.  よしきた、と森田は、桂子のスベスベした背を、どんと突き、床の間の方へ追い立てていく。
  7622.  田代も手伝って、床の間の柱を背にして立たされた桂子にひしひしと縄がけをしていくのだ。銀子と千代は、畳の中央に敷かれている夜具に手をかけ、ずるずると床の間のすぐ手前まで引っ張っていく。静子夫人と伊沢のプレイを
  7623. 桂子に、はっきり目撃させてやろうという狙いなのだ。
  7624. 「嫌っ、ああ、嫌っ」
  7625.  桂子は、悪鬼達の残忍な着想におののき、身悶えする。
  7626. 「あのベテラン先生が、どういう風に静子夫人を資め、静子夫人は、どういう風に受けるか、よく見学させてもらいな」
  7627.  森田は、そんなことをいいながら、身をかがめ、桂子の足首を揃えさせて、キリキリと縄をかけていく。
  7628. 「ところで、先生と静子夫人は?」
  7629.  田代は、その辺をキョロキョロ見廻すと、銀子は洗面所の方を指さして笑った。
  7630. 「ずいぶんと長いんですよ」
  7631.  夫人のすすりあげる声が、ふと田代の耳にも入ってくる。
  7632. 「ああやめて♢♢もう、嫌」
  7633.  銀子が、いたずらっぽく笑って、手洗所の方へ行く。
  7634. 「いつまでも一体、何してんのかしら」
  7635.  銀子は、そういいながら、戸を開けたが、ぷっとふき出し、
  7636. 「まあ、先生たち。何も、そんな狭い所でお遊びにならなくても♢♢お床の用意は出来ていますのよ」
  7637.  やがて、伊沢と銀子に縄尻を取らえられた静子夫人が、今にも、くず折れそうな姿態で出てくる。
  7638. 「あっ」
  7639.  静子夫人は、座敷へ入り、ふと眼を床の間に向けた途端、青ざめた顔になって、立ち止ってしまった。
  7640.  柱を背に、がっちりと縛られているのは桂子ではないか。
  7641. 「や、約束が違いますっ。桂子を、桂子をどうして、ここへ」
  7642.  伊沢と銀子に縄尻を取られている静子夫人は、身悶えして、泣きそうになる。
  7643.  銀子は、せせら笑うようにしていった。
  7644. 「馬鹿ね。何も桂子をあんたと一緒に先生のお相手をさせるとはいってないわよ。さっきもいったように、もし、貴女が先生を満足させられなかった時、桂子嬢にも出場してもらうってわけよ。すべて、貴女の努力次第というわけね。フフフ」
  7645. 「お願いです。桂子を、桂子を、この部屋から出して下さい。あんまりです。桂子の、桂子のいる前で♢♢」
  7646.  桂子の眼の前で、伊沢とそういう事は出来ないと、静子夫人は、ハラハラ涙をこぼしつつ周囲に坐りこんでいる野獣達に哀願しだすのであったが、
  7647. 「何いってんのよ。さっきは、桂子相手に、あんな事をして見せたくせに」
  7648.  と、銀子は、フンと鼻を鳴らすだけで、とり合おうとしない。
  7649.  さ、ブツブツいわず、ここへお坐り、と銀子は、静子夫人の尻を蹴り、彼女を布団の上へ倒してしまう。
  7650. 「おっと、忘れていたっけ」
  7651.  と、田代は、銀子と千代を見ていった。
  7652. 「明日のショーは三日間、延期になったぜ」
  7653.  えっ、と銀子が唇をとがらす。
  7654. 「せっかく脂が乗ってきたというのに、どうしてまた三日も延期するんですよ」
  7655. 「熊沢組の親分さんから、さっき電話があったんだ。関西の岩崎親分が、明後日、上京して来られる事になったんだ。だから、同じショーをやるなら、岩崎親分にもおいで願って華々しく開いた方がよかろうというんだよ」
  7656. 「なるはどね」
  7657.  と銀子も、うなずいた。
  7658.  関西の岩崎親分といえば、全国に、その身内衆一千人はいるといわれる暴力団の大親分である。田代のハラは、各地の博徒やテキ屋の大物達を集め、高い祝儀を支払わせて、この美人ショーを開催すると同時に、この屋敷の一室を、貯博場に使用させ、大いにテラ銭を稼ぐという事にある。それが、岩崎親分が上京という事になると、これは、岩崎親分歓迎という意味もあって、大きな賭場が開かれる事になるだろう。目的の一つは、それであった。
  7659.  あと三日、鬼源に徹底的に調教させ、ショーの当日は、岩崎親分の機嫌を大いにとり、好みの女性を抱かせ、充分、満足させて、彼が上京するごと、この屋敷の一間で、歓迎賭場を開かせようと悶代は考えたのであった。
  7660. 「そこでだ」
  7661.  と森田がいう。
  7662. 「熊沢の親分がいうには、いくら女が別格でいい体をしているといっても、バナナ切りや女同士のプレイだけじゃ客は満足しねえとおっしゃる」
  7663. 「♢♢というと」
  7664.  銀子が眼をパチパチさせると、森田がいった。
  7665. 「つまり、夫婦プレイだよ」
  7666. 「だって、男役者はどうすんのさ。まさか、文夫一人に、これだけの御婦人方の相手をさせるわけにゃいかないでしょう。森田親分さんがやるってわけ」
  7667. 「冗談いうねえ。鬼源が浅草から弟子の一人を連れてくるそうだ。子供の頃、脳膜炎をわずらって、白痴になった男だが、何しろ、人一倍でかいのを持った奴らしい」
  7668.  それを聞くと、銀子と千代は、顔を見合わせ、声をあげて笑い出した。
  7669.  銀子は、舌なめずりでもするような表情で布団の上で、身を小さくしている静子夫人の涙に濡れた頬を指でつつく。
  7670. 「いいですわね、奥様。これから貴女は、京子以外に男のお相手が出来るわけよ」
  7671.  田代が、それにつけ加えていった。
  7672. 「京子だってそういうわけだ。つまり、恋人同士の静子と京子は、共通の男の恋人を持つ事になる。正に卍というわけだ」
  7673.  先程から、ぼんやりとつっ立ったままでいる伊沢に、ふと気づいた田代と森田は、あわて気味に、
  7674. 「こりゃどうも先生。とんだおじゃまを致しました。とにかく、こういうわけで、この静子夫人は、うちのドル箱スターだけに、これからは大変な忙しさなんです」
  7675. 「しかし、明日の十時までは先生のもの。どうぞ充分、お楽しみになって下さい。色々と仕込んであるつもりですが、もし、お気に召さない点がありましたら、その埋め合わせは、床の間の桂子の方で♢♢へへへへ」
  7676.  田代と森田は、そういって、じゃ、邪魔ものは退散しようか、と銀子と千代に眼くばせをする。
  7677. 「じゃ、奥様、よろしくね」
  7678.  千代は、含み笑いしながら、静子夫人の横に伏せている美しい顔を、のぞき見するように見て、立ち上るのだった。
  7679.  四人の恐ろしい男女は、賑やかにしゃべり合いながら廊下へ出てしまったが、これからが静子夫人にとっては地獄である。
  7680. 「全く忙しいんだね、奥さんは。じゃ一つ、こっちも急ごうか」
  7681.  伊沢は、うきうきした気分で、口笛を吹きながら、背広を脱ぎ出す。
  7682.  女中の千代と共謀し、自分の全財産をうばっただけでは抱く、遠山家の乗っ取りを策している極悪人の伊沢。その胆が煮え返るばかりに憎い男のなぐさみものにならねばならぬ事となった静子夫人は、これまでの口ではいえぬおぞましい責めに遭ったため、もう一切を放擲してしまった心境になったとはいうものの、あまりにも、自分が情けなくなりだし、がっくりと頭を布団に押しつけるようにしてキリキリ歯を噛み鳴らすのであった。
  7683.  やがて伊沢は、ニヤニヤしながら、後ろから近づき、静子夫人のふっくらした白い肩に両手をかけて、ひっぺ返すようにして上体を起こさせるのだった。
  7684.  静子夫人は、激しく全身を震わせながら、床の間の柱を背に立たされている桂子に向かって叫ぶのだ。
  7685. 「け、桂子さん。お願い、見ちゃいけない。しっかり眼を閉じているのよ」
  7686.  
  7687.  
  7688.     強迫
  7689.  
  7690.  千代は、その夜、田代の家に泊る事になった。千代は、一日家をあけると、遠山は、よけいに気がおかしくなってくれるから、むしろ、好都合だなどといい、二階のホームバーのある部屋へ、田代達と戻り、ムード音楽をかけて、ダンスを始め、すこぶる御機嫌であった。
  7691.  やがて、義子や悦子達が戻って来る。
  7692. 「どうしたい。お坊っちゃんとお嬢ちゃんは」
  7693.  スタンドに坐ってウイスキーを朱美と一緒に飲んでいる銀子が聞く。
  7694. 「二人とも、さっぱりした気持にさせてやってね。今夜は、二人一緒にして、地下牢の中へ、ぶちこんでおいたよ」
  7695.  悦子はそういいながら、自分もスタンドに坐り、銀子に注がれたウイスキーを眼を納めて炊むのだった。
  7696. 「そうだ。あの二人は、どうします、社長。やっぱりプレイは三日間、延期しますか」
  7697.  ソファの上に、ごろりと横になっている森田が、千代とダンスしている田代に聞く。
  7698. 「ショーの延期を通告出来なかったところがあるだろう。関口一家、南沢組なんかは、明日の夜、予定通りやってくる。ショーは延期したと、その時になって言えないよ。だから美津子と文夫の二人は、御苦労だが、明日はがんばってもらうのよ」
  7699.  それを聞くと、スタンドでウイスキーを飲み合っていたズベ公達は、わあ—と歓声をあげる。
  7700. 「初陣は、一番若手の登場ってわけね」
  7701.  朱美がいうと、田代は、千代とステップを踏みながら、うなずき、
  7702. 「そうだ。美津子を早く一人前の女に仕上げてしまわねえと、鬼源だって調教がやりにくいだろうからな」
  7703. 「それじゃ、社長」
  7704.  と、森田がソファから起増上っていった。
  7705. 「じゃ、ついでだ。熱海や伊東の温泉地から例の映画の注文が、うるさく来ているんですが、それを撮影して、作り上げようじゃありませんか」
  7706. 「うん、そいつはいい思いつきだ。あの二人のデビュー作品てわけだな。それに、二人とも、生まれて初めてのプレイというわけだろう。このフィルムは普通の二倍はとれるぜ」
  7707. 「しかし、静子と京子のプレイのように、縄つきのまま、助手を使ってのショーなんでしょう。そういうのは、買手が文句をつけやしませんか」
  7708. 「冗談じゃない。そういうのだからこそ買手は飛びつくんだよ。近頃の品物を見てみろ。ぶよぶよした、おかめとひょっとこが、同じような事をわざとらしく、くり返しているだけじゃないか。花はずかしい乙女が若い二枚目と強制されたプレイを互いに羞らいながら演じる。こいつは買手の度肝を抜く事請け合いだ。値は二倍どころか三倍にまで、はね上がると思うよ」
  7709. 「まして、二人は初めての経験」
  7710.  朱美が楽しくてたまらないよう田代に調子を合わした。
  7711.  なるほど、と森田はうなずき、
  7712. 「じゃ、明日は照明器具なんかを揃えて、周囲にぬかりのないようにしますよ。一丁、芸術作品を作りますか」
  7713.  森田は、そういって大口を開けて笑った。
  7714.  その時、カウンターの端にある電話が鳴る。
  7715. 「鬼源じゃないか」
  7716.  森田は煙草を口にしていった。
  7717.  鬼源は、森田の言いつけで、明日から、静子夫人と京子の相手をつとめる男役者、捨太郎という白痴の大男を連れに出かけているのである。
  7718.  銀子が受話器をとって、もしもし、と耳に当てたが、
  7719. 「なーんだ。二階、梅の間の伊沢先生よ」
  7720.  と笑う。何か用事があれば、電話するようにと、銀子は、皆んなの溜場であるホームバーのある部屋の電話番号を教えておいたのである。銀子は再び受話器を耳に当てた。
  7721. 「もしもし、静子夫人が何か強情をはるのですか。まあ、ホホホ、はい、わかりましたし
  7722.  銀子が笑いながら、電話をきる。
  7723. 「チリ紙を持って来てくれだって」
  7724.  スタンドを埋めているズベ公達は、ゲラゲラ笑い出す。
  7725. 「そういえば、あれから、もう二時間だ」
  7726.  と、森田が腕時計を見ながらいうと、田代は千代と一緒にソファに坐りながら、
  7727. 「一回戦、終了ってわけかな」
  7728.  千代の顔を見て、笑うのだった。
  7729.  千代は、義子が盆に乗せて運んで来たブランデーを口元に持っていきながら、眼を細める。
  7730.  あの艶麗で、教養高い深窓の令夫人が、伊沢のような色事師の手で、今頃は、どのような日に遭わされているのかと想像すると、血が高なる思いさえするのである。
  7731. 「伊沢先生にすれば、長い間、思いこがれた静子夫人ですものね。むきになって攻撃するでしょうし、あの奥様も、今夜は二回や三回ぐらいじゃ許してもらえないのじゃないでしょうか」
  7732.  千代は、そういい、例によって、頭のてっぺんから出すような声で笑ったが、その時、ノックの音。
  7733.  やあ。皆さん、お揃いで、と入って来たのは川田である。
  7734. 「おい、来るんだ」
  7735.  川田、手にしている縄をぐいと引く、そのカに負けたよう廊下の方から、部屋の中へ白い脚線美が一本ニューと現われた。
  7736.  川田は、京子を引き立てて来たのである。
  7737. 「何を、もたもたしてるんだ」
  7738.  川田は、外側を向いて叱咤しながら、力一杯、縄を引く。京子は、遂に抗し切れなくなったよう縄尻を川田にたぐられるまま、フラフラと室内に入って来たのだ。
  7739.  均整のとれた京子の美しい裸身が、部屋の中にいる連中の眼にはっきりと映じる。椀を伏せたような形のいい胸の上下に二巻き三巻き、きびしく巻きついている太い麻縄だけであった。
  7740. 「ようやく、京子を口説き落としましてね。吉沢兄貴の女になる事を承知させました」
  7741.  川田に縄尻を取られたまま、その場へ身をかがめる事も許されず、ズベ公ややくざ者達の眼に晒している京子は唇を固く噛みしめたまま、美しい顔を横へ伏せているのだった。
  7742.  そんな京子に銀子と朱美は、酒に酔って、ふらつく足を踏みしめるようにして近づき、ふと、身を低めてニヤニヤしながら眺める。
  7743. 「フフフ、京子嬢、大分、元通りになってきたじゃないの」
  7744. 「そろそろ、また剃らなくちゃならないようね」
  7745.  二人のズベ公は、くすくす笑い合うのだった。
  7746.  京子は、腰をひくようにして身をすくませる。
  7747.  森田が、千代に向かっていった。
  7748. 「この女ですよ。山崎探偵の秘書で、この屋敷へもぐりこみ、静子夫人を助け出そうとしやがったんです。へへへ、ところが今じゃ、静子夫人と、ぴったり息の合った名コンビでさあ」
  7749.  森田は、のっそり、京子の傍へ近寄り、京子の額に手をかけて、ぐいと千代の方へ向けさせる。
  7750. 「さ、御挨拶するんだ。ここにいらっしゃる方はな、静子に代って、遠山夫人に新しくなられる千代様だ。静子の私有財産も今じゃ、すべてこの千代夫人のもの。静子夫人も、もうこれで遠山家の事は何も心配する事はなしで、安心して、お前とショーのプレイが出来るってもんだぜ。お前もとうとう静子夫人と、ここで、水久に結ばれる事になったわけだ。どうだ、嬉しいだろう」
  7751.  千代は、ブランデーグラスをロへ運びながら、京子の均整のとれた見事な全身を、底意地の悪い眼で、しげしげ見つめ、
  7752. 「ほんとに、いい体をしているわね。それになかなかの別嬪さんだし、静子夫人とは、全く釣合いのとれたいいコンビじゃないの」
  7753.  京子は固く眼を閉ざし、周囲にむらがる野卑な男女のギラギラする視線に耐えている。
  7754.  続けて森田がいった。
  7755. 「許しい事は川田から聞いたと思うが、吉沢の奴が美津子をスケに出来なかったという事で、怒り狂ってるらしいんだ。とにかく、ああいう乱暴者をおとなしくさせるために
  7756. は、きまった女を持たせてやるのが一番だと思うんだ。それを、お前さんに頼みてえというわけよ」
  7757.  京子の固く閉ざされた膝頭は、屈辱のためか、ブルブル震えている。何時か静子夫人を救出して、この地獄屋敷から、あと一歩で脱出出来るというところ、吉沢の折害にあって望みを断ち切られたのであり、京子にとっては、憎みてもあまりある男。空手を使って、一旦は、吉沢をあの時倒したものの、結局は捕えられ、そのあげく、吉沢の手で、浣腸、剃毛と心臓もはりさけるばかりの羞恥責めを受けた京子である。むしろ、京子の操を奪った川田よりも京子にとっては八つ裂きにしてやりたい程の憎い男であるが、その吉沢の女にされるとは、京子はキリキリと歯を噛みならし、呼吸が止まるばかりの口惜しさに悶えるのである。
  7758. 「お前が嫌だといえば、仕方がねえ。最初の予定通り、美津子と吉沢を夫婦にしちまうだけだ」
  7759.  川田は、先程から、そういう言い方で、京子を強迫しつづけていたのだ。彼等の得意とする強迫方法である。美津子を吉沢の女にするもしないも、姉のお前の心がけしだいだ。こうした脅しに京子も静子夫人と同じく弱かったのだ。
  7760.  森田が薄笑いを口に浮かべて京子に近づいていう。
  7761. 「なあ、京子。おめえも、この屋敷へスパイとして乗りこんだ時は、空手を使うとんだジャジャ馬だったじゃねえか。それが、この川田のおかげで、女にして貰い、毎日の調教でどうだい、今じゃケツにも肉が乗ってきたし、おっぱいだって、はち切れるように大きく盛り上って来た。前とは、見違えるばかりの色っぽさだぜ。男の味もわかって来たろうし、そろそろきまった夫を持ってもいい頃だと思うぜ」
  7762.  森田は、ねちねちした調子で、京子に因果を含めるようにいう。
  7763.  京子は、虫酸の走るような森田の言葉を耳から振り払うように首を振り、きっと顔をあげた。
  7764. 「美津子に、美津子に一眼逢わして下さい」
  7765.  京子にとって、美津子が吉沢の毒牙にかけられずにすんだという事が、死中に活を得たような救われた気持だったのである。美津子の身の安全を本当に川田が約束してくれるならば、その犠牲にでも身代りにでも、自分はすすんでなろうと京子は悲痛な決心をする。
  7766.  川田は、銀子に注がれたウイスキーを、うまそうに口をとがらして飲むと、
  7767. 「心配することはねえ。美津子はまだ花を散らしちゃいねえよ。恋人の文夫と一緒に地下の一室で平和に暮しているぜ」
  7768.  京子は、それを聞くと、陰毛の長い美しい黒眼を川田に向ける。
  7769. 「川田さん。今度だけは、ほんとに今度だけは、京子と約束して頂戴」
  7770. 「何をだね」
  7771. 「美津子の、美津子の体だけは、お、お願いです」
  7772.  京子は、そこまでいうと、たまらなくなったように声をあげて泣き出してしまう。
  7773.  川田は、激しく肩を震わせて鳴咽する京子の白い肩に手をかけるようにして、
  7774. 「いい子だ、いい子だ、泣くんじゃねえ」
  7775.  と、銀子や朱美の方に舌を出して見せる。
  7776. 「じゃ、京子、俺だって、男だ。お前がそれほど妹の身を思つてるなら、よし、美津子の体の安全は保証してやるぜ」
  7777.  その代り、と銀子や朱美が、残忍なものを眼の底に浮かべて京子の傍へ寄ってくる。
  7778. 「いいわね。吉沢さんのいい奥さんになってくれるわね」
  7779.  京子は、唇を血の出るはど固く噛みしめながら、小さくうなずく。
  7780. 「まあ、よく決心してくれたわ。これでやっと、あたい達も肩の荷が降りたっていうものだわ」
  7781.  銀子は、川田や森田の顔を見ながら、浮き浮きした調子でいう。
  7782. 「じゃ、吉沢夫人となられる京子嬢の前途を祝福して乾杯しようじゃないか」
  7783.  田代がそういうと、川田や森田、それに銀子達は、すすり泣きを続ける京子の肩や背に手をかけるようにして、スタンドへ押しやって行く。
  7784.  そして、数人がかりで抱き上げるようにして、スタンドの止まり木に京子の尻を乗せつけるのだった。
  7785. 「さあ、皆んな、ビールで乾杯だ」
  7786.  といいながらも、京子を後手に縛ってある縄は解いてやろうともせず、コップになみなみと注がれたビールを京子の口に当てがうのだ。そんな京子の両側の止まり木には、銀子と朱美が、そして、カウンターの中には義子と悦子が、それぞれ、ビールやウイスキーを飲みつつ、川田に無理やりビールを飲まされている京子を面白そうに眺めているのだ。
  7787.  川田が手にしたコップのビールを強引に□の中へ流しこまれる京子。
  7788.  苦しげに幾度も首を振ったが、遂に、コップのビールは一滴残らず、口の中へ注ぎこまれてしまう。
  7789.  大きく息をついた京子を見て、ズベ公達は手を叩いて、囃し立てるのだった。
  7790. 「フフフ、ねえ、京子。吉沢さんは、すごくしつこい人だけど、妻の貴女は、どんな事をされても、辛抱しなきゃ駄目よ」
  7791.  と、銀子がいい、続いて朱美も、
  7792. 「その代り貴女は、今夜から、もう地下の薄暗い牢屋の中で暮さなくてもいいのよ。吉沢さんの部屋の中で、ふわふわしたお布団にくるまって、のんぴり暮す事が出来るわけ。でも、当分、両手の自由は許せないわ。かなり女らしくなってきたからといっても、貴女の空手は、おっかないものね。夫婦喧嘩にでもなったら、吉沢さんなんか一発でのされちまうもの」
  7793.  次に、義子が、顔を横へ伏せている京子の顎に手をかけ、その美しい顔をぐいと正面にこじあげる。
  7794. 「恥ずかしくも何ともないという気持になれるまで、そのままにしておくのが、ショーのスターを育てるためのコツなのよ。でもね、誰が見ても、ほんとに吉沢さんに対して献身的な妻であるように見えた時、私達から、鬼源さんに頼んで、褌の着用を特別に許してもらってあげるわ」
  7795.  ズベ公達は、口々にそんな事をいい合い、京子を酒の肴にしている。
  7796.  森田も、ズベ公達のグループに加わって、
  7797. 「いくら吉沢の女になったからといったって仕事の方を、おろそかにしてもらっちゃ困るぜ。鬼源に聞いたんだが、おめえ、まだバナナ一本満足に切れねえそうじゃないか。ええ、京子」
  7798.  森田は、京子を横からつつくようにしていった。
  7799. 「奥さんの方は、なんとかできるようになったというぜ。奥さんに負けねえよう、明日からは心を入れかえて、鬼源の調教をしっかり受ける事だな」
  7800.  川田は、そういって、京子の肩に手をかける。
  7801. 「さあ、そろそろ行こうか。吉沢兄貴が、今か今かと部屋の中で待っているからな」
  7802.  背の高い椅子から下へ降ろされた京子は、川田に縄尻を取られて、ドアの方へ引き立てられて行こうとする。
  7803. 「ちょっと待ちなよ」
  7804.  森田が声をかけた。
  7805. 「地下牢の土の匂いが肌についてるかも知れない。吉沢に嫌われちゃ気の毒だ。静子夫人の時と同様、社長と俺とが全身美容をしてやろうじゃないか」
  7806.  
  7807.  
  7808.     侵入者
  7809.  
  7810.  薄暗い地下牢の中、四坪ぐらいのその内部に、一米ばかりの間隔をあけて、二本の丸太が打ちこまれてある。その下には、荒むしろが各々敷かれて、後手にきびしく緊縛
  7811. されている文夫と美津子が棒に縄尻をつながれて坐っている。向かい合った形で、棒につながれている美少年と美少女は、互いに立膝を組むようにして、赤らんだ顔をねじ曲げるようにしていた。地下室のレンガの壁にある薄い燭光の電球が、この哀れな二人を、ぼんやりと照らし出している。
  7812.  若い美しい恋人同士を同じ牢屋に閉じこめ、しかも、二つの棒に向かい合わせた形で縛り止めておくというのは、義子や悦子である。美津子も文夫も、ここへ入れられ、棒につながれてから、一言も言葉をかわさず、ただ、顔をそむけ合って、すすり泣きを続けているだけであった。
  7813.  やがて、美津子は、震えるような声で、やっと唇を開いた。
  7814. 「♢♢許して、文夫さん。ああ、私、私、いっそ死にたい♢♢」
  7815.  そのまま、鳴咽してしまう美津子である。
  7816.  文夫は、一瞬、顔をあげ、美津子の方を見たが、すぐに見てはならぬものを見たように視線をそらし、
  7817. 「死んだら、何もならない。僕は、あの連中に、必ずこの復讐をしてやる」
  7818.  そう吐き出すようにいい、文夫もたまらなくなったように怒りと口惜しさに肩を震わせるのであった。
  7819.  突然、牢格子の外から笑い声が起こる。
  7820.  何時の間にか、誰かがこっそり地下室へ降りて来て、じっと中をのぞいていたのだ。
  7821.  美少年と美少女は、ほっとして、一層、首をすくめたが、すぐにガチャガチャ錠前を外す音がし、のっそり入って来たのは、銀子と千代の二人であった。恐らく銀子が、地下に監禁してある美少年や美少女を千代にのぞかせてやるため、連れて来たのであろう。二人とも、酒に足をとられてフラフラしている。
  7822. 「あんた達も、よく知っておおき、私達のスポンサーである千代夫人よ」
  7823.  銀子は、哀れな二人の若い捕虜を見下ろしながら、楽しそうにいう。
  7824. 「まあ、ほんとに、男前のお坊っちゃんね」
  7825.  千代は、文夫の前に、酒臭い息を吐きながら、しゃがみ、
  7826. 「ホホホ、何もそんなに恥ずかしがる事はないわよ。可愛いお坊っちゃんね」
  7827.  文夫が、足をひき、腰を浮かせるような恰好をして、小さくなるので、それを千代は、面白がったが、ふと、それに気づいた銀子がニヤリと口元を歪め、そうだ、いい事があると牢舎を出ると、大きな木の箱をかかえて戻って来た。箱の中には七、八寸ぐらいの竹ぐいが数本、入っている。
  7828.  銀子は木槌をつかって、その竹ぐいを二本、文夫が坐らされているむしろの前に、一米ぐらいの間隔を開けて、コンコンと打ちつけ始めるのだった。
  7829. 「男のくせに恥ずかしがるなんて、みっともないよ。さあ」
  7830.  銀子は、牢舎の隅に落ちていた縄切れを拾って、文夫の足首を、その打ちこんだ竹ぐいに縛り止めようとする。
  7831. 「うっ、な、何をするんだ」
  7832.  銀子と千代が、これはいい運動だとばかり文夫の足をからめ取ろうとしていくと、文夫は、蘇ったように両足をばたつかせるのだった。しかし、後手にきびしく緊縛された
  7833. 身では酔っぱらった女のカにも勝てない。
  7834.  銀子と千代は、膝の上へかいこむように押さえこんだ文夫の足首を土間に打ちこまれた左右の竹ぐいにひっかけるようにして、ハアハア息をつきながら、素早く縄をかけていくのだった。
  7835. 「ヤレヤレ、全く、元気のいいお坊っちゃんだ。でも、それ位の元気があった方が頼もしいわよ。明日のショーが楽しみだわ」
  7836.  文夫は真っ赤な顔になって、歯を噛みしめている。
  7837. 「ホホホ、お若いのに、全く御立派だわ」
  7838.  千代は、そんな文夫の前に身をかがませ、しげしげと見つめながら煙草を吸い始める。
  7839. 「ね、千代夫人。ちょっと、……ごらんなさいよ」
  7840. 「まさか」
  7841.  千代は、照れくさそうに笑いながら、立ち上る。
  7842. 「おやおや、こちらにいらっしゃるのは、お嬢さんね。まあ、きれいな娘じゃないの。かわいそうに」
  7843.  千代は、美津子に気づいて、その新鮮な美しい容貌に眼を瞠った。
  7844. 「この娘が、そら、今、社長達に全身美容をされている京子の妹よ。夕霧女子高校の三年生。勿論、まだ処女、色々と経験はしていますけれどね。フフフ」
  7845.  銀子は、そういいながら、竹ぐいを同じく美津子の前に間隔を置いて打ちつけ始める。木槌で、竹ぐいの頭をたたきながら、銀子は眼の前で、ぴったりと立膝をして羞恥に悶えつづけている美津子を楽しそうに見て、
  7846. 「フフフ、貴女、さっきは、文夫さんに、すばらしい事をしてあげたそうじゃないの」
  7847.  美津子は、黒い髪を震わせるようにして首を深く垂れてしまう。
  7848.  千代がいった。
  7849. 「へえ、これが女子高校生ね。いい体をしてるわ。ちょっと学生なんかには見えないわよ」
  7850.  竹ぐいを打ちこんだ銀子は、手をはらいながら立ち上り、千代夫人、悪いけど手伝ってね、と美津子の方を顎で示す。
  7851. 「さあ、お嬢さん、貴女も彼氏と同じように」
  7852.  銀子と千代の手は、美津子の足をとらえようとする。
  7853. 「ああー」
  7854.  力一杯、左右にひっぱり、その足首を竹ぐいに当てがって、キリキリと縄をかけていきながら、千代と銀子は、固く眼を閉じ、歯ぎしりをしている美津子の美しい容貌を眺めるのだ。
  7855.  仕事をすまして立ち上った千代と銀子は、美少年と美少女を、見くらべるように眺める。
  7856. 「二人とも、全くいい恰好だわ。今夜は、そのままにしておいたげるから、色々お話をするがいいわ」
  7857.  銀子はそういって、千代をうながし、牢舎から出ようとしたが、
  7858. 「ああ、そうそう、言うのを忘れたけど、明日の予定は、はっきりとさっき、決まったのよ。あんた達、二人のプレイは、午後一時から夕方六時まで。ずいぷん長いようだけど業者と約束してあるフィルムを五本分、撮影するわけよ。見物人は葉桜団、森田組の全員。客は関口一家、熊沢組の幹部数名。監督は鬼源さんだけど、助手としては葉桜団と森田組が交代で受け持つ事になったからね。一つ、しっかり、たのむわよ。それから、二時間、休憩。八時よりは、夫婦になったあんた達の祝賀会。あんた達のお姉さん方も出席をせるわ。それから、長い間、おあずけくわしたけど、剃髪式。これは、お客様の手で行っていただく」
  7859.  そうした恐ろしい言葉を真っ向から浴びせかけられ、羞恥と恐怖に体を震わせ始めた文夫と美津子を、二人の悪女は小気味よさそうに見て、
  7860. 「明日のプレイを、お互いによく話し合っておく事ね」
  7861.  それを捨て科白にして、銀子と千代は、牢から出て、格子扉を閉めると、鍵をかけ、何か高声で笑いながら、地下から出て行くのだった。二人の悪女が去ってから、文夫と美津子はひときわ激しく声をあげて、泣きじゃくる。
  7862. 「♢♢美っちゃんっ。たとえ、獣のような目に合わされたって、望みを失っちゃいけないよ。きっと、きっと、僕達は救い出される時が来るよ」
  7863. 「♢♢でも、でも♢♢」
  7864.  美津子は、涙がキラキラ光る美しい黒眼を文夫の方へ向ける。二人の視線は一瞬合ったが、反射的に再び二人は視線をそらし合う。
  7865. 「嫌、嫌、私を見ないで」
  7866.  美津子は、火のように熱くなった頬を肩にこすりつけるようにしていう。先程、密室の中で、義子や竹田達に強制された魂も凍るばかりの恐ろしい経験にくらべれば、文夫の前にこういう姿を晒している事など、まだしも耐えられるというものであろうが、それでも、手を出せば、届きそうな距離をはさんで、このようなあられもない姿を長時間晒しつづけねばならぬという事は、やはり、十八の乙女にとつては、身を切られるよりも辛い事であった。
  7867.  そんな時、再び、ギイーと扉の軋む音がして、誰かがそっと地下の階投を降りて来たようである。牢屋の格子扉が、ガチャリ、ガチャリと鳴り、やがて、閂を押して、ぬっと入って来たのは、チンピラの竹田と堀川の二人であった。
  7868. 「うわ、たまらねえ恰好をしてやがる」
  7869.  竹田と堀川は、文夫の方には見向きもせず美津子の傍に身を寄せていく。
  7870. 「な、何をするんですっ。出て行って、出て行って下さいっ」
  7871.  美津子は、その両側に二人のチンピラが身を寄せてくる
  7872. と、体を石のように硬化させ、声を震わせて叫ぶのだった。
  7873. 「さっきのような事をすると、おめえの方は楽しかったかも知らないが、こちとらは虫が納まらないんだよ」
  7874.  竹田は、そういって、牢格子の聞から外の気配をうかがい、再び、美津子の横へしゃがみこんで、
  7875. 「銀子姐さん達が、引き揚げるまで、俺達はさっきから待ってたんだぜ。俺達は、別に森田組を裏切るわけじゃねえが、幹部の兄貴達ばかりいい目に合ってやがる。俺達は何時も貧乏くじばかりだ。なまじ、ああいう事だけを、それもはんのちょっとの間、させる位なもんだ。馬鹿にするなといいたくなるぜ」
  7876.  美津子は、血の気をなくした表情で、わなわな唇を動かす。
  7877. 「そ、それで、どうしようというのです」
  7878.  堀川は、美津子の雪のように白い肩に手をかけ、その場にあぐらを組むと、そっと片手を美津子の弾力のある太腿の上に、わざとらしく置く。
  7879. 「♢♢は、はなしてっ。さわらないで」
  7880. 「何も、今更、つれない事、言うなよ。さっきは、ずいぶんと鼻を鳴らして悦んでたじゃないか。それによ、言いたかねえけど、そこから♢♢」
  7881. 「お、お願い、出て行って!」
  7882.  美津子は、竹田と堀川に、両側から、肩を抱きかかえられるようにされ、二人の手が、そっと乳房の上を包むようにかかるに及んで悲鳴をあげる。
  7883. 「どうせ、明日は散らされるんじゃねえか。それもよ、縛られたままの姿で、人形つかいにかかったみてえに手とり足とりされ、熊沢組の連中が見ている前で、おもちゃにされるんだぜ。そんな目に合って、散らすぐらいなら、今夜、ひと思いに俺達二人に♢♢」
  7884.  竹田も堀川も、幹部の者達が楽しい日をしても、自分達がそうした恩恵に浴さぬ事を不満に思い、夜這いでもかけるような気で美津子を襲ったのである。
  7885. 「嫌、嫌です。あっ、文夫さん、助けてっ」
  7886.  美津子は狂ったように悶え叫ぶ。
  7887.  文夫の方も逆上する。自由のきかぬ手足を悶えさして、
  7888. 「何をするんだ。離せ、美津子さんに手を出すと承知しないぞっ」
  7889.  と大声で叫ぶのだ。
  7890. 「やかましいやい。手前はさっき、ずいぶんと楽しい思いをしたじゃねえか。今度は俺達が楽しませてもらう番だ」
  7891.  堀川は立ち上ってポケットから手拭を出し文夫の所へズカズカ近づくと、わめきつづける文夫の横面を激しく平手打ちし、身をかがめて、素早く口に猿轡をはめるのであった。
  7892. 「へっ、ざまあみろ。そんなものをぶらつかせながら大きな口をきくねえ」
  7893.  再び、美津子の所へ戻って、どっかとあぐらを組んだ竹田は、恐怖に肩を寮わせている美津子の白い頬に鼻をすりつけるようにしていう。
  7894. 「いつか、親分の命令で、おめえを浣腸責めにかけた事があったっけな。その前にいる文夫てえのは、おめえの恋人かも知れねえが、その恋人にも見せた事のねえ汚ねえものを、おめえは、はっきりと俺達の眼に見られちまってるん
  7895. だぜ」
  7896.  つまり、そういう間柄になっているのだぞと竹田と堀川は、言いたがっているのだ。
  7897.  美津子は、首筋まで赤く染め、がっくり首を垂れて、鳴咽しつづける。
  7898. 「おめえが初めて、この屋敷へ連れこまれて来た時、セーラー服のよく似合う清純な感じのおめえを見た俺は、クラクラと目まいが起こりそうな気分だった。あれが俺の初恋♢♢」
  7899.  竹田がそういうと、堀川が、ゲラゲラ笑い出す。
  7900. 「何がおかしいんだ、この野郎」
  7901. 「いえ、全く兄貴も純情だといいたいんですよ。何しろ、浣腸責めに合った美津子が排泄したものを、兄貴はずいぶんと長い間、隠して持ってたじゃありませんか」
  7902. 「今でも持ってらあ」
  7903.  竹田は、内ポケットから、ビニールに包んだ新聞紙を取り出す。
  7904. 「石のように硬くなったものがまだ少し、残っている筈だ」
  7905.  竹田は、新聞紙を広げて、赤褐色のボロボロになったものを美津子に見せようとする。
  7906. 「嫌、嫌」
  7907.  美津子は、火がついたように赤くなった顔をねじ肋げるようにして、目の前へ突き出された新聞紙から顔をそらせる。
  7908.  堀川が、ニヤリと口元を歪めた。
  7909. 「何も嫌がる事はねえだろう。おめえの体から出たものじゃねえか」
  7910. 「ああ!」
  7911.  美津子は、あまりの屈辱に、深く垂れていた首を大きく上へ苦しげにのけぞらす。
  7912. 「こればかりじゃねえぜ。おめえが何時か、吉沢兄貴に汲みとらせたものだって、俺はビール瓶の中へちゃんと持ってるんだ」
  7913.  数々、口で、美少女を嬲りぬいたチンピラ二人は、本道に入る。
  7914. 「な、おめえと俺達とは、こういう間柄だ。だからよ、俺達に女にしてもらったって、何の不忠議でもねえ苦だ」
  7915.  念のために、と、美津子の悲鳴が外部に洩れるのを恐れた堀川は、用意してきた豆絞りの手拭を取り出し、美津子の口にきびしく獲轡をはめ始める。
  7916. 「銀子姐さん達も、気をきかしたようなもんだ。さあ、早くいらっしゃいよ、という風にいい恰好に縛り直してくれたんだからな」
  7917.  堀川に猿轡を固く噛まされた美津子は、黒眼がちの美しい瞳に憎悪と嫌悪をこめ、床に身を伏せるようにして美津子に眼を近づけて来た野卑な男を、侮蔑的に見返していたのであった。
  7918.  
  7919.  
  7920.  
  7921. 第二十九章 逃走の失敗
  7922.  
  7923.  
  7924.     風前の灯
  7925.  
  7926. 「兄貴、やっぱり、ここじゃ気分が出ねえ。もっとムードのある部屋へ連れ込もうや」
  7927.  堀川が竹田にいった。
  7928.  カビくさく、荒むしろなどが敷かれただけの薄暗くてしめっぽい土牢の中で、こんな艶々しい美女を料理するのは惜しいと、堀川は竹田に相談をしかけたのである。
  7929. 「それもそうだな」
  7930.  と、竹田もうなずく。
  7931. 「恋人の見ている前じゃ美津子も辛くて、ハッスル出来ねえだろうからな。よし、それじゃあ担ぎ出そう」
  7932.  豆絞りの手拭で、鼻まで覆われるような猿轡を噛まされている美少女は、両肢が自由になると、本能的に腿と腿とを密着させるのだったが、
  7933. 「さ、おんぶしてやるぜ」
  7934.  後ろの棒ぐいにつないであった縄を外した竹田は、思いきり、ぐいと縄尻を引き、美津子を強引に立ち上らせるのだった。
  7935.  立ち上った美津子の前に、堀川が後ろ向きになって身体をかがませる。
  7936. 「さ、俺の背中に乗っかりな」
  7937.  竹田に背をつつかれた美津子は、眼を固く閉じ合わせ我が身を堀川の背へ倒していく。
  7938. 「どっこいしょ。へえ—、割に重てえな。このお嬢さん」
  7939.  堀川は、美津子のふくよかな尻に両手を廻して、二、三度、上へ押し上げるようにして立ち上る。
  7940.  完全におぶさってしまった美津子は、がっくりと首を堀川の肩へ押しつけるょうにして激しく、すすり泣きを始めるのだった。
  7941. 「さ、行こうぜ」
  7942.  牢舎の扉を押し開けた竹田は、美津子を背負った堀川をうながした。
  7943.  堀川の背に乗っている美津子は、涙で、キラキラ光る美しい黒眼を、牢舎の中へ一人残されている、みじめな文夫に、ふと向ける。
  7944.  文夫さん、許して。美津子はもう駄目よ。と、恐らく美津子は心の中でいったのであろう。
  7945.  猿轡を美津子と同じように固く噛まされている文夫は、八の字に開かされている両足を激しく悶えさせるようにして、牢舎から出て行く美津子を血走った眼で見つめている。
  7946.  そんな文夫を、表へ出た竹田は格子の間から面白そうに眺めていた。
  7947. 「へへへ、悪いけど、お坊っちゃん。美津子嬢は、ちょっとの間、お借りするぜ。用事がすんだら、ちゃんと、ここへ返しに来るからな。ハッハハ」
  7948.  そういって、笑い出し、美津子を背負った堀川と一緒に、地下の階段を上って行くのだった。
  7949. 「さ、兄貴。一体、これからどこへ行ったらいいんだい」
  7950.  地下室より表廊下へ出た堀川は、背負った美津子のふくよかな尻の感触を楽しみながら竹田にいった。
  7951. 「そうだな。このお嬢さんの姉さんが断髪された土蔵部屋がいいだろう。あそこなら邪魔は入らねえよ」
  7952. 「よしきた」
  7953.  堀川は、わくわくする思いで足を早め、渡り廊下から庭へ降りる。
  7954.  屋敷にいる連中に気づかれないように、なるたけ足音をたてないで庭の敷石をわたり、奥の竹藪へ向かって進んで行く。竹藪の奥には、会員達を集めて、秘密ショーを開催する事になっている秘密の部屋があるのだ。
  7955.  美津子は、目前に竹藪が近づくと、もう駄目だと観念の眼を閉じたが♢♢突然、あっと堀川は切株にけつまずき、その場へ転倒してしまう。美津子は、堀川の背から投げ出され草むらの中へ転がってしまったのだ。
  7956. 「馬鹿野郎、気をつけろ」
  7957.  竹田は、腰を押さえて、いててて、と顔をしかめる堀川には眼もくれず、前へ投げ出されてしまった美津子を抱え上げようとする。
  7958.  両手を後手に縛り上げられているため、重心がとれず、どこかを強く打ったのではなかろうかと、つまり、美津子が商品でもあろだけに、その美しい肌に生傷などついては大変だと竹田はあわてて、かけ寄って行ったのであったが♢♢美津子は緊縛された自由のきかぬ体をよじって、やっと立ち上り、竹田の手がのびて来る直前、反射的に身をひるがえし、そのまま逃げ出したのである。
  7959. 「あっ畜生、待ちやがれっ」
  7960.  竹田は、うろたえて懸命に追う。
  7961.  美津子は所詮、これらの悪魔の手から逃げ切れるとは思わない。これから、この竹藪の向こうにある密室の中へ連れこまれ、二匹の野獣の爪にひきさかれる恐ろしさを思えば、再び捕まった後、どのような折檻をされるという事など考える余裕はなく、美津子は、前後の見境もないまま、本能的に逃走したのであった。
  7962.  草むらへ投げ出されたはずみで、美津子の口をきびしく覆っていた猿轡は外れていた。美津子は必死になって、外壁に向かい大声をあげる。
  7963. 「助けてっ。誰か、誰か助けて下さい!」
  7964.  竹田は一層、あわて出した。
  7965.  深夜になれば、このあたりは全く人通りはなく、外の誰かに美津子の悲鳴が聞こえるという事はまずないであろうが、屋敷の中にいる連中に聞こえると、あとが大変だ。商売ものに手をつけようとしたという事で、森田親分より指をつめさせられるという事も十分あり得る。
  7966.  竹田は、血走った思いになった。
  7967.  なお、まずい事に、美津子は竹藪の中へ逃げこんだのである。竹藪は、かなり広い。夜だけに、人間一人もぐりこんだとなると、なかなか見つけ出せるものではない。
  7968. 「畜生」
  7969.  竹田は血眼になって竹藪の中に入った。堀川も、ちんばを引きながらやってくる。
  7970. 「堀川、お前は左へ廻れ。俺は右の方を調べるからな」
  7971.  二人は二手に別れて、竹藪の中へ入って行った。
  7972. 「やい、美津子、おとなしく出て来い。出て来ねえと、ひっつかまえた時、口じゃいえねえはどの恥ずかしい目に合わすぞ」
  7973.  竹田は、うっそうとした竹藪の中へ向かって、そうどなった。
  7974.  ふと月は雲間に隠れ、あたり一面は、漆を塗ったような闇になる。
  7975. 「やい、出て来ねえか」
  7976.  竹田も堀川も、おろおろした声でどなるのだった。
  7977.  
  7978.  
  7979.     京子の逃走
  7980.  
  7981. 「さ、歩きな」
  7982.  京子は川田に縄尻を取られ、部屋から廊下へ出てくる。
  7983.  美しく髪もセットされ、更に全身美容までほどこされた京子は、豊かな胸を真新しい麻縄数本できびしく緊縛され、観念の眼を閉じて、吉沢の待つ部屋へ引き立てられて行くのだった。
  7984.  山続きの崖や大竹藪などがある広大な庭に突き出た渡り廊下を、京子は川田に背を押されるようにしながら、柔軟な体をくの字に曲げて歩かされていたが、おや、と川田は途中で立ち止った。
  7985.  竹藪の中でガサゴソと物音がしたからである。
  7986. 「そこにいるのは誰だっ」
  7987.  川田が大声で叫ぶと、物音は止ったが、もしやその筋の者が侵入して来たのではないかと川田は捨てておけぬ気持になる。
  7988. 「京子、ちょっと、ここで待ってるんだぞ」
  7989.  川田は、渡り廊下の手摺に京子の縄尻をつなぎ、銀子や朱美達のいる部屋へ走っていく。竹藪の中に何者かがひそんでいるのはたしかで、自分一人で調べに行くのは気味悪く葉桜団や森田組の若い衆達の力を求めに行ったのであろう。
  7990.  川田の姿が廊下から消えると同時に、再び竹藪の中では、草をふみしめるような音がする。
  7991. 「あっ」
  7992.  もしや誰かが救援に来てくれたのでは、と京子は竹藪の方を眼をこらして見ていたのであるが、思わず、その正体を知って驚きの声をあげた。
  7993. 「美、美津子っ」
  7994.  月の光に浮かび上るように美津子が竹と竹の間からのぞいたのである。
  7995. 「あ、お姉さん!」
  7996.  美津子は、もう前後の見境もなく、竹藪の中から飛び出して来た。
  7997.  こうこうとした月の、ねばりつくような光波に包まれた雪のように白い美津子の裸身。走りながら、時折、重心を失ったようによろけるのは、両手を後手に縛り上げられているせいであろう。そのような不自由な体で、どこをどう逃げて来たのだろう。そう思うと、京子は、あまりの哀れさに、胸のあたりが錐でえぐられるように痛み、
  7998. 「美津子、ど、どうしたの」
  7999.  何と言っていいかわからず、京子はそんな事をいって涙ぐむのだったが、美津子が必死になって廊下へ上り、自分のもとへ近づいてくると、ほっとしていった。
  8000. 「いけない、ここへは川田達が来るのよ。逃げてっ、何とか逃げるのよ。ここへ来ちゃ駄目!」
  8001.  心を鬼にする気で、そう叫んだものの、きびしく後手に緊縛されている美津子が、どうして、この周囲が堀に取り囲まれている屋敷から脱出する事が出来よう。
  8002. 「お姉さん!」
  8003.  美津子は走り寄ってくると、京子の肩に顔を埋めるようにして、堰を切ったように泣き出すのであった。
  8004.  美津子が、この屋敷に巣くうズベ公やチンピラ達に、どのような恐ろしい日に遭わされつづけていたか、京子も想像はつく。
  8005.  かわいそうな美津子♢♢京子も泣きじゃくる美津子の黒髪に顔を押し当てるようにして声をあげて泣くのだった。
  8006. 「お、お姉さん、美津子、死にたい。ああ、死んでしまいたいっ」
  8007.  美津子は京子の肩に押し当てた頭を震わせるようにしていう。
  8008.  廊下の向こうの方で、どたどたと激しい足音が起こった。
  8009. 川田の連絡を受けた森田組や葉桜団が、竹藪の中の曲者の正体を見極めようとして、かけつけて来たのであろう。もうぐずぐずは出来ない。美津子が連中の手に捕われれば、逃走を計った罰として、どのようなおぞましい責め折檻が待っているかわからないのだ。それに、美津子自身、もう逃走の気力を失っている。どうしようもなく、ただ姉の胸元に顔を埋め、泣きじゃくっているだけなのだ。
  8010.  京子は、眼前で美津子が、鬼畜に等しい連中の手で取り押さえられ、再び、地獄部屋へ連行されて行くのを見るに忍びず、必死になって、固く緊縛されている体をゆすり、何とか縛めを解こうとしたが、川田にかけられた縄は、もがけばもがくほど、固くしまり出しこそすれ、びくともするものではなかった。だが、川田が手摺に結んでいった縄尻はよほど川田もあわてていたと見え、軽く結んであっただけなので、美津子が、身をかがめて歯をつかって解き始
  8011. めると、簡単にパラリと縄尻ははぐれ、解きはなす事が出来たのである。
  8012. 「美っちゃん、逃げよう!」
  8013.  京子は美津子をうながし、姉と妹は、固く緊縛されたままの不自如な身を互いにかばうようにしながら、廊下を走り出したのである。
  8014. 「あっ、あそこだっ」
  8015.  竹藪の中から泥だらけになって、這い出して来た竹田と堀川が叫んだ。
  8016.  京子は、一旦、美津子をせかして庭へ降りようとしたものの、二人のチンピラの出現にほっとし、
  8017. 「美っちゃん、こっちへ早く!」
  8018.  姉妹は廊下の突き当たりまで走り、階投をかけ上るのだった。捕まれば、地獄の責苦が待っている。二人は必死の思いで、二階へ上ると、無我夢中で、廊下を走りつづける。
  8019. 「京子も美津子と一緒に逃げ出したぜ。二階だ。皆んな二階へ上れ!」
  8020.  大声でどなっているのは川田である。
  8021.  京子は美津子を叱咤するようにして、二階の廊下を走るものの、周囲は全部敵に囲まれ、つまり、敵の本陣の中心で右往左往しているにすぎないわけだが、そんな事すら考える余裕はなかった。
  8022. 「あっ」
  8023.  京子は、前方に現われた竹田と堀川の姿を見て息をのんで充ち上った。
  8024. 「馬鹿な奴だ。この屋敷の中から逃げられるとでも思ってやがんのか」
  8025.  竹田と堀川は、通せんぼでもするように手を広げながら、じわじわと追って行く。
  8026.  京子は、竹田と堀川に必死の眼を向けつつ美津子を後ろへかばうようにして後退し始める。
  8027. 「おのきっ。ち、近寄ると承知しないよっ」
  8028.  京子は、歯を喰いしばった表情で、近づいてくる二人のチンピラにいったが、フンと竹田は鼻に小じわを寄せて笑う。
  8029. 「何をいいやがる。大きな口をきくじゃねえか」
  8030.  二人のチンピラは顔を見合わせて笑うのだった。二人とも京子は空手二段の腕前を持つ山崎探偵の女秘書である事は知っている。だが、彼女の得意の空手チョップも、その両腕の自由を奪われている限り、心配する必要はないと竹
  8031. 田も堀川も、せせら笑って、ズカズカと踏みこんで来たのだ。
  8032. 「姉の方も一緒に可愛がってくれっていうんだな。こっちも二人だから好都合だ。さあ、こっちへ来な」
  8033.  両手の自由もきかぬ女一匹、何の事はないと、その縄尻を取るべく、接近していく。
  8034.  京子は、おろおろする美津子を背にかばうようにしながら、後退を続けたが、今度は後ろから、
  8035. 「やい、京子、まだ手前、根性は直らねえようだな」
  8036.  吉沢であった。精神的にも肉体的にも、すっかり調教され、女として生まれ変った京子が、部屋へ運ばれてくるものだと思っていた吉沢であったが、京子が逃げたという階下の声に、眼をつり上げ、びっこをひきつつ、部屋から出て来たのだ。
  8037.  吉沢の声に、京子は、反射的に背後を振り向き、全身を針のように緊張させて、美津子を背へ隠す。
  8038.  前も敵、後ろも敵、進退極まった京子であるが、更に、ドタドタと階段をかけ上る音がして、川田が銀子や朱美達と一緒に現われたのだ。
  8039. 「性こりもなく、よくも、よくも逃げ出しやがったな。さ、京子、もう一度、根性を叩き直してやる。こっちへ来るんだ」
  8040.  川田も眼をつり上げて、どなるのだった。
  8041.  もう逃がれる術はなかった。逃がれられないことは最初からわかっている。わかっていながら逃走したという事は、妹の美津子が地獄の責苦に合わされるのを、少しでものばしたいという京子の、せっぱつまった気持からである。
  8042.  もうどうしようもなく、京子は、血の出るほど唇を固く噛み、がっくりと首を落とし、その背後にいる美津子は、姉の背に顔を押し当て、肩を震わせて泣きじゃくる。
  8043.  そんな二人の美女を吉沢は、舌なめずりをするように見て、
  8044. 「おや、京子。しばらく見ねえうちに、大分黒くなってきたじゃねえか。ちょっと、こっちへ突き出して、よく見せてみなよ」
  8045.  それを聞くと、あたりを取り囲むズベ公や、やくざ達は、どっと笑う。
  8046. 「ちょっと、さわらせてみな」
  8047.  吉沢は見物人を笑わせるつもりで、そんな事を言い、京子に近づいて、手を差しのばした。
  8048.  京子は、悲鳴をあげて、身をちぢませる。見物人達の哄笑が、どっとわき起こった。
  8049.  身体を二つ折りにする京子に対して、吉沢は執拗に喰い下がろうとする。あまりの屈辱に京子は、吉沢の手の甲へ噛みついた。
  8050. 「いてっ」
  8051.  吉沢は顔を歪めて、京子に噛みつかれた手を振りほどこうとしたが、京子も必死であった。
  8052. 「は、はなしてくれっ。いてえっ、助けてくれっ」
  8053.  吉沢は、顔をしかめて、わめき出す。
  8054.  最初は面白がって見ていた連中も、吉沢の顔色が変って来たので、驚き、寄ってたかって、京子の鼻をつまみ、耳をひっぱったりして、やっと、吉沢の手を京子の口から、ひっぱり戻したのだ。
  8055.  吉沢の手の甲から、血が流れている。
  8056. 「畜生、何て事をしやがるんだ!」
  8057.  川田が、カンカンになって、京子の横面をひっぱたいた。
  8058. 「何だ、騒々しいじゃねえか」
  8059.  森田が階段を上ってやって来た。
  8060. 「今、伊沢先生と静子夫人は楽しいプレイの最中なんだ。あんまりガタガタすると先生に失礼だぜ」
  8061. 「だって親分さん」  
  8062.  銀子が口をとがらせるようにして、京子が美津子と一緒に逃走をはかった事、そして、相手もあろうに今夜、契りを結ぶ相手の吉沢の手の甲に噛みつき、ひどい怪我をさせてしまった事などを説明するのだった。
  8063. 「よし、話はわかった。だが、地下室に閉じこめてある美津子が、どうして京子のいる所まで逃げ出して来たんだ。竹田、堀川、手前達の仕業だな」
  8064.  さすが森田は、見抜いていた。
  8065.  竹田も堀川も、そう看破されれば悪びれず、
  8066. 「申し訳けございません。美津子のきれいな身体を見ていると、つい、たまらなくなっちまって♢♢」
  8067.  と美津子を地下から連れ出した事を白状したのである。
  8068. 「馬鹿野郎。俺達の許しを得ず、商売もんに手を出すんじゃねえと、きびしくいってあるじゃねえか」
  8069.  森田は太い眉毛を動かして二人のチンピラを頭ごなしにどなりつける。
  8070. 「手前達は後から俺の部屋へ来い。川田は美津子を地下へ連れ戻すんだ。明日、美津子は初舞台だ。大事に扱わなきゃ、いけねえ。それから♢♢」
  8071.  森田は、壁を背に、立膝をして身をかがめ、屈辱にあえいでいる京子に向かっていう。
  8072. 「今夜の事は美津子にゃ罪はねえが、手前にゃ罪がある。美津子が逃げ出そうとした事に協力した事、それと、自分の夫と決まった吉沢の手に噛みついたりなんぞしやがって、怪我をさせちまった事だ。それ相当の覚悟は出来てるだろうな」
  8073.  そして、森田は、手の甲を押さえて顔をしかめつづけている吉沢に向かって、
  8074. 「おめえは傷の手当てをして来な。その間、俺はおめえの部屋の中で、京子を再教育しておいてやるよ。おめえのいい女房になれるようにな」
  8075.  森田は、そういって、銀子や朱美に、おめえ達も手を貸しな、という。
  8076.  あいよ、と銀子は、身をかがめている京子の傍へつかつかと歩み寄り、縄尻をつかむと、
  8077. 「さ、立ちな。うんとヤキを入れてやるよ」
  8078.  
  8079.  
  8080.     再教育
  8081.  
  8082.  何時か美津子が、数々のおぞましい責めを受けた吉沢の寝室♢♢その中央の床に、つま先立ちをして立っているのは京子である。京子の縄尻には、新しいロープが継ぎたされ、それは天井のハリにかけられている。
  8083.  先程、吉沢に乱暴されたため、おどろに髪も乱れていたが、それも、二人のズベ公に、きれいに櫛を当てられ、化粧もし直された京子は、数々の責めを受けたとは思えぬ驚くはど新鮮な若い肌も、明るい電光をはじき返すように真っ白に光って見えるのだった。
  8084.  銀子と朱美は、緊縛された美女の周囲をニヤニヤしながら廻る。
  8085. 「あんた、少しは悪い事をしたと反省しているの」
  8086. 「夫となる人の手に噛みついたりして、猿の夫婦じゃあるまいし♢♢」
  8087.  銀子と朱美は、後ろへ廻って、脂肪のしぶきで、光るような尻たぶをつねったりする。森田はベッドの傍にある椅チに腰をおろし、ウイスキーを飲みながら、京子の美しい肉体をしげしげ見つめていたが、
  8088. 「どうだ京子、この屋敷から逃げようとしたって無駄だという事がよくわかったろう。おめえは妹の美津子だけでも何とかここから逃がそうと考えてるようだが、そういう了見はきっぱり捨てて、姉妹仲良くショーのスターになってくれなきゃ困るんだ」
  8089.  森田がそういった時、銀子がキラリと眼を光らせるようにして、
  8090. 「そこでね、親分さん。あたいの考えなんだけど、こうしちゃどうでしょう」
  8091.  銀子は森田の所へ来て、何か耳元に小声でささやく。
  8092.  森田は、口を開けて笑い出した。
  8093. 「なるほど、そいつは面白いかも知れねえ」
  8094. 「妹思い、姉思いの姉妹でしょう。いっそ、そうしてやった方が♢♢」
  8095.  銀子も森田に合わせるようにして口を開けて笑うのだ。 森田は、椅子から立ち上り、酒にほてった赤ら顔をなでながら京子に近づく。
  8096. 「へっへへ、銀子はなかなか面白い事を考えてくれたぜ。それほど、お互いの身を思い合う姉妹なら、いっそ、二人をプレイのコンビにしちまおうというんだ」
  8097.  今まで、美しい顔を横へ伏せるようにして一切の屈辱に眼を閉じていた京子であるが、その言葉を耳にすると、ほっと血の気を失い、思わず眼を瞠る。
  8098. 「どう、京子さん。グッド・アイデアでしょう。明日、美津子嬢は初舞台、それで彼女もきっと自信がつく事でしょうし、明後日から姉妹ショーの練習にとりかかろうと思うの。仲のいい貴女達の事だもの。この企画はきっと成功すると思うわ」
  8099.  何という残酷無残な銀子の着想か。京子は恐怖のため、唇が震え言葉も出ないのだ。
  8100. 「静子夫人だって、桂子と見事に演じて見せたぜ。おめえと静子夫人のコンビは、そのうち解消させなきゃならなくなる。というのはな、新しく遠山夫人となられた人の命令で、静子奥様に妊娠して頂く事になったんだ。となりゃ、おめえの新しい相手が必要だ。美津子なら異存はあるめえ。どうだ」
  8101.  森田は、今にも泣き出しそうな京子の顔を楽しそうに眺めて、口元を歪める。
  8102. 「ああ」
  8103.  京子は、悲痛な顔つきになり、きびしく緊縛されている全身を、ブルブル震わせるのだった。
  8104.  鬼か、けだものか、いや、この屋敷に巣くう人間どもにくらべれば、鬼やけだものの方がまだましであろう。あの深窓に育った艶麗な令夫人と令嬢に地獄のショーを演じさせ、なおそれだけではあき足らず、静子夫人を無理やり妊娠させようという悪どさ。京子は、あまりのことに気を失いそうになった。
  8105. 「返事がないところを見ると、承知してくれたのね」
  8106.  朱美が、京子の臍を指ではじき、くすくす笑う。
  8107.  京子は、再び、眼を見開いて、唇を震わせるようにしていった。
  8108. 「美、美津子と私とは、ほ、ほんとの姉妹なのよ。そ、それを貴方達♢♢」
  8109.  あとは涙で、喉がつまり声が出ない京子である。
  8110.  銀子が、せせら笑うようにいう。
  8111. 「姉妹だから、どうだっていうのよ。二人とも女である事には違いないでしょう。心配しなくてもいいわよ。あたいと朱美が、腕によりをかけてみっちり仕込んであげるわ。ねえ、朱美」
  8112. 「そうよ。二人とも音をたてて喜び合うまで仕込んであげる」
  8113.  二人のズベ公は顔を見合わせ、キャッキャッと笑い合った。
  8114.  遂に、京子は、がっくりと首を垂れ、唇を激しく震わせ、号泣し始める。
  8115.  森田はそれを見ると、ズベ公二人を手で押し止めるようにして、京子の傍へ寄る。
  8116.  激しく鳴咽する女子の美しい横顔を見ながら、
  8117. 「へっへへ、京子嬢。そんなに美津子とプレイするのは辛いのかね」
  8118.  京子は、その言葉にすがりつくように、涙の一杯にじんだ美しい瞳をあげる。
  8119. 「お、お願いです。妹と、そ、そんな事だけは♢♢」
  8120.  そういって、再び、泣きじゃくる京子である。
  8121. 「じゃ、さっきの事は充分反省するっていうんだね」
  8122. 「は、反省します♢♢」
  8123.  京子は、すすりあげるようにしていい、
  8124. 「どうぞ、私を、ぶつなり、なぐるなり、お気のすむように、なさって下さい。お願いです」
  8125.  京子は、森田に向かって、必死になって哀願するのだった。
  8126. 「いや、別に、ぶったり、なぐったりはしねえよ。第一、おめえは森田組の大切な商品だからな。商品に傷をつけるような事はしたくねえ」
  8127.  森田はそういって、ウイスキー瓶をロに当て、ラッパ飲みしながら、
  8128. 「俺の要求する事は大した事じゃねえ。吉沢のいい女房におめえがなってくれりゃいいのさ。奴は血の気が多くていけねえ。おめえのような別嬪が奴の女房になってくれりゃ奴も少しはおとなしくなってくれると思うんだ」
  8129.  わかったな、と森田は、京子の顎に手をかけて、泣きぬれた京子の美しい顔をこじあげる。
  8130. 「もうすぐ、ここへ吉沢が手の治療をしてやってくる。おめえは奴にさっきの事を充分詫びて、仲直りし、夫婦の契りを固く結んでくれりゃいいのだ。簡単な事だよ」
  8131.  森田は、そういって、銀子と朱美を手招きして部屋の隅へ行き、京子に聞こえないよう小声で話し出す。
  8132. 「後はおめえ達に任すぜ。吉沢に充分、詫びを入れさせ、とにかく今夜、吉沢と夫婦にしちまうんだ。そうなりゃこっちのもの、吉沢からも口説かせて、明後日からは泣こうがわめこうが、美津子とコンビを組ませる。仕事は、予定通りすすめてくれ」
  8133.  森田はそういって銀子と朱美の肩を叩くようにして出て行く。
  8134.  銀子と朱美は、わくわくする思いで、京子の傍へ近寄っていく。
  8135. 「いいね、京子。今、親分が私達にいい残していったけど、吉沢さんがここへ来たら、心からさっきの失礼をお詫びしなきゃ駄目よ。あたい達が横から見ていて、貴女の態度が気に喰わない時は、やはり予定通り、美津子とコンビを組ませるからね。そのつもりでいるのよ」
  8136.  銀子が、そういうと、続いて朱美が、
  8137. 「貴女、さっき、吉沢さんがきた時、てきびしく、突っぱねたでしょう。夫にさわられるのを嫌がる妻っていないわよ。今度は、貴女から吉沢さんにおねだりして気のすむまでさわって頂くのよ。わかった」
  8138. 「そうね。でも、その前に、反省の意味で、元通り、吉沢さんに剃ってもらう事だわ」
  8139. 「でも、すましこんでちゃ駄目ね。そういう事をされる場合の女性の動作というものは、男性の気持をとても、楽しくさせるものなのよ。つまり剃られ方が大切っていうわけね。教えてあげるわ」
  8140.  銀子と朱美は、真っ赤になった顔を横にそむけ、身をよじりつづける京子の左右に立って、色々な事を耳元に吹きこみ、吉沢が現われた場合の、京子のとるべき態度を面白半分、教示するのだ。
  8141. 「わかったわね。あたい達に教わった通りの事を実行しないと、フフフ、もういわなくても、わかってるわね」
  8142.  銀子は、羞恥と恐怖に、身を震わせる京子に対し、何度も念を押すように、乳房や尻を指でつつくのだった。
  8143.  
  8144.  
  8145.     京子の号泣
  8146.  
  8147.  手首に繃帯を巻きつけた吉沢が、部屋へ入って来たのは、それから、十五分ほどたってからであったが、京子は、銀子と朱美の二人に、男性、つまり、吉沢に対する意識的ポーズ、いいかえれば男性に対する性的魅力発揮という事について、教育され、教示され、その一切を承服した如く、軽い瞑目をしたまま吉沢の登場を待っていたのである。
  8148.  吉沢を見ると、銀子と朱美は、北叟笑み、
  8149. 「ずいぶん、おそかったじゃないの。京子嬢が待ちくたびれて、しびれを切らしていたのよ」
  8150.  そして、銀子は、すぐ京子に向かい、
  8151. 「御主人がおいでになったわよ。さ、先程の失礼を心からお詫びして、仲直りするのよ」
  8152.  吉沢は、緊縛された美女の前へ、朱美にうながされて進み出る。
  8153. 「さ、京子、黙ってちゃ駄目よ」
  8154.  と、朱美は、京子の横に立って肩を突く。
  8155.  いわれた通りにしないと、お前さんは妹の美津子と♢♢朱美の冷たい瞳は、そういいたがっているのだ。
  8156.  京子は、うっすらと美しい瞳を開いて、眼の前に立つ吉沢の醜悪な顔を見る。八つ裂きにしてやりたい程、憎い男の吉沢♢♢しかし京子は、彼に対し、その獣欲を一層、昂めるため、銀子達に指導されたポーズをとらねばならないのだ。
  8157.  京子は、恨みとも呪いともつかぬものを呑みこみ、わなわな唇を震わせながらじを開くのだった。
  8158. 「♢♢吉沢沢さん。貴方に噛みついたりなんかして、本当に悪うございました。京子、心から、お詫び致します」
  8159.  京子は、口惜しさを、ぐっと呑みこむようにして、銀子達に教示された言葉を口にするのだった。
  8160.  吉沢は、フンと鼻で笑う。
  8161. 「お詫び致しますだと。やい、京子。俺は手前のために、一度ならず二度までも、煮え湯を呑まされてるんだぞ。一体どういう風に詫びを入れるっていうんだ」
  8162.  吉沢が京子の前で凄んで見せると、銀子がそれをなだめるように、
  8163. 「まあまあ、吉沢兄貴、そんなに怒る事はないじゃないか。今度という今度は、この京子嬢、本当に改心する気持になってるんだよ」
  8164.  銀子が、うなだれている京子を楽しそうに見て、そういうと、続いて朱美も吉沢にいった。
  8165. 「さっきは、あんなに沢山の人間がいる前だから京子嬢も恥ずかしくて、つい、かっとなり、ああいう事をしてしまったんだよ。でもね、さわらせるのは妻として当然の事だと改心してね。吉沢さんが満足されるまで、さわっていただくと自分で言い出したのよ。ね、そうだろう。京子さん」
  8166.  京子は、消え入るように、小さくうなずくのだった。
  8167. 「そうかい。俺が満足するっていうより、おめえが満足するまで、そうしてやるぜ」
  8168.  吉沢は、口を曲げて笑い、身をかがませようとすると、
  8169. 「待、待って」
  8170.  京子は、すすりあげながら、真っ赤になった顔をそむけ、固く眼を閉ざしたまま、震わせるように唇を開く。
  8171. 「そ、そんなに、せっかちなの、嫌」
  8172. 「へえ?」
  8173.  吉沢は眼をパチパチさせて京子を下から見上げる。
  8174. 「京子、今度は本当に心を入れ変えたの。もう一度、丸坊主になって、貴方にお詫びがしたいのよ。ね、お剃りになって頂戴」
  8175.  よし、わかった、と吉沢は、ほくほくした顔つきで立ち上り、剃刀を探し始める。
  8176.  その間に、銀子と朱美は、そっと、京子の傍へにじり寄るようにして、
  8177. 「なかなか、うまいわね。その調子でやるのよ、いいわね。あたい達が教えてあげたように、最後までしっかりやってね」
  8178.  京子の固く閉じた瞼から、幾筋もの涙が、白い頬を伝わって流れ落ちる。
  8179.  朱美も、それを眺めながら、くすくす笑っていった。
  8180. 「せっかく元通りになってきたものを悲しいだろうけど、美津子と変な関係を結ばなくてもすむんだからね。まあ、がまんするさ」
  8181.  吉沢が西洋剃刀と小量の水が入った皿とを持って戻ってくる。
  8182.  へへへ、と舌なめずりをするように笑いながら、腰をかがめ、
  8183. 「生憎、石鹸をきらしちまったんだ。水でがまんしてくんな」
  8184. 「ああ♢♢」
  8185.  京子は、全身を熱くして、思わず、身をよじり始める。
  8186. 「おいおい、そんなに身体を動かしちゃ駄日だ。傷つけちまうじゃないか」
  8187.  吉沢は、剃刀を右手に持ちながら叱るのだった。
  8188.  京子は、キリキリと歯を噛み鳴らしながら全身を鋼鉄のように固くし、吉沢の剃刀に身を任せてしまう。
  8189. 「剃られ方が大事と、あたいが、いった筈だけど」
  8190. 銀子は、わなわな身体を震わせて、剃刀の動きを受けている京子に、蛇のような眼を向けていうのだった。
  8191. 「♢♢よ、吉沢さん。もっと、もっと、ゆっくり」
  8192. 「よしよし、こうかい」
  8193. 「♢♢ええ♢♢ああ、京子、幸せだわ」
  8194.  京子は、我れと我が耳を没我の境地に落とし入れるべく努力し、銀子や朱美に命令された通り、吉沢の心を昂ぶらせるように努めるのだった。
  8195.  切なげに身をよじり、赤らんだ顔をそむけ吉沢のいたずらに対して、拒否にあらざる甘い否定の言葉、すべてが銀子の要求によるものとはいえ、京子は、半ば無意識のうちに、吉沢にそれらを示し始め出したのだ。
  8196.  強烈な羞恥という精神的抑制は、吉沢の一種の手練手管によって、少しずつ、薄らいでいく感じであり、やがて京子は、吉沢の仕事に協力し始めたよう、しっかりと目を閉じ、観念しきったようにさえするのである。
  8197. 「そ—ら、出来上りだ。どうでえ。さっぱりした気分になったろう」
  8198.  吉沢は、立ち上り、仕事の出来具合を点検するように眺める。
  8199. 「フフフ、いい形をしているわよ。京子嬢」
  8200.  銀子と朱美も、待ってました、とばかり近寄って、眼をギラギラさせて、からかう。
  8201.  吉沢の作業がようやく終わったところで、京子は、夢の境地から眼覚めたように、再び、たまらなく辛い羞恥心が、ぐっとこみ上ってきた。
  8202.  銀子は、煙草を口にして、火をつけると、けむそうに煙を吐きながら、京子にいった。
  8203. 「さあ、京子さん。次は、どうするのだった? 教えられた通り、早く先をすすめていくの。ぐずぐずすると、夜が明けてしまうわよ」
  8204.  京子は、人間的思念を断ち切ったように、美しい顔をそっと上げ、涙のにじんだきれいな瞳を吉沢に向けた。
  8205. 「♢♢吉沢さん」
  8206.  京子の一点をじっと凝視していた吉沢は、ふと首を上げ、ニヤリと笑う。
  8207. 「何だね。京子嬢、きれいにしてもらった礼がいいたいのカ」
  8208.  京子は黒眼がちににじんだ二つの瞳を、ふと、吉沢の視線からそらし、
  8209. 「♢♢とても、とても、すばらしい気分だったわ。♢♢ねえ、キッスして下さらない」
  8210. 「京子、今夜、おめえと俺とは、この部屋で夫婦になるんだ。異存はあるめえな。これからも、せいぜい可愛がってやるぜ」
  8211.  吉沢に肩をゆすられて、京子は、ハラハラ涙をこぼした。憎みてもあまりあるこの獣と、今夜は♢♢そう思うと、屈辱の、くやし涙が次々にあふれ出るのであった。
  8212.  酒臭い吉沢の唇が近づいてくる。京子は涙を香みこむようにして、その唇に自分の唇を合わせるのだった。肩を抱く吉沢の腕に力が入り、京子は、覆いかぷさって来るような吉沢に抱きすくめられたまま、もうどうともなれとばかり、にがい涙をこぼしつつ、軽く瞑目したまま、吉沢に舌を吸わせているのだった。
  8213. 「熱烈な接吻ね。あたい達も、何だか、ポーッとなってきたわ」
  8214.  銀子と朱美は、顔を見合わせて、笑っていたが、ふと、嫉妬めいたものが胸にきたのか、そんな状態にある二人の傍へ近寄る。
  8215.  吉沢は、何かに憑かれたように、京子からやっと唇を離すと、首筋から、肩のあたりにまで接吻の雨を降らしまくつている。
  8216.  小さく口を開け、上気したように熱い息を吐いている京子の耳元へ、口を寄せた銀子は、
  8217. 「フフフ、美人は得だね。男から、こんなに愛してもらえるんだから」
  8218.  と、妙に、ひがんだ言い方をし、次に語気を強めて、
  8219. 「何時までも、いい気分になっているんじゃないよ。次に吉沢兄貴に、おねだりする事があったろう」
  8220.  京子は、上気した顔を、嫌々をするように左右へ振る。
  8221. 「お願い、も、もうこれ以上、私、出来ないわ」
  8222. 「何だって」
  8223.  銀子は眼をつり上げる。
  8224. 「じゃ、美津子とプレイをしたいというんだね」
  8225. 「嫌っ、嫌っ、そ、それだけは♢♢」
  8226. 「じゃ、言われた通りの事を、ちゃんとするんだよっ」
  8227.  吉沢が、上体を起こして、銀子にどなり出した。
  8228. 「何だ、この野郎。せっかく気分が乗ってるところに水をさすねえ。何をブツブツいってやがるんだ」
  8229.  銀子は顔をくずして、
  8230. 「いや、なに、この京子嬢がね。あんたに、おねだりしたい事があるんだとさ」
  8231.  銀子は、京子の肩をつく。
  8232.  京子は、すすりあげながら、顔を横へそむけつつ、口を開いた。
  8233. 「♢♢よ、吉沢さん。京子は、今夜から、貴方の妻よ。先程のような失礼な態度は二度ととらないわ。ご、ご満足されるまで、さ、遠慮はいらないわ」
  8234.  京子は、声を震わせてそういい、一層、ねじ曲げるように顔をそむけるのだった。
  8235. 「へへへ、そういう気持になってくれたのは有難いが、何も、銀子達のいる前で、そんな事しなくてもいいぜ。二人きりになった時たっぷりと♢♢」
  8236. 「嫌、嫌、京子、どれほど、貴方を愛しているか、その証拠をさらけ出し、銀子さんや朱美さん達の眼で、たしかめて、頂きたいの」
  8237.  これには吉沢も、たじたじとなり、銀子や朱美達の悪ふざけに舌を巻く。
  8238.  朱美は、平然とした顔つきで、吉沢にいった。
  8239. 「そんなに頼んでいるんだから、望みを叶えておやりよ。女に恥をかかせるもんじゃないわよ」
  8240. 「丸坊主を責めあげるのも面白いじゃない。あたい達も手伝ってあげるわ」
  8241.  朱美と銀子は、キャッキャッ笑いながら、屈辱にのたうっている京子に眼を向けるのだった。
  8242.  
  8243.  
  8244.     勝利に酔う悪魔
  8245.  
  8246.  千代は、悦子と義子の案内で、地下室に監禁されている文夫と美津子をのぞき、それから一番奥まったところにある牢舎へ向かう。そこには、村瀬宝石商の令嬢、小夜子が監禁されているのだ。
  8247.  四坪位の狭くて薄暗い牢舎の中、裸電球のにぷい燭光に照らし出されている雪白の美肌を格子越しにのぞいた千代は、
  8248. 「まあ、美しいお嬢さんね」
  8249.  と、感歎の声をあげる。
  8250.  黒ずんだ柱を背にし、坐っているのは、どこからどこまでも、柔らかい曲線でとり閉まれた均整のとれた身体つきの美女、小夜子であった。洗練された如何にも大家の令嬢らしい気品にあふれた美女が、両足首を、がっちりと縄でつなぎ合わされている。義子が、千代に説明した。
  8251. 「向こうの牢屋の中へ入っている文夫の姉ですの。村瀬宝石商会の令嬢ですわ」
  8252. 「へえ—」
  8253.  千代は、うなずきながら、あられもないあぐら縛りにされている大家の令嬢に眼をそそぎつづける。
  8254.  小夜子は、キラキラ光る涙をにじませた黒真珠のように美しい瞳を、表にいる二人にちらと向けたが、すぐに顔を横へそらせるのだった。
  8255.  その妖しいばかりの色の自さと美しくしまった鼻筋は、高貴なところに生まれたという事を物語っているように受け取られる。
  8256. 「こんな美しいお嬢さんを、商売ものにするの」
  8257.  千代は、悦子に聞いた。
  8258. 「ええ、最初は身代金を一千万円ばかり頂戴しようという計画でしたの。でも、それに失敗しちゃったんで、方針を変え、商品にして稼げるだけ稼ごうという事になったわけですのよ」
  8259.  悦子はポケットから鍵を取り出し、牢格子の扉の錠前へさしこむ。
  8260.  ギイーと音を軋ませて扉が開くと、柱を背に、あぐら縛りにされている小夜子は、ほっと体を硬化させ、交錯された膝頭のあたりをブルブル震わせるのだ。
  8261. 「どう、お嬢さん、御気分は?」
  8262.  悦子は、小夜子の横に身をかがませ、麻縄で、しめあげられている小夜子の美しい全身を、しげしげと見つめるのだ。
  8263. 「ほんとに、きれいだわ」
  8264.  千代は小夜子の正面に身をかがませる。
  8265.  真珠のような光沢をもつ小夜子の美しい肌。千代は絶世とばかりいわれた美女、静子夫人に対する嫉妬めいた憎悪と共通したものを、ふと、この若い美しい令嬢に対しても持ち出したのである。
  8266. 「ホホホ、お嬢さん。これから、どういう修業を積まれるのかは知らないけれど、とにかく一生懸命がんばって下さいね。私も、陰ながら大いに応援させて頂きますわ」
  8267.  悦子が、それにつけ足すようにして小夜子にいった。
  8268. 「まだ知らせていなかったけど、貴女の弟の文夫は明日、美津子とめでたく結婚する事になったのよ」
  8269.  えっ、と小夜子は、美しい顔をひきつらせるようにして上へ上げる。
  8270. 「何もそんなに驚く事はないじゃないの。文夫と美津子は以前から恋仲なんでしょう。だから、私達が気を利かせて夫婦にしてやるのよ。つまり、これから、あの若い二人の夫婦生活というものがショーになるわけ。わかるでしょう」
  8271.  悦子が、そういって笑うと、小夜子は、たまらなくなったように全身を悶えさせて、
  8272. 「文夫に、文夫に一目、逢わせて下さい」
  8273. 「でもね。いくら姉と弟だからいうても、お互いに丸裸で対面するのは恥ずかしいことあらへん」
  8274.  義子は、そんな事をいって、せせら笑い、
  8275. 「心配しなくてもええわ。明日の夜、行う文夫と英津子の結婚式には、文夫の姉と美津子の姉は、出席させるという事になってるさかい。それに、何か余興もやって頂きたいし、ま、それは明日のお楽しみってところやね」
  8276.  小夜子は、がっくりと首を垂れ、パーマのかかった艶々しい黒髪を寓わせて、号泣し始めたので、悦子は千代をうながすように見て立ち上る。
  8277. 「じゃ、また明日ね」
  8278.  千代と悦子、義子は、牢舎から出て行く。
  8279.  地下階段を上がりながら、千代は悦子にいった。
  8280. 「ああいう大家の令嬢を、調教するっていうのは大変だわね」
  8281. 「でも、静子夫人だって、最初は本当に手こずったけど、あそこまでいくようになったんですからね。調教する側の腕次第って事ですよ」
  8282.  千代は悦子に案内されて、自分の寝室に当てがわれた一室に入る。
  8283. 「お休み前に、もう一杯、ウイスキーでも、お飲みになりますか」
  8284.  と、悦子は、棚から、ウイスキー瓶を取りおろし、卓の上へ持って来た。
  8285.  長い間、憎悪の心を持って接してきた、静子夫人に対し、復讐でもしたつもりで、夕刻から徹底的に責めあげた興奮は、未だに千代の体内から去らない。それに今♢♢自分から一切の財産を没収し、人間としての権利さえ剥奪した悪徳弁護士の伊沢と汗みどろになってプレイを演じているであろう静子夫人の事を思うと、じわじわと胸にこみ上ってくる千代であった。いくら酒やウイスキーを飲んでも、千代は眼がさえるばかりで、なかなか、寝つかれない。
  8286.  悦子を相手に、とりとめもなく雑談をかわしてウイスキーを飲み合っていると、ノックの音。入って来たのは、ほろ酔い機嫌の川田である。
  8287. 「何だ。千代、まだ寝ねえのか。おっと、いくら妹でも千代なんて呼びつけしちゃ罰が当たるな。おめえは遠山新夫人だからな」
  8288.  川田は、千代に注がれたウイスキーを、うまそうに飲みながら、
  8289. 「さっき、伊沢先生、腹がへったといって、食堂へ来てパンとソーセージをかじってよ、また戦闘開始だと部屋へ戻って行ったぜ」
  8290. 「まあ」
  8291.  千代は悦子と顔を見合わせて、くすくす笑う。
  8292. 「戦争の状況はどうです、と聞いたらよ、静子夫人をたてつづけに三発……この分で、明け方まで続けられたんじゃ、あの令夫人、ガタガタになっちまうんじゃないか。とにかく、聞きしに勝る凄い先生だよ」
  8293.  川田は、ガラガラ笑いながらいう。
  8294.  千代も、それにつられて笑いながら、
  8295. 「奥様にしたって必死よ。先生の挑戦に応じなけりゃ、桂子嬢を巻き込む事になっちまうんだからね。だけど、あれだけのいい身体だよ。何とか朝まで持ちこたえるだろうさ」
  8296.  千代、川田、悦子の三人は、一度に溜飲を下げたように高笑いしながら、ウイスキーを汲み合うのだった。
  8297.  
  8298.  
  8299.  
  8300. 第三十章 悪魔の所業
  8301.  
  8302.  
  8303.     朝の酒
  8304.  
  8305.  酒だけは、欠かした事がないという伊沢のために、その朝、田代は庭の茶室の中に、ささやかな酒の席を作った。
  8306.  田代と森田は、その日、行う事になっている文夫と美津子のショーの色々な準備のため朝早くから鬼源達と竹藪の密室の中に入り、悪徳弁護士の朝酒のお相伴は、千代と川田、それに銀子と朱美の二人が、つとめる事になった。
  8307. 「本当に今朝は、いいお顔色ですわ、先生」
  8308.  と、千代は伊沢に酒の酌をしながら冷かすようにいった。
  8309.  あの艶麗な深窓の令夫人の光沢ある柔肌を今朝方まで思いのままにした伊沢にしてみれば、たしかに人生の幸慶これに過ぎるはなしという爽快な気分であったに違いない。
  8310.  千代や銀子の酌を受け、盃を重ねているうち、伊沢はニヤニヤする川田に所望されて、昨夜の顛末を語り出す。
  8311.  千代とズベ公二人は顔を互いに見合わせて、キャッキャッ笑い出した。
  8312.  静子夫人は最初はただすすり泣きつつ、受太刀一方だったが、そのうち、こちらの術策にかかって、攻勢になり出した、という事など、ズベ公達には興味ある話だったし、それを最初は、必死に眼を閉じて見まいとしていた床の間の桂子も、夫人の発する声にふと眼せ開いてからは、一種の妬ましさのこもった瞳で、終始、眺めつづけていたという事などもズベ公や千代の喜ぶ話であった。
  8313. 「それで、静子夫人との戦いが一段落して、ちょっと桂子をさわってみたんだが、もう濡らしているんだ。嫌いじゃないね、あの娘も♢♢」
  8314.  そう伊沢がいうと、再び、ズベ公達は、声をあげて笑うのだった。
  8315. 「そして、お嬢さんの方には、手をつけずじまいなんですか、先生」
  8316.  千代が煙草を日にくわえていう。
  8317. 「あれだけ静子夫人、哀願しただけあって、充分わしを満足させるため努力したようだ。いくらわしが絶倫でも、やはり良心が♢♢」
  8318. 「まあ、先生、ずいぶんと紳士でいらっしゃること」
  8319.  千代はそういって笑ったが、川田に向かって、
  8320. 「奥様を、ここへお連れしてよ。少し朝酒の肴をつとめて頂きたいわ」
  8321. 「よしきた」
  8322.  と、川田は、手にしていた盃を、ぐいと一息に飲み干して立ち上る。
  8323.  川田が出て行くと千代は、朱美の顔を見ていった。
  8324. 「ね、今朝、あの奥様にして差し上げる事があったわね」
  8325. 「ふふふ、わかってますわ。じゃ早速、ここへお持ちしますわ」
  8326.  と、朱美もいそいそと立ち上り、障子を開けて出て行く。
  8327. 「さあ、先生」
  8328.  と千代は、再び、銚子を手にして、伊沢の方に向けながら、
  8329. 「これから始める事で、私、あの奥様の何から何まで一切見てやった事になるわけ。これで気持がすーとしますわ」
  8330.  伊沢も、千代のこれらズベ公達にくらべて負けず劣らずの残忍さに舌を巻いている。
  8331.  昨夜から、筆舌では語れないほどの恥ずかしい責めを大人の身に加え、あげくの果ては伊沢のおもちゃにさせ、なお、それだけではあき足らず、今朝もまた、身も心もくたくたになっているであろう夫人を、更にまたおぞましい方法で責めさいなもうというのだ。
  8332.  やがて茶室の障子が開き、川田に縄尻を取られた静子矢人が、がっくりと首を垂れ、消え入るような姿態で、引き立てられてくる。
  8333.  よう、待ってました、と銀子が笑いながら手を叩いた。 おどろに黒髪は乱れ、魂を失った人間のように川田に縄尻をしごかれて、盃の交換をし合っている伊沢と千代の間へ、夫人は静かに膝を折って坐るのだった。
  8334.  千代は、盃を口に運びながら、冷酷な眼差しで夫人の美しい横顔を見、
  8335. 「御苦労でしたわね。伊沢先生、とても御満足されたようよ」
  8336.  静子夫人は、深くうなだれたままである。
  8337. 「さ、奥さん、一杯いこう」
  8338.  伊沢は一息に盃の酒を炊み干し、それに酒を注ぐと夫人の口元へ持って行った。
  8339.  悲しげに眼を閉ざし、静子夫人は顔をねじるようにして、それを避けたが、伊沢は頑なに閉ざした唇へ盃を強引に押しつけるのだった。
  8340.  昨夜、心とはうらはらに、この年増男の手練手管に巻きこまれ、幾度も罠に追い上げられ、女の実体をさらけ出すという羞恥図絵が、今は白々しい自意識となって胸にこみ上ってくる静子夫人であったが、その全身を伊沢のたくましい両腕で抱きすくめられ、揺さぶられているうち、そうした夫人の心の抵抗は消えていき、もうどうしようもなくなったように、伊沢に押しつけられる盃を口に含んでしまうのだった。
  8341. 「かけつけ三杯というからね」
  8342.  伊沢はそうした光景に、好奇の眼を向けている銀子や千代の方を、ニヤリと口を歪めて見、ニ杯目の酒を再び夫人の口の中へ無理やりに流しこむのであった。
  8343. 「先生、三杯目は、口うつしで飲ませてあげれば♢♢」
  8344.  銀子が、くすくす笑いながらいう。
  8345.  かなり酒が体に廻りだした伊沢は、照れもせず、よかろう、とうなずくと、銚子の酒を今度はコップにそそぎ、それを口一杯に含んで、押しあてていくのだ。
  8346.  さすがに、千代の見ている前では♢♢静子夫人は頬を染めて、美しい顔を横へそらし、伊沢の唇を避けたが、
  8347. 「何してるんですよ、奥様。昨夜は先生相手にすごかったそうじゃありませんか。今更、照れる事はないでしょう」
  8348.  千代が、甲息い声をはりあげる。
  8349.  静子夫人は執拗に押しつけてくる伊沢の唇をもう避ける術もなく、遂に、観念したように固く限を閉ざしたまま、伊沢の唇を自分のロでぴったりと塞いだのである。
  8350.  ごくり、ごくり、と夫人は、伊沢の口から吐き出される酒を、必死な思いで飲んでいるのだ。夫人と伊沢のぴったり合わせた唇と唇の聞から滴り流れる酒の雫が静子夫人の白いうなじを伝わる。
  8351. 「ホホホホ」
  8352. 「フフフフフ」
  8353.  千代と銀子は、楽しくてたまらないのか、伊沢に口うつしで酒を飲まされている静子夫人を見て喜ぶのだった。
  8354.  やっと、伊沢が口を離すと、夫人は大きく息をついて、深く首を垂れてしまう。
  8355. 「いい色になったぜ」
  8356.  川田が、ほんのりと桜色になった夫人の顔を見て笑った。
  8357. 「ねえ、先生、昨夜はどういう風にして、この奥様を可愛がってあげたのか、おのろけを聞かせて頂戴よ」
  8358.   銀子は悦に入ってニヤニヤしている伊沢にそんな話を要求するのだった。
  8359. 「そう、聞かせて欲しいわ。ぜひとも」
  8360.  千代と銀子の二人から銚子を同時に突きつけられて、伊沢は満更でもない気分だ。酒で真っ赤になった、テカテカする額をなでさすりながら、伊沢はよく廻るようになった舌で、調子づいてしゃべり出す。
  8361.  つまり、それは静子夫人に聞かせる事が本当の目的であり、彼女が、如何にそれを辛く聞くか、その反応を見るのが、千代にとっても銀子にとっても楽しみなのだ。
  8362.  案の定、静子夫人は、嫌々と首を振るようにし、一層、身をちぢこませる。緊縛されているため、両手で耳を押さえる事も出来ぬ静子夫人は、露骨極まる伊沢の話に、たまらなくなり、顔を卓へ押しつけ、白い肩を震わせるのだった。
  8363. 「まあ、名器ですって♢♢へえ、虫も殺さぬ美しい顔をなさっている、この奥様がね」
  8364.  千代は、ニヤニヤしながら、卓の上へ顔を押しつけ屈辱に悶えている静子夫人を小気味よげに見ているのだった。
  8365.  何か、お酒の余興を、この奥様に♢♢と、伊沢の愚劣な話が一段落すると、銀子がいいだした。
  8366.  川田は何か魂胆があるらしく、舌なめずりをするようにして立ち上り、単に顔を押し当てている静子夫人の後ろに来て身をかがめると、
  8367. 「さ、奥さん、立つんだ」
  8368.  と、川田は夫人の両肩に手をかけるのだった。
  8369.  もう、どうともなれ、と静子夫人は、唇を固く噛みしめながら、川田に抱き起こされるようにして立ち上る。
  8370.  芙蓉の花が生けてある床の間の柱を背にして、静子夫人は立たされる。静子夫人を美しい床の間の置物に仕立てて、これらの悪鬼達は、更に酒盛りを続ける心算なのであろうか。いや、川田の事だ。そのような生ぬるい事だけで満足する筈はない。静子夫人は、柱を背にし、ひしひしと川田に縄がけをされながら戦慄めいたものが身内を走り出したが、今更どうなるものではない。昨夜、伊沢が自分の眼の前で、桂子を嬲りものにしなかったという事だけが、夫人にとつては、ただ一つの救いのようなものだった。
  8371.  静子夫人は、胸の慄えるのを噛み殺すようにしながら、真っ赤になった顔を横へそらすのだったが、昨夜、あく事を知らぬ伊沢の攻撃を受けつづけた肌を千代や銀子達の好奇の眼に晒すという事は夫人にとって、胸のはりさけるば
  8372. かりの恥ずかしさであった。
  8373. 「馬鹿ね。今更、隠したって、仕様がないじゃないの」
  8374. 銀子が、そういって、ふらふら立ち上り、静子夫人の傍へやってくる。
  8375. 「千代夫人が点検してあげるとおっしゃるのじゃないの。さ、ちゃんと正面を向き、突き出すようにしてごらん」
  8376.  静子夫人がベソをかきそうな顔になったのを見て、千代はくすくす笑う。
  8377.  床の間の柱を背にして、緊縛された優美な裸身をすっくと立たせている静子夫人の前に立った千代は、酒気を帯びてとろんとした瞳で、軽く瞑目するように長い睫毛を閉じ合わせ身動きも示さない夫人の横顔を見つめている。
  8378.  気品のある鼻筋、冷たく映える象牙色の端正な頬、こんな地獄屋敷に連れこまれ、日夜、凌辱の限りを尽されていながら夫人のそうした天性の美貌にこれといった変化が生じていないのを千代は不思議に思うのだ。変化といえば、遠山家では静子夫人は正に貴族的な令夫人、煌びやかに着飾って社交場などに現れ、蝶よ、花よ、と浮かれていた、いわば有閑マダム。それが今では地獄に落ち、一糸まとわぬ素っ裸に剥かれて日夜、連日、苛酷な調教を受けているという事。しかし、夫人の美貌とその肉体の美しさ、この二つは以前にも増して磨きがかかったのではないかと、そんな錯覚すら千代には生じるのだった。
  8379. 「信じられないわ。こんな暮しをなさっているのに奥様はどうしてそんなにお美しいの」
  8380.  と、千代は床の間の柱を背に晒された静子夫人の全身像を色々な角度から見廻して溜息をつくようにいった。
  8381.  麻縄を上下に二、三本、きびしく巻きつかせているが、胸の隆起の悩ましい美しさ。乳色の艶っぽい肩先から腰のくびれに至るまでのしなやかさ、太腿から下肢に至るまでのスラリと伸びた脚線は匂い立つような官能味を感じさせる。
  8382.  夫人のそのぴったりと閉じ合わせた太腿の附根、そこを覆うべき繊毛は女盛りの熟れ切った肉体にしては薄く、不自然さを感じさせるが、それは剃毛されてからまだ日が浅い故だろう。しかし、乙女の萌え始めの若草に似た淡い繊毛は薄いすだれのようで、小高い丘の仇っぽい切れ目がはっきり透けて見えるのだ。名器と男達に賞讃されている静子夫人の、女陰の割れ目の門を透けて見えさせる♢♢という所が男達の夫人を剃毛した理由なのかと、千代と並んで夫人の肉体を凝視する伊沢は感じるのだった。
  8383. 「へえ、これが名器ねえ」
  8384.  千代は腰をかがませて静子夫人のムチムチした太腿に手をかけるようにしながら夫人のその部分を凝視する。千代が手を添えた夫人の太腿は時折、ブルッと慄えた。
  8385.  かつては女中であった千代の眼で、女の羞恥の源をまじまじと見つめられる静子夫人の屈辱感は如何ばかりか、と、銀子は想像し、夫人の悲しげに眉を寄せている端正な容貌をじっと見つめている。夫人の羞恥や屈辱が昂ぶれば昂ぶる程、それは銀子の嗜虐的快感につながる事になる。
  8386.  伊沢も川田も酒のグラスを片手に千代を中にはさむようにして、全裸の晒しものになっている静子夫人の前に腰をかがませた。
  8387. 「僕はね。刀剣趣味があって色々の名刀を見て来たが、この奥様のあの、ぐっと深く切れこんだ見事な割れ目を見て御覧なさい。名刀の見事な反りを感じさせるじゃありませんか。さしづめ、古刀の備前、兼光ですかな」
  8388.  と、悪徳弁護士の伊沢は静子夫人の股間を指さしながら笑って川田に語りかけている。
  8389.  面白そうな話ね、といって銀子と朱美も仲間に加わり、グラスを片手に立位で柱につながれている夫人の前に腰を落とした。
  8390.  何時の間にか静子夫人の女陰観賞会になったわね、と、女達は笑い出し、ぴったりと重ね合わせている夫人の下肢に身を寄せると下から上をのぞきこむようにしてクスクス笑い出すのだ。
  8391. 「ほんとに伊沢先生のおっしゃるように見事な反りだわ」
  8392. 「でも、可愛いわね。あそこからちょっぴり赤貝をのぞかせている所なんか。とても、大社長の令夫人なんて思われない」
  8393.  銀子と朱美がまた調子づいて来て揶揄すると、伊沢は、
  8394. 「さしずめ名刀にたとえるなら、あれは貴重な鍔でしょうな」
  8395.  といって一座をまた笑わせた。
  8396. 「刀にたとえるなれば」
  8397.  と今度は千代が口をはさんだ。
  8398. 「刀には大小二本があるように、この見事に反りのある大きな割れ目が大刀。昨日、鑑賞させて頂いた小さなお尻の穴は小刀」
  8399.  そう、そう、と銀子と朱美は手を叩いて、千代夫人もなかなかいい事をおっしゃるじゃないの、といった。
  8400. 「静子夫人はこれから、その大小を生かしてこの道のスターにおなりになるわけよ。鬼源さんはこの奥様を二刀流の達人に仕上げるといってるわ」
  8401.  銀子は楽しそうにそういって、も一度、夫人の両脇の間に粘っこい視線を注ぎ、
  8402. 「それだけの名刀ならバナナ切りなんて朝飯前でしょうね。大根でも菜葉でもズバズバ切って落とせるのじゃないかしら」
  8403.  といって、また一座をわかせるのだった。
  8404.  そんな下劣な彌次や揶揄を浴びせられても夫人は固く眼を閉ざし、凍りついたような横顔を見せて耐えつづけている。
  8405.  静子夫人がただ口をつぐんで憤辱に耐えていれば、自分達が無視されているといった不満が銀子や朱美に生じるのだろう。
  8406.  酒が入ると冷酷にも残忍にもなる銀子は朱美に注がれたビールを一息に飲むと、ついと立ち上り、
  8407. 「ちょいと、奥さん。私達のしゃべっている事、聞いてるの」
  8408.  と、不平そうにいった。
  8409.  銀子のこうした場合の恐ろしさを知っている夫人はふと睫毛を開き、おろおろした表情を銀子に向けるのだ。
  8410. 「私達の話を聞いているのかよ」
  8411. 「聞いて、聞いておりますわ」
  8412. 「どう思うのよ」
  8413. 「ど、どう思うって」
  8414.  静子夫人は答えようもなく、おどおどして銀子から視線をそらせた。
  8415. 「何を馬鹿な事をしゃべってるんだと、私達の知性のなさを軽蔑しているんだろ」
  8416. 「そ、そんな事は、ございません」
  8417. 「そんな事はございません、だなんて、何時までも貴婦人ぶった口のきき方はよしな」
  8418.  銀子は舌打ちして夫人にきつい言葉を投げかけた。
  8419. 「どうしたの、お銀娘さん、近頃、いやに静子夫人に辛く当たるじゃないか」
  8420.  と朱美が、まあ、まあ、と銀子をなだめるようにしていった。
  8421. 「可愛さあまって、憎さが百倍ってところだろうな」
  8422.  と、川田がいった。
  8423. 「銀子は静子夫人にどうやら惚れてるんじゃないか」
  8424.  川田が笑いながらそういうと銀子は、うるさいわね、と、わめくようにいった。
  8425.  その時、室内専用電話が鳴ったので朱美が受話器をとった。
  8426. 「鬼源さんからだわ」
  8427.  朱美から受話器をとって耳に当てた銀子は、うん、うん、と話しているうち、狡猾そうな微笑が口元に滲み出た。
  8428. 「ああ、そう、わかったわ」
  8429.  銀子は電話を切ると、川田にいった。
  8430. 「近々に静子夫人の後ろの穴の調教に入りたいのですって」
  8431. 「後ろの穴って、ケツの穴」
  8432. 「そう。そこで客を遊ばせる事が出来るように穴に磨きをかけたいんですって」
  8433.  まず、ピンポン玉から始めて卵ぐらいが呑み込めるよう肛門を開かなければならないそうよ、と、それをどんな辛い思いで聞いているのかと銀子は柱につながれている静子夫人にチラと視線を向けた。
  8434.  夫人は美しい眉根をさも辛そうにギューと寄せて悲しげに眼を閉ざしている。
  8435. 「それでね、肛門を拡げるには一に浣腸、二に浣腸なんですって。ですから、もし、何か遊びを考えているなら、静子夫人を浣腸してみてくれないか、と鬼源さんはいうのよ。つまり、こっちの仕事に協力してほしいというのよ」
  8436.  銀子がそういうと、千代が、
  8437. 「そりゃ、協力しなければ悪いわ」
  8438.  などといった。
  8439. 「ね、伊沢先生、こうしてぼんやり遊んでいるより、私達、少しでも鬼源さんに協力するべきだと思うわ」
  8440.  千代が床柱を背にして立つ静子夫人の前に立ち、何かいおうとしたが、それより先に夫人の方が千代に向かって語りかけた。千代の揶揄や嘲笑を封じるためかもしれない。
  8441. 「千代さん、今年もお庭のバラは綺麗に咲きまして」
  8442.  千代は、くすくす笑いながら、
  8443. 「そうそう、遠山家の広いお庭にあるバラの花、あれは、何時も奥様が入念に育てておいででしたね。奥様の身体の中から出た肥料を吸ったなら、あのバラの花、一段と美しく育つ事だと思いますわ」
  8444.  千代がそういうと、銀子は、舌を出すようにして、
  8445. 「浣腸してこの奥様の身体から出たものが、いい肥料になるわけでしょう。早速、奥様に作って頂きましょうよ」
  8446.  千代や銀子のそういういたぶりの言葉も、今は、打ちひしがれた神経をちらとかすめる程度にしか静子夫人には感じ取れなかった。
  8447.  静子夫人は、静かに眼を閉じ、臨終のせまった病人があれこれ、とりとめのない幻想に浸るように、ふと、遠山家の庭に咲き誇っていたバラの花を思い起こしていた。
  8448.  あざやかな鮫肉色の光をはなった沢山のバラの花が、静子夫人の脳裏に浮かび上る。婦人雑誌の記者が何度も来て、ぜひとも表紙のモデルにと頼むので、静子夫人は、好きなバラの裾模様をした訪問着を着て、この美しく咲き誇っているバラの花をバックにして、写真を撮らせた事があった。出来たカラー写真が雑誌社から送られて来た時、夫の遠山隆義が、そのカラー写真の絢爛とした美しさに眼を瞠り、財界の知人達に自慢して見せていた事などが、遠い昔の出来事のように思い出されてきたのである♢♢が、千代夫人のキンキンした声が再び耳に入って来て、静子夫人は恐ろしい現実へ、またもや引き戻されて行くのであった。
  8449. 「ほんとに奥様は、あのバラの花の手入れには気を使っておいででしたわね。私も、一度あのバラに水をやらなかったという事で、奥様に叱られた事がありましたわ」
  8450.  千代は、そんな事をいい、
  8451. 「これから私も、奥様同様、あのきれいなバラの花は大切に育てていく事に致しますわ。奥様はその肥料を作って下さればいいわけ。私が時々頂きに上りますわ」
  8452.  そして、千代は、さ、お掃除してあげましょう、とチリ紙をくわえて身を低める。
  8453.  ほっと夫人は美しい顔を曇らせて、はっきりと現実に引きもどされた思いになり、再び屈辱との戦いを始めるのであった。
  8454.  更に静子夫人は、ふと、前方を見て、身体を強ばらせる。
  8455.  何時の間にか円型の卓は隅へ持ち去られ、畳の上には大きなビニールの布が敷かれてあり、その上に大きな枕が一つ、それに天井からは一本のロープに中央を結ばれている長い青竹がT字型を逆にした形で、ぷら下がっているのだ。
  8456.  それは何を意味しているか静子夫人にはわかっている。
  8457. 「さ、奥様、そろそろ支度が部屋ったようですわ」
  8458.  千代と銀子は、静子夫人の息軌を外し取った。
  8459.  両肢が自由になった静子夫人は、恐怖におののく自分の気持を何とか落着かせようと、大きく息を吸いこむのであった。
  8460.  如何に哀願したとて、やると決めた事は、どうしてもやってのける恐ろしい連中達である事は夫人は嫌というほど、これまでの色々な責めで思い知らされている。となれば、静子夫人にとって残された道はただ一つ、人間的な思念を
  8461. 一切捨て、歯を喰いしばり、連中の責めを甘受する事だけである。
  8462.  銀子は朱美に、静子夫人の乱れた髪を部屋え、美しく化粧するように命じた。
  8463. 「ちょっとばかり、今度は臭い責めだからね。臭い止めの意味で、たっぷり香水を奮発してやんな」
  8464.  あいよ、と、朱美は、口にしていた煙草を灰皿へ捨てて、勢いよく立ち上った。
  8465.  
  8466.  
  8467.     ガラスの尻尾
  8468.  
  8469.  化粧箱を持ちこんで来た朱美の手で、美しく化粧されていく静子夫人。
  8470.  瓜実の端正な両立、高貴な感じの鼻すじ、自然にウェーブのかかった見事な黒髪、そして、乳液を塗りたくられて、ことさら白くなった頬から頸にかけての皮膚の艶々しさは、これまで悪どい責めを日夜受けつづけてきた女とは思えぬ妖しいばかりの若さであった。
  8471. 「いい女というのは、この奥様のためにある言葉のようですわね。如何が、先生」
  8472.  千代にいわれて、伊沢も盃を口に当てたまま、陶然とし、朱美と銀子の手で化粧されていく静子夫人の美しい容姿に見とれてしまっている。
  8473.  もうすっかり観念したのであろう。静子夫人は、軽く唇をつき出すようにして、朱美の手で口紅をひかれているのだ。
  8474.  静子夫人は、額を柱に押しつけるようにして、この屈辱を全身で耐えているようであったが、柔軟な肩や腰のあたりが、意志を裏切るようにガタガタ震え出すのであった。
  8475.  朱美は、ピシャリと夫人の尻をひっぱたき、
  8476. 「ガタガタするんじゃないよ。これ程までに親切にしてやってるんだ。感謝の気持を表わしたっていいだろ」
  8477.  と、更に香水をすりこむ。
  8478.  川田は、先程から洗面所のぬるま湯の中へ石鹸粉を流しこみ鼻歌まじりで石鹸水を作っていたが、
  8479. 「さて、もういいだろ」
  8480.  と立ち上り、夫人の身体を柱から外しにかかる。
  8481. 「千代夫人と伊沢先生にして頂くからな。あまり、固くならず、楽な気持で、お受けするんだぜ」
  8482. 「か、川田さん」
  8483.  静子夫人は、柱から身体を切り離され、縄尻を川田に取られると、もうがまんしきれなくなったよう涙にうるんだ瞳を川田に向けるのだった。
  8484. 「それはやらないという約束だった苦です」
  8485. 「今更、何をいってるんだ」
  8486. 「どうしても、それをなさるのなら、後生です。千代さんにはさせないで。そ、そんな事だけは。ね、お願い」
  8487.  自分の長い間の使用人であった千代の手で嬲られる事は、もうこれ以上、耐え切れなくなったのか、静子夫人は川田にそういうと堰を切ったように泣きじゃくるのだった。
  8488.  千代の手で、道具を取りつけられたり、色責めにあったり、酒樽にされたり、これまで死んだ気持で耐えつづけてきた静子夫人であったが、その上、今度は浣腸まで♢♢。静子夫人は心に涙の雨を降らせつつ、必死の思いで川田を見たが、
  8489. 「何いってるんだ。千代夫人は俺の妹だぜ。本当なら、桂子だって、一緒に責めにかけるんだが、それを、かんべんしてやってるんだ。あんまり、勝手な事ばかりいうと、ここへ桂子を連れてきて、何時かの京子と美津子のように♢♢」
  8490. 「ああ、川田さん♢♢」
  8491.  静子夫人は、輝く首を垂れ、川田に背中を押されて、ビニールのカバーが敷かれてある所まで、よろよろと歩き出すのであった。
  8492.  静子夫人は、遂に、千代と伊沢が見守るビニールの土俵の中央まで川田に押し先てられ消え入るようにすすりあげながら、小さくしゃがみこむ。
  8493.  それを見ると、千代と伊沢は、申し合わせたように煙草を灰皿に捨てて、両方から、静子夫人の艶やかな雪白の肩に手をかける。
  8494. 「さ、奥様、お寝んねして下さいましね」
  8495.  静子夫人は、その瞬間、耳たぶまで燃えるように赤くし、千代と伊沢の間で、嫌々と首を振りつづける。
  8496.  悪魔達が考える色々な悪どい責めを受けつづけ、完全に屈服したかの如く見える静子夫人ではあるが、この浣腸責めを前にしては、乙女のように、可憐なくらい羞恥にむせび泣く。それがまた銀子にとっても、千代や伊沢にとっても、こたえられぬぐらい痛快なのだ。
  8497. 「ぐずぐずしちゃ駄目。さ、奥様、勇気を出して」
  8498.  千代は、くすくす笑いながら、夫人を後ろへ倒そうとして、ムキになる。
  8499. 「♢♢ああ」
  8500. 「モタモタすんねえ」
  8501. 「あ、そ、そんな♢♢」
  8502.  静子夫人は、大きく首をのけぞらせ、うめきつづけたが、川田の合図を受けた銀子がロープを力一杯、引き始める。
  8503. 「あっ、あっ♢♢」
  8504. 「何が、あっ、あっ、だ。これからすばらしい事をして頂くんじゃねえか」
  8505.  爼上の鯉の如く、歯を噛みしめて観念の瞼を閉じようと努力する静子夫人であるが、しかし、恐怖と屈辱の慄えは止めようとしても止まらない。
  8506.  千代は、そんな静子夫人を、小気味よげに眺めながら、ビニールの布の端にころがっている枕をとり、夫人の頭の下に入れようとした。
  8507.  すると、川田が笑いながらいう。
  8508. 「そいつは、頭の下に敷く枕じゃねえ。ケツの下さ」
  8509.  なるほどね、と千代は伊沢の方を見て、口を歪め、夫人の尻を二人で持ち上げるようにして、その下へ枕を差し入れるのだった。
  8510. 「ホホホホホ」
  8511.  のぞきこむようにそれを見て、笑いこける千代と銀子。 なれの果て、という言葉があるが、あまりにも、ものすさまじい遠山令夫人のなれの果てだ。千代は、ふと、秋日和の静かな午後、静子夫人が女中達を茶室に招いて、茶をふるまった時の事を思い起こした。
  8512.  縞お召に黒紋付を重ねた静子夫人は、頭髪を品よく捲き、伸びやかな肢体、澄んだ濃い黒眼、まるで、新派の舞台に出てくる女優のような気高い美しさだった。女中達の労をねぎらい、お点前の薄茶を女中達に対して、もの静かに一服ずつふるまった静子夫人の袱紗さばき、茶釜とおし、切り柄杓の一つ一つのまるで絵のような美しさを、女中達は溜息の出る思いで、じっと見入ったものである。
  8513.  その優雅な匂いに溢れていた深窓の令夫人が、今はこの田代の屋敷の捕われ人。そして日夜、汗みどろの調教を受
  8514. け、スターとなるべく別個の女に作り変えられようとしているのだ。何ともいえぬ奇妙な気分になって、千代は、浣腸器にたっぷり溶液を満たしている川田の横手に仰臥し、屈辱にのたうち、涙を流しつづけている静子夫人を眺めるのであった。
  8515. 「♢♢ああ、お、お願い。か、川田さん、そ、それだけは♢♢」
  8516.  静子夫人は、唇を小さく動かし、かつては遠山家の運転手であった男に、無駄とは知りつつも、消極的な哀願を続けているのだ。
  8517.  そして、川田がニヤニヤして手にしている溶液を一杯吸いこんだ浣腸器を朱美は取ってそれを夫人の眼の前に近づけていく。
  8518. 「さ、奥様。長い間お待たせしたけど、用意は出来ましたわ」
  8519.  朱美は、その先で夫人の頬をつつくのだ。ふと、涙で光る美しい黒眼を開いて、静子夫人はそれを見たが、ああ、と打ちのめされた火のように熱くなった顔を、のけぞらせる。
  8520.  川田は、夫人の顎に手をかけて、顔をはっきりと正面に仰向かせ、
  8521. 「へへへ、奥さんも以前とは違って、大分、ショーのスターの修業を積んだ筈だ。だから今日のは、前のようなあっさりしたもんじゃねえ。浣腸するんじゃなく、浣腸責めにかけるんだから、その気になる事だな」
  8522.  川田は、そういって、銀子の顔を見る。
  8523. 「一体、どういう風にさ」
  8524.  銀子は、あられもない静子夫人の姿態をニヤニヤして眺めながら川田に聞く。
  8525. 「一度にすませてしまわず、ほんのちょっぴりずつ、送りこんでやるんだ。美津子達のショーが始まるまでにゃまだ三時間はあるぜ。それまで気長に酒でも飲みながら♢♢」
  8526. 「そりゃ、傑作だわ」
  8527.  銀子が手を叩いて面白がる。
  8528. 「フフフ、奥様。貴女、いくら、お尻をもじもじさせて、早くすませて、と頼んでも、駄目なのよ。失礼な態度をとった罰に、たっぷり時間をかけて送り届けてあげるわ。でも奥様としては、その方が嬉しいんじゃない。貴女だって、長い時間、じっくりと楽しむことが出来るわけだものね」
  8529.  朱美もそういって、夫人の肉感的な尻を叩き、笑うのであった。
  8530.  静子夫人は、周囲に陣どって、嘲笑し、哄笑しつづける連中に、一瞬、キラリと憎悪のこもった眼を向けたが、その鋭く研ぎすまされたような美しい瞳も、すぐに悲しげに閉じ合わせられ、夫人は、怒りとも呪いともつかぬ火のかたまりのようなものを呑みこむようにして歯を喰いしばる。飽く事を知らないけだもの達の、あくどい責めに、静子夫人の胸底には血涙のようなものが充満していくのである。
  8531. 「この奥さん、怒った顔をすると、一段と美人に見えるじゃないか」
  8532.  川田は、せせら笑うようにいって、夫人の顔をのぞきこみ、
  8533. 「俺達の眼の前によ、桃の花と菊の花をぽっかり咲かせて、すねたり怒ったりしても、さまにならねえぜ」
  8534.  川田のいう桃の花と菊の花、それは宙に向けて両肢をつながれ、腰枕を当てられた事によって双臀は高々と浮き上り、上層の桃の花肉と下層の菊の花肉が並列したように生々しく露呈しているのだ。
  8535. 「フフフ、これ位の美人になるとお尻の穴まで可愛く見えるから不思議だわ」
  8536.  銀子は内腿深くのその陰密な菊座の柔らかい蕾を指裏でそっと押したが、同時に腰枕の上に乗せ上げちれた量感のある双臀はブルっと電気に触れたように鋭く痙攣し、吊られた優美な両肢が激しく揺れ動いた。
  8537. 「や、やめてっ」
  8538.  と、珍らしく夫人は昂ぶった悲鳴を上げた。
  8539. 「何だよ、ケツの穴を一寸、触られた位でオーバーな悲鳴をあげるなよ」
  8540.  と、川田がせせら笑っていうと、
  8541. 「嫌なんです。私、そこを触られるのは絶体に嫌」
  8542.  と、静子夫人は鳴咽の声と一緒に哀願するようにいった。
  8543.  これまでに調教という名目で相当に過激な折檻、また、凌辱の限りを尽された夫人なのに、これはどうした事かと川田は不思議に感じた。
  8544. 「そうか、奥様は浣腸されるのは今回が初めてなんだな」
  8545.  川田は、じゃ、つまり、喰わず嫌いというものだ、と笑って、もう一度、指先をそこへ滑りこませ、眼を近づけると、ヒイッと夫人の口からけたたましい悲鳴が生じた。
  8546. 「何だい、痔でも何でもねえじゃないか。立派なお肛門様だよ」
  8547.  といって川田は笑った。
  8548. 「嫌でも、痛くても、鬼源さんに約束もした事だし、浣腸は絶体にやらせて頂くからね」
  8549.  といって銀子はコールドクリームの瓶を取り出した。
  8550. 「銀子さん、ねえ、他の事なら何でも我慢します。でも、それだけは堪忍して」
  8551.  銀子が指先にたっぷりとクリームを掬いとり、ビニール布の上に仰臥している夫人に近づくと、夫人は火照った頬をそむけて鳴咽した。
  8552.  川田は、更に静子夫人に対していう。
  8553. 「一寸試し五分試しって責めが嫌で、どうしてもひと思いにすましてほしいのなら、ショーのスターらしく演じて、責め手の気をひく事だな」
  8554.  ショーのスターらしく、というのは、責め手、つまり客達の望むにしたがって、積極的に振舞って見せるという事で、それは何度も鬼源達にムチ打たれるようにして教えこまれた事であるが、この屋敷に捕われている美女達をショーのスターにするとなれば、それは、彼女達にとって、一番、苦痛である訓練であった。
  8555.  責め手を喜ばせる、この種の女の技巧とは、わざと責めを求める仕草である。鬼源にいわせるならば、単に羞恥に悶えるだけなのは、駄目で、この種のスターともなれば、着め手に対し、羞じらいのこもったねだりの言葉、消極的な色っぽい拒否の仕草、こうしたものが不可欠だというのだ。
  8556. 「喜んで責め手と呼吸を合わすのなら、ひと思いにすましてやる。どうだ奥さん、よく考えるがいいぜ」
  8557.  川田は、手の中で浣腸器をもてあそびながら、そんな事をいうのだった。
  8558.  浣腸責めをしようとする連中に、どういう技巧を使えるというのか。静子夫人は、ただ顔を横に伏せるだけ、涙は再び、あふれ出て、とめようとすると、喉は鳴咽にひきつる。
  8559. 「さ、そんなむつかしい事は、どうでもいいじゃない。酒でも飲みながら、ちびりちびり始めようよ」
  8560.  台所へ酒を取りに行った銀子が、一升瓶をぶら下げて戻って来た。
  8561. 「さ、まず、一番バッターは、やっぱり千代夫人だな」
  8562.  川田は、千代に、浣腸器を渡す。
  8563. 「でも、私、こんなもの、人にするの、初めてなのよ」
  8564.  千代は、そういいながらも、満更でもないといった顔つきで、それを受け取り、くすくす笑いながら行く。
  8565.  川田がコップ酒を口に当てながらいった。
  8566. 「ほんのちょっぴりやるだけでいいぜ。浣腸器は、そのままにしておいて、またひと飲みし、頃を見計らって、また、ちょつぴり♢♢」
  8567.  銀子や朱美が大口を開けて笑った。
  8568. 「酒の肴は、ガラスのシッポをつけた奥様ってわけね」
  8569.  千代が、のぞきこむようにして、身をかがめてくると、死んだつもりで、石のように体を強ばらしていた静子夫人であったが、突風のように嫌悪の戦慄が身内に走り、カッと頭に血がのぼる。
  8570. 「待、待って、待って、千代さん!」
  8571.  激しく息づきながら、おろおろした声を出すのであった。
  8572. 「ホホホ。どうなさったの。奥様」
  8573.  千代は、ベソをかきそうな静子夫人の顔を見て、にっこり笑う。
  8574. 「いけません。後生です。何もかも失ってしまった私に、これ以上、生恥をかかせないで! お願いですっ」
  8575.  静子夫人は、必死になり、泣き叫ぶのだったが、酒気を帯びた銀子や朱美は、静子夫人がうろたえ、とり乱し出すと、よけいに無残な心を煽り立てられるのか、横から乳房や臍をつついて、夫人をいたぶり始める。
  8576. 「元遠山夫人ともあろう人が、浣腸ぐらいで大声をあげるなんて、みっともないわよ」
  8577.  朱美がいうと、銀子は、ふと、傍に置いてあった便器を取りあげて、腰をあげ、夫人の眼にそれを見せる。
  8578. 「フフフ、奥様。貴女、排泄の時の事を心配しているのね。大丈夫よ。奥様が、川田流の浣腸責めを充分受けて下さったならば、その後、この中へ、のびのびと排泄させてあげますわよ。天下の美女と騒がれた元遠山静子夫人の名に恥じないよう、堂々と音をたてて排泄なさるがいいわ」
  8579.  銀子は、そういって、朱美の肩に手をかけて、笑いこけるのだった。
  8580.  静子夫人は、卑劣きわまるズベ公達の言葉に、もう返す言葉もなく、精も根も尽き果てたように沈黙してしまうのだった。
  8581.  それを見てとった千代は北叟笑み、浣腸器を持ち直す。
  8582. 「さ、奥様。銀子さんのいうよう、排泄の支度も、部屋っているのですから、もう何も心配される事はありませんわ。じゃ始めますわよ」
  8583.  もう静子夫人は、すっかり観念したのか、身動きもしない。固く眼を閉ざし、花びらのような形の唇を結んで、落花微塵とばかり突き進んでくる責めの矛先を待っているようであった。
  8584.  
  8585.  
  8586.  
  8587. 第三十一章 落花無残
  8588.  
  8589.  
  8590.     若いコンビ
  8591.  
  8592.  地下室の階段口で田代と森田が待っていると、義子や悦子、それに井上達が文夫と美津子を引き立て、階段を上って来た。
  8593. 「密室の方の準備は、万端とどこおりなく出来たぜ。それに関口一家や熊沢組の若い衆達も、もうお集まりさ。さ、行こうぜ」
  8594.  森田はそういい、先に立って歩き出す。
  8595. 「さ、行くんだよ」
  8596.  縄尻を取る義子と悦子に背を突かれ、つんのめるように、ふらふら歩む文夫と美津子。
  8597.  これから、どのような場所に連れて行かれ、どのような行為を無理やり演じさせられるか二人はわかっている。
  8598.  恐怖と屈辱の鳴咽にあえぎつつ、体を前かがみに折り曲げるようにして、冷たい敷石の上を素足で歩む文夫と美津子を田代と森田は時折り振り返って見てせせら笑うのだった。
  8599. 「朝食にうんと栄養のつくものを食べさせましたし、精力のつく注射もケツに打ってやりましたよ、社長」
  8600.  美津子の縄尻を取る悦子は田代の顔を見てそういい、ニヤリと笑う。
  8601.  それに、この美少年と美少女は全身美容もされているようであった。文夫の頭髪は、いい匂いのするポマードをつけて七分三分に分けられていたし、美津子も、その黒い艶のある黒髪はカールされ、新しい紫色のへアバンドがしめられている。
  8602.  やがて、この美少年と美少女を取り巻く一団は、庭の奥にある竹薮の中に入り、密室に向かって行く。
  8603.  密室のドアが開くと、むっとする人いきれ、関口一家と熊沢組の若い衆達が十数人、日頃かち仲良く波世の交際をしている両者だけに何やかやと話がはずむらしく、互いに盃のやりとりをし、笑い合っている。
  8604.  七輪に大きな鍋をかけて、ぐつぐつ肉を煮こみ、酒の匂い、煙草の煙、等々、室内はどぎつい熱気を充満させている。
  8605.  田代達が、文夫と美津子を連れて入って来ると、一座は、ふと話し声を止め、一斉にその若いショーのスターに限を向けるのであった。
  8606. 「ひえー、こりゃたまげた。ずいぷん若いスターだな」
  8607.  やくざ達の酒に濁った眼は、ギラギラ異様に光る。
  8608.  恐怖のため、肩や膝のあたりをぶるぶる震わせ、屠所へ入るのを嫌がる小羊のように、体を硬くして立ちすくんでしまった文夫と美津子に対し、
  8609. 「何してるんだよ。皆さんは待ちくたぴれているんだ。さっさとお歩き」
  8610.  悦子と義子は、若い二人の背を、どんと押すのだった。
  8611.  文夫と美津子が慄然としたのは、足の踏み場もないはど、そのあたりを埋めつくしているやくざだけではない。その奥にある、すでに準備一切を部屋えられてある舞台であった。周囲には照明器材が、ものものしく配置されてあり、スターの登場を待っているのである。
  8612. 「ちょっと道を開けて下さいよ。ハイ、ごめんよ」
  8613.  森田は、やくざ達の間をかきわけるようにして、二人の若いスターを舞台の方へ押しやって行く。やくざ達は、スターにサインを求めるミーハー族のように、森田や田代の制止も開かず、わっとばかり押し寄せて来たのだ。
  8614.  きらめくような美津子の美肌に少しでも手を触れさせようと、浅ましくも、酔った勢いで押しかけて来たのであるが、
  8615. 「困るがな、無茶をしちゃ。今日は、この二人の厳粛な結婚式なんやからね」
  8616.  悦子と義子は、大声で叫んで、やくざ達を押し戻すのであった。
  8617. 「まあ、舞台が台なしになっちゃったじゃないの。仕様がないわね。じゃ、元通りにする間、あんた達、この台の上へ上がっていて下さいな」
  8618.  激しく鳴咽しながら、真っ赤になった顔をねじ曲げるようにしている美津子と文夫を悦子と義子は追い立てるようにして、舞台のすぐ手前にある雛壇の上、つまり、何時であったか、静子夫人と京子が同時に行われた拷問台であり、美津子と文夫がサイズを計られたという、おぞましい台の上へ、再び、乗せ上げ、わずかな間隔をはなして打ちこまれてある丸木に、ひしひしとつなぎ止めるのだった。
  8619.  やくざ達は、ごくりと唾を呑みこむようにして、若い二人の全身正面像を、しげしげと見つめている。
  8620.  悦子と義子は、こちらをギラギラした眼で見つめているやくざ達に、
  8621. 「どう。この二人、童貞と処女なのよ。もっとこっちへ寄って、ごらんなさいよ」
  8622.  ズベ公達のその言棄に、やくざ達は、ぞろぞろと台の上へ上って来た。
  8623.  悦子は胸を張るようにして男達にいった。
  8624. 「このお嬢さんはね、美津子さんといって、今年十八になったばかり。夕霧女子高校の才妓で、将来、スチュワーデスになる希望だったんだけど、心境の変化で、森田組映画のスターを志望する事になっちまったのよ」
  8625.  悦子がそういうと、やくざ達は、美津子の前に立ったり、坐ったりして、しげしげ見つめながら、
  8626. 「へえ、これが女子高校生ね。そうとは思えねえ、いい体をしてるじゃねえか」
  8627.  そして、次に、眼を文夫の方へ向ける。
  8628.  義子がいった。
  8629. 「こちらも、まだ学生でっせ。どや、映画スターなみのハンサムボーイでっしやろ」
  8630.  やくざ達は、うなずきながら、眺めていたが、互いに顔を見合わせて、ニヤリと笑い、
  8631. 「なかなかでっかい体格をしてるぜ。なるはど、これだけありゃ、この種の映画のスターとしても恥ずかしくはねえな」
  8632.  などというのだった。
  8633. 「さて、皆さん」
  8634.  森田は、密室の中を埋め尽すばかりつめかけている関口一家と熊沢組に対していったのである。
  8635. 「これから、兄さん達に見て頂くショーは、ごらんの通り、全くのズブの素人、しかも、今日が初めていう、こういう若い二人で演じるってわけだけに、色々と手間がかかり、スムーズにはいかねえ。まあ、色々と見苦しい点はあると
  8636. は思うが、それがまた面白味ってわけだ。その点、ひとつ♢♢」
  8637. 「いいから、早くやってくれ」
  8638.  誰かが大声で叫ぶ。
  8639. 「へへへ、せいては事を仕損ずる」
  8640.  そういって、隅から立ち上り、のっそりとやって来たのは、鬼源である。
  8641.  鬼源の後ろから、鈍重な動きで、ついて来る大柄な男は捨太郎。今朝方、鬼源が浅草から連れて来たこういうショーの男役を受け持って食っている、いわばプロであった。静子夫人や京子のショーの相手役にさせるため、鬼源が連れて来た男であるが、子供の頃、脳膜炎で頭が少しおかしくなったという彼は、涎を流しつづけ、とろんとした眼で周囲を見廻している。
  8642.  捨太郎は小脇に擂鉢をかかえている。鬼源に指さされて、擂粉木を握って擂鉢の中のとろろ状のものを熱心にすり始めたのだ。
  8643.  それを不思議そうな顔して見つめる男達に対して、鬼源が説明した。
  8644. 「山芋をはじめ、色々な薬草を混ぜ合わせて、この若い二人のための塗り薬を作ってるんですよ。こいつを塗りたくられると、痒くて痒くて、たまらなくなる。そのたまらねえ痒さを解決させるにゃ方法は、一つしかねえってわけ。へへへ、おわかりでしょ」
  8645.  鬼源は、口元に薄笑いを浮かべて、やくざ達の顔を見るのだった。
  8646.  捨太郎は、一心に、擂鉢の中のとろろ汁のようなものをこねまわしていたが、頃はよしと見て、悦子と義子が、それぞれ茶椀を持ち寄り、たっぷりとすくいあげる。
  8647.  義子は文夫の傍へ、悦子は美津子の傍へ近寄っていくのであった。
  8648.  嫌悪の戦慄を全身に走らせ、石のように体を硬くする文夫。
  8649.  恐怖に胸を慄わせ、歯をキリキリ噛み鳴らして首を振る美津子。
  8650.  悦子は、美津子の声をあげて泣き出す一歩手前のような、ひきつった表情を楽しそうに眺めて、
  8651. 「さ、お嬢さん。そんなに体を硬くしちゃ駄目。そりゃ、とても痒くてたまらなくなるけど、文夫さんが何とかしてくれるわよ」
  8652.  と含み笑いしながら、身をかがませるのであった。
  8653. 「あっ、嫌っ、嫌よっ」
  8654.  美津子は、悲鳴をあげ、悦子のしようとする事にさからって、必死に肩を振り動かす。
  8655. 「動いちゃ駄目よ」
  8656.  悦子は、茶碗に入っているものをたっぷり指先にすくい取り、義子は腰をかがませて美津子のその若草の淡い柔らかい茂みを指先でかき分け始めた。ピンク色の可憐な花肉をまさぐり、悦子は意地になったように指裏に掬った怪しげなものをすりこもうとする。
  8657. 「な、何をすんのっ。やめてっ、嫌っ。ああ、ふ、文夫さーん」
  8658.  美津子は、遂に声をあげて、泣き出してしまった。
  8659.  体全体をたまらない嫌悪感が稲妻のように貫くのだ。如何に悶え、如何に叫ぼうと、柱に緊縛されている身、どうしようもない。
  8660. 「な、何をするんだっ。け、けだもの!」
  8661.  文夫の方も声をはりあげ、身をくねらしつづけている。 義子は文夫の肉棒をいきなり握りしめ、軽くしごくようにしながら充血を示し始めたその生肉にいきなり粘液を塗りつけた。しかし、文夫も自由はきかず、防げるものではない。
  8662. 「さあ、もうそれだけ、塗りこみゃ充分だ」
  8663.  鬼源は、煙草を口にしながら、眼を細めていった。
  8664. 「へっへへ、どうだい。二人とも、むずむずしてきたろう」
  8665.  鬼源は、美津子と文夫を見くらべるようにして、口元を歪めるのだった。
  8666.  薬の効き目は、忽ち、その威力を発揮し始めたのである。美津子も文夫も、しきりに足をもじもじさせ始め、やがて、尻をブルブル震わせ出したのだ。
  8667. 「うっ、あっ、ああ 」
  8668.  美津子は、カールされた黒髪を左右に振りつづけ、切なげに首をのけぞらせるようにして、鼻を鳴らして、すすり泣く。
  8669. 「うっ、嫌、嫌っ。くっ、くう♢♢」
  8670.  美津子は、うめくような声をあげ、しきりに肩を左右へ振り始めたが、それを見守るやくざ達は、こいつは傑作だ、と笑い合い、仔細に観察すべく眼を近づけていくのだ。
  8671.  田代は、井上に注がれたウイスキーを、うまそうに飲んでいる。
  8672. 「美津子、痒い所がかけないというのは切ない気持だろ」
  8673.  その通りで、美津子は、もし、両手が使えたならば、大勢の人目もはばからず、身をかがめて、爪をたてたかも知れない。
  8674.  文夫の方も、歯を喰いしばった表情をしてその痒みと戦いつづけているのだ。
  8675.  悦子と義子は、くすくす笑いながら、額に脂汗を浮かべて身悶えしている二人にいう。
  8676. 「お坊っちゃんもお嬢ちゃんも、がまんが出来なくなったようね。何時までもほっておくと気が狂うかも知れないから、そろそろ、始めてあげるわ。恋人の悩みをといてあげ、自分の悩みもといてもらう。どういう風にすればいいか、いわなくったって、わかっているでしょう」
  8677.  ズベ公二人がそういったのを合図にしたよう、森田は、舞台の周囲に待機している照明係や、撮影係に合図した。煌々とした光が照らす。
  8678.  舞台の上へ上がった美少年と美少女は、互いに顔をそむけ合い、ブルブル身体を震わせつづけている。
  8679.  鬼源と捨太郎は、舞台の上へ上がってくる田代の方を見ていった。
  8680. 「じゃ、社長、そろそろ始めるとしますか」
  8681.  田代は、うなずき、
  8682. 「何しろ、これだけの二枚目と美女の組み合わせだ。プレイそのものだけじゃなく、二人の顔もちゃんとカメラに入れなきゃ駄目だぞ」
  8683.  という。
  8684.  へい、それは百も承知でさあ、と鬼源は身をかがめ、激しく鳴咽している美津子の肩を後ろから抱きすくめるようにする。打ち合わせ通り、捨太郎は、文夫の肩をぐいとわしづかみにするのだった。
  8685.  舞台の周囲には、ぎっしりとやくざ達がつめかけギラギラ光る好奇の眼を向けている。
  8686.  
  8687.  
  8688.     バラの肥料
  8689.  
  8690. 「ホホホ、どう奥様、御気分は」
  8691.  千代はまた、ガラスのポンプを、ほんの少しだけ押し、静子夫人の表情を楽しそうに見るのであった。
  8692. 「うっ、あっ、ああ♢♢」
  8693.  静子夫人は、美しい眉を八の字に寄せて、キリキリ歯を噛み鳴らし、艶やかなうなじを大きくのけぞらせる。
  8694.  千代は、ニヤリと笑い、横から銀子が差し出す盃を受け、うまそうに酒を飲むのであった。
  8695. 「さあ、次は、伊沢先生よ」
  8696.  千代は、フラフラする足で立ち上り、場所を伊沢と交代する。
  8697.  わざとゆっくり時間をかけ、千代や銀子達は静子夫人を責めつづけているのだ。
  8698.  伊沢は、舌なめずりをするように坐り、千代の手つきを真似て、ポンプを一押しする。
  8699. 「あっ、ああ♢♢」
  8700.  静子夫人は、再び、眉を寄せ、美しい顔を畳にすりつけるのだった。
  8701.  伊沢は、じゃ、も一つ、おまけだ、といいながら、更にガラスのポンプを一押ししようとすると、
  8702. 「駄目よ、先生。そんなに一度に注ぎこんじゃ駄目。少しずつ、時間をかけて遊びましょうよ」
  8703.  と朱美が笑いながら制するのだった。
  8704. 「さ、次は、川田さんよ」
  8705.  銀子にいわれて、川田が伊沢と代る。
  8706.  千代は、わくわくする思いで、静子夫人の頭の脇へ来て坐るのだ。そして、汚辱にまみれすすりあげている静子夫人の頬に両手をかけ自分の膝の上に夫人の頭をのせる。
  8707. 「ホホホ、奥様、嬉し涙を流してらっしゃるのね。そんなに、いい気分なの」
  8708.  静子夫人は幾筋もの涙を流しつつ、唇を震わせるのであった。
  8709. 「♢♢お、お願い♢♢早く、早く、♢♢すませて下さい」
  8710. 「あら、駄目よ。そうはいかないわ。最初の予定通り、たっぷり時間を使って、注ぎこんであげますわ。ホホホ、その方が奥様だって長く楽しめるってわけじゃありませんか」
  8711. 「あっ、ああ♢♢う、う♢♢」
  8712.  静子夫人の美しい顔は、千代の膝の上で、嫌、嫌と左右に揺れる。
  8713.  川田が、ポンプを押し始めたのだ。
  8714. 「でも、どうやら、半分以上は、減ったようだな」
  8715.  川田は、ガラス管の中身をのぞいてそういう。
  8716. 「じゃ、今から、五分間の休憩。それからまた続きを始めましょうよ。奥様、お煙草でもお吸いになって一服して頂戴」
  8717.  千代が煙草を探し始めると、伊沢がポケットから、太い葉巻を取り出し、
  8718. 「これの方がいいだろう」
  8719. 「そうね」
  8720.  千代は、それを受け取り、先端を歯で噛みきって、口にくわえ、火をつけた。三、三服けむたそうに葉巻をくゆらせてから、
  8721. 「さ、奥様」
  8722.  千代は、棄巻を夫人の口にくわえさせようとする。静子夫人は、首を振って、それを避けた。
  8723. 「そっちの口で吸えねえのなら、こっちで吸わすぜ」
  8724.  川田の言葉に静子夫人は、ほっとしたように、
  8725. 「や、やめてっ。嫌っ、嫌よ!」
  8726. 「ホホホ、それなら、ちゃんとお口にくわえるんだよ」
  8727.  静子夫人は、むせび泣きながら、小さく口を開け、千代の押しつけてくる葉巻をくわえるのであった。
  8728. 「社交界の花形でもあった令夫人が、煙草ぐらいすえないでどうするの。口からすって、鼻から出すだけでいいのよ」
  8729.  銀子と朱美は、葉巻をくわえた静子夫人の頬を左右からつつきながら笑ったが、途端に静子夫人は激しく煙にむせこみ、葉巻を口から落としてしまう。
  8730.  銀子は、おどけた顔をつくり、
  8731. 「駄目ね。煙草一本すえないようじゃショーのスターとしても困るわよ。仕方がないわ。川田さん、そっちの方ですわせてあげてよ」
  8732. 「あっ、な、何すんの。嫌っ、嫌よ!」
  8733.  そんな静子夫人を酒の肴にして、再び、盃の交換をし合い、千代や銀子達は、笑ったり唄ったりする。
  8734.  やがて、これ等の悪鬼達は、さて、続きを始めようか、と盃を置くと、葉巻の火を消しガラス管のポンプを押し合うのだった。
  8735.  静子夫人は、細かい汗の玉を浮かべ、幾度も艶やかなうなじをのけぞらせるようにして、うめき続ける。固く眼を閉じ、この地獄の責めを歯を噛みしめて耐えつづける静子夫人は、ただ一心に、このいまわしい時間が早く終わるよう、心の中で神に祈りつづけているのであった。
  8736.  だが、浣腸器の液が全部注入されないうち夫人の下腹に、鈍痛のようなものが起こり出す。静子大人は、唇を固く噛みしめ、しきりと美しい顔を畳にすりつけ出した。
  8737.  残った溶液を一気に注ぎこんだ川田は、空になった浣腸器を夫人の鼻先へ近づけた。
  8738. 「そら、ようやく終わったぜ。長い間、充分、楽しんだろう」
  8739.  静子夫人は、このいまわしい注入が終わっても、ほっとする余裕などはなかった。次に当然、起こってくる生理的な苦痛と新たに戦わねばならない。
  8740.  だが、いくら耐えても、それは無駄な事である。川田や銀子達は、静子夫人の排泄行為を千代の眼前に晒け出させる事が目的なのだから、
  8741. 「どう、奥様、お庭のバラの花の肥料をお出しになる? それとも二十CCぐらいお体の中へお注ぎ致しましょうか」
  8742.  銀子は、くすくす笑いながら洗面器の中の溶液を浣腸器に再び吸いこませているのだ。
  8743.  静子夫人は、ちらとそれを見ると、肌に粟粒の生じる思いになり、嫌、嫌、と激しく首を振るのだった。
  8744.  もう限界に達してしまっている身に、更に溶液を注ぎこもうとしている、鬼のような川田や銀子。心も休も、バラバラになってしまったような静子夫人であるが、責め抜く事に飽く事を知らない悪魔達の顔を、憎恵をこめた瞳をキラと光らせて見るのであった。
  8745. 「そら、また、そんなこわい顔をする。だめね、奥様は。そんな美しい顔をしているのにどうして、可愛い笑顔が作れないの」
  8746. 「あっ、お願い。もう、もう嫌!」
  8747.  静子夫人は、狼狽して、狂気したように首を振る。
  8748. 「もう充分だというのね。じゃ、今まで楽しませてもらった事を充分感謝して、容器の使用を千代夫人にお願いしな」
  8749.  そして、銀子と朱美は、汚辱にむせび泣いている静子夫人に対し、感謝の仕方を教示し始める。だが、その間にも、夫人の腹は、ごろごろと音鳴りを始めたのである。
  8750. 「そら、お腹が鳴っているじゃないの。ぐずぐずすると、洩れちゃうわよ。さ、早くいうのよ」
  8751.  それを口に出していわない限り、便器の償用は許さず、汚物の始末もせず、二、三日、このままの恰好で晒しておくと、銀子は脅すのであった。
  8752.  静子夫人は涙を呑みこんだような悲痛な表情になって、横手に坐っている千代に美しい切長の瞳を向けるのであった。
  8753. 「千、千代奥様。静、静子、心から感謝致します。とても、楽しませて、頂きましたわ」
  8754.  息もたえだえに、静子夫人がそういうと、千代は金歯を見せてニヤリと笑い、
  8755. 「そう、そりゃよかったわね、奥様」
  8756.  と涙に光る夫人の黒い瞳を楽しげに見るのであった。
  8757. 「♢♢静子、こ、これから、むさいものを、お眼にかけますが、お願いです。お笑いにならないで」
  8758.  静子夫人は、銀子に教示された通りの事を口ごもりながらいったが、たまらなくなったように顔を伏せて号泣し始める。
  8759.  千代は、ハンカチを出して、とめどなく流れる静子夫人の涙を拭ってやりながら、
  8760. 「笑うものですか。奥様がお庭の美しいバラのために心をこめた肥料を作って下さるのですもの。私もお手伝いさせて頂きますわ」
  8761.  千代は、ブリキの便器をとって、静子夫人に当てがうのだった。
  8762.  ブリキの冷たい感触に、夫人は、ビクッと体を震わせる。心臓は高鳴り、耳たぶまで紅生姜のように真っ赤になるのであった。
  8763.  銀子が意地悪い笑顔を作って、再び、夫人の熱くなった頬をつつく。
  8764.  静子夫人は、すすりあげながら、唇を動かした。
  8765. 「♢♢伊沢先生、川田さん、もっと傍へいらして、よく見て下さいまし、少々、臭いのは、がまんして♢♢」
  8766.  むせび泣きつつ、夫人は、やっと口に出していうのであった。
  8767.  静子夫人は、連中の視線を痛いばかりにそこに感じながら、呼吸を止めた。落花微塵の姿を露出させ、この連中の笑い者になればいいのだと、慄える自分の心を叱りつけるようにして、再び、固く歯を噛みしめたが、なかなか慄えは止まらず、その行為は実行出来ない。生理的には限界に達している身ではあるが、女の本能が、その行為を阻止するのだ。
  8768. 「やい、何をもったいぶってやがんだ。とっとと始めねえか」
  8769. 「お、お願い。こんな、こんな恰好のままじゃ嫌」
  8770. 「何だと。また、ぜいたくな事をぬかしやがる。おい、朱美、そいつをかしな」
  8771.  川田は、朱美の手にある浣腸器を取り上げる。
  8772.  ふと、それに気づいた静子夫人は、ほっと血の気を失くして」
  8773. 「待、待ってっ。します。しますから、もうそれだけは、嫌っ、ああ、嫌です!」
  8774.  静子夫人は、打ちのめされたように、艶やかなうなじを大きく見せた。頭ががんがん鳴り、気が狂いそうだった。激烈な苦痛と快感めいたものが並列的にではなく、全く一つのものとして起こり、静子夫人の身体全体は火の玉のように熱くなったのである。
  8775.  一息に二十CCあまりを注ぎこんだ川田はせせら笑い、
  8776. 「さ、もうどうしようもあるめえ。元遠山財閥の令夫人として恥ずかしくないよう生々とするがいいぜ」
  8777. 「ホホホ、さあ、奥様、あとの事は心配なさらず、どうぞ、お始めになって下さいまし」
  8778.  静子夫人は、もう一言も発せず、一種、凄惨なばかりの美しい容貌をゆがめる。
  8779. 「まあ、ホホホ」
  8780.  容器をあてがっている千代は、突然、吹き出し、片手で口元を押さえる。
  8781.  銀子も朱美も、声をあげて笑い合い、
  8782. 「まあ、いやーね。お部屋が臭くなっちゃ困るから、障子を開けるわ」
  8783.  朱美は求ち上り、四囲の障子や襖をバタバタ開けて廻るのだった。
  8784. 「そーら、二つ目が出て来たわよ」
  8785.  銀子は手を叩いて、キャッキャッ笑う。
  8786.  静子夫人は、ズベ公達の嘲笑も哄笑も、もう耳には聞こえない。時々、光を失った空虚な瞳を物悲しげに細めて、遠いものでも眺めるように天井を見上げている。
  8787. 「へへえ、三つ目だ。ずいぶんと貯めこんでいたんだな」
  8788.  川田が笑った。
  8789.  静子夫人は、固く眼を閉ざし、眉を寄せ、白い真珠のような歯を噛みしめるようにし、ズベ公達が盛んに哄笑する中で、ようやく、羞恥を振り捨てた。
  8790. 「でも、さすがに大家の令夫人だわね。音をたてて派手にやらかすのかと思ったら、一つ一つ物静かに行儀よく落としていくんだもん。あたい、感心しちゃったわ」
  8791.  失美が妙な事に感心していうと、川田は、
  8792. 「そりゃ、手めえ達とは育ちが違うさ」
  8793.  といって笑ったが、ふと、川田の脳裏に、慈善パーティなどへ静子夫人を高級車で送り迎えしていた当時の頃が浮かんでくる。
  8794.  高級車のバックミラーを通して見た静子夫人の気高いばかりの美しさ。品のいいお召に黒紋付を重ね、瑞々しい艶やかな頭髪を品よく捲き、澄んだ濃い黒眼、高貴な感じのする鼻の線、美しい瓜実顔は雪のように色白で、全体に高尚な匂いに包まれていた令夫人であった。慈善パーティなどでも勿論、社交界の花形として、色々な名士から下へも置かぬもてなしを受け、日本を訪問した外国の映画俳優達と英語やフランス語を使いわけて談笑し合っていた遠山静子夫人、それが、今、眼の前で、ズベ公達の残忍な貴めを受け、嘲笑と哄笑の中で、次々と苦悶しつづけているのだ。川田は、何だか、得体の知れない不思議な気分になってしまう。
  8795.  銀子や朱美が、もう流す涙も涸れ果てたといった感じの静子夫人の頬をつつき、くすくす笑っている。
  8796. 「どう、奥様、さっぱりした気持になったでしょう。でも、もういいの。遠慮はいらないのよ。どんどんお出しになって♢♢」
  8797.  朱美がそういうと、銀子は、ブリキの中をのぞいて、
  8798. 「でもまあ、嫌、嫌、といいながら、ずいぶんと出したじゃないの。あきれちゃうわね、全く」
  8799.  やがてズベ公達は、手拭を水につけて、よくしぼり、千代に渡す。きれいに掃除した千代は、
  8800. 「はい、終わり。御苦労様」
  8801.  といって、笑い、ブリキの容器を手にとって眺め、
  8802. 「ずいぶんと健康的な色をしているわ。これで、体のコンデションは上々という事がわかったわ。妊娠するにも、今が一番いい時じゃないかしら」
  8803.  静子夫人は、軽く瞑目したまま、大きく息づいているだけでもう鳴咽する気力もないようであった。
  8804.  川田は、そんな静子夫人の耳元に口を寄せて、
  8805. 「おい、奥さん、すばらしい事をしてもらったというのに、黙りこんでいちゃ失礼じゃねえか。後始末まで、親切にして下さったのは千代夫人なのだぜ。ちゃんとお礼をいわなきゃ駄目じゃないか」
  8806.  それを聞くと、銀子や朱美も、
  8807. 「そうよ。知性や教養を身につけているといわれている割にこの奥様、少し、礼儀を知らないようね」
  8808.  静子夫人は、もう完全に意志を失った人間のように銀子に教示された通り、千代の方へ、妖艶なばかりの美しい瞳を向けるのだった。
  8809. 「♢♢千代奥様、ほんとに有難うございました。こんなすばらしい気分になったの、静子、初めてですわ」
  8810.  千代は、鼻に小じわを寄せて笑いながら、夫人の頭の脇に膝を折って坐り、
  8811. 「もっと、色々な事してあげたいんですけど、夫の遠山が淋しがるとかわいそうだから、今日はこれでお暇しますわ。どうかお元気でね。それから、このバラの肥料、約束通りお庭のバラの木の傍へ埋めてあげますわね」
  8812.  千代は、櫛を出して、静子夫人の乱れ髪をすきあげてやりながら、そんな事をいうのであった。
  8813.  静子夫人は、がっくり首を垂れ、投げ出された形の両肢を自然にちぢませ始めたが、銀子は、夫人の眼の前に、ブリキの容器を押しつけるのだった。
  8814.  ほっと顔を横へそらし、その中のものから眼をそらせる静子夫人に対し、銀子や失美は意地の悪い眼つきをして、
  8815. 「何も奥さん、顔をそらせる事ないでしょう。自分の体から出たものじゃないの。さ、よく御覧遊ばせ」
  8816.  銀子は、そういって、夫人の頬に手をかけ、顔を容器へ向けさせるのだった。
  8817.  放心したような表情で、それに眼を向け出した夫人を千代は頼もしげに見、夫人に寄り添い、頬を近づけて、一緒に容器の中のものを眺める。
  8818. 「なかなか健康的な色じゃありませんか。それに、ホホホ、まあ、ほんのりと湯気がたっているわ」
  8819.  朱美が大きな西洋皿とフォークを持ってやってくる。
  8820. 「遠山家に持ち帰って頂くものですから、このお皿にちゃんと盛りつけましょうね。でも、それは、奥様御自身でなさって頂こうじゃないの」
  8821.  成程、と銀子はうなずき、すぐに朱美が皿とフォークを夫人に押しつける。
  8822. 「さ、奥様、このお皿にきれいに盛り上げて下さいな」
  8823.  身も心も、くたくたになってしまっている静子夫人の手に皿とフォークが無理やりに手渡される。
  8824. 「さ、早くして頂戴。こっちも色々と忙しいんだから」
  8825.  銀子や朱美に、肩や背をつつかれ、静子夫人は、小さく、すすりあげながら、震える右手にフォークを握りしめ、その中のものをすくい取ろうとするのだった。
  8826.  千代は、銀子や朱美と顔を見合わせながら、口に手を当てて笑いこける。
  8827.  人間的感情を喪失した女のように、皿の上へ、それを運んでいた静子夫人。じわじわとこみあがってくるたまらない屈辱感に、皿を持つ左手がぶるぶる震えている。
  8828.  やがて、仕事を終えた夫人は、皿を畳の上へ置き、そのまま、わっと泣きくずれてしまうのだった。
  8829.  そこへ、急に縁側越しの障子が開き、入って来たのは、田代と森田であった。
  8830. 「何だ。こんな所にいたのかい。ずいぶん、あっちこっち探したんだぜ」
  8831.  森田は、川田や銀子達を見ていう。
  8832. 「もうとっくに文夫と美津子のショーが始まって、お客は大喜びさ」
  8833.  それを聞くと、銀子と朱美は口をとがらせた。
  8834. 「それならそうと、どうして、あたい達を呼んでくれないんですよ。親分。せっかく楽しみにしていたのに」
  8835. 「だから、あちこち、おめえ達を探したといってるじゃねえか」
  8836.  森田は、そういって、ふと、ブリキの容器の前で、泣きくずれている静子夫人を見て、奇妙な顔をした。
  8837. 「実はね、親分♢♢」
  8838.  朱美が含み笑いをしながら、森田と田代に説明する。森田は大きく口を開けて笑い、
  8839. 「成程、自分でやらかした事の始末を自分でつけたという事か」
  8840.  といったが、すぐ、
  8841. 「実は、一寸、弱った事になったんだ」
  8842.  と、いい、田代と一緒に、その場へ、あぐらを組んで坐るのだった。
  8843.  
  8844.  
  8845.     開幕準備
  8846.  
  8847.  森田の説明によると、文夫と美津子のショーは、二人とも新鮮な若さと美しさを持つスターであり、それも、双方、初めての経験というだけあり、見る客達の度胆を抜かしたし、企画としては大成功であり、値打ちのつく映画も出来たのであるが、一本分十五分の映画を作る事がせいぜいで、二回目の映画撮影は、不可能だというのであった。
  8848. 「つまりよ、素人の悲しさで、鬼源と捨太郎のリードで、そんな事を教えるのに、文夫の野郎、参っちまいやがんのさ」
  8849.  それを聞くと、銀子も朱美も吹き出し、
  8850. 「そりゃ無理よ。ショーの男役が完全に勤められるまでには、相当な期間が必要よ」
  8851.  銀子はそういって、
  8852. 「それで、美津子の方は?」
  8853. 「いや、美津子の方も、違算を生じた恰好だな。何しろ、出血がひどい上、気を失っちまいやがるんだよ」
  8854. 「なるほど、それも仕方のない事だわね」
  8855.  銀子はうなずく。
  8856. 「でも、これで二人は完全に結ばれたというわけね」
  8857. 「そうさ、美津子は、皆んなに祝福され、立派に女になったってわけさ」
  8858.  森田が困ったというのは、つまり、文夫も美津子も、そういう状態になってしまったので、ショーの続行は不可能であり、かといって、それでは、集まった客達がブツブツいい出すし、ここは一番、静子夫人か京子を出演させ、時間を埋めあわせなければ、おさまりがつかぬということである。
  8859. 「関西の岩崎親分がいらっしゃった時、うちのドル箱スターの静子夫人と京子に大活躍して頂こうと思ったんだが、こういう事情だ」
  8860.  田代は、そういって、畳に俯伏している静子夫人をちらりと見るのであった。
  8861. 「京子は今、どうしているのです、親分」
  8862.  銀子が聞くと、森田は、再び、苦り切った顔をして、
  8863. 「それが、こいつも弱った事に、まだ、吉沢とプレイの最中らしいのだ」
  8864.  へえーと銀子と朱美は眼を丸くした。
  8865. 「しつこい人だとは聞いていたけれど、まだ続行中とは驚いたわ」
  8866. 「何しろ、吉沢にしてみりゃ可愛さあまって憎さが百倍といった風な京子だ。骨までしびれるぐらいに責めあげているんだろうよ」
  8867.  森田は、そういって、銀子に注がれた酒を口をとがらせて吸いこむ。
  8868.  そんな最中にある京子を、無理やり引っ張り出して、ショーへ出演させても、疲労困憊の極に達していて、満足な芸を見せる事は出来ない、と田代もいうので、銀子は、畳に額を押しつけて、すすり泣きつづけている静子夫人の傍に身をかがめ、いたずらっぽく笑いながらいった。
  8869. 「ねえ、奥様、こういう事情なのよ。お疲れのところ、申し訳けないけど、もう一度、桂子とプレイして下さらない」
  8870.  わざと甘ったるい調子で銀子はいい、夫人の背のあたりに手をかけるのだったが、静子夫人は、びくっと体を痙攣させるようにして泣きぬれた瞳をあげ、銀子を見上げるのだった。
  8871. 「♢♢そ、それは、約束が違います。後生です、銀子さん」
  8872.  静子夫人は、今にも号泣しそうな表情を、きっとこらえるようにして、必死の眼で銀子を見上げるのだった。
  8873. 「でもね。今、奥さんの相手をするスターは桂子しかいないじゃないの。文夫の姉の小夜子は、まだ何の調教も受けていない生娘だしね」
  8874. 「♢♢お、お願い。桂子とだけは、二度とあんな真似をさせないで下さい。そ、それ以外の事なら♢♢静子、どんな事でも致します」
  8875. 「仕様がないわね」
  8876.  銀子がくわえていた煙草を灰皿にもみ消した時、朱美がふと何かに気づいたよう、首をあげ、
  8877. 「銀子姐さん、一寸♢♢」
  8878.  と銀子を部屋の隅へ呼ぶのであった。
  8879.  何だ、いいアイデアがあるのかい、朱美。と、田代も森田も川田も、朱美を取り囲む。
  8880.  朱美は、含み笑いしながら、静子夫人には聞こえぬよう小声でいう。
  8881. 「桂子とプレイさせるより、もっと愉快な事があるわよ」
  8882. 「へえー、一体、どうするんだ」
  8883.  川田は森田と眼をかわしながら、ニヤニヤして尋ねる。
  8884. 「これで、美津子はめでたく文夫と結婚、美津子の姉の京子も、吉沢さんと固く結ばれたというわけでしょ。となると、静子夫人だって、ちゃんとしたお婿さんを持たせてやるべきだと思うのよ。ね、わかるでしょう。鬼源さんの連れて来た捨太郎という馬鹿」
  8885.  それを聞くと、田代も森田も、なるほど、とうめいた。
  8886.  朱美の理屈はこうである。♢♢静子夫人ぐらいの美貌と教養を兼ね備えた女ともなれば、田代にしろ森田にしろ、男である限り、商品であるという観念は、あやふやになり、自分と特別関係を持続させたがる事になり、それは、内輪もめの原因ともなる。だから、静子夫人に特定の男を持たせる必要はあるというのだ。
  8887. 「それは、いい考えだと思うわ」
  8888.  千代は、満面しわだらけにして御機嫌になる。
  8889. 「白痴の男と結婚させ、その男の子供を作らせる。すばらしい方法じゃないの」
  8890.  千代は、わくわくした気分で、そういうのだった。田代も森田も賛成する。
  8891.  銀子と朱美は、ブリキの容器の傍で、ちぢかんでいる静子夫人の傍へもどった。
  8892. 「フフフ、奥様、お望み通り、桂子とプレイする事は、かんべんしたげるわ」
  8893.  静子夫人の泣きぬれた表情に、ふと、安堵の色が横切ったが、それならそれで、この毒婦達は一体これから、どのような事を自分に強要する気なのか、別の恐怖が胸にこみあげて来た。
  8894. 「桂子とのプレイをかんべんしたげるというのだから、何も、そうビクビクする事はないじゃないの。お客達の前で森田組の看板女優らしく、貫禄ある所を見せてくれりゃいいのよ」
  8895.  銀子は、わけのわからない言い方をわざとして、朱美と二人、静子夫人のおどろに乱れた黒髪を櫛ですきあげ、なれた手つきで、セットし、化粧し直し始めるのだった。
  8896.  昨夜は、伊沢に責めさいなまれ、今日は千代達におぞましい浣腸責めにかけられた身を、更に一体、次にどう責めようというのか。静子夫人は、すっかり覚悟を決めたとはいえ、悪魔達のあまりの執拗さに、恐怖の去らぬ胸の震えで、がくがく歯が鳴りそうになる。
  8897. 「♢♢銀子さん♢♢わがままいうようですけど、私は、もう体中が♢♢お願い、あまり手荒な事は、なさらないで♢♢」
  8898.  静子夫人は、哀願的なまたたきをして、こわごわ銀子に、そういうのだった。
  8899.  銀子は、静子夫人の唇に口紅をひきながら、
  8900. 「大した事はないわよ。果物を二、三本、料理して見せるだけでいいのよ」
  8901.  次に、朱美が、ふと、のぞくように見て、
  8902. 「あら、奥様、大分、元に戻ってきたわね」
  8903.  静子夫人は、ほっとしたように上体をかがめたが、
  8904. 「無駄なものは、とってしまった方がいいわよ。昨夜、京子も吉沢さんの手で、さっぱり断髪してしまったわ。だから、お客様に、それをさせてあげるのよ。わかった」
  8905.  静子夫人が、相も変らぬズベ公達のあくどい考えに、思わず体を震わせて、顔を膝の上に埋めようとすると、
  8906. 「そんな事より、桂子とプレイする方がいいというの」
  8907.  と銀子が意地悪く、夫人の背をつつく。
  8908.  夫人が激しく首を振るのを見て、
  8909. 「じゃ、いいのね。メソメソしたり、もたもたしたりしちゃ駄目よ。大スターらしく、色々とお客様に話しかけたりして、皆さんを楽しい気持にさせてあげるの。わかったわね」
  8910.  そのあとの事は、向こうへ行ってからのお楽しみよ、と、銀子と朱美は、わざと捨太郎の事は口に出さず、
  8911. 「さ、行きましょ、奥様」
  8912.  と、銀子は、夫人の肩に手をかける。
  8913.  朱美が、ちょっと、待って、と、それを止めて、
  8914. 「お客達にどういう風に愛想を振りまくか、ちょっと、ここでリハーサルをやって行こうよ。銀子姐さん」
  8915.  田代と森田は、顔で合図し合うように立ち上り、
  8916. 「じゃ、俺達は支度をしておくからな。なるたけ早く連れて来るんだぞ」
  8917.  と、銀子達にいい、障子を開けて出て行く。
  8918. 「となると、せっかくだから、私も、ショーに出演なさる奥様を隅から拝見させて頂くことにしますわ」
  8919.  と、千代が楽しそうにいう。
  8920. 「そうなさいましよ。大勢の客のいる中で、この奥様、どういう風に色っぽく演じるか、話の種になさいまし」
  8921.  朱美は、そういって銀子と一緒に静子夫人の両手をかいこむようにして立ち上らせた。
  8922.  
  8923.  
  8924.  
  8925. 第三十二章 美女の調教
  8926.  
  8927.  
  8928.     嵐のあと
  8929.  
  8930.  美しいものに対する羨望と憎悪が嵩じ、それが加虐的心理に移行するのであろう。義子や悦子は、暴虐の嵐に打ちひしがれ、身も心も無残に踏みにじられて、号泣しつづける美津子と文夫に対し、なおも、盛んに、揶揄しつづけるのであった。
  8931.  美津子も文夫も、後手に固く縛められている身を、マットレスの上で折り曲げるようにし、身を震わせている。
  8932.  鬼源と捨太郎の太い腕に抱きかかえられ、何度も強制されようとして、死物狂いで暴れたものの、見物していたやくざ達が、わいわい乗り出して来て、それを手伝ったため、美少年も美少女も遂に万策尽き果てた如く、激しく泣き合いつつ、荒々しい悲しみを押し合い、連中の期待する罠へ落ちてしまったのだ。
  8933.  口惜しさと羞恥の間を漂いながら、みじめに打ちひしがれて、頭をマットに押しつけるようにして泣きじゃくる美津子と文夫。しかし、義子と悦子は、ゾクゾクした気分で、
  8934. 「そうメソメソする事はないじゃないか。二人ともこれで思いが叶ったんだろ。ニッコリ笑い合ったらどうだい」
  8935.  そんな事をいって、義子は、美津子の雪白の肩を揺さぶるのであった。
  8936. 「もうこれで、あんた達は、れっきとした夫婦よ。これからは、ぴったり呼吸の合った夫婦コンビとして大いに活躍して貰うからね」
  8937.  義子と悦子は、顔を見合わせて笑うのだったが、
  8938. 「でも、困っちゃうわね、この坊っちゃん」
  8939.  文夫は、獣のように、うめいて、身をちぢませるのだった。
  8940.  カメラマンをやっていた井上が舌打ちしていう。
  8941. 「一本分を撮り終わらねえうち、駄目になっちまうとは、仕様のねえスターだな。おい、あと四本、今日中に撮影する予定なんだぜ。しっかりしろい」
  8942.  井上は、近寄ってくると、身をちぢませている文夫の腰のあたりを、足で蹴上げるのだった。
  8943.  田代が笑いながら、それをとめる。
  8944. 「ま、そう、ガミガミいうな。何ていったってこの二人にしてみりゃ今日初めての事なんだ。美津子にしても、かなりのショックだった筈だ。シーツの上を見たろう」
  8945.  そのシーツに可憐な美しい花は、散ったのだ。
  8946.  しかし、見物のやくざ達は、それで、おさまるわけはない。
  8947. 「何だ、森田組のショーは、これっぽっちで終わりかい」
  8948. 「人をカッカさせといて、これからという時、幕切れとは、ひどいじゃねえか」
  8949.  などと、連中の怒号が巻き起こる。
  8950. 「ま、お静かに♢♢」
  8951.  と、森田は一座をなだめた。
  8952. 「そのかわりといっちゃ何だが、本日は特別に、山本富士子と新珠美千代をチャンポンにしたような、すごい美人を登場させますよ」
  8953.  そう森田がいったので、一座は、シーンと静まった。
  8954.  次に田代がいった。
  8955. 「実は、その女、美貌と教養を兼ね備えた、ある大家の令夫人なんで、関西の岩崎親分がお超しになった時の特別番組にしていたんですが、若いこの二人のショーが、こう不首尾に終わっては、そのお詫びに出演させないわけにゃいかんでしょう」
  8956.  待ってました、とやくざ達の歓声があがった。
  8957.  その時、この密室のドアが、鈍い音を軋ませて開いたようである。
  8958.  銀子と朱美が、静子夫人を引き止てて、入って来たのだ。
  8959. 「ひえ—。こいつは、すげえ美人だ」
  8960.  やくざ達は、唾をかみこんで、眼を大きく開く。
  8961. 背丈は五尺三寸、熟れきっている女盛りの静子夫人が、その柔軟な白い肌に、本縄をかけられて、ズベ公達に背や尻を押されるようにして、ぎっしり埋まっている野卑な男達の中を、奥の雛壇に向かって進んで行くのだ。
  8962. 「さ、少し、道を開けて下さいよ」
  8963.  銀子と朱美は、寄りたかって来るやくざ達を押し返すようにしながち、前かがみに歩く夫人を押し立てて、一旦、雛壇の上へ、登らせようとする。夫人が台の上へ登って行くのを、男達は舌なめずりするようにして眺めるのであった。
  8964.  ようやく、台の上へあがった静子夫人は、マットの上で、涙のにじんだ黒目をちらっと向けた美津子の方へ、視線を向けた。この、悲哀をこめた美しい夫人の瞳に柔らかい線がかげる。♢♢かわいそうな美津子さん、でも、生きる望みを失っちゃいけないわ♢♢そのように夫人の瞳は、美津子に語りかけたようであった。
  8965. 「さ、ぐずぐずせず、そこの柱を背にして立つのよ」
  8966.  銀子は、邪慳に、夫人の背をぐいっと押した。
  8967.  雛壇の上の二本並んで立っている柱の一つを背にして、静子夫人は、ぎっしり埋め尽すやくざ達の方を向き、すくっと立つ。
  8968.  銀子と朱美が、その両隣に立ち、別の縄をつかって、ひしひしと夫人の体を柱にゆわえつけていく。
  8969.  何時であったか、京子と共に、この柱を背にし、総毛立つばかりに恐ろしい記憶が、生々しく静子夫人の脳裡に浮かびあがってくる。
  8970.  あれから、京子と共に地獄の調教を受け、次第に身も心も別個の女に作り変えられたのだ。静子夫人は、軽く瞑目するように眼を閉じ、一切放擲の沈黙を続けている。
  8971.  ギラギラする卑劣な男達の眼に映ずる、まぶしいばかりに光沢のある令夫人の全身像。
  8972.  銀子は、夫人の足首を揃えさせ、かっちり柱に縛りつけて立ち上ると、やくざ達が一斉に注いでいる視線を面白そうに見ていう。
  8973. 「ホホホ、少し薄いので不思議に思ってるんでしょう。最初はね、こんもり、見事に盛り上って、大家の若奥様らしく、堂々としたものだったのよ。でも、あんまり生意気な態度をとるんで、きれいにしてやったの。ねえ、そうでしたわね、若奥様」
  8974.  銀子は、楽しそうにそんな事をいい、静子夫人の頬を指で突くのだった。
  8975. 「そうそう、あの時のものを記念品として、客人に一本ずつ差し上げる事にしようじゃありませんか、社長」
  8976.  森田が田代の顔を見ていった。
  8977.  よかろう、と田代は、懐から、封筒を取り出し、朱美に渡す。朱美が、そんなものを、ワイワイいって手を出すやくざ達に配って歩いている間、銀子は口元を歪めて、静子夫人に近づき、
  8978. 「ホホホ、どう、若奥様。貴女のものを皆んなが奪い合うようにして受け取ってますわ。大した人気ね」
  8979.  静子夫人は、とぎすまされたような冷たい沈黙を守り、固く眼を閉ざしているのだ。
  8980.  銀子は、フン、と鼻に小じわを寄せる。美しく緊まった高貴な感じさえする静子夫人の鼻筋を見ているうち、今に見ろ、この妥協を許さぬといった冷たい美しさが屈辱に歪み、やがてベソをかくのだ、と闘魂のようなものを銀子は湧き立たせるのである。
  8981. 「さ、早く、ショーの続きをやってくれ」
  8982. 「真正面から、見せておくだけってのは、かえって罪だぜ」
  8983.  男達が、そろそろ文句をつけ出した。
  8984.  銀子は、鬼源を手招きして呼び、立ち縛りにされている静子夫人を中に、はさむようにしてショーの打ち合わせを始める。
  8985. 「バナナ切りをさせ、そのあと、客人達の手で、黒くなってきた所を元通り、剃り上げさせるってのは、どう」
  8986. 「だめだな。今日の客は、それ位じゃ満足しねえよ」
  8987. 「じゃ、とっときの手を使おうよ。捨太郎とこの若奥様を組ませるのさ」
  8988.  鬼源と銀子のそうしたやりとりは、嫌でも静子夫人の耳に入ってくる。
  8989.  捨太郎と組ませる♢♢いよいよ落ちる所まで落ちたのだという絶望感が、静子夫人の胸一杯にこみ上って来た。一滴の涙が夫人の切長の美しい瞳から、滴り落ちた時、この密室の戸口の方が、急にがやがやと騒がしくなった。
  8990. 「お、吉沢じゃないか」
  8991.  観客席という事になっている場所の一隅で千代や伊沢と酒をくみかわしていた田代が、のっそり立ち上る。
  8992.  吉沢がニヤニヤしながら入ってきたのだ。その後ろに、チンピラの堀川の背に、おぶわれて入ってきたのは京子である。
  8993. 「一体、どうしたんだよ」
  8994.  見物人達の間に混って、酒を飲んでいた川田も眼をパチパチさせて立ち上るのだった。
  8995. 「いや、実はね」
  8996.  吉沢は、森田と川田の所へ来て、見物人達には聞こえぬよう小声で話し出す。
  8997. 「今日は客人が集まる日でしょう。俺のスケだからといって、そんな日に、独り占めにしているのは何だと思ったもんで」
  8998. 「成程、おめえにしちゃ、見上げた心がけだな」
  8999.  と森田は笑ったが、吉沢は、後ろで堀川に背負われている京子の方をニヤリと笑って見ながら、
  9000. 「というより、親分、このショーに出るというのは、この京子の希望なんですよ」
  9001.  吉沢がいうのには、美津子が今、文夫とプレイをして、集まった客人達の機嫌をとってるぜと聞かされた京子が、ぜひとも自分を出演させ、美津子に辛い思いをさせないでくれと泣いて頼んだそうである。
  9002. 「そうかい。なかなか感心だぜ、京子。お前が来てくれたんで、こっちは大助りだ」
  9003.  森田と川田は、堀川の背から、京子を抱き降ろしてやる。
  9004.  光沢のある京子の肌には、どす黒い麻縄が数本、相も変らず、きびしく緊縛されたままであるが、一昼夜、吉沢の執拗な色責めに合い、身も心もくたくたになってしまったのであろう。歩くカとてなく、ここまで運ばれてきたものと思われる。
  9005.  その場に立膝をして、小さくうずくまってしまった京子を見た森田は吉沢にいった。
  9006. 「ここへ連れこんでくれたのは有難いが、お前、京子をガタガタにしちまったんじゃねえか」
  9007. 「へえ、そりゃもう。何しろ、俺にとっちゃ恨み重なる阿女ですからね。だが、何しろ、これだけいい体をしてる女だ。ショーに出演できねえ事はないと思いますよ」
  9008.  よし、わかった、と森田は、京子の縄尻を取った。
  9009. 「さ、行くんだ」
  9010.  京子は、縄尻をたぐられて、ふらふらと立ち上り、深く首を垂れながら歩き始める。
  9011. 「さ、一旦、台の上へ上るんだ」
  9012.  森田に背を突かれた京子。ふと、マットの上で、海老のように身体を曲げ、すすり泣いている美津子に気づく。
  9013. 「あっ、美津子」
  9014.  京子は、思わず叫んで、かけ寄ろうとする。
  9015. 「おっと、勝手な真似をするんじゃねえ」
  9016.  森田が、力一杯、縄尻を引き、川田と吉沢が、引き戻す。
  9017. 「美津子っ、美津子!」
  9018.  京子は、男達に、取り巻かれ、取り押さえられる中で、必死に叫ぶのだった。
  9019.  マットの上で、泣き伏している美津子と文夫。これまで、どのような事が行われていたか、京子にも想像は出来た。どんなに辛い、苦しい思いをしたことか。京子は、それを思うと、胸がはりさけるような思いになったのである。
  9020.  狂ったように暴れだした京子を、後ろから羽交じめにするようにして川田がいう。
  9021. 「やい、京子。おめえ、これ以上、妹に辛い思いをさせたくねえんだろう。それじゃ、自分のやるべき事をやるんだ」
  9022.  京子は、血の出るはど固く唇を噛みしめ美しい眉をきりりと上げて、川田を見る。
  9023. 「な、何という恐ろしい人なの。貴方達は罪もない文夫さんや美津子を♢♢よくも、嬲りものに♢♢」
  9024.  涙声になって、後は言葉にならない京子の頼に、吉沢の平手打ちが飛ぶ。
  9025. 「生意気な口をきくねえ。手前も美津子も森田組の商品だって事がまだわかんねえのか。美津子は好きな男と結ばれたんだ。ほんとなら、俺か、森田組のチンピラ達の手で女にされるところだったのによ。むしろ幸せ一杯ってところじゃねえか。つべこべいうねえ」
  9026.  さ、とっとと歩くんだ、と吉沢は、京子の尻を蹴りあげた。
  9027.  ふらふらする足どりで、雛壇の上に上がる京子。その上の一本の柱にいる静子夫人を見て、ほっと棒立ちになる。夫人がここへ連れて来られている事に京子は気づかなかったのである。
  9028.  京子は、この密室内で、美津子と文夫が受けている恐ろしい責めを中止させるため、自分が、二人に代り、どのような辛い責めを受けてもかまわぬと吉沢に哀願し、ここへ連れてこられたわけであるが、一歩先に、静子夫人も引き出され、嬲りものになっているとは想像もしていなかった。
  9029. 「奥様!」
  9030.  京子は、泣き腫らした眼を静子夫人に向ける。
  9031.  鬼源や川田達に、ムチ打たれるようにして女同士のコンビになるべく調教されているうち、何時しか、一種の愛情めいたものが芽ばえ、やがて、この地獄の苦しみを忘却する意味でも、二人は精神的にも離れられない間柄となったのであるが♢♢吉沢という悪魔の化身のような人間を、自分のきまった男として持った事を何としよう。そんな京子の気持だったのである。
  9032.  静子夫人とて、思いは同じだ。遠山家の女中であった千代や、自分から一切の地位財産を奪いとった伊沢という悪徳弁護士の地獄の嬲りものになり、そのあげく、悪魔の種をどうしても宿さなくてはならなくなったという運命を、どうすればいいのか。
  9033. 「京子さん!」
  9034.  静子夫人も、涙にうるむ切長の美しい瞳を京子に句け、声をつまらせるのであった。
  9035. 「フフフ、久しぶりで恋しい人に逢えたって感じね」
  9036.  銀子が台の上へ上って来て、静子夫人と京子の美しい横顔を見くらべるようにしていうのだった。
  9037. 「さ、京子。おいで」
  9038.  銀子と吉沢は、京子を押し立てて、夫人が立ち縛りにされている隣の柱に、京子の背を押しつけ、別の縄をつかって、ひしひしと縛りつけていく。
  9039.  京子は、静子夫人と同じく、すっかり観念したように眼を閉じて、きびしく縄がけされていくのであった。
  9040.  吉沢は、京子の足首にも縄をかけ、ほっとしたように立ち上ると、口を歪めて、京子の頬を指でつつく。
  9041. 「へへへ、嫌だとか、口惜しいだとか吐かしながら、昨夜は何でえ。手前、どんな顔をしたか覚えてるかよ」
  9042.  京子は、眼を閉じたまま、キリキリ歯を噛み鳴らしている。
  9043. 「まあ、そうなの。ホホホ」
  9044.  銀子は、笑いながら京子に近づいて、
  9045. 「案外、貴女、好きなのね。というよりも、どう。吉沢さんて、なかなかのテクニシャンでしょう」
  9046.  次に、川田が、せせら笑うようにいった。
  9047. 「二人とも、昨夜はそれぞれ楽しい思いをして、喜び疲れた事と思うが、今日は二人、久しぶりの対面だ。大いにハッスルしてもらうぜ」
  9048.  銀子は、京子の顎に手をかけ、顔をこじ上げるようにして、見物しているやくざ達の方へ向ける。
  9049. 「どう、皆さん。こちらも美人でしょう。京子という名でね。元、ある私立探偵局の女秘書だったんだけど、この森田組の内情を探りにきたという事が運のつき、今じゃミイラ取りがミイラになったというわけで、妹の美津子と一緒に、ショーの花形スターになったというわけよ」
  9050.  銀子は、得意気に、京子の顎に手をかけたまま、そんな事をしゃべるのだったが、見物人達が一斉に注いでいる眼の行方にふと気づいて、笑いながら、
  9051. 「あら、お下品ね。そんな所ばかり、じろじろ御覧になるものじゃありませんわ。でも、無理もないわね」
  9052.  やくざ達は、哄笑する。
  9053. 「何しろ、元、探偵の秘書なんかやっていただけあり、気性の強いのが玉に傷。一度、剃ってやったのだけど、あまり、根性がよくないから、昨日また」
  9054.  意志を失った人間のように、必死になって無表情、無感動を努めていた京子であるが、首を垂れ、肩をぶるぶる震わせるのであった。
  9055. 「能書きは、それくらいでいいぜ。さあ、何か早く見せてくれよ」
  9056.  見物人達は、茶碗を叩くようにして、がなり出す。
  9057.  銀子は夫人と京子の間に立って、二人に言い聞かせる。
  9058. 「奥様と捨太郎のプレイを最初、予定していたんだけど、こうして、京子が応援にかけつけて来たんだから、久しぶりに、ぴったり息の合った同性のプレイを開帳して頂くわ。いいわね」
  9059.  そして、銀子は、台の下に坐っている朱美に向かっていう。
  9060. 「その若い二人をのけて、このベテランスターのための土俵を作ってよ」
  9061.  あいよ、と朱美と井上は、マットの上に顔を伏せている文夫と美津子を抱き起こすようにして、隅に並んでいる椅子に腰かけさせ、身動きの出来ぬよう縄止めをする。
  9062.  森田と川田は、マットと上の天井のハリに縄をかけ始め、つまり、静子夫人と京子が、スタンドプレイするための支度にかかり始めたのだ。
  9063. 「さ、皆さん、どうぞ、このまわりに坐って下さい」
  9064.  天井から、二本の縄が、からみ合うようにして垂れ下がると、川田は、やくざ達に声をかけた。
  9065.  ぞろぞろと、マットの周囲に来て、あぐらを組み、妖しい期待に胸をときめかすやくざ達。
  9066.  川田は、ふと、何かに気づいたように、井上にいった。
  9067. 「面白い事を思いついたんだ。桂子をここへ連れて来てくれないか」
  9068.  
  9069.  
  9070.     二人の花形
  9071.  
  9072.  京子も、静子夫人と同様に、朱美の手で、手早く髪を結いあげられ、くまなく、顔は化粧されていく。
  9073.  銀子も、朱美に手伝って、京子の頬をパフしてやり、唇にピンクの口紅を塗りながら、
  9074. 「奥様とあんたとのコンビは、ひょっとすると、これっきりになるかもしれないのよ。若奥様は、千代夫人のいいつけで、特別調教を受ける事になったんだからね。だから、今日は、最後だと思って、大いに燃えてごらんよ」
  9075.  といった。京子と静子夫人は、台の上へ、美津子と桂子が、井上や川田達に追い上げられるようにして上って来たのを見て、ほっとした気持になる。
  9076. 「桂子さん!」
  9077. 「美津子!」
  9078.  静子夫人も京子も、新たな恐怖におびえて慄え出し、二人の美少女を引き立てて来た井上や川田に憎悪をこめた瞳を向ける。
  9079. 「一体、こ、この二人に、何をさせようというの」
  9080.  京子は、泣き濡れた瞳を二人の男に注いだまま、唇を震わせるようにしていった。
  9081. 「ま、今にわかるさ」
  9082.  川田は、とぼけた顔を作っていい、井上と二人で美津子と桂子を縛り上げている縄を解き始めるのだった。
  9083.  川田は、ニヤリとして、静子夫人と京子の顔を見くらべるように眺めていうのだった。
  9084. 「これから、お前さん方のショーの支度は、何時も、この若い二人にさせる事にしたからな。つまり、静子夫人は桂子に、京子は美津子にといった具合だ。その方がこっちも手間がはぶけていいからな」
  9085.  静子夫人も京子も、すぐにはその意味はわからなかったが、銀子が何か得体の知れないどろどろしたものが入っている擂鉢を、朱美が桐の箱を持って来て、美津子と桂子の前へ置いた時、夫人も京子も、激烈なショックを覚えて、共に顔に血をのぼらせる。
  9086. 「な、何てことを!」
  9087.  京子は、苦痛に顔を歪め、歯を噛みならした。川田や井上のいう支度をさせるという意味がはっきりわかり、いいようのない戦慄が体内を走ったのである。
  9088.  そのような事を、美津子や桂子の手で行わせるなど、何という恐ろしい悪魔の着想であろう。
  9089.  あまりの恐怖と屈辱に、声も出なくなってしまった静子夫人と京子を川田は面白そうに眺め、そして、がくがく身体を小刻みに慄わせている美津子と桂子の白磁の背を足でつつくようにしていう。
  9090. 「擂粉木を使って、擂鉢の中のものをよくこね廻すんだ。奥様も京子嬢も、お前達とは違って、ベテランの域に達しているんだ。それだけに身体の芯まで、痒くなるよう、うんと薬味はきかしてある。さ、早く仕事にかかりな」
  9091.  夫人と京子を、どういう風にして、支度させるか。この若い二人の美女は、すでに川田の口から因果を含められているのであろう。
  9092. 「早くしねえか、この阿女!」
  9093.  突然、井上が大声をはりあげて、二人の頭髪をひきつかみ、激しく振り廻す。悲鳴をあげて床へ這いつくばった美津子と桂子の腰のあたりを、更に川田は情け容赦なく、蹴り上げるのだった。
  9094.  やがて、むせび泣きつつ、美津子は擂鉢を押さえ、桂子は、その中身を擂粉木で、すり始める。
  9095. 「よし、その位でいいだろう」
  9096.  川田は鉢の中をのぞきこんでいい、
  9097. 「じゃ、次にする事はわかってるな。お客さんも、しびれを切らしてお待ちかねだ。てっとり早く頼むぜ」
  9098.  その途端、美津子も桂子も、床に顔を押しつけるようにして、激しく肩を震わせる。
  9099. 「出来ない、出来ないわ。お願い、もう、これ以上、許して!」
  9100.  泣きわめくようにして、哀願する二人であったが、そんな事に耳を貸す川田や井上ではない。
  9101. 「馬鹿野郎、今になって何をいいやがる。おい、朱美。そこの青竹を持ってこい」
  9102.  川田は、朱美に手波された青竹を持つと、力一杯、美津子と桂子の背へ打ちおろすのであった。
  9103. 「あっ」
  9104.  と叫んだのは、美津子や桂子より、静子夫人や京子の方だった。
  9105.  ピシリ、ピシリと背や尻に青竹のムチを当てられて、のけぞり、苦悶する二人を見て夫人と京子は血の気を失った表情になる。
  9106. 「お願い、やめて、川田さん!」
  9107.  川田は、じろりと、夫人と京子のひきつった顔を見て、
  9108. 「へへへ、俺も別に手荒な事はしたくねえんだよ。じゃ、お前さん達から、この若いお嬢さん方を説得してくんな」
  9109.  川田にそういわれた静子夫人と京子は、どうにも抗する事の出来ぬ悪魔の宣言を脳天から叩きつけられたような思いになる。
  9110.  静子夫人は桂子を、そして、京子は美津子を、悪魔の生贄にする事から何としてでも救おうと人間的思念を捨てて、死ぬより辛い数々の辱しめを受けて来たのだが、しかし、結局、それは、水の泡に終わってしまったのだ。となれば、未練な感慨をこの若い二人に持つというのはむしろ悲惨であり、この地獄屋敷の中で、これからもなお続くであろう悪魔共の残忍な調教に対し、少しでも、それを苦痛と思わせないように見守ってやり、指導してやるのが、せめてもの慈悲だと、静子夫人も京子も考えたのである。
  9111.  すでに自分達の心と身体には、こうした日ごと夜ごとの調教のために今までには想像も出来なかった肉と心の斜面が新しく現われはじめている。そうしたものをこの若い娘達にも持たせ、何かを切り替えた新しい女に作り変えてやる事こそ、この地獄の苦しさを逃れる唯一の手段だと思うのであった。
  9112.  静子夫人は、哀切的に眼をしばたきながら桂子にいう。
  9113. 「♢♢桂子さん、お願い。この人達のいう事を聞いて頂戴」
  9114.  続いて京子も、泣き腫れた瞳を美津子に向けていうのだった。
  9115. 「美っちゃん。言われた通りにするのよ。さからっちゃ、いけないわ」
  9116.  そして、静子夫人も京子も、力尽きたようにがっくり首を垂れ、声をあげて、泣きじゃくるのであった。
  9117. 「お姉さん!」
  9118. 「ママ!」
  9119.  美津子と桂子は、泣き濡れた顔を上げ、何か一つの幻影を見るように、見上げるのだった。
  9120.  銀子と朱美が、クスクス笑いながら、近寄ってくる。
  9121. 「まあ、奥様も京子さんも、よくいってくれたわ。それでこそショーの花形スターといえるわよ。じゃ、あたい達も、お嬢ちゃん二人が仕事しやすいように手伝ってあげるわね」
  9122. 「柔らかくなったと感じたらいうのよ。お嬢ちゃん達に仕事してもらうからね」
  9123. 「京子姐さん、どう。そろそろ美津子に頼んでみちゃ」
  9124.  見物人達は、ごくりと唾を呑みこみ、ズベ公二人に、責められる美女に喰い入るような視線を送っている。
  9125.  静子夫人の美しい額には、こまかい汗の玉が動いている。眼は、固く閉じているが、小さく開いた唇の間から見える真珠のように美しい歯が、時々、カチカチ音を立てて鳴るのであった。
  9126. 「もういいんでしょ、奥様。桂子嬢に♢♢フフフ」
  9127.  静子夫人は、銀子に、催促され、ふと、上気した瞳を気弱にまたたきつつ、桂子に向ける。
  9128. 「け、桂子さん。お、お願いするわ」
  9129.  同時に、京子も、朱美に、幾度も耳など引っ張られて催促され、
  9130. 「♢♢美っちゃん。さ、いいのよ。ぬ、塗って頂戴」
  9131.  さあ、仕事にかかるんだ、と川田と井上は美津子と桂子を蹴り上げる。
  9132. 「お姉さん! ゆ、許して!」
  9133.  美津子は、京子の足元にすがりつくようにして、激しく鳴咽するのだった。
  9134. 「ぐずぐずしちゃ駄目。さ、早くこれをたっぷり塗りこんであげな」
  9135.  強引に、美津子の掌の中へ、どろどろしたものを流しこむ悦子。慄えのとまらない美津子である。
  9136. 「おい、早くしねえか」
  9137.  川田の手にある青竹が、再びピシリッと打ちおろされた。
  9138.  その音に、固く眼を閉ざし、顔を横へそらせていた京子が、ほっとして、顔を正面に向けた。
  9139.  暴虐の限りを尽す川田に、京子は、一瞬、憎悪に燃える瞳をキラリと光らせたが、すぐに足元に泣き伏している美津子に対し、励ますように声をかけるのだった。
  9140. 「美っちゃん、いいのよ。さ」
  9141.  京子は、これ以上、美津子が、悪魔達に責めさいなまれるのを見るに忍びず、叱るように声をかける。
  9142.  美津子は、すすりあげながら、顔を上げた。
  9143.  末子は、わざと冷たい動かない表情を作り、歯を喰いしばっている。
  9144.  実の妹の美津子に、そんなものを塗られる京子の苦悩。強制されて、姉にそんなものを塗りつけねばならぬ美津子の苦痛。
  9145.  吉沢は、じっと美津子の作業を横手から眺めていたが、
  9146. 「そんなに遠慮していちゃ駄目だ。こういう風にするんだ。見てな」
  9147. 「うっ」
  9148.  と、京子は、首を大きくのけぞらせ、キリキリ歯を噛み鳴らす。脳天を突き上げるような、呼吸も止まる屈辱。
  9149.  吉沢は曲げた指先を京子のその粘膜の内側へ深く含ませ、荒々しく掻き立てた。そして、すぐに素知らぬ顔つきで、擂鉢の中のものを指で再びすくいあげるのであった。
  9150.  美津子は、体中をスーっと走る寒さに似た恐怖をおぼえて反射的に顔をそむける。
  9151. 「さ、美津子、やってみな。今、俺がやったようにゴシゴシ塗りこむんだ。おめえの姉じゃねえか。何も遠慮する事はねえだろう」
  9152.  吉沢に肩を突かれた美津子。ぐいと眼の前に突き出された擂鉢の中を涙で曇る瞳で、しばらく眺めていたが、窮鼠、猫を噛むの思いで、きっとした表情になり、白魚のような可憐な指先は、その中身をたっぷりすくいあげるのだった。
  9153. 「お姉さんっ、許して!」
  9154.  そう吐き捨てるようにいうと、全身を火のように燃えさせた。
  9155. 「♢♢ああ♢♢美、美っちゃん♢♢」
  9156.  京子は、顔面真っ赤にしながら、ぶるぶる震える全身を何とか落着かせようと努力し、美津子の責めを甘受しようとする。
  9157.  一方、静子夫人の方も、
  9158. 「ママ、許して、かんにんして!」
  9159.  と、桂子は、すすり泣きしつつ、川田に指示された通り、万遍なく塗りたくるのであった。
  9160. 「いいのよ、いいのよ♢♢桂子さん」
  9161.  静子夫人は、固く眼を閉ざしながら、うめくようにいいつづける。そういう行為を受ける自分より、そういう行為を無理に行わされている桂子や美津子の方が、どれだけ苦しく辛い思いに追いこまれているか、静子夫人はそれを想い、必死な思いで、桂子に責められつつも、桂子をいたわり、慰めているのであった。
  9162.  やがて、川田の合図があり、その恐ろしい仕事から解放された美津子と桂子は、同時に床にくずれるように倒れ伏し、声をあげて泣きじゃくる。
  9163.  銀子は、若い二人の娘の手で細工された、静子夫人と京子の脂汗をにじませている肌をしげしげと見くらべるようにして、
  9164. 「フフフ、何も、娘や妹に、はっきり見られたといったって、そんなに情けない顔をしなくてもいいじゃないの。そういう関係はここじゃ通用しないのよ。貴女達は、一様に女であり、ショーのスターであるの。おわかり」
  9165.  朱美も、京子の乳房責めをようやく中止して、夫人と京子の前へ廻り、腰を低めて、見くらべる。
  9166. 「まあ、お二人とも、もう待ちきれないようね。フフフ、無理ないわ。元々、愛し合っている間柄だもんね。でも、もう少し、辛抱するのよ」
  9167.  そんなことを朱美がいっているうち、
  9168. 「うっ、あっ、つう!」
  9169.  京子が、急に、がっくり垂れていた首を後ろへのけぞらせるようにして、歯をカチカチ噛み鳴らしつつ、身悶えし始めたのだ。
  9170. 「♢♢ああ」
  9171.  続いて、静子夫人が、美しい眉を八の字に寄せ悶え出したのだ。
  9172.  夫人の額にも京子の額にも、玉のような汗がにじみだす。
  9173.  静子夫人も京子も、やがて悲鳴に似た声をあげ合い、悶え苦しみだした。
  9174. 「さっきの美津子達の時とは違って、ベテランスターを泣かせるために、南方の島で出来る薬草の汁をつかってあるんだ。せいぜい、いい声を出し合って泣くんだな」
  9175.  田代と森田は、顔を見合わせて北叟笑み、そんな事をいう。
  9176.  川田も、へえーと眼を丸くして、美女の狂乱図を眺めていたが、
  9177. 「こいつは愉快だ。この別嬪さん方を、心の底から森田組に服従させる事が出来ますぜ、社長」
  9178.  と、誇らしげにいう。
  9179. 「へへへ、奥さん、そんなに苦しいかい」
  9180. 「お、お願い♢♢助けて、川田さん。ああ、たまらない。ねえ、か、川田さん!」
  9181. 「どこが、そんなに痒いんだよ。はっきりいってみな」
  9182. 「ああ、川田さん」
  9183.  静子夫人は、美しい頬をひきつらせ、声をあげて泣き出してしまう。
  9184. 「ふん、大家の若奥様としては口に出せないってのかい、仕方がねえな。それじゃ、そのまま、もっと苦しみ抜くだけだ」
  9185. 「嫌、嫌。もう、が、がまん出来ない!」
  9186.  静子夫人は、悲痛な声をはりあげて、身悶えしながらいう。
  9187.  
  9188.  
  9189.     美女合戦
  9190.  
  9191.  美女の苦悩と狂乱が激しければ激しいほど川田をはじめ、見守る悪魔達の悦びは大きくなるようである。
  9192.  屈辱の極に打ちひしがれるゆとりもない静子夫人と京子は、相も変らず、とぎれとぎれの悲鳴と哀願を口ばしり合っている。
  9193.  川田は、それでも表情を変えず、最後の仕上げにかかるよう捨太郎を手招きで呼び、静子夫人の横に立たせるのであった。
  9194. 「いいね。今から、あんたと京子の悩みをといてあげる前に、一つ、大事な事の約束をしておこう。京子は、吉沢兄貴という立派な旦那の世話を受ける事になった。だから、あんたにも、きまった旦那を持たせてやる事になったんだ。この捨太郎という白痴の男さ」
  9195.  川田が、含み笑いしていうと、銀子も横から口を出して、
  9196. 「いいね。今日から、あんたの旦那さんは、この白痴の大男さ。フフフ。これで、元遠山家の令夫人もめでたく再婚の相手が決まったというわけね。すばらしい組み合わせじゃない。天下の美女と騒がれた大家の若奥様とゴリラのような醜悪な大男」
  9197.  つづいて、朱美が、口を出す。
  9198. 「今夜からこのゴリラ男と夫婦生活に入るのよ、若奥様。そして、一日も早く、ゴリラの種をお腹に宿すよよ努力して下さいね」
  9199.  静子夫人の固く閉ざした眼尻から、一筋二筋、屈辱の口惜し涙が流れたが、今は、精神的な苦痛より肉体的苦痛が先に立つのだ。
  9200.  泥沼にのたうつように、身を悶えさせ、あえぎつづける静子夫人に対し、銀子は、意地悪く、尻たぶをつねりあげていう。
  9201. 「わかったのかい。ここにいる捨太郎は、あんたの夫なんだよ」
  9202. 「♢♢わ、わかりました」
  9203.  静子夫人は、もう終局に立たされた心境になり、肉体の苦痛をこらえながらいう。
  9204.  銀子は、満足げにうなずいて捨太郎にいった。
  9205. 「じゃ、捨太郎、あんたの花嫁を舞台に連れて行きな」
  9206.  静子夫人は、その瞬間、くずれるように床に身を落とし、ぶるぶる身体を震わせているようであった。
  9207. 「舞台まで捨太郎が肩車して運んでやろうといってるのよ。さ、奥様、お乗り遊ばせ」
  9208.  銀子と朱美は、くすくす笑って、身悶えしている静子夫人の肩や腰に手をかけて起こし捨太郎の肩へ乗せあげるのだった。
  9209.  静子夫人は、もうされるがままになっている。怪力をもっている捨太郎は、かけ声をあげて立ち上った。
  9210.  捨太郎は、雛壇を降り、のっし、のっしと足を踏みしめるようにして、静子夫人をマットの上へ運んで行く。
  9211.  待ちかまえていた田代と森田が、捨太郎の肩から夫人を引きおろし、一本の縄につなぎ止めるのであった。続いて、捨太郎は、京子も肩車にして運んで来る。
  9212.  遂に、静子夫人と京子は、縄につなぎ止められて向かい合う。
  9213. 「♢♢奥様!」
  9214. 「♢♢京子さん!」
  9215.  静子夫人と京子は、涙にうるむ美しい具眼を向け合ったが、たまらなくなったように、ぴったりと頬と頬をくっつけ合うのだった。
  9216. 「♢♢京子さん。痒い、痒いわっ」
  9217. 「♢♢奥様。私も、私もよ」
  9218. 「気の早い別嬪さん達だ」
  9219.  銀子や朱美も、プッと吹き出した。
  9220.  静子夫人と京子は、おびえたような顔つきになって、動作を止めた。あまりの苦痛のため、はしたなくも、身体を夢中で触れ合わせてしまったが、それが一瞬、たまらない羞恥となって二人の頬は同時にぽっと上気する。
  9221.  銀子は、桐の箱を小脇にかかえて近づいてくると、吉沢を手招きした。
  9222. 「これは、あんたの花嫁道具よ。旦那の手で取りつけてあげた方が、いいんじゃないの」
  9223.  よしきた、と吉沢は銀子から、それを受け取り、京子の横へ立つ。
  9224.  銀子は、小刻みに身体を震わせている京子の尻を平手打ちしていった。
  9225. 「そら、旦那さんが取りつけて下さるのよ。感謝の気持を表わさなくちゃ駄目じゃないの」
  9226.  そうした銀子の要求に対して、今の京子はもう、屈辱とか羞恥とかいう精神的抑制は起こらない。ああ何とか、この痒みを♢♢京子の願いはただ一つ、それあるのみであった。
  9227. 「あ、あなた、お願い♢♢も、もう、がまん出来ないの♢♢」
  9228.  吉沢は、ニヤニヤしながら、桐の箱を開けるのだった。
  9229. 「ねえ、あなた。浮気をしたなんて怒っちゃ嫌よ。お仕事なんですもの♢♢ああ、たまらない。貴方、早く早く」
  9230.  吉沢は、銀子に強要されるまま、そんな事を口走り、身をよじらせる京子を面白そうに見て、わざとゆっくり箱の中のものを取り出すのであった。
  9231. 「ああ♢♢あなた」
  9232. 「ああ♢♢」
  9233.  京子は、小さく唇を開き、白い美しい歯を見せて、首をのけぞらせる。
  9234. 「さあ、いいね、京子。かわいそうに若奥様が先程から、お待ちかねよ」
  9235.  いよいよ開幕だと、今まで思い思いの恰好で寝はらばったりして、ニヤニヤ見ていた見物人達も、周囲を取り囲む。
  9236. 「さ、若奥様に京子さん、長い間、お待たせしたけれど、もう誰に遠慮する事もいらないわ。二人とも秘術を尽して、大相撲をとってごらん。そして最後は、お互いに合図し合って仲良く一緒に♢♢フフフ、わかったわね」
  9237.  銀子は、そういって、両手を広げ、スタートの合図をするのであった。
  9238. 「ああ、奥様♢♢」
  9239. 「京子さん」
  9240.  見物人達にとって、それは、すばらしい光景であった。
  9241.  
  9242.  
  9243.  
  9244. 第三十三章 すさまじい変身
  9245.  
  9246.  
  9247.     変身
  9248.  
  9249.  ぎっしりと部屋の周囲を埋め尽している男達は、すさまじいショーに息をかみ、一言も発する者はなく、凝然として見つめている。
  9250.  静子夫人と京子は「立ちボボ」と鬼源の名づける立位の情交を演じている。二人の縄尻は天井の鴨居につながれて、共に緊縛された裸身を対抗させ、前面をぴったりと密着させているのだ。相対張形というレズビアン用の性具で一つにつながったこ人は鴨居につながれた縄尻の音をギイギイ軋ませながら足を突っぱって重心を取り合い、狂態を演じているのだ。
  9251.  躍動する豊満な乳房、うねりつづけるくびれた腹。たしかに、客席へ強烈な刺戟を与えたようである。男達の聞から、吐息と感歎の声が沸きあがった。
  9252.  熱い息を吐き合い、汗みどろになって狂態を演じる静子夫人と京子は、もう埋め尽す男達の視線や哄笑など感じる余裕もなく、自分の身体を相手に与え、また相手の身体を自分にひきこみ、激しく泣きつづけているのだ。
  9253.  茹で卵の白味のように艶のある夫人と京子の柔軟な肌は、完全に一体と化したように火花を散らし合っセいる。
  9254.  互いに両腕は、きびしく後手に縛り上げられているのに、二つの女陰は連結し、薄絹の繊毛と繊毛はこすれ合い、二人はそこに命を賭けたような荒々しい悲しみの中で、必死に双臀をうねり舞わせているのだ。
  9255. 「♢♢お、奥様」
  9256. 「き、京子さんっ」
  9257.  静子夫人は京子と、ひょっとすると、もうこれが最後とでもいう感慨があったのであろう。底知れぬ切なさ、恋しさをこめて呼びあうのであった。
  9258.  銀子は、茶碗にウイスキーを注ぎ、それを口に運びながら、二人の美女の狂態を見つめていたが、また、何時かのように、邪悪な妬ましさが、じわじわ胸にこみ上ってくるのだ。
  9259.  本当に、この二人は、愛し合っているのだわ。そう思うと、キリキリ胸が痛んでくる銀子である。
  9260.  何時か銀子は、静子夫人に対して、特殊関係を迫り、柄にもなく、優しい言葉を口にして口説いた事がある。自分とそういう間柄になってくれたなら、うんと楽な生活を保証するともいったが、夫人は、それを拒絶した。つまり、如何に辱しめられ、虐げられようとも、私の心まで変える事は出来ないわ、と夫人は銀子を突っぱねたわけだ。
  9261.  そして、静子夫人は、京子と、本格的に身も心も、そういう関係になってしまったのであるが、それは、銀子や田代や森田組、川田等に対する反逆行為でもあると受けとれるのである。それを思うと銀子は口惜しくて仕方がない。可愛さあまって、憎さが百倍というわけだ。
  9262.  銀子は、フン、と鼻で笑って、茶碗を口から離すと、フラフラ立ち上った。演じ合っている夫人と京子の傍へ銀子は近寄る。
  9263. 「フフフ、ハッスルしてるわね。それだけ熱演してるのだから、二人仲良く一緒に気をやってごらん」
  9264.  そんな銀子のいたぶりも、もう耳には入らない夫人と京子である。
  9265.  お互いに、涙で濡れた頬と頬をすり合わせ激しく腰を揺さぶりつづけているのだ。
  9266. 「わかったわね。そういう風にしないと、また別のお仕置を考えるわよ。フフフ、お互いに呼吸を合わしてゴールインするがいいわ」
  9267.  銀子は、上気した二人の美女の横顔を見ながら、更に続ける。
  9268.  静子夫人と京子は、一層、声を震わせて泣き合うのだった。
  9269.  朱美が、眼をぎらつかせている男達に向かっていう。
  9270. 「じっと見ているだけじゃ芸がないわ。手を叩いて、この別嬪さん達に調子をつけさせましょうよ」
  9271.  朱美の音頭に合わせて、男達は、一斉に手を叩き始める。
  9272. 「お客さん達の拍手に合わせて、大きく、『の』の字を書くように動かしてみな」
  9273.  銀子は、静子夫人と京子に再び平手打ちを喰わして、いうのである。
  9274.  男達の酒に濁ったがらがら声が、室内一杯に渦巻きがあがる。
  9275.  ♢♢一つ出たほのよさほのほい♢♢
  9276.  卑猥な男達の歌声に合わして客席へ強烈な刺戟をふりまき始めたようであった。
  9277.  男達の歌のテンポに合わせ、舞い、豊満な乳房がゆさゆさと揺れ動く。
  9278.  次元の違った世界での出来事のように、静子夫人も、京子も、ただ一途に、火花を散らし合っていたのであるが、ふと二人は、ズベ公や見物の男達が期待している落花無残の状態に到達しかけ始めている事を感知する。
  9279.  ♢♢いけないわ、いけないわ♢♢静子夫人は、歯を喰いしばり、狂ったように首を振り始めた。
  9280.  だが、一旦調子づいて踊り出した身体は、止めようとしても止まるものではなかった。ゴールに向かって、驀進しつづけるのである。
  9281. 「お、お、奥様!」
  9282.  京子も、明らかに、同じ気持である。戻るという事が不可能なれば、突進していくより方法はない。京子は、もう前後の見境もなく、一般とテンポをあげ始め出す。
  9283. 「あっ、やめて京子さん、静子はいきそうっ」
  9284. 「奥様っ、京子も、ああ、いきそう」
  9285.  京子はラストスパートをかけたのである。
  9286.  銀子の哄笑、朱美の嘲笑。
  9287. 「ああっ、いくっ」
  9288.  静子夫人は、もうどうしようもなくなったように、京子の白い肩へ、がっくりと首を落とした。白い頬を充血さし、やりきれない、たまらない衝動が、内部から、こみ上って来た静子夫人は、身体をがたがた慄わせつつ、無意識のうちに、京子の肩に噛みついてしまう。
  9289.  二人は、あふられ、まきこまれ、意味のない言葉を叫びつつ、血でも吹き上げるような狂おしいものに打ちのめされて、がっくり、互いの肩に美しい顔を埋め合ったのだ。
  9290.  男達は、もう歌など唄う者はいない。息を殺し、眼をギラつかせて、このすさまじい光景を陶然として見つめているだけであった。
  9291. 「ゴールイン出来たの」
  9292.  銀子は、ほっと息をつくようにして、再び二人の傍へ近寄ってくる。朱美もくすくす笑いながら、銀子の後についてやって来た。
  9293.  銀子は、静子夫人の赤らんだ頬を指でつつき、
  9294. 「フフフ、奥様こってり気をやったようね」
  9295.  静子夫人は、首筋まで熱くしながら、もじもじし、眼を閉じ合わせたまま、かすかにうなずき、京子の肩に一層顔を深く埋めるのだった。
  9296. 「どう、京子さん、貴女も♢♢」
  9297.  朱美に、頬をつつかれて、京子も夫人の肩に顔を埋めたまま、震えるように小さくうなずくのだ。
  9298. 「フフフ、両手は縛られたままだというのに、ほんとに、あんた達、器用な人ね」
  9299.  銀子は、そんな事をいいながら、身をかがめる。
  9300.  夫人と京子は、美しい眉を寄せ合う。
  9301. 「まあ、あきれた。ちょっと、朱美、手を貸してよ」
  9302.  朱美も手を貸して、二人を引き離すようにし、
  9303. 「まあ、いやだ、すごいじゃない。この愛液の流し方」
  9304. 「そりゃ仕方がないさ。いくら高嶺の花の令夫人でも、やっぱり女ですものね」
  9305.  銀子と朱美は、夫人の腿にまで伝わる熱い愛液を見て笑い合う。
  9306.  ようやく夢から覚めたように夫人と京子は、そっと眼を開き合う。ふと、二人の視線はからみ合った。その途端、浅ましくも衆人環視の中で、共に敗北してしまった羞恥が、二人の顔に紅を散らし、同時にほっと視線をそらし合う。川田が、ニヤニヤしながら、いった。
  9307. 「何も今更、照れる事はねえだろう。今の感想を語り合ったら、どうだい」
  9308.  吉沢と井上も、田代も、森田も二人の美女のそらせ合う横顔を眺めて、ゲラゲラ笑っている。
  9309.  京子は、急に眼を開き、静子夫人に対し、悲痛な思いをこめていった。
  9310. 「奥様。京子、京子は幸せよ!」
  9311.  恐らく、京子は、この地獄屋敷の中で、快適に暮すべく決心する事が、残された唯一の救われる方法だと思い、夫人に同意を求めたものと思われる。
  9312.  京子の声に静子夫人も、胸をしめつけられるような思いになって顔を上げる。
  9313. 「京子さん。静子も、静子も、幸せだわ」
  9314.  静子夫人と京子は、たまらなくなったように、こみあげてきた思いをぶつけ合い、ぴったりと唇と唇を合わせあった。むさぼるように互いに舌を吸い合い、長い熱い接吻を続けるのである。
  9315.  川田は、どうです、といわんばかり、誇らしげな顔つきになって、田代を見る。二人の美女がようやくこちらの思う壷に入ってきましたぜ、という事がいいたいのだ。
  9316.  川田は、ようやく唇を離し、熱い頬と頬とをすり合わせている二人の美女の傍へ一歩踏み出して言った。
  9317. 「どうやら二人とも、本心から、こういう事を悦び合えるようになってくれたらしいな。俺達も仕込み甲斐があったってものだ。見ろよ。客人達も大喜びだ」
  9318.  静子夫人は、ニヤニヤして、そんな事をいう川田に美しい切長の瞳を向けて、小さく声をかけた。
  9319. 「♢♢川田さん、手がしびれちゃったの。縄を解いて休ませて下さらない」
  9320.  京子も、すぐ横に来て、突っ立っている吉沢に声をかけるのだった。
  9321. 「あなた、お願い。少し休ませて♢♢」
  9322.  川田と吉沢は、顔を見合わせ、北叟笑み、
  9323. 「いいとも、だが、その前に、完全に降参した事を客人達に点検してもらおうじゃないか」
  9324.  川田がそういうと、静子夫人と京子は、再び、ぼーと上気して、美しい眉を曇らせる。
  9325. 「お客様方に後始末をして頂くんだ。な、いいだろ」
  9326.  川田がそういうと静子夫人は、川田の眼がゆらぐばかりの妖艶な眼差しをつくつて、
  9327. 「うん、嫌よ、そんな」
  9328.  夫人は、鼻を鳴らすようにしていい、身をよじったが、それは完全な拒否ではなく、それを認めつつ、甘い否定の姿態をとったといえる。
  9329.  もうここより逃れる術はないのだ。羞恥の片鱗を忘れて京子と演じ合った今のショーで静子夫人も京子も一段と飛躍し、川田達が期待する女に前進したといえる。夫人も京子も悪魔達の調教の中で強い羞恥心を感じている限り、その辛さはつのるばかり。こういう川田や吉沢達の考えるいたぶりを一つの快感として受け取るよう自分で自分を教育しようと努め出したのである。それに、肉体そのものも、巧みな鬼源の調教で、快感として受け取るよう段々と作り変えられて来ている事も事実であった。
  9330.  男達の積極的な愛撫を一層受け取るための意識的羞恥。すなわち、それを遂に発揮する段階にまで、夫人も京子も近づいて来たわけなのである。
  9331.  川田は、満足した。そして、命令する。
  9332. 「さあ、お互いに廻れ右して、お客様の方へ正面を向け合うんだ。ゆっくりと、くわしく検査して頂くんだよ」
  9333.  それを聞くと、静子夫人と京子は、別離を悲しむ恋人同士のように、も一度、ぴったりと寄り添うのであった。
  9334. 「奥様。京子、たとえ、どんな目にあっても奥様の事は忘れないわ。好き、好きなのよ。ああ、奥様」
  9335. 「京子さん、静子だって、静子だって、貴女の事は♢♢」
  9336.  酒に濁った男達の眼は、一斉に集中する。
  9337.  静子夫人と京子は、そんな野卑な男達をさげすむように、空虚な眼を前方に向け合っているのである。
  9338.  銀子や朱美、それに、悦子や義子達までが近寄って来て、男達に何かいい、共に大声で笑い合う。
  9339.  静子夫人と京子は、どうとも勝手にするがいいわ、とでもいうような無表情。しかし、背に高々と縛り合わされている手首を動かして互いの手を握り合い、この屈辱を共に 必死に耐え抜こうとし合っているのであった。
  9340. 「へえ、二人とも大洪水じゃねえか」
  9341. 「フフフ、お核がまだピクピクしているわ」
  9342.  男達の感歎の溜息、卑猥な揶揄、そうしたものを二人の美女は、冷静に、いや、冷静さを装って、軽く瞑目したまま聞いているのである。
  9343.  
  9344.  
  9345.     密談
  9346.  
  9347.  田代は、おそい朝食をとっていた。朝でも肉類を食べねば気のおさまらぬ田代は、分厚いビフテキの肉をナイフで切りながら、鼻唄をうたいつづける。
  9348.  昨日、美津子と文夫のショーがあっけない幕切れとなり、一時は、客人達が口々に不平を並べ出し、どうなる事かと思ったのだが、静子夫人と京子が特別出演として登場し、熱演して、とにかく、一座を満足さしてくれたのであるから、機嫌がいいわけである。
  9349.  ノックの音がして、入って来たのは、川田と森田であった。
  9350. 「昨夜は、うまくいきましたね、社長」
  9351.  川田はそういうと、もうすっかり森田組の幹部気取りで、肘掛椅子に坐り、卓の上のウイスキーをコップに注ぎ始めている。
  9352. 「静子夫人も京子も、どうやら、こちらが狙っているタイプの女に生まれ変ってきたようだな」
  9353.  田代は、えびす顔になっていい、手をのばして、卓のウイスキーをとり、川田のコップに注ぎ足し、森田にもすすめるのであった。
  9354. 「ところで、社長」
  9355.  森田は、ウイスキーを少し、口に含んで、コップを置くといった。
  9356. 「先程、電話連絡がありましてね。いよいよ関西の岩崎親分、明日の飛行機で、こっちへおいでになるらしいですぜ」
  9357. 「そうか」
  9358.  田代は、そわそわした気分になる。
  9359. 「いよいよ大物の御入来ってわけだな」
  9360.  岩崎親分の東京における遊興の相談は、すべて、田代が受け持ち、とにかく、この屋敷で大がかりな賭場を開帳させ、一千万は下らぬと思われるテラ銭を岩崎上京の折りごとに儲けようというのが、田代の目算であった。
  9361. 「手筈は部屋えておきました。明日の夜には、大親分、ここへ到着するという段取りになっております」
  9362.  川田は、そう報告する。
  9363.  田代は、うなずきながら、ショーのプログラムの方も大丈夫だろうな、と念を押す。
  9364. 「まあ、鬼源とわっしとが、腕によりをかけて、面白い番組を組んでお目にかけますよ。ま、社長は安心して、高見の見物をしていて下さい」
  9365.  川田にいわれて、田代は何度もうなずく。田代は、ショーに関しては、川田や鬼源に、すっかり任した形なのだ。
  9366. 「岩崎親分は、日本趣味、つまり、時代劇ムードがお好きなようなんですよ。それで、鬼源と相談したんですが、やっぱり、日本髪の一番似合うのは、何といっても静子夫人です。そこでですね♢♢」
  9367.  川田の田代に話したアイデアというのは、そのものズバリのショーを演ずるよりは、一つの芝居を演じた方がいい、ということである。筋は単純だが、女を責めるという事を主眼においた芝居♢♢銭形平次に捕まって、島送りになった与太者が島破りをして江戸にもどって来て、平次に仕返しをする手段として、平次の恋女房のお静を、手籠にするという設定らしい。
  9368. 「成程、静子夫人がお静に扮するというわけか。悪くない筋だな」
  9369.  田代は腹を揺すって笑った。川田も笑いながら、
  9370. 「その島破りの与太者、辰次をやるのは、この俺なんですよ」
  9371.  お静を納屋へ監禁し、辰次は、白痴の乾分の捨三をけしかけて、お静を辱しめる、という事になっているらしい。勿論、白痴の乾分、捨三を演ずるのは捨太郎である。
  9372. 「いよいよ愉快だね」
  9373.  田代は、浮き浮きした気分になっていう。
  9374.  普通の芝居ではないのだから、そこへ救援者が現われて、お静が救出されるという事はない。お静は納屋の中で辰次と捨三のために徹底的に嬲られるという事になっているのだ。
  9375.  鬼源と相談して台本も作りましてね。今朝早くから捨太郎も混って、何回もリハーサルをやったんです」
  9376.  川田は、ウイスキーをなめるようにして、田代にいうのだった。
  9377. 「リハーサルとは、よかったな」
  9378.  田代は、ますます上機嫌になる。
  9379. 「そこで、社長」
  9380.  次に森田がいった。
  9381.  今までのように、素っ裸のまま、舞台の上へあげるのは、興味も薄れることと思いますので、一応、衣裳を揃えてみたいのですが、というのである。
  9382.  時代劇ショーであるから、まして、遊び人の岩崎親分の機嫌をとるものであるから、安手なものは駄目で、艶やかな静子夫人の肢体を包むのにふさわしい華美で豪奢な着物を一応揃えてやっていたださたいと、森田は、このショーを見応えのあるものにすべく張り切っているようであった。
  9383. 「よかろう」
  9384.  と田代は二つ返事で承知する。
  9385. 「一流の呉服屋に頼んで、着物から下着まで極上品を揃えろ。それ位の投資は仕方がないと思うよ」
  9386. 「いえ、ショーは明後日、今から呉服屋に注文してたんじゃ間に合いませんよ。うまい具合に、千代夫人が、このショーに手を貸してくれる事になったんです」
  9387.  森田はそういった。
  9388. 「遠山家へ戻って、静子夫人にぴったりの和服を取り揃え、持って来てやる、と千代夫人が協力してくれる事になったのです」
  9389.  何の事はない。遠山家へ千代が戻って持って来てやる着物というのは、静子夫人の所有物なのであるから、体にぴったり合うのは当然の話だ。それに、日本髪の鬘も、日本舞踊の名取りである静子夫人が、浅草の老舗に作らせたかつらが幾つかあり、それも千代が持って来るというのだから、何の苦労もないわけだ。
  9390. 「段取りも、こうまで調子よくいくと、笑いがとまらんじゃないか」
  9391.  田代は、再び、大口を開けて笑うのであった。
  9392.  美しい静子夫人が、その華著な白い首筋を鹿の子絞りか何かの半襟に、艶めかしく浮き立たせた、ぞくぞくする色っぽさが、田代の脳裏に浮かび上ってくる。
  9393.  なるほど、静子夫人の扮するお静、こいつは楽しいショーになるぞ、と田代の顔は、ひとりでにニヤニヤとくずれるのであった。
  9394. 「それから、いよいよ今日から、小夜子の調教にかかります。あれだけの別格、何時までも遊ばせておくのは勿体ないですからね」
  9395.  川田がいった。
  9396. 「そうだな。弟の文夫が美津子と一緒に、仕事を始めたってのに、姉の小夜子が地下室の奥で、すましこんでるってのは妙だよ」
  9397.  田代も、うなずいた。
  9398.  その時、庭の方が急にさわがしくなった。
  9399.  田代は、椅子から立ち上り、窓の外へ眼を向ける。
  9400.  日は、うららかに空は青く、庭の芝生の土からは柔らかい陽炎が立ち上ってくるようないい天気で、その中を銀子や朱美達のズベ公、それに、竹村や堀川達のチンピラ達の一団が陽気に唄をうたいながら行進して行くのだ。
  9401. 「何だ、陽気がいいので、銀子達、うかれ出したのかな」
  9402.  田代は、そういって笑ったが、仔細に見ると、その一団の中に文夫と美津子が混っているのである。丸太の馬に乗せられて、庭中を引き廻されているのだ。チンピラ四人は一本の丸太を担ぎ、ズベ公四人も一本の丸太を担いでいる。チンピラ達の方へ乗せられているのは美津子、ズベ公達の方へ乗せられているのは文夫である。
  9403.  窓をのぞいた川田がいった。
  9404. 「そうだ。銀子の奴、文夫と美津子が夫婦になった祝賀会を開くとかいってたっけ。きっとそれですよ、社長。今日は天気がいいので野外で伺かまた奇妙キテレツな事をやらかす気でいるんでしょう」
  9405.  田代は、成程、とうなずき、次に、川田と森田の顔を見ていった。
  9406. 「俺達も一つ出向いて、お祝いの言葉をかけてやろうじゃないか」
  9407.  
  9408.     屋外調教
  9409.  
  9410.  樹々は一斉に新緑に包まれ、あふれるばかりの日光を受けている。
  9411.  花の散った桜の木の近くまで、文夫と美津子を運んで来たズベ公とチンピラ達は、芝生の上へ二人を投げ出す。
  9412.  後手に縛られている美少年と美少女は、重心を失って、芝生の上へ、もんどり打って転がった。
  9413.  チンピラとズベ公達は、一斉に笑う。
  9414. 「さ、いらっしゃい」
  9415.  ズベ公達は、芝生の上へ、互いに身をちぢませている若い二人の肩に手をかけ、引き起こした。
  9416.  一米ばかりの距離をおいて、さはど太くはない幹の桜の木が立っている。手頃な枝だとズベ公達は、あらかじめ、この場所を選定しておいたのであろう。その一本の太い枝に、踏み台に乗った義子が文夫の縄尻をつなぎ止めた。
  9417.  前の芝生へ赤い毛氈が敷かれる。義子や悦子達がビールやカンヅメを運んでくる。野外パーティは開かれた。
  9418.  文夫と美津子が結ばれた祝賀パーティという名目で、野外で飲む酒の肴にしようというハラである。
  9419.  文夫も美津子も、一時のように、狂乱し、屈辱にのたうち廻るという事はなかった。静かに悲しみをもって、自分達の運命をあきらめているという風に見える。
  9420.  悪魔達に色々な方法で教えこまれた秘密の身体♢♢美津子は、それが、いわゆる快楽というものである事に気づき出してきたのであろうか。闇に眼が馴れてくるように、やがて、こういういたぶりも苦痛ではなくなり、それが快楽というものに変化していくのではなかろうか、美津子はそう考えると、ふと自分が恐ろしくなり、ぴったりと両腿を閉ざし、首を深く垂れてしまうのであった。文夫とて、何かを切り替えた別の新しい心の斜面、倒錯した快感めいたものが、じわじわ肉体の内部からこみ上ってくるような心地になってきたようである。それに、二人は、こうした悪魔達の見守る中で、二人共通の秘密を持ったのだ。強がりをいい、抵抗し、拒否しても、それは、すべて、悲しい空しさ、悪魔達を一層、嘲笑させるだけのものであるという事を二人は感じとるのである。
  9421.  ズベ公とチンピラ達は、ビールを飲み、スルメをかじって、桜の木につながれた文夫の方へ眼を向け、何か小声で話し合って、どっと笑い合っている。
  9422. 「フフフ、あんた達はね、昨日めでたく結ばれた夫婦よ。お互いに思いがかなって嬉しいでしょう。葉桜団に大いに感謝すべきだわ」
  9423.  ズベ公達は、そんな事をいって、笑い合うのであった。
  9424. 「これからは夫婦仲良く、しっかり稼いでくれなきゃ駄目ょ。二人とも学校じゃ優等生だったかも知れないけど、そんなもの、ここじゃ通用しない。だから、お互いに立派なスターに早くなって貰わなきゃ困るよ」
  9425. 「夫婦ともなりゃ文夫さんとか美っちゃんとかいう言い方はおかしいよ。これから、文夫は、美津子、とはっきり呼び、美津子は、あなた、と妻らしく呼ぶんだ。さ、一度やってごらん」
  9426.  朱美は、ビールのコップをロへ運びながらそんな事を楽しそうにいう。
  9427. 「さ、呼んでみろ」
  9428.  チンピラの竹田と堀川が、残忍なものを底に浮かべた険のある限つきをして立ち上り、文夫の前へ歩み寄る。
  9429.  この二人のチンピラにしてみれば、自分達の手で開花させようとした美しい花を、この文夫に横取りされてしまったというような恨みがあるらしい。
  9430. 「よ、二枚目。何でえ、昨日のざまは、見てはいられなかったぜ。相手の身になって、もう少し、喜ばせてやるって事を考えろ」
  9431.  そんな事をいいながら、竹田は、文夫の頭髪をわしづかみにして、ごしごしとしごく。
  9432. 「さ、いうんだよ。ね、美津子、僕のペニスの味どうだった、とね」
  9433.  坐って、ビールを飲んでいるチンピラとズベ公達が、それを聞いて笑いこける。
  9434.  さ、ぐずぐずすんねえ、と、竹田は、ポケットから、ジャックナイフを抜き出し、その先端で、文夫の腿のあちこちをチクチク突き出した。
  9435.  うっとうめいて、その痛さに、狂おしげに身をよじる。そんな文夫を見るに見かねたのか、美津子が涙でひきつったような声をはりあげた。
  9436. 「文夫さん、お願い。こ、この人達の言う事にさからわないで!」
  9437.  文夫は、ほっとしたように、首を曲げて美津子の方を見た。美津子は、美しい黒限に一杯、涙をにじませ、文夫の覚悟を求めるような表情をしている。
  9438.  文夫は、それを見ると、眼を固く閉じ、顔を正面に向けた。
  9439. 「♢♢ね、美、美津子。僕の、僕の……」
  9440. 「はっきりいえよ。僕の何だよ」
  9441.  竹田と堀川は顔を見合わせて笑い合う。
  9442. 「♢♢僕の、僕の♢♢ペニスの味は」
  9443.  わっと、ズベ公達は肩を抱き合うようにして笑い合う。そして、すぐに美津子の方へ眼を転じるのだった。
  9444.  美津子は、顔を横へそらせるようにして、唇を動かす。美津子も悦子達に強制されているのだ。
  9445. 「♢♢す、すばらしかったわ。でも、美津子の……」
  9446.  美津子は急に首も顔も燃えるように赤くして、やはり、口ごもってしまう。死んでも口に出せないような、いまわしい単語である。
  9447. 「美津子の、ああ、美津子の♢♢」
  9448.  ようやく、必死な思いで、それを口にした美津子は、ひどく狼狽したように、真っ赤な頬を再び、深く垂れてしまうのであった。
  9449.  それは、見守っているチンピラやズベ公の眼に何ともいえぬいじらしい風趣に見え、桜の花でも散りこぼれるような艶めかしい色気が発散されるのが感じられたのである。
  9450.  それに味をしめたズベ公達は、盛んに二人に口が歪むような、卑劣な会話のやりとりを強要する。文夫や美津子が少しでもためらったりすると、朱美が青竹を振り、竹田がナイフの先でつつくのだ。
  9451.  美少年と美少女は、もう麻薬に脳が冒された人間のように、わけもわからずズベ公達の強制する言葉を口に出し合ってしまう。
  9452. 「♢♢あなたの♢♢チンコ」
  9453. 「♢♢美津子の♢♢マンコ」
  9454.  真っ赤な顔をそむけ合って、そんな会話を続ける若い二人の周囲に陣どるズベ公とチンピラは、キャッキャッと愉快でたまらぬというように笑いこけてしまう。
  9455. 「でも桜の花が咲いてたら、とても美しい眺めだったのにねえ。桜につながれた美少年、絵になりそうな光景だと思わない」
  9456.  銀子は桜の太い木の枝へ縄尻をつながれて立つ文夫を指さして残念そうにいった。
  9457.  それからすぐに銀子は、さて、といって腰を上げ、晒しものにされている文夫の方へ近づいていく。銀子の後に朱美とマリが続いた。
  9458.  文夫に何かまた淫虐行為を開始する気なのかと美津子はぞっとしたものを感じた。
  9459.  もう何かの段取りがついていたらしく、チンピラの竹田と石山は桜の木の後ろにムシロをかぶせてあった棒杭を両手に抱えて文夫の傍へ近づいて行く。
  9460.  ますます無気味なものを感じて美津子は緊縛された裸身を思わず立たせようとしたが、悦子は美津子の縄尻を後ろからたぐり、
  9461. 「あんたはここで見物していりゃいいのよ」
  9462.  といって腰を据えさせる。
  9463. 「たまにはお庭でお稽古にかかるのもいいじゃない」
  9464.  悦子は美津子の白磁の背面を後ろから抱きしめるようにしていった。
  9465.  銀子に指示されて竹田と石山は縄尻を枝に吊られてつっ立っている文夫の左右に五十糎位の棒杭を二本、木槌を使って地中に打ちこんだ。
  9466. 「な、何をする気なんだ」
  9467.  と、文夫は銀子に敵意のこもった眼を向けたが、淫虐ないたぶりのくり返しで激しい反撥は見られず、気弱さが全体に漂うになっている。強く出れば忽ちはねっ返してくる銀子の魔女のような恐ろしさが骨身にこたえ出したのかも知れない。
  9468. 「あんた達が結婚出来た事には心から祝福してあげるわ。でも、同時にあんた達は森田組の商品なんだからね」
  9469.  何よ、昨日のショーのあの醜態は、と、銀子はフンと顎を突き出すようにしていった。
  9470.  今日は少し、野外調教してあげるわよ、と、いって銀子は竹田達に眼くばせをした。
  9471.  竹田と石山はそっと文夫に近づき、いきなり飛びこむようにして左右から文夫の下肢をからめ取った。
  9472. 「なっ、何をするんだ」
  9473.  文夫は激しく身体を揺さぶった。桜の太い枝につながれた文夫の縄尻がギイギイと激しく音を軋ませている。
  9474.  竹田と石山は左右から引き絞るようにして文夫の両肢を地中に打ちこんだ杭にまでたぐり、一気にロープを使って文夫の足首をそれにつないだ。
  9475.  大きく両肢を割ってそこに固定されてしまった文夫は激しく身をよじらせ、
  9476. 「お前達、どこまで僕と美津子さんをいたぶる気なんだ。いい加減にしろ」
  9477.  と、ベソをかきそうな表情になって、わめきつづけている。
  9478. 「そんなに股をおっぴろげて、チンチン、ぶらぶら揺さぶらないでよ。私達、また、変な気になってしまうじゃない」
  9479.  と朱美がいったのでズベ公達は一斉に笑い出した。
  9480.  文夫は顔面を充血させて動きを止めた。そして、急に口惜しさが火のように胸元にこみ上げて来て肩先を慄わせて泣き出した。
  9481. 「あら、ハンサム坊や、泣き出したわよ」
  9482.  朱美は泣きじゃくっている文夫の紅潮した顔面をのぞきこむようにして嬉しそうな表情になる。
  9483. 「私達はね。何もいじめているんじゃないよ。あなたの身体をもっと男らしくなるよう鍛えてあげようといってるのさ」
  9484.  朱美はそういってジーパンのポケットから細い皮紐を抜き出した。
  9485.  一体、この残忍な女達はここでまた文夫に何をする気なのか、と、悦子に縄尻を取られて芝生に腰を落としている美津子は鳥肌立つような思いになり、思わず、
  9486. 「あなた達は文夫さんに一体、何をするつもりなんですっ」
  9487.  と、昂った声をはり上げた。
  9488. 「だから、いってるでしょう。男を鍛えてやるんだって」
  9489.  大勢のお客が見守る中でああいう不様を晒してもらっちゃ困るんだよ、とせせら笑うようにいう朱美に向かって美津子は必死な思いでいった。
  9490. 「そ、それは文夫さんが悪いのじゃありません。私が至らなかったからです」
  9491.  美津子の、私が至らなかったという言葉が気に入って銀子は、
  9492. 「あんたはほんとに性格もいい娘だねえ。いや、もう娘じゃなく、文夫さんの花嫁か。ほんとに文夫もいい花嫁をもらったものだ」
  9493.  と、吊るしものにされている丸裸の文夫と、悦子に肩先を押さえられている美津子を頼もしそうに交互に見つめるのだった。
  9494. 「美津子は見ているだけじゃ、つまらない、自分も文夫と一緒に調教を受けたい、と、いいたがっているのよ」
  9495.  と、美津子の肩先を支えている悦子は笑いながらいった。
  9496. 「美津子の出番はもう少し後さ。しばらくそこで待っていな」
  9497.  と、マリがいってビールの空瓶を手にすると朱美の方へ歩いていく。
  9498.  皮紐、それにビールの空瓶、一体、何をする気なのかと美津子は一層、不気味なものを感じた。
  9499.  朱美はビール瓶の口を皮紐の先端で結んだ。
  9500. 「そら、義子」
  9501.  皮紐につないだビール瓶は朱美から義子に手渡された。
  9502.  義子はそれをつかむと、文夫のおびえた顔を小気味よさそうに見て、
  9503. 「ええか。こいつを結びつけたるさかい、下腹に力を入れてしっかり持ち上げるんや。金強法の一つやで」
  9504.  義子がそれを結びつけようとして文夫の股間に腰をかがませると、文夫は激しい狼狽を示してそれをはじき返そうとするかのように荒々しく腰部を揺さぶった。
  9505. 「こら、こら、おとなしくせんかい」
  9506.  義子は右に左に揺れ動く文夫の肉棒をうろたえ気味に手でつかもうとしている。
  9507. 「や、やめろっ、やめないかっ」
  9508.  ベソをかきながら文夫はがなり立てているのだ。
  9509. 「うるさいわね。こいつで猿轡してやってよ。美津子のパンティだから少しはおとなしくなるんじゃない」
  9510.  銀子は紙袋の中から薄いナイロン製のピンク色のパンティを竹田の方へ放り投げた。
  9511.  竹田はそれをつかむと石山と一緒に後ろから文夫につかみかかり、頭髪をつかみ、顎の下に手を差しこむようにして強引に文夫の口をそれで覆った。
  9512.  美津子のピンクのパンティで猿轡され、世にも哀しそうな顔を見せる文夫を見て女愚連隊は笑いこけている。
  9513. 「恋しい、恋しい美津子のパンティよ。そんな情けない顔しないでよ」
  9514.  銀子と朱美は笑いながら義子に手を貸すために腰をかがませた。
  9515. 「さ、いい子だから、おとなしくするのよ」
  9516.  女達は文夫の肉棒を掬い上げるようにしてつかんだ。
  9517. 「だめよ。こんなにぐんにゃりさせちゃ。もっと、おっ立てなきゃ。男の子でしょ」
  9518. 「雁首をもっと膨らませるのよ。こんな大きなチンチンがこれじゃ、だらしなさ過ぎるわよ」
  9519.  女達はお祭り騒ぎのようにはしゃいで文夫のそれを吃立させるべく、撫でたり、しごいたりをくり返しているのだ。
  9520.  それを眼にしてぞっとしたように身を慄わせた美津子は緊縛された裸身を二つ折りに前にかがませ、芝生に額を押し当てて泣きじゃくっている。
  9521. 「よし、いい事がある」
  9522.  と、いって銀子は立ち上ると紙袋の中からコールドクリームの小瓶を取り出した。
  9523.  朱美、手を貸してよ、と、銀子は朱美と一緒に文夫の後ろへ廻った。
  9524. 「フフフ、盛り上ったいいお尻をしているわね」
  9525.  銀子はパチンと文夫の筋肉質な尻を手で叩いた。朱美は銀子がもう何を考えているのか、わかっている。二人はまるで果物でも割るように文夫の双臀に手をかけ、割れ目を押し拡げるのだ。
  9526. 「ううっ」と、ピンクの猿轡の中で大きくうめいた文夫は尻にかかった女達の手を振り切ろうとするのか、二度、三度、激しく腰を揺さぶった。
  9527. 「男のくせに羞ずしがるんじゃないよ。お尻の穴を軽くマッサージしてやろうといってるんじゃないか」
  9528. 「そうだよ。美津子なんか、姉の京子と一緒にここへ大きな浣腸器をぶちこまれた事があるんだよ。泣きもしなかったし、暴れもしなかったわね」
  9529.  銀子と朱美はそんな事をいって笑いながら文夫のその微妙に突起した肉の蕾を露わにさせると、すぐにクリームを荒っぽく塗りつけ始める。
  9530. 「ね、万更、悪い気分はしないだろう」
  9531.  文夫は名状の出来ぬ陰密な快感をそこに感じとったのか、反撥の気力を失って熱っぽい喘ぎだけをくり返すようになった。
  9532.  銀子は文夫のクリームに濡れた菊座を遮二無二、指先で掻き立てながら前面に腰を低めている義子に向かって声をかけた。
  9533. 「しっかり、しごきな」
  9534. 「あいよ」
  9535.  と受け答えた義子はすぐに、
  9536. 「わあ、立った。立った。立ってきよった」
  9537.  と、息をはずませていった。
  9538. 「銀子姐さん。この皮紐、どこらあたりにつないだらええの。根元?」
  9539. 「雁首の下。か、茎の中程」
  9540. 「わかった、わかった」
  9541.  義子は眼を血走らせて皮紐を素早く結びつけた。
  9542. 「くっ、くくっ」
  9543.  文夫は銀子の巧みに動かせる指先で双臀の奥深くの陰密な蕾を掻き立てられ、揉みほぐされ、妖しくも異常な快美感を知覚したのか、猿轡の中で押し殺したようなうめきを上げている。
  9544. 「さ、力をこめて吊り上げるんや。あんたみたいないい男がビールの空瓶一つ、吊り上げられんようでどうする。わての顔にピューとひっかけたような、あの激しさはどこへ行ってしもた。しっかりせんかい」
  9545.  と、義子は顔にひっかけられた時の恨みを返すように、がなり立てていたが、突然、
  9546. 「あっ、吊り上げた」
  9547.  と、頓狂な声をはり上げた。
  9548.  今までビール瓶を吊られて下降していた文夫の肉棒は鉄のような硬化をはっきり示し出して、その重みと競い合うように徐々に上昇し始めたのだ。
  9549.  義子は、よっしゃ、その調子や、とすっかり落着きを失ったようにそわそわし、文夫を更に元気づけるために再び、文夫の硬直した肉棒に刺戟を加え始めた。ビール瓶の重みと戦うようにフルフルと揺れ動く文夫の熱い肉袋を軽く指先でくすぐり、茎の下を掌で撫で上げると文夫の熱気を含んで硬化した肉棒は女共のいたぶりの数々に激怒したように更に鎌首をもたげさせてくる。
  9550. 「見て、朱美姐さん。文夫は見事なもんや。ビール瓶との勝負は文夫の勝ちや」
  9551.  義子は大声を出した。
  9552.  銀子も朱美も前面に廻って、空瓶を吊って水平に伸びたまま、小刻みに動いて空瓶の重さに耐えている文夫の肉棒を鑑察した。
  9553. 「やるじゃない、文夫。大したもんだわ」
  9554. 「これなら、この次のショーは大丈夫ね」
  9555.  こういう瓶吊りも次のショーには組み入れましょうよ、と、銀子はすっかり悦に入っている。
  9556.  この次はこの空瓶に少しずつ、水を注ぎ入れ、どこまで持ちこたえるか、それだって金強法の一つとしてショーに登場させればお客はきっと喜ぶわよ、と、銀子はいった。
  9557. 「ま、今日のところの瓶吊り遊びはこれ位にしておいて」
  9558. 「あら、もう少し、遊びましょうよ。空瓶に水を入れたりして」
  9559.  マリが不服そうにいうと、銀子は、それより、といって少し離れた所で泣きじゃくっている美津子を顎で示した。
  9560. 「美津子にも少し、教えておく事があるじゃない。美津子をここへ連れて来な」
  9561.  と、銀子はマリに眼くばせした。
  9562.  
  9563.  
  9564.  
  9565. 第三十四章 汚水の中の宝石
  9566.  
  9567.  
  9568.     舌と唇
  9569.  
  9570.  桜の木の枝に縄尻を吊られて立つ文夫は自分の眼前に美津子が引き立てられて来たのに気づき、あわて気味に視線をそらせた。股間の肉棒に空瓶を吊られたこの凄まじいばかりの汚辱図を美津子の眼に晒す文夫のみじめな気持を想像して、銀子も朱美も嗜虐性の快美感に浸っている。しかも、文夫の口を固く封じこめているのは美津子の可憐なピンクのパンティではないか。
  9571. 「さ、ここへ坐んな、美津子」
  9572.  銀子は後手に縛られた美津子の裸身をそんな文夫の前面に寄せつけるようにして坐らせた。
  9573.  見てはならぬものの前に坐らされたようにその場に膝を折って正座した美津子は深く首を垂れさせ、陶器のようなしなやかな肩先を小さく慄わせている。
  9574. 「自分の夫のペニスを前にして何もそう照れる事はないやないか」
  9575.  と、義子が消え入るようにうなだれている美津子の顎に手をかけて顔面を起こさせた。
  9576. 「文夫さんは大したものよ。彼の精力は充分に旺盛である事を今、実証したからね」
  9577.  銀子は美津子が固く眼を閉ぎしているのに気づくと、むっとした表情になった。
  9578. 「失礼じゃない。ちゃんと眼を開きな。夫のペニス位、まともに見られなくて妻がつとまるのかよ」
  9579.  そんな銀子の言い方がおかしかったのか義子は甲高い声で笑い出した。
  9580. 「こら、ちゃんと眼を開けて瓶を吊った文夫のペニスを見るんや」
  9581.  義子は美津子のカールされた黒髪をつかんで邪険にしごいた。
  9582.  耐え切れず美津子は眼を開いた。反射的にさっと横へ伏せようとした美津子の顎を、銀子がおさえて突き離すように視線を前に向けさせる。
  9583.  美津子は抗し切れず、まるで、空気か水でも見つめるような空虚な視線を文夫の下腹部へ向けるのだ。
  9584.  銀子はそんな美津子の横ににじり寄るようにして腰をかがませ、
  9585. 「夕霧女子高校の才媛もとうとうここまで来ちゃったわね」
  9586.  と、美津子の透き通るように白い細面の横顔を頼もしそうに見つめた。黒い抒情的な瞳と繊細な鼻の線、冷たく冴えた頬など、初めてこの地獄屋敷に連れこまれた時のセ—ラー服姿の美津子の清純な容貌を銀子は思い出している。
  9587. 「ちょいと、美津子が眼を向けたら、なんで空瓶を下げちゃうんだよ。照れる事はないじゃないか。もう一ぺん、吊り上げて強力なるチンチンパワーを美津子に示してやんな」
  9588.  と、朱美が火照った頼を横にそむけている文夫の急に縮み始めた肉魂に再び、刺戟を加えようとしたが、銀子は、
  9589. 「空瓶を外してやんな」
  9590.  と、義子にいった。
  9591. 「何でや、銀子姐さん。もう一ぺん、吊り上げさせて美津子の眼に文夫のチンパワーを見せたろやおまへんか」
  9592.  と、義子は不服そうにいったが、
  9593. 「もっと面白い事があるんだよ。文夫ばっかりに仕事させず美津子にも何かさせようじゃないか」
  9594.  と、銀子はいった。
  9595. 「美津子に文夫のそれをしゃぶらせるんだよ。もうそれ位の事、美津子にも覚えさせた方がいいだろう」
  9596.  はあ、成程、と、義子は感心したようにいって、すぐに文夫の肉棒につないであった皮紐をせかせかとほどき、空瓶を取り払った。
  9597.  義子は文夫の赤く火照った頬を指で押して、
  9598. 「よかったな。これから恋しい、恋しい美津子にフェラチオしてもらえるんやで。空瓶を吊り上げた御褒美というわけや」
  9599.  と、仲間と顔を見合わせて大声で笑った。
  9600. 「さ、一旦、縄を解いたるさかい、しっかり手でしごいて、固くなったらしっかり咥えて♢♢」
  9601.  と、唄うようにいいながら義子が美津子を後手に縛った縄を解こうとすると、
  9602. 「縄は解く事、ないよ」
  9603.  と、銀子は冷やかな口調でいった。
  9604. 「唇と舌だけ使わせばいいんだよ。私達が介添してやりゃいいじゃないか」
  9605.  文夫のそこをさっきみたいにピンピンにしてやってよ、と、続いて銀子は朱美にいった。
  9606. 「オーケイ、ベテランに任せて頂戴」
  9607.  と、朱美は舌なめずりするような表情で文夫の下降しかけている肉棒を腰を据え直して手にかけるめだ。
  9608. 「さ、文夫さん。ピンピンに固くしましょうね。そしたら、美津子さんが心をこめてフェラチオして下さるそうよ」
  9609.  朱美は雁首の根元あたりを片手で包みこむように握り、片手で肉袋を撫でさするようにしながらベテランの手管をもう発揮し始めている。
  9610.  ピンクの猿轡を噛まされている文夫は狂気したように顔面を揺さぶった。下降し始めていた文夫の肉棒は忽ち、鉄のような硬化を見せ、高々と吃立していく。
  9611.  その前に後手に厳しく縛り上げられた美津子は、深々と首を垂れさせたままで銀子が耳に低く語りかけてくる事を聞き、嫌っ、そんな事、絶体に出来ません、と、急に激しくおびえたように白磁のしなやかな肩先を慄わせるのだった。
  9612. 「大丈夫。もうあなたならそれ位の事は出来るわよ。それにここにはベテランが揃っているから細かくリードしてあげられるわよ」
  9613.  銀子は説得するようにそういって美津子の全体に細い華奪な線で取り囲まれたような陶器のような白い裸身を改めて見つめるのだった。白磁の滑らかな背面にまでねじ曲げられたような茎のように白い両腕、その背筋の中程で重ね合わされ、非情な麻縄を喰いこませている華奪な手首など、そうした美少女の痛ましい緊縛裸身もまた、銀子の異常性癖を刺戟する事になるのだ。
  9614.  義子が銀子と並んで美津子の傍に腰をかがませた。
  9615. 「ほら、文夫さん、朱美姐さんの手管であんなに大きくしてしもたわ。もう張ち切れんばかりのピンピンや」
  9616.  やらせるなら今やで、と義子は銀子にいって、うなだれたまま鳴咽にむせぶ美津子の薄い柔らかい唇に指を当てた。
  9617. 「そやけど、こんなおしとやかな唇で文夫のあの大きなものを咥える事が出来るやろか」
  9618. 「大丈夫、大丈夫、そこが愛の力よ。ね、美津子」
  9619.  と笑った銀子は次にきっとした表情になり、美津子の上下を麻縄に緊め上げられた白桃のように形のいい乳房を指ではじいた。
  9620. 「ここまで私達も協力してあげたのだから、あなたもがんばってその口で文夫さんに射精させるのよ、いいわね」
  9621.  美津子はのけぞるように苦しげに顔面をそらせた。
  9622.  次に義子が美津子のカールされた黒髪をつかみ上げて、
  9623. 「ええか、文夫さんに口の中でさせてあげるんや。愛があったらそれ位、出来ん事ないやろ」
  9624.  美津子は声をあげて泣き出した。
  9625.  愛があったらね、と、銀子が義子に調子を合わせるようにいった。
  9626. 「愛があったら、文夫さんの出して下さったものは一滴あまさず飲んであげる事だって出来るわね。私は文夫と美津子のそういう愛の強さが見たいのよ」
  9627.  そら、一寸、無理とちゃうか、姐さん、と義子が笑いながらいった。
  9628. 「あの文夫、若いだけに量が多いんや。この間なんか、わて、ピューピューと三発も顔にひっかけられてしもた。あんな凄いのをまともに飲もうとしたら美津子、喉を直撃されて窒息してしまうわ」
  9629. 「馬鹿ね。そこが愛よ。愛でいきゃ何だって出来るわよ」
  9630.  と、銀子は皮肉っぽい口調でいった。
  9631.  その時、文夫をいたぶり抜いていた朱美が声をかけて来た。
  9632. 「銀子姐さん、そろそろ、咥えさせた方がいいんじゃない。先走りの熱いもの出して来たから」
  9633.  銀子はさっと顔を上げていった。
  9634. 「美津子に口紅をつけさせてから咥えさせるわ。それまで、射精させちゃ駄目よ」
  9635. 「オーケー、任せておいて」
  9636.  銀子が紙袋から口紅を出すのを見た美津子はたまらなくなって黒髪をはね上げ、涙に潤んだ抒情的な黒い瞳を文夫の方に向けた。
  9637. 「ああ、文夫さん、美津子は、美津子は、どうすればいいの? ね、どうすればいいの」
  9638.  助けを求めるように叫んだ美津子の顎を口紅棒を持った銀子が片手で押さえた。
  9639. 「さ、口紅をつけた可愛いお口で文夫さんにフエラチオしてあげましょうね。その方が文夫さんだって喜ぶと思うわ」
  9640.  美津子は観念したようにしっとり涙に濡れた睫毛を閉ざした。はい、アーンとお口をあけて、と銀子がいうと、もう、どうなったっていいわ、と美津子は捨鉢の気持になって唇を開いた。
  9641. 「嬉しいわ。やる気を起こしてくれたのね」
  9642.  銀子の持つ冷たい口紅棒が唇に触れた時、美津子はこれで自分はようやく娼婦になれたのだという自虐的な快感のようなものがこみ上げて来た。
  9643. 「はい、お待ちどうさま。美津子さんが綺麗にお化粧していらっしゃったわよ」
  9644.  と、文夫のいきり立つ肉棒を掌の上に乗せて待機していた朱美は、美津子が銀子と義子に左右から肩を抱かれようにして近づいてくると、猿轡の中で鳴咽の声を洩らしている文夫の顔を見上げていった。
  9645.  美津子は文夫の股間に密着して再び、膝を折って正座する。ふと鼻を押し出せばすぐに触れる眼前に火のような熱気を帯びて包皮を大きくはじけさせた男の生肉が息づいているのだ。
  9646.  悪女達を嬉しがらせるのが口惜しく、美津子は空気でも見つめるような冷静さを装おうとしているのだが、胸は妖しく高鳴り、ぴたりと揃えさせている両腿の筋肉が小さく慄えた。
  9647. 「そら、ね、おいしそうでしょう、美津子」
  9648.  銀子はその熱気を帯びていきり立つ生肉を指裏でそっと押し、
  9649. 「さ、始める前に何か文夫さんに愛を語ってごらんなさいよ。それがフェラチオする女の礼儀というものじゃない」
  9650.  などといって銀子は周囲につめ寄って来た仲間達の顔をおかしそうに見廻した。
  9651. 「文夫さん、好き、好きよ」
  9652.  美津子は文夫の左右に割った太腿の一つに額を押しつけてシクシクすすり上げながら声を震わせた。
  9653. 「こ、こんな♢♢をする私を許して、もう私、娼婦になったつもりで、文夫さんをいじめるわ」
  9654.  自棄になったようにそういった美津子はさっと顔を起こすと文夫の股間に深く首を埋めていく。
  9655.  悪女達はその瞬間、わっと歓声をあげた。
  9656.  美津子は文夫の硬直した肉棒を縁どる剛い茂みにくなくな唇をさすりつけ、好きよ、文夫さん、と、慄える声でくり返しながら、次にその火のように燃え立つ生肉の先端にも荒々しく唇をすりつけている。
  9657. 「何をしてるんだよ。舌を出さなきゃ駄目じゅないか。最初は舌を犬みたいに、ペロペロ舐め廻すんだよ」
  9658.  と、マリがもどかしがって舌打ちした。
  9659. 「ちょっと、お待ちよ、美津子」
  9660.  銀子は両手で美津子の華奢な肩先に手をかけて引き戻し、美津子の麻縄が巻きつく美しい乳房を文夫の熱い亀頭にくなくなとすりつけさせた。熱い生肉にふと、こうして冷たい乳房をこすりつけ、熱気を柔らげるのも一つのテクニックだと教えるのだ。
  9661. 「男の尿道口に乳首をコリコリこすりつける」
  9662.  といって膝立ちにさせた美津子の白桃のように柔かい乳房をこすりつけさせたあとは、亀頭の尿道口に未だ成熟しきっていない乳房の紅い乳頭をこすらせたりする。
  9663.  美津子の額からはタラタラと玉のような汗が流れ散った。胸はときめき、ジーンと痺れるような情感がこみ上げてくる。
  9664.  美津子に甘い陶酔がこみ上げて来たのを知覚した悪女達は、よし、とばかり、美津子を自分達の術策に引きこもうとした。
  9665.  ♢♢十数分後には、美津子の一匹の若い性獣と化したように銀子達のリードで文夫の肉塊に喰らいつくようになっていた。
  9666.  舌先をとがらせて男の尿道口を軽く突いたり、舌先を小刻みに動かしながら男根の茎や裏側を舐めさすったり、女達のリードで美津子は文夫のそれを巧妙に愛撫するようになったのだ。
  9667.  文夫は上半身をのけぞらせ、左右に割った太腿の筋肉を突っ張らせて、あきらかにこの快美感にのたうっている。
  9668.  美津子は肉塊からふと口を離し、ハァ、ハァ、と大きく喘ぎながら、文夫さん、ね、どうしたの、と、カスレた声でいった。尿道口から薄い液が滲み出ているのに気づいた銀子は、それは先走りといって、精液じゃない、いきたくなった事を合図する液だよ、と美津子に教えるのだ。美津子は情感に酔い痴れた全身をうねらせて尿道口に口を当てチュッ、チュッと吸い上げた。
  9669. 「さ、肉袋も一発、舐めてやんな」
  9670.  と、朱美が反り返るばかりに怒張した肉棒に手を添えてけしかけると、もうすっかり自分を失ってしまった美津子はのめりこむように文夫の股間へ顔を埋めていく。赤味を帯びて熱気を含んだ肉袋を美津子は大きくのぞかせた舌先で唾液をなすりつけるように舐め廻した。
  9671. 「そら、舌でタマを探してごらん。わかったら舌先を押しつけて転がすようにしてやんな」
  9672. 「タマを皮ごと口に含んでしゃぶってみなよ。文夫は泣いて悦ぶよ」
  9673.  悦子とマリは交互に声をかけ合ってキャッキャッと笑い合っているのだ。
  9674. 「この娘は顔に似合わず素質があるみたいだね」
  9675.  と、銀子は熱い肉袋の一端を口に含んでチューチューと貪るように吸い上げている美津子の狂態めいた愛撫を見て呆然としたようにいった。
  9676. 「何しろ相手が文夫なんですかちね。愛は女を娼婦にも変えるというじゃないの」
  9677. 「そんな諺があったっけ」
  9678.  銀子は笑いながら美津子の狂態めいた愛撫をのぞきこんでいたが、
  9679. 「さ、美津子、追い込みにかかろう。雁首をも一度、しっかり口に含んでごらん」
  9680.  と、いった。
  9681.  文夫の股間に顔面を斜めに埋めていた美津子は次に、坐り直すようにして烈火のように怒張し、高々と反り返った文夫の肉棒と改めて対峙する。美津子は文夫の発する男の性の妖気に官能の芯を燃焼させ、ねっとりと情感の潤みを湛えた瞳を文夫の火柱のような屹立に向けるのだった。
  9682.  荒々しく反り返った男の肉棒を悦子がつかみ、美津子の熱い息を吐きつづけている半開きの唇にまで近づける。
  9683. 「さ、美津子、追い込みにかかる前に文夫さんに甘くおねだりしておいた方がいいよ。こんな風にね」
  9684.  と、銀子は美津子の熱い耳元に口を寄せて何かささやいたが、美津子は鼻先に近づけられた真っ赤な生肉を凝視しながら柔順にうなずくのだ。
  9685. 「文夫さん、美津子、続けて一生懸命、フェラチオさせて頂きますわ。ですから、お願い、美津子を本当に愛して下さるなら、美津子のお口の中で思いを遂げて。お願い、美津子に飲ませて」
  9686.  銀子に教示された通り、ためらわず口にした美津子は、文夫さん、許して、と胸の中で絶叫し、その荒々しく屹立した巨大な肉棒を咥えこもうと、叩きつけるように顔面を押し出した。
  9687.  思い切り唇を開いて咥えこんだ美津子は歯を唇でくるんで雁首まで吸いこみ、ゆるやかに頭を前後に揺さぶりながらしゃぶり抜くのだ。下顎につけた舌先で雁首の根元を粘っこく舐め廻し、荒々しい鼻息を美津子は文夫の血脈を浮かしている肉棒に吐きかけている。
  9688.  うう、と、文夫は真っ赤に火照った顔面を右に左に荒々しく揺さぶりながら息も絶え絶えの喘ぎをくり返している。
  9689.  義子はそんな苦しげな喘ぎを見せる文夫を小気味によさそうに見て、こら、と文夫の頭髪を片手でつかんだ。
  9690. 「この間はわての顔にひっかけよったが、今日はそないなわけにはいかんでぇ。発射出来る場所は美津子のあの可愛いお口の中だけや。ざまみさらせ」
  9691.  義子は勝ち誇ったように笑い出した。そして、続けて、また、こら、といった。
  9692. 「お前、美津子に飲ませるのが羞ずかしい思うて我慢しとるんやろ。アホ。そないに我慢しとったら、美津子に重労働を何時までもさせんならんやないか、美津子がかわいそうやと思うたら、はよ美津子の口の中へ射精したらんかい」
  9693.  そうよ、そうよ、と、悦子とマリも、顔を上げてキリキリ歯を噛みしめて耐えている文夫に毒づいた。
  9694. 「こんな大きなものを呑みこまされている美津子がかわいそうだとは思わないの。小蛇が大きな卵を呑まされているみたいじゃないか」
  9695. 「早く、ピュッ、ピュッと美津子のお口へ出して美津子を楽にさせてやんな」
  9696.  後手に縛られたまんまでフェラチオさせられている美津子をかわいそうだとは思わないのかい、薄情な男だねえ、などといいながら悦子とマリは顔を見合わせて笑い合っている。
  9697.  銀子は煙草を横に咥えて、懸命になって文夫をしゃぶりつづけている美津子の横に腰をかがませ、冷やかに観察しているのだ。
  9698.  べったりと白磁の背中に汗を滲ませ、その滑らかな背中に縛り合わせられた華奢な白い手指を苦しげに曲げたり、白い餅のようなむっちりとした尻をしきりによじらせている美津子、口一杯に頬張った文夫の熱い肉塊を滑らかな頬を激しく収縮させてしゃぶり抜き、カールした髪を揺さぶりながら前後に頭を激しく動かしている美津子♢♢縛られた腕もその痛みは限界に達しているだろう。しゃぶりつづけて顎も痺れ切っているかも知れない。しかし、その哀切感が銀子にとっては肉芯がうずくような嗜虐の快感につながるのだ。
  9699. 「ね、美津子、さっき、私が教えてあげたスパ、スパをやって御覧」
  9700.  今、それをやると、文夫さん、すぐにいくかも知れないわよ、と、銀子は狡猾そうな笑いを片頬に浮べていった。 美津子はふと動きを止めると、思い切って雁首を喉にまで吸い上げるかのようにぐっと押して出た。そして、雁首
  9701. のくびれに唇を巻きつけるように一気に引いて出る。それを、くり返すごとに生肉に巻きついた唇がその勢いでスパッ、スパッ、と音を出す。
  9702.  生肉を口から吐き出す度に美津子は狂気めいた喘ぎと一緒に文夫に悲痛な声を浴びせた。
  9703. 「文夫さんっ、いって。お願い。美津子のお口の中でいってっ」
  9704.  再びぐっと喉まで吸い上げて、素早くスパッと引き抜くと、
  9705. 「まだ、文夫さん。お願いだから、美津子のお口の中に出して頂戴!」
  9706.  銀子は文夫も遂に抜き差しならぬ頂上に追い上げられた事を察知して義子に、
  9707. 「文夫の猿轡を外してやんな。文夫にもいい声を聞かせて頂こうじゃないの」
  9708.  と、声をかけた。
  9709.  義子は文夫から唾液でべったり濡れたパンティの猿轡を引き剥がした。
  9710. 「ハンサム坊やのよがり声を一寸、聞いてみたいもんやな」
  9711.  猿轡が剥がされた途端、文夫はフーと大きく息を吐いてから、美津子さんっ、とひきつった声で叫んだ。
  9712. 「もう駄目だ。美津子さん、顔をのけてっ」
  9713. 「嫌っ、美津子のおロの中でいかなきゃ嫌っ」
  9714.  文夫も泣いている。美津子も泣いている。
  9715.  美津子は爆発寸前の白熱化した文夫の肉棒をあわて気味に口の中へ、深々と咥えこんだ。
  9716. 「さ、がんばらなきゃ、駄目よ、美津子」
  9717.  銀子と朱美は文夫の発射と共に美津子が吹き飛ばされるのを防ぐかのように、左右から美津子の汗ばんだ白磁の肩先に手をかけた。
  9718.  銀子が口早に美津子の耳元でいった。
  9719. 「口に流れ込んでくれば一気に飲んでしまった方がいいよ。口の中に残しておくと乾いたりした時、後で大変だからね」
  9720.  美津子は口中の生首のくびれを舌先で舐めさすりながらうっとりと眼を閉ぎしたままでうなずいている。
  9721. 「美津子さん、いいんだね。い、いくよっ」
  9722.  文夫は美津子の舌先の甘い感触に耐え切れず、麻縄を巻きつかせた上半身をぐっと後ろに弓反りにした。
  9723.  いいわ、文夫さん、うんと出して、いいわっ♢♢美津子は閉じ合わせた眼尻の開から熱い涙を滴らせて、胸の中で叫ぶようにいった。
  9724.  どうして、こんな汚辱の極地にあって、とめどなく涙が出るのか、美津子にはわからなかった。自分達のみじめさが哀しいのではなく、これで文夫と完全に身と心が溶け合った、という嬉し涙かも知れないと美津子は思った。
  9725. 「ああ、いくっ、美津子さん、いくっ」
  9726.  突然、文夫は幼児のように鼻を鳴らし、ガクガク全身を痙攣させた。
  9727. 「ああ、たまんないな、この可愛さ」
  9728.  そっと忍び寄っていた朱美が絶頂を極めた瞬間の文夫に抱きつき、両手で文夫の熱い頬を押さえこむ。さ、舌を吸ってやろう、と朱美は文夫の放心した半開きになった唇へ唇を押しつけ、のぞかせている文夫の舌を強引なばかりに強く吸い上げた。同時に堰を切ったように射精が開始され、文夫の左右に割れた太腿、内腿の筋肉が小刻みに慄えた。
  9729.  美津子にとってはその一瞬は息の根も止まるような衝撃であった。激しい勢いでなだれこんで来た熱い多量の体液が口中一杯に拡がった時は背徳の衝撃で気が遠くなりかけた。勢いの激しさもあって美津子の意志には関係なく文夫の熱い体液は美津子の舌先を通過して喉へ流れ込んでいく。脈打つように流れこむ体液はまた口中に拡がりかけ、窒息の苦しさを感じ思わず美津子は、中のものを吐き出そうとしたが、
  9730. 「駄目よ、美津子」
  9731.  と銀子は美津子の後頭部を押さえて脈打つ肉塊を口中から離す事は許さない。
  9732. 「文夫さんの心からの贈りものを無駄にしたらいけないわよ」
  9733.  全部、飲むのよ、吸い上げるのよ、と銀子は叱咤するようにいった。
  9734.  美津子は泣きながら必死になって吸い上げた。強烈な男の体液に蒸れた果物のような異臭を感じたが、必死になって飲み下すうちにそれも気にならなくなった。文夫の発作が終わっても美津子は口を離さず、カールされた黒髪を右に左に振りながら、チューチューと音をさせて吸い上げた。自分が何時の間にか人間の生血を吸う妖婦に変貌したように美津子は感じた。
  9735.  義子は文夫の放出した体液をほとんど余まさず吸い上げた美津子を見て、
  9736. 「うわ、やっぱり愛やねえ」
  9737.  と、感動したような声を出す。
  9738. 「よくやったわね、美津子」
  9739.  もうそれであなた、大変な成長を遂げた事になるのよ、といって銀子は美津子のしなやかな肩に手をかけ、ようやく口中の肉魂を離す事を許した。
  9740. 「どうだった。文夫さんの愛のジュースはおいしかった」
  9741.  と、早速、悦子やマリのからかいが始まったが、美津子は緊縛された裸身の背を桜の木の幹にもたれされ、茫然自失の状態に陥っている。そんな美津子の唇の端からはスーと一筋、白濁の男の体液が流れ落ち、ふと、それに気づいた銀子は、何かそこに凄艶な小妖精を見たような気分になった。
  9742. 「何だか、美津子。男のジュースをたっぷり飲んで急に色っぽくなったようね」
  9743.  
  9744.  
  9745.     猿の檻
  9746.  
  9747. 「さ、早く歩かないか」
  9748.  ズベ公達は、文夫と美津子の尻を面白そうに青竹でつついたりしながら、引き立てていく。
  9749.  文夫と美津子は、上体を前かがみにして、すすり上げながら、芝生の上を歩いていたが、後ろから、川田が、追いついて来て、縄尻を持つズベ公達にいった。
  9750. 「社長が、この若い夫婦のために、スイートホームを進呈しうと、おっしゃるんだ。地下室へ運ばず、一階の物置へ、しょっぴいて行きな」
  9751.  そういって、川田は、ちらと、身をすくませるようにしている文夫と美津子に眼をやると、ズベ公達にいった。
  9752. 「お前達は案外、頭がねえんだな。お坊っちゃんを、どこかへ引っ張っていく時は、こういう風にすれいいんだよ」
  9753.  川田は、義子がつかんでいる文夫の長い縄尻をナイフを出してぷっつり切ると、その縄を引き寄せ、腰をかがめた。
  9754.  うっと文夫は、川田のしようとする事に驚いて、上体をくの字に曲げ、尻ごみし始めたが、ズベ公達はキャッキャッ笑い合い、
  9755. 「わかったわ。あたい達がするわよ」
  9756. 「こりゃ傑作や」
  9757.  義子は、つないだ縄尻を手にしていきなり走り出す。ひっぱられて、苦痛に顔を歪めながら、義子の後について走り出さねばならぬ文夫。
  9758.  銀子も朱美も、手を叩いて笑い合ったが、そうだ、いい事があると、縄尻を手にして、そのへんを走り廻っている義子を手招きして呼んだ。
  9759.  美津子が、あっと叫ぶ間もない早技で、朱美は、前へ廻ると、キリキリと、縄を上へしめあげるようにしながら固く縄止めをするのだった。
  9760.  美津子に文夫をしょっぴかせるという銀子の着想に、川田もくすくす笑い出し、
  9761. 「成程、そいつは、いよいよもって傑作だ」
  9762. 「さ、美津子、歩きな。恋しい男をひっぱって、まるで、お軽勘平の道行きみてえじゃないか」
  9763.  美津子は、川田やズベ公達に、哄笑され、青竹で尻を叩かれつつ、屈辱を呑みこんでふらふら歩き出す。
  9764. 「ケツがすれると、痛いだろうから、ゆっくり歩いていいぜ」
  9765.  川田は美津子にそういって、ベソをかきそうな顔で 一歩二歩、歩き始めた文夫に向かって声をあげる。、
  9766. 「おい、お坊っちゃん。美津子について、しっかり歩かねえと、花嫁のケツがすり切れちまうぜ」
  9767.  チンピラも、ズベ公も、嘲笑しながら、美津子と文夫の周囲を取り巻くようにして、まるで、馬か牛を追い立てるようにして歩かせるのだった。ベソをかきながら、ひかれている哀れな文夫の姿がよほど気に入ったと見え、銀子は、歯をむき出すようにしていう。
  9768. 「これから、ショーのステージへ楽屋から出かける時は、何時もそういう風にして歩いていくのよ」
  9769.  やがて、美津子と文夫は、芝生の石伝いに縁先へ上り、長い廊下を奥の物置に向かって歩かされていく。
  9770.  昼間の妙にガランとした物置に二人を追いこんだズベ公は、後からやって来た森田と田代の指示で、部屋の隠にある鉄格子で作られた檻を中央へ引きずり出して来た。
  9771.  畳一畳ぐらいがやっと入るぐらいの広さしかない四角い檻であり、四つの車輪がついていて、自由に動かせるようになっている。それを、よいしょ、よいしょ、と掛声をかけて部屋の中央へズベ公とチンピラ達は配置したのであるが、田代は、満足そうにそれを眺めていった。
  9772. 「昔、この檻の中に、牡と牝の猿を飼ってたんだが、愛し合いすぎちゃってね、去年、二匹ともくたばったよ」
  9773.  ズベ公達は、ゲラゲラ笑う。
  9774. 「せっかく作った猿の檻を、こう何時までも遊ばせておくのは勿体ない。君達のスイートホームに、どうかと思うんだがね」
  9775.  美津子と文夫は、ふと、眼の前に、引き出された鉄の檻を見て、びくっと体を震わせたようである。
  9776. 「フフフ、一寸、狭すぎるようだけど、熱烈に愛し合う二人には、かえって、この方がいいんじゃない」
  9777.  銀子は、慄然として、尻ごみし始める美少年と美少女を面白そうに見ていった。
  9778.  鉄の檻は、一人で入るのがやっとの幅、しかも、高さは一米ほどしかなく、中腰にでもならなければ、とても入れない古びた猿の檻であった。
  9779.  川田も含み笑いしていった。
  9780. 「ショーのスターにとって、これは、おあつらえ向きのスイートホームだと思うぜ。この中じゃ嫌でも抱き合って寝るより仕方がねえだろう。お互いに、演技も自然に勉強し合える事になるってものだ」
  9781.  何時の間にか、美津子と文夫は、ぴったりと寄り添っている。屈辱に歯を噛みしめている文夫の肩に、美津子は、額を押しつけるようにして、小さく、すすり泣いているのだ。
  9782. 「フフフ、まあ、御夫婦仲のよろしいこと」
  9783.  朱美が舌を出すようにしてからかった。
  9784.  緊縛された身を寄り添わせて、震えつづける美しい二人に、好奇の眼を向けていたズベ公達は、互いに眼くばせをし合って、近づいて行くと、
  9785. 「さあ、中へ入って入って。鬼源さんの調教は、夕方六時から。それまで、ゆっくり、くつろぐがいいわ」
  9786.  二人の肩に、手をかけたズベ公は、そのまま、押し立てて行き、一人が、田代より、鍵を受け取って、鉄格子の扉にかかっている錠前をガチャガチャ動かし始める。
  9787. 「ま、馴れれば、檻の中も住みいいものさ。狭いながらも楽しい我が家っていうじゃないか」
  9788.  川田は森田と顔を見合わせてニヤニヤ笑った。
  9789.  扉が開き、美少年と美少女は、強引に鬼女達に押しこまれようとする。
  9790. 「ま、縄ぐらい解いてやれよ。それじゃ、抱き合う事も出来ないじゃないか」
  9791.  田代がいった。
  9792.  川田や森田も手伝って、まず文夫の縄を解き、有無をいわさず檻の中へ突き飛ばす。続いて、美津子もチンピラ達の手で、後手に縛り上げられていた縄は解かれたが、そのまま檻の中へ、背や尻を押されて、押しこめられてしまうのだった。
  9793.  文夫一人でも身体をななめにして、やっと入らねばならぬという狭い檻の中へ、無残にも強引に、美津子まで押しこめてしまうという田代やズベ公達。
  9794. 「フフフ、美津子奥様。うんと旦那様に甘えるがいいわ」
  9795.  悦子がそういって、狭い桂の中で、ぴったりと身体をくっつけ合っているような二人に声をかけ、鉄の扉を閉めようとすると、川田が、ちょっと、待ちな、といって、隅の方へ行き、下卑た笑いを口元に密かべて、手に、古びた洗面器を持ち、戻って来た。
  9796. 「猿とは違って、おめえさん達は、教育を受けた紳士淑女だ。たれ流しは困るぜ。こいつを共同で使ってくんな」
  9797.  そういって、川田は、檻の中へ、ポイと洗面器をほうり投げる。憎悪のこもった瞳を、一瞬、川田の方へ向けたが、すぐ、それは、悲しみに打ちひしがれ、二人は、互いの肩に顔を埋め合うようにして、鳴咽するのだった。
  9798.  バタンと扉は閉められ、銀子が錠前に鍵をかけた。
  9799. 「フフフ、今日から、そこがあんた達の暮すお家よ。好きな者同士、一日中、くっつき合って暮せるなんて、うらやましい位だわ」
  9800.  銀子がそういうと、朱美も鉄格子につかまって中をのぞきこみながら、
  9801. 「でも、あんた達、ただ、いちゃつき合ってるだけじゃ駄目よ。ショーのスターである事を忘れず、調教のない日でも色々二人で研究し合うのさ。そのために、こうして、一緒にしてやってるんだからね」
  9802.  森田が、ポケットの中から、人形の絵が矢鱈に書いてある怪しげな本を取り出して、鉄格子の間から中へ投げこんだ。
  9803. 「閑があったら、そいつを二人で読んで研究するんだな」
  9804. そして、天井を見上げて、
  9805. 「夜でも昼のように明るくなるよう、電気はこうこうとつけておいてやるからな。たまには徹夜で勉強する事だ」
  9806.  文夫と美津子は、そんな森田の言葉のいたぶりも耳に入らぬようただ身を寄せ合い、肩を震わせて泣きじゃくっているだけである。
  9807.  森田は、傍で、舌なめずりをするようにして、鉄格子の中をのぞきこんでいる竹田と堀川にいった。
  9808. 「おい、おめえ達は、洗面器の係だ」
  9809.  え、と一人のチンピラは頓狂な顔をする。
  9810. 「何をすっとぼけた顔をしてやがる。てめえ達は、朝と夜の二回、檻の中の坊っちゃん嬢ちゃんがたれ流したものの始末をするんだ。わかったかい」
  9811. 「へえ」
  9812.  竹田と堀川は、眼をパチパチさせたが、すぐニヤリとして、檻の中に向かっていう。
  9813. 「洗面器は一つしかねえんだ。二人喧嘩せず、仲良く使うんだぜ」
  9814.  ズベ公達が、どっとわいた時、小さくドアを開けて入って来たのは、卑屈な笑いを口元に浮かべた鬼源である。
  9815. 「よう」
  9816.  と、田代は、鬼源を手招きし、檻の中を指さしていう。
  9817. 「若い夫婦のために、住む家を提供してやったんだ。これから、しっかり調教の方は頼むぜ、鬼源さん」
  9818.  へえ、と鬼源は頭を下げ、檻の中の二人に眼を向けると、調教師になった時のけわしい顔つきになって、どすのきいた声を浴びせかける。
  9819. 「いいか。調教は夕方六時から、十時まで、こってり絞りあげるから、その気になるんだぜ。俺は、お前達を完全なプロにするための調教をするんだ。昨日のような、みっともねえプレイをしやがると、只じゃおかねえからな。それに明日は大切なお客人が来るんだ。大いにはりきって仕事しなきゃいけねえぜ。わかったな」
  9820.  文夫と美津子が、メソメソしているのが気に入らないのか鬼源は、側に落ちていた青竹を取ると、鉄格子の中へ、それを差しこんで、二人を激しく突きまくり、
  9821. 「人が説明している時に、その態度は何でえ」
  9822.  と大声で叱咤するのだった。
  9823.  田代も森田も、普段とは人が変って調教する鬼源を再認識したように唖然とした顔つきになる。
  9824. 「さすがは鬼といわれるだけあって、調教する時はすさまじいもんだな。眼つきまで変るじゃないか」
  9825.  と森田がいうと、ふと鉄格子の方から眼を離し青竹を投げ捨てた鬼源は、普段のえへらえへらとした間抜け面に戻っているのだった。
  9826. 「そりゃ、わっしにとっちゃ、これが商売なんですからね。仕事となりゃ真剣になりまさあね。でもね、この真剣さのおかげで、ようやく、あの気位の高けえ静子夫人も、とうとう、この道のプロに近づいて来ましたぜ」
  9827.  と、鼻をむずむずさせていうのだった。
  9828.  ほほう、田代も、鼻にしわを寄せる。
  9829.  鬼源は、明日は、いよいよ大物の前で、ショーを演じるわけだから、今日は最後の追い込みにかかるべく、朝早くから、徹底した調教をほどこしたという。
  9830. 「あの塗り薬がきいたんでしょうね。もたつきやがると、あれを塗りこむぞとおどかしたんで、とうとう何でも、こちらのいいなりになってしまいましたよ。昨日までとは見違えるような進歩ですぜ」
  9831.  田代は、ふんふんと楽しそうに聞いていたが、
  9832. 「明日は、あの奥さん、日本妻にして、時代劇を演ずるという事じゃないか」
  9833. 「そうなんですよ」
  9834.  と、鬼源は、顔中しわだらけにして、
  9835. 「千代夫人がさっき、豪華な和服と鬘を持って来て下さったんです」
  9836. 「なんだ、もう到着したのかい。静子夫人に対しては、大変な肩の入れようだな」
  9837.  田代も森田も、笑いながら、煙草に火をつけた。
  9838. 「それで、千代夫人にも手伝って貰って、静子夫人を日本調に仕上げてみたんですが、おどろきましたね。色っぽいの何のって、水もしたたる美人とは、ああいうのをいうんでしょうね」
  9839.  鬼源の形容によると、歌舞伎の舞台に立った山本富士子よりも、色っぽく美しく見えたというのである。
  9840.  それを聞くと、田代達もズベ公達も、一斉に興味をそそられて、じゃ、今から、拝見に行こうじゃないか、と賑やかになったが、鬼源は、まあまあそれは明日のお楽しみだ、と笑いながら皆を制し、
  9841. 「ま、最後まで聞きなよ。とにかく、あんまり美しいんで、千代夫人と俺とは長い間見とれていたんだが、じゃ、外国調にするとどうなるかと思って、今度は千代夫人がついでに借りて来たミュージックホールの衣裳をつけさせてみたんだ。それが、また、どうしようもねえぐらいに美しい」
  9842. 「まあ、何でもいいから、とにかく見せておくれよ」
  9843.  と、銀子は、感にたえないといった顔つきで、まだ何かしゃべろうとする鬼源を押し立てるようにして、どっと表へなだれ出した。
  9844.  
  9845.  
  9846.     舞台衣裳
  9847.  
  9848.  三階の調教室を開けた途端、田代達も、ズベ公達も、あっと小さく叫んで立ちすくんでしまった。
  9849.  ちょうど、調教室の中央の床に、自や青や銀色の豪華で優美な鳥の羽根に包まれた眼もさめるような美女が立っていたのだ。それが静子夫人である事は、すぐにわかったが、何という絢爛な美しさだろう。
  9850.  純白の長い鳥の羽根を、艶やかにウェーブのかけられた髪の上へさし、肘まである純白の手袋をはめた手には、やはり鳥の毛で出来た大きな舞扇を持っている。
  9851.  そんな姿にされている静子夫人を、すぐ傍の椅子に坐って、悦に入って眺めているのは千代である。フランス人のストリッパーが看ていた衣裳を夫人につけさせて、その変化を興味本位で鑑察していたのであった。
  9852.  ストリッパーが舞台のフィナーレで着る衣裳であるだけに壮大華麗な色とりどりの羽根に全身を包まれているものの、仔細に見れば銀色にピカピカ光るビキニパンティのようなものを腰につけ、見事に盛り上った乳房といい美しいカーブを描く腰のくびれ、臍の形、そして、脂肪のしぶきで光る肉づきのいい太腿といい、もしこれが本物の踊り子とするなれば恐らく日本一と折紙をつけられるに違いない美しい見事な肉体、そして、美しい容貌であった。
  9853.  千代が凝然と声を殺し、眼をこらしている銀子達を見、口元を歪めながら、華麗な踊り子に化した静子夫人に向かっていう。
  9854. 「お客様がおいでになったわよ。御挨拶をして、くるりと一回転してみてごらん」
  9855.  静子夫人は、伏眼がちな美しい眼を心持下げるようにして、羽毛の舞扇を開いたり、つぼめたりしながら、静かに一回転していく。
  9856.  尻尾にあたる巨大な数本の羽根が、ひらひら揺れながら、見守っている銀子達の頬をなでるようにして通り過ぎていくのであった。
  9857.  このような絢爛な美しさを持つ静子夫人を日夜、京子とプレイさせたり、その他、数々のむごい責めにかけているのかと思うと、宝石を汚水でこすっているようにも思え、ふとズベ公達にも後悔めいた気が走るのだったが鬼源は、どんなもんです、といわんばかり、田代や森田の顔を見上げて、
  9858. 「こんな美人が、踊りながら、全ストになり開陳サービスするってことになりゃ、見てる者は卒倒せんばかりに喜びますぜ」
  9859.  たしかに、その通りだ、と田代は、口の中でいい、絵から抜け出たような美しい夫人を眺めつづけているのだった。
  9860. 「おや、大分、遊びすぎて時間を喰っちゃったぜ」
  9861.  鬼源は、腕時計を見て、舌を鳴らし、
  9862. 「夜は美津子達の調教があるんだ。さ、早いとこ練習にかかろうぜ」
  9863.  鬼源は、そういいながら、千代と一緒に、夫人の体を包んでいる美しい羽根を一本一本抜き取っていくのであった。千代は、ずっとこうして、鬼源の仕事を手伝っているようであを。
  9864. 「一体、これから、何の調教が始まるというんだね」
  9865.  田代が何とも、この場から立ち去り難いといった気分になって、鬼源に尋ねると、鬼瀬は、へへへ、と小さく笑い、
  9866. 「果物切りですよ。普通に切って落とすのはどうやら、出来るようになったんですがね。今日は細かく切り刻むってやつでさあ。こいつが出来ねえと、まだプロとはいえませんからね」
  9867.  頭の羽根も尻尾の羽根も抜き取られ、ピカピカ光る銀色のビキニパンティ一枚の姿にされてしまった静子夫人の柔軟な白い肩に、千代の手がかかる。
  9868. 「さ、奥様、参りましょう」
  9869.  静子夫人は、千代に優しく肩を抱かれるようにして、見事な二つの乳房を両手で押さえながら、ゆっくりと歩き出すのであった。
  9870.  床の上に白墨で円形が書かれてある所へ、夫人は、千代に伴われて進み、その円の中へ足を踏み入れる。つまり、そこが切るための調教を受ける決められた舞台になっているらしかった。長い鎖が一本、天井から、垂れ下がっている。
  9871.  鬼源が、隅から、ロープを肩にかけ近づいて来ると、
  9872. 「さ、稽古にかかるぜ」
  9873.  と、夫人の背を軽くつつくと、夫人は、今まで胸を押さえていた手をといて、静かに後ろへ廻していくのであった。
  9874.  鬼源は、手に唾して、夫人の後ろへ廻りこみ、背中へ夫人の両手首をぐいと押し上げると、ひしひし縄がけし始める。千代も伝って、キリキリ縄尻をひきしぼり、固く緊縛していくのであった。
  9875.  千代は、鬼源の仕事の手伝いをするのが楽しくてたまらぬようである。千代は、夫人を縛った縄尻を天井から垂れ下がっている鎖につなぎ止め、部屋の隅へ行って、木で出来ている歯車をガラガラ廻し出す。すると、鎖はピンと張りきり、静子夫人は、白い線で書かれた円の上に光ったまま、全身は一本の白い柱になったように身動きもならず、のびきって立つのであった。
  9876.  田代、森田、川田、それに銀子達、ズベ公グループが、どやどやと近寄ってくる。
  9877. 「何だか、このまま、引き下がる気がしなくなっちまったよ。一つ、鬼源さんの調教ぶりを拝見させて頂こうじゃないか」
  9878.  田代はそういって、立ち縛りにされている静子夫人の前へ、どっかとあぐらを組んで坐りこむ。
  9879. 「ごらんになりたいんですか。じゃ、一つ、観覧料を払って頂きましょうか。いや、これは冗談冗談」
  9880.  鬼源は頭に手をやって、ふざけて見せる。
  9881.  そして、鬼源は、美しい顔を横へそらせたまま、口をつぐんでいる静子夫人の顎に手をかけて、ぐいと顔を正面にこじ上げる。
  9882. 「よう、奥さん、社長がわざわざ俺の調教を参観においで下さったんだ。ここにお集まりの皆様を明日のお客さんだと思って、一つ、リハーサルをやろうじゃないか」
  9883.  鬼源は、今まで俺から教わった芸を、調教に入る前、ちょっと皆様に彼露してみろと、夫人にいうのだったが、夫人は、頑なに唇を結んでいるだけなので、急に鬼源はがらりと態度を変え、
  9884. 「おい、甘ったれるねえ」
  9885.  とどなるや、夫人の頬に平手打ちを喰わせたのである。
  9886. 「あっ」
  9887.  と悲鳴をあげて、顔をのけぞらせる静子夫人に向かって、鬼源は歯をむき出すようにして、更につづける。
  9888. 「お客人達に対して、黙りこくっていちゃ駄目だと、あれ程いったのにわかんねえのかよ。いいか、客は高い金を払って来るんだ。一にも二にもお客に対しては、お色気サービスを盛るんだ。口が酸っぱくなるほど、俺は教えてやった筈だぜ」
  9889.  居丈高になって、なおも夫人の頬を打とうとする鬼源であったが、それを千代は、押しとどめて、
  9890. 「いけないわ、鬼源さん、そんな乱暴するもんじゃないわよ。やっぱり身内の人ばかりだけに、照れくさかったのよ、ねえ、奥様」
  9891.  千代は、ホホホ、と口に手をやって笑いながら、今にも、わっと泣き出しそうな表情の静子夫人の肩に手をかけるようにしていうのである。
  9892. 「お茶にしろ、お花にしろ、何でもお出来になった奥様じゃありませんか。こんな事にしたって、プロになる素質は充分にあると鬼源さんはいってるんだから、あとは、奥様の努力次第。ね、さあ、また、あの塗り楽を使われちゃ大変。早く先生にお詫びして、お客様を楽しい気分にさせてあげて下さいな」
  9893.  先生とは、鬼源の事である。鬼源は、調教を受ける静子夫人や京子達に、自分に対しては先生と呼ぶように強要していた。日本一のこの道の調教師である、いわば、誇りというものを持っているからか。
  9894. 「悪うございました。気をつけます」
  9895.  静子夫人は、鬼源に対し、かすかに頭を下げ、詫びるのであった。
  9896.  静子夫人は、鬼源の徹底した調教を身にも心にも、嫌というほど受けたためか、人間的な感情は喪失してしまったよう、以前のように激しくあがきもしなければ泣きもしなかった。調教師鬼源にすべてのものを任せてしまったような心境になっているのであろう。
  9897. 「先生といわねえか、先生と」
  9898.  鬼源は、いらいら調子でいう。
  9899.  周囲を埋めているズベ公達の聞から、クスクス笑い声が起こった。
  9900. 「♢♢先生、悪うございました。今後気をつけます」
  9901.  静子夫人が美しい眼を悲しげにしばたいてそういうと、鬼源は満足したようにうなずき、田代の方を向く。
  9902. 「へへへ、わっしゃ、先生なんですからね。どうぞ、よろしく」
  9903.  そして、鬼源は、田代、森田、川田の三人を手招いて静子夫人の周囲に寄り添わすように立たせる。
  9904. 「明日来る客だって、どうせ助平な人達でしょうからね。貴方達三人、その客になったつもりで、色々このスターをからかったり、冷かしたりしてみておくんなさい。それに対して、一つ一つ受け答えが出来ねえと、この道のプロとはいえねえわけです。それがすんでから、鬼源流のすさまじい調教を、お眼にかけますよ」
  9905.  鬼源は、そういって、傍の単の上に乗っている果物籠をとり、よく熟れた黄色い果物を数本とり出して、夫人の足元へ無雑作に投げ出すのであった。
  9906.  
  9907.  
  9908.     スターの心得
  9909.  
  9910.  酔客にからまれた時、この種のショーのスターとして、それを上手にさばき、かつ、相手を楽しい気分にさせる方法、などと、鬼源は奇妙な事をいい出し、静子夫人に、からみつく客、つまり、田代、森田、川田の手にグラスを持
  9911. たせ、ウイスキーを注いでやったりするのである。
  9912. 「♢♢まあ、女の齢なんて、お聞きになるものじゃありませんわ」
  9913.  静子夫人は、口元に微笑を作り、艶然とした眼で、田代を見ながらいった。
  9914.  田代が、妙に気取った言い方をわざと作り夫人の齢を聞いたのだ。
  9915. 「ああ、いい匂いだ。たまらないね」
  9916.  森田が、後ろから、夫人の乳白色の肩のあたりから、艶やかなうなじにかけて、犬のようにクンクン鼻を鳴らし、顔をこすりつけている。
  9917.  夫人は、そのくすぐったさに、美しい眉を寄せるのだったが、前面の方では、川田が、
  9918. 「ねえ、君、こんな、すはらしい体をしているのに、どうして後手に縛られているんだ。何か、悪い事でもして、お仕置されているのかい」
  9919. 「♢♢ええ、私♢♢男の人をすぐ誘惑したがる悪いくせがあるの。一人でいる時なんか淋しくて、ひとりでに手が♢♢」
  9920.  夫人は、鬼源にムチ打たれるようにして、教えこまれた言葉を口ごもりながら、それでも必死になって口に出して
  9921. いる。額には、べっとり脂汗が浮かんでいるのだ。
  9922. 「♢♢そ、それで、私の主人が、両手の自由を奪ってしまったのですわ」
  9923. 「そうかい。それで、こんなピカピカするものを、腰にはかされたって、いうわけなんだな」
  9924.  川田は田代の顔を見て、含み笑いしながら更に夫人の耳元に口を寄せて、小さくいうのだった。
  9925. 「僕はね、そういう女性に、すごく興味があるんだよ。一度、全部見せてもらえないかな」
  9926.  川田は、幾度も、この調教部屋へやって来て鬼源にこうしたことのアイデアを提供した男であるから、今行っているやりとりは、夫人相手に何度も、練習を行ったものと思われる。つまり、明日、果物切りのショーが行われる前座として、川田がサクラで酔客をやり、ステージの上に立っている夫人にからみつく事になっていたわけだ。という事を鬼源は、見物席に坐って、くすくす笑っている銀子に教えている。
  9927. 「なかなか川田さんって、頭がいいわね。たしかに、これ客に受けるわよ」
  9928.  銀子は、ギラギラ光る眼を舞台の川田と静子夫人に向けて、うなずくようにいうのである。
  9929. 「ねえ、いいだろう。こんなものひと思いに取っちゃおうよ」
  9930.  川田は、きらめく銀色の布を指でつついていうのだった。
  9931. 「♢♢嫌、嫌、そんな事♢♢」
  9932.  夫人が首を振っていった時、鬼源がついと立ち上って声をあげた。
  9933. 「だめだ。もっと気分を出して、尻をもじもじさせながらいうんだ」
  9934.  静子夫人は、はい、とかすかにうなずき、川田の視線に、羞恥のにじんだ切長の美しい瞳を合わせながら、ゆるやかに首を振り、尻を振るのだった。
  9935. 「♢♢、嫌、そんな事♢♢いけませんわ」
  9936. 「どうしてだ。僕みたいに感じの悪い客には見せられないっていうのかい」
  9937. 「そ、そうじゃありませんわ。だって、これから私、お目にかけなければならないでしょう。その時、嫌という程、ごらんになれるじゃありませんか」
  9938. 「待ち切れないんだよ。ね、頼むよ」
  9939.  川田の一人芝居になった感じで、田代と森田は、照れくさそうに顔を見合わしながら、煙草を口にして一服し始める。
  9940. 「それはどまでに、おっしゃるなら♢♢」
  9941. 「いいんだね」
  9942. 「♢♢でも、一つだけ、お約束して♢♢おいたはなさらないと」
  9943. 「うん、約束するよ」
  9944. 「じゃ、お約束のキッスして。お願い」
  9945.  夫人は、うっとりと眼を閉ざし、心持ち唇を突き出すようにするのだった。
  9946.  熱烈な川田の接吻を受けた夫人は、ふと唇を離すと、切花のような初々しい羞恥の眼差しを川田に向けながら、
  9947. 「すべてを、お任せしますわ。お好きなようになさって頂戴」
  9948.  夫人は、羞らいの微笑を口元に浮かべ、ふと川田から視線をそらす。
  9949.  川田は身をかがめて、もそもそ手を動かし始めた。
  9950.  殺気に充ちたような川田の眼を痛いばかりに全身に感じ、と同時にスーッと身内に走る悪寒を感じて、夫人は眼を伏せたが、次を続けなければ、恐ろしい鬼源が何をしでかすかわからない。
  9951.  夫人は、そっと眼を開いたが、川田だけではなく、田代や森田まで、しゃがみこむようにして、眼を近づけ合い、何か話し合って、笑いこけているのだ。
  9952.  どうして男はこうも、執拗に、深究したがるのか、夫人は不思議な気持になった。
  9953. (ああ一日でもいい。このみだらな地獄から抜け出て、青空の下を歩いてみたい)
  9954.  ふと、そんな気持になった静子夫人は、悲しげな瞳を横へ向けたが、その時、鬼源のガラガラ声がひびき渡る。
  9955. 「何をぐずぐずしてやがるんだ。塗り薬を持って来てもらいてえのかよ!」
  9956.  ハッと我にかえった静子夫人は、再び、川田達の方へ視線を戻すのだった。
  9957. 「嫌、嫌……そんなに、ごらんにならないで♢♢」
  9958.  川田達は、そっと手をのばしかける。ハッと腰をひいた夫人は、悲しげな視線を三人の男達に向けて、嫌、嫌と首を振るのだ。
  9959. 「駄目、駄目ですわ。おいたは、なさらないというお約束だったでしょう」
  9960.  そうだったね、と川田は、薄笑いを浮かべて立ち上ると、夫人の背後へ廻り、
  9961. 「僕の職業はね、乳揉み、マッサージ、と看板をかかげたつまりアンマなのさ。すごくよくきくと世間のご婦人方には好評なんだよ。はっきり見せて頂いたお礼に、マッサージをしてあげるのさ」
  9962. 「卑、卑怯だわ」
  9963. 「どうだい、そら、よくきくだろう」
  9964.  静子夫人は、歯を噛み鳴らし、川田に小声でいった。
  9965. 「お、お芝居なんでしょう。駄目よ、そんな事しちゃ。離して、ね、川田さん」
  9966.  鬼源やニヤニヤして眺めている見物人達には聞こえぬように早口で夫人はいったのだが、
  9967. 「ちょっと、芝居に調子が出て来ただけの話さ。ブツブツいわず、芝居を続けねえと鬼源が怒り出すぜ」
  9968.  ああ、と静子夫人は、艶やかな白いうなじを大きく見せて首を後ろへのけぞらせた。得体の知れない切なく甘ずっぱいものが身体の内部から、じわじわと、こみ上って来たのだ。
  9969.  さ、続きを始めるぜ、と川田は、小さく唇を開いて、熱い息を吐き出した夫人の耳元にささやき、次に声を大きくした。
  9970. 「ね、僕は、女の肉体てものについて、今、研究中なんだけど、君に、少し聞いてみたい事があるんだ。ここは何というんだね」
  9971.  夫人が、白い歯を見せて、あえぎつづけているだけなのを見た鬼源がどなる。
  9972. 「おい、お客の質問に、どうして答えねえんだ」
  9973.  夫人は、わなわな唇を震わせるようにしていう。
  9974. 「そ、それは♢♢おっぱい」
  9975. 「じゃ、これは」
  9976. 「お、おへそ♢♢」
  9977.  静子夫人は、ウェーブのかかった黒髪をパッと振りはらうようにして、うめくようにいった。
  9978.  森田に代って、田代が夫人の前に腰をかがめた。
  9979. 「ほう。何でも、『お』がつくんだね。じゃ、ここもそうかい」
  9980.  静子夫人は、一瞬、ビクと体を震わせ、眉を八の字に寄せ首をねじ曲げるようにした。
  9981. 「さ、教えて頂こうか。はっきりと大きな声でね」
  9982.  静子夫人の苦悶する美しい顔を見上げていう。
  9983. 「♢♢女の、女の私に、そんな所を、口に出させていわせようとなさるの。あ、あんまりだわ」
  9984.  静子夫人は、やっと、そこまでいい、上気した顔をあげて、鬼源の方をみた。鬼源と川田に、見物人達を喜ばせるための、前座芝居として教えこまれたのは、ここまでである。このあと、鬼源がやって来て、サクラになっている川田は、見物席へ戻り、鬼源が代って、その名はいえないと私が対決致します、という口上があり、夫人は愚劣醜悪な芸を彼露するという事になっている。だから、鬼源が川田と交代すれば、今までよりもっと痛烈な恐ろしい、辛さと羞ずかしさに立ち向かわねはならないわけだが、夫人にとって、何よりもがまんのならない責めは、こうして、卑劣な男達と言葉の応酬をし、歯の浮くような甘ったるい色気を意識的に発散しなければならない事であった。むしろ、鬼源に、大声で号令され、ムチ打たれ、芸を強制される方が、少しは救われる思いである。
  9985.  ところが、鬼源は、故意かまことかわからないが、急に立ち上り、
  9986. 「何だか、腹が痛くなってきた。すまねえがもうしばらくこの場をつないでくんな」
  9987.  と川田にいうのである。
  9988.  よし、まかしときな、と、川田は、ニヤニヤしながら、
  9989. 「さ、俺達と呼吸を合わし、ハキハキ返事するんだぜ。さもねえと、塗りこむからな」
  9990.  社長、続けておくんなさい、と川田にいわれて、
  9991. 「どうしても、聞きたいんだよ。さ、はっきりいってごらん」
  9992. 「♢♢そ、そこは、女として、死んでも口に出せない所ですわ」
  9993.  静子夫人は、すすり泣くようにしている。
  9994. 「となると、いよいよ言わなきゃならんな」
  9995.  と森田も田代の横に身をかがめ、すすり泣く静子夫人を眼を細めて見上げながら、
  9996. 「いいかい。それは、元遠山隆義の妻、静子、二十六歳の熟れきった何々でございます、とはっきりいうんだ。これ以上、手間をとらすと、例の薬を使わにゃならなくなるぜ」
  9997.  静子夫人は、どうしようもなくなったようにがっくり首を垂れ、肩を震わせて鳴咽する。
  9998.  川田は、ふと、夫人の耳元に口を寄せる。
  9999. 「つまらねえことで、手間をとらすんじゃねえよ。このあと、きざみ切りの調教があったりして、お前さんは、忙しい身なんだぜ。さ、早くしねえか」
  10000.  もう嘆き悲しむ事すら無駄と知ったのか、夫人は、涙を振り払うように、二、三度首を振り、きっと顔を正面に向けた。黒眼がちに澄んだ瞳は濡れた雨後の月光のような輝きを見せ、それは夫人のこの地徹で生き貫こうとするはっきりした決意を示すものだったのである。
  10001. 「ごめんなさい、川田さん。我儘をまたいっちゃって」
  10002.  急に生まれ変ったように、涙を振り切った夫人の態度に、川田は、ふと薄気味悪くなったよう。
  10003. 「へえ、そういう風に、素直に出てくれりゃ俺達も大助りだ」
  10004.  静子夫人は、美しい瞳を川田の方へそっと向け、口元に淋しい微笑を浮かべていう。
  10005. 「私はもう人間じゃないんですもの。今日限り、私は、はっきり考え方を変えますわ」
  10006. 「よくいって下さったわ。奥様」
  10007.  先程から、近くの椅子に坐って、川田と夫人のやりとりを眺めていた千代が乗り出してきた。
  10008. 「そうよ。私も早く奥様がその気になって下さるのをお待ちしていたんですわ。もう奥様は遠山家はおろか、世間とも永久にお別れをなさったようなもの。森田組の皆さんに可愛がられて一生を送る事を考えて下されば、それでいいのよ」
  10009.  そういって、千代は、夫人の眼尻についている涙の滴をハンカチでふきとって、
  10010. 「じゃ、奥様、社長や親分が、望んでいらっしやる事、いって頂けますわね」
  10011.  静子夫人は悲しそうな影のさす瞳にふとなったが、すぐに気持をとり直すように、
  10012. 「何でも、おっしゃる通り、致しますわ」
  10013.  それじゃ、と森田が、半分は静子夫人のそうした決心をテストする興味にかられて、
  10014. 「ねえ、奥さん、一体、こりゃ何ていうものなんだよ」
  10015.  
  10016.  
  10017.     バラ夫人
  10018.  
  10019. 「元遠山隆義の妻、静子、二十六歳の♢♢」
  10020.  静子夫人は、何か遠い所でものぞむように物悲しげに眼を細めながら、唇を開くのであった。
  10021. 「おっと、どうしたんだい。ひと思いに、いっちまいな。気持がすっとするぜ」
  10022.  さすがに、言葉を出しかねて、ふと、口ごもる静子夫人に対し、川田は、唇を舌でしめしながらいうのである。
  10023. 「ああ♢♢」
  10024.  静子夫人は、思わず眼を閉ざす。
  10025. 「聞こえねえぜ。もっと、大きな声で」
  10026.  森田が、髪の毛をひっぱり始めた。
  10027. 「……でございます」
  10028.  静子夫人は、乳白色の首筋まで、燃えるように赤く染めて、顔を横へそらせた。その瞬間、室内が揺らぐような艶めかしい色気が、夫人の身体全体から、発散されるのが感じられた。
  10029.  ズベ公もチンピラ達も、どっと拍手をして囃したてる。
  10030.  川田は、得意顔になって、夫人の眼を自分の方へ向けさせる。
  10031. 「へへへ、いってみりゃ何でもねえことだろう。これからは、ただ、されるままになってるだけじゃなく、見物のお客様を楽しい気分にさせなきゃいけねえぜ。わかったな」
  10032.  静子夫人は、その憂いを帯びた美しい瞳に羞恥の感情を朧夜のようにかすませて、かすかにうなずくのであった。
  10033.  川田は、ぞくぞくした気分になり、
  10034. 「じゃ、もう一度、はっきりいってごらん、これは、静子の何という所なの」
  10035.  夫人は、川田のリードにつられたよう、うるんだような、艶めかしい瞳を川田に注いで鼻を鳴らしたのである。
  10036. 「うん、意地悪。女に、そう何度も羞ずかしい言葉を口にさせるもんじゃありませんわ。よくご存知のくせに 」
  10037.  それを見つめている鬼源は北叟笑む。とうとう静子夫人が、こちらに一つ一つ強要されるまでもなく、自分の方から色気をふりまくようにして、相手とやりとりを始め出したので、鬼源はほっとした気分になったのである。知性と教養にあふれた、大財閥の美しい令夫人であっただけに、たしかに鬼源は手こずり、手を焼いた事に違いないが、その努力が、ようやく報いられたという気持なのだ。
  10038.  銀子が、鬼源の肩をつつき、彼の手にグラスを渡して、ウイスキーを注いでやる。
  10039. 「鬼源さん、とうとう静子夫人、本物になってきたようね。あなた、大手柄だわよ」
  10040.  銀子にそういわれて、鬼源は満更でもない顔つきになり、うまそうに、ウイスキーを飲むのだった。
  10041.  舞台では、川田がいい気持になって続けている。
  10042. 「奥さんの口から何度も聞きたいんだよ。さあ、もう一度、いってごらん」
  10043. 「ひどい方、それはね、静子のね♢♢」
  10044.  静子夫人は、言葉を口にするたびに美しい頬を羞恥に歪め、身をなまめかしく、くねらせる。
  10045. 「さて、そろそろ調教にかかろうか」
  10046.  鬼源は、頃はよしと見て立ち上った。
  10047.  のっそりと近づいてくる鬼源に気づいた夫人は、足元に先程からしゃがんだまま、さすったり、つついたりして、ウイスキーを飲み合っている田代と森田にいう。
  10048. 「さ、もう、おいたは、おやめになって。これから、とても面白いものが、ごらんになれますのよ」
  10049.  二人の悪魔に対し静子夫人は、柔らかい紙に包むような口調で静かにいったのである。
  10050.  田代と森田は何か未練げに立ち上り、そのあたりに散らばっている果物を拾い集める。
  10051.  森田は、両手にかかえた果物を夫人の眼の前へ突き出すようにして、
  10052. 「これを使ってのショーなんだね。どうだね俺達にやらせてくれないか」
  10053.  銀子や朱美は、静子夫人が、それに対しどういう風に受け答えするか、好奇の眼を光らせている。
  10054.  静子夫人は、しばらく、森田から視線をそらし、唇を噛んでいたが、ふと、気を取り直したように、妖艶なばかりの笑みを口元に浮かべていった。
  10055. 「でも、今は、鬼源先生にお稽古をつけて頂く時間ですもの。ですから、ね、これがすんでから。いいでしょう、お待ちになっていて」
  10056.  森田は、ごくりと唾を呑みこんだ。明らかに官能を昂ぶらしている。
  10057. 「よし、じゃ、どこか静かな部屋を用意しておくからな。社長や川田達三人で、もう一度ゆっくり稽古をつけてやるぞ。俺にも約束がわり、キッスしてくんな」
  10058. 「へへへ、お楽しみ中、恐縮ですが、そろそろ仕事にかかりたいんで」
  10059.  鬼源は、森田の肩を軽く叩いて笑った。
  10060.  森田、川田、田代の三人が、後退すると、鬼源と、その助手を買って出ている千代が、代って静子夫人の両側に立った。
  10061. 「いよいよ開幕ね」
  10062.  銀子と朱美が、身を乗り出すようにしていった。
  10063.  千代は、ホホホと銀子達の方へ笑いかけ、
  10064. 「一応、このショーにも、定法や作法というものがあるのよ」
  10065.  そして、千代は、散らばっている果物を盆の上へ盛り上げ、
  10066. 「まず演技者に、自分に一番合いそうなものを、この中から選ばせるのよ」
  10067.  といいながら、静子夫人の顔の前へ、それを差し出して、
  10068. 「さ、奥様、ご自分にお選び遊ばせ。これになさいます。それともこれ?」
  10069.  千代は、一本ずつ夫人の鼻先へ近づけて聞くのである。 静子夫人は、ともすれば、胸をついて、こみあがってくる屈辱の慟哭を必死になってこらえている。そして、一種凄惨な冷淡さを顔に表わして、
  10070. 「鬼源先生に、お任せ致しますわ」
  10071. 「あら、それは定法にかなってませんわ。ご自分でお選びにならなきゃ駄目よ」
  10072.  静子夫人は、そんな事をいって、ニーッと金歯を見せて笑う千代を、哀れむような眼差しで見た。これから、血も凍るばかりの地獄の芸を衆人環視の中で演じなければならぬ自分に対して、なおもねちねちといたぶりつづけるこの女性は、果して人間だろうか。
  10073.  幹子夫人は毒喰らわば皿までといった自虐的な気分になり、皮肉な微笑を口元に浮かべて千代を見た。
  10074. 「なるたけ、大きい方が、お客様も喜ばれると思いますわ、貴女にお任せ致します。どうぞ、お選びになって」
  10075. 「わかりましたわ。じゃ、これに致しましょう」
  10076.  千代は、その中から一本を選び、鬼源に渡すのである。
  10077.  よしきた、と鬼源は、それを横にくわえると、スルスルと帯を解き出し、褌一本になるのである。鬼源の日焼けした赫黒い肌全体には、般若の刺青がしてある。
  10078.  鬼源は、千代から受け取った果物を、周囲につめかけている客、つまり田代達や銀子達に示して廻るのだ。
  10079. 「奥様ご自身でお選びになったもんでさあ。一応、たしかめておくんなさい」
  10080.  一方、千代は、
  10081. 「じゃ、奥様、用意にかからせて頂きますわよ」
  10082. 「成程、そりゃ円滑に事が運ぶってわけだな」
  10083.  森田が、グラスを口に運びながらゲラゲラ笑い出す。
  10084.  この芸を始める前の作法として、演技者は助手に対して、その労を謝し、助手の仕事がやりいいようにポーズをとらねばならないのだ。幾度もこれは練習を積んだとみえ、千代は妙にとりすました腰つきで、
  10085. 「さ、奥様、定法通り、お願い致しますわ」
  10086.  と、夫人の協力を催促するのである。
  10087. 「どうぞ、よろしく、お願い致します」
  10088.  静子夫人は、鬼源に定められた通りに、低く頭を下げるようにしていうと、
  10089. 「それでは、失礼」
  10090.  と千代は、なるたけそれが、客席にいる連中の眼に、はっきり映ずるよう始めたのである。
  10091. 「やはり、もとは静子夫人の女中をやっていただけあり、至れり尽せりのサービスぶりだな」
  10092.  客席に坐っている田代は、隣の川田の肩を叩き笑って見せる。
  10093.  静子夫人は、眉を曇らし、唇の聞から真珠のような白い歯をのぞかせて、千代の行為に耐えている。夫人の顔は必死に戦ってはいるが、身体の方は、千代の仕事に協力し、あずけてしまったりするのだ。
  10094.  何時であったか夫人は逆上し、泣きわめいて激しく彼抗したが、あの時の夫人と今の夫人とは全く別人の感である。
  10095.  千代の仕事を横で腕組みしながら眺めていた鬼源は、千代の手からクリームの瓶を取ると、夫人の背後に廻り腰をかがめて、パチンと夫人の量感のある白い尻をたたき、
  10096. 「今日は、刻み切りの後で、風変りな芸当を教えてやるぜ。二刀流同時斬りってやつだ。つまり、前と後から斬りこんできた敵を同時に斬り落とすってやつで、俺の新発明さ。ただし、こいつは、よっぽど、見事な腕前を持っている女でなきゃ出来ねえ芸なんだ。その点おめえは申し分がねえ、今日は、皆さんのおいでになる前で、みっちりと仕込んでやるからな」
  10097.  千代は、懐からビニ—ルの大きな風呂敷を出し、身をかがませ、ちょっと足をお上げになって、と、夫人の足の下へ、それを丁寧に敷くのであった。
  10098.  その間、鬼源は静子夫人の前に立ち、小声で打ち合わせを始めている。これから行うショーについて、鬼源は細かい所を教示し、念を押しているのであるが、もう完全にこの種の芸人として開眼した感の静子夫人は、左手の指をまるめ、それを右手の指でつつくようにして、教示する鬼源の手つきにうるんだ美しい瞳を向けつつ、幾度もうなずいてみせている。
  10099. 「わかったな」
  10100. 「♢♢はい」
  10101.  夫人は、可憐なぐらいに柔順にうなずき、にじんだような瞳で、鬼源を見上げたが、やはり、わずかに残っている自意識の故か、今一度頬を染め、モジモジしながら視線をそらすのだった。
  10102. 「それじゃ、始めますぜ」
  10103.  と、鬼源が周囲の連中を見廻し、ズベ公もチンピラ達も、それと、身を乗り出しかけたが、
  10104. 「上流社会の貴婦人が、身も心も生まれ変って、大熱演して下さるんだ。こいつは記念に撮影しとかなきゃなるまい」
  10105.  と田代は八ミリを取ってくるように川田にいう。
  10106.  川田が、それを取りに走っていったので、地獄の踊りを強制されるのが、幾分かのぴたとはいうものの夫人にとつては、どうせ刑を執行される身をそんな風に、時間をかけられるという事は、一層辛さが身にしみる。
  10107.  千代は、再び夫人の傍に近づいて、
  10108. 「ごめんなさいね。何だかんだと時間をとらせちゃって。でも、撮影された方が奥様だって、熱演のし甲斐があるというものでしょう」
  10109.  そんな事をいいながら、千代は、夫人の白いふくよかな頬に、つけ黒子などこしらえてやるのである。
  10110.  こうした不気味な、ねちねちした雰囲気に耐えられなくなった静子夫人は、自分でそれを解きほぐそうとして千代に話しかける。
  10111. 「ねえ、千代さん」
  10112. 「え、何なの、奥様」
  10113. 「遠山は、胃の丈夫な方ではありませんわ。ですから、お食事には気をつけてあげて下さいましね」
  10114. 「ホホホ、まあ、奥様って、感心な方ね。別れた亭主の事を、そんなにまで気にかけるなんて。わかってますわよ。お豆腐類が好物なんでしょう」
  10115. 「ええ♢♢特に、京都の四方焼豆腐、網ごし豆腐など、おせっかいな事をいうようですけど、取り寄せてあげて下さいまし」
  10116.  静子夫人が、憂いを含んだ微笑を作って、千代にささやくようにいったが、それを耳にした銀子や朱美が、大声で彌次り出す。
  10117. 「静子夫人の大好物は、台湾産の大バナナ」
  10118.  どっと、一座はわいたが、静子夫人は、ふと、遠山家にあった頃を、懐かしく思い起こしているのか、切長の美しい眼を軽く閉じ合わせて身動きもしなかった。
  10119.  やがて、八ミリを手にした川田が、井上と二人で戻って来て、適当な位置に陣どる。
  10120.  ライトの位置も決まったと見るや、夫人の足元に坐って、煙草をすっていた鬼源が立ち上り、夫人の肩をつついた。
  10121. 「さ、始めるぜ。お集まりのお客様に、ご挨拶しな」
  10122.  鬼源は、演技者に、自分の口から開幕を宣誓させるべく、調教していたのである。
  10123.  静子夫人は、しばらく唇を噛みしめて、心を部屋えるための努力をしていたようであったが、ようやく、未練を断ち切ったように眼を開く。その顔からは、悲しみの色は消え生まれ変った女として、このショーを見事にやりとげようとする決意の色さえ窺えたのである。
  10124.  輝くばかりの美貌に、艶めかしいえくぼまで添えて、夫人は、周囲を見廻しながら口を開いた。
  10125. 「長らくお待たせ致しました。つたなき芸ではございますが、一心に務めさせて頂きます。さ、どうぞ、ご遠慮なさらず、もっと静子の傍へお寄りになって下さいまし」
  10126.  田代達もズベ公達も、ホクホクした顔つきで身を乗り出し、
  10127. 「おい、見えねえよ、坐らねえか」
  10128.  顔を押しつけんばかりにしているチンピラの堀川の頭を、森田がピシャリとひっぱたいた。
  10129.  前へ割りこもうとして、ズベ公達が、うしろからわっと押したため、忽ち押し合いへし合い、怒号と嬌声が巻き起こる。喧噪の渦の中で、
  10130. 「い、いけませんわ、皆さん。おとなしくお坐りになって! 押さなくたって、ごらんになれるじゃありませんか」
  10131.  静子夫人は、浅ましくも、押し進んでくるチンピラやズベ公達に対し、声を大きくして叱った。ようやく、鬼源も手伝って、興奮状態にある連中を落着かせ、その場へ坐ら
  10132. せると、鬼源は果物を手にして、美しい眉を寄せている夫人の横へ立った。
  10133. 「へへへ、どうも、今日の客は柄が悪くていけねえな」
  10134.  静子夫人は、鬼源に催促されて、次の口上にとりかかった。
  10135. 「お客様に一言、お願い申し上げます。これより、お目にかけます芸の最中、お笑いになるなり、お声をおかけになるなりは自由でございますが、惜しみなく拍手たまわりますよう」
  10136.  夫人の口上が終わると、見物人達は、一斉に拍手する。
  10137.  深窓に生まれ育った静子夫人の、茹で卵の白味を思わせるような艶やかな肌の白さと、その横に突ったっている鬼源の、全身に刺青した赫黒い肌との奇妙な対照が見る者に滑稽で皮肉な感じを抱かせる。
  10138.  周囲の拍手が鳴りやむと、静子夫人は、横に立つ鬼源の方へ、そっと視線を向け、
  10139. 「では、先生、お願い致しますわ」
  10140.  と、うるんだ黒眼をしばたかせていい、小さく頭を下げるのだった。
  10141.  つまり、それが、この芸を演じる前の作法とか定法とかいう事になっているのであろう。鬼源は、仕置される人間に対する見せ槍のように、一旦、バナナを夫人の眼の前へ近づけ、その先端を夫人の口で噛み切らせようとするのである。つまり、夫人は自分に向けられる刃の封を自分の口で噛み切らねばならないのだ。
  10142.  真珠のように光沢のあるきれいな歯並びを見せて、夫人はそれを噛み切り、はみ出た白い果実へ軽く接吻する。
  10143.  それをきっかけにして、鬼源は、夫人に封を切らせた長い果物をまるでガンさばきでもするようにクルクル手の上で廻しながら、片膝をついて身をかがませた。
  10144.  商品には花をかざれ、という意味からか、しばらく場を外していた千代が小さな花瓶に赤いバラの花を生けて戻って来ると、埋め尽しているズベ公達をかきわけて入って来
  10145. てそれを夫人の爪先へ置くのだった。
  10146. 「ちょっと奥様、ごらん遊ばせな。このバラの花は、今朝、私がお庭からつみ取ってきたものですのよ」
  10147.  静子夫人は、千代に肩をつつかれて、ふと眼を開き、爪先のバラに気づく。
  10148. 「まあ、きれい」
  10149.  静子夫人は、眼をキラキラ輝かせて、足元のバラに見とれる。夫人の美しい瓜実顔に急に生気が蘇ったようだ。
  10150. 「ホホホ、奥様が丹精こめて手入れなさったバラは、今年も見事に咲きましたわ。それから、奥様がお作りになって下さいました肥料、あの沢山のバラの根に、少しずつかけてやりました」
  10151.  千代は、そんな事をいって笑ったが、夫人は、美しく澄んだ黒眼を、じっと足元のバラに注ぎつづけている。主人を失った花を不憫に思うのか、花を見て、ふと、以前のなつかしい追想にふけるのか、赤いバラを、まばたきもせず
  10152. 眺めているのだ。
  10153. 「さ、始めるぜ」
  10154.  鬼源の声に、ほっと、我にかえった静子夫人は、
  10155. 「お、お願いです。待って」
  10156. 「何だと」
  10157.  鬼源は、けわしい顔をして、夫人を見上げた。
  10158. 「少しでいいんです。そのバラに、お願い、一度だけ、接吻させて下さい」
  10159.  夫人は哀切的に眼をしばたかせていった。
  10160. 「大家の若奥様は、すぐこうだから、困るんだ」
  10161.  鬼源は舌打ちしたが、ま、いいじゃないのと、千代が花瓶から、バラを抜きとる。
  10162. 「さ、どうぞ、奥様」
  10163.  千代に鼻先へ押しつけられたバラに静子夫人は鼻をすりつけるようにして、その匂いをかぎ、うっとりと眼を閉ざしながら、花びらに唇をあてるのだった。
  10164.  ♢♢貴女達のお世話が出来なくなって、ごめんなさいね。でも、私がいなくとも、貴女達は毎年、清く美しい花を咲かせて頂戴♢♢
  10165.  静子夫人は、遠山家の庭に、咲き競っているであろうバラに向かって、心の中でいったのである。
  10166. 「さ、いいわね、もう充分でしょう」
  10167.  千代が、バラの花を引っこめると、幹子夫人は、千代に、ちらと感謝に満ちた眼差しを送り、こっくりとうなずくのであった。
  10168.  千代は、ふと、何かを思いついたようにうなずくと、手にあるバラの花を夫人のロへ横にして、くわえさせた。
  10169. 「ホホホ、そうすると奥様、一段と引き立って美しく見えますわ」
  10170.  千代がいうように、静子夫人が、その花びらのような形の唇に、真紅のバラを横にくわえた姿は、何か犯し難い気高いばかりの美しさであった。
  10171.  きらめくような白い肌と眼もさめるようなあざやかなバラの色。その美しい見事な調和が、周囲を埋め尽す野卑な男女の眼をまぶしいばかりに刺戟する。
  10172.  鬼源までが陶然とした面持で、ふと、仕事を忘れたよう下から見上げているのだ。
  10173.  何という美しい女だろう♢♢千代は、ごくりと唾をのみこんだ。
  10174.  バラを噛みしめ、羞らいのこもった美しい横顔を見せ、軽い瞑目をつづけている静子夫人。周囲は、一瞬水を打ったように静かになったが、やっと我にかえった千代は、陶然としてしまった自分を苦々しく思ったのか声を強めて、今一度、静子夫人に念を押す。
  10175. 「いいわね、奥様。じゃ、始めますわよ」
  10176.  静子夫人は、そっと横へ顔をそむけるようにしながら、軽くうなずいてみせる。
  10177.  
  10178.  
  10179.  
  10180. 第三十五章 華々しき美女の屈伏
  10181.  
  10182.  
  10183.     一難去って
  10184.  
  10185.  静子夫人の爪先の周りに、落ちている果物の切屑を千代は、箒とチリ取りを使って、掃除している。強烈なショーは、ようやく終わって、夫人の周囲を埋め尽す野卑な男女は、揃って痴呆になって、大きく息づいている夫人を見上げているのだった。
  10186.  美しい夫人の富士額にも、べっとり脂汗が浮かんでいる。重い空気の籠った部屋の中、酒くさい息と煙草の煙がもうもうと立ちこめるその渦の中で、夫人は、身も心も、微塵に打ちくだかれ、固く眼を閉ざしたまま、艶やかなうなじを、くっきり見せて、あえぎつづけているのだ。
  10187.  ひと仕事終えて、煙草に火をつけた赤褌一丁の鬼源は、どんなもんです、といわんばかりに田代の方を見る。
  10188. 「どうです、社長。だが、たった三本日で、こうもうまく切り刻んでくれるとは、わっしも思わなかったですよ」
  10189.  静子夫人の足元には、三本分の皮がよじれて散らばっている。静子夫人は、鬼源の調教を満座の中で受け、三本日に至って、それを見事に、ハッ、ハッ、ハッ、と小さく、掛声をかけつつ、切り刻んで見せたのだ。
  10190.  田代は、ほっと吐息をつくようにして、
  10191. 「全く、言う事なしだ。遠山家の若奥様をよく、ここまで仕込みあげたものだよ。さすがは鬼源だ。俺からも礼をいうよ」
  10192.  田代に、ほめられた鬼源は、へっへへ、と顔中しわだらけにして、照れ臭そうに笑う。
  10193. 「何しろ、この奥さん、顔といい、身体といい、飛びきりの上玉。わっしも長い間、こういう商売をしてますがね、これだけの女に、お眼にかかった事はねえ。それだけに、仕込み甲斐があるってものでさあ」
  10194.  なるはど、そういうわけか、と田代は、眼鏡をかけて、そっと顔を近づけていく。
  10195.  もう静子夫人は、それに、さからう気力もない。いや、それどころか、そうした場合、ショーのスターとして、どういう仕草をすべきかと、これも鬼源に叩きこまれている。
  10196.  そんな静子夫人の意識的ポーズを千代は満足げに眺めながら、そっと、夫人の横に止ち額に浮かんだ細かい汗の粒をハンカチでふき取ってやり、口にくわえているバラの花を引き抜く。バラの細い枝は、よほど、調教を受けている間、夫人が激しく噛みしめたらしく表皮の中は二つに折れていた。
  10197. 「なるほど、鬼源のいう通りだ」
  10198.  田代が、ふと、手をのばしかけると、夫人は、ほっとして田代の手を両腿を頑なに閉じてはさみこんだ。
  10199. 「いけませんわ、社長」
  10200.  静子夫人は、揺らぐような色っぽい眼つきで睨むように田代を見下し、えくぼを作っていう。
  10201. 「今は、お稽古の時間。ね、お待ちになっていて。お稽古がすんだら、うんとおいたさせてあげますわ」
  10202.  艶然と頬笑みかける静子夫人の、妖気をみなぎらせたような色っぽい限つきに、田代は圧倒された気分になる。
  10203. 「よし、わかった。とにかく放してくれよ」
  10204. 「じゃ、ほんとに、お稽古が終わるまで、おとなしく待っていて下さいますわね」
  10205. 「ああ、わかったよ」
  10206.  絢爛豪奢な、かつての生活とは完全に決別し、今、遠山静子は、鬼源や川田等の必死の調教の前に、遂に、秘密ショーのスターとして、完全に近い開眼をした、そう思うと、田代や森田も互いに顔を見合わせて、こヤリと笑い合うのだ。
  10207.  しかし、如何に、静子夫人が、鬼源に調教された、娼婦的な色気というものを発揮し出す事になったとはいえ、やはり、それは、演技であり、ポーズであるに過ぎない。女の本能である羞恥の衣までは、全く脱ぎ去ってしまう事は不可能なのであろう。静子夫人は、田代に対して、そのように娼婦的に振るまったものの、次には、やはり、自意識にさいなまれて、耳たぶや首筋まで熱くし、美しい顔を横へそらせてしまうのである。
  10208.  それは、この道の調教師である鬼源や色事師の川田、田代等にとって、不平であるわけはない。彼等は、最初、この深窓に生まれ育った美貌の令夫人を素っ裸にし、その強い羞恥心を躍起になって取り除こうとし、数々の調教をしてきたのである。そして、令夫人は、これまでとは、異質の女性に作り変えられ、スターとして開眼させられたのであるが、やはり、男性の眼を楽しませるための必要な程度の羞恥心は残させておいた方がいいと心得ているのである。色々な演技を強いられ、それを行う時は、羞恥という精神的抑制が大きく作用すれば、事は円滑に運ばず、見守る客も、いらいらした気分になってくるのは当然だ。だから、演ずる時においては、全く羞恥の片鱗も忘れ、あたかも、自分が好んで行う如く振舞い、そして、それが終わった時、本来の女性に戻って、ちょっぴり羞恥のピリオドを打つ方が、客の快感は、一層高められるものである♢♢と鬼源は、最初、こうした素人も素人、誘拐して来た深窓の人妻を調教するに当たって、考えた狙いがそれである。
  10209.  鬼源がこれまで仕込んで来たこの種の女はすべて、ドサ廻りのパン助みたいな連中ばかり、客の前へ出しても、狐ツキのように、青白い顔つきで、事務的にやってのけたり、赤豚のように太った身体つきで、ガムを噛み噛み演じて見せたり、思えば、客を不快な気分にするための見世物の感じがしていた。だが、今度は違う。いずれも良家の人妻であり、令嬢であり、気品のある美貌と教養、そして美しい見事な肉体を兼ね備えている。一世一代の仕事だと鬼源が、気狂いじみた身の入れ方をするのも当然である。
  10210. 「さて」
  10211.  と鬼源は、静子夫人の横に立ち、煙草を床に投げ捨て、足で踏み潰した。
  10212. 「今度は、いよいよ三段切りだ。こいつは、俺の新案なんだ。特別に奥さんだけに伝授してやる。そのつもりで、よくのみこむんだぜ」
  10213.  すると、千代が、ホホホホ、と持前の甲高い声をあげる。
  10214. 「まあ、奥様。鬼源先生が、まだ人に教えた事のない秘法を特別、奥様にお教えして下さるそうですわ。よかったわね」
  10215.  静子夫人は、ふと、眼を開き、そんな事をとくとくとして、しゃべりつづける千代の顔をさげすむような眼つきで見つめる。
  10216.  鬼源は説明に入った。
  10217.  果物を手の上で、もて遊びながら、鬼源は、ガラガラ声で、夫人に説明し、後ろへ廻ると、靡をかがめて、肉づきのいい盛りあがった夫人の尻をピシャリと叩く。
  10218. 「♢♢同時に、ケツの方はだな、お客様にお願いして肛門の中へタコ糸をつめこませる」
  10219.  銀子も朱美も、くすくす笑って、鬼源に、色々教育されている夫人を眺めている。
  10220. 「わかったな」
  10221.  と、鬼源が再び、ピシャリと夫人の尻を平手打ちして立ち上ると、千代が、
  10222. 「そんなに、ピチャピチャ、叩くもんじゃないわ」
  10223.  といいながら、
  10224. 「ほんとに、鬼源先生は、乱暴で困るわ。でも、調教は日本一といわれる人ですもの、がまんして下さいね。それにしても、奥様のおヒップ、何て、見事なんでしょう。お塩をつけてかじったら、とてもおいしそう」
  10225.  千代は、そんな事をいって、周囲の連中をわかせた。
  10226.  鬼源は、残っているバナナを一つ一つ手にして指で押さえていたが、気に入らぬと見え、室の後方で、ぼんやり、坐りこんでいる捨太郎に心った。
  10227. 「おい、俺の部屋に果物籠がある。その中から、固そうな奴を、五、六本、持って来い」
  10228.  あいよ、と捨太郎は、のっそりと立ち上り、ドアを開けて出て行く。
  10229. 「早くするんだぞ!」
  10230.  と、鬼源はその後ろにどなりながら、伏し眼して顔をそむけている、静子夫人の頬をつついていった。
  10231. 「あの馬鹿野郎とお前さんの結婚は、岩崎親分のショーがすんでからという事にしたからな。だが、実際のプレイは、時代劇ショーの中に折りこんである。あの野郎、馬みてえにでけえが、別に心配する事はねえと思うぜ」
  10232.  次の調教に入るまでの何分かを利用して、千代が、周囲のズベ公達に、遠山家から持って来たおみやげを進呈したいといい出した。
  10233.  この調教室の隅に、千代が今朝方、馴染みの白タクに積みこみ運んで来た、大きな風呂敷包があった。それをズベ公達に手伝わせて、わざと静子夫人の足元まで、引きずるようにして引っ張ってくる。
  10234.  風呂敷包が開けられると、ズベ公達は、一斉に、ひゃーと、声をあげる。
  10235.  それは、ピカピカ光る本革の豪華なハンドバッグや婦人靴、それに衣類で、すべて、静子夫人の所有物である。
  10236. 「とにかく、この奥様のお部屋や寝室を部屋整理してみて、驚いたのよ。私一人じゃ使い切れない量のハンドバッグや靴、それに化粧品を死蔵しておくのは勿体ないし、これから、時々このようにして持って来てあげるわ」
  10237.  そうした外国製の高級な品物を眼にしたズベ公達は喜色満面に浮かべて、小躍りせんばかりに喜ぶのである。千代にいわせると、和服にせよ、洋服にせよ、貸衣裳屋が開ける位、静子夫人は所有していたそうで、ここに持って来た婦人靴やハンドバッグの類などは、遠山家にあるものの何十分の一にも満たないものだそうである。そんな千代の説明を聞きながら、ズベ公達は、飢えた獣のように、風呂敷の中にあるものの奪い合いを始めている。
  10238. 「さすがに、フランス製だけあって、足が、ホカホカするようよ」
  10239.  と、朱美が、白革のハイヒールをはいて、その辺を歩き廻れば、悦子が本皮のハンドバッグを小脇にかかえて貴婦人を気取り、しゃなりしゃなりと、その辺を廻り始める。
  10240.  自分のサイズに合おうが合うまいが、そんな事などどうでもよく、ズベ公達は、それぞれ舶来のハイヒールをはいて歩き、鰐革のハンドバッグをぶら下げて悦に入っているのだ。
  10241. 「ホホホ、貴女達、たまには、こういう下着を作ったらどう」
  10242.  千代は、笑いながら、風呂敷包の一番下にビニールの布を重ねて折りたたまれてあった数枚のパンティを取り出した。
  10243. 「まあ」
  10244.  と、ズベ公達は、眼を瞠る。
  10245.  フリルのついた薄い透き通るような艶めかしいブラックのものには、浮きぼりされたような真っ赤なバラの刺繍が、レッドのものには、真っ黒なバラの刺繍が、それぞれ、はどこしてあって、それは、滴るばかりの色気と心も浮きたつような、挑発的なものとを兼ね備えているのである。
  10246.  銀子は、感嘆しながら、その一枚を手に取り頬を染めて、顔をそむけている静子夫人の眼の前へ持って行く。
  10247.  狼狽したように、もじもじし、再び視線をそらせる静子夫人の顎に手をかけた銀子はその美しい顔を正面にこじあげて、
  10248. 「ねえ、奥さん、あんた、遠山家にいた頃、こんな色っぽいおパンティをおはきになっていたの。なかなか隅におけないじゃない」
  10249.  それを眼の前に、ヒラヒラさせながらいうのだったが、千代が含み笑いしながら、横から口を出す。
  10250. 「それは、きっと寝室用よ。ねえ、奥様」
  10251.  口をつぐんで、眼を伏せつづける夫人の乳房をつねりあげて、銀子がいう。
  10252. 「どうなのよ。はっきり返事しなよ」
  10253.  静子夫人は、銀子と千代の視線を避けるようにしながら、小さな声で、
  10254. 「それは♢♢寝室用のものですわ」
  10255.  夫人の耳たぶが、ほんのり赤味を持ってきたようである。
  10256. 「まあ、あきれた。貞淑そのものだと思っていたのに、こんなものをはいて、あの爺さんの機嫌をとっていたのね」
  10257.  銀子が、そんな事をいって、夫人の臍を指でつついたが、川田が笑いながらいう。
  10258. 「上流階級の貴婦人ってものはな、寝室で着る下着なんかには、随分とお凝りになるもんだ。それが妻としての義務だと、お考えになってらっしゃる」
  10259.  千代もうなずいて、
  10260. 「今日は、参考のために、一部のパンティを持って来たんだけど、この次は、この奥様の着てらっしゃったネグリジェなど持ってくるわ。とにかく、二、三十着ばかり、お持ちになってたのよ」
  10261.  まあ、とズベ公達は、互いに顔を見合わせえびす顔になる。
  10262.  そうした下着類を千代は、ズベ公達に一枚ずつわけ与えるのだったが、そこへ、捨太郎が、のっそりと戻って来る。彼が手にしている盆の上には、鬼源が所望した果物が数本のっていた。
  10263. 「ホホホ、さ、奥様、参りましたわ。じゃ、調教を再開致しましょう。よろしゅうございますわね」
  10264.  千代は、ハンカチで、口元を押さえるようにして笑う。
  10265.  捨太郎は、盆を静子夫人の足元に置くと、そのまま、のっそりと立ち去ろうとしたが、鬼源が、彼を呼び止めた。
  10266. 「よう、待ちなよ、捨太郎」
  10267.  捨太郎は、とろんとした眼を、鬼源に向けた。ひどい斜視なので、どこへ視線が向けられているか、はっきりしない。
  10268. 「おい、捨太郎。おめえ、こんな天女みてえな別嬪と間もなく夫婦になれるんだぜ。どうだい。嬉しいだろう」
  10269.  鬼源は、ニヤリと口元を歪めて、捨太郎の顔を見る。
  10270.  捨太郎も、鼻に小じわを寄せて、ニタニタ笑い始め、その醜悪な口元から、涎を流し始めるのだった。
  10271. 「ハハハ、この馬鹿野郎、照れてやがる」
  10272.  鬼源は、声を上げて笑い出し、静子夫人の横に寄り添うようにして、
  10273. 「おい、捨太郎。見ろ、どうでい、たまらねえだろう。手前なんかには想像も出来ねえ御大家の若奥様なんだ。だが、そんな事はどうだっていい。ぴったり息の合ったコンビになって、大いに稼いでくれなきゃ困るぜ」
  10274.  鬼源は、そんな事を白痴の大男に向かっていうのだったが、ふと、何かに思いついたように唇を舌でなめると、
  10275. 「そうだ。こうして、美しい若奥様が何もかも、手前の眼にさらしておられるんだ。手前も、この若奥様に、お見せしたらどうだい」
  10276.  すると、銀子や朱美が、それに賛成して、
  10277. 「そうよ。評判だけは色々聞かされているけど、奥様だって気にしている事と思うわ。一度よく見せておいてあげた方が安心出来るってものじゃないの」
  10278.  銀子と朱美は、同席に、静子夫人の両側に立ち、その柔軟な白い肩に手をかけて、
  10279. 「ね、ごらんになりたいでしょう。奥様」
  10280.  もじもじしながら、赤らんだ頬を右へ伏せたり、左へ伏せたりしている夫人の顔を面白そうにのぞきこむのであった。
  10281.  わあーと、ズベ公達は嬌声をあげた。鬼源が、何度も口にしていた事が事実だったのである。
  10282. 「うわあ、気味が悪い」
  10283. 「いやーだ。あっちへ行ってよ」
  10284. 「馬鹿ね。あたい達に、見せるのじゃないわよ。そこの美しい奥様に見せるのさ。相手が違うわよ」
  10285. 「まあ、すごいわ」
  10286.  夫人の左右に立っている銀子と朱美は、くすくす笑い出し、はっきりと横へそらせてしまっている静子夫人の顎に手をかけて、その美しい顔を、正面に向けさせるのだった。
  10287. 「さあ、見るんだよ、奥様。ぱっちり大きく眼を開いてね」
  10288.  銀子に肩を揺すられて、夫人は、そっと眼を開く。夫人は、反射的に、ほっと再び顔を横へそむけてしまうのであった。
  10289. 「何も、そんなに羞ずかしがる事はないじゃないの。こいつは、そこらにざらにあるてえもんじゃなく、鍛え抜いた代物なんだよ。ね、嬉しいでしょう」
  10290.  そういった銀子は、
  10291. 「ね、鬼源さん。大体、要領がわかったらこれからの調教は、あたい達に任せてよ。美津子や文夫の方も、鬼源さんは仕込まなけりゃならないんでしょ」
  10292. 「うん、いよいよ追い込みだからな。俺も忙しい事だ」
  10293.  鬼源は、川田に手渡されたコップ酒を、うまそうに飲んで、そういったが、
  10294. 「だけどよ。同性の者に調教されるってことは、女の役者にとっちゃ、とても辛い事なんだ。きっと、手こずるぜ」
  10295. 「そんな事はないわよ。♢♢ねえ、奥様」
  10296.  銀子は、静子夫人の美しい横顔を眺めていった。
  10297. 「鬼源先生は、色々と忙しいのよ。だからこれからの調教は、あたいと朱美、それに千代夫人にも手伝って頂いて、してあげようと思うの。いいでしょう」
  10298.  静子夫人は、一言も発せず、ただ、首を垂れつづけているだけだ。哀願も哀訴も一切は無駄である事を思い知った夫人は、すっかり覚悟をきめ、身動きもしない。
  10299.  それを満足げに見つめた鬼源は、
  10300. 「それじゃ頼むぜ。俺は、美津子と文夫に取りかかるからな」
  10301.  鬼源は、そういうと、着物を身につけ、調教室から出て行くのだった。
  10302. 「さて、奥様」
  10303.  銀子、朱美、千代の三人が、ホクホクした顔つきで、きらめくような白い肌の静子夫人の周囲を取り囲む。
  10304. 「あたい達は、鬼源さんと違って、素人なんだからね。すっきりした調教は出来ないかも知れないけれど、時間はたっぷりあることだし酒でも飲みながら気長に始めるよ。どう奥さんも一杯やんなよ」
  10305.  銀子は、朱美に手渡されたコップ酒を、夫人の口元へ持って行く。
  10306.  静子夫人は、ふと、切長の美しい瞳を開き銀子に視線を向けると、
  10307. 「頂くわ」
  10308.  腹をすえなおしたように、そういった夫人は銀子に押しつけられるコップに唇を当て、ゴックリと音をたてながら、その安酒を一息に飲み干してしまったのである。
  10309.  
  10310.  
  10311.     酔態
  10312.  
  10313.  静子夫人を調教するとか、芸を仕込むというのが目的ではなく、銀子の場合は、静子夫人をいたぶることによって、酒の味を良くするというのが狙いである。銀子に命令されて悦子や義子が、台所へ走り、酒やビールをどんどん部屋へ持ちこんで来、何時の間にか大酒盛となってしまったため、夫人の調教が、段々と奇妙な雰囲気を持ち出すことになってしまったのである。
  10314.  銀子と朱美が、静子夫人に面白がって、矢鱈に酒を飲ませてしまったため、夫人が完全に酔ってしまったのだ。
  10315.  静子夫人も、こうした卑劣な人間達のいたぶりを耐えぬ郎ため、自分の神経を麻痺させようとしたのであろう。捨鉢になって、酒を要求し、銀子に押しつけられるコップ酒を眉を苦しげに寄せ、必死になって飲んだのである。
  10316.  なみなみと注がれたコップ酒が二杯、そして三杯となるに及び、さすがに川田も眉をしかめて、
  10317. 「おい、銀子。そんなに飲ませちゃお前、後の調教にさしつかえるぜ、筋肉がゆるんじまうよ」
  10318.  と制したが、
  10319. 「だってさ、ハンドバッグやシューズなど、色々なプレゼントをして頂いたんだからね。お酒ぐらい御馳走してあげたって、いいじゃないか」
  10320.  そういって、夫人の口にコップを押しつける銀子もかなり酩酊し、足元がふらふらしている。
  10321.  何杯かのコップ酒は、静子夫人の全身に行き渡り、白磁の肌は、桜色に息づき彫りの深い高貴な美しい夫人の容貌も薄紅色にポーと上気している。
  10322. 「まあ、ずいぶんと、いい気持になったようね。若奥様」
  10323.  朱美は、含み笑いしながら、切なげにまぶたを閉じ合わせ、小さく口を開けて、ハアハア息づかいを始めた静子夫人の横顔を眺めるのだった。
  10324.  田代と森田は、そんな静子夫人を眼を細めて眺めている。
  10325. 「一段と色っぽくなったじゃないか。たまには、こうして酒を飲ませて見るのも、いいものだね」
  10326.  田代は、森田に語りかける。
  10327.  森田は、ニヤニヤして、口に手をかけ、夫人に向かって、大声を出した。
  10328. 「よう、別嬪さん。こっちを向いて、色っぽく笑ってみな」
  10329.  すると、静子夫人は、捨鉢になったようにさっと首を上げ、田代や森田のいる方へ、静かに首を廻すのだった。そして、初々しい羞恥の感情と妖艶な年増女の色気をからませたような艶めかしい瞳を朧夜に霞む如く、うっとりと開いたのである。
  10330.  田代も森田も川田も、ぞくぞくとした気分に見舞われて、矢鱈に酒をすいこみ、ふわふわと立ち上る。
  10331.  全身を麻痺させてしまっている酒気の上へ、ふわりと乗っかってしまったような静子夫人は、田代達が、舌なめずりをするような顔つきで、吸いつくばかりに周囲を取り囲んでも身じろぎひとつしなかった。
  10332. 「ねえ、社長。これだけのいい女、捨太郎なんかの女房にするってのは、何とも勿体ねえ話じゃありませんか」
  10333.  森田が田代と夫人を見ていったが、駄目、駄目と銀子が森田と川田の間へ割って入り、
  10334. 「一度皆んなで取り決めたことを変更するのはよくないわ。いざこざの原因になるかも知れないじゃありませんか」
  10335.  銀子が白眼を向いていったので、森田は、苦笑する。
  10336. 「おめえにそういわれちゃ仕方がねえ。たしかに、一旦、きめた規則は破るわけにはいかんからな」
  10337. 「そうよ。千代夫人にも約束したことじゃありませんか。静子夫人に捨太郎の子供を産ませるってね。ねえ、千代夫人」
  10338.  銀子は、千代の方を見て笑いかけた。銀子は、千代の機嫌をとり、点数を稼ぐことに一生懸命になっているようである。
  10339.  千代も顔をくずしてうなずき、
  10340. 「それだけに私も、今後、森田組の活動資金調達のためには、色々と援助させて頂くつもりですわ」
  10341.  といい、持ち前の甲高い声をはりあげて笑うのだった。
  10342. 「♢♢駄目、駄目、社長」
  10343.  静子夫人は、もじもじ腰を揺らせて、鼻を鳴らすようにしていう。
  10344. 「そこは、これから銀子さん達の調教を受けるのよ。そっとしておいて下さらない」
  10345.  そして、静子夫人は、銀子の方へ、妖しいばかりにうるんだ美しい黒眼を向ける。
  10346. 「銀子さん。調教をお受け致しますわ。さ、始めて下さいまし」
  10347.  夫人の方から、そのように要求された銀子は、フフフ、と口元を歪めて、夫人の傍へ寄る。
  10348. 「じゃ、始めてもいいのね。奥様」
  10349.  静子夫人は、眼を閉じたまま、消え入るようにうなずく。
  10350. 「ほんとに、聞きわけがよくなって、あたい達もほっとしたわ。御褒実に何を上げようかしら」
  10351.  銀子がおかしさを噛みしめるようにして夫人の耳元でいう。
  10352. 「銀子さん。静子、おねだりしたいものがあるんだけど、聞いて下さる」
  10353. 「私達で出来る事ならね。もう一杯、お酒が飲みたいっていうの」
  10354.  静子夫人は、静かに首を振りながら、
  10355. 「♢♢ショーに出る時や調教を受ける時の他は、どんなものでもいいから、身体につけさせて頂きたいの。汚れたお長襦袢でもかまいませんわ」
  10356. 「裸でいるのは嫌だというの。でも、それは駄目ね。商品は何も着せずにおくというのが私達の作った規則なのさ」
  10357.  すると、朱美が横から、静子夫人に一言、浴びせる。
  10358. 「遠山家の若奥様でいた頃は、毎日、豪華なものを着て暮してたんじゃないの。今は思い残す事もない筈だわ」
  10359.  静子夫人は、もう一度、銀子の方に、酒気を帯びた妖艶な眼差しを送り、哀切的にしばたきながら、
  10360. 「じゃ、せめて腰の廻りだけでも」
  10361. 「駄目よ」
  10362.  銀子は閉め出すように声を大きくしていうのだった。
  10363. 「鬼源さんも折紙をつける位に見事なものじゃないの。絶世の美女としての貫禄が、よけいにつくってものよ」
  10364.  銀子に激しいじ調で、そういわれた静子夫人は、再び、限を伏せ、もうそれ以上、哀願しようとはしなかった。
  10365. 「さ、おしゃべりは、このくらいにして、始めるとしましょうか」
  10366. 「あたいは、おヒップの方ね」
  10367.  朱美は、静子夫人のうしろへ廻り、腰をかがめた。
  10368. 「何よ。奥さん、お尻をもじもじさせて。まだこっちは何もしてやしないわよ」
  10369.  なんだ、そうだったの、と銀子は立ち上り夫人の頬を指でつついていう。
  10370. 「そうならそうと、何故もっと早くいわないのよ。調教を始める時になって、お行儀の悪い奥様ね」
  10371. 「♢♢だって、だって」
  10372.  静子夫人は、紅潮した顔を左右に振って、
  10373. 「お酒を飲み過ぎちゃったのですもの。お願い、銀子さん」
  10374.  静子夫人は、うるんだ瞳で甘えるように銀子を見るのだった。
  10375. 「まあ、ほんと、すごくお腹がはっちゃってるわよ。銀子姐さん」
  10376.  朱美が、後ろから、静子夫人のお腹を両手で押さえるようにしていう。
  10377. 「調教の最中に変な事になっちまったら、恰好がつかないわよ。させてやろうよ、銀子姐さん」
  10378.  朱美にそういわれて、銀子は、わざとらしく舌打ちをし、
  10379. 「全く手のやける奥様だわ。それじゃ、社長と親分に、奥様からよく頼んでみる事ね」
  10380.  銀子は、そういって、自分達の位置を田代達と交替するのだった。
  10381. 「殿方がその気になって下さるよう甘く、切なく、おねだりしなくちゃ駄目よ」
  10382.  などと、朱美が、くすくす笑いながら声をかける。
  10383.  男達の手で、すまさせてもらう事の悦びを表現しろ、とズベ公達は、いいたがっているのだ。
  10384.  数々の責めや調教のため、羞恥のベールはことごとく剥ぎとられてしまった感の静子夫人は、全身に行き波った酒の勢いもあって、泣いたり、ぐずったりはしなかった。鬼源が徹底して調教したこと、つまり、責め手の気分を穀舞するための魅力的なポーズを努めてとり始めたのである。
  10385. 「♢♢ねえ、社長、静子のおねだり、聞いて下さいます?」
  10386.  静子夫人は、軽く瞑目しながら、小さく口を開くのであった。
  10387. 「何だね。他ならぬ奥様の事だ。俺達で出来る事なら、何んでもしてあげるよ」
  10388. 「♢♢それじゃ♢♢お願い。今、お聞きになった通りの事ですわ」
  10389. 「何の事かね。はっきり、奥さんの口からいってもらおうじゃないか」
  10390. 「♢♢意地悪」
  10391.  静子夫人は、ふと、眼を開き、その妖艶な眼差しで睨むように田代を見、えくぼを作って見せるのだった。
  10392. 「よく御存知のくせに♢♢ねえ、おトイレへ行かせて」
  10393. 「何をするためだ」
  10394.  森田が横から、そんな事をいったので、ズベ公達も千代も吹き出すのだった。
  10395. 「気の毒だが、調教に大分時間を喰ってるんだ。そんな所へ行かせる閑はないね。そうだろう、川田」
  10396.  田代が川田にいうと、当り前ですよ、と川田も相槌を打ち、ポンと静子夫人の肩を後ろから、手で押して、
  10397. 「贅沢な事いうんじゃねえ。だが、そのため銀子達の調教が満足に受けられないとなると、かわいそうだ」
  10398.  川田は、そういって、その辺を見廻したが井上が口に当てているビールの大ジョッキを見つけると、それを、ひったくるように取って、戻ってくる。
  10399. 「社長。仕方がねえから、こいつで何とか」
  10400. 「よかろう」
  10401.  田代が、愉快そうに、うなずくと、川田はジョッキに残っていたビールを一息に飲み干して、滴を振り切り、それを、静子夫人の眼の前に近づける。
  10402. 「生憎、ここにゃ洗面器がねえ、ちょっと手数がかかるが、こいつで、何とか解決してやるぜ」
  10403.  静子夫人は、身をよじるようにして、少女のように初々しい羞じらいを示し、嫌々と首を振るのであったが、それは、拒否に非ざる甘い否定の姿態と、男達には受け取れるのであった。
  10404.  事実、静子夫人にしても、こうした事は覚悟していた事である。
  10405. 「♢♢ねえ、川田さん。やっぱり、立ったままで、それを使うの」
  10406. 「当たり前だ。今更、何をいってやがる」
  10407.  川田は、何を思いついたのか、銀子に別のロープを一本用意させると、椅子を重ねて、よじ登り、天井の滑車にロープの先端を結びつけた。
  10408. 「一体、どうするんだ。奥さんの首に、そのロープを巻くっていうのかい」
  10409.  眺めていた田代が小首をかしげるようにしていうと、川田は、小鼻にしわを寄せて、
  10410. 「今日は、少し、変った方法でさせようじゃありませんか」
  10411.  という。
  10412. 「いいかい、奥さん。今日は、犬コロのように片足を大きく上へあげてさせてあげるぜ。奥さんだって、たまには、そんな風にして、やってみたいと思っていたんだろう」
  10413.  せせら笑うようにして、川田がいうと、ズベ公達は、手を叩いて、キャッキャッと笑い、はしゃぎ出す。
  10414. 「お、お願い、お酒を。お酒を飲ませて」
  10415.  静子夫人は、あえぐようにいった。
  10416.  そのような畜生の浅ましい真似を演ずるには、もっと我が身を酔わせてしまわねばと思ったのであろう。夫人は、必死の思いで、酒を要求したのである。
  10417.  千代がコップに酒をなみなみと注ぎ、さ、奥様、と静子夫人の傍に近寄る。
  10418. 「お屋敷にいらっした時は、アルコールなど一滴もお飲みになれなかったのに、ホホホ、ここのお屋敷に移られてから、女の悦びと同時に、お酒も覚えられたってわけね」
  10419.  千代は、そんな事をいったが、夫人は、答えず、千代に押しつけられたコップ酒に口を当てるや苦しげに眉を寄せながら、その半分ばかりを必死になって飲みこみ、ハアと熱い息を吐くのであった。
  10420.  安酒は、夫人の脳髄にまでしみこみ、眼がくらみ、立っているのさえもどかしく、身体がふわふわ浮き上っていくような錯覚まで起こる。と、同時に、忽ち生理的な限界に追い込まれ、夫人は、両腿を激しくすり合わせながら、
  10421. キリキリ歯を噛み鳴らした。そして、もう前後の見境もなく、ヒステリックな声を上げ始めたのである。
  10422. 「早く、早く、当てがって頂戴!」
  10423.  川田と田代は、顔を見合わせ、肩をすくめて笑い合う。
  10424. 「な、何してんのっ、床を汚してしまいますっ。早く、早くったら♢♢ああ」
  10425.  静子夫人は、声をあげて泣き始めるのだった。
  10426. 「だから、言ってるじゃねえか。片足を大きく上げてみな。そしたら、しっかりと当ててやる」
  10427.  川田にそう浴びせられ、
  10428. 「ああ、出来ない。出来ないのよ」
  10429.  静子夫人は、狂ったように首を振り、髪を乱れさせて泣きじゃくるのである。
  10430.  千代は、川田の方を見ていった。
  10431. 「ねえ。この奥様、日本舞踊は名取りでいらっしゃったけれど、バレーの方はお得意じゃないわ。無理よ。手伝ってあげましょうよ」
  10432. 「ああ、駄目、もう駄目よ」
  10433. 「しっかりするのよ、奥様。元遠山財閥の令夫人という肩書きが泣きますわよ」
  10434. 「早く、早く、ああ、気が狂いそうだわっ」
  10435.  静子夫人は、そんな浅ましい姿にされてしまった羞ずかしさより、そういうポーズをとられる事によって、どうしようもないギリギリの所まで追いつめられた生理の苦痛が先に立つのである。炸烈するばかり痛む腹部と引きさかれるばかりに、舌足らずの悲鳴をあげ、
  10436. 「お、お願い、早く、早く。ああ、川田さんってば!」
  10437.  夫人は、ウェーブのかかった黒髪を嵐のように振り乱し、白い歯をカチカチ、音をさせながら、
  10438. 「♢♢ああ、出、出ちゃうわ♢♢」
  10439.  男達も、ズベ公達も、どっと笑ったが、夫人は光のなくなった眼をぼんやり天井に向ける。
  10440. 「今、ひと思いにさせてやるからな。もちっと辛抱するんだぜ」
  10441.  川田は、容器を使用するのを一層効果的にするため、舞台の演出にかかったのである。
  10442. 「いいか、奥さん。今いった通りの要領で、甘ったるく鼻をならして、森田親分におねだりするんだ。そしたら、田代社長がジョッキを当てて下さる。わかったな」
  10443.  川田は、夫人の、熱を帯びて真っ赤になっている耳に口を当て、そういった。
  10444. 「♢♢ねえ、森田親分♢♢お願い」
  10445. 「何だね、奥さん」
  10446.  静子夫人は、ふと気がゆるめば、忽ち、洪水のようにほとばしり出るのをぐっと息をつめて、こらえながら、
  10447. 「もう、してもいいでしょう。ねえ、いいといって」
  10448. 「何をだよ。はっきりいいな」
  10449. 「嫌、嫌、どうして、そんなに静子をいじめるの」
  10450.  静子夫人は、鼻を鳴らして、もじもじし、小さく、ささやくのであった。
  10451. 「ねえ、静子、……したいの、駄目?」
  10452. 「へへへ、社長、どうします?」
  10453. 「仕方がないじゃないか。あまりがまんしつづけると身体に良くないからな」
  10454. 「嬉しいわ、社長。さ、早く、ねえったら」
  10455.  それは、夫人の限界を告げているようであった。
  10456. 「早く、早く当てて頂戴!」
  10457.  田代が、もたもたしている事に業を煮やした静子夫人は、突然、わめくように叫び、激しく、身体を震わせ出した。
  10458. 「おっと、床を汚されちゃ大変だ」
  10459. 「ち、ちがうわっ。嫌よ、嫌、嫌、もう、いじめないで、後生ですっ」
  10460. 「じゃ、一体、どこなんだよ。はっきりいってみな」
  10461.  静子夫人は、烈しく泣きつつ、わめくように声をあげた。
  10462. 「ああ、もう、じらさないで!」
  10463.  そんな事を、せっぱつまった感の静子夫人は、口走ったので、田代は川田達と顔を見合わせ、声を立てて笑う。
  10464.  と同時に、それを待ち受けていた如く、堤防は決壊し、河の水は、湯煙りをあげて、どっと流れ出た。
  10465.  そのすさまじい勢いに、飛びはねる水しぶきは、田代の頬へ、はじけ飛ぶ。しかし、田代は、満更でもない顔つきで、それをよけようともしなかった。
  10466.  静子夫人は、色香あふれる白いうなじをくっきり見せ、うっとりと眼を閉じ合わし、張りつめていた緊張が次第にとけていく心地よさに浸っているように見えた。
  10467.  
  10468.  
  10469.     身体検査
  10470.  
  10471. 「へへへ、すっとしたようだな」
  10472.  川田は、夢見心地で、うっとり眼を閉ざしている静子夫人の頬を指でつつき、ロープにからませてあった夫人を拭いてやる。
  10473.  静子夫人の黒眼勝ちの美しい瞳の表に、羞私と悲痛のおりまざった弱々しい影がさしている。
  10474. 「見な。ジョッキの中に入り切らねえで床を汚しちまったぜ」
  10475.  静子夫人のぴったり揃えている足首は、小さな水溜りの中に浸っていた。
  10476. 「♢♢すみません」
  10477.  静子夫人は、赤らんだ顔をふと川田の視線からそらせるようにして、首を垂れた。先程までの、生理の限界と戦い抜いた疲れが身を包んでいるのか、それとも、はしたなくも逆上して、見苦しくのたうち廻った事を恥じているのか、静子夫人は、さっきとは打ってかわったように、おとなしくなり、全身に初々しい羞恥の感情をみなぎらせている。
  10478.  だが、そうした静子夫人の風情には、この道のスターとして、ようやく安定してきたという貫禄のようなものがうかがえた。ためらい勝ちな受け身と積極的な受け身、そうした責め手を喜ばせる高等戦術をマスターしたのかも知れぬと、川田や田代は思うのである。
  10479. 「全くお行儀の悪い奥様だこと」
  10480.  銀子と朱美が、雑巾を手にして近づいて来て、わざとらしく、顔をしかめて、夫人の足元の水溜りを見る。
  10481. 「ごめんなさい。銀子さん」
  10482.  静子夫人は気弱に眼をしばたいて、二人のズベ公を見て、
  10483. 「貫女方にお掃除をさせるなんて申しわけないわ。ね、自分で始末致します」
  10484.  すると、今度は、千代が持ち前のキンキンした声をはり上げながら近づいて来る。
  10485. 「まあ、奥様。遠山家では、雑巾がけなんてなさった事はないのに、ここじゃ随分と殊勝な心掛けに、おなりになったのね」
  10486.  千代は、そういい、櫛を取り出して、夫人の乱れた黒髪をすき上げ、
  10487. 「でも、奥様は、ショーの大スター。そんな事、一々、お気になさらなくてもいいのよ」
  10488.  そして、傍に置いてある大ジョッキを取り上げ、
  10489. 「でも、随分と溜っていたものですわね。ホホホ、ビールのように泡が沢山浮いていますわ。そら」
  10490.  千代は、ジョッキを静子夫人の鼻先へ近づける。
  10491.  夫人は、ふと、悲しげな顔つきになり、それから視線をそらせたが、千代は、意地悪く幾度も夫人の鼻先に押しつけていく。夫人は抗し切れず、それに眼を注ぎ、涼しげな微笑を千代に見せていうのである。
  10492. 「いやーね。私、羞ずかしいわ」
  10493.  努めて、この道のスターらしく、磊落な態度を夫人は装おうとしているのだ。
  10494. 「これから、もっと上手にするんだよ。貴女」
  10495.  ズベ公達は、静子夫人をあざ笑い、床を雑巾で掃除するのだった。
  10496.  川田は、煙草を横にくわえ、静子夫人の前に立つ。
  10497.  静子夫人は、澄んだ美しい黒眼を、ニヤニヤしている川田の視線に合わせ、涼しげな微笑を作って、
  10498. 「ひどい方ね、貴女って、女の私を立たせたまま♢♢」
  10499. 「でも、すっとしたんだろ。何から何まで、こちら任せ。楽でいいじゃねえか」
  10500. 「だって、ひどいわ」
  10501. 「へへへ、その代り、こうして、きれいに後始末までしてやるんだ。文句は、いいなさんな」
  10502.  川田は、煙草をポイと捨てると、夫人の足元に身をかがませた。
  10503. 「うん。とうとう私、負けちゃったのね」
  10504.  静子夫人は、鼻を鳴らし、うっとりと眼を閉ざして、甘えかかるように、そういったのだが、それは、夫人の本心であった。身も心も遂に屈服、悪魔達の期待する女に完全に作り変えられてしまった自分を、夫人ははっきりと自覚し、同時に、無言の服従だけではなく、責め手の気持を鼓舞するためにくすぐりゃ、ささやきまで行う域に到達してしまったのだ。
  10505. 「さっぱりしたところで、調教を始める事にしましょうね」
  10506.  静子夫人は、ハイ、と柔順にうなずき、川田の肩から顔をひくと、一切の羞恥、屈辱を忘れさった如く、荘厳な感じさえする美しい顔を正面に向けるのだった。
  10507. 「さっきもいったように、あたい達は、鬼源さんと違って、素人なんだからね。まだ要領がはっきりわからないのよ。プロである奥様の口から色々指導して頂きたいの」
  10508.  銀子がそういうと、川田が、後ろから、夫人の肩を突き、
  10509. 「つまりよ。これからするショーは、素人衆を遊ばせるためのものなんだ。明日の客だって、きっと申し込むに違いねえ。その練習を積んどかなきゃな」
  10510.  川田はそういうと、
  10511. 「こいつは俺のアイデアなんだが、こんなのはどうだい」
  10512.  と、夫人の耳元に口を寄せ、楽しそうに何か、ひそひそ語り出すのであった。
  10513.  静子夫人は、うなだれるようにして、川田のいう事を聞いていたが、次第に顔が赤く染まり出し、はっと顔を横へ向けると、
  10514. 「ひ、ひどいわ。嫌、嫌よ、そんな♢♢」
  10515. 「今更、何いってんだよ。いいな」
  10516.  川田は、くすくす笑いながら、銀子達の方を向くと、
  10517. 「奥さん、承知してくれたぜ、さ、仕事にかかってくんな」
  10518.  スターとして、責め役を買って出た客に対し、その努力に感謝すると同時に、大いに反応して見せる事。客は、それによって、スターが如何なるニュアンスの刺戟を望み、どのような方法がスターの好みであるのかがわかれば、それだけで、他愛もなく興奮し、高い金を支払ったという事を悔いはしない、と静子夫人は、再三、鬼源に教育されていた。
  10519.  しかし、今、川田が強要することは、鬼源でも考えつかない程の陰険な方法なので、夫人は思わず、狼狽してしまったのであるが、しかし、今更、それを拒否出来るものではない。
  10520.  静子夫人は、人間的思念の片鱗も忘れ果てた如く、一種凄惨なばかりの微笑を口元に浮かべ、右と左に立つ銀子と朱美に視線を送った。
  10521. 「ねえ、奥様。まず最初、どうすればいいのよ」
  10522.  銀子と朱美は、それぞれ手にしている果物で夫人のあごを押し上げるようにしていう。
  10523. 「まず、お始めになる前にね、銀子さん」
  10524.  静子夫人は、艶めかしく瞳を作って、銀子にいった。
  10525.  銀子と失美は顔を見合わせて吹き出した。
  10526. 「へえ、じゃ、よく調べてほしいとおっしゃるのね」
  10527.  朱美が、くすくす笑いながら、夫人のそらせた顔を、のぞきこむようにしていう。
  10528. 「ええ、お願い。皆様で、よくお調べになってみて頂戴」
  10529.  静子夫人は、朱美の視線から、再び顔をそらせつつ、小さくいうのだった。
  10530.  夫人のそうした努力を銀子と朱美は気づいて、北叟笑む。鼻を鳴らして、身をよじったり、熱い息を吐きながら、右へ左へ顔をそむけたりする行為は、一種の技巧ではなく、それによって、自分も昂まっていこうという努力の表われであった。
  10531. 「何を調べろっていうの」
  10532. 「うん」
  10533.  静子夫人は、鼻を鳴らして、赤らんだ顔をそらせ、耳をかしてと銀子に甘えるようにいった。
  10534. 「ああ、割れ目のサイズに、肛門のサイズ、巻尺で計ればいいのね」
  10535. 「嫌、嫌、そんな大きな声を出しちゃ」
  10536.  朱美が、ポケットから小さな巻尺を取り出して、銀子に渡してやる。
  10537. 「えーとね」
  10538.  朱美が巻尺を当て、銀子がその目盛りを読み出すのである。
  10539. 「わかったわ。奥様」
  10540.  銀子と朱美は、美しい静子夫人の顔をしげしげと見上げながら、そのサイズを告げ、
  10541. 「大きくもなし、小さくもなし、全く、すばらしいよ」
  10542. 「うれしいわ」
  10543.  静子夫人は、川田の要求する開陳サービスというものを、精一杯の色っぽさを盛り上げて演じつづけるのであった。
  10544. 「これでいいの。その他にする事があったらおっしゃってよ、奥様」
  10545.  銀子は、再び、夫人を見上げた。
  10546.  ズベ公といっても、同性である事には違いない。彼女達のそうしたいたぶりは、むしろ相手が、男性であるより、夫人にとって、辛く苦しい事であるに違いないが、そんな事を思うゆとりも、今の夫人にはなかった。
  10547.  川田の眼が、何かいいたげに光っている。
  10548.  静子夫人は、再び、銀子と朱美を見下すように見て、甘えるような声を出す。
  10549. 「ねえ、お稽古に入る前、もう一つ、して頂きたい事があるの」
  10550. 「今度は、私にお手伝いをさせて下さいましな」
  10551.  横から千代が割りこんで来て、銀子と朱美の間に身をかがめる。
  10552. 「次にねえ」
  10553.  静子夫人は、いいかけて、口ごもり、金歯をむき出して笑っている千代の顔から、ふと視線をそらせるのだった。